恋姫†有双   作:生甘蕉

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感想、評価ありがとうございます。

今回は愛紗視点のおまけをつけてみました。




二十五話  失?

 美髪公から短髪公になってしまった愛紗。

 沙和によって髪を整えられた後、一刀君の元へ旅立っていった。

 ……ううっ、寂しい! 心配だよぉ!

 自作のお守り袋を握り締める。中身は愛紗の髪。

 フラグクラッシャー効果なんてなさそうというか、逆に死亡フラグっぽいアイテムだけど気にしない。

 一刀君たち、愛紗見てビックリするだろうなあ。

 

 

 落ち込んでるのは俺だけではなかった。

「協力する言うたやん……」

「すまない」

 目の前の霞に頭を下げる。

 そう。俺と同じくらい霞も落ち込んでいた。

 

「うう……愛紗ぁぁぁ!」

 お守り袋を握り締めて霞が泣く。

 俺にできるのは霞たちの分までお守り袋を縫うことぐらいだけだった。華琳ちゃんには縫い目とかで駄目出しされたけど。

 

「なんじゃ、いい若いモンが真昼間から酒をかっくらって泣いておるなど」

 周りの客が避けていた俺たちのテーブルに現れた祭。

「俺と霞は今日は休日。サボってるわけじゃない」

「せや。一人じゃ辛すぎる悲しい酒なんや!」

 俺と霞は二人とも休日な事をいいことに朝から飲んだくれていた。

 真昼間どころじゃないんだよねー。

 

「だいたい、そう言う祭だってこんな時間から飲みにきたんだろう?」

「む。儂は若くないからいいんじゃもん」

「俺だっておっさんですー」

 おっさんだから、祭のことは祭さんなんて呼ばない。

「酔っ払いめ」

 やれやれと言いつつ、相席する祭。

 

「そんなに大事なら孕ませておけばいいものを」

「そ、その手があったか!」

「せや! なんで仕込んどかったんや!」

 目から鱗の指摘に俺と霞が立ち上がる。

 そうだよなー。愛紗が妊娠してれば……。

「いや、愛紗ならむこうで産んだかも……」

「愛紗やもんなあ……」

 盛り上がった俺と霞はすぐに座りなおして落ち込む。

 悪い酔い方だなと頭の隅ではわかっているつもり。

 

「まったく。冥琳も小蓮様もこんな男のどこがよかったのやら?」

 あれ? もう知ってるの? 俺の嫁になってくれたって。

「そらアレやろ。アレ」

 両手の人差し指を立てる霞。

「双頭竜か。あんなものに惑わされるとは情けない。儂の方が泣きたいわ!」

 ぐいっと酒をあおってからため息。

 って、それ俺の酒。まあいいけど。追加注文しとこう。

 

「そりゃ祭の娘みたいな二人に手を出したけどさ、遊びで抱いたわけじゃない!」

「ほう」

「ちゃんと責任とる。俺の嫁になってくれるって言ったもん」

「なにがもん、じゃ。その嫁になってくれるはずの女に逃げられた癖に」

 そ、それを今言う?

「う、うわぁぁぁあん!」

 俺は再び泣き出した。

 

「泣ーかした、泣ーかした」

「ふん。甲斐性なしめ。……冥琳、小蓮様、本当にどこが良かったんじゃー?」

 これが処女相手だったら身体で証明する! とか言っちゃうのに。

 

 ……いや、言わないよ俺。

 言うワケないでしょ愛紗。酔ってるなあ。なんか愛紗の怒鳴り声が聞こえた気がした。

 

 

 

「元気出しなよ~」

 最近みんなそう声をかけてくるけど、俺、そんなに落ち込んでるように見えるのだろうか?

