恋姫†有双   作:生甘蕉

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三十一話  つなぎ?

「なに? まだ華琳さんとしてなかったの!?」

「嘘でしょ?」

「まずいわね」

 三周目、俺と華琳ちゃんがいまだにしていないのを知った張三姉妹の反応がそれだった。

 

「何やってんのよ! やり直し始めてからどんだけ経ったと思ってんの!」

 地和が怒る気持ちもよくわかる。

 真・蜀ルートのように半年とまではいかなかったが、曹操軍と共同作戦をするようになってそこそこの期間があった。

 けど、互いに忙しかったりしてほとんど会えなかった。黄巾党征伐に明け暮れて各地を移動してたんだし。

 

 ……いや、それはいいわけか。

 なんか今、華琳ちゃんとべったりになったら、後で絶対に戦えそうにないってわかってるんだよ、俺。

 おっさんの野望、裸エプロンのためだとしても無理かもしれない。

 でも華琳ちゃんにそんなこと言ったら、嫌われるかもしれないしさ。

 だから自分から忙しくしてたっていうか。

 

 そんなことを張三姉妹に話したら呆れられた。

「ばっかみたい」

「それはそれ、これはこれ、だよね~」

 人和にいたっては大きくため息だけ。

 ううっ。へこむなあ。

 俺だって早いとこ華琳ちゃんとしたくてしたくてたまらないのに!

 

 

 

 そんなこんなで魏の嫁さんたちとほとんど夫婦性活できないまま、劉備こと桃香が平原の相に任命されてしまった。

 乱鎮圧の恩賞である。

 戦場を渡り歩くよりは、本拠地ができる方が有難いのはたしかなんだけど、華琳ちゃんたちと離れなければならないのが辛い。

 どうせ平原は離れなきゃいけなくなるんだろうし……。

 

 けれど、任命された以上は仕方がない。

 桃香たちには街を治めるという貴重な経験になることだし。

 俺たちは曹操軍に別れを告げたのだった。

「隊長、頼まれてたもんや」

 三羽烏はいまだに俺のことを隊長って呼んでくれてる。

「ありがとう」

 別れ際に真桜から餞別を受け取った。

 

「けど、なんで牛なんや?」

 俺が受け取ったのは兜。真桜に頼んでおいたもの。

 魏の兵士時代と同じ頭蓋骨の意匠。

 ただし、アレにあやかって牛の頭蓋骨。左右に大きく伸びた角がちょっと格好良い。

 もちろんお洒落だけではなく、フラグクラッシャー効果が本来の目的である。

 ……戦場で目立っちゃって逆に狙われやすくなるかもしれないけどね。かませ牛にはなりたくないなあ。

 

 

 知事っぽい仕事にも桃香や俺たちが慣れ始めた頃、城を星が訪ねてきた。

「約束通り、共に戦わせて頂きたい」

「うん! 一緒に戦おう星ちゃん! みんなが笑顔を浮かべて、平和に暮らせるその日のために!」

 桃香が即座に了承した。

 ……桃香の決意や目標を聞く度に、自己嫌悪に陥りそうになる。

 だって俺の目標は、華琳ちゃんの裸エプロンなんだから。

 

「どうなされた、主?」

 俺がちょっとイジケてる間にもうみんなは星を受け入れてたらしい。

「いやだから、主ってのは……」

「問題ありますまい。皇一殿は私の主人だ。別の意味でも」

 嫁に主って呼ばれるのはどうなの?

 

 

 白蓮のとこで多少の練習ができたとはいえ、ほとんど初めてといっていい内政。

「はわわ……雛里ちゃんすごい」

「あわわ」

「以前とはまるで違う発想力……わたし、そんなこと思いつきもしなかった……」

 雛里ちゃんが前回の記憶を引継いでいるんで助かってるけど、なんか朱里ちゃんが焦っているようにも感じる。

 まあ一度雛里ちゃんの話を聞くとすぐに理解しちゃう朱里ちゃんも凄いんだけどね。

 

「雛里ちゃん、朱里ちゃん、視察に行こうか?」

「視察?」

「うん。そういう建前で」

 桃香に任せてたはずの政務がこっちにも回ってき始めた。

 桃香の勉強のため、と任せっきりにしてた俺の能力は推して知るべし。

 ひいひい言いながら書類整理してると、どうせこの平原は出て行くことになるんだよなって考えが頭をよぎってしまう。

 このままではいけない! ので気分転換。

 

