「トリック・オア・トリート!」
「はい、これ」
玄関の前で待っていた俺は、やってきた女の子たちに菓子の入った袋を渡す。
中で待ってると、すごい勢いでドアを開ける子がいるので玄関が破壊されるからだ。
まあ、他にも理由はあるけどね。
「ふむ。秋ちゃんは魔女か。お春ちゃんは……なにか間違っているかな」
今生は別の名前があるにもかかわらず、前世の真名で呼び合うことが多い彼女たち。
そのせいで俺もとっさに今の本名が出てこない時もある。
春蘭と秋蘭は前世のように華琳ちゃんの親戚である。
そして、俺の親戚でもある。
おかしなことに華琳ちゃんではなく、俺と血が繋がっているらしい。
従兄弟の娘だから、いとこ姪とか
「む、そうか?」
その従姪のお姉さんの方が自分の格好を見回す。
顔を赤く塗って、角を二本とミノを装備したその姿。
「お春ちゃん、それはナマハゲだ」
手には玩具の出刃包丁持ってるし。本物でなくてよかった。
「誰がハゲだ!」
「姉者、ハゲではない。ナマハゲだ」
楽しそうに微笑んでいる秋蘭、知ってたなら教えてやってくれ。
「そ、そんなことはどうでもいい! 華琳さまはどこだ!!」
「華琳ちゃん? いっしょじゃなかったの?」
聞かれた時のために用意していた台詞を使う。華琳ちゃんの居場所は知っているけど、教えられない。
教えると、俺の命やその他が危ない。
「隠すとためにならんぞ」
出刃包丁を俺に向ける。玩具とはいえ、春蘭が使ったら骨の一本ぐらいは持ってかれそうだ。
その時、短い電子音が響いた。
「華琳さまからだ」
スマートフォンを確認する秋蘭。華琳ちゃんからメールが届いたようだ。
「姉者、家で待っているようにと華琳さまからのメールだ」
「なんだと! 今すぐに戻らねば!」
「うむ。皇一、我らはこれで失礼する」
今にも走り出しそうな姉をおさえて、別れの挨拶をするよくできた妹。
「そう。他の子がくるかもしれないから送っていけないけど気をつけて帰りなよ。あ、二人ともよく似合っている。とってもかわいいよ」
うん。デジカメ用意しておくんだったなあ。
前世よりも小さくなった二人の頭をなでて見送った。
この外史に転生してきたのは華琳ちゃんだけではなかった。
嬉しいことに俺の嫁全員以上がこの世界に生まれ変わっている。
「ご主人様、トリック・オア・トリート!」
「頼むからご主人様はやめて下さい……って、誰?」
俺をご主人様と呼んだのは、着流しに般若の面、タオルを両手で頭上に掲げている子。
正体はわかっているけど、からかい気味に聞いてみた。
「もう。わたしだってば!」
「桃香様、面をとらないと誰だかわかりませんよ」
愛紗に言われて面を取ったのは、前世では会ってないはずの少女。
「ああ、桃香ちゃんだから桃太郎侍なのね」
「えへへ。わかる?」
「で、愛紗ちゃんは浦島太郎で鈴々ちゃんが金太郎か」
釣竿と亀のぬいぐるみを持った愛紗に、斧の玩具とぷーのぬいぐるみを持った鈴々ちゃん。
……ハロウィンぽくはないけど。
「みんなかわいいね。ちょっと待っててね、写真撮るから」
さっきの反省を元に準備していたデジカメで三人の写真を撮る。
「うん。ありがと、はいお菓子」
撮影が終わると、菓子袋を渡す。
「大漁なのだ!」
他のところでももらったのだろう、たくさんの袋を持ってご満悦の鈴々ちゃん。
「おーほっほっほっほ!」
さっきから気にはなっていたんだけど、あえて無視していた停車中のリムジンから笑い声が聞こえてくる。
「そのような駄菓子で喜ぶとは、ずいぶんと安い女ですのね」
もしかして出るタイミング見計らっていたのかな。
「なんだと! 鈴々を馬鹿に……おおっ!?」
リムジンから出てきた人物、というより物体に鈴々ちゃんが目を輝かせる。
