恋姫†有双   作:生甘蕉

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三十五話  虎?

「なんの冗談?」

 アイドル級、いやそれ以上の超絶美少女。背も胸も小さい、俺の好み超ストライクな眼前の金髪ドリル少女が俺を睨みつける。

 プレッシャーというか、すごい迫力があって怖いのにすごい可愛い。

 反則だよこれ。震えがくるぐらいなのに目が離せない。俺、M属性開花させられちゃったんだろうか?

 

「華琳! あんな手を使ってまで姉様を亡き者にしようだなんて見損なったわ!」

 怒鳴り込んできたのは褐色の少女。やっぱり美少女。

 へそ出しというか、下乳まで見えているすごい衣装を着ている。もしかしてノーブラ?

 ……超絶美少女の方は華琳ちゃんって言うのか。覚えておこう。

 

「貴様! 華琳さまは孫策との戦いを楽しみにしていたのだぞ! 華琳さまのご意思であるものか!」

 眼帯黒髪の少女が華琳ちゃんと褐色の間に割り込んだ。

 左目につけられた眼帯は蝶の形をしている。

「あれは一部の兵士の独断よ」

 今度は猫耳フードの少女。

 ……ここには美少女しかいないようだ。

 

「そんな言いわけが通じるわけないでしょ!」

 髪でわっかを二つ作った少女が声をあげながらやってきた。

 下乳へそ出しの娘と姉妹なのかな? 肌と髪の色は同じだし。

 ……いや、肌はともかく、髪は染めてるかカツラか。さすがにあの色は天然ものってわけないか。

 

「……そう。もはや何を言っても言いわけでしかない。詫びなら後で入れてあげる。けれど、今はそれどころではないようよ」

「貴様!」

 抗議の声にも動じず、唐突に華琳ちゃんが俺の顔に手を伸ばしたかと思ったら、その細腕が俺の眼鏡を奪った。

「か、返してくれ!」

 なんてことをするんだ! 俺は眼鏡をしてない顔を見られるのが苦手なのに!

 

「どういうこと?」

 驚く超絶美少女。

 そりゃ、眼鏡がある時とない時で俺のイメージはだいぶ変わるけどさ。

 

「そう何度も皇一さんの顔で誤魔化され……皇一さん?」

 え? 俺の名前を知ってるの?

 まあ、ありふれた名前だから別のこういちと勘違いしてるだけなのだろうけど。

 

「ふむ……どこかいつもと違うような気がしないでもない?」

 俺の顔を覗き込んで疑問系な蝶眼帯。

「そんなこともわからないなんて……」

 そう言っている猫耳フードも驚愕の表情。

 

「華琳さま、どうしたんですか?」

 ピンク髪を二つに結上げた小さな少女が近づいてくる。うん、この娘も可愛いな。ロリだし!

「季衣、皇一の顔を見なさい」

「兄ちゃんの顔? ……にゃ?」

「どうした季衣?」

 他の少女たちも、俺の周りに集まってきた。

 なにこの羞恥プレイ。

 

「め、眼鏡返して」

「待ちなさい!」

 華琳ちゃんが俺を一括する。ビクリと反応して固まる俺の身体。

「嘘……」

「どうなってるの?」

 次々と俺の顔を見た少女たちが、驚きの声を上げる。

「……兄ちゃんが若くなっちゃった!」

 季衣ちゃんと呼ばれたピンク髪少女が叫んだ。

 

 

「若く?」

 え?

 俺が?

 なにを言ってるんだろう、このロリっ娘。

 

「あんた、天井皇一よね? 弟とかじゃないわよね?」

「そういえば、弟がいると言っておられた。その方ではないのか?」

 緑髪おさげの眼鏡メイドと長い黒髪をポニーテールにした少女が顔を見合わせる。

「お、俺の名前だけじゃなくて、家族構成まで!?」

 人違いの線は消えたっぽい。

 いったい何が目的で……。

 

 俺、拉致されたのかな?

 もしかして、ドッキリを仕掛けられてるとか……一般人に仕掛けるのは止めてほしいものだ。

 

「どこにカメラがあるの?」

「かめら?」

 反応したのはゴーグルを首にかけた少女。

 信じられないくらいの爆乳だ。俺が貧乳属性じゃなかったら目が離せないだろうなあ。

 

 道場っぽいここはセットなのかな?