「俺だけだとサボってるって愛紗に怒られちゃうからさ」

 二人を連れて行ったら、口実だけじゃなくて本当に視察になるし。

「ご、ご主人様、雛里ちゃんと二人で行ってきて下さい。わたしはまだお仕事が……」

「ご主人様、お願いします」

 親友伏竜の言葉を遮る雛里ちゃん。

 俺は頷いてから、変に気を利かせようとした朱里ちゃんの手を引っ張って強引に連れ出した。

 俺だけじゃなくて、朱里ちゃんにも気分転換必要そうだったしね。

 もちろん反対の手は雛里ちゃんとつないでいる。ロリ軍師二人とお手手つないでお出かけ。うん、デスクワークの疲れも吹っ飛ぶよね。

 

「……ありがとうございます、ご主人様」

 城を出た辺りで観念した朱里ちゃんがお礼を言ってきた。こっちの意図は簡単に見抜かれたらしい。

「なんのこと? お礼を言いたいのはこっちだよ。こんなに可愛い子を二人も侍らせてるんだから」

「はわわっ!」

 真っ赤になる朱里ちゃんと雛里ちゃん。可愛いって言っただけでこれなんだから、本当に可愛い。

 

 二人が相談するのを聞いてたり、買い食いしたりしながら街を散策。

「お父さんと娘がお出かけ、みたいに見えてるのかなあ?」

 行く先々で「お父さん、これ買ってかない?」と声をかけられてしまった俺。

 そりゃおっさんだけど。

 璃々ちゃんぐらいの娘なら、いてもおかしくないんだろうけど。

 ……早く会いたいなあ璃々ちゃん。二周目までは黄忠に警戒されたのか、会うことできなかったし。

 

「ご主人様が眼鏡を外せば、そう言われることもなくなります」

「それは無理」

「ご主人様……」

 俺と握ってた手をいったん離す雛里ちゃん。大きく深呼吸してから、帽子を目深にかぶり直して顔を隠す。

 そして、指を絡ませる様に握りなおした。

 

「はわわっ! そ、それはっ!?」

「こ、恋人つなぎっ!?」

 驚く朱里ちゃんと俺。

「こ、こうすれば娘には間違えられません……」

 帽子のせいで顔はよく見えないけど、きっと夕日よりも赤く染まっているに違いない。

 

「……うん。きっとこれなら、親子には見えないね」

「は、はい……朱里ちゃんも」

「わ、わたしも?」

「……うん。ご主人様のためだよ……」

 今度は朱里ちゃんに手を離された。はわわわわと唸りながらしばし悩む。

 その後、決意したのか。

「ごめんなさいご主人様!」

 謝りながら指を絡めてきた。

 

「謝ることないのに。ありがとう朱里ちゃん。これでどう見ても親子には見えないね」

「は、はいっ」

 三人で赤くなってぎこちなく歩きながら城へ帰ったのだった。

 

 

 警邏中の鈴々ちゃんが目撃していたらしく、真似して手をつないできた時には驚いた。

 そして、愛紗に怒られた。

「ま、街中であのような手の繋ぎ方をするなどとは、破廉恥すぎます!」

「だって、親子と間違えられちゃったし」

「……そうなのですか?」

「あ、納得したよね?」

 うん。今の間はきっとそう。

 

「まあ、俺おっさんだからね」

「い、いえ、朱里と雛里が幼く見えるからそう思っただけです!」

「やっぱりそう思ったんだ」

「す、すみません!」

 ふう。なんとか誤魔化せたかな。

 

「ご、ご主人様はお若いです!」

 焦りながらフォローする愛紗が可笑しく思えてくる。おっさんなの気にしてないからいいのにね。

「今度、愛紗と出かける時も、親子と間違えられないように手をつないでいこうか?」

「なっ!?」

 赤面しながらも俺の手を見つめる愛紗。

 

「それとも、街中では破廉恥だから……」

「そ、それは……」

「閨でだけにしておく?」

「!」

 さらに真っ赤になって黙ってしまった。

 破廉恥だって怒ったのはそういうことだよね。

 

 初めての時、愛紗は華琳ちゃんと恋人つなぎしていた。

 俺と恋人つなぎしたのは、二回目の初めての時だった愛紗。

 季衣ちゃんとの時も、雛里ちゃんとの時も、初めての二人と恋人つなぎして励ましてた愛紗。

 そりゃ破廉恥なって言いたくなるかもしれない。

 その晩、三度目の愛紗の初めても、両手で恋人つなぎしながらだった。

 

「随分と待たせちゃったかな?」

 翌朝、目覚めた時もつないだままだった片手を見てそう思った。

 ……他の嫁も待たせちゃってるよね。やっぱり華琳ちゃんたちともしておけばよかったのかな?