「すごいのだ!」
うん。たしかに凄い。
麗羽たちの仮装は、黄金の身体に三本の首と大きな翼、二本の尻尾という怪獣王のライバル怪獣だ。
三本の首の付け根から、麗羽ちゃんを真ん中に三人が顔を覗かせていた。
「どうです? 特注品ですのよ」
一目で造形の素晴らしさがわかる。これは間違いなくプロの作品だろう。
思わずシャッターをきりまくる俺。
「ちょっ! アニキあたいらの顔、撮ってなくね?」
「あ、つい怪獣の顔に目がいってた」
「首とか羽動かすのも疲れるんだぜ、これ」
猪々子ちゃんが愚痴る。そうか、それで三人で入っているのか。
「ごめんごめん」
今度は三人の顔が写るように撮影。ついでに桃香ちゃんたちもいっしょに並んで撮る。
「もはやハロウィン関係ないけど、いいもの見せてくれてありがとう」
「おーほっほっほっほっほ。皇一さんには見る目がおありですのね!」
「アニキ、お菓子は?」
「トリック・オア・トリートです」
猪々子ちゃんと斗詩ちゃんに言われて慌てて菓子袋を渡す俺。
つい、ギ○ラの口に咥えさせてしまった。
「ごめんね、安もんの駄菓子しかなくて」
「かまいませんわ。大事にとっておきますわ」
「いや、食べてくれると嬉しいんだが」
「そ、そうですわね」
麗羽ちゃんが赤面している。
俺の嫁ではないけれど、桃香ちゃんや麗羽ちゃんにも前世の記憶はあるらしい。
桃香ちゃんの記憶だと前世の俺は蜀ルートの一刀君ポジションだったというから驚きだ。
「これならもっとお菓子もらえそうなのだ!」
「お、そりゃいいな」
鈴々ちゃんと猪々子ちゃんが意気投合。ギ○ラで荒稼ぎする予定らしい。
「も、もう行くんですの? 私、もっと皇一さんとお話が……」
「アニキは逃げねえけどお菓子の数には限りがあるんですよ、麗羽さま!」
「そうなのだ! たくさんもらうのだ!」
鈴々ちゃんが三人入りの着ぐるみを持ち上げて、走っていってしまった。
……転んだりしなきゃいいけど。
「あれ? 愛紗ちゃんはいいの?」
桃香ちゃんも鈴々ちゃんたちについていったようで、愛紗一人が残っていた。
「はい。今、華琳殿にメールをもらいまして」
「じゃあ、中に案内した方がいいのかな」
「おねがいします」
もう玄関を破壊する子たちは済んだかなと、愛紗を部屋に通す。
「遅かったわね、愛紗」
出迎える我が姪っ子、操ちゃんこと華琳ちゃん。
「なっ、華琳殿、その格好はいったい!?」
華琳ちゃんを見て驚く愛紗。
無理も無い。
華琳ちゃんがまとっているのは、マント一枚きりなのだから。
そんな格好だから春蘭に居場所を教えることができなかった。この姿を春蘭が見たら俺の命と世間体が危ない。
「見てわからない? 吸血鬼よ。あなたの浦島太郎よりもよほどハロウィンらしいでしょう?」
「それのどこが吸血鬼だ!」
「あら? 皇一のところの資料では吸血鬼の衣装はこれでいいはずよ」
げっ。俺に責任転嫁ですか。
「一般的じゃないけどね」
あくまで一部ではスタンダードになっているけどさ。
「その格好でここまで来たのか?」
「まさか。そんなことをしたら皇一が泣いちゃうわよ」
うん。華琳ちゃんの裸は他の奴には見せたくない。俺だけのものだ。
「っと、お客さんきたみたいだ。華琳ちゃん、風邪引くからいい加減服着といてね」
玄関に急ぐ俺。
「トリック・オア・トリック!」
ドアを開けたら、孫三姉妹が待っていた。
翼と尻尾と角の悪魔っ子スタイルの三人。
「待ってて、今お菓子を」
その前に写真撮影か。
「皇一、聞いてなかったの?」
「え?」
「もう一回ね」
頷き合う孫姉妹。
「トリック!」
「……オア」
「トリック!!」
三人が一人一単語ずつで姉妹の順に言い直してくれた。
あれ?