「……そこ?」

 あまり物が置かれてないので、隠しカメラがありそうな場所にダッシュで直行した。

 脚がもつれて転びそうになったのは緊張のせいだろう。

 眼鏡なしでこんな大人数の女性に囲まれるなんて、拷問以外のなにものでもない。

 

「ほらやっぱり!」

 道場の壁にかけられていた、いかにも怪しい掛け軸をめくると壁が細工されていた。ここにカメラが仕掛けられているはず。

「わわっ!?」

 覗きこもうとすると、カメラではなく褐色巨乳の美女がそこから出てくる。

 先程の下乳へそ出しの少女に似ているかもしれない。

 

 暖簾をくぐるように掛け軸の下から出てきた美女が口を開く。

江東の虎(たいがー)道ー場ー!」

 え?

 タイガー道場?

 Fateの?

 そういえばこのセットはあれに似ている?

 

「母様!」

「お母さん!」

 やはり先程の少女と、ダブルリングな少女が声をあげながらやってきた。

 親子なのかな?

 

「本当に母様なの?」

「ああ。孫文台以外の何者でもない。二人とも大きくなったな」

 美女が少女二人を抱きしめる。

 少女二人の嗚咽が聞こえる。どうなってるんだろう?

 状況がさっぱりわからない。

 

「文台様!」

 今度は眼鏡の褐色美女が現れた。こっちは上乳へそ出し。

「冥琳か。雪蓮がいつも世話をかける」

「雪蓮の面倒を見るのが私の役目。お気になさらず。それよりも、これはいったい?」

 道場内の全ての視線が文台と呼ばれた褐色美女に集まっている。

 

「雪蓮が道場主を止めてしまったからな。またやる羽目になってしまった」

「なんと」

 この文台さんが道場主ってことは……道場内の美少女たちを見回すも目的の人物が見つからない。

「なんで、ロリブルマがいないんだ……」

 がっくりと膝をつく俺。

 文台さんが道着じゃなかったり、竹刀持ってたりしてないので期待する方がおかしいのかもしれないけれど。

 ロリブルマはいなきゃ駄目でしょおぉぉぉ!!

 

「あなたが江東の虎と呼ばれた孫堅……」

 江東の虎……江東区でレディースのリーダーでもやってたのかな?

 孫堅ってどこかで目にしたことがある名前だけど、どこだっけ? 漫画かギャルゲーだったかな?

 

「母様、もしかしてどうして皇一がこうなったか知っているの?」

「さすが我が娘、察しがいいな」

 え? 俺のこと知ってるの?

 もしかしたら、文台さん昔、俺のことをシメたことがあるとか? ……覚えてないけど。

 それが原因で俺が女性苦手になってるとか勘違いしてるとか?

 俺が女性苦手になった原因は別。はっきりと覚えているんだからね。

 

 

「小僧、めにゅうういんどうを開け」

 文台さんが俺に命令する。俺の方が年下っぽいけど、小僧はあんまりじゃない?

「ど、どれの?」

 辺りを見回す。

 ノートパソコンや携帯ゲーム機は見当たらない。携帯電話もどこかへいっちゃってるし、いったいどうしろと?

「早くしろ」

 うわっ、怖っ!

 さすが元レディース。迫力が違う。

 

「メニューウィンドウ!」

 やけになって叫んだ。かなり恥ずかしい。

「……嘘……出た」

 

 つづきから

 はじめから

 ひきつぎ

 

 視界にたしかにメニューウィンドウとしか言えない文字列が現れた。

 なにこれ? 立体映像?

 

「口に出さずとも、強く念じれば出てくる」

 文台さんのアドバイスに俺の頬が熱くなる。いらん恥かいてしまったみたいだ。

 でもこれ本当にどうなっているんだろう?

 横を向いても俺の視界から消えないし。

 

「引継ぎを選ぶがよい」

「選ぶってマウスとかコントローラやカーソルもないのに……」

 迷った挙句、指で押してみた。なんかクリック感の後、メニューが切り替わる。

 

 だれをひきつぎますか?

 ???

 愛紗

 ???

 ???

 翠

 星

 ???

 ???

 

「指を使わずとも、強く念じれば操作できる」

 ……なるほど。思考コントロールか。すごいな。

 俺、脳内にチップとか埋め込まれちゃってるのかな?

 もしかしてこの美少女たちはみんな宇宙人?

