恋姫†有双   作:生甘蕉

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二十九話  小白蓮?

 真・蜀ルートよりも早く、白蓮のところにいる内に合流した雛里ちゃんと朱里ちゃん。

 桃香の軍師となった二人の力で幽州が改革されていく。

 部下でもない二人の発案は出しゃばりすぎかもしれないけれど、白蓮はそれを採用する。

 記憶を引継いでいるから二人の能力はよく知ってる白蓮だし、自身も魏にいた頃の記憶を元に準備していたので、すぐに着手できたみたい。

 

 後々、袁紹が攻めてくるのを知っているから、幽州を強くする必要がある。

 白蓮はそれがよくわかっているし、雛里ちゃんも記憶を引継いでいる。二人の危機感が街の警備や防衛を強化していった。

 うん。俺も警備隊とかやったことあるだけに、街の治安とか良くなっていくのがよくわかる。

「お仕事増えすぎー」

 そう桃香が半泣きで愚痴っている。雛里ちゃん、朱里ちゃんとともに白蓮を手伝わせているけど、大変そう。

 

 俺の方はまだ身体を鍛えるのに忙しい。義勇兵の皆さんとの調練と盗賊退治の毎日。

 政務、っていうか書類仕事は少しはできるけど、そっちは桃香の勉強ということで。

 彼女を鍛える、っていうかプロデュースが天の御遣い代役としての仕事なんじゃないかな、って今は思い始めている。

 ご主人様って呼ばれちゃっているけど、俺にトップは無理だろうしね。

 

 一応二周目でちょっとだけやった、シスターズのプロデューサー業を思い出しながら考える。

 桃香に歌わせてみようか?

 試しにと、白蓮への応援もこめて『小白竜』を教えている。短いし簡単な歌詞だし。明命に歌ってもらえばよかったな。

 歌詞は、小白竜の部分を小白蓮に……いや、真名は駄目か。

 うん。小白馬にして、男を女に換えればいいや。

 そう考えながら英語の意味とか教えていたら、朱里ちゃんと雛里ちゃんが「使えます」とか言いながら新たな歌詞を作成。 ……なんで小白竜が双頭竜になってるかな?

「病める都とかスレイヤーとかってぴったりです、ご主人様」

 なにがぴったりなんだろ。あと、それよりもさ。

「朱里ちゃんまで双頭竜って……」

 雛里ちゃんが目をそらす。

 仲いいからってそんなことまで話しちゃってるの?

 

 その替え歌『双頭竜』を街中で子供たちが歌っているのを聞いた時、使えるってそういう意味だったのね、とやっと気づいた。

 桃香に歌ってもらうんじゃなくて、情報戦略として利用するってことだったのか。

 元々中華っぽい劇中劇の主人公を指した歌だから、天の御遣いにはあってるんだろうけど。メサイヤとかも歌詞にあるし。

 盗賊討伐の日々で愛紗や鈴々たちの武名も上がったが、同じくらいにその歌も流行ってしまった。

 ……勘弁してほしい。

 なんで勉強会もしてない内からその名が広まっちゃうのさ。いや、もう勉強会するつもりなんて絶対にないけど。

 

 

 義勇兵と俺自身の調練が進み、俺の腹筋がそこそこ割れてきた頃、朝廷から黄巾党を討伐しろって命令が白蓮に来た。

 蜀ルート通りに白蓮から劉備軍が独立するタイミングなのかな。

 白蓮、愛紗、星、雛里ちゃんとともに相談する。

 桃香、鈴々ちゃん、朱里ちゃんには夫婦間の話ということで遠慮してもらった。

 

「やはり桃香さまや朱里も交えて話すべきでは?」

 主君をハブにしてることを気にする愛紗。鈴々ちゃんはわからないと思っているのか別にいいらしい。

「まあ、桃香なら私たちがこの先起きることをだいたいわかってるって言っても、信じてくれそうだけど」

「朱里ちゃんも理解してくれると思います」

 白蓮と雛里ちゃんもそうは言うけど。

 

「けどもしも、引継ぎ目当てで俺とやりたいとか言ってきたらって考えると、俺は……」

 俺に抱かれてくれるなら、そういうのじゃない方が嬉しいってのは、二周目でよくわかった。

 呉の娘たちが俺に抱かれたのが孫策に会うためだったってのは、納得できたけど、ショックが大きかったから。

 いや、抱いちゃった呉の娘たちも俺の嫁だけど。ちゃんと好きだよ、だからこそ打算無しがいいっていうか……。みんなまだ無事かな、心配だなぁ……。

 

