恋姫†有双   作:生甘蕉

27 / 51
二十六話  呉娘?

「明命、これあげる」

「そんな、こないだ服をいただいたばかりなのに、またいただくわけにはいきません」

「まあそう言わず」

 袋からプレゼントの中身を取り出す。

 それを眺めている内に、明命もその正体に気づいたのだろう。

「そ、それは!?」

 

 馬蹄というか、Cの形をした本体から、ふさふさとした二つの三角が生えている。

「お猫様のお耳?」

 そう。所謂猫耳カチューシャ。

 例の服屋で作ってもらったものである。

 

「これをね」

 猫耳カチューシャから目を離さない明命にそっと近づく。

「こうするんだよ」

 おもむろに明命の頭に装着。

 うん。やっぱり似合うなあ。

 

「似合うよ。とっても可愛い」

「はうぁ!」

「鏡で見てきてごらん」

 手鏡とか持ってきてればよかったなあ。

「は、はい。ちょっと失礼します!」

 音もなく明命が姿を消した。

 うわっ、忍者みたい。

 

 そして、やっぱり音もなくすぐに戻ってくる明命。

 その顔は紅潮している。

「すごいです! お猫様のお耳なのです!」

「喜んでくれたみたいでよかった」

「あ、ありがとうございます!」

 うんうん、今度尻尾もつくってもらおう。

 惜しむらくは料理教室の時に完成していなかったこと。猫耳メイド姿、見たかったなあ。

 

 

 

 

 ……おかしい。

 いくらなんでもおかしすぎる!

 

 俺の左右でスヤスヤと眠る明命と亞莎。

 つまりは、そういうことなわけなんだけど……。

 俺、そこまで明命と亞莎と仲良くなってたっけ?

 

 亞莎には呉ルート一刀君に倣って胡麻団子の差し入れ。

 明命には猫耳カチューシャをプレゼント。

 料理教室で魏の連中と仲良くなってもらった。

 

 ……それぐらいしか浮かばない。

 危険な極秘任務につくから、死ぬ前に思い出がほしいとか、俺の子がほしいとか言われたけど、このおっさんをそこまで好きになる理由が思いつかない。

 これだけは考えたくない俺の顔が気に入った、という線もない。

 俺が眼鏡を外したら二人とも驚いて、暫く動きが止まっていたから。間違いなく、俺の眼鏡無しの顔は知らなかった。

 

 じゃあなんで?

 賢者タイムな今だからこそこう考えられるけど、呉の三大美少女の中の二人に誘われたら俺が断れるはずも無し。

 ……罠か?

 ハニートラップ?

 

 真面目な二人なら任務とあればありえるのかな?

 いやでも俺を罠にかけて、なにか意味があるのか?

 機密情報を入手とか、俺を利用するとか……あんまり利点なんてなさそう。

 

 

 ……とするとまさか、引継ぎ目当て?

 蓮華はもう俺の能力を知っている。

 それなら明命だけでなく、軍師の亞莎が巻き込まれた理由にもなる。軍師に引継ぎ情報与えることを考えても……。

「皇一様……」

「……皇一さま」

 ほぼ二人同時に俺の名を口にする。寝言?

 ……なんだか疑ってるのがすごく悪い気がしてきた。

 罪悪感半端ない。胃が痛くなりそうだ。

 

 そうだよな。二人とも、大事な大事な処女を俺にくれたじゃないか!

 処女をもらった以上、二人は俺の嫁!

 こんな可愛い嫁になら利用されてもいいじゃないか。

 うん。問題ない。

 悩みが消えたら眠くなってきた。もう一眠りしよう……。

 

 

 

 翌朝二人は極秘任務のために旅立っていった。無事に帰ってくるといいなあ。

 行き先は極秘という事で教えてくれなかった。

 やっぱり一刀君のとこかな?

 武将が少ないとはいえ、水軍も手に入れたし、愛紗も戻ってしまっている。

 油断なんてできる相手じゃない。

 

 それとなく蓮華に聞いてみようかな?

 あの未遂扱いの初体験以降、あまり話をしてないし。

 

 蓮華に会いに行こうとしたら思春につかまった。

 蓮華が仕事中だから邪魔するなってのかな?

「頼みがある」

「頼み?」

 思春が俺の前を歩きながら言う。どこへ連れて行くつもりなんだろう。

 

「抱け」

「はい?」

 立ち止まり、振り向く思春。

「私を抱けと言っている」

「ええと……?」

 なんで思春が?

