欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

58 / 85
ネタ回?

誤字修正しました


瀟洒な執事

 学園祭当日となり、IS学園にいる男二人は同時に溜め息を吐き出した。

 予め執事服を着た穂次とは違い、前々日にこっそりと穂次の部屋で衣装合わせをした一夏がこうして公衆の前で執事姿を見せるのは初めてである。

 

「ほぁぁ……」

「うむぅ……」

 

 声を出したのは篠ノ之箒とラウラ・ボーデヴィッヒである。この二人もメイド服を纏っているのだが、穂次はソレを弄ることはなかった。決して執事としての振る舞いを演じているという訳でもなく、ただ弄るタイミングを逃したからだ。

 小道具込みの穂次とは違い、魅力を十二分に発揮出来る一夏は困った様に引きつった笑いを浮かべている。

 

「なあ穂次」

「無理だから」

「断るのが早過ぎる。俺はまだ何も言ってない」

「いいか、俺にはどうしようも出来ない。つーか、今の状況は俺も被害者だ。この時間が一刻も早く終わる事を願ってるよ」

「ああ……」

 

 小さく話していた一夏と穂次が今一度溜め息を吐き出した。

 

「ほらほら、二人とも! もっと笑顔で」

「寄り添ってもいいよ!」

「ああ^~執事二人が微笑んでるんじゃ^~」

「どうしてわたくしはカメラを忘れてしまったんですの!」

「任せてセシリア。僕は動画も撮ってるから!」

「流石はシャルロットさんですわ!」

「しゃ、シャルロット……その」

「任せてラウラ……皆に無料配布するよ!」

「流石はシャルロットだ! 私に出来ない事を簡単にやってのける!」

「痺れて憧れてもいいよ、箒!」

 

 一夏と穂次に当たるフラッシュ。その向こう側から聞こえる聞きたくない言葉の応酬。幼馴染が壊れている様な気がしないでもないが、フラッシュの向こう側は幻想とか、そういう物だと信じて止まない一夏は考えるのを辞めた。

 穂次に至っては既に諦めているのか、それとも演じる事に徹しているのか、ともかくとして執事としての温和な微笑みを浮かべている。クロスの掛けられた腕がどことなく腹部を抑えている様な気もするが気のせいだろう。

 

「なあ穂次」

「くっ、俺の胃に封印された邪龍が暴れやがる……!」

「それたぶんストレスっていう龍だから」

「逃げ出したいぜ、相棒」

「俺もだよ、親友」

「ほら! 二人とも笑って笑って!」

「いっそいがみ合ってもいいよ!」

 

 穂次と一夏は天井を向いて、深く、深く息を吐き出した。

 どうして自分達は接客前にコレほど疲れているのだろうか……。その答えは当然出てこない。

 因みに写真は学園祭の裏側で大量に販売されることになる事を織斑一夏は知りはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭が始まり、一年一組の『ご奉仕喫茶』も滞り無く開店した。

 数分程で長蛇の列が出来上がったのは男性生徒である一夏と穂次が執事服を着ているからだろう。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「誰!? この人!」

「ハハハ、私はお嬢様方の忠実な(シモベ)でございますよ。では、コチラのテーブルへご案内致します」

 

 ニッコリと笑みを浮かべた完璧な執事たる穂次はその振る舞いを保ったまま来店した女生徒――お嬢様達を開いているテーブルへと案内していった。

 尤も、穂次の普段は知れ渡っているので今の穂次を見たお嬢様方が同じ事を言うのだが、その対処も既に慣れた物である。

 立ち振舞いから洗練された動きをしている執事とは違い、なんともチグハグに頑張っている執事が一人。

 

「いらっしゃ――、お帰りなさいませ。お嬢様」

 

 コチラは未だに姿に慣れていないのか、何度か言葉に詰まりながらもお嬢様方の相手をしている。

 元々のポテンシャルが高いのか接客自体はそれ程問題もないのだが、やはりドコかチグハグであった。

 

「アチラのお嬢様方にご要望は聞いたかね?」

「あ、悪い……」

「ふむ、私が行きましょう。あと言葉遣いは気を付けたまえ」

「お、あー、ハイ」

 

 なんとも調子が狂う、というのは一夏の思考なのだが、予め(あらかじめ)穂次がキャラの設定を執事服を着た一夏に伝えていたのでそれ程の違和感はない。いや、違和感自体はあるが。

 成りきる事にさっぱり違和感を覚える事のない穂次は設定通りに演じきっている。設定の対象が以前出会ったメイドさんとセシリアから聞いた理想の執事像を混ぜた物である事は穂次しか知らない。

 

 ともあれ、瀟洒な執事はメガネを掛けて落ち着いている姿や立ち振舞いから幾分か年上に感じてしまう。そして逆にチグハグな執事は完璧な執事に窘められてバツの悪そうな顔をして仕事を変わらずにチグハグに頑張っている。

 

 コレは、イイ。

 誰とも言わず、全員が思った。設定を考えたヤツを呼び出してよくやったと褒めてやりたいぐらいにニーズに沿った物であるとお嬢様方は認めた。

 設定を考えたヤツは実に瀟洒に執事をこなしている存在なのだが、ヘラヘラと笑いながら一夏と人間関係の設定を決めた事はお嬢様方には決して言えない事実であった。深夜テンションだったのだ、と後々に一夏は語るだろう。

 

 当然、この場に居る女生徒はお嬢様方だけでなく、パタパタと動いているメイド諸君もそうだ。

 メイド達はある程度の設定を穂次から聞かされていたが、まさかここまで完璧に演じるなんて事は思いもしなかった。

 

 お嬢様の案内から注文、一夏のフォロー、メイドのフォロー。更にはお嬢様方のニーズに応える。瀟洒な執事はコレを完璧にこなした。数分前まで「俺の胃に封印された邪龍が……!」なんて言っていた本人とは思えない。

 

「お帰りなさいま――」

「……何よ」

「いえ、素敵なお召し物だと。いえ、失礼、鈴音様」

「つーか、何? アンタそのキャラで行くわけ?」

「ハハハ、仕事ですので」

「あっそ。で、執事さんはアタシをどう接客してくれる訳?」

「暫しお待ち下さい。お気に召す様、微力を尽くします故」

 

 軽く頭を下げた執事はクルリと踵を返して一夏へと視線を向けた。困った様に接客をしていた一夏はその視線に気付いた。

 ――何かあったのか?

 ――ご指名だぞ、色男!

 ――ホモじゃねぇよ!

 見事に噛み合ってない二人のアイコンタクトが交わされた。

 ムッとした表情のまま入り口へと来た一夏はソコにいた鈴音の姿を見て暫し停止する。

 

「何してるの? お前」

「……それ、アタシも言っていいかしら?」

 

 片や執事服を纏った男。片やチャイナドレスを纏った女。

 穂次は頭を抱えて溜め息を吐き出した。唐変木とツンデレの会話はここまで酷いのか、と改めて思った。自分にも言える事なのは見ないことにした。

 

「では鈴音様。私はコレで」

「ええ。ありがとう」

「いえ、実に素晴らしい臀部だと私は言っておきましょう」

「ぶん殴るわよ!?」

「ハハハ、因みに我が喫茶のオススメは『執事にご褒美セット』ですので、是非に」

「あ、穂次テメェ!」

「ありがとう、じゃあソレで」

「承りました。少々、その執事をご堪能下さい」

 

 少しだけ執事の仮面を剥がしていつもの様にヘラリと笑った穂次はまた瀟洒な仮面を被って注文を通しに行く。

 

「さ、席に案内しなさいよ。執事君?」

「はぁ……コチラへどうぞお嬢様」

「おじょ……ああ、だからアイツはアタシの事を様付けだった訳ね」

「執事長が何か?」

「別にィ。というか執事長って?」

「そういう設定らしいデス」

「ふーん……で、アンタは?」

「新米デスので言葉遣いは許せ下さい」

「ふーん」

 

 何かを考える様に手で口元を隠した鈴音。正確には口元の笑みを見せないようにする為なのだがこの新米執事はそういう事に疎いのでさっぱり気付いていない。

 

「お待たせいたしました、鈴音様」

「パーフェクトよ、穂次」

「感謝の極み」

「お前ら息合うよな」

 

 恭しく頭を小さく下げた穂次に対して一夏は溜め息混じりに言葉を放つだけで精一杯だった。

 そんな様子を一瞥してから穂次はそのテーブルから離れた。なんせお求めは気に入る空間なのだから、自分が居ては邪魔になってしまうのだ。

 

「穂次さん、二番テーブルの注文なのですが」

「――……」

 

 穂次の時間が止まる。金色の髪のメイドを見たからだ。なるべく意識しないように仕事をしていた穂次だが、こうして目の前にすると思わず見惚れてしまう。通常であるのならば「ナイスメイド!」なんて言ったことだろう。今の自分が演じておらず、更には相手がセシリアで無ければの話だが。

 時間が止まって様に固まった穂次を訝しげに見て、セシリアは小首を傾げる。

 

「どうかしまして?」

「いえ、特には。それでセシリア、何かありましたか?」

「いえ、何かという訳ではありませ――……」

 

 セシリアの思考が少しだけ止まる。二番テーブルに執事にご褒美セットを注文された様な気がするが、そんな事よりも何か大事な事を見落とした様な気がする。いや、絶対に聞き逃した。

 次は穂次がキョトンとしてセシリアを見る番である。

 

「何か?」

「いえ、何でもありませんわ」

「……マジで何かあったか?」

「突然戻られても困りますわ……」

「ヒェッ……まあ何かアレば言ってください。こんな格好だし、相応に振る舞えるさ」

「その、少しは格好いいですわよ」

「ハイそこ、イチャイチャしない」

 

 メイドと執事の仲を邪魔する様に音を立てて、アイスハーブティーと冷やしたポッキーが置かれたトレイが置かれた。

 少しだけムスッとした顔でセシリアを睨んでから、穂次にジト目を向けたシャルロット。一応メイドの格好はしているが午前中はキッチン担当である。

 

「穂次はアッチに執事にご褒美セットを持ってく」

「へいへい。従順な執事は瀟洒に持っていくさ」

「立ち振舞い」

「――失礼、ご主人様」

 

 しっかりと立ち振舞いを直した穂次はトレイを片手で持ち上げて背筋を伸ばして歩き出す。その後ろ姿をちょっとだけ見惚れてから二人は再起動を果たした。

 

 ご奉仕喫茶は実に順調なスタートを切った。

 

 

 

 

 

 

 時間は進むもので、一夏と穂次の為だけに用意された小さな空間で穂次は溜め息を吐き出した。幸い、もう一人は現在自分に代わってわたわたと動いている筈だ。

 首を締めていたネクタイを緩めて、改めて大きく息を吐き出した。小さく積もっていた疲労を吐き出して、首の骨を鳴らす。そこには瀟洒な執事など居らず、執事の格好をした穂次がいるだけだ。

 小道具であるメガネと白手袋を置いて、穂次はその空間から出て行く。

 

 

 少しして、その空間を開いた存在がいた。二名程。

 メイド服のシャルロットと同じくメイド服を着たセシリアである。標的がドコにも居らず、着替える空間に突貫したというのに、やはり居ない。

 

「せっかく休憩を合わせたのに!」

「探しますわよ!」

 

 慌ただしくスカートを翻して走りだすメイド二人。

 だたでさえ男気の少ないIS学園で執事姿の穂次を探すのは実に簡単な事だろう。とりあえず騒ぎがありそうな所を見れば居るはずだ。

 

 

 

 穂次は予想通りにスグに見つかった。その穂次をバレない様に曲がり角の影に潜んで睨む二人。

 決して彼女らが恥ずかしがって穂次の元に行かない訳ではない。

 

「――誰ですの、あの女」

「――知らない女だね」

 

 バッチリと目のハイライトが消え失せた二人の視線の先には穂次がいる。

 コチラはヘラヘラといつもの様に笑みを浮かべて会話をしている。コレは問題ない。だが相手が問題なのだ。

 スーツをはち切れんばかりに押し上げた胸にタイトなスカート。スカートから伸びるスラリとした脚。金を細くしたような髪が波うち、遠目からでも分かる美女である。そんな人が穂次と話している。

 視線と思考で人を殺せるのならば二人は彼女を千回程は殺せただろう。二人合わせて二千回だ。

 そんな様子を睨んで数十秒程、その金髪の美女の視線と二人の死線がかち合った。

 少しだけキョトンとした美女は何かを察した様に勝ち誇った笑みを浮かべて穂次へと向き直った。そして両手で穂次の両頬を抑えて、顔を近づけていく。

 

 何かが切れる音が二つした。

 

「何をしてますの!?」

「あら、残念ね」

 

 声を荒げて自身の怒りを露わにしたセシリアと無言で怒りを表しているシャルロット。その二つの怒りを受けても何のそのと言わんばかりにニッコリと余裕の笑みを浮かべる美女。

 穂次と言えば何が起こっているのか理解出来ていないのかポケーッとしている。

 威嚇するメイド二人を数秒ほど視界に収めた穂次はようやく再起動を果たして声を出した。

 

「あー……えっと、二人ともどうしたのさ?」

「穂次、この人を紹介して貰えるかな?」

「いや、別に」

「紹介してもらえるかな?」

「アッハイ……」

 

 ニッコリと笑っている筈なのに怖いシャルロットに気圧され、穂次は震えを取る様に適当な声を出した。「あー」だの「えー」だのと言っている最中に美女が口元を笑みで象る。

 

「ねえ穂次君。彼女達はガールフレンドか何かかしら?」

「ふぁっ!?」

「そうじゃないなら私達の関係には口出し出来ないわよね?」

「あ、いや、えー、どうしてそうなってんですかね」

 

 穂次の腕を引いてその大きな胸に抱き寄せた美女は余裕を笑みに変換させて二人を見下した。物理的な意味ではなくて、精神的な意味で。

 ムッとした二人は空いている穂次の腕を引っ張り、戻ってきた穂次を両方から抱きしめて美女を睨む。

 

「わたくしは穂次さんの、こ、婚約者ですわ!」

「私は穂次の恋人だから」

「ふーん……」

「あー……えっと、あんまり二人で遊ばないでもらえます?」

「穂次さん! いい加減にこの方が誰かを教えていただけますか?」

「そうだね、どういう関係か私スゴく気になるなー」

「ヒェッ……」

 

 セシリアの震えが伝達するように、握られた腕が僅かに揺れる。

 シャルロットの怒りが伝達する様に、握られた腕が僅かに揺れる。ついでに痛みも走る。

 穂次は神様を呪い殺したい気持ちであった。少しだけ息を吐き出して、思考を纏め上げる。

 

「えー、コチラ。政府から脱退した俺の後見人である、ミューゼルさん。二人が思ってる様な仲じゃないです」

「あら、ツレナイわね」

「そ、そうでしたのね……」

「す、すいませんでした」

「いいのよ。私も揶揄う(からかう)ような事をしたんだし」

 

 穂次の後見人である、と聞いて二人は少し身を引く。対してミューゼルはニッコリと二人を見てから穂次へと視線を向けた。

 

「それにしても、こんなガールフレンドいたなら言ってくれればいいのに」

「ガッ、!?」

「あら、違うのかしら? さっきは婚約者と恋人って聞いたけれど?」

「そ、そういえば! 穂次って学園に権利とかがあるんじゃなかったっけ?」

「スゲー急な話しの切り替えッスね」

「ん?」

「何でもネーです。まあややこしい事はさっぱりわからないけど、卒業後の事も考えて後見人がいる方がいいって事を教えてくれたから、知り合いのミューゼルさんに頼んだって訳です」

「そうなんだ」

「それで、三人はどこまでイッたのかしら? キスはした? まさかもう!」

「無いですから。つーか、時間ヤバイんじゃないッスか?」

「ん? ああ、そうね。じゃあ二人とも邪魔をして悪かったわね」

 

 腕時計を見て時間を確認したミューゼルはそれだけを言い残して人混みの中へと消えていった。

 ソレを確認した穂次は息を小さく吐き出した。

 

「んで、お二人サンは何をしに?」

「そうだった。穂次一緒に回ろうよ」

「わたくしと一緒に学園祭を回りませんこと?」

「俺の身体は一つなんですが……」

「三人一緒に回るから大丈夫だよ」

「なるほどなぁ。つーか、近くないですか?」

「気のせいですわ」

「なるほどなぁ。柔らかい何かが当たってるんですけど?」

「当ててるんだよ」

「なるほどなぁ……ん?」

 

 穂次は首を傾げてみたがソレを二人を言及することはなかった。ならば自分の感じた矛盾はきっと取るに足らない事なのだろう。

 穂次はもう一度、小さく溜め息を吐き出してへらへらとした笑いを浮かべる。

 

 ソレが夏野穂次なのだから。




>>男のアイコンタクト
 普通はこんな物。

>>瀟洒執事と新米執事
 その内新米執事が攻めになって、BL展開になる。そういう薄い本が出回る。きっと。

>>ウッ、俺の胃に封印された邪龍が……!
 一般的な社畜の皆様にも封印されてるらしい。

>>写真が大量に販売されることを織斑一夏は知らない。
 織斑一夏”は”知りはしない。




どうせ言われる事を防ぐための言葉達
>>ミューゼルさん
 オリキャラではないです。ダレダローナー! スゲーレズッポイナー!

>>あ、ふーん
 そういう事です。心の内に秘めときましょう(腹痛
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。