恋姫†有双   作:生甘蕉

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四話    絶影?

 溢れんばかりの俺の愛で曹操ちゃんに掛けられた術を解く俺。

 さすがに今回はイキナリ殺されなかった。

 縛ってるからね!

 

 けど、殴られた。

 縛りを頑張ったせいかも知れない。

 

「時間がないのになにを考えているの!」

 前世(・・)は後ろ手に結ぶだけだったけど、それじゃ芸がないかなぁって。

 そういう縛られ方の曹操ちゃんもよかった。頑張ったかいあったな!

 とか考えてたらまた殴られた。

 

「変態」

「Exactly(その通りでございます)」

 英語で言ったのにまた殴られた。意味わかったんだろうか?

 

 

 術と縄を解いた曹操ちゃんと俺は隠れ家を出て本城へと向かう。

 出迎えた兵が二人だけでの帰還に驚くが、「留守中の様子を確認する」と言われてすぐに引き下がった。

 偽者だとか、おかしいとかは思わないのかな?

 

 曹操ちゃんは城に残っていた文官に指示を出した後、厩舎へ俺を連れてった。

「もう軍は出発しているがその歩みは遅いらしい。十分間に合うわ」

「ああ、たしか曹操ちゃんを輿に乗せて移動してたはず。着せ替え曹操ちゃんもそんな扱いだと思います」

 睨まれた。

「この私が輿? 屈辱ね」

 ついさっきまでの初めての行為の影響か、歩き辛そうにしていた曹操ちゃんの速度が少し速くなった。

 

「……この子を使われなかっただけ、良しとしましょう。おかげで楽に追いつける」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべた曹操ちゃんの視線の先にいました。

 象?

 象がいるのって南蛮じゃなかったっけ?

 なんか猫耳尻尾ロリが頭に乗せてたような記憶がある。

 よく見ると象じゃなかった。象と見まがうほどの巨躯だったけれど。

 

 それは馬というにはあまりにも大きすぎた。大きく、黒く、重く、そして……って、これもしかして!

 

「絶影」

 曹操ちゃんの呼びかけに応じてそいつは嘶く。大きく震える厩舎。

「え? 黒(オー)号じゃなくて?」

 

「こくおう? 妙に惹かれる名ね。天の名馬かしら?」

「う、うん……馬にしておくには惜しい程の漢な馬だ」

「ふむ。我が愛馬絶影ほどの名馬が天にもいるのね」

「愛馬って、戦場じゃ見たことがないような?」

 こんな規格外で目立つモノ、見逃すハズないですが。曹操ちゃんはいつも別の普通サイズの馬に乗っているよね?

 

 無言の曹操ちゃん。何故か顔が赤いような。

 黙ったまま巨馬の脚をなでている。

 絶影デカいから頭や鬣にとどかないんだろう。

 ……ああ、曹操ちゃんがあまり乗らない理由がわかった気がする。

「余計に小さく見えるからか」

 絶影に乗ってたら曹操ちゃん、見えなくなりそうだ。む?

 ……首筋に冷たい物が当たっています。

 

「なにか言ったかしら?」

 ニッコリ。

 くそう、殺気纏わせてるのに可愛いなんてズルすぎる!

 大鎌向けられてなきゃ、全力で抱きしめにいくところだ! 絶対避けられるけど。

 

 

 

 

 絶影は(おお)きいだけじゃなくて無茶苦茶速かった。

 曹操ちゃんと俺がタンデムしても影響はまったくなさそう。

 あと四、五人乗っても余裕なんじゃないだろうか。

「ひ、ひええ!」

 高さとスピードによる恐怖で、手綱を握る曹操ちゃんにしがみ付く。

「落ちる!」

 落ちたらまず死ぬ。

 

「しっかり掴まってなさい。ただし変なところに触ったら……わかるわね?」

 俺が死んだらまたセーブ2からやり直しなせいか、曹操ちゃんは俺を殺さない。そうじゃなかったらもうとっくに殺されてるだろうな。

 落馬死も痛そうなので、密着できた状況でも無茶はしない。

 曹操ちゃんの香りを堪能するぐらい。んー、いい匂い。髪とかにぶっかけなくてよかった。

 

 曹操ちゃんは俺にセーブ2の上書きを禁止した。

「少しでも時間が惜しいの」

 俺に初めてをあげたいから、なワケないですよね、やっぱり。

 次もしやり直すことになったら、今度は縛らずその分で時間を短縮するように命じられている。

 