 ロード後、蓮華に手を出さなくて、「蓮華さまに魅力を感じなかったのか!」って殺されそうになるぐらい怒られたせいか、俺、思春を避け気味だったんだけど。

 もしかしてプレゼントしたエプロンドレスのお礼? ……んなわけないか。

 

「処女は大事にしなさい!」

「……くだらん」

 この反応。やっぱり、俺が好き、とかじゃないよね。

 とするときっと……。

「思春を嫁にしたらその代償に、俺、殺されちゃうのかな?」

「……わかっているなら話が早い」

 やっぱり思春は俺の能力を知っている!

 蓮華との仲を考えたらありえるか。

 

「ふざけるな! そんな理由で処女を捨てるな! この馬鹿!」

「ふん。私など蓮華さまのためならどうなってもかまわん」

「春蘭並の馬鹿だ、お前」

 まったくもう。

 明命、亞莎の時みたいに俺のことが好きだから、って騙すぐらいもしないなんて本当に春蘭並でしょ。

 

「なんだと!」

「そんなことしたら蓮華が悲しむだろう」

「貴様が蓮華さまのことを語るな!」

 俺の胸ぐらを掴んで怒鳴る思春。

 でもさ、そう言われても悲しむと思うよ、蓮華。

 

「蓮華さまがどれほど苦しんでるのか貴様にはわかるまい」

「蓮華が苦しんでいる?」

 まさか、漢ルートでの病気?

 ええとたしか……。

「生理不順? すぐに華佗に相談しよう!」

「違う! 月のものがおかしくなってるのはたしかだが、それとは別、……まて、なぜ貴様が蓮華さまのお身体の調子を知っている?」

 ぎろりと俺を睨む思春。今にも刀を出しそうで怖い。

 

「天の知識だ。そ、それじゃないなら何で苦しんでるんだよ?」

「雪蓮さまに会えたのが夢だったのではないか、敗戦を雪蓮さまに許してもらいたかった自分のつくり出した妄想ではなかったのかと、蓮華さまはそう悩んでおられるのだ」

「そんな……」

 道場とか、俺の能力が信じられないのは仕方ないけどさ、孫策のこともなの?

「蓮華さまに相談を受け、雪蓮さまに会えるかもしれないとわずかな希望をたくした周喩殿も、いまだ会えてないという」

 冥琳もか。まあ、命の恩人ってだけで俺に抱かれるよりは納得できるな。すると、大喬ちゃんもか。

 ……やっぱり、明命と亞莎もなんだろう。

 そうだよ。俺、一刀君じゃないもん。こんな短い期間で呉の娘と仲良くなれるわけないよねえ。

 

「蓮華さまの悩みを解消するためには、私が自ら確認するしかないのだ」

「……それって、俺を殺せば済むことじゃない? そうすれば蓮華や冥琳が確認できるでしょ?」

 殺されるのは嫌だけど、そんな理由なら仕方がない。

 でも、別に思春の処女をもらう理由にはならないよね? 俺のこと好きってわけじゃないんだし。

「貴様を殺して、そして生き返った時、私は貴様を殺したことを覚えているのか?」

「あ……思春、頭いいんだな。春蘭並って言って済まなかった」

「ふん」

 そうか。思春が記憶引継いでなかったら、俺が何度も殺されちゃう可能性があるのか。

 ……蓮華に思春を説得してもらえばいいような?

 

「でもさ、一人で俺の相手をするのは大変だよ」

「かまわん。早くしろ」

 これ以上言っても聞きそうにないか。

「最後に一つ、いい?」

「命乞いなら聞かん」

「殺さないでとは言わない。……俺の嫁になってくれるんだね? じゃないと俺は絶対に嫌だから」

「……私の話を聞いていたのか?」

「俺の授業を聞いていたよね?」

 二回目の性教育の授業でもちゃんと俺は説明している。

 処女は大事にしなさい。結婚する相手としかするな。って。

 

「どんな理由であっても処女をもらった女性は嫁にする」

 じゃないと、俺の嫁になってくれた他の娘たちに示しがつかない気がする。

「……ふん、好きにしろ」

「ありがとう」

「なっ、私は貴様を殺すのだぞ!」

 動揺する思春は可愛いなあ。

 

 

 

 

 思春もすごいな。あんまり痛くなかった。

 思春の方は痛そうだったけど。

 初めてなのに、一人で両方だったからねえ。

「さて、戦もないのに道場とはどういうこと?」

「誰に殺されたのだ!」

「ちょっと待って」

 華琳ちゃんと春蘭に説明するより先に蓮華の様子を確認。

 

「またここに? また私は……」

「夢じゃないから安心して」

「皇一さん? ……夢じゃないって……まさか!」

「今引継ぎ確認するからね」

 引継ぎ確認をする。

 道場に現れる翠、たんぽぽちゃん、シャオちゃん、冥琳、大喬、小喬、明命、亞莎。そして、思春。

 

「ほ、本当にこんなことが……」

 思春、そんな驚くなんて疑ってたの?