「そんなに元気なさそうに見える?」

「ああ。ちゃんとご飯食べてるのか?」

 俺の顔を覗き込む翠。

「しっかり食べてるって」

 食欲はあんまり無いけど、嫁さんたちに心配かけないよう、栄養はとっているはず。

 

「こ~んな可愛い娘といるんだから、もっと元気出てないとおかしいよ~」

 不満そうなたんぽぽちゃん。

「いくらふられたからってさ~」

「ふ、ふられたんちゃうわ!」

 思わず似非関西弁で反論。

 

「なあたんぽぽ、なんかお前怒ってない?」

「あ~、お姉様にはわかっちゃうか」

「え? 俺なんか怒られる様なことした?」

「なんにもしてない」

 ほっと胸を撫で下ろす俺。だがほっとしてる場合ではなかった。

「ならなんで怒ってるんだ?」

「だから、なんにもしてくんないの! 皇一さんが!」

 

「なに言ってんだ、たんぽぽ?」

「たんぽぽずっと待ってたのになんにもしてくれなかった! なのに小蓮たちには手を出して!」

「な、なに言ってんだよ、たんぽぽ!」

 翠がすごく動揺しちゃった。シャオちゃんたちとのこと知らなかったのかな?

 でも、俺がたんぽぽちゃんに何かしなきゃいけなかったっけ?

 

「たんぽぽと初めて会った時のこと覚えてる?」

「うん。あの時は騙しちゃってゴメンね」

「それじゃなくて、言ったよねえ。可愛い子には油断しないとか、口説くのはまた今度とか!」

 そんなこと……言ったかもしれない。

「たんぽぽドキドキしながら楽しみにしてたのにな~」

「楽しみって、く、口説かれるのをかっ?」

 翠は耳まで真っ赤になってる。

 

「もしかして……ずっと待ってたの?」

「うん。だけどもう待つのは止めたよ~。やっぱり積極的にいかないと駄目だもんね~」

 腕をからめてくるたんぽぽちゃん。

「ご、ゴメン……」

 どうしよう。

 口説くって俺が?

 無理でしょそんなの!

 ……どうしよう?

 

「たんぽぽっ、なにやってるんだよ!」

「なにって腕組んでるんだけど。お姉様もする?」

「あ、あああ、あたあたあたあた、あたしが!? す、するワケないだろっ!」

「ゴメンね皇一さん、お姉様にまでふられることになっちゃって」

「な!」

「で~もその分、たんぽぽが慰めてあげるから♪」

 腕を組むというより、俺の腕に抱きついてる感じのたんぽぽちゃん。

 

「べ、別にあたしは皇一のことふったわけじゃ……」

 赤い顔でこちらを向いているのに目線を合わせないで話す翠。

「うん。わかってるから」

「あ、あたしは皇一のこと、嫌いってワケじゃなくて……」

「じゃあ好きなの?」

 たんぽぽちゃんのツッコミで硬直する翠。

 

「あんまり翠をからかっちゃ駄目だって。翠みたいな可愛い娘がこんなおっさん相手にするワケないでしょ」

 そう言った瞬間、翠がギンッと俺を睨んで、たんぽぽちゃんとは反対側に周り、俺と腕を組む。

「べ、別に気を使ったわけじゃないからな!」

「あ、ありがとう」

 なんだかかみ合わない会話をする俺と翠。

 翠も赤いが、俺もきっと真っ赤になってるだろう。

 路上でこのまま晒し者になるのは辛い。早く移動しないと。

 どこへ?

 目的地を知らされずたんぽぽちゃんに引っ張り出された俺。きっと、落ち込んでる俺を元気付けようとしてくれてるんだろうけど。

 ……翠とたんぽぽちゃんか。ちょうどいいかな?

 

「そう言えばさ、二人が魏にきてくれることになってから、ちゃんとお礼してなかったよね」

「お礼? いいよそんなの~」

 たんぽぽちゃんはそう返してくれたけど、翠はそんな余裕ないみたい。ガッチガチになってる。わずかにコッチを向いたと思ったら、目線が合ってすぐに正面に向き直っちゃった。

「そういうワケにもいかないよ。俺の発案で魏にくることになっちゃったんだし。あとね、二人がきてくれて俺が嬉しいから、そのお礼」

「ホントに嬉しい?」

「うん。だからね、プレゼント……贈り物があるんだ」

 緊張で硬直気味の翠が転ばないようにゆっくり歩きながら、俺たちは目的地へと向かった。

 

