恋姫†有双   作:生甘蕉

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三十三話  水難?

 久しぶりにねねと寝た。

 恋もついてきたんで、あっちは無しだった。ただ寝るだけ。

 三人で寝るとたいてい俺が女の子にサンドイッチされるのだが今回は違った。

 川の字。

 ねねの両隣が俺と恋。

「なんだか親子みたいだな」

「ねねは子供じゃないです!」

「……ねねが恋の子供?」

「そ、そんな恐れ多いのです……」

 こっちからは顔はよく見えないけど、恋がしゅんとしたのがなんとなくわかる。

 

「子供かはともかく、家族、でいいんじゃない?」

 恋の家族っていうとセキトをはじめとした動物たち。それなら恐れ多いってこともないよね。

「ね、ねねが恋殿の?」

「……家族」

「恋殿ぉ!」

 ねねが恋に抱きついたらしい。俺に背中を向けるねね。……寂しいかも。

 

「……ご主人様はねねの兄。ご主人様も恋の家族?」

 そうくるか。

「ねねがそれでいいんなら、いいよ」

 なんて言ったらいいかわからないんで、ねねに丸投げ。

「……」

 返事がないところを見ると寝ちゃったのか。

 ふぁあ。俺も眠い。

 俺もねねの方に横臥して、その小さな小さな背中を抱きながら眠った。

 

 

 反董卓連合の後、平原に戻って一ヶ月。

 桃香が徐州の州牧になった。

 桃香が認められるのは嬉しいが、すぐに袁家との戦いになるんだろうから、喜んでばかりもいられない。

 どうせ徐州も手放すことになるんだろうし……。

 

 引越ししたらすぐに白蓮の援護に行くという手もあるか。

 ……新領地でそんなにすぐ兵や軍資金が貯まるわけないよなあ。

 白蓮も準備してるだろうし、少しは持ってくれるかも。

 恋はもうこっちにいるから、袁術が襲ってくるとしたら……孫策軍使ってくる?

 うーん、現状で恋姫の武将、軍師がどこにいるかまとめてみよう。*は俺の嫁で引継ぎ有りてことで。

 

 劉備軍は劉備、関羽*、張飛、諸葛亮、鳳統*、趙雲*、董卓*、賈駆*、呂布、陳宮*。

 月と詠は戦力としては考えられないけど、すでに恋がいるのが大きいな。兵の数は少ないけど。

 

 曹操軍、いやもう魏かな。曹操*、夏侯惇*、夏侯淵*、荀彧*、許緒*、典韋*、楽進*、李典*、于禁*、張角*、張宝*、張梁*。

 郭嘉と程昱はまだだろうけど、すぐなはず。張遼がいないけど戦力は充実してる。

 今いる全てが俺の嫁で引継ぎあるから洒落にならん。

 

 袁紹軍は袁紹、文醜、顔良*。

 名前付きのキャラは少ないけど兵は多いんだよなあ。

 記憶引継ぎの斗詩がいる。……けど、そのせいで斗詩は余計な気苦労ばかり増えてる気がする。元気だといいんだけど。

 

 袁術軍は袁術、張勲。

 そして客将の孫策の孫策軍。

 孫策軍に裏切られるだろうから、袁術ちゃんは助けたいなあ。

 

 すぐに袁術軍を倒して、呉になりそうな孫策軍。孫策、孫権*、周喩*、黄蓋、陸遜*、思春*、周泰*。そして北郷一刀。

 孫尚香*と呂蒙*は呉になる直前だっけ?

 冥琳はもう華佗に治療してもらっているはず。

 こっちも俺嫁が多い。軍師が三人とも引継ぎというのは、ズルいかも。

 呉ルートだから一揆の時に独立するのか、それとも魏と戦っている時にかはわからない。

 

 公孫賛。公孫賛*。

 白蓮のみ……せめて行方不明の華雄がスカウトできてればなあ。

 

 西涼。馬騰、馬超*、馬岱*、張遼。

 ただでさえ騎馬がすごいのに張遼もいるんで機動力はトップクラス。

 華佗のおかげで馬騰ちゃんは元気なようだ。

 華琳ちゃんは馬騰ちゃんと戦いたがってるだろうなあ。

 

 南蛮。孟獲。

 あとミケトラシャムと量産型がたくさん。

 ネコ耳ロリがいっぱいな夢の国。

 

 その他。黄忠、厳顔、魏延。

 蜀入りしないと仲間にならないだろう。

 

 