「シャオ! 冥琳、思春たちまで……皇一さん、これはいったいどういうこと!」

 蓮華、やっぱり怒ってるなあ。

「ずいぶんと増えましたね」

 愛紗も怒ってる? 久しぶりなんだから喜んでほしいけど無理かな……。

 

「あまり皇一殿を責めるな。全てはここにくるため」

 俺をフォローしてくれる冥琳。そこへ、彼女たちの目的である人物が姿を現す。

「私に会いにくるためってさぁ」

 道場主の登場に呉のメンバーが沸き立つ。

「雪蓮!」

「久しぶり。元気そうね」

「ああ。皇一殿のおかげだ。雪蓮も……いや、死人に元気と聞くのはおかしいか」

「ふふっ。元気よ。死んでるけど」

「雪蓮さま!」

 孫策にかけより、抱きつく大喬ちゃん。

「雪蓮さまぁ……」

 そのままわんわんと泣き出してしまう。

 うんうん、よかったね。小喬ちゃん、シャオちゃんたちも泣いてるし、俺も思わずもらい泣きしそう。

 

「孫策に会いたかっただけなの?」

 呆れた様子で呉勢を見渡す華琳ちゃん。

「気持ちをわからんでもありません。我らとて華琳さまが亡くなられていたら同じ事をしたでしょう」

「ふむ……私に相談してくれればよかったのに」

 華琳ちゃんに相談って。

「華琳ちゃんも呉のみんなの初体験に参加したと」

「当然でしょ。まったく、惜しいことをしたわ」

 冗談じゃなく、本気なんだろうなあ。

 思春の時、呼べばよかったか。やっぱり一人だとかなり辛そうだったし。

 

 

「皇一殿! まさか皇一殿がそこまで落ち込もうとは……」

 俺を怒るどころか謝ってくる愛紗。

 誰が俺のこと教えちゃったんだろう。心配かけたくないのにさ。

「心配しないでもいいよ。愛紗の方は大丈夫?」

「え、ええ。まあ……」

 言葉を濁す。嘘をつけない愛紗のことだ、この様子だと苦労してるんだろうな。

 

 状況に取り残されて、愛紗に近況報告してたらしい翠とたんぽぽちゃんにも道場の説明。

「こいつらみんな皇一と?」

「だから言ったでしょ、お姉様。たんぽぽたちは出遅れてたって!」

 俺の説明をたんぽぽちゃんがそれなりに噛み砕いて解説してくれたおかげで、翠も理解してくれたみたい。

 

 

 

 ロードしてすぐ、蓮華が謝りにきた。

「ごめんなさい」

 俺に頭を下げることなんてないのに。

「いいよ。知らなかったんだろう?」

「知らなかった、では上に立つ者として済まされないわ」

「俺の方こそ、みんなに手を出しちゃってゴメンね」

 もっと早く気づいていれば、みんなの処女を守れたのに。

 

「……あなたのことだもの、遊びのつもりではなかったのでしょう?」

「うん。みんな俺の嫁になってもらう」

 初めてをもらっちゃった以上は、もうみんな俺の嫁。これは譲れない。

「……その中には私も入っている?」

「え? でも」

 蓮華の時は俺の嫁になるつもりはなかったっぽいから、その直前でロードした後、蓮華とはやらず、処女を守ったんだけど。

「たしかに今の私はまだあなたに抱かれていない。でも、私があなたに抱かれたのもたしかでしょう?」

「……いいの?」

「はい」

 頬を染めて頷く蓮華。なんて可愛いんだろう。もう我慢できない。

「思春、いるんなら出てきてくれ」

「え?」

 しばらく待つも出てきてくれない。きっといると思うんだけどなあ。

 

「出てきてくれないなら……」

 蓮華を抱きしめる。

「きゃ……」

 眼鏡を外して、蓮華の唇を奪う。

「これでも出てこないと、蓮華が一人で俺の相手をすることになるけどいいの思春? 初めてで両方同時って大変だったよね」

 

「貴様!」

 やっと思春が俺たちの前に姿を現した。

「俺を殺したの、気にしてたの?」

 わずかに思春が反応した。

「気にしないでもいいのに」

「そんなわけにいくか」

 俺と目を合わせてくれない思春。

 

「なら思春、皇一さんに謝りなさい」

「はっ。済まなかったな」

 蓮華の一声で思春が俺に頭を下げた。

 まったく。

「だからいいのに。思春も俺の嫁になってくれたんだから」

 

 この後、三人で想いを確かめ合ったのは自然なことだよね。

 

 

 

 桂花の手伝いで蔵の整理中に、太平要術の書を見つけてしまった。

 無印スタートだったから盗まれていなかったのか。

 これがないから天和たちは黄巾の首領になってなかったのかな?

 華琳に許可をもらったので読んでみることにする。

 別に妖術を使いたいわけじゃない。

 俺の能力のこととか、道場のこととかのヒントでもないかと……って道場! 冥琳に道場主から道場のこと聞いてもらっておけばよかった!

 なんという迂闊っ! 冥琳たちの再会を喜んで忘れちゃうなんて。……でもすぐまた死ぬのも嫌だしなあ。

 一応、冥琳に次に道場に行った時に説明を求めるよう頼んでおこう。

 

 冥琳に会いに行こうとする前に穏に呼び止められる。

 このパターンはやったばかりな気が……。

「その本は?」

「ああ、これは……」

 っと、いかん。教えない方がいい気がする。

「……」

 どうしよう?

 視線が太平要術に完全にロックオンされちゃっている。

 発情されて、そこを誰かに見られでもしたら、華琳ちゃんに許可までもらった本を発情させる道具にしたとか怒られそう。

 冥琳にまだ頼んでいないのに殺されるわけにはいかない。

 ……別のものを渡しておくか。

 

「はい、俺の国の……本っていうか目録?」

 スタート時からまだ手元に残っているアイテム、コミケカタログを穏に渡してみる。

「ずいぶん小さな字と絵ばかりなんですねぇ」

「うん。じゃ、俺ちょっと用事があるから」

「そんなこと言わず~詳しい説明をお願いします~」

 トロい口調とは裏腹に素早い動きで俺にしがみつく。呉の軍師はこれだから……って、すごい存在感の双丘が俺に押し付けられている。

 なんというボリューム! なんという柔らかさ!!

 ……いかん、俺はちっぱいの方が好きなんだ!

 絶対おっぱいなんかに負けたりしない!!

 

 

 

「おっぱいには勝てなかったよ……」

 逃げ切れなかった俺。

 説明中に予想通り穏が発情。説得を試みるも当然失敗。

 しっぱいって、おっぱいに似てるよね?

 

 ……はっ!?

 お、俺は何を?

 二本とも挟まれたことが衝撃で意識ぶっとんでいたのか。

 ふと横を見ると……見なかったことにしていい?

「おまたもおしりも……ひりひりしますぅ」

 前後使用済みの穏の姿なんて、見なかったことにしたかったのに!

 

「あ、あの! ……俺の嫁になってくれる?」

「はい?」

「ほ、ほら、処女もらっちゃったみたいだし……」

 うう、順序が逆だぁ。

「ああ~、そういう話もありましたね~。いいですよ~」

 軽っ!

「そ、そんな簡単に決めちゃっていいの!?」

「そうですか。じゃちょっと悩んでみますね~。う~ん」

 断られたらどうしよう。

「いいですよ~」

 早っ!

「え、ええと、よろしく」

「はい。よろしくおねがいしますね~♪」

 いいんだろうか、これで……。

 

 

 いや、よくない!

 やっぱり俺はちっぱいの方が!

 華琳ちゃんに会いに行かなければ!

 

 玉座の間へ到着すると、華琳ちゃんに報告中の明命と亞莎。

 もう戻ってきてたのか。二人とも元気そうだな。よかった。

 

「泰山の調査及び制圧、完了しました」

 え? 明命、今なんて言ったの?

「調査だけで十分だったのだけど、さすがね」

「華琳さまが警戒していた道士はいませんでした」

 二人の極秘任務って泰山の調査だったのか。極秘ってしてる時点で気づくべきだった。

 

「こ、これが、華琳さまの仰っていた物かと」

 亞莎が大きな薄い箱を華琳ちゃんに差し出す。

 箱を開き中身を確認する華琳ちゃん。

「ふむ。……確かに銅鏡のようね」

 銅鏡!

 そういえば、銅鏡を確保、もしくは破壊って二周目に入る前の道場で華琳ちゃんが目標にしていたっけ。

 

「む? どういうこと?」

 華琳ちゃんが驚いている。どうしたんだろ?

 って、華琳ちゃんが持ってる銅鏡が光ってる。

 なんで?

 一刀君じゃなくても終末になっちゃうの?

 

 いや待てよ。

 華琳ちゃんだけが真・フォームを持っている。もしかしたら、起点足りえる存在なのかもしれない。

 ……そんなことを考えている内に、意識が真っ白の中に溶けていくのだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。