恋姫†有双   作:生甘蕉

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六話    人質?

 それはまるで某補完委員会のよう。

 モノリスのごとく特務機関司令ポジションの俺を責め立てる。

 俺はあそこまで打たれ強くないのに。

 

「また死んだの。あるのは性欲だけの無能男ね」

 道場に舞い戻った俺を桂花の冷たい視線が迎え入れる。

 

「軟弱者め!」

「いい加減にしてもらいたいものだな」

 春秋姉妹も俺を叱責。

 

 今回はその上、唯一の心のオアシスであるはずの季衣ちゃんまでもが恨みがましい目を向けている。

 いつもだったら庇ってくれたり慰めてくれたりするのに、死んだタイミングが悪かった。

「これから御飯だったのに!」

 

 なにより辛いのは華琳ちゃん。

「生きて戻ってきたら、と言ったわよね? そんなに私の夫になりたくないのかしら?」

 そして放たれるは特大のため息。

 

 う、うわあああああああぁぁぁん!

 俺だって死にたくて死んだわけじゃないのにー!

 

 

「泣いたって許さないわよ。やっと資料をまとめ終わって、これから華琳さまにかわいがってもらえるはずだったのに!」

 ごめんなさい。今朝のセーブからやり直しです。

 

「今日は珍しく溜まった書類を片付ける予定だったのだ。なのに邪魔をされてやる気がなくなったではないか!」

 それ絶対嘘でしょ、春蘭。

 

 

 

 なんか引き継ぎって俺の心が辛くなるだけ?

 近くにいないから俺の死亡回避、手伝ってもらえないし。

 これ以上引き継ぎ増えたら俺、ドMになるか狂うかしそう……。

 

 心機一転して新たな人生を歩みたいのに、逃げ出すようにロードですよ。

 

 

 

 人質として北郷軍にいる俺。

 これがまたよく死ぬ。

 

 操られた華琳ちゃんを助けたのが干吉の気に障ったのか、やたらに俺に刺客を送り込んでくる。

 俺じゃなくて北郷一刀狙えばいいのにー。

 あっちは主人公補正で殺されないのにー。

 だから俺狙ってるんだろうけどさー。

 北郷軍の警備緩すぎー。

 

 刺客に殺された時は、ロード後その時間に北郷一刀のそばにいるようにしている。

 たいていいっしょに武将がいるから俺への刺客倒してくれる。いいところで邪魔してるって睨まれるけど非処女に恨まれたって気にならないもーん。

 

 一刀君は笑って許してくれるし。

 一刀スマイルってやつ?

 これが主人公のカリスマ?

 惚れてまうやろー!!

 

 ……いかん、少なくとも身体は通じ合った女の子たちに冷たくされておかしくなってるようだ。

 冷静にならないと。

 こんな時は幼女と遊んで頭を冷やそう。

 璃々ちゃんどこかな?

 

 

「あ、人質のおじさん」

「それは君もいっしょです小喬ちゃん」

 なんだリストラ二喬か。中古幼女に用はないのに。

「む。なんか妙にムカツイたんだけど」

「悪阻? 御遣い君の子?」

「そんなワケないでしょう! 喧嘩売ってるの!」

 いや喧嘩売ってるのは君でしょ。

 

「ごめんないおじ様。ほら、小喬ちゃん行こう」

 ペコリとお辞儀して小喬ちゃんの腕を引く大喬ちゃん。

 おじ様か……うう、一度は言われたかった呼ばれ方なのに……この娘、付いてるんだもんなあ。二喬は残念な部分がデカすぎる。だからリストラされたのかな?

 

「あ、大喬ちゃん。周瑜殿って今でも連絡とってるよね。早くいい医者見つけて療養に専念させた方がいいよ」

「え?」

「どういう意味よ!」

 小喬ちゃんが俺を睨む。そういえば周瑜の嫁さんだったんだっけ。その設定もリストラされた理由の一つかも。

「天の知識ってやつ。御遣い君ほどじゃないけど、俺も知ってる」

「何をよ!」

 大喬ちゃんの秘密とか。

「周瑜殿は病に倒れる」

 あ、無印だと敗戦時に焼け落ちる城で死んだんだっけ?

 

「なんでそんな事を教えてくれるんですか?」

「白装束に嫌がらせ、かな」

 周瑜との戦いがスキップできればラストに早くいけるし、戦力温存できるでしょ。

 ……もしも周瑜が死後の世界にいってしまったら道場主はどんな反応するんだろう。

 道場に周瑜も出現するんだろうか。

 

「なによソレ? ……魏の策略? あんたもその為に送り込まれてきたのね!」

「そうだったんならどんなに気が楽か。華琳ちゃん、なに考えているんだよう」

 あんたも、ってところにツッコミ入れもせずに大きくため息をつく。

 

 いまだに俺を人質にした意味がわからない。

 道場で聞いてみても桂花が邪魔する。

「泣き虫強姦魔はそんなこともわからないの?」

「桂花はわかるのか?」

「顔も見たくないからに決まってるでしょ! こっち見ないでよ、汚らわしい!」

 いかん。また悲しくなってきた。泣きそうだ。

 

「い、いきなり泣き出さないでよ、気持ち悪い」

 また泣いてるの、俺?

「君たちならわかるだろ。愛しい人と会えないこの切なさが!」

「そ、そんなの……お姉ちゃんもつられて泣かない!」

「だって……」

 結局、その後小喬ちゃんも泣き出して三人で泣いた。

「あァァんまりだァァァ」

 泣くだけ泣いたら落ち着いた。スッキリ。

 

 

 

 

 それにしても 璃々ちゃんどこにいるんだろう?

 驚くべきことに、城に軟禁状態とはいえ、かなり自由に動けるようになっている俺。

 拘束して厳重に見張りつけててくれた方が殺されにくくていいのになあ。

 まあ、俺のおかげで城に侵入した刺客を撃退できたり捕まえたりしてるおかげかな?

 

 ……もしかして俺、餌にされてる?

 刺客ホイホイ?

 ならもっと護衛とかつけてよ!

 

「一人とは珍しいな一刀君」

 廊下でばったり一刀君を発見した。一人でいるなんて本当に珍しい。

 いつも誰かしら女の子といるのに。

「さっきまで鈴々といっしょだったんだけどいい匂いがするのだー! って置いてかれちゃって」

「そりゃ残念。厨房にでも行ったのかな?」

「さあ? 行きますか?」

「うーん。あんまり腹減ってない。それよりも少し話がしたいんだけど時間ある?」

 

 城の中庭で二人でのんびり日向ぼっこしながら会話する。

「俺、帰れるのかな?」

「それって、元の世界ですか? それとも魏?」

「元の世界か……コミケには行きたかったけどあまり帰りたくもないな」

「え?」

 驚いた顔で俺を見る天の御遣い。

 

「俺ここ数年、実家に帰ってなかったんだ」

「はあ」

「弟夫婦がいっしょに実家で暮らしてるんだけどさ、娘がいるんだ。俺の姪っ子」

 うん、俺のファーストキスの相手。

「その娘がさ、本当に俺と同じ血混じってるの? っていうぐらい可愛いんだよ。ありゃマジ天使。大きくなったら華琳ちゃんぐらいの美少女になるね!」

「伯父バカですね」

 ふん。贔屓目抜きの話だっつの。

 もし万が一機会があっても君には会わせてやらん!

 

「その子が四つの時言ったんだ。おじちゃんのおよめさんになるーって」

「可愛いですね」

「俺は絶望したね。せめて従兄妹だったらよかったのにって。それからだよ。俺が実家に帰らなくなったの」

 なんでこんな話、一刀君に話してるんだろ。今まで誰にも言わなかったのに。主人公パゥワーってやつ?

「こっちくる前はいつ死んでもいいって思ってた。いつ自殺してもおかしくなかったなあ」

 

「……姪子さんに会いたくないんですか?」

「会ってどうする。禁断の恋は趣味じゃないよ」

「いや、格好良く言ってますけど相手まだ小さいお子さんですよね?」

「一刀君はロリは駄目かい?」

「最高です」

 ニヤリとサムズアップする一刀君。

 惚れてまうやろー!

 俺は同志を得た。

 

 その後、季衣ちゃんや張飛ちゃんの話で盛り上がる。

「そうか、最近鈴々が背負ってるランドセルは皇一さんの仕業だったのか」

 人質の俺のことをさん付けで呼んでくれる一刀君。本当にエエ子や。

「偽白装束の作成の時に製作を頼んでいたのが完成したって送ってくれたんだよ。律儀な店主だね」

 ランドセルの話に俺と店主が夢中になったせいで、肝心の偽白装束の出来は悪かったけれど。

「日頃の感謝をこめて季衣ちゃん将軍にプレゼントする予定だったんだけど、送ってきちゃったから張飛ちゃんに使用感を試してもらってる」

 似てるあの二人なら感じ方も近いだろうし。

 張飛ちゃんにもよく似合ってる。季衣ちゃんが装備した姿も見たいなあ。

 

「すごいいい出来だった。こっちの職人って感心するばかりだ」

「一刀君」

「なに?」

「ランドセルは元々、軍用の装備だったって知ってるかい?」

 某ペディアを見ればわかるように本当の話である。

 

「軍人が、つまり、武将が装備しててもまったく問題ない」

 ハッとした表情で俺を見る一刀君。

 無言で頷く俺。

 固い握手をする二人。

 

 腹上死時の経験によって巨乳を克服した俺。

 関羽や馬超のランドセルもアリ!

 

 

 ……で、一刀君の手の感触で大変なことに気付いてしまった。

 これってもしかして拠点イベント?

 俺、フラグ立てられてる?

 まさか華琳ちゃん、一刀君に俺を攻略させて仲間に入れるつもり?

 

 いくら一刀君がいい男でも俺にそっちの趣味はない!

 一刀君もおっさんなんて嫌だろうし……。

 

 血の気が引いた時、孔明ちゃんが一刀君を呼びにきた。

 良かった。

 拠点イベントじゃなかったようだ。

 

 

 

「兵たちの間で病が流行の兆しがありましゅ!」

「干吉の仕業だ」

 思わず呟く。覚えてないけどあってるはず。

 たしか無印恋姫でこの先おきることは、みんなあいつらの仕業。

 

 


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