 こんなとこかな。

 ……蜀にいかないと璃々ちゃんに会えないか。南蛮のロリたちにも。

 うん。袁紹軍が攻めてきたら逃げ出そう。

 白蓮ごめん。やっぱり援軍出せそうにない。

 

 基本方針を引継ぎのメンバーと相談。もちろんロリに会いたいとかは伏せて。

「一つ目の問題は幽州のことを桃香に知らせるか、ってことなんだけど」

「桃香さまが知れば必ず助けようと言い出すはず」

「助けにいけばいいです! 袁紹軍など恋殿がいれば余裕なのです!」

 どうだろう? 兵の数凄いんだよなあ。

 

「……もし袁紹さんに勝てても、次は華琳さんです」

 雛里ちゃんの意見に皆が黙ってしまう。

 馬騰ちゃんや孫策たちと連携できれば、決戦もありかもしれないけれど、その前に劉備軍が手伝っても袁紹軍には勝てそうにないかな。

「桃香には秘密にするしかないか……それとも教えて、友の危機と自領どっちかを選んでもらう?」

「秘密にすべきね。援軍差し出す余裕なんてない。徐州捨てるならともかく」

 助けにいったら徐州は袁術ちゃんに取られるだろう。

 それに内政ほったらかしで行くというのも、後々の評判にどう繋がるか俺にはよくわからない。

 

 情報が入らない限り、秘密にするということに決まった。

「次の問題は魏領の通過なんだけど」

 蜀ルートのようにこっそり強引に抜けようとして魏軍と戦うか、それとも魏ルートのように華琳ちゃんに許可を得るか。

 俺たちの会議は続く……。

 

 

 

「で、なんであなたが訪ねてくるのかしら?」

 目の前の玉座には超絶美少女覇王様にして俺の最愛の嫁が座っている。

「州牧就任の挨拶かな。忙しいんで桃香本人はこれないけど」

「ふむ」

 

 俺は会議が終わってすぐに、引越しはみんなに任せて華琳ちゃんのとこにきていた。

 護衛は恋。当然、ねねも付いてきている。

 ねねいわく、親衛隊ができるまでの代わりらしい。ねねは二周目、魏で親衛隊やったからなんだろう。

 ……親衛隊か。魏は季衣ちゃんと流琉。呉は後付けで思春と明命が担当だったよな。斗詩もたしか親衛隊隊長もやらされてた気がする。

 必要なのかな?

 

「どうせなら、愛紗を連れてくればいいのに」

「夜這いでも仕掛けるつもり?」

「夫が構ってくれないから、欲求不満なの」

 やぶ蛇!

 俺だって愛しい華琳ちゃんとしたくて堪らないのに!

 

「と、ところでさ、来る途中、みんなが双頭竜って俺を呼んでるんだけど」

 ……べつに蛇で思い出したわけじゃない。

 なんか街の人たちがそこかしこで言ってた。

「しすたぁずが歌っている影響ね」

「ああ、桃香が教えてたっけ。じゃあ、俺のこと言ってたわけじゃなかったのか」

 なんだ、小白竜の替え歌のアレのせいだったのか。

 

「いいえ。あの歌は天の御遣いを指していると民衆は受け止めています」

 り、郭嘉。もういるの?

「そですねー。天の御遣いは北郷さんと二人だから双頭竜だと思ってるみたいですねー」

 程昱まで。

 一刀君まで双頭竜って言われてるのか。

 一刀君が知ったらどう思うかな? 双頭竜の本当の意味とか。

 

 引継ぎじゃない郭嘉と程昱がもういるのは呉ルートのせいなのか。

 ……やっぱり呉ルートなのか。

 ならば会議でまとまった案の一つの通りに動くとしよう。

 

「……華琳ちゃん、俺しばらくこっちいていいか?」

「どういうつもり?」

「嫁さんをちゃんと構いたい」

 他にも理由はあるけど、華琳ちゃんにあんなこと言われてほっておくわけにはいかない!

 

「華琳さま!」

 華琳ちゃんの返事の前に桂花が入ってきた。

「どうしたの桂花?」

「孫策の使者がきました」

 え? 孫策の?

 チラリと俺を見る華琳ちゃん。知らないと首を振る俺。

 

「通しなさい」

「俺、外した方がいいよね?」

 一応は魏の部外者だし。

「ここにいなさい」

 あ、そう。

 でも、孫策から直接使者がくるってことはさ。

 

 ……どういうこと?

 

「明命。と袁術ちゃん?」

「皇一様?」

 俺を見つけて一瞬驚く明命。だがすぐに任務を思い出したらしく、華琳ちゃんに向き直る。

 呉が独立したとの挨拶。

 そして贈り物として袁術ちゃんを届けに来たらしい。

 

 もう呉になっちゃったのか。

 さすが呉ルート。展開が早い。

 ……白蓮大丈夫かなあ。もう負けてたりしてるかもしれないな。

 

「張勲はどうしたの?」

 思わず聞いてしまう俺。

 だって張勲が袁術ちゃんといっしょにいないなんて考えられないでしょ。

 どこかに隠れて、震えている袁術ちゃんを見ているんだろうか?

 

「な、七乃は孫策に仕えておるのじゃ……」

「張勲が孫策に?」

 華琳ちゃんが聞き返す。

「そうじゃ。妾の命と引換えに……うわぁぁん! 七乃ぉ~~~!」

 泣き出してしまう袁術ちゃん。

 

「手元に置いとくと、袁術ちゃんといっしょに逃げられるかもしれないから、魏に?」

 ……冥琳あたりの差し金かな。二周目で華琳ちゃんが袁紹を一刀君のとこに寄越したやり方。

「やはり、邪魔者を押し付けるのは有効な手ね」

 華琳ちゃんも同じことを思ったみたい。

 

「このまま生かしておいても、人質をとったと麗羽が言い出しかねないわね」

「いや、殺しちゃ駄目だよ」

 そんなことをしたら、張勲の恨みを買うだけでしょ。

 恋姫随一の悪人という張勲の。

 たしか公式で、本気なら天下とれそうっていわれてた張勲。

 それを本気にさせてどうするのさ。

 

「……あなたの好みのようね」

 あれ?

 俺の真意伝わってない?

 たしかに袁術ちゃんは可愛いけど。

「そうね。皇一、滞在を許しましょう。袁術はあなたに任せるわ」

「え?」

「しっかり面倒見ることね」

 いやあの、袁術ちゃんよりも華琳ちゃんを構いたいんだけど!

 

 

 なんか怒らせてしまった華琳ちゃんとの会話が終わり、途方に暮れる俺。

「はあ……」

「どうしたのじゃ?」

 袁術ちゃん、いつのまに泣き止んだの?

「……君は俺の預かりになっちゃったから」

「……お主誰じゃ?」

 うん。反董卓連合の時に会ってるはずだけど、俺って地味で影薄いからね。

「俺は天井皇一。字はない」

「むう。どこかで聞いた気がする名前じゃの」

「兄殿は天の御遣いなのです!」

 説明してくれたのは今まで黙っていたねね。

 ここはねねに任せても大丈夫かな?

 

「ねね、ちょっとの間、袁術ちゃんを頼む」

「兄殿はどうするのです?」

「明命と話がある」

 もう帰ってなきゃいいけど。多忙だろうしなあ。

 

 

 なんとか明命と会うことができた。明命も俺に会いたかったらしい。

「皇一様!」

 猫好きなわん娘を抱きしめて堪能してから解放する。

 

 明命や呉の嫁たちの近況を聞く。みんな、一刀君には寝取られてないと聞いて再び明命を抱きしめる。

「ありがとう!」

「皇一様!」

 抱き返してくれる明命。

 こんな場所、こんな時間じゃなかったら押し倒してたのに残念だ。

 キスだけで我慢することにした。

 

「頼みがある」

「頼み?」

 明命ならなんとかなるはずの頼み。

 なくてもどうにかできるけど、あった方が楽になるものを譲ってくれとお願い。

 

「で、でもそんなものどうするんですか? まさか華琳様に?」

「そんなわけないでしょ!」

「そ、そうですよね」

 無理かな?

 でも……ここはどうしても聞いてほしい。

 俺は財布を取り出す。

 

「ただとは言わない」

「こ、これはっ!」

 明命に渡したのは財布から出した一枚の免許証。

「よ、よろしいのですか?」

 聞きながらも免許証から目を離さない明命。

 子猫が衣装を着ている写真を凝視している。

 

「うん。だって俺、もう何度も死んでるから無効だろうしね」

 そう。『死ぬまで有効』のバージョン。『なめられたら無効』だとすぐに無効になっちゃうしね、俺。

「お、お猫様が服や鉢巻や眼鏡を……」

 免許の写真じゃわからないだろうけど、猫が立ってるとか教えたらどうなるかな?

 

「……くれぐれも扱いには注意して下さい」

 明命から陶器製の小さな小瓶を受け取る。

「ありがとう」

「い、いえ。私こそ、このような秘宝を戴いてしまってありがとうございます!」

 上機嫌な明命。物欲に負けてしまったことは吹っ切ったらしい。けど、秘宝は言いすぎだよ。

 

 

「明命、孫策の警護に力を入れて」

 別れ際に警戒を促す。

「はい。おまかせ下さい!」

 元気よく返事してから明命は去った。

 墓参りが危険とかもっと具体的に説明した方が良かったかな?

 でも、別の場所やタイミングで襲われるかも知れない。油断しないためにもこれでいいはず。

 

 あとは華琳ちゃんにも忠告できればいいよね。

 俺はそのためにも滞在することにしたんだし。

 

 

 

「ええと……季衣ちゃん、さすがに今の俺がやっちゃまずいんじゃない?」

 翌日、季衣ちゃんに書類の手伝いをお願いされてしまった。

「ええーっ!? じゃあ、ねねお願い!」

「なにがじゃあ、なのです。ねねも駄目に決まってるです」

 恋は春蘭たちに連れてかれて訓練の相手にされている。

 ねねは恋のかわりに俺の護衛をすると言い張ってついてきた。

「一応、季衣ちゃんの書類も軍事情報だから、他国の人間にやらせちゃ駄目でしょ」

「あ、そうか。流琉ー」

 今度は流琉に泣きつく季衣ちゃん。そんなに溜めちゃったの?

 

「もう。今日は兄様に料理をつくってあげようと思ってたのに」

「そこをなんとか!」

「流琉、季衣ちゃんを手伝ってあげて。料理はまた今度でいいから」

 久しぶりの流琉の手料理は楽しみだけど、仕方がない。

「兄様は季衣に甘いんだから」

「そうなのです!」

 なんで俺責められてるの?

 

「お主らは天井の妹か?」

「にゃ? ボクたちは兄ちゃんのお嫁さんだよ」

 季衣ちゃんの宣言に小さな声で流琉が続く。

「は、はい。兄様のお嫁さん……」

「妹で嫁なのですぞ!」

 ねねが力強く。

 

「嫁? ……お主らは面白い趣味をしてるのじゃ」

「なんですと! 兄殿は貴様の命の恩人なのですぞ! それにむかってなんという言い草をするです!」

「そ、それとこれとは話が別じゃ!」

 ねねの勢いに若干腰が引けている袁術ちゃん。

「まあ、兄ちゃんの良さはお子様にはわからないか」

「ふふん。妾よりもお子様にお子様と言われたって、悔しくなんかないのじゃ!」

「ボクたちはオトナだもん。兄ちゃんにオトナにしてもらったんだもんねーだ」

 三周目はまだだけどね。

 

「わ、妾じゃって!」

「え? まさか兄様!?」

 季衣ちゃん、流琉、ねね、三人ともなんで俺を見るかな。

「ただの強がりでしょ」

「だって兄ちゃん、ちっちゃい子好きだし」

 季衣ちゃんにまで俺の趣味ばれてたの?

 

「うん。大好きだけど誰でもいいってわけじゃないし」

「そ、そうですよね」

「信用してほしいなあ」

 まあ、嫁さんの数考えたら信用できる要素ないけど。

「ねねは信用してるです!」

「ズルい、ボクだって兄ちゃんのこと信じてるもん!」

 

 むう。このままここにいても、季衣ちゃんの書類なくなりそうにないなあ。

「……袁術ちゃんは読み書きできる?」

「馬鹿にするでない! それぐらい余裕なのじゃ!」

「嘘!?」

 ああ、見栄はってるだけか。

 けど、俺にも手伝えたぐらいだからなんとかなるかな?

「無理でしょ?」

「余裕だと言っておるのじゃ!」

 

「じゃあ、難しい字を読むだけでいいから手伝ってあげて」

 それぐらいなら、出来るかな?

 ……袁術ちゃんだし期待しない方がいいか。

「面倒なのじゃ」

「やーっぱり読めないんだ」

「読めるのじゃ!」

 その気になったようなので、袁術ちゃんを残し俺とねねは部屋を出た。

 かなり不安だったけどね。

 

 

 不安は的中。

 袁術ちゃん、ちゃんと字は読めて得意になってたんだけど、それも途中まで。

 すぐに飽きてしまい、ちょっと目を離した隙に書類に落書きしたらしい。

 それは駄目でしょ。先行き不安だなあ。

 

 その夜。

「夕食はまだかの?」

「さっき言ったでしょ、今日は夕飯抜き」

 この程度のお仕置きで済ましちゃうなんて俺も甘いなあ。……天井だけにね。

 

「な、なんじゃと! そのようなことは聞いておらぬのじゃ!」

「……はあ」

 お説教の時にしっかり言ったんだけど、聞き流してたんだろうなあ。

 袁術ちゃんにちゃんと謝らせて、書類も結局手伝ったんだけどね。

「もう一回お説教からやり直す?」

「小言はいらぬのじゃ」

 

 部屋の扉がノックされる。

 最近は音で誰かだいたいわかる。ノックしてくれる人も少ないしね。

「流琉?」

 季衣ちゃんもいっしょにきてた。

「はい。兄様、御飯ができました」

「兄ちゃんいっしょに食べよう!」

 昼間のことで気を使ってくれたんだろう。

 よくできた嫁である。……けど。

「ごめん流琉。今日はお仕置きで夕飯抜きなんだ」

 せっかく作ってくれたのに、ごめん。

 

「え? 袁術だけじゃなくて、兄ちゃんも?」

「うん。俺は袁術ちゃんの保護者だからね。保護者責任で」

「なんじゃと?」

 怪訝そうな袁術ちゃん。

「それならば、妾の身代わりになってお主一人がお仕置きを受ければいいのじゃ!」

 その台詞に季衣ちゃん流琉が袁術ちゃんを睨む。

「ひぃ!」

 俺の影にかくれる袁術ちゃん。

 

「兄様が我慢する必要なんてありません」

「そういうわけにもね」

 それにお腹空いてる子の前で食事なんてできないよ俺。袁術ちゃんに俺の分あげちゃいそうだ。

「……わかりました。わたしと季衣もごいっしょします」

「え? ボクも?」

「元はといえば、季衣が書類を溜めたのが原因でしょ!」

 そうは言っても、季衣ちゃんに食事抜きは拷問に等しいでしょ。

 

「二人とも。気持ちは嬉しいんだけど二人は武官でしょ。身体を万全に保つのも仕事だよ」

「いえ、一食ぐらい大丈夫です。糧食が少なくなった時の訓練です」

「兄ちゃんだけに辛い思いさせない!」

 その後、何度言っても聞いてもらえず、四人でプチ断食することに。

 季衣ちゃんと流琉も俺の部屋に泊まることになった。……袁術ちゃんは元から、逃げ出さないように俺の部屋で寝泊りすることになっている。

 

 

「次は絶対ボクが勝つよ!」

「うん。鈴々ちゃんに伝えておく」

 しばらく雑談に興じていたら、ずっと黙ったままだった袁術ちゃんが口を開いた。

「……済まなかったのじゃ」

 ただ、それだけ。頭も下げなかったが、昼間無理矢理謝らせた時よりはずっといい。

 たぶん、腹の音以外では誰も袁術ちゃんを責めなかったのが堪えたのだろう。

 

「ボクは季衣」

 お腹が空いてるのににっこり笑う季衣ちゃん。いい笑顔だ。

「わたしの真名は流琉」

 季衣ちゃんに促されるように流琉も真名を名乗った。

「美羽なのじゃ」

 袁術、いや美羽ちゃんまでもが。

「俺は真名ないから好きなように呼んでくれ」

「ではお主のことはこれから、主様と呼んでやるのじゃ。ありがたく思うのじゃ」

 なんで萌将準拠? なんか補正が働いているのかな?

 

「様付けなら、おじ様の方がいいのになあ」

 四人で笑っていたら、ぐぅぅぅと腹の音にかき消されてしまった。

「……寝るか」

「ボク、兄ちゃんと寝る!」

「一緒に寝て……いいですか?」

 断る理由はない。……と言いたいところだけど、この部屋には美羽ちゃんが寝るための寝台も当然ある。

 せっかく仲良くなったんだから、季衣ちゃんと流琉ちゃんはそっちに寝てくれた方が美羽ちゃんも寂しくないと思う。

 

「美羽もおいでよ!」

 俺の考えを読んだように美羽ちゃんを誘う季衣ちゃん。

「狭いじゃろう」

「この部屋の寝台は、兄様が使う(・・)ことを考えて大きいから大丈夫ですよ」

「そこまで言うのなら仕方がないのじゃ」

 

 四人で寝る俺たち。

 三人は小さいのでまったく問題はない。流琉が言ったようにベッドはデカいし。

 さすがに美羽ちゃんがいる前ではエッチできない。華琳ちゃんともまだだし季衣ちゃんと流琉も納得してくれないだろう。

 腹音を子守唄に俺たちは眠るのだった。

 

 

 翌朝、空腹を誤魔化すために大量に摂取した水分がアダとなってしまっていた。

 状況が状況だけに犯人が誰とかは追求しなかった。

 ……俺じゃないことだけは確かである。

 

 


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