 ……可愛いから宇宙人でもいいか。

 

「もうよい。めにゅうういんどうを閉じろ」

 うん。今度はわかる。俺はメニューウィンドウ閉じろって念じた。

 視界からメニューウィンドウが消えた。

 それと同時に、道場内に三人の少女が出現した。

 

 出現。

 まさにそれである。

 なにもなかった筈なのに急に現れた、としか言いようがない。

 三人の少女は驚いた様子で辺りを見回す。やはり三人とも美少女である。

 

「主様!」

 金髪の小さい少女が俺へと駆け寄ってきた。

 

「ここは?」

「華琳さま!」

 残りの、頭に変な物体を乗せたやはり小さい少女と眼鏡は華琳ちゃんの所へ。

 

「袁術?」

「皇一、袁術まで!?」

 文台さんの娘二人から、俺に……これは非難の視線?

「主様! 死なないでたも!」

 金髪美少女は俺にすがりついて泣き始めた。

 

「ええと……」

 とりあえず泣き続ける少女を撫でる。

 これが冥琳って娘や文台さんだったら俺、逃げていただろうなあ。

 巨乳は守備範囲外だもんねえ。苦手といってもいい。

 

「袁術、そやつは死なぬから安心しろ」

「ほ、本当かの?」

 やっぱりこの少女が袁術ちゃんでいいみたい。

 グスッと鼻を鳴らす袁術ちゃんに話しかける。

「ほら、俺生きているでしょ」

「う、うむ。そうじゃな。主様が可愛い妾を残して死ぬはずがないのじゃ!」

 元気になったみたいだ、よかった。……それとも嘘泣きだったのかな?

 俺を騙そうと……いや、さっきのメニューウィンドウとか、いきなり出現とかすごい技術あるみたいだし、そんな小細工する必要ないか。

 そもそも俺なんかを騙してなんの得があるかっていう。

 

「わかったのなら袁術よ、最後に見た光景を話してくれるか」

「む? さっきからいったい、なんなのじゃ貴様は?」

「忘れたのか? この孫文台を」

「孫文台……ぴぃ!」

 文台さんの名乗りに、袁術ちゃんがガタガタブルブルと震えだす!

 

「ぬ、主様……幽霊じゃ! 怨霊じゃ! 悪霊なのじゃー!」

 幽霊?

「ちょっとぉ! 袁術、たしかにお母さんはもう死んじゃってるけど、怨霊や悪霊はないでしょ!」

 ダブルリングちゃんが頬を膨らます。

「よい。……袁術よ、呪われたくなかったらさっさと話すがよい」

「ひぃ! は、話すから呪わないでたも……」

 文台さんに脅かされて袁術ちゃんが語り始める。

 

「さ、最後に見た光景といわれてもの……主様が血を吐いて倒れたとしか言えぬのじゃ……」

「皇一が血を? 孫呉の兵に襲われたの?」

「ち、違うのじゃ、主様はなにやら小瓶を取り出して呷ったのじゃ。妾はハチミツ水かと問うたのじゃが、主様は違うと言いながら血を吐いたのじゃ!」

 さっきから言っている主様ってもしかして俺?

 俺が血を吐いて倒れた? しかも毒を飲んだっぽいし……。

 

「毒、ね」

 華琳ちゃんもやっぱりそう思うんだ。

「は、はい。たぶん私がお渡しした物かと……」

 消え入りそうな声でそう言ったのは、褐色で長い黒髪の忍者みたいな格好の少女。あれは……姫カット?

「明命?」

 そうか、明命って言うのか。可愛いけど、あっちのミンメイのコスプレじゃなさそうだ。

「できるだけ苦しくならないけれど、確実に死ぬ毒を。そう求められて譲ってしまったのです」

 

「皇一さんが自殺……?」

「ずっと自殺だけは嫌だっていっていたのに……」

「孫策のため?」

 華琳ちゃんの発言に、さっきの黒髪ロングポニーが前に出る。

 

「いいえ。たぶん華琳殿のため、でしょう」

 華琳ちゃんのために自殺?

 そりゃこんな可愛い娘のためなら、死んでもいいって思えちゃうかもしれないけど。

「……そう」

 華琳ちゃんは黙ってしまった。落ち込んじゃったのかな?

 

「自決した場合は罰則が適用される」

 文台さんが解説を始めたみたい。

 でも、自殺して死んじゃった人に罰則なんて必要ないような。被疑者死亡のまま書類送検みたいな扱いなのかな。

「罰則?」

「例えば、賭博中に賭ける直前に記録して、外れてたら当たるまで自決、などやりたい放題になる。よって制限があるのは当然だろう」

 記録? 制限? わかるような、わからないような話だ。

 

「それで、その罰則とはいったい?」

「自決時は、経験を失うのだ。今回の服毒なら五年分の経験といったところか」

 経験?