「で、どうするんです?」

「奪われた曹魏の軍勢を取り戻す」

「全員操られてるんじゃ? どうやって術を解く……って駄目! 術を解くために曹操ちゃんがみんなとヤるなんて!」

「そんなワケないでしょう!」

「俺以外の男とヤらないで!」

 曹操ちゃんにしがみ付く両腕に力をこめる。

 

「……抱いたくらいで自分の女だと言うつもり?」

 ゾッとするほど冷たい声が返ってくる。でも俺は両腕の力を緩めない。

「お、俺以外の男とヤッたら次は引継がない」

 声が震えてるのを自覚する。

 

「なるほど。独占欲は強いワケね」

 そうか、俺は独占厨でもあったのか。

「……ふん。いいでしょう。どうせ男など必要ない。……だから泣くのは止めなさい」

 え? 俺また泣いてた?

 

 

「じゃどうやって術を解くの?」

「全員が術にかかっているワケではないでしょう? それ程の力を持つ道士なら私を操る必要はない」

「そうか。北郷軍の兵士全員を操って、北郷一刀を殺した方が確実で早い」

 そういや白装束は操られた曹操ちゃんに槍を向けたやつもいたんだっけ。今思い出した。

「曹操ちゃんが人質にされてるんだったら、魏軍は逆らえない」

 

「私はここにいる。我が曹魏の兵を無駄死になどさせない!」

 曹操ちゃんの気持ちが通じたのかのように速度をあげる絶影。あっという間に軍勢に追いつく。

 絶影の巨躯に魏軍兵士も気付いて動揺が走る。

 まあ、こんなデカい馬見たらみんな驚くよなあと思ったらそうではなかったらしい。

 みんな絶影が曹操ちゃんの愛馬だって知ってたからだ。なんだよ、知らなかったの俺だけ?

 いいもん。ハブなんて慣れてるもんだ。

 ……ぐっすん。

 

「放しなさい」

 しがみ付いている両手を離すと、鞍の上にスッと立つ曹操ちゃん。絶影とのサイズ比考えたらあまり意味はなさそうだけど、さすがは魏軍兵。すぐに曹操ちゃんに気付いたようだ。

 

「聞け! 魏武の精兵たちよ!」

 曹操ちゃんの声一つで、魏軍の動揺が鎮まる。やっぱり操られてないのか。

「私はここにいる! 白装束の不埒者にいい様にされる曹孟徳ではない!」

 一斉に兵たちが白装束と輿を振り返るのが見えた。よく見えないけど記憶どおり輿の上の着せ替え曹操ちゃんに槍が向けられているみたいだ。

 

「覇王たる私が戦場で輿に乗ろうか? 否! それこそがアレがまやかしである証拠!」

 いつのまにか手にしていた大鎌で輿を指す。……刃の方の先端が俺に向かってるのは気のせいですよね?

「もはや化生の者に従う必要はない。魏武の誇りを取り戻せ!」

 

 魏軍の兵士たちは互いに見合ってそして、雄叫びをあげた。

 満足そうに頷く曹操ちゃん。鞍に跨り直す。

「なんか単純すぎる気が」

 あまりの喧しさに両手で耳を押さえる俺。曹操ちゃんが何か言ったようだが聞こえなかった。

 

 聞こえなかったがすぐに理解した。絶影が走り始めたからだ。

 慌てて曹操ちゃんにしがみ付く。

「道を開けなさい!」

 曹操ちゃんの声が聞こえるよりも先に魏軍兵士は絶影の前でモーゼの十戒のごとく左右に別れていく。絶影に踏まれたら確実に死ぬもん。そりゃ避けないと。まさに黒O号。

 

 十戒の先は白装束の担ぐ輿。それを目掛けて絶影は一気に駆け抜ける。

 白装束たちが向かってくるが絶影は意にも介さず、踏み抜いて行く。

 後ろで、魏軍と白装束の戦いの音が聞こえる。正面からのぶつかり合いになっちゃったけどいいのかな?

 

「干吉はいないようね」

「どっか別の場所から術で白装束に指示を出してるんじゃないかと」

「ふむ。ならば!」

 絶影無双のおかげで輿は目前。曹操ちゃんの目線でなんとなくわかった俺は両手を離す。

 シュッと輿の上に飛び移る曹操ちゃん。

 うん。俺が察したのはやっぱり愛の力だな。通じ合ってるよ俺たち!

