恋姫†有双   作:生甘蕉

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十九話   馬?

「みんな大好きー!」

 特設ステージ上の三人に客席から歓声が上がる。

 

「錦馬超ーー!」

 慣れない天和コスが恥ずかしいのか馬超の動きがぎこちない。

 でも、胸でいったら馬超しかできないでしょ。

 

「みんなの太守」

 次は地和担当か。

 

「馬騰さまーー!」

 意外とノリがいいな馬騰ちゃん。うん。身体もキツそうじゃない。

 華佗の治療が効いてるみたいでよかった。

 

「とっても可愛い」

 こないだ天和に舞台衣装もらってたけど人和役なのか。

 

「馬岱ちゃんーー!」

 やっぱり一番楽しそうだな。この企画押し込んだ馬岱ちゃんは。

 さすがに眼鏡まではしないのか。

 

 

 

 俺の策によって決着を競馬でつけることになった魏と西涼。

 魏の代表、白蓮か霞が勝てば馬超と馬岱ちゃんは客将として魏に出向。

 西涼の代表、馬超か馬岱ちゃんが勝てば国境付近に陣取っている魏軍が引き返す。

 そう決めたはいいが、肝心のコースを決める際に出発点とゴールだけを提示した西涼に、魏は競馬場を造ることを提案する。

「ごおるでただ待ってるだけなんて、つまらないじゃない」

 とは我が愛する覇王様のお言葉。

 

 そして、馬騰ちゃんの許可を得て競馬場を製作。

「いいの? 工兵隊の能力見せちゃって」

「はい。真桜さんをはじめとした魏の工兵隊の力を知ることで馬騰は魏と戦っても勝ち目はない、と確信すると思います」

 雛里ちゃんの説明で納得。そうか。見せつけてたのか。

「まあ、溝やぬかるみ作って騎馬対策とかって工兵部隊の仕事だけど、対策とられたりしない?」

「それならそれでいいわ。面白い」

 華琳ちゃんはやっぱり戦いたいのかな?

 

 攻城兵器とか分解して材料にしながら観戦用のスタンド等まで造ったのに短い期間で完成したのは、工兵隊と整地に活躍した季衣ちゃんのおかげだろうな。作業を見に来た馬超たちも呆れてた。

「あんな大岩粉砕とかありえないよー」

「そうか? あれぐらいならなんとかなるだろ?」

 そういや馬超も猪々子と腕相撲で引き分けるぐらいに怪力だったっけ。

 

「ごおる前に坂があるんだー。思いっきり走ったら最後でバテそうだね」

 うん。俺競馬やらないから頼りになるのマキバオーの記憶ぐらいだし。たしか中山競馬場だったか、あれっぽくできてるはず。

「完成したら練習してみて」

「いいのか?」

「うん。ぶっつけ本番だと事故とか怖いしね。白蓮や霞も練習するから気にしないでいいよ」

「あ、たんぽぽ完成したらやりたいことあるんだよねー♪」

 

 

 

 やりたいことがまさか馬家によるライブだったとはね。歌は歌わないみたいだけど。

 観客席前の特設ステージで名乗りを上げると、魏兵も涼州兵も所属に構わず声援を送っていた。

 歌のかわりに明日からのレースの詳しい説明をしてる三人。

 ふーん、一日一戦で三戦。つまり三日かけるのか。一日で三戦すればよさそうなもんだけど。

「もー。あそこはわたしたちの出番でしょー」

「ぎゃらが出ないから譲ったの」

 愚痴る天和を人和が慰めている。

 

「それよりも馬騰の時の皇一の声援、ちぃの時よりも声が大きかった!」

「病み上がりっていうか、まだ治療中だから心配して力入ったかもしれないけど、そんなに違ってなかったろ?」

「ううん。ちぃにはわかる!」

 いやそう言われても。

 

「ちぃちゃんいつも皇一のこと気にしてるもんねー」

「たしかに地和姉さん、皇一さんが観客席にいると気合いの入り方が違う」

「ふ、二人だってそうじゃないっ!」

「皇一さんにはお世話になっているもの」

 ありがとう人和。無茶な請求書をなんとか処理した甲斐あったな。

「お姉ちゃん格好いい男の人好きだもん」

「ちぃだって!」

 いやあのね。……嫌な予感ビンビンかも。

 

「あ、ほら魏と西涼の騎馬による実演レースが始まるみたいだぞ」

「そんなのいいから皇一、らいぶに来る時は眼鏡を外しなさい。それが無理でもちぃたちといる時は外して!」

 誤魔化せなかったか。ってなに三人して俺を囲んでいるの?