 経験値ってこと?

 なんかゲームであったな。死亡時には所持金と経験値を一定量失うって。

 

「……まさか経験って」

 華琳ちゃんがハッとしたように顔を上げた。

「うむ。そやつが歩んだ年月そのもの。ただし、周回特典でさらに倍、十年分が奪われた」

「やはり。やり直した二周分を差し引いて、身体の方は八年分くらいかしら?」

「ほう。そこまでわかるか」

 華琳ちゃんの解析に感心したように頷く文台さん。

 でも、十年分とか、二周分とかってなんのことだろう?

 

「どういう事なのです、華琳さま?」

 蝶眼帯も首を捻っている。

「……この皇一はね、十年前の皇一なのよ。当然、私たちのことは知らない」

 華琳ちゃんの言葉に道場内は騒然となった。

 十年前の俺?

 ……いやもしかして、この少女たちは十年後の俺の知り合い?

 

 

「兄ちゃん、ボクたちのこと、忘れちゃったの?」

「季衣、皇一は忘れたわけではないわ。本当に知らないのよ」

「そんな……う、うわぁぁぁぁん!」

 季衣ちゃんの号泣に誘われるように、道場内に泣き声が増殖する。

 ……お通夜状態?

 

「十年後の俺って、こんなにたくさんの女の子と仲良かったんだ」

 突拍子もない話だけど、さっきのメニューウィンドウとかもあって信じてしまっていた。

 季衣ちゃんの涙とか、これが嘘泣きだったら……みんな女優さんとかなのかな? それぐらい美少女ばっかりだし。

 まあロリの涙を疑うのは俺らしくない。信じることにしよう。

 俺がこんなに慕われてたみたいってことは、俺もしかして先生かなにかになってたのかな?

 兄ちゃんとか、主様とか呼ばせてる、駄目教師だったみたいだけど……。

 

「仲が良かったのはたしかね。皆、あなたの嫁なのだから」

「嘘!?」

「嘘じゃないわ」

 駄目教師どころか、犯罪者でした。

 なにやってるの、十年後の俺!

 

「だ、だって十年後って言ったら、三十路だよ俺! ちっちゃい娘もいるし、しかもこんなにたくさん……」

 ロリとか、重婚とか……い、いや、ロリに見えてみんな十六歳以上なのかもしれない。重婚の方は……どうしよう?

「抱いたらお嫁さんにするとよく言っていたわ」

「抱いた、ら?」

 ま、まさかこの人数全員と、俺が?

「あ、ありえない! この俺がそんなことできるわけがない!」

「……私のはじめての時は、目覚めない私を強引に抱いたわ」

「ま、まさに犯罪じゃないかそれ!」

 華琳ちゃんの処女を俺が奪った?

 それも非道な方法で?

 

 再び俺は膝をついた。

 十年後の俺、自殺するんなら犯罪を犯す前にしてほしかった。

 俺も、少女たちに混じって泣き始めたのだった……。

 

 

 眼鏡を返してもらって俺が泣き止んだところで、華琳ちゃんが問う。

「しかし、失う経験が倍なんて、それのどこが特典なの?」

「見たとおり若返っているだろう」

 文台ちゃんが俺を指差す。

「けれど、記憶まで失っては……」

 三十路から二十代に若返れば嬉しいかもしれないけどさ。せっかく華琳ちゃんの処女を奪えた記憶とかまで失ったら意味ないじゃん!

 ……もしかして、犯罪を犯した記憶を消去したかったのかな、十年後の俺。

「これだけの引継ぎがいる。多少の記憶など、問題あるまい」

 引継ぎってさっきのメニューのかな?

 

「あの、引継ぎって?」

 それから俺は引継ぎや、彼女たちと俺の関係、俺の能力のこと等を教えてもらった。

 もちろん彼女たちの名前も。どこかで聞いたことのある名前があると思ったら、彼女たちは三国志の世界の人間らしい。

 三国志なんて、詳しくないけどみんな男だったはず。まあアーサー王が女性なゲームの道場でしてる話なんだからと、それも信じることにした。

 驚いたのは俺の能力。セーブとロードができるらしい。ロードできるのはこの道場だけで、道場に来るには死ななければいけないそうだ。

 だから俺、やり直すために自殺なんかしちゃったのか。

 それまで俺、自殺はしたことなくて、こんなことになるなんて知らなかったようだけど。知ってたら自殺なんかしなかったのかな?