 

「よく出来ているわね」

 人形を見つめた後に続いた小さな声。

「胸が小さい気がする」

 いや、まったく同じサイズです。夏侯惇将軍さすがです。人形と曹操ちゃんの両方を揉んだ俺が言うんだから間違いありません!

 口には出さなかったのに睨まれた。

 直後、コトン、と人形の首が輿の床に落ちた。いつの間に鎌を振るったんだろう。全然見えなかった。

 

 自分そっくりの人形の首を掲げる曹操ちゃん。シュールな光景だ。

「白装束を殲滅せよ!」

 

 

 

 

「華琳さま!」

 しばらく白装束と戦ってたら、いつの間にか設営されてた本陣に夏侯惇将軍たちが現れた。

「あ、操られておいでかと勘違いしてしまいました! 華琳さまに限ってそんなハズがあるワケないというのに、我らは!!」

 慌てている夏侯惇将軍。

「私がついておりながら申し訳ありません」

 土下座しそうな勢いのネコミミ軍師荀彧。

 

「わかっているわ。私もこの男に助けられなければ、操られたままだったでしょう」

 それで、やっと俺に気付いた将軍たち。

「貴様、華琳さまと同乗するなどと不届きな!」

 いきなり殺されそうになりました。

「あ、おっちゃん」

「これを城に配置させたのは季衣の手配だったわね。よくやったわね。助かったわ」

「へへー」

 褒められたのが嬉しいのか、「助かった」のところに妙に力が入っていたのに気付かない季衣ちゃん。逃げてー。

 

「季衣にはご褒美をあげないといけないわね。いらっしゃい」

「い、今からですか華琳さま」

 夏侯淵将軍も驚く。

 だってまだ戦闘続いてるから。

 

「桂花、北郷軍は?」

「状況がわからずに傍観しています」

「ふむ。協力を要請しなさい。元よりそのつもりだったのでしょう?」

「華琳さまがご無事なら、奴らの手を借りるまでもございません!」

 夏侯惇が割り込んでくる。

「馬鹿ね。無傷の北郷軍が残っているのは面白くないでしょ。あいつらは元々、魏と戦いにきてるのよ!」

 ため息つきながら説明する荀彧。

 

「共に白装束を倒してその後の戦いをうやむやにする、ですか? なんだか華琳さまらしくないような」

「借りができたからよ」

「借り?」

「まさか我らのせいで……」

「仕方ないわ。借りをつくったまま北郷軍に勝っても、この曹孟徳の名が、私の誇りが傷つくだけ」

 ちょっ、なんでそこで夏侯惇泣くかな。泣くほどのこと?

 

「悪いのはあなたたちではないわ。白装束とそれを操る道士。さ、わかったのなら敵と戦いなさい」

「はっ!」

 夏侯惇はかけて行った。夏侯淵も後を追う。

「一刻で戻る。その間はまかせたわよ、桂花」

「はい」

 荀彧も指示を出しに行った。

 

「季衣はこっちよ」

 俺と季衣ちゃんを連れて天幕へ入る曹操ちゃん。

 まさか戦闘中のこのタイミングでですか。

 

 

 

 

 

 初めての行為に疲れて眠ってしまった季衣ちゃんを残して、天幕を出る曹操ちゃんと俺。

「泣かれちゃいました」

「可愛かったわね」

 やっぱドSだ。たしかに可愛かったけど。季衣ちゃんも華琳ちゃんも。

 

「すごい痛がられた」

「それはそうでしょうね。私も痛かったもの」

「下手でスミマセン」

「謝っても許さないわ。死になさい」

「え?」

 大鎌を手にしている。ホント、どっから出しているんだろう?

 

「だってあなたが死なないと引継ぎを試せないでしょう」

「そ、そりゃそうだけど……」

「騒がないで。季衣が起きてしまうわ」

 咄嗟に口を閉じた瞬間、首を何かが通り抜けた。

 

 

 

 

 最後に見たのは曹操ちゃんの可愛い顔ではなく、初めて肉眼で見た自分の背中だった。

 

 

 




 無印のこのシーンでは魏軍兵士全部操られていたようにも見えましたが、曹操が人質になっていたのでこういうのもアリなんじゃないでしょうか?


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