 

「お、俺ちょっと仕上がり具合見てくるから」

 姉妹三人の連携に眼鏡バンドを奪われた俺は、なんとか眼鏡を死守して、デモンストレーションのスタートを合図に席から逃げ出した。

 

 

 

「どこへ行こうかな?」

 辺りを見回しながら廊下で悩んでいたら誰かとぶつかった。つい一瞬前まで誰もいなかったはずなんだけど走ってきたのかな?

「どいてって言っただろっ!」

 いきなり怒鳴られました。うん。謝ろう。俺が悪くない気もするけど。

「ごめんなさい。……馬超?」

 俺と同じく尻もちをついてるのは太眉巨乳ポニテだった。それもステージ衣装のままで。

 

「天井か……」

 言いかけた馬超が小刻みに震えだした。

 この展開はもしかしてアレ?

 馬超失禁イベント?

 まだ仲間になってないのに起きちゃうのか?

 

「ううー……ううー……」

 真っ赤な顔で俺を睨んで唸る馬超。ど、どうすれば……。

 

「こーいちー!」

「やばっ!」

「え? ちょっ」

 探しにきたのかもしれない地和の声を聞いた時、俺は瞬時に立ち上がり馬超を抱えて手近なスタッフルームへ逃げ込んだ。

 幸いなのか、誰もいないようだった。

 

「ふう」

 地和の足音が遠ざかったので一安心。

「は、離せってば!」

 気づくとお姫様抱っこをしていた馬超を解放する。力が入らないのかその場に座り込む馬超。

 見ると、馬超の腰の辺りに水溜りが広がっていた。

 

「えぐ……ぐすっ……」

やばい。泣いちゃったよ。

「こ、この衣装冷えるから嫌だって言ったのに!」

 へそ出し初めてだったのかな?

「もう終わりだ……」

 そこまで思いつめなくても。

 

「このことをネタにあたしは脅されるんだ……」

「なにそれ人聞きの悪い。俺が馬超の失禁をネタに身体を要求したあげく、調教するとでも言うの?」

「え? あたしに八百長をさせて魏に引っ張ってくんじゃないのか?」

「え? 陵辱されるって心配してるんじゃないの?」

 二人が勘違いに気づくまで数秒の沈黙。

 

 

「あ、あたしなんて陵辱してどうするんだよ! おかしいだろそれ!」

「ごく自然な流れだと思うけど。馬超可愛いし。スタイルいいし」

「すたいる?」

「体型、って意味かな。とにかく馬超は綺麗で可愛い。わかった?」

「か、かわいいなんてことないっ! ありえないっ!」

 ああ、馬超ってこうだったっけ。可愛いのになあ。

 

「ありえるの! そして、問題はそこじゃない」

 たしか一刀君はどうしたっけ? 失禁イベントは無印だったし、幼女のイベントじゃなかったから記憶が薄い。えーっと……。

 部屋を見回すと都合よく手ぬぐいが置いてあった。やはりこのイベントのために用意してあったんだろうか?