 

 失う経験が倍になる周回ボーナスの他にも、俺はもう一つ周回ボーナスをもらっているらしい。

「わかった。引継ぎでしょ。周回ボーナスの定番だもんね」

「いえ、引継ぎは皇一が抱けば使えるわ」

 マジですか。本当にこの人数と俺がしちゃった?

 ……もしかして引継ぎ目当てで抱いたのか、俺? そんな、有利に進めるためだけに……。

 ごめんなさい、ごめんなさい。少女たちを贖罪の気持ちをこめながら眺める。……美少女ばっかり。うん、引継ぎ目当てじゃなさそうだ、十年後の俺。

 

「じゃあ、もう一つの周回ボーナスって?」

 周回ボーナスが二つってことは三周目なのかな、って考えながら聞いたら華琳ちゃんの指示で、春蘭という真名の蝶眼帯が俺を羽交い絞めにする。

 彼女たちには真名っていう名前がある。親しい人にしか教えなくて、教えてもらってないのに呼んだら殺されても仕方がないらしい。物騒な世界だ。

 

「身体は八年前に戻ってしまったようだけど、こちらはどうなっているのかしら?」

 華琳ちゃんが俺のベルトを外し始める。

「ちょっ! ストップ。なにするのさ!」

 逃れようともがくが、全然逃げられない。春蘭の力はすごい強いみたいだ。

「おとなしくしていなさい!」

「誰か助けて!」

 俺の懇願にも、誰も救いの手を差し伸べてくれない。

 それどころか、泣いていたはずの少女たちまでもが興味津々と華琳ちゃんの作業を見つめていた。

 

「ふむ」

 俺のズボンと下着を脱がせた華琳ちゃんが満足そうに股間を見つめる。

「酷い……あんまりだ」

 止まったはずの涙が再び俺の頬を伝う。

「何を泣いているの。しっかりと見なさい。これがもう一つの周回特典よ」

 見ろって言われても……泣きながら俺は視線を下に移した。

 ……すぐに視線を戻した。

 

「W0!?」

 いやまさかそんな?

 きっと見間違いだ!

 恐る恐る再び股間を確認。

「XX!?」

 ……見間違いじゃなかった。

 俺の一人息子がいつのまにか双子になってました。

 

「安心なさい、ちゃんと両方使えるわ」

 華琳ちゃんの手が俺の息子達に触れる。

「嘘だ……」

 ちゃんと両方に感覚がある。

 脳内にチップどころか、俺は魔改造されてしまっていた。

「もう、そんなに泣かないの。あなたのこれを嫌ったり、怖がったりするものなど、ここにはいない」

 華琳ちゃんの言葉に少女たちみんなが頷いてくれた。

 嬉しいんだけど、素直に喜べない……。

 

 

 

「さて曹操よ、先程、詫びを入れるとそう言ったな」

 ズボンを履き直す俺を待っていたのか、ベルトを締めると同時に文台さんが華琳ちゃんに問い始めた。

「ええ。兵の暴走を止められなかったのだもの」

「ならば小僧、もう一度、引継ぎを開け」

 え? なんで俺?

 よくわからないけど、元レディースさんは怖いし素直に従おう。

 

「開きました」

「では、華琳の行を探して、それを押せ」

「っ! まさか、華琳さまの引継ぎを解除するつもり!?」

 桂花という真名の猫耳フードが文台に噛み付く。

 押しちゃ不味いのかな?

 

「だと言ったらどうする?」

 文台さんが睨む。桂花と、華琳ちゃんを。

「お待ち下さい!」

 愛紗という真名を名乗った黒髪ロングポニーが止める。

「それは、それだけは絶対にいけません! ご主人様が悲しみます」

「……私たちを知っている皇一はもういないのよ……」

「覚えている方が辛い、と?」

 文台さんが睨む。

「それでいいのか?」

 

「……いいわけないでしょう! たとえ私のことを知らなくても、私は皇一のことを忘れたくない!」

「華琳さま!」

 桂花や春蘭たちの顔が明るくなる。

 そして、文台さんが笑った。

「くくくく。誰が引継ぎを解除せよと言った?」

「え?」

 文台さんはよほどツボにはまったのか、しばらく笑い続けて説明してくれなかった。

 

「では、華琳の行を探してそれを二度押せ」

「二度? ……あ、あった」

 華琳ちゃんの行を押すイメージ。ピッとクリック感が脳に伝わる。指を使ってなくても感触はあるみたい。

 選択済みってことで反転していた華琳ちゃんの行の表示が変わった。

「え、ええっ? か、華琳ちゃん!?」

 華琳ちゃんが道場から消えてしまった。名を呼んだけれども返事は返ってこない。

「落ち着け。二度押せと言ったはずだ」

「あ、そうか」

 もう一度、表示の変わった行をクリックイメージ。華琳が曹操に変わり、行も反転した。

「こう? ……曹操に表示が変わったよ」

 そして、道場に華琳ちゃんが現われた。

「よかったー」

 ほっとしてよく見たら華琳ちゃんの衣装がさっきまでと違う気がする。

 

「うむ。では次に、大喬と小喬の行を探せ」

 今度は二人?