 愛紗が起きるまで、そんなことをずっと悩んだ。

 

 

 

 それからしばらくして、反董卓連合結成の檄文が届いた。

「え? もう?」

 それが正直な感想だった。

 華琳ちゃんたちと半年もいっしょにいられなかったから、もう少し時間的な余裕あるんじゃないかって思ってたけど、やはり一刀君が呉にいる状態だとタイムスケジュールが呉ルートよりなんだろうか?

 

 わずかな期間にもう、董卓が相国になっちゃているらしい。

 月ちゃんと詠も記憶を引継いでいるせいもあるのかもしれない。

 

「さて、桃香はどうしようと思う?」

「当然参戦だよ! 董卓さんって長安の人に重税を課してるって噂を聞くし。そんな人を天子様の傍に置いておくなんて言語道断! さっさと退場してもらわないと!」

 ああ、いくら詠でも噂まで操作できなかったのか。

 それとも、噂なんて気にしてないで反董卓連合に勝つための準備しかしてないか。

 

「桃香さま……私には董卓がそんなことをするとは思えないのです」

「愛紗は董卓を知っているのだ?」

 鈴々の問いに頷く愛紗。

 

「私と雛里も知っている。なにしろ、董卓も主の嫁なのだからな」

「ええーっ!?」

「ま、またですか?」

 もういい加減慣れてもよさそうなのに驚く桃香と朱里ちゃん。

「お兄ちゃんの嫁はいろんなとこにいるのだ」

 慣れたのかあまり驚いたように見えない鈴々ちゃん。

 

「そ、それではご主人様のお嫁さん同士が戦うことになってしまいます!」

 朱里ちゃんの指摘で桃香が困った顔になる。

「ど、どうするの、ご主人様?」

「ここ一番で行動を決めるのは桃香だっていつも言ってるでしょ。俺はあくまでお飾りなの」

「で、でも……」

 俺に気を使ってくれるのは嬉しいんだけど、俺が決めるわけにはいかない。桃香がリーダーとしてしっかりしないと愛紗や星、雛里ちゃんが苦労することになるから。

 

「たとえ反董卓連合に参加しても、俺は董卓たちを助け出すから、俺の嫁だからってのは気にしないでいい」

「董卓さんに味方するっていうのは?」

「桃香さま。朱里ちゃんが言ったように、華琳さまをはじめとした諸侯が反董卓連合に参加するはずです」

「うん。華琳ちゃんは参加するよ」

 華琳ちゃんがもし参加しなかったとしても、袁紹のところには斗詩がいる。俺の嫁が戦いあうのは避けられないだろう。

「そっか。どっちにしてもご主人様のお嫁さんと戦わなきゃいけないんだ……」

 うーんと唸りだして悩む桃香。朱里ちゃん、雛里ちゃんと相談して結局、連合に参加することを決めた。

 

「ご主人様、絶対、董卓さんたちを助け出そうね!」

「うん。ありがとうみんな」

「お兄ちゃんまた泣いているのだ」

 俺泣いてた?

 

 その後、蜀ルートと同じく兵糧と軍資金の不足が話題になる。

 反董卓連合があるのはわかっていたけど、予想より早かったから仕方がない。

 よその補給をあてにする情けない決意。

 身体鍛えるだけじゃなくて、金策スキルも磨いておけばよかった。

「甲斐性なしでごめんね……」

 

 

 準備を終え、平原を出てから一週間。

 反董卓連合との合流地点に到着する。急いで準備したんだけどやっぱり最後になっちゃったみたい。

 白蓮に会うのかなと思ったら、まず会ったのは斗詩だった。

「久しぶりだね斗詩。元気そうで……もないか。大丈夫?」

 顔色が悪い斗詩に心配になり、おでこに手をあてる。

「だ、大丈夫です。ちょっと疲れただけですから……」

 そう言いながらも俺の手はどけない斗詩。うん、熱はないようだ。

 

「ご主人様、もしかしてその人も?」

「うん。俺のお嫁さんの顔良」

 そう紹介した途端。

「ンだとぉー! 斗詩はあたいの嫁だ!!」

 砂煙を巻き上げながら文醜も登場した。

 

「テメェ、いい度胸じゃねえか!」

 俺に掴みかかろうとする文醜。

「ご主人様になにをする!」

 それを、愛紗が止めてくれた。

 猫の子のようにあっさりと掴まってしまっている文醜。

 あれ? なんか魏ルート、流琉の登場イベントを思い出すな。あれは、文醜が掴まえている方だったけどさ。

 