「服屋?」

「うん」

 一周目で偽白装束装備やランドセル、ウェディングドレスを作ってくれた馴染みの服屋。店主にその記憶はないけれどその腕は信用している。

「いらっしゃいませ」

「頼んでたの、できてる?」

「どれでしょうか?」

 出迎えてくれた店主にプレゼントができているか聞く。色々と頼んでる品があるんだよね。

 

「ええとね……」

 俺の説明で、奥から依頼品を持ってきてくれる店主。

「服? こんな可愛い服初めて」

 たんぽぽちゃんが驚いたそれはもちろん、真で一刀君がデザインしたゴスロリ。その時は翠用に作られたのを気に入ったたんぽぽちゃんが店に頼んで自分用にも作ってもらっていたけど、俺はちゃんと二人用にそれぞれ注文している。

 二人のサイズは華琳ちゃんの見立てだ。

 

「はい。こっちの桃色のが翠で、黒い方がたんぽぽちゃんの」

 真のとは違い、翠にピンク、たんぽぽちゃんに黒を用意した俺。白はやっぱりウェディングドレスの方がいいからね。

「あ、あたしにも!?」

「うん。お礼だから」

「い、いい。あ、あたしにこんなの似合わないって!」

 予想通り、受け取ってくれない翠。

 ここは人のいい翠の性格につけこもう。

 

「そうだよな。俺みたいなおっさんから服なんてもらいたくなんてないよね……」

「そ、そんなんじゃ」

「お姉様っ! こういうのは受けとらないと失礼でしょ」

「そ、そうなのか?」

「……嫌ならいいんだ。俺としては二人に似合うって確信して用意したんだけど、こんなおっさんに気を使わなくてもいいんだよ」

 ははは、とわざとらしくならない様に寂しく笑う俺。

 

「わ、わかったよ。……あ、ありがとう」

「ありがとう♪ 皇一さん」

 受け取ってくれた二人。うん、よかった。

 ……そうだ。たんぽぽちゃん口説かなきゃいけないんだよね。ちょうどいいかな?

 眼鏡を外して、と。

 

「二人とも、俺のために着てくれると嬉しいな」

 華琳ちゃんに調教されてなかったら、眼鏡を外してなかったら、絶対に言えないよこんな台詞。

 ……もう眼鏡していいよね。でゅわっ、っと。

「どう? たんぽぽちゃん」

「え? ……あ、い、今のもしかして!」

「うん。これで勘弁して下さい」

「お姉様、たんぽぽたち口説かれちゃったよ♪」

 

「こ、皇一のために?」

「うん♪」

「この可愛い服をあたしが?」

「うん♪」

 翠の問いかけに頷きながらたんぽぽちゃんが答えてる。

「……」

 しばしの硬直。

「★■※@▼●∀っ!?」

 翠はゴスロリを手に店から走り去った。

 

「えっと……」

「もう、お姉様ったら」

「あんな調子でちゃんと帰れるのかな? 転んで怪我とかしなきゃいいけど」

 あと、誰かを轢いちゃうとか。

「そうだよね、転んで汚したりしちゃいそうだよね。……たんぽぽも行くね」

「じゃあ俺も」

 たんぽぽちゃんが首を横に振る。

 

「だ~め。皇一さんがいっしょだとお姉様きっとあのままだろうから」

「そう? じゃ気をつけてね」

「うん。可愛い服ありがと~♪」

 去り際に俺の頭をぐいっと引き寄せて頬にキスして、たんぽぽちゃんも店を出て行った。

 なんか少し元気が出てきた気がする。二人のゴスロリ、俺は見ることできるかな?

 

 

 安くはない服代を払うと店主がさらに別の服を持ってきた。

「そっちもできたんだ」

「はい。いかがでしょう」

 出来を確認。うん。やっぱりこの店、腕がいい。……なのになんであんなに偽白装束は駄目だったんだろう。

 

 

 

 シャオちゃんや冥琳たちを孫策と会わせてあげたいけど、いまだ道場へ行かない俺。

 さすがに自殺は嫌。

 死ぬ時のあの感覚って、何度やっても慣れない。怖くて気持ち悪いあの感覚。

 愛紗にも会いたいけど、そんな理由で自殺したら正座と説教のコースだろうし、心配もかけたくない。

 うん。自分で死ぬってのはないね。

 

 

 華琳ちゃんは、吸収した呉のメンバーの面倒を見るように俺に命じた。

 落ち込んでる俺の気分転換かな?