「そうだ。たしかこれだ!」

 手ぬぐいを高く掲げる俺を訝しげに見る馬超。

 

「な、なにを?」

「まーかせて!」

 まだ力が入らない馬超に近づき下着を脱がす。

「ひっ!」

 硬直してしまった馬超の股間を手ぬぐいでふきふき。

「見てないから安心して」

 嘘です。しっかり見てます。

「これでよし」

 お尻や太ももまで綺麗に拭いたら馬超を傍にあった椅子へと移動させて、床も拭く。

 

「りょ、陵辱されると思ったじゃないか!」

 泣きながら抗議してる。

「脅かしちゃったみたいでごめんね。俺は合意がないのは嫌だから」

「合意?」

「馬超が合意してくれれば今すぐにでもいいけど?」

「★■※@▼●∀っ!?」

 うん。驚きで涙は止まったかな。

 

「あとは下着だけど濡れたの履きたくないよね?」

「……うん」

 たしかここで代えとしてブルマを……ブルマ?

 しまった! さっきの記憶は無印とは別のエロゲだ。失禁からふきふきへの流れはたしか毒電波の……。

 

「さ、さっきのは秘密にするから気にしないで」

 慌てて言いつくろう俺。

「……ホントに、明日の勝負で負けろとかないのか?」

 そこまで信用ないのかな?

 

「あのね、そんな手を使って君を手に入れても、ちゃんと力を発揮してくれるかわからないでしょ?」

「あ」

「勝負は正々堂々。敗北に納得した君をお持ち帰りする」

「あ、あたしが負けるワケないだろっ!」

 よかった、元気出たみたい。

 

「だ、誰にも言わないでくれるか?」

「……例えばもし、俺が誰かに言ったとしよう」

「言うのか!?」

 涙目でガン飛ばさないで。怖いというより可愛いから。びびるよりもほっこりしちゃうから。

「だから例えばだって。で、誰がそれを信じるの?」

「へ? だ、誰って……」

 呆けた後、考え込む馬超。

 

「廊下でぶつかった錦馬超がお漏らししたって言ったって誰も信じないって」

「……」

「そんなことしたら俺の評判下がるだけでしょ?」

「そ、そうなのか?」

 むしろ俺が責められる気がする。

 華琳ちゃんだったら「なんで私を呼ばないの」とか。

 

「だから安心して明日の勝負に集中すること」

「……天井っていいやつだな。あ、顔の話じゃなくて」

「顔のことはいいから!」

 なんでそこで顔の話が出て……あれ?

「眼鏡が!」

 俺の眼鏡がない! ぶつかった時に外れたのか? 眼鏡バンドを奪われたままなのはマズかったか。

 

「これだろ?」

 え? なんで馬超が持ってるの?

「さっき拾っておいた」

「ありがとう! ……でゅわっ」

 馬超から受け取ってすぐに装着。

 

「……うん、あたしのことは翠って呼んでくれ」

「え? いいの? じゃあ俺のことは皇一で。真名ないから」

 よくわからんが真名を預かった。口封じだって殺されないで済んでるし、翠っていい子だなあ。

 

「じゃあ皇一、明日な。あたしの本気を見せてやるよ」

「うん。楽しみにしている」

 翠はノーパンで去っていった。

 

 ……さて、この下着どうしよう?

 

 

 

 

 翌日、予告通りに本気を見せた翠が先頭でゴール。

 まずは西涼が一勝となった。

「さすが錦馬超。やるわね」

「ますます欲しくなったか?」

「ええ。負けたら皇一に死んでもらおうかしら?」

 それは覚悟してるけどね。でも、負けたからロードしてやり直しってのは真・華琳ちゃんらしくはないかも。

 

「ちょっ! 明日勝てなかったら皇一を殺すのか? 華琳の旦那だろ?」

 あ、白蓮いたの? 気づかなかった。

「ええ。私の夫よ。そして今回の競馬勝負の立案者。責任はとってもらうわ」

「大丈夫だろ。次はきっと白蓮が勝ってくれるから」

「私が?」

「そうね。期待してるわ。皇一、今夜は明日のレースに影響出ないように程々にしましょう」

 しましょうって一緒にか? まあ白蓮一人だと明日辛いかもしれないけど。

 

 

 

「物足りない」

 華琳ちゃんと白蓮に腕枕して眠る俺。贅沢だなあ。

 ……明日の朝、俺の両腕大変かも。もうちょい密着してくれると腕の痺れも少ないと思うけど、眠れないだろうなぁ。

「程々って言ったのは華琳ちゃんだろ」

「そうだけど」

「華琳はやっぱり凄いな」

 寝てなかったのか白蓮。

「続きは今度にしてくれ。明日は絶対勝つからさ! 皇一に元気貰ったし」

「皇一、素顔で白蓮を抱いたのは初めてだそうね。する時は眼鏡を外しなさいといつも言ってるじゃない」

「なんかさ、初めてちゃんと皇一に抱かれた気がした」

 え、ええーっ!? 眼鏡してたっていいじゃんよぅ……。

 

 

 

 

 二戦目。最後の坂で失速し不安にさせるも白蓮が一位で逃げ切った。

 体重の軽い馬岱ちゃんの坂での追い上げは怖かったなあ。

 これで魏も一勝。決着は明日か。

「ふむ。皇一に元気を貰ったというのは本当かもしれないわね」

「白蓮の実力だって」

「今日は霞とかしら?」

「だから同意がないのは駄目って言ってるだろ」

「霞は初めてだからそれを考えると、今日は無理ね」

 俺の話聞いてます? ……霞は雰囲気つくってあげるんだったけかな。その前フリの話もしてないから今回はないでしょ。

 それに霞ってば同じ陣営にいるからずっと愛紗を狙ってるし。

 

「今日は先約があるんだって」

「まさか馬騰? あなた処女じゃなくてもよくなったの?」

「なんでそうなるの? 馬騰ちゃんは病人、そんなのするワケないでしょ。あと先約って言ってもそっちじゃないって」

「どうかしら?」

「シスターズのご機嫌取りだよ」

 眼鏡バンド返してもらってないし。一日空けたからそろそろ返してくれるんじゃないかと。

 

 

 

 

「皇一激しすぎー」

「ちぃたち初めてなんだから手加減しなさいよ!」

 すみません。これでもけっこう優しくしたはずなんですが。

「……けだもの」

 うっ。潤んだ瞳でそう言われるとなんかこうクルものがあるんですが。けど人和、その台詞は勘弁して。黒い天使達に殺されるフラグが立っちゃいそうじゃないか。

 

「眼鏡バンドを返してもらいにきたはずなのになんでこんなことに……」

「返す条件として眼鏡と交換ってことにしたでしょ」

「その理屈はおかしい」

 眼鏡がなくなったら眼鏡バンド必要ないじゃない。

「代わりの眼鏡あげるって言ってるのにー」

「いやそれ、天和たちが変装用に使ってるオシャレ眼鏡じゃん」

「こんな眼鏡のどこがいいんだか……もしかして呪われた妖眼鏡?」

 人の眼鏡いじりながら酷いこと言わないでくれ。

 妖術に詳しい君たちに言われると不安になるじゃないか。

 

「ちぃたちと眼鏡のどっちが大切なの!」

「そう聞かれた皇一さんが、身体で証明する! って私たちを」

「やっぱり眼鏡ない時の皇一って違うよー」

 なんか思い出してきた。眼鏡を奪われてしまった俺は、シスターズの方が大切って言ったら返してもらえそうにないから、誤魔化そうとしたんだっけ。なんでそんな選択肢選んじゃったんだろ。

 

 眼鏡無しの時はイケメン台詞要求されるっていうか、イケメン台詞要求される時は眼鏡を奪われるっていうか、……パブロフ?

 なんか華琳ちゃんに上手いこと調教されてる気がする。

 ……責任転嫁?

 

「三人いっぺんにやっちゃうなんて……」

「いっぺんって言うけど二人ずつだったし。皇一のおち●ちんが三本あればよかったのにー」

「勘弁して下さい」

 頼むからこれ以上使い辛くしないで。

「そんなことよりー、なんでお姉ちゃんが皇一の隣にいないかが問題だよ」

 俺は現在、地和と人和に挟まれて寝ている。泊まるつもりなかったんだけどね。

「早い者勝ちー!」

 ぎゅっと俺に密着する地和と人和。

「むう。……こうしちゃうもん!」

 布団に潜り込んできた天和が俺を挟む二人に構わずに俺に覆いかぶさる。

 

「へへー、暖かいでしょ♪」

 重い、って言ったら絶対怒られるから言わない。

 ……朝帰りしたら華琳ちゃんに「やっぱり」って言われるんだろうなあ……。

 

 

 

 

 

 三戦目。飛び入り参加者が二名。

「オレ、参戦!」

 我慢できなくなったのか馬騰ちゃんが参戦。身体は大丈夫なの?

 なにかあった時のために待機済みの華佗に聞いてみる。

「体調が戻ってきたせいで動きたくて仕方ないのだろう。このまま我慢させている方が精神的によくない」

 華佗がいいって言ってるなら大丈夫かな?

 

 そして二人目は、巨乳というか爆乳というか……馬よりも胸に目がいってしまう未亡人だった。

 弓は凄かったけど馬って速かったっけ?

「黄忠がこっちにこれるぐらい、一刀君は益州をまとめたってこと?」

「いえ、逆でしょう。益州をまとめるために馬騰の力を欲している」

「袁家に力を貸す豪族と公孫賛配下だった白馬軍だけでは不足です。馬騰と同盟を結びにきたのかと」

 稟と風の解説に不安になる。一刀君大変そうだ。

 

「もし魏が馬騰さんを倒しても、馬超さんや生き残った涼州兵を手に入れようと朱里ちゃんが派遣したんでしょう」

 魏ルートでも黄忠が翠を迎えに来ていたな。

 ……雛里ちゃん、一刀君がじゃなくて朱里ちゃんがって言った。天の御遣いよりも親友の方が気になってるみたいだ。

「雛里ちゃん、朱里ちゃんのところへ行きたいかい?」

「……朱里ちゃんのことは心配です。でも、私は華琳さまのために働きます。そして皇一さんのためにも」

「俺?」

「戦争以外の方法でも目的を叶えようとする皇一さんはすごいです」

 まっすぐ……というには俯きがちにチラチラと俺を見ている雛里ちゃんだった。

 馬騰ちゃんと戦っても魏はあんまり得してないように感じたから競馬勝負を思いついたんだけど、結果的に雛里ちゃんの好感度アップに繋がったのか。

 

 

 

「どうしよう?」

 一位は馬騰ちゃんだった。

「まだ本調子じゃねえな」

 あれでですか? ぶっちぎりだったのに。

 馬騰ちゃんちっこくて軽いから馬の負担も少ないってのが大きいのかな。それだけじゃなくて腕もいいんだろうけど。

 

「どうやら私の負けみたいね」

 俺を殺してのやり直しはしないのかな?

 その方が真・華琳ちゃんらしいけど、俺としては複雑な気分。

 

「いや、西涼の代表は翠と蒲公英だ。オレじゃねえ。だから今回は張遼の勝ちだろ」

 そう言えば馬騰ちゃんは参戦するとは言ったけど、代表としてとは一言も言ってなかったな。二位の霞の勝ちだと主張するなんて、なんというロリ男前。

「んなオコボレみたいな勝ちいらへんわ!」

「そうね。勝ったのはあなたよ、馬騰」

「そう言われてもなあ。翠、お前はどうしたい?」

「あ、あたしは……魏に行ってもいい」

 え? マジで?

 

「ほう」

「母様を治してもらった恩もある」

「蒲公英は?」

「お姉様が決めたんならたんぽぽもいいよー」

 義理堅い翠に対して軽い馬岱ちゃん。でも、二人がきてくれるなら本当に嬉しい。

 

「だってよ、悪いな紫苑」

「……仕方ありません」

 ごめんね璃々ちゃんのお母さん。

 ……黄忠の順位は最下位だった。相手が悪かったと言えばそれまでなんだけど、やっぱり胸が重いのかな?

 揺れは一番だったのに。

 

「どこを見てるの?」

 華琳ちゃんと桂花が睨んでる。安心してくれ。俺はちっぱいの方が好きだから!

「いや……愛紗?」

 言いわけしようと誤魔化す材料を探すために見回したら、複雑な表情をしていた愛紗に気がついた。

「な、なんでもありません」

 北郷軍の将を前にして話とかしたいのかな?

 でも今の表情はそんな感じじゃない……もしかしたら自分でもどうしたいのかわからないのか?

 愛紗を連れてそこから離れる。

 たどり着いたのはこの前のスタッフルーム。また誰もいない。もしかしてここ、使われてない?

 仮眠用なのかベッドまであるのにもったいない。

 

 

「……黄忠が羨ましい」

 ポツリと漏らす愛紗。おっぱいの話じゃないよね?

「ご主人様のために働ける黄忠が」

 やっぱりそれか。

 

「情けない! ご主人様のために働けぬこの身が!!」

 さっきの軍師たちとの話聞いちゃったのかな。一刀君が苦労してるのに自分は何もできないって。悔し涙……だけじゃないだろう。一刀君に会えない切なさとか、今まで我慢してた思いが一気に出ちゃったんだろう。

 ぽろぽろと大粒の涙を流す愛紗を抱きしめる。

 震える愛紗を強く抱きしめる。

 慟哭し続ける愛紗を強く強く抱きしめる。

 愛紗は俺を振りほどこうともせずに、ただただ号泣し続けた。

 

 

「お見苦しい真似を……」

 やっと愛紗は落ち着いてきたけど、まだ俺は離さない。

「ごめんね。愛紗を一刀君の元へ返すことはできない」

「……」

 愛紗の身体が硬直するのがわかる。けど、変になぐさめても駄目だ。

 ここは華琳ちゃんに調教されているこの身を上手く使うしかない。

 ……後で思い出したら恥ずかしさで転がりまくることを覚悟完了。

 ゆっくりと眼鏡を外す。

「一刀君のこと、忘れさせてあげる」

「なっ!」

 俺の台詞に愛紗が身構えた時、唐突に勢いよく扉が開かれた。

 

「兄ちゃん! なに愛紗ちゃん泣かしてるんだよっ!」

 ピンク髪を逆立てて怒鳴り込んできたのは季衣ちゃん。いや、元々結い上げた髪は斜め上に向かってるけどね。

 俺に使うつもりか鉄球を手にしていた季衣ちゃんだったけど、俺と愛紗の様子を見て首を捻る。

「……にゃ?」

 

 

「外まで聞こえてた?」

「うん。どこの部屋かわからなかったから探したよー」

 愛紗は真っ赤になって縮こまる。

「め、面目ない。心配かけたな」

「ううん。兄ちゃんもゴメンね、早とちりしちゃって」

「いいよ。殺される前にわかってもらえてなにより」

 さすがに季衣ちゃんに殺されたら俺、しばらく立ち直れない。道場の隅っこで体育座りしてずっと泣き続ける自信がある。

 

「兄ちゃんが愛紗ちゃんをなぐさめるの、ボクも手伝うっ!」

 季衣ちゃんは愛紗のこと、愛紗ちゃんて呼んでるのか。霞や凪もちゃん付けなのに桂花は呼び捨てだし、基準がよくわからん。

「手伝うって言われてもなあ」

「愛紗ちゃんとするんでしょ? ボクもまぜて!」

「季衣!?」

 そんなに驚かなくてもいいのに。季衣ちゃんも俺のお嫁さんなんだから。

 

「いいのか? 流琉やねねといっしょにって」

「る、流琉やねねまで!?」

 またも驚く愛紗。一刀君が既に鈴々ちゃんとしてる可能性が高いって知ったら卒倒するんじゃないだろうか。

「うん。でもボクが今しちゃえば、流琉とねねの二人でできるよねっ!」

 二人に気を使ってるのか。シスターズで三人同時経験したから幼女三人でも俺は構わないんだけど。

 

「元気になってね愛紗ちゃん!」

 ああ、キラキラした純粋な瞳の季衣ちゃんにこう言われたら、愛紗も逃げられないんだろうなぁ。

 

 


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