「……あった」

 連続して大喬と小喬って行がある。

 ???から開放されている他の娘たちと同じように選択済みになっているけれど、さっき紹介された娘たちにはこんな名前の娘はいなかったはずだ。……覚える名前が多いんで、あまり自信はないけど。

「ならば、やはり二度押せ」

 言われるままにその二行をそれぞれ二度クリック。今度は名前が変わるなんてことはなく、表示の反転がなくなって、再び選択済みの反転に戻っただけだ。

 それだけなんだけど……わ、道場にさらに二人の少女が現れてる。やっぱり凄い可愛い。ロリの双子?

 ……この娘たちとも、俺が?

 十年後のおっさんがこんな小さい子と……信じられないよ、やっぱり。

 というか犯罪間違いなくて信じたくないなぁ。

 

「冥琳さま!」

「いったいどうなって……」

 上乳へそ出し眼鏡こと冥琳に質問してる双子ロリ。

 

「もう閉じちゃっていいの?」

「いや、曹操の行を元に戻しておけ。一度押せばよい」

「……はい」

 指示に従うと、曹操から華琳へと文字が変わり、道場の華琳ちゃんの服装も変わった。

 

「……大喬と小喬を出すのが、こんな方法だったとはね」

「道場へと呼び出すのには、引継ぎを確認すればよい」

 文台さんの簡潔な説明。そういえばさっき、美羽ちゃんたちも引継ぎを確認したら道場に現われたんだっけ。

「私が昔の状態で、大喬と小喬の引継ぎを再確認することが二人が出てくる条件だったのね」

「これで、むこうに戻っても二人の存在は消えん。これをもって詫びとしろ」

 文台さん、怖いけどもしかしていい人?

 

「けれど母様、華琳は姉様を」

「雪蓮も油断していた。だがもう雪蓮は死なぬし、これで義娘も出番を得る。問題はない」

 文台さんに諭されて褐色下乳へそ出しの蓮華が押し黙った。

「よかったな、小僧の記憶を失わずにすんで」

 からかいが混じった文台さんのその言葉に華琳ちゃんが真っ赤になってそっぽを向く。

 それがまたツボに入ったのか、文台さんはまた笑い始めたのだった。

 

 

「お母さん、皇一の記憶を取り戻す方法、ないの?」

 ダブルリングの小蓮ちゃんことシャオちゃんが泣きそうな顔で聞く。さっきまで実際に泣いていたし。

「……本当は教えることができぬのだが、シャオの頼みならば仕方ないか」

 文台さん、娘には甘いの?

 末っ子のシャオちゃんが小さい内に亡くなったそうだから、それもあるのかもしれないな。

 

「そ、それは本当ですか!」

 愛紗だけではなく、少女たちみんなが身を乗り出してくる。

「ある、としか教えられんがな」

 がっくりと肩を落とす少女たち。……いや、少女たち全てではなかった。

 

「よかった! 兄ちゃんがボクたちを思い出してくれる方法があるんだね!」

 ピンク髪の季衣ちゃんがガッツポーズ。

「ははは。天井が華琳さまを忘れたままでいられるはずがなかろう!」

 春蘭も笑い出したことで、他の少女たちも微笑んだ。

 うん。みんな笑ってる方が可愛いな。

 

「お母さん、他にはないの?」

 うるうるとした目でおねだりするシャオちゃん。

「……ただし、思い出すのは全てではない。思い出させた娘の記憶のみ。……手がかりはこれまでだ。後は自分たちで考えろ」

 やっぱり甘いみたい。

 

「蓮華、シャオ、達者でな」

 これ以上は本当に無理なのか、文台さんは掛け軸をめくり、去ってしまった。

「母様!」

 蓮華が追うも、掛け軸をめくった時には、そこは壁になっていた。

「どうなっているの……?」

 それはさっきからずっと俺も思っています。

 

 文台さん、もう少し説明してほしかったなあ……。

 

 


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