「……もしかして、イタズラ一択?」
「うん!」
真っ赤になっている蓮華の横で雪蓮とシャオちゃんが大きく頷いている。
「別に皇一がシャオたちにイタズラしてくれてもいいんだけど」
その台詞に俺は慌てて辺りを確認。
よかった、付近に人影はなかった。
「俺の社会的立場を落とすような発言は控えて下さい」
「えっ、そんなものあったの?」
「本気で驚かないで雪蓮ちゃん」
泣きたくなってくるのをぐっと堪える。
このままここで話していても辛いだけなので、三人も中に案内した。もうだいたい来たはずだし。
「あなたたちも?」
雪蓮たちを見るなりの華琳ちゃん。も、の後はなんなんだろう?
さすがに裸マントではなくなっていた華琳ちゃん。
けど、次は裸セーターですか。ちくちくしないのかな?
というか、それ、俺のセーターなんですが。
「いつの間に冬物出したの?」
「衣替えはとっくに済ませたわよ」
この家はもはや華琳ちゃんに掌握されているようだ。
「トリック・オア・トリック?」
「ええ。お菓子でなんて誤魔化されないわ」
「華琳もそうでしょ?」
いや、華琳ちゃんはもっと上だったな。
「私はトリック・アンド・トリート。両方よ」
なんとなく少女たちの目が戦場にいる時に近くなっていた気がしてキッチンに逃げだす俺。
ハロウィンということで、南瓜を調理することにする。
調理といっても、焼くだけだけどね。
少し厚めにスライスした南瓜を下茹で代わりにレンジで加熱。
熱したフライパンにバターを溶かし、それを焼く。南瓜の甘い香りが漂ってくる。
軽く焦げ目がついたところで、裏返して両面焼いたらでき上がり。
同じようにサツマイモと人参も焼く。
でき上がった半分にはペッパーミルでガリガリとひいた胡椒をかける。
男の料理は変に飾りつけなんかしないという信念のもと、ただ皿に盛った。
「できたよ」
持って行くと、女の子たちが驚いていた。
「皇一殿が作ったのですか?」
「ホットケーキかなにかと思っていたわ」
ああ、ホットケーキでもよかったかな。最近厚めに焼くコツわかったし。
フォークと取り皿を渡して、華琳ちゃんと愛紗の間に座った。
「お菓子というよりはツマミだけどね」
「そうね。胡椒のかかったコレなんかいいカンジ」
グラス片手に雪蓮ちゃんが南瓜をつまむ。
「あ、駄目でしょお酒は!」
「ふふん、これはノンアルコールドリンクよ」
ドヤ顔で缶を見せてくる。
「そうなんだ、ごめん。焦っちゃたよ俺」
「私だってお酒ぐらい我慢できるわよ」
「そうですか姉様。ならばこれは皇一さんの分ですね」
持参したのであろう袋から缶を取り出す蓮華ちゃん。最初に見た缶に微妙に似ているそれはノンアルコールではなかった。
「……ばれてた?」
どうやら途中で密かにお酒にスイッチする予定だったようだ。
「ありがたく、これはいただいとくね」
「ビールに合いそうなのにー……」
たしかによく合うけどね。
「南瓜は皮を切った方がいいのではなくて?」
華琳ちゃんから駄目出しがきた。
「これは少し柔らかすぎな気がするわ。皮に火を通すために加熱しすぎたのね」
「華琳ちゃん、男の料理はそんな細かいことを気にしないんだよ」
南瓜の皮も栄養あるし。
「妙なこだわりがあるのね」
「そうかな?」
雑、大量、が男の料理だと思ってたけど違うのかな?
「これ以上、美味しいものができたら私たちの立場がないわ」
サツマイモをつまみながら蓮華ちゃんが呟く。
サツマイモのソテーも美味いよね。イモ天ぽいけどバター使ってるから洋風で。
「うむ。私たちも精進しなくては」
愛紗がフォークを刺している人参は生でも食べられるから少し硬めに焼いてみた。これならスライスよりもスティック状にした方がよかったかもしれない。
「でもこれで、問題点が一つ解決したわ」
シャオちゃん問題点って?
「そうね。クリスマスには間に合うかしら?」
「なんの話?」
「いつまでも皇一が無職のままでは困るでしょ」
ぐさっ。俺のライフを削る言葉のナイフ。
現に今も困っているけどさ。
「だから、私たちが職場を用意することにしたわ」
「はい?」
職場を用意?
「ただ、条件が炊事洗濯掃除その他ができることだったんだけど」
みんなの視線が空になった皿に移る。
「これなら大丈夫そうね」
大丈夫ってなにがですか?
「炊事洗濯掃除って……俺にメイドになれとでも?」
「まあ、似たようなものね」
「女装は勘弁して下さい」
メイドさんは好きだけど、メイドさんになりたいわけじゃない。
「私たちの寮の管理人をやってもらうわ」
「寮って?」
「今度できるの。みんなそこで暮らす予定よ」
ひなたかさざなみ?
「ここでは全員で集まれないから」
だからクリスマスまでに?
「遠くに住んでいる者たちも喜ぶことでしょう」
愛紗まで?
「俺が管理人?」
「ええ」
みんなで頷かないで。
「女子寮の管理人が俺って無理があるでしょ」
「そうかしら?」
「親御さんも納得しないと思うし」
かわいい娘がこんなおっさんと一つ屋根の下で暮らすなんて危険だって判断するでしょうに。
「あなたなら問題ないってうちの親は言ってるわ」
こら、弟夫婦、俺の危険性ぐらいわかっていてくれ。
「なにかあったら責任とってもらうし」
いまだに未練たらしくチラチラとお酒を見る雪蓮。脳内で飲んでいるのはお酒だと変換しているのかもしれない。
「皇一殿は、我らと暮らすのはお嫌なのですか?」
「そ、そんなことはないけど……」
おかしい。なんでこんなことになったんだろう?
今日はハロウィンのはずなのに。
……はっ!
「そうか! これがハロウィンのイタズラなんだな!」
「イタズラ?」
「いやあ、俺、てっきりイタズラってえっちな方のとばかり思っていたけど、こんな手でくるとは」
すっかり騙されちゃったよ。
これからドッキリのプラカード持った子が入ってくるんだよね。
「イタズラはこれからよ」
「えっ?」
「この国にはあなたの言う法なんてないのよ。だからなんにも問題はないの」
「どうせだったら飲酒にも法の制限がない国がよかったんだけどなー」
ニヤリと笑う華琳ちゃんと愚痴ってる雪蓮ちゃん。
華琳ちゃんが望んだこの外史だと、俺と華琳ちゃんが結ばれるのに、なんの障害もないらしい。
でも、法的にはそうかもしれないけど、世間的にはまずい。
オタクやロリコンはご近所さんにはばれてないんだってば!
「ま、まだ早いでしょ」
「私の母親がいくつで私を産んだか知っているでしょう?」
「な、何歳だったっけかなー……」
はやくドッキリのプラカードきてくれないかな。
管理人とかも嘘だって早く教えてくれないかなぁ……。
ハッピーハロウィン
USOくえはもう少しお待ち下さい
少し予定変更なんです
まさか闘神都市2が……