戦姫絶唱シンフォギア〜弓を番えし姫を守る騎士〜   作:流離う旅人

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長めです。なるべく同じ文字数で書いていくつもりですが、短くなることもあると思います。
駄文ですが読んで面白いと思ってもらえたら幸いです。


始まり

「……ん、ん」

 

大きな揺れで目が覚めた。車に乗ったところまでは覚えているのだがその後の記憶が無い。どうやら乗って直ぐに寝入ってしまったらしい。

 

「起きたか?」

 

と、高い女性の声が隣から聞こえた。

 

「ん、起きたよ師匠」

 

「もうすぐ依頼人の所に着く頃だ。起こす手間が省けたよ」

 

ハハハ、とタバコを吹かしながら師匠と呼ばれた女性が微笑んだ。

現在、二人が走っているのは舗装されていない砂利道である。

ガタガタという音が響き、身体を揺らしていく。

今回は、というか今回も依頼を受けこんな辺境を走っている訳だが段々と凸凹道に苛立ちを覚え始めた。

早く着かないかな、なんて外を見ながら思っていると師匠がドリフト気味に急ブレーキを掛けた。

シートベルトをしていたが慣性に従い、頭をフロントガラスに強く打ちつけてしまう。

 

「……痛いんだけど?」

 

「ハハハ、余所見しているお前が悪いんだよ。リヒト」

 

「事前に一言言う配慮は無いのかよ!?」

 

「無いな」

 

師匠はリヒトの言葉を真正面からブった斬った。

悪ぶれた様子もなく笑顔で。

車から降り、近くにあった小石を蹴り飛ばしながら思う。

こんなんだからずっと彼氏ができなーーー

ヒュンと何かが横を通り過ぎると後ろの方でサクッという音が聞こえた。

恐る恐る振り返ってみると一本のナイフが地面に突き立っていた。

 

「何か良からぬことを考えただろう?」

 

「そんなことは滅相もございません!」

 

内心、エスパーかよ!? と思いながら謝罪する。

嫌、もしかしたら本当に師匠はエスパーなのでは無いだろうか?

そう考えるのも無理はない。

何故ならリヒトはことごとく心を読んでいるかのように先読みされてしまうからだ。

 

「それで今回の依頼って何なのさ?」

 

「うん? まあ、主に護衛だな。私の古くからの友人達でね。何でもNGOの活動を手伝うそうだ」

 

「ふ〜ん、さぞかし心の良い人達なんだろうね。師匠と違って」

 

「それはどういう意味か言ってみろリヒト」

 

「そういう風にガキの言ってること間に受けて拳を作ってる奴の何処が心の良い人だと思う!」

 

「な、これは私なりのちょうきょーーー教育でだな」

 

「言い直せてないから! もうほとんど言っちゃってるから!」

 

「リヒトは不満だというのか?」

 

「不満に決まってんだろが! 教育を調教と言っている時点でおかしいって気付けバカ師匠! それに師匠が良い心の持ち主だってんなら自分の胸に手を当てて聞いてみろ!」

 

リヒトの言う通りに胸に手を当てると目を閉じて黙り込んだ。

リヒトも黙ってそれを見つめる。しばらく沈黙が続き師匠が目を開いた。

 

「自分の鼓動しか聞こえんな」

 

「だろうと思ったよチクショウ!」

 

「ほら、そろそろ行くぞ。これ以上待たせる訳にも行かん」

 

「終わらせたよな? 今、絶対終わらせたよな」

 

「ほら、手を繋いでやるから行くぞ」

 

「いや、いいよ………恥ずかしいから」

 

「チッ」

 

「舌打ちしやがったよこの人!?」

 

手を差し出し師匠の手を握るのが恥ずかしくて後半言葉を濁したため師匠の耳には届いてはいない。

手を繋いでくれないことに腹が立ったのか舌打ちする始末だ。

でも、恥ずかしいのを我慢して手を握るとバッと音を立てて此方を見てきた。とても満足そうな顔をして。

自分でも分かるほど顔が赤くなっているだろうとリヒトは顔を背けた。

けれど、嬉しい、とリヒトは思っていた。

これがーーー家族、なのかな? リヒトにそれは分からない。

考えても自分には答えが出せないので頭の片隅に追いやる。

手を繋いだ二人は待ち合わせ場所へと向かった。

 

 

 

「んで、師匠。待ち合わせ場所って何処なんだよ」

 

「あそこだ」

 