 祭を助けたおかげで、呉のメンバーはみんな俺に真名を預けてくれている。そういうのを狙って助けたわけじゃないんだけど嬉しい。

 ……助けたはずの祭には、シャオちゃん、冥琳のことで睨まれてたりするけど。

 

「お料理教室、ですか?」

「うん。たまには少し気分転換しようよ、亞莎」

 まずは懐柔しやすいところから仲良くなろうとする。

 亞莎は魏にきてから、ずっと勉強しっぱなしで心配なのもあるし。

 一番楽なのは穏なんだろうけど、いきなり行為に、ってなりそうでなんか怖いので後回し。本使わないで仲良くなる方法ないものだろうか。

 

「講師は魏の誇る美少女料理人流琉。いっしょに胡麻団子作らない?」

「ごまだんご?」

 うん。もちろん一刀君みたいに夜食に差し入れしているよ。

「是非お願いします!」

 嬉しそうに即答する亞莎。やっぱり好きなんだなあ。

 

 ここで、ゴスロリプレゼント時に服屋で受け取っておいたエプロンドレスの出番となる。

 明命と思春にも渡してある。明命は参加してくれたけど、思春は蓮華の護衛を理由に参加せず。

 ちょっと残念だけど、亞莎と明命のエプロンドレスはよく似合ってて可愛い。

 

 

「出来立ては熱いですから注意して下さいね」

 可愛い義妹嫁の指導の元、出来上がった胡麻団子。

 

「食べないのですか?」

「俺、猫舌なんだよ」

「お猫様!」

 目を輝かせる明命。猫ならなんでもいいの?

 

「おいしいです!」

 亞莎が出来立てを頬張っている。

 うん。喜んでくれて良かった。

 

「おいしい。これ、亞莎ちゃんたちが作ったの?」

「おかわり」

 匂いを嗅ぎつけたのか季衣や呂布たちも厨房に現れた。

 冷めるのを待っていたら、俺の分がいつのまにかなくなっていた。

 ……まあ、打ち解けてくれたんならいいか。

 

「ここはもう戦場よ。油断しないことね」

 俺の前に胡麻団子の皿が差し出される。

「これはもしかして?」

 亞莎や明命が作っていたのとは違う完璧な球形。大きさも寸分の狂いもなく揃っている胡麻団子たち。

「ええ。私も作ってみたわ」

「ありがとう。……熱っ!」

 食欲魔人たちの食気を感じたので、猫舌なのに無理して頬張ったら滅茶苦茶熱かった。

「油断するなと言ったでしょう」

 そう言いながらも水をくれる華琳ちゃん。慌ててそれを口に含む。

 熱かったー。上顎の内側、火傷したっぽい。

 

「あ、熱かったけど、すごい美味いよ、これ」

「当然よ。それにしても……見事ね」

 華琳ちゃんの視線の先にはエプロンドレスの二人。

「ふふっ。可愛いわ」

「気に入ってくれてよかった」

「ええ。予算を都合した甲斐があるというもの。さすがね」

 エプロンドレスは華琳ちゃんに相談したら予算出してくれた。似合わなかったら俺が出すという条件で。

 ……似合わなかったら俺が着るという条件だけは必死に拒否したからね。

 

「あの服も皇一さんが用意したの?」

 そう問うのはたんぽぽちゃん。

「うん。二人とも似合ってるよね」

「ふ~ん……」

 なにやら考え込むそぶりを見せたかと思いきや。

「も~らい♪」

 俺の皿からひょいと胡麻団子を奪う。

 やられた。今度こそ冷めてからじっくり味わおうと思ったのに。

「なにこれっ! すっごいおいし~♪」

 

「……そういえば翠は? こういう時にいないなんてどっか調子悪いの?」

「調子が悪いっていえば悪いっていうか変なんだけど……皇一さんのせいなんだからね~」

「俺の?」

 まさかあのゴスロリの時のせい? まさかね……。

 

 

 

 その晩。

 真桜がくれた愛紗の写真を眺めてボーっとしていた俺は、ノックの音でとんでた意識が呼び戻される。

「どちら様?」

 ドアを開けると現れたのは翠とたんぽぽちゃんの二人。

 それもゴスロリ装備で。

 

「ど、どどどどど……」

 どもりまくる翠をたんぽぽちゃんが「どうどう」って宥めている。

 

「ど、どうだ?」

「うん。よく似合ってる。可愛いよ」

 本当によく似合っている。ポニテを解いた翠を初めてナマで見たけど可愛いね。

「でしょ~♪ たんぽぽは?」

 たんぽぽちゃんはテール解かないのか。

「もちろん可愛いよ。着てくれてありがとう」

 うんうん。いいもの見たなあ。あっ、華琳ちゃん呼んだ方がいいのかな?

 

「お姉様ねえ、ずっと皇一さんに見せようと思ってて、でもできなくて悩んで変になってたんだよ~」

「そうか。ありがとう翠」

「あ、ああ……」

「ムラムラしてきた?」

 元気は出てきたけど、欲情って言われると……って、たんぽぽちゃんなに言ってるのさ。

 

「なっ、なに言ってるんだよたんぽぽっ!」

「お姉様、たんぽぽたちは、遅れちゃっているんだよ」

 遅れてる? なんのことだろう。

「これは皇一さんを巡る女の戦いなの!」

 はい? それはなにかの勘違いじゃないでしょうか?

 

「ええと、俺のお嫁さん、みんな仲いいはずだけど……」

「それは、もうお嫁さんになっちゃった方でしょ~。華琳さまが一番で、その華琳さまが許してるから上手くいってるの」

 そうだったのか。

「でも、まだお嫁さん認定されてない、つまり皇一さんとシテない娘たちには熾烈な争いがあるの!」

 そんな、どこぞの二軍みたいなことありませんって。

 

「このままだと、お姉様やたんぽぽの入る隙間がなくなっちゃうの。そんなの嫌! お姉様、皇一さんのお嫁さんになれなくてもいいの?」

「よ、嫁? あたしが?」

「うん。たんぽぽといっしょにお嫁さんになって♪」

「あ、あたしがたんぽぽといっしょに……?」

 な、なんかたんぽぽちゃん、翠を洗脳してない?

 

「だから皇一さん、三人でしよっ!」

「いや、あのね。双方の合意がね」

「お姉様もたんぽぽもいいよ~。お嫁さんにもなってあげるって~」

 いかん。このままだと俺までたんぽぽちゃんのペースに流されてしまう。

「翠はそれでいいの?」

「……やっぱり皇一は嫌だよな。あたしみたいな可愛くない女なんて……」

 

「いや翠可愛いよ。可愛いってば! 俺好きだよ翠のこと」

 咄嗟に眼鏡を外して告白。ハッとしてたんぽぽちゃん見たらにんまり笑顔。

「たんぽぽのことは?」

「可愛いたんぽぽちゃんも好きだよ」

「もっちろん、たんぽぽも皇一さんがだ~い好き♪ ほ~ら、後はお姉様の気持ちだけ!」

 

「あ、あたしだって皇一のことが好きだ!」

「ね。これで双方の合意でしょ♪」

 ……たんぽぽちゃんには勝てる気がしない。

 この小悪魔を騙せたなんて、涼州の時は信じられないくらいの幸運だったんだろう。

 

 

 

 今回のせめてもの幸運は、コトに至る前に血の染みが落ちにくいことを思い出して、ゴスロリ服を汚さずに済んだことだろうか。

 ……翠とたんぽぽちゃんとできただけでも、すごい幸運なのはわかっているけどさ。

 愛紗にばれたら説教されるんだろうなぁ……。

 

 

 

 

 

 

<おまけ> 愛紗るリターン

 

 

「げぇっ! 関羽!」

 ……それが久しぶりのご主人様の最初のお言葉でした……。

 

 ……ご主人様の隣には頬を上気させた袁紹がいました……。

 

 

 

 帰ってくるべきではなかったのだろうか?

 皆がよそよそしい。

 私を疑っているのかもしれない。

 仕方ないのだろう。

 私は長い間、魏にいすぎてしまった。

 

「皇一殿……」

 真桜が餞別にくれた皇一殿の写真を胸に抱く。

「皇一殿……」

 いけないこととわかりつつも、右手が下半身に向かいそうになった時、私の部屋に乱入する者が。

「いっしょに食べるのだ愛紗!」

 鈴々か。……危ないところだった。

「どうしたのだ?」

 肉まんを乗せた籠を手に不思議そうに私を見つめる。

 鈴々だけは、この義姉妹だけは、以前と変わらぬ態度で接してくれる。

 

「いや、私はよい妹を持ったな」

 皇一殿がよく言っている台詞を、まさか自分が言うことになろうとは。

「にゃ? 愛紗、そんなにお腹空いていたのか? だったらもっと貰ってくるのだ!」

 止めるのも間に合わず部屋を飛び出す鈴々。厨房へ向かったのだろう。

「……これだけあれば十分だろうに」

 鈴々が置いていった山盛りの肉まんを眺めて苦笑する。

 

 さらに山盛りの肉まんを二籠持って鈴々が戻ってきた。

「食べて元気出すのだ!」

 ずい、と私に肉まんを差し出す鈴々。

「あ、ああ」

 鈴々に流されて肉まんを口にする。

「次なのだ!」

 一つ食べ終わる度に、次々と肉まんを差し出す鈴々。

 おかしい。

 鈴々が自分の食べるのを後回しにして私に?

 

「私一人でそんなに食べきれるか。いっしょに食べるのだろう?」

「……たっくさん食べて元気出すのだ愛紗」

「先程もそう言ったな。私は元気だぞ」

「でも……」

「私が弱ってるように見えたのか?」

 こくりと頷く。

 やれやれ。心配をかけてしまうとは。情けない姉ですまんな。

 

「やっとご主人様や鈴々たちの元に帰ってこれたのだ。元気になることはあっても弱るはずがなかろう?」

「だって、愛紗がふられたって! だから落ち込んでるってみんなが言うのだ!」

 なに?

 私がふられただと?

 皆がそう言ってるだと?

 

「も、もしや皇一殿のことを言っているのか? 皇一殿とはそうではなくてな」

「おっちゃんにふられたのか!?」

「だから、ふられてなどおらぬ!!」

 ふられてなど……いないはず……。

 

 

 

「朱里、詳しい話を聞かせてもらえないか?」

「あ、愛紗さん……」

 鈴々からでは状況がよくわからないので確認することにした。朱里ならば上手く説明してくれるだろう。

 

「……私が髪を切ったのが、失恋のためだと?」

「はい。ご主人様がおっしゃってました。失恋した女性は髪を切るって」

「はあ。それで皆、腫れ物をさわるような扱いだったのか」

 わかってしまえばなんのことはない。皆、私に気を使ってくれていただけなのだ。

 

「失恋ではなく、お嫁さん?」

「声が大きい」

「はわわ……」

「隠すわけではないのだが、皇一殿は曹操の婿。私が……その、よ、嫁になるなど大きな声で言うわけにもいくまい」

 それこそ敵と通じてると見られてもおかしくはない。

 

「愛紗さん。ご主人様にちゃんと報告しましょう。ご主人様ならわかってくれます」

「朱里……」

 朱里。なんという……。

「……でもよかった。愛紗さんが脱落してくれて。強力な恋敵がいなくなって一安心です♪」

 ……こ、これはきっと冗談だ。私が気に病まないように気を使ってくれているのだ。

 

「私の恋も応援してくれると嬉しいです。紫苑さん桔梗さん、最近では焔耶さん麗羽さんまでもがご主人様と……」

 ギリギリと歯軋りする朱里をそっと抱きしめる。

「愛紗さん?」

 戻るのが遅れて苦労をかけすぎたのだろう。

 朱里、こんなになってしまって……。

 

 皇一殿のがうつったのか、私は溢れる涙を堪えきれなかった……。

 

 


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