「やっぱり俺のことを、できれば顔以外のとこを好きになってくれて、ってのがいい」

 でも、求められたら応じちゃいそうな自分だということもわかっている。

 だから、俺の能力のことは知らないでいてほしい。

「皇一殿は相も変わらず乙女のようだ」

 なに言ってるのさ星。

「ああ。けどそんな皇一だからこそ私たちは抱かれたんだろ」

 言った後で真っ赤になる白蓮。愛紗と雛里ちゃんも赤くなりながら頷いていた。

 乙女っていう表現はあれだけどなんか嬉しい。……たぶん俺も赤くなってるな。

 

「ふむ。ならば私たち同様、嫁になったら説明すればいい」

「説明か。道場行くつもりはないから、その機会ないんじゃないかな」

 今までも能力の説明してるのは道場でだし。

「死なない自信がおありで?」

「そう言われると困るけど、華琳ちゃんとの約束のためにも道場には行きたくない。……それ以前にさすがにもう嫁の追加はないんじゃない?」

 あるとすれば猪々子ぐらい?

 記憶引継いでないけど、俺の身体知ったらまた二周目みたいに言ってくるだろうし、今度こそ願いを叶えてあげてもいいと思う。

 

「え? ちょっと?」

 なんでみんな顔を見合わせてため息つくかな?

「そんなことよりも、今はまず、今後のことを話し合おう」

 そんなことってのはないんじゃない、白蓮。

 

「……今後っていっても、白蓮のとこに残るか、劉備軍として独立するか。なんだけど。まあこれは桃香に選んでもらわなきゃいけないけど」

「私としては早く桃香さまの名を上げたい」

 つまり独立したいってことだね。……桃香の名か。

 盗賊退治の現場でその武力を見せつけ、名を上げている愛紗と鈴々ちゃん。

 白蓮への献策が治安をよくして評判の雛里ちゃん、朱里ちゃん。

 ……流行歌で知名度だけはしっかりある双頭竜。

 うん。桃香自身の功名をあげたいってのはわかる。

 

「私のことは気にしないでいいぞ」

「けど、袁紹相手に勝てるのか?」

「前回は油断してたんだ。今度はちゃんと準備もしてる。それに、私のとこにいたんじゃお前が華琳に勝つってことにならないだろ?」

「白蓮……」

 俺のことまで考えてくれてるのか。

 俺なんて華琳ちゃんの裸エプロンのために頑張っているだけなのに。そんな俺のために……。

 

「泣くなって。私だけでも、麗羽に勝てるってとこ見せないとな」

「……袁紹さんのところにも前回の記憶がある斗詩さんがいます。それこそ油断しないで下さい」

「斗詩か。苦労してるだろうなあ」

 愚痴るどころか斗詩の心配をしてしまう白蓮。本当にいい人だ。

 それだけに不安になる。星も同じことを思ったらしい。

「皇一殿、早く勢力を立ち上げて、白蓮殿が落ち延びてきた際に受け入れられるようにしておいてくれ」

「負けるの前提かよ!」

 

 うーん、白蓮には悪いけど蜀、呉ルートのように進んでほしいかな?

 俺が華琳ちゃんに勝とうとすると……いくつか考えてみる。

 

 黄巾党のシスターズと合流する。

 補給とか装備品とかなんとかなればそこそこ戦えるかもしれないけど、やっぱり鍛えた兵士とは違うし、賊だもんねえ。

 桃香の理想を考えたら、黄巾党のままってのは無理か。

 敵も多過ぎるし。

 できればシスターズは味方にしたいけど、やっぱり華琳ちゃんのとこへいっちゃうんだろうな。

 

 反董卓戦で董卓側につく。

 桃香に真実を話せば、こっちを選ぶ可能性もある。

 この時点ならまだ張遼が魏軍に入ってないし、稟と風もいない。

 味方には呂布もいるし、詠も記憶を引継いでいる。上手くやれば華琳ちゃんに勝てるかもしれない。

 けど、やっぱり敵が多い。

 白蓮や翠たちに味方になってもらったとしても、魏軍以外にも袁紹軍や袁術軍といった大軍がいる。そう、真のこの世界なら袁術ちゃんがいるのだ。

 そして袁術ちゃんの客将として孫策が。

 さらには記憶を引継いだ軍師、冥琳、穏、亞莎もいる。

 ……詠には気の毒だけど、ちょっと難しそう。

 華琳ちゃんたちよりも先に救出してあげるからね。

 

 白蓮のとこに残る。

 袁紹に勝って、華琳ちゃんにも勝つ。

 朱里ちゃんなら、真桜ほどじゃないにしても投石機ぐらい造れそうだし、袁紹軍には勝てる可能性がある。

 けれど、もうこの時点で、稟、風が魏軍入りして魏がフルメンバーなはず。

 翠たち涼州と同盟して、援軍にきてもらってもきつそう。

 

 涼州戦で涼州を応援。

 これなら、さっきの方がいいか。

 

 呉と同盟して赤壁で戦う。

 蜀、呉ルート通りに。

 たぶんこれが一番勝率がいいと思う。

 うまく進められれば味方は増えているし、前回は華琳ちゃんにネタばれ禁止されていたので、連環の計とかも説明してない。

 さすがにもう苦肉の策は無理だろうけど。

 

 

「ってのが俺の考えなんだけど」

「あわわ、天和さんたちが黄巾の首領?」

 そういえばそのことは、今初めて話したんだっけ。

「たぶん。でも、無理矢理利用されてるだけだから、自分からやってるわけじゃない。だからこの事は絶対秘密にしてね。シスターズを、俺の嫁を死なせたくない!」

「了解しました」

「そうだな。私もあいつらの歌、好きだしな」

 愛紗と白蓮が納得してくれた。よかった。

 まあ、手柄のために三人の首を朝廷に差し出す俺の嫁じゃないって信じていたけどさ。

 

「それにしても……袁紹に勝ってもやっぱり華琳と戦わなければならないか。……そうだよなあ、戦わずに降参するような武将はいらない。とか言ってきて戦わなきゃいけなさそうなんだよなあ」

 うん。華琳ちゃんなら言いそう。

 二周目で不完全燃焼だったせいか、萌将伝の脳筋武将レベルに戦いたがってるし。

「俺としては、やばくなったらすぐに撤退してほしい。白蓮に死なれたくない」

 無印や一周目では死んじゃってるから。いくら真の世界だからって心配だ。

「皇一……」

「俺は大事な人を一人たりとも失いたくないんだ!」

 まごうことなき俺の本心。

 もしそんなことになったら、華琳ちゃんとの約束を破って、つまり裸エプロンを諦めてロードすると思う。

 

 

 その後も話は続けた。天下三分の計とかさ。

 そして、とりあえずだいたいまとまったかな? というところで近づいてきた星が俺のシャツのボタンを外し始める。

「な、なに?」

「これからしばらく離れ離れになるかも知れぬのです。皇一殿を忘れぬ様、温もりをいただいておこうかと」

「そ、そうだよな!」

 白蓮も乗り気なのか。……三周目になってからご無沙汰だったもんなあ。

 

「な、ならば私たちはこれで」

 愛紗に怒られるかと思ったら、真っ赤になって雛里ちゃんと退出してしまった。

 溜まってたから四人でもきっと大丈夫だったよ、俺。

 

 

 

 翌日、桃香は白蓮から独立することを選んだ。

 俺たちは劉備軍として旗揚げすることとなった。後は蜀ルート通りの展開なんだけど、武具と兵糧を供出してくれるために兵站部へ向かう星は歩くのも辛そうだった。

 白蓮なんて椅子から立とうともしなかった。

 ゴメン。三周目になって二人とも初めてに戻ってたのに、久しぶりだったんで頑張りすぎちゃった。調練で体力もついてきてたしさ。

 

「昨日話したんだけど、星が黄巾との戦いが一段落したら仲間になってくれるって」

 昨日の話を聞いてない桃香たちに説明する。

 前回の記憶がある星はもはや各地を放浪して仕えるべき主を探す必要はない。そして、前回のように華琳ちゃんに仕える気もないらしい。

「その時こそ主と呼ばせていただく」

「いや、仕えるのは桃香にでしょ」

「うむ。徳高き桃香殿こそ我が剣を預けるに相応しい」

「ありがとう星ちゃん!」

 星の両手をとってぶんぶんと振って喜んでる。

 

「桃香さま、星がくるのは黄巾を倒してからです」

「すまないが、今は白蓮殿の客将なのでな」

「早く黄巾どもを倒せばいいのだな!」

 鈴々ちゃんの台詞で桃香の勢いがます。

「そっか。うん! がんばろー♪」

 

 それから、すぐに出発。

 ……というわけにはいかず、兵站の受領手続きや、街での桃香たちの義勇兵の募集とかで出発したのは一週間後だった。

 その間、毎晩のように星や白蓮と。

「しばらく会えぬのです。仕方ないでしょう」

 口ではそう言ってくれる愛紗だったが、表情がちょっと怖かった。チャンス見つけて早めに愛紗ともしないとマズいみたい。

 

 天の御遣いが一刀君じゃなくて俺ってことで心配したけど、義勇兵はちゃんと集まってくれた。

 桃香があの双頭竜の歌を歌ったらしい。

 まさか双頭竜の意味知ってて歌ったわけじゃないよね?

 桃香の歌を聞きたかったような、集まった連中も歌ったらしいので聞かなくてよかったような。

 

 

 

 劉備軍出発後、衢地に陣を構えている黄巾党を細作が発見。

 こっちの倍に近い敵軍だったけど天才ロリ軍師朱里ちゃん雛里ちゃんの策で劉備軍は勝利する。

 うん。蜀ルート通り。

 俺も死なずにすんでいる。鍛えているおかげと、愛紗のご機嫌取りに「これが終わったら愛紗と」なんて約束しなかったおかげだな。……する時はフラグ立てないように不言実行にしよう。

 そしてこの後は、やっと可愛い最愛の嫁さんに会えるはず。

 ほら、曹の旗を掲げた官軍が、こっちの指揮官に会いたいって報告がきた。

 

 

「久しぶりね」

「うん。華琳ちゃんも元気そうでよかった!」

 会うって返答する前に華琳ちゃんの方から来てくれた。

 すぐに駆け寄って抱きしめる俺。

「皇一はほんの少し、逞しくなったかしら」

 春蘭に引き剥がされるまでの短い間だったけれど。

 

「ご主人様、も、もしかしてこの人も?」

 桃香たちに華琳ちゃんを紹介しないと。

「曹操ちゃん。俺の愛しいお嫁さん!」

「じゃあ、ご主人様に会いたくて返事も待ちきれずに来ちゃったんだ♪ あ、こんにちは。私は劉備って言います!」

「……違うわ」

「違うって、ご主人様のお嫁さんじゃないの?」

 ちょっ、桃香、その勘違いはあんまりでしょ。

 

「逞しくなったと言った矢先にもう泣くの? 相変わらずみたいね」

 大きくため息をつく華琳ちゃん。

「違うと言ったのは私がここに来た理由。……そんなことも分からないなんて、愛紗、本当にこれが貴女の主人なの?」

「桃香さまを愚弄するならば、華琳殿といえど許さぬぞ!」

「なんだと貴様!」

 愛紗と春蘭が睨み合う。

 

 その睨み合いを、華琳ちゃんの護衛でついてきたのだろう、季衣ちゃんの質問が止めた。

「えーと……ボクもよくわかんない。兄ちゃん、なんでなの?」

「俺たちが会うことを選ぶって、華琳ちゃんには分かっていたってこと」

 その説明にみんなが納得するよりも先に鈴々ちゃんが怒鳴った。

「おっちゃんを兄ちゃんって呼ぶななのだっ!」

「ボクも兄ちゃんのおよめさんだから、いいんだもん!」

「嘘をつくな!」

 豪腕腹ペコロリ武将の二人が喧嘩を始めそうだったので慌てて止める。

 

「この子は許緒ちゃん。本当に俺のお嫁さんだよ」

 俺に抱きついて得意気な季衣ちゃんと、羨ましいのかな? 複雑な表情でそれを見ている鈴々ちゃん。

 やっぱり驚いてる桃香と朱里ちゃん。……ついでに紹介しておこうか。

「あとね、そこの夏侯惇と夏侯淵も俺のお嫁さん」

「え、ええーっ!」

「はわわ……」 

 桂花は残って軍の指揮してるのかな? 流琉や三羽烏ももう合流してるはずだよね?

 

「い、いったい何人お嫁さんがいるんですか!?」

「三十一人」

 桃香の問に即答する俺。ちゃんと人数くらい覚えているってば。

「あら? まだ増えてないのね」

「増えないってば」

 またも大きくため息をつく華琳ちゃん。そして、俺の眼鏡を奪う。

 真桜にまだ会ってないから眼鏡バンドがないんで簡単に奪われてしまった。

 

「ご、ご主人様!?」

「おっちゃん綺麗なのだ!」

「はわわ!」

 せっかく三人には見られないで過ごしてきたのに、見られてしまった。

 

「改めて名乗りましょう。我が名は曹孟徳」

 驚いたままの桃香の表情に気をよくしたのか、華琳ちゃんが俺の唇を奪い、長い長ーいキス。

「皇一は私のモノよ」

 やっと俺を離して華琳ちゃんはそう言った。

 

「なんで眼鏡とるのさ?」

「キスするなら綺麗な顔の方がいいじゃない」

 そんな理由だったのか……。

「十倍返し、楽しみにしてるわよ」

 華琳ちゃん、二周目の時の事、思い出したのかな。

 俺は死亡フラグにならないように、すぐにその場で華琳ちゃんに十倍返しする。

 

 ……経験値×2ってもしかしてあっちの方のだったのかな?

 全力全開のキスで今までとは違う反応を返してくれる華琳ちゃんを感じながら、ふとそんなことを思ったのだった。

 

 




※すみませんが小白竜の歌詞は検索でお願いします

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