師匠の指差した方向にあるのはレストラン。

外の装飾は綺麗に揃えられ、ネオン管の光が眩しい。

それにとてもお代が高そうな店だなと思う。

師匠の友人というぐらいだからブッ飛んだ人かと思っていたがそうでもないらしい。

きっと常識に溢れているに違いない。師匠と違って。そう、師匠と違って。大事なことだから二回言った。

手を引かれるまま中に入ると外とは違う印象を受ける。

外はネオン管で装飾を派手に見せていたが中はとても落ち着いた様子だ。天井からはシャンデリアが吊るされ、食事を楽しんでいる人達のほとんどがスーツやドレスを着飾っていた。

リヒトは自分と師匠の服を見比べた。

師匠はいつも黒いコートを着ているのでそれが様になってはいるがリヒトは違った。紺色のパーカーにジーンズといった至って普通の庶民の服装。

場違い。そう思ってしまうのも仕方がないことだろう。

そこまで長く生きてきた訳ではないがそれぐらいは何となく感じるリヒト。

今更、ここに入った時点で引き返す訳にも行かないのでどんどん奥へと歩いていく。

すると、周りから爪弾きにでもされたかのようにポツンと一つのテーブルに三人が座っていた。

たぶん、この人達が依頼人だろう。

 

「久しぶりだな、雅律、ソネット。それにクリスだったか?」

 

「ああ、本当に久しぶりだね。ユーべル」

 

「久しぶりね。クリスで合ってるわよ」

 

「そうか。それは良かった」

 

「貴女が人の名前を覚えているなんて珍しいこともあるものね」

 

「む、何だ人が名前を覚えられないみたいに言ってーーー」

 

「僕の名前を何回間違えたことがあったっけ?」

 

「ーーー百八十二回です」

 

うん。やっぱり師匠とは大違いだわ。

三人は久しぶりの再会です会話に華が咲いたらしくリヒトとクリスを置いて談笑し出した。

置いてけぼりにされて少し、本当に少しだけ寂しいと思いながら見ていると此方をジッと見つめる視線に気が付いた。

その正体はソネットさんの後ろに隠れているクリスだった。

同い年くらいのそれも女の子と会話などしたことがなかったリヒトはどうするべきかと悩む。

リヒトの出した答えは取り敢えず手を振ってみること。

……苦笑いを浮かべながら。

当然、見ず知らず、初対面の男の子が苦笑いを浮かべて手を振っているのだ。サッとソネットさんの後ろに完全に隠れてしまった。

自業自得ではあるのだがショックを受けてしまうリヒト。

しょげて俯いているといきなり肩を掴まれ前へと押し出された。

 

「うわぁ!? いきなり何すんだ記憶力皆無のダメダメ師匠!」

 

「ほうーーー表に出ろ。今すぐ教育してやる」

 

「はっ、上等だ。今度こそ一本取ってやんよ」

 

「はい。そこまで」

 

「「あうっ!」」

 

師匠にソネットさんが、リヒトには雅律さんが同時にチョップを決められ痛む頭を押さえしゃがみ込んでしまった。

リヒトは雅律さんだった為かそこまで痛くはなかったのだがソネットさんは本気でやったらしい。あの師匠が涙目になっているってどんだけ強くやったんだろう?

 

「はぁ、全くユーベルったら。貴女はこの子を紹介しようとしてたんでしょう? だったら早くさせなさいな」

 

「だ、だってこいつが最初に私のことを悪く言ったんだぞ!?」

 

「それは貴女の普段からの行動を考えれば当たり前だと思うのだけど」

 

頭を抱えて呆れたようにソネットさんは溜息を吐く。

苦労してるんだな、と同類を見るようにソネットさんを見た。

するとソネットさんも仲間を見つけた目でリヒトを見ていた。

そして、二人は歩み寄ると硬い握手を交わした。

 

「貴方も苦労しているのね……」

 

「いえ、俺よりもソネットさん達の方が苦労してきた時間が長い筈ですから俺はまだ、軽い方だと思います……」

 

「いえ、それは少し違うわ」

 

「と言うと?」

 

「ユーベルに関わって過ごした時間が短い長いに関係なく振り回されて大変な目に会うのは変わりないからね。しかも、大抵大きな事件だったりね。これでも軽い方だなんて言える?」

 

「……ソネットさんの言ってること何となく分かります。俺も師匠と会って済し崩し的に巻き込まれた事件が百を超えた辺りから数えてませんから。全ッ然ッ軽くなんてなかったです……!」

 

「お、おい二人共そろそろーーー」

 

「「師匠(ユーベル)は黙ってて!」」

 

「はい……」

 

ユーベルの心がそろそろ限界を迎える前にやめさせようとするが逆に二人に黙らされてしまった。ユーベルはついに耐えられなくなり涙目になっていた。二人は尚も悪評を吐き続けている。

