恋姫†有双   作:生甘蕉

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二十話   蝶?

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 必死でランニング中の俺。

「新兵さんにもっとつき合うべきだったか……」

 北郷隊、じゃなくて天井隊の三人……なんか恥ずかしいな。ええと、三羽烏の新兵訓練に時々参加はしてるんだけど、兵士としてある程度頑張ってた一周目よりも身体が鈍ってるのは確か。

 現在走っているのは訓練でもなければ、なにか勘違いして怒ってる春蘭に追われているわけでもない。

 

「兄ちゃん早くー!」

 やっと季衣ちゃんに追いついた。

「もう流琉たち行っちゃったよ」

 別に鬼ごっこをしてるわけでもないが、俺は季衣ちゃんとともに流琉とねねを追っている。

 

「逃げたい気持ちはわかるんだけどね」

「え?」

「たぶん恥ずかしいんだよ」

 それってもしかしてさ。

「ほら、流琉とねねもやっと兄ちゃんとしたじゃん。それを思い出したんじゃない?」

 やっぱりそのイベントか。季衣ちゃんじゃなくてねねでも発生するとは。

 

 

 

 季衣ちゃんの初体験……四回目だけど初体験。今度こそ優しくできたはずのそれが済んだのを知った流琉とねね。

 魏に戻るなり求めてきた二人の可愛い義妹。俺が断れるわけないでしょ、うん。

「兄様のお嫁さんになります!」

「あ、兄殿の嫁になってやるです!」

 気持ちというか覚悟を確認。俺の言ったことをしっかりわかってる、なんていい娘たちなんだろう。……眼鏡を奪いさえしなければ。

 エッチの時は俺の眼鏡を奪え、とか華琳ちゃんに言われてたりするのかもしれない。

 

 

 

「ん? じゃあ季衣ちゃんも恥ずかしかったの?」

「うん。でもボクん時は気づいたらよくわかんないとこにいたし、その次は兄ちゃんに会う前に春蘭さまたちに恥ずかしい思いさせられたり、すぐに戦いになったりで逃げてる暇なかったから」

 ああ。季衣ちゃんの最初の初体験の後はいきなり道場で再会だったっけ。

「痛くしちゃってゴメンね」

「いいよー、兄ちゃんなら」

 疲れてる身体に鞭うって、季衣ちゃんを高く抱えあげてお腹に頬ずり。

「ありがとう季衣ちゃん。俺はいい嫁さんもらったなぁ!」

「もぉ兄ちゃんったら」

 苦笑しながらも抵抗しない季衣ちゃんのお臍ペロペロしそうだった俺は、しかし邪魔される。

 

「あのように締め上げてから丸飲みするのですね。さすが蛇おじさんなのです」

「……蛇おじさんはいい加減止めてってば」

「ろ、路上でそのようなことは……」

 チラチラとこちらを窺ってる雛里ちゃん。帽子の影から時々覗くその顔は赤い。

 風と雛里ちゃんか。予想外の組み合わせだけど。

 

「もう貧乳党結成しちゃったの?」

 キョロキョロと見回すも桂花の姿はない。

「ち、違いましゅ!」

「風たちをどう見ているかよくわかるのですよ」

「どうもなにも、小さくて可愛いのに凄すぎるとしか。……って今はそれどころじゃなくて!」

「嬢ちゃんをペロリといただくのなら、せめて部屋に戻ってからにしやがれだぜ」

 ロリをペロリか、上手いこと言うなあ宝譿。

 

「いや俺こんなとこでしないから! 嫁の裸とか他の男に絶対見せないから!」

 季衣ちゃんを強く抱きしめて主張。

「桂花ちゃんの言う通り、すごい独占欲ですねー」

「普通でしょ。それよりも、流琉とねね見なかった?」

 あのイベントだと途中で会うのは華琳ちゃんだったけど状況違うしな。ここで軍師さんに会えたのは有難いかも。

 

「ふむふむ。流琉ちゃんたちをモノにしたはいいが、恥ずかしがられて逃げられてる、と」

「うん。そうだよー」

「あわわわ……」

 季衣ちゃんが事情を全部話すから、雛里ちゃんがさらに真っ赤になっちゃったじゃないか。

 ……この二人なら状況から正解にすぐにたどり着くだろうけどさ。

 

「だから二人を捕まえるのに力を貸してほしい」

 頭を下げてお願いする。

 元のイベントだと嫌われるって泣き出した季衣ちゃんのために、流琉が自分から一刀君に捕まって二人で季衣ちゃんを捕まえてる。けど、今回逃げてるのは流琉とねね。季衣ちゃんのサポートで追い込もうにも、ねねに先読みされてしまい逃げ続けられてしまう。

 道場へ行けばすぐに捕まえられるかもしれないけど、そのために死ぬのもなぁ。

 

「ねねちゃんも親衛隊で働いてますから」

「季衣ちゃんの行動はよく知っているというわけなのです」

 そうなんだよねー。俺の動きも読まれてるのかな? それにさ。

「詠が軍師として鍛えているのもあるし」

「まだ直情的なとこはあるけどね」

 

「詠? いつからそこに?」

「流琉とねねを毒牙にかけた、あたりかしら」

「なるほどー。蛇だけに毒牙ですか。詠ちゃんもやりますねー」

 なんですかこの風の蛇推しは? なにか理由があるんですか?

「あわわわ……」

「へぅ……」

 雛里ちゃんだけじゃなくて月ちゃんまで赤くなってるじゃないか。詠と二人で買い物にでもきたのかな。

 

「罠をしかければいいんじゃない?」

 詠の発案に悩む。

「罠? 桂花みたいに落とし穴掘ったんじゃ、怪我させちゃうかもしれないし。縄か網でも仕掛ける? でもそんなの得意な娘なんて」

「ここにいるぞーっ!」

 馬岱ちゃん?

「面白そうな話してるねー。たんぽぽもまーぜて♪」

 ……なんかどんどん大事(おおごと)になっている気が……。

 

 

 

 縛られて身動きが取れない俺。隣には同じく縛られた月ちゃん。当然のごとく詠が抗議する。

「なんで月まで!」

「だっておじさん一人だとそういう趣味で楽しんでるだけかも、って見られちゃうし」

「俺にそんな趣味はないってば馬岱ちゃん」

「たんぽぽでいいよー」

 俺たちのまわりに罠を設置していた馬岱ちゃんが真名をくれた。

「いいの?」

「うん。だからどうやってお姉様から真名聞き出したか教えてねー」

 ああ、翠の真名を貰ってるから信用してくれたのかな。

「俺には真名ないから好きなように呼んでくれていいよ。おじ様とか」

「蛇おじ様?」

「蛇関係以外で頼む」

 だからなんで蛇?

 

 さすがに街中でこんなことはできないので、場所は人気(ひとけ)の無い川のほとり。

 季衣ちゃんと流琉が逃げるイベントで、一刀君が季衣ちゃんを捕まえた場所はここでいいはず。

 そこに杭を立てて、俺と月ちゃんが縛り付けられている。……背中合わせになってるので縛られた月ちゃんを眺められないのは残念でならない。

「かかるかな?」

「流琉ちゃんもねねちゃんも優しいからきっと助けにきてくれますよ」

 月ちゃんの慰めは嬉しいけど、思いっきり不自然だよね。なんで俺たち縛られてるのとかさ。

 それになんかこれって別のイベント思い出すんだよなあ。そっちにもたんぽぽちゃん絡んでるし。

 

 

「可憐な花に誘われて、美々しき蝶が今、舞い降りる! 我が名は華蝶仮面! 混乱の川辺に美と愛をもたらす……正義の化身なり!」

 ほら、やっぱり。別のが釣れちゃったよ。

 どこでその仮面入手したのさ。無印スタートだから倉庫の整理関係ないのかな?

「ふう」

「助けにきたのに溜息とは?」

 俺たちが縛りつけられてる杭の上に立つ星。上手いこと罠を避けるもんだ。

「いや、あのね」

 星に説明しようと見上げたら、すぐそばの高いところに居るわけで。……つまり。

 

「下着が見えてる」

「なっ!」

 顔を隠してぱんつ隠さず。絶景だなあ。

「何も見えていない、いいですかな?」

 なんか冷たい声アンド頬に当たる冷たい感触。これってもしかして星の槍?

「もしかして怒ってる?」

「怒ってなどおりませぬ。ただ、縄を切る際にちょっと手元が狂うかもしれないだけで」

 

「兄様から離れてっ!」

「兄殿、今助けますぞ!」

 星に謝る前に流琉とねねが到着。なにやら勘違いしているようだ。

 

「皇一殿!」

「皇一!」

 さらに愛紗と翠が現れる。

 華蝶仮面イベントにシフトしてるのかな?

「その槍をどけろ!」

 まあ、縛られた俺に槍を向けたままじゃ勘違いされるのも仕方ないよね。

 

「ふふふ。さて、どうしたものか?」

 なんで楽しそうな声なんですか星さん。

 隠れて見ている季衣ちゃんたちなんとかしてくれないかな?

 初めて華蝶仮面を見るからその力量わからなくて、流琉や愛紗、翠なら大丈夫って安心してるんだろうけど。

 

「どけねえなら力づくだ!」

 翠と愛紗が突撃してくる。

「わたしも!」

「待つです!」

 続こうとする流琉をねねが止めた。その理由はすぐに流琉も悟る。

 

「卑怯者!」

 縄によってぶら下げられた二人が星を睨む。

 たんぽぽちゃんが仕掛けた罠に二人とも引っ掛かっちゃった。

 あの二人があっさり掛かるなんて。俺のことが心配で罠への警戒が疎かになっちゃったのかな? ってのは自惚れがすぎるか。

「やはり罠でしたか」

「気づいてたんだ」

「無論」

 ひそひそと星と相談。もちろん俺の目線は星の紐パン。

 

「退いてくれない? ワケは後で説明するから」

「このまま勘違いされたままでは正義の誇りが」

「みんなにもちゃんと説明しておくからさ」

「……」

 流琉とねねは罠を用心しながら近づいてきている。もうすぐ流琉のヨーヨーの射程に入るはず。あれの巻き添えは勘弁したい。俺はともかく、月ちゃんも危ないしね。

 眼鏡を光らせながら星に告げる。右側からこう左側に流れるように光らせた。全面一気に光らせるよりも難しいんだよ、このテクニック。

「その仮面よく似合ってるよ、常山の昇り竜さん」

「!」

 正体を知ってるぞと脅す俺。それが効いたのか、星は俺と月ちゃんの縄を切ってどこかへと去った。

 あの辺の木が揺れてるとこ見ると、枝の上跳んでるの?

 

「兄様!」

「兄殿!」

「心配かけちゃったね」

 罠を避けながら二人に近づく。今度は逃げようともせず俺に抱きついてくる二人。

 二人の頬にスリスリしながらチラリと愛紗と翠を見ると、季衣ちゃんたちが助け出していた。

「みんなにも迷惑かけちゃったし、お詫びとお礼に食事でも奢らなきゃならないだろうなあ」

 やっぱりこのイベントは散財オチなのか。

 ……三羽烏や三姉妹にもちょくちょくたかられてるし、指輪買う予算いつ貯まるかなぁ。

 

 

 騒動のおかげか、流琉とねねにも手を出したことはすぐに知れ渡った。

 俺は情報発信元は星と風じゃないかと睨んでたりするけど。

 別に俺は隠したり否定したりはしない。可愛い義妹が可愛い嫁になっただけだし。

 いや、義妹で嫁か。

 

 

 

 

 その日、軍議は北郷領から戻ってきた間諜さんの報告がメインだった。

「……そう。北郷は、益州に随分梃子摺っているのね」

 五虎将が鈴々ちゃんと黄忠だけだし、っていうか武将もか。厳顔、魏延はまだなのかな?

 鈴々ちゃんの経験値とか凄そうだよなあ。あの子、やる時はやるし。今はやる時ばかりだろうしまさか、常時長坂橋状態だったりして。

 袁紹は……白蓮抜きだと大変そうだなあ。猪々子や斗詩もいないし。璃々ちゃんが面倒見てたりするのかも。

 この分じゃ定軍山はないのか、それとももっと後か?

 

「関羽を売ったことが益州まで知れ渡っているのも大きいかと」

 いやそれ、言ってる桂花が情報操作してるんじゃないの?

「それでも劉璋さんよりはマシだと益州の民は支持し始めているようですねー」

 どんだけ無能なの劉璋さん。

「朱里ちゃんはたぶん、天の御遣いに付き従う民のために、愛紗さんが泣く泣く自分から華琳さまに身を差し出したと宣伝してるはずです」

「ええ。あれは関羽の先走った独断だったと、すり替えているようです」

 雛里ちゃんの予想に補足する稟。

 これもやっぱり情報戦なのかな?

 

「さすがは伏竜といったところかしら。北郷の評判回復と同時に、愛紗が戻ってきやすいようにするとは」

 戻りやすいかなあ? ……売られたよりはいいのか。

「けれど、もはや愛紗は私のもの」

 ふふっ、と楽しげな華琳ちゃんを睨む愛紗。

「心まで華琳殿のものになった憶えはない!」

 簡単に挑発に乗っちゃ駄目でしょ。でも、譲れないとこなんだろうなあ。

 

「あら、身体は私のものになったと認めるのね?」

「なっ!?」

 えっと、今、軍議の真っ最中だよね?

「……一刀君がこれ以上勢力を大きくする前に、こっちから攻め込んでしまうの?」

 華琳ちゃんが愛紗の心証悪くしないようについ口を出してしまった。

 

「……孫権はどうなっているの? そちらの間諜も戻っているのでしょう」

「現状、孫権に大きな動きはありません。依然戦力は高いまま。兵の士気も同じく、団結も強い」

 袁術ちゃんがいないから、か。

 孫策もいないけど、地元の豪族とかまとめおわってて地盤はもうできあがっていると。真で追加の黄蓋、周泰、呂蒙もいるだろうし強敵だねえ。

 

 

 結局、一刀君よりも先に呉を攻めることになった。

 赤壁どうなるんだろ。やっぱり蜀と呉は同盟するのかな?

 まあ武将が多い今の魏ならなんとかなるだろうけど。

 ……その魏を相手にしなきゃいけないんなら同盟の可能性高いか。

 

 

 

 

「……ぜぇっ、ぜぇっ……」

 追いかけっこの反省から、呉との戦いのために仕上げ段階の新兵さんの訓練につき合う俺。

 基礎体力だけでもと思ったが、キツい。キツ過ぎる。

 筋力、体力とかの能力も引継いでくれれば、一周ぐらい捨てプレイ前提で鍛えるのになあ。

 ……嘘ですごめんなさい。こんなのずっとなんて耐えられないかも。

 

「……つ、次は?」

 息を整えながら凪に聞く。

 凪の隊は今日は休みなのだが、俺が参加すると聞いていっしょに調練につき合ってくれていた。

 軽くウォーミングアップが終わった、程度にしか見えない凪。すげえなあ。

「後は沙和の罵倒の時間のようです」

「そうか……それには付き合えそうにない。俺、ここで上がる……」

 なんとか立ち去ろうとするが、膝が笑ってやがる。

 見かねて、凪が肩を借してくれた。

「お送りします」

「いつも済まないねえ」

「いえ、問題ありません」

 そこは「それは言わない約束でしょ」なんだけどなあ。真桜なら合わせてくれるかな?

 

「それに、私も沙和の罵倒は受けたくない」

「そりゃそうか。罵倒だけならともかく、沙和は俺たちをお洒落させようとするからな」

「まったく。訓練にかこつけて」

 二人して大きくため息。

 

「……隊長ならわかりますが、なんで私まで」

「凪は可愛い女の子だからわかるけど、地味なおっさん弄くっても楽しくないだろうに……」

 二人して顔を見合わせる。

 肩を借りてる状況だから、顔が近い。可愛いって言われたせいか、凪の頬が赤い。

 うん。やっぱり可愛い。

「ふふ……」

「はは……」

 苦笑しながら俺たちは練兵場を去った。

 

 

「ここでいいよ」

「ここ庭ですよ?」

 城庭の隅で凪から離れる。

「日当たりもいいし、少し昼寝していくから」

 本当はもう限界で、動きたくないだけ。ごろりと横になった。

「ありがとう、休みなのにつき合ってくれて。もう、後は好きにしなさい」

 

 目を閉じて日差しを感じていたら、首を持ち上げられる感覚。

 そして、後頭部に柔らかい感触。

 こ、これはもしや!?

「凪?」

 瞼を開けると、頬を染めてはにかんだ凪。

 俺は、今まさに、膝枕をしてもらっている!

 これに感動しないでいられるだろうか!!

 

「わ、私の膝などお嫌でしょうが、そのままでは首を痛めます」

「う、ううん。嫌なワケがない! ありがとう……」

 感動の言葉を伝えたいのに、簡単な礼を言うしかできない俺。情けない。

 なんか凪の顔を直視していたら、顔が熱くなってきたのできっと真っ赤になっているのだろう。

 赤面した顔を隠すため、首を横に向ける。

 ……やばい! 頬に凪の生太ももの感触。こ、これはまずい。誤魔化すように目を閉じる。

 

「隊長?」

 ゆっくりと俺の頭を凪が撫でてくれる。

 ……ふう。凪の優しい手で、欲情しかけた俺がどこかへ消え去った。

 霞が邪魔しそうな展開でもあるけど、今の霞は愛紗狙ってるもんなあ。そんなことを考えながら、俺の意識は眠りの底へ落ちていく。

 

 

「けど、華琳は怒るんじゃないの?」

 話し声で目が覚めた。「華琳」に反応したんだろうな。

 目を開けると少し困ったような顔の凪。

「お目覚めになられましたか?」

 囁くような小声で聞いてきた。

 状況がわからずに頷く俺。まだ膝枕されたままなので、首を動かすと、凪の太ももにスリスリしてしまう。

「お、お静かに」

 やっぱり小声でそう注意された。

 話し声の相手に気づかれたくないのだろうか?

 

 

「そこは確認済みなのです」

 どこだろ? 声は聞こえるんだけど……。

「よくそんなの聞いたわね」

「ふふん。気にすることなどないと言っていたです」

「それって天井(あまい)のことはどうでもいいってこと?」

 え? 俺?

 この声は詠とねねだよね。なに話してんの?

 

「ええと……どゆこと?」

 猪々子もいるのか。

「例えば、斗詩が誰かに抱かれたとする」

「んだと!」

「例えば、の話」

「例えばでも許さねえ! 斗詩はあたいんだ!!」

「普通はそうなるでしょ。なのに華琳は気にしないって。一応、夫って公言してるのに」

 ……まあ、俺の場合は引継ぎとかあるし……。

 どうでもいいってわけじゃないよね、華琳ちゃん?

 

「ふん。小さいわ」

 今度は桂花か。

「あんたなら、華琳があの蛇ち●こをどうでもいいって言うと思ったけど?」

 詠まで蛇って言うな。

「私は華琳さまをよく知っているもの。そう、私が一番華琳さまを知っているの!」

「じゃあ、なんなん?」

 霞もいるのか。なんの集まりかわかってきた気がするけど……ねねがいるのはやっぱり呂布狙いなの? なんか寂しい……。

 

「あの泣き虫接続器を華琳さまはねえ……」

 桂花までなんか呼び方変わってるし。でも、泣き虫は外してくれないのね。

「天井は華琳さまのもの。天井のものは華琳さまのもの」

 ジャイアニズム?

 俺の嫁は全部華琳ちゃんの嫁、って……すごく納得できるけど! すごく言いそうだけどさ。

 ……引継ぎとか秘密にしてたらそんな説明しかないか。さすが桂花ちゃん、俺の嫁!

 

「なによそれ。あんたはそれでいいの?」

「よくはないけど、あなた達も見たでしょ。アレを使いたくてここで相談してるんじゃないの?」

 桂花の発言の後、しばらく声が聞こえなかった。

 

 

「……季衣がな、愛紗とやった言うとったん」

「そうなのです。ねねも流琉と大人になったのですぞ!」

 それが聞こえた瞬間、凪の顔が赤く染まる。純情だなあ。

「……あいつ、小さい娘じゃないと駄目なの?」

 いえ、前はそうだったけれど、今はおっぱいも平気ですよ。ちっちゃい娘が素晴らしいのに変わりはないけど。

「ねねは小さくなんてないのですぞ! だいたい、愛紗はどうなるですか!」

「せやなあ。春蘭と秋蘭もおるし、ウチにも望みあるやろ?」

 霞の質問に大きなため息が聞こえた。桂花かな。

 

「あの泣き虫接続器を使用する条件は二つぐらいよ。一つは処女であること」

 道具扱いを続けるつもりか。まったくもう、素直じゃないんだから。

「もう一つは?」

 また大きな溜息。

「双方の合意、だそうよ。私の時は合意なんて……」

 さすが俺の嫁! よくわかってるね。

 

「けどさー、あたいはいいって言ってるのにアニキ、嫌がるんだよー」

 いやだってフラグクラッシャーな緑髪義妹は、もう猪々子しかいないからさ。

「あんたのことだから、斗詩が合意してないんでしょ」

「斗詩だってあたいと繋がりたいはずだって! あたいの嫁なんだからさ!」

 

「……条件は二つだけど、アレを使いたいならアレの嫁になる覚悟は必要よ」

「よ、嫁え!?」

「私のように嫁にされる……誰があんなやつの! ……そう、そうよ、私は華琳さまの嫁!」

「ねねも兄殿の嫁なのです!」

 ありがとう! ねねを抱きしめたいなあ。出て行き辛いから無理だけど。

 気づいたら、凪がさらに赤くなってこっちを見ていた。

 かと思ったら、視線が合うと顔を逸らされた。

 

 

「じゃ、愛しのあの娘とどうやったらあーんなことやこーんなことが出来るか考えようの会、臨時会合は、これにて解散ということで」

 身動きできず潜んでいたら話は終わったようだ。やっぱりそんな会合だったか。

「ねねに感謝するです」

「まあ、参考にはなったか。おおきにな」

「なに、礼は兄殿のお顔を見てからでいいのですぞ」

 いや、ねねが礼要求したんじゃ? ……俺の顔を見るって……まさか、やっぱりそういうこと?

 

 

 

 ……もうみんないなくなったかな?

 ゆっくりと立ち上がると、目の前に霞がいた。

「おはようさん」

「お、おはよう……」

「し、霞さま」 

 まさかばれてたの?

 

「凪はええけどな、皇一、女の内緒話を聞くもんやないで」

 さすが武将、やっぱりばれてた。

「い、いや出るタイミングを外しちゃって……ごめんなさい」

「すみません、隊長を起こすのは忍びなくて」

 

「まええ。聞いとったんなら話は早い。愛紗と合体させてえや」

 合体って。あんたはどこぞの釣りバカですか。

「あのね、聞いたでしょ、両者の合意って。愛紗の合意はとったの?」

「皇一が愛紗に頼めば大丈夫なんちゃう?」

「華琳ちゃんも季衣ちゃんも自分でちゃんと頼んだよ」

 季衣ちゃんはちょっと違ったけど。

 

「そ、そんなん……恥ずかしいやん」

 俺だってそんなの頼むの恥ずかしいってば。

「合体とか言うけどさ、それは甘~い時間を過ごして最後の最後に、だろ?」

 真・魏の霞ならこれが望みのはず。

 

「……愛紗と合体するのと、愛紗と甘~い時間を過ごすの、どっちがいいの?」

「どっちて……」

「どちらか決まったらできる範囲で協力する」

 川原にろうそく立てるくらいしかできないけどね。

「ホンマか!」

「すぐには決まらないだろうから、よーく考えて」

 時間稼ぎ。その間に愛紗と相談しよう。

「おーきに!」

 なんとか誤魔化せたか。……面倒事が増えただけかもしれない。

 

 

「じ、自分で頼む……」

 凪もなんか赤い顔でぶつぶつ言ったと思ったらぶんぶん頭を振ってるし、どうしたもんかな?

 

 

 

 訓練のせいで酷い筋肉痛。うん、まだ翌日にくる歳じゃないな。

 妙な安心感を得ながらもストレッチやマッサージをする気力もなくそのまま寝ようとしたその時、コンコンと俺の部屋の扉をノックする音。

 ノックは一通りの知り合いには教えているけど、一番この部屋に遊びに来る季衣ちゃんやねねはノックしてくれない。誰だろう?

「はい、どなた?」

 痛む身体に鞭打って扉を開ける。

 

「こ、こんばんわ」

「こんばんわ」

 訪ねてきたのは月ちゃんと詠の二人だった。

 

「こんばんわ。……立ち話もなんだから中に入って」

「は、はい」

 月ちゃんの赤い顔と昼間の詠たちの話……ちょっと期待したいけど、筋肉痛が……。

 

「若い娘さんがこんな時間に男の部屋を訪ねるなんて感心しないな」

 似合わないだろうけどおっさんらしい説教気味な台詞。部屋に入れてから言っても説得力ないよね。

「へぅ……」

「こ、こんな時間にくるなんて理由はわかるでしょ!」

 やっぱりか。気持ちは嬉しいんだけどタイミングが。

 

「……皇一さんの素顔を見ただけで、その日は一日幸せに過ごせるくらい、皇一さんのことばかり考えてます。お、お慕いしています」

 素顔、か。月ちゃんには朝起こしてもらう時があって、その時見られちゃうんだよね。眼鏡して寝るわけにもいかないし。

 ……いつもじゃないのは華琳ちゃんたちのとこに泊まることもあるからね。

「ありがとう月ちゃん」

 前に命の恩人って言ってくれたね。そのおかげ? それとも素顔? でもお慕いしてるって言ってくれるのは本当に嬉しい。

 

「月ちゃんの気持ちは本当に嬉しいよ、でも」

 言いかけてる途中で詠が詰め寄ってきた。

「でも? なに、月にここまでさせておいて応えないつもり!?」

「いやそうじゃなくて」

「あ、あんたの蛇ち●こでも大丈夫なようにボクだっているんだから! 月一人じゃ無理でもボクも一緒にすればいいんでしょ!」

 蛇ち●こは止めてって。二本だけど蛇みたいに仕舞えないんだから。不便なんだよ、これ。

 

「落ち着いて。……月ちゃんの気持ちに応えてあげたいんだけど、筋肉痛で身体が辛い」

 ううっ、情けない。華佗がこっちに居れば治してもらうのに!

 馬騰ちゃんの経過を診るって西涼に残っちゃったもんなあ。

「だ、大丈夫ですか?」

「こんな時になに言ってんのよ」

 肩から力が抜けた詠が睨む。

「そんなこと言われても……今夜来るって知ってたら訓練サボったのに」

 筋肉痛じゃ死ねないしなあ。

 

「寝なさい」

「え?」

 ベッドを指差す詠。

「いいから寝なさい」

 初めてでいきなり上に乗るつもり?

 言われるままベッドに横になる。

 

「揉んであげるから」

 ああ、マッサージしてくれるのか。

「わ、わたしも」

 二人で俺の手足を揉み解してくれる。

 二人の小さな手が一生懸命優しく揉んでくれている。

 

 ……二人からいい香りがする。ああ、お風呂入ってきたんだ。

 二人とも覚悟してきたのか……月ちゃんなんて告白までしてくれたのに……。筋肉痛なんて言ってられないよね。

 

「もういいよ」

「でも」

 俺はゆっくりと眼鏡を外した。

「これからは俺が二人をほぐす番」

 

 

 ……俺、明日動けるかなあ。

 

 




 巳年なので蛇推しです。
 初出時、新年一発目の投稿でしたので。

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