「なにを騒いでらっしゃいますの?」

 今度は袁紹が出現。

 こんなに近くで見るのは二回目か。一回目は勉強会(くぱぁ)の時だったっけ。色は綺麗だったなあ。

 

「遅かったわね」

「華琳ちゃん!」

 俺は華琳ちゃんにかけよって抱きしめる。

「なんですの、この男は?」

「私の夫よ、麗羽」

 抱きしめられたまま、そう答える華琳ちゃん。

 

「このブサイクさんが? 華琳さんも趣味が悪くなりましたのね。お似合いですわよ。おーっほっほっほっ……」

「皇一」

 袁紹の高笑いが続く中、華琳ちゃんが俺の名を呼ぶ。……仕方ないか。

 華琳ちゃんを離し、眼鏡を外して手櫛で髪を整える。高笑いが止まったんで自己紹介。

「俺は天井皇一。字はないよ」

「私のものよ。そうね、似合いの夫婦でしょう」

 高笑いの形のまま開いた口を閉じない袁紹に、ふふん、と勝ち誇った表情の華琳ちゃん。

 

「さあ、軍議を始めましょう」

「ちょ、ちょっと華琳さん、まだ詳しい話を伺っておりませんのよ!」

「まずは軍議だろう」

 白蓮までもが現れて、袁紹を連れて行く。

「皇一と桃香もきてくれ」

 俺たちも参加して軍議が始まった。

 初めて見た袁術ちゃんは可愛かったな。馬鹿だけど。

 驚いたのは、翠じゃなくて馬騰ちゃんが来てたこと。

 既にもう華佗に診てもらって元気になってるのかな? 翠は代わりに五胡に備えて残っているらしい。

 

 

 軍議で決まったこと。

 総大将は袁紹。

 その後に頼まれた、というか命令されたこと。

 連合軍の先陣は劉備軍。

 かわりに要求したこと。

 兵糧と兵士。うん。真・蜀ルートと同じ要求。

 袁紹は俺にまだなんか話があるみたいだったけれど、準備があると断って自陣へと戻った。

 

 みんなに事情を説明したり、袁紹から約束した軍事物資や兵士の提供を受けていたら、客がきた。

「あなたが天井?」

 値踏みするような視線を投げかけてきているのは、江東の麒麟児。

「強そうじゃねえな」

 正しすぎる評価をくれたのは、太眉ロリBBA。

 

「冥琳、本当にこいつが蓮華たちの?」

「ああ。北郷を夫にしろとの雪蓮の強制を断り続ける理由」

 え? それって。

「皇一殿、安心するがいい。北郷には悪いがまだ誰も寝取られてはおらん」

「うん。俺、信じてるから!」

 信じてたけどやっぱり嬉しい。

「それ聞いたぐらいで泣いちゃうの? やっぱり一刀の方がいい男でしょ」

 うーん。

 道場主の記憶ないのかな? 俺がすぐ泣くって知ってたはずなのに。

 

「たしかに北郷には見所はあるがな、それとこれとは話は別だ」

 ありがとう冥琳。

 ごめんね一刀君。種馬の仕事はさせてあげられそうにない。

「そういえば冥琳、身体の方は大丈夫なのか?」

「馬騰といっしょに華佗もきているらしい。この戦の後、診てもらうつもりだ」

「ちょっと冥琳、どこか悪いの?」

 孫策が慌てた。

 冥琳の両肩を掴んで、おでこを合わせている。

「熱は……ないみたいね?」

 

「華佗にまかせりゃ大丈夫だろ」

 うん。華佗のおかげで元気そうだね馬騰ちゃん。

「あいつが婿だったらオレも安心できたんだけどなあ」

「なら馬騰ちゃんが婿にもらえばいいでしょ」

「お、オレが?」

 可愛らしく頬を染める馬騰ちゃん。おやおや、意外と脈あるんじゃない?

 ちゃん付けで呼んだのも流しちゃうぐらい動揺してるっぽいし。

 華佗のことを義父(おとう)さんって呼ぶ日がくるのかもしれない。……たぶん華佗って年下だけどね。

 

「なんだかよくわからないけど、とにかく華佗ってののとこに行きましょ、冥琳!」

 冥琳の身体を心配した孫策を当の本人が止める。

「大丈夫だ雪蓮。まずはここに来た目的があるだろう。天井を見に来ただけではないのだ」

 わかってるよ。

「協力しに来てくれたんでしょ?」

 華琳ちゃんに勝つためにも、呉との協力体制は作っておきたいからね。

 

 


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