欲望にはチュウジツに!   作:猫毛布

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女の子達の乖離世界など書かない二次創作者の屑。
表現が変に変わっていく感じがする……厨二っぽい?
元々ですな。


理想世界の主

 その世界は――ただ普通(イビツ)だった。

 決して地面から生えているビルが捩じり曲がっている訳ではない。

 決して壊れた武器がソコらに転がっている訳ではない。

 決して地面が白骨に隠されている訳ではない。

 決して太陽の昇らない漆黒が空を覆い尽くしている訳ではない。

 至って()()()()()

 

 その世界をゆるりと歩きながら男はへらりとした笑みを浮かべ続けた。

 

 誰も男に見向きもしない。誰も男の存在など知らない。男は存在などしない。

 男は誰にも視線を送る。男は誰でも知っている。男は確かに存在していた。

 

 男は世界(日常)を眺めながら、作り上げた積み木を見るように、少しの達成感を含んだ笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 織斑一夏にとってソコは眉を顰める程、(フツウ)だった。

 IS学園という舞台で、平々凡々な日常が流れていく。ソコには篠ノ之箒も凰鈴音もセシリア・オルコットもシャルロット・デュノアもラウラ・ボーデヴィッヒも更識簪もいる。更識楯無だって、織斑千冬だって存在していた。

 そこに自分が追加されたにも関わらず、その世界は()()()()を容易く受け入れた。

 姦しく騒ぐ女の子達。自分を叱る姉。やんわりと自分を窘める温和な先生。人誑しのような先輩。一夏はそれを日常だと認識出来た。同時にそれが歪である事も理解出来てしまった。

 それこそ――それが()()()()()である織斑一夏の役目でもあった。

 

 姦しく騒いでいた幼馴染達に気付かれないように移動を果たした一夏は空を見上げてボソリと言葉を呟いて眉を顰めた。

 

()()()への通信は切れてる、か」

 

 現実世界に置いて自分を見守っているであろう気の弱い友人を思い浮かべて、悩むように一つ唸る。

 一夏はココが電脳に作り上げられた世界である事を知っている。そして、この世界の役割が『夏野穂次を捕らえる為』という事も知っている。だからこそ、この世界が歪だと言えたのだ。

 体感時間にして数分前、アリスに扮した少女達を助けた一夏はお礼の言葉と一緒に背中に蹴りをもらってこの世界へとやってきた。

 アリス達の世界はそれこそ彼女達に甘い世界だと言えた。全てを肯定される世界と言ってもいい。夢の世界――その中に登場していた織斑一夏(自分)夏野穂次(親友)を打倒して、「なぜ自分があの場に居たのか?」という疑問をアリスにブツケて蹴りと罵倒と冷たい笑顔などを頂いた一夏である。追加するように言えば、更識簪からは「……唐変木」という言葉を吐き出された訳だが。

 ともかくとして、一夏はこの世界が残った親友に肯定的な世界である事をなんとなくではあるが、理解して挑んだ。それこそ、全裸の少女達が並んで親友に奉仕している姿を覚悟して、自分に扮した何かがまるで奴隷なような扱いを受けている事も覚悟してこの世界へと挑んだのだ。

 蓋を開けてみれば、その世界は普通(イビツ)でしかなかった。

 

 今までの世界ならば、自分――或いは親友――を倒して、アリスを現実へと目覚めさせる。そういった工程を踏んでいた一夏にとって、この世界はお手上げであった。

 なんせ()()()()()()()がいないのだ。

 夏野穂次。助けるべき存在。この世界に居なくてはならない存在。けれど、その姿が無い存在。

 

「あら、一夏さん。お困りですの?」

 

 ビクリ、と一夏は背中を揺らして振り返った。ソコには太陽を照り返す金色の髪を揺らした少女が疑問と微笑みを浮かべていた。

 一夏にとってはよくわからない()()を奪い合う少女達の戦い。その戦いにこの少女もしっかりと参加をしていた。だからこそ、違和感があり、怖くもあった。

 一夏は空をもう一度見上げて、意を決して口を開く。

 

「なあ――、穂次を知らないか?」

「ほつぎ? なんですのソレは……」

「あー……いや、なんでもない」

「変な一夏さんですわね」

「あはは……そうだな」

 

 変なのは、少女である。そんな事を一夏は吐き出さなかった。乾いた笑いを浮かべて、どうにか表情を取り繕う。そうでもしなければ、吐き出してしまいたい気持ちで一杯だった。

 自意識が薄い、という事は聞いていた。聞いていただけで理解などしていなかった。ようやく一夏は理解した。

 全てを肯定されるような、夢のような世界であっても――いいや、夢の世界だからこそ、ソコに不必要なモノは存在出来ない。だから、穂次は存在していない。

 強く拳を握りしめて、少女の前からどうにか逃げ出して一夏は痛くなる程に歯を食いしばった。

 

「――……馬鹿野郎」

 

 小さく呟いた言葉が空気を揺らし、壁に強く拳が打ち付けられる。

 こんなモノ、夢である訳が――理想である訳がない。自分にとってステキな世界に自分が居ないなんて、そんな事が許されて良い訳がない。

 

「っざけんな! 穂次! 居るんだろ!」

 

 親友だから。親友として。少なからず穂次に影響されていた一夏は叫ぶ。冷ややかな瞳を向けられても関係ない。そんなモノこそ不必要だ。

 居ないはずの男の名前を叫んで、一夏は辺りへと視線を向ける。

 人、人、人人人人――。忙しなく巡る存在達を見送り、その奥に立っていた男に気付く。

 "のっぺらぼう"のように瞳も口も描かれていない仮面で隠れた顔。IS学園の男子制服を着た存在は丸いテーブルに肘を付き、気怠げに積み木を重ねている。

 

「穂次ッ! 退け、退けよ!!」

「――――……」

 

 人混みを掻き分けて、一夏は男へと向かう。一夏の荒げた声に反応したのか、男は無地の顔を一夏へと向ける。

 男は静かに重ねた積み木の一つを掴み、ゆっくりと抜き取り――捨てた。

 

「おわっ!?」

 

 驚きを隠そうともしない一夏はべしゃりと自分の勢いを殺せずに地面へと転げた。カラン、と一夏の前に捨てられた積み木。男は溜め息を吐き出したのか肩を下げて、気怠い様子のまま椅子に深く腰掛ける。

 

「穂次、助けに来たぞ!」

「……――なぜ?」

「なんで、って……ココは現実じゃないだろ」

「そうだな」

 

 一夏の言葉に対して肯定した男は無地の顔を世界へと向けた。

 

「……――それでもココは平和だ」

「それは……」

「誰もが幸せで、誰もが優しくて、少しだけ騒がしい、ステキな世界じゃないか。何が不満なんだ?」

 

 男は机に置いた積み木を指一つで傾けながら、疑問を言葉にする。

 男の言葉通りならば、この世界は人間が描く普通の世界だ。優しくて、悪意が無く、幸福が少しあり、少しばかり騒がしい。そんな普通を描いた理想世界。

 一点を除けば、一夏もこの世界をある程度は肯定しただろう。けれど、その一点だけが織斑一夏にとっては許せなかった。

 

「お前はどうなんだよ」

「……俺?」

「そうだよ。お前は幸せなのかよ」

「俺なんてどうでもいいだろ」

「どうでもよくねぇよ!」

 

 泣きそうな顔で一夏はそう叫んだ。誰しもが幸せになる。そんな世界に親友がいないなど、そんなモノを認められる訳がない。

 男はそんな一夏の声に反応も示さずに、積み木をゆっくりと重ねる。まるでソレが義務のように。

 

「どうしてお前が幸せじゃない世界なんだよ! もっと求めてもいいだろ! なんでお前だけが居ないんだよ!」

「……――ないだろ」

「答えろよ!」

「仕方ねーだろ!! 俺だって幸せになりたく無い訳じゃねェ! 俺だって不幸が好きな訳じゃねェ! それでも――仕方ねーだろ!」

「なんでだよ!」

「――んだよ! 他人の幸せを願っちゃダメなのかよ! 誰かの為に頑張っちゃいけねぇのかよ!」

「そうは言ってねぇだろ! なんでその幸せにお前が居ないんだよ!」

「俺が居るよりも幸せなんだから仕方ないだろ!」

「そんな事ねぇよ!」

 

 男が手に持っていた積み木が滑り落ち、机に重ねていた全てがガラガラと崩れ落ちる。

 "のっぺらぼう"の仮面がひび割れ、一部だけが剥がれ落ちる。ソレを覆い隠すように男は手を顔に被せた。

 

「……――本当ニ、ホントウにおレが幸セになってもいいノか?」

「ああ、本当だ」

「――あア……」

 

 男の手から白い欠片がバラバラと音を立てて崩れ落ちる。まるでソレを待ち望んでいたように、男はゆっくりと手を降ろしていく。

 ――そこには何もなかった。

  あるのは底の見えない黒だけ。黒。不思議と一夏は"顔"であると認識はしたけれど、ソコには表情も目も鼻も口も肌も何もかもが無い"黒"しかなかった。

 

「あリガとう、一夏ァ、フヒ、ヒッヒッヒヒ! これで、ヒヒヒヒ、俺は()()()()()()()!」

「――ガッ」

 

 男は一夏の頸を掴み力を込める。"黒"がジワリジワリと肌色に侵食されて、その形を作っていく。一夏はその顔に目を見開きながら、男の腕を掴み首の拘束を阻む。

 男の顔を一夏は知っていた。何度も鏡で見た顔だ。知らないわけがない。

 

「あァ、()()()()()()()さ! ひひっ、ヒッフヒ!! 俺はやっと()()()に成れるんだッ!」

 

 (一夏)の叫びを耳にしながらも、一夏()の目が霞んでいく。

 嗤い、嗤い、嗤い、嗤い。喉を引き攣らせて嗤う()()。そして既に手の力があまり入らない()

 フワリと一夏()の肌に風が当たる。首の拘束が外れ、ゲホゲホと正常に呼吸がようやく再開された。

 涙目になりながらも一夏は顔を前に向ける。

 

「よォ、相棒。まだ生きてるか?」

 

 ソレは探し求めていた存在だった。

 ソレは救うべき存在だった。

 ソレは、自身の親友とも呼べる存在だった。

 いつものようにへらりと笑みを浮かべた夏野穂次が一振りの刀を握り、ソコに立っていた。

 目を白黒させて"男"と穂次を見比べる一夏に対して穂次はどこか困ったように眉尻を下げる。

 "男"は何もない顔で穂次を睨み、口調を荒げる。

 

「どうしてだ! 何故だ! お前が――! 俺が望んでることだろ!!」

「別に俺は一夏になろうなんざ思ってねーよ、バーカ」

「いいや、お前は思ってる筈だ。全部消されたお前が望まない訳が――」

「望んでた――……でも、ソレはもう終わった話なんだよ。俺は主人公には成れねーし、成る気もねー」

 

 穂次は息を吐き出しながら、刀を構える。構えとしては至って自然体だった。ただ立っているだけだと言ってもいい。それでも後ろから見ていた一夏はソレを"構え"であると感じた。

 隙がない訳ではない。それでも攻撃をしたならば容易く反撃される事は想像出来た。

 

「そんな事よりも許せねー事があるんだよ」

 

 穂次はチラリと後ろにいる一夏へと視線を向けて、刀を強く握り直した。それこそ穂次の琴線に触れたのだ。穂次が許せない行為だ。許される訳がない。

 

「――俺の声を使って一夏とホモホモしい会話なんかするんじゃねぇよ!!」

「そこかよッ!!」

 

 "男"を一太刀で両断した穂次は付いてもいない血液を振り払い、腰に差している鞘へと刀を収めた。

 一夏はドコか疲れたように穂次を見て、ドコか安心してしまった。

 

「それで、一夏。こんな所まで何しに来たんだよ」

「何って、お前を助けに来たに決まってんだろ!」

「そりゃぁ、また……」

「というか、なんだったんだよ、アレ」

「アレ? あー……セキュリティ的なアレだ」

「なるほど……全然分かんねぇよ!」

「ほら、アレだよ、なんつーの? えっと、IS学園のセキュリティがヤバイ感じに俺の精神を解析して、なんかアレやコレをした結果だ!」

「すげぇあやふやだな」

「俺もわかんねーッス。つーか、IS学園の深部に潜ってたのに、変にセキュリティ反応するから戻ってきたらお前居るし。俺ビックリ」

「お前は何をしてんだよ……」

「いやー、なんか迷子になってたら助けてもらって、それで成り行きに任せてたら……」

「穂次、迷子センターは最初に場所の確認するんじゃなかったのか?」

「迷子センターだと思ったらIS学園中枢だった。俺は悪くない」

 

 いや、悪いだろ。とは一夏は言えなかった。そんな事よりも気になった事がある。

 

「助けてもらったって?」

「ああ! えぇっと、とりあえずこんな所に居たくもないから、移動するか」

「居たくもないって……」

「人に心を覗かれるのは好きでもねーの」

 

 それは、そうか。と一夏は納得してへらへらと笑う穂次の後ろを着いて行く。

 穂次に着いて、到着したのは一つの喫茶店だった。少し古びた喫茶店。扉を開ける時にベルの音と扉の軋む音が響く。

 店員による歓迎の言葉はない。店員が居ない訳ではなく、ドコか見覚えのあるような目付きの悪い店員が一夏と穂次を一瞥して舌打ちをした。

 ソレにそれ程反応もせずに穂次は軽く手を上げて目的の人物に声を掛ける。

 

「ヘイ! 彼女ォ! 一人ィ?」

「…………」

「おい、穂次。凄い顔されてるぞ」

「大丈夫だ問題ない。俺の心はお湯を入れたペットボトルだからなッ」

「クシャクシャじゃねぇか……」

 

 胸を張ってフフンとしている穂次に対して、一夏はどうしてか頭が痛くなった。

 閉じた瞳のまま二人の方を向き、少女は立ち上がる。銀色の長い髪を少し揺らして、頭を軽く下げる。

 

「初めまして、織斑一夏さん。私はクロエ・クロニクルと申します」

「えっと、どうも。初めまして?」

「クロクロって呼ぶと喜ぶゾ☆」

「今まで無表情だったのに、凄い顔が険しくなってるぞ」

「ふっ、喜んでるんだな。俺には分かる」

「ヘタレは黙ってくださいますか?」

 

 容赦などないクロエの一言によって穂次は大ダメージを受けた。普段から言われている言葉ではあるけれど、それでも言われる事に慣れるという訳でもない。

 そんな穂次は放って置いて一夏はクロエに向く。どうやら穂次に対しての一言で大凡の苛立ちは解消出来たのか、その顔は無表情である。

 

「えっと、それで?」

「クロニクルさんは今回の首謀者だよ」

「は?」

「クロニクルさんが犯人です……!」

「私が……犯人です」

「いや、キリッとしなくていいから。というか、真面目な人だと思ってたけどボケ側の人間なんだな。また俺の苦労が増えるんだな」

「ああ!」

「私は別にボケてなどいません」

「ソウダネ、ボケテナイネ」

 

 酷く痛む頭を放置する事に決めた一夏はやや細めた目で無表情なクロエを見つめた。どうしてかその視線は穏やかなモノだった。

 その視線に納得がいっていないのか柳眉を寄せて不満を表したクロエは小さく息を吐き出して、頭を振る。

 

「此度はお騒がせして申し訳ありませんでした」

「いや、まあ、俺はいいんだけど……」

「そうだよ。コイツは程々にイイ思いしてるだろうし」

「アナタがソレを言うのですか、セカンド」

「お前、何をしたんだよ」

「理想世界作れるって聞いたから全裸ワールドを作ってクロニクルさんに怒られたゾ!」

「…………」

「冗談だよ。本気にするなよ、一夏」

「そうです。このヘタレがそんな世界を作れる訳がありません」

「なあ俺ってクロニクルさんに何かしたっけ? 泣きそう」

「勝手に泣いてろ」

「ひぇっ……一夏も酷い」

「……そろそろ私の時間も限界です。これにて舞台を退場いたします」

「お、おう……?」

 

 ドコか劇染みた言葉を残し、クロエは綺麗に一礼をして0と1へと分解されて消えた。

 そんな様子をボンヤリと眺めていた一夏と穂次はお互いに目を合わせて、肩を竦める。

 

「これで一件落着だな」

「みたいだな。ホント、なんだったんだよ」

「まあまあ、それじゃあ俺たちも舞台から降りようぜ」

「穂次ってそういう言い回し好きだよな」

「格好いいからな!」

「そうだなー、よかったなー」

 

 一夏の棒読みを受けて穂次がへらりと笑う。それでお互いに気が抜けたのか、笑みが溢れる。

 

「んじゃ、現実世界で」

「おう、現実世界で」

 

 互いにハイタッチを交わし、一夏は0と1へと変換されて分解されて消えていく。ソレを眺めた穂次は息を吐き出して、口を歪める。

 

「あァ、ホント。悪いな一夏、もう舞台からは降りれないんだ」

 

 そう呟いた言葉は空気に溶かされて、穂次と共に0と1へと還元されて、世界からは誰もいなくなった。




>>"男"
 名も無い存在。

>>理想世界
 一夏の視点では名前が出てるけど、第三者視点の時では一夏と穂次とクロエ以外の登場人物が居ない。
 だから一夏もセシリアの名前を声として出してません。舞台として役割を持つ存在は在るけれど、決して別の存在。

>>"男"と一夏の問答
 実は答えはない。

>>穂「よォ、相棒。まだ生きてるか?」
 ヴァルキリア聴きながら書いてテンションが上ってた。ンミナミィ

>>ホモホモしい会話
男「俺が居るよりも幸せなんだから仕方ないだろ!」
一「そんな事ねぇよ!」
男「本当に俺が幸せになっていいのか?」
一「ああ!」
 間違いないな(白目

>>クロエ・クロニクル
 クロクロ。冷静な天然系のボケ。一番対処に困る。(後に出番は用意して)ないです。

>>舞台
 読者、作者から言えば「欲望にはチュウジツに」。
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