今まで溜め込んできた思いを全て吐き出すように。

 

「ま、まあまあ、それぐらいにしてあげなよ二人共」

 

「「雅律(さん)がそう言うなら……」」

 

二人はしぶしぶ雅律さんの言葉に従う。

見ると、師匠は隅の方で体育座りしていた。

あ、言い過ぎたかも、と思ったが根に持つタイプだから後でどうなるか分かったもんじゃない。この後のことを考えると先が思いやられる。

 

「そういえば貴方は?」

 

「あ、俺はリヒト。月読リヒトです。歳は八歳、戸籍は日本人、好きな物は肉、嫌いな物はたくさんあるので以下略! よろしくお願いします」

 

「私はソネット・M・ユキネよ」

 

「僕は雪音雅律だよ。よろしくね、リヒトくん」

 

「よろしくっす」

 

「ほら、貴女も自己紹介しなさい」

 

俺と同じくソネットさんに前へと押し出された綺麗な銀髪を二つに分けた少女。

少女はリヒトを睨む。親の仇を見るような目だ。

あ、あれ? 俺何かしたかな? と、不安になってきた。

そんなリヒトの心境を知ってか知らずか少女は口を開いた。

 

「テメェに名乗る名前なんざねぇ」

 

「はい?」

 

あれ? おかしいな。等々幻聴まで聞こえてきた。

師匠の修行とゆう名の調教を受け過ぎて狂ってきたのかな?

リヒトが自分の聞き間違い、幻聴だと思いたいが再び少女から発せられた言葉に確信する。

 

「何、首傾げてんだ? テメェに名乗る名前なんざねぇって言ったんだよ」

 

あ、聞き間違いじゃないや。ただ単に少女(こいつ)の口が悪いだけだ。

ピクピクと顔を引き攣らせたリヒトは少女に聞き返した。

 

「何でそうなるんだよ?」

 

「何でお前みたいな頭の悪そうな奴に名前を教えなきゃなんねぇーんだ? それともアレか? 美少女に会って気分が昂ったのか? バッカじゃねぇーの?」

 

プツン。その時、俺の中で何かが切れる音がした。

うん、何かっていうか堪忍袋の緒だね。

 

「コラ、そんな口調ダメだとあれほどーーー」

 

「んっだと、このヤロー!」

 

雅律さんの言葉を遮り、リヒトは怒声を上げていた。

 

「黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって! だぁれが頭悪そうだゴラァ!? テメェよりかよっぽど良いわ!」

 

「ああぁ!? 調子に乗ってんのはテメェだろうが! しかも、私がテメェより頭が悪い? ふざけろ! テメェなんか私の足元にも及ばねぇよ!」

 

「自分で美少女とか言ってる時点で頭おかしいって気付けバカ!」

 

「バカって言う奴がバカなんだよ!」

 

「何だと!?」

 

「ヤるか!?」

 

売り言葉に買い言葉。

両者共に止まることを知らずに等々取っ組み合いに突入しようとしたところで横槍が入る。

 

「いい加減にしなさい二人共」

 

「「あぅ!」」

 

ソネットさんのチョップが流れるように頭にヒットする。

あ、師匠が涙目になるのも分かる気がするわ。

余りの痛みに涙を浮かべていると目の前の少女も瞳に涙を溜めていた。

涙が光を反射し紫色に輝く。

紫の瞳は少女の銀髪にとても良く似合っていて思わず見惚れてしまった。

少女と目が合い、慌てて目を逸らし何か別の話題を投げ掛ける。

 

「……お前の母さん怖いな」

 

「……それは同感だな。ママはキレると怖い」

 

「で、結局名前は教えてくれねぇのかよ?」

 

「教える訳ねぇだろ」

 

「へいへいそうですか。じゃあ勝手に適当に呼ばさせてもらうからな、お姫様(・・・)

 

「な!? どういう意味だよそれ!」

 

「名前は教えてくれねぇし、だからと言ってソネットさん達に聞くのも負けた気がして嫌だから却下。つまり俺はお前の口から直接名前を聞く必要がある。だったら教えてくれるまでそう呼ばせてもらう」

 

「何でよりにもよってお姫様なんだよ!?」

 

「ん? 特に深い意味はないぜ? 俺と師匠は今回お前とソネットさん達の護衛だ。つまり俺はお前を護る騎士(ナイト)になる訳だからお姫様ってことさ。気に入っただろ?」

 

「気に入る訳がねぇ! わ、私がお姫様なんて……」

 

恥ずかしくなったのか顔を羞恥で赤く染めて俯いてしまう。

さっきの荒々しい感じが消え、逆にしおらしい。

気が抜けていた所為か思わず思ったことをそのまま口に出していた。

 

「何だ、そうやって大人しくしてれば可愛いじゃん」

 

「か、かわ、可愛い!?」

 

突然、思いもよらない言葉が飛び出した為固まる少女。

本当に結構可愛いのに。言われ慣れてないとか?

フリーズした少女を置いて、リヒトはソネットさん達と話し始める。

 

「貴方、中々やるわね」

 

「え? どういうことですか?」

 

「ふふふ、あの子のことを頼んだよ」

 

「どういう意味ですか!?」

 

「いちいちうるさいぞ、リヒト」

 

「あ、さっきまで隅っこで啜り泣いてた泣き虫師匠」

 

「ーーーハハハ、私の刀が血を求めているみたいなんだ。この刀の錆となり消えるか?」

 

「すみませんでした!」

 

即座にその場で土下座をするリヒト。

だって顔は笑ってるけど目が笑ってないんだもん。

しかも目から光が消えて余計に怖かった。

ふと、地面から目線を少し上げるとカーボンファイバー製で出来たケースが目に入った。

ケースの形状から察するにヴァイオリンだろうか。

しばし見入っているとそれに気付いた雅律さんがリヒトにケースを手渡してくれた。

 

「あ、えと」

 

「ふふ、すごい目で見ていたよ? そんなにコレが気になるのかな」

 

「すみません……」

 

「別に構わないよ。さ、心ゆくまで見てくれ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

留め具を取り、ケースを開けるとキラキラと光っているように錯覚してしまうほど磨き抜かれたヴァイオリンが収納されている。

そこからは無心でヴァイオリンと弓を取り、弦を軽く弾いた。

すると、高く綺麗な音が響き、全身が震えるのが分かった。

綺麗な、音だ。どんなものにも持ち主の思いが宿る。

きっと雅律さんは大事に大事に使っていろんな人達にこの音色を届けたいと思いながら弾いているんだ。

たった一回。されど一回。それだけで雅律さんのことが分かったような気がする。

満足してヴァイオリンと弓をケースに戻し、雅律さんに返した。

 

「もう良いのかい?」

 

「はい。とても良いヴァイオリンですね。一番高級なのを使ってるとかそういうんじゃなくて何かこう、一回弾いただけであんな綺麗で優しい音色を出せるのを聞けただけで十分です」

 

「そうか」

 

「ふふ、それにしても貴方はヴァイオリンが出来たのね?」

 

「まあ、少し齧った程度ですけどね」

 

「齧っただけであんな風に弾けはしないよ。だから、それは誇って良い」

 

「ありがとうございますーーー」

 

「ふむ。それじゃあそろそろ依頼の件について話を進めようか」

 

「そうだね」

 

椅子に腰を下ろそうとするがその時だった。

 

「キャアアアアア!」

 

「「ッ!」」

 

リヒトとユーベルは悲鳴が聞こえた先ーーー自分達がついさっき入ってきた入口を見た。

そこには顔をマスクで隠した男達ーーー体の大きさ的にーーーがいた。その手には銃を持っている。

金目当ての強盗をして逃げ込んだ先がここ。

もしくはーーー兵士、だろうか?

服装は暗闇に紛れるのに適した黒一色。ここに来る前に事前に調べた情報ではここから離れた所で紛争があることは分かっていた。

食料や武器が底を尽きそうで人質を取って物資の調達ーーーってところかな。

当然、ここには師匠がいるから問題なく事を終わらせられるだろうがさっきから嫌な予感が止まらない。

師匠を見る。まだ奴らを見ている。品定めしているようだ。

リヒトの視線に気付き、此方を見るとユーベルはニヤリと口角を吊り上げた。

ーーーああ、これはあの顔だ。

俺が修行で偶々一発当てた時に見せた笑顔。

俺が師匠のことをからかい過ぎて起こった時に見せた笑顔。

この笑顔を見せた師匠は必ず、100%俺に無茶をさせようとする。

今度はどんな無茶ーーー大体予想がつくーーーをさせようというのかと嘆息した。

きっと、さっきのことを根に持ってるんだろうな……

 

「さて、リヒト」

 

「……何だよ師匠」

 

「彼奴ら掃除してこい」

 

リヒトの嫌な予感は的中してしまった。

的中なんてして欲しくなどなかったがこうなることはもう分かっていた。

 

「俺、子供なんだけど」

 

「ああ、私の子だ。お前ならあの人数は容易いだろう?」

 

入口へと視線を戻し、人数を確認する。

一、二、三ーーー三人か。装備も銃だけのようだ。

確かに容易い。リヒトはそれ以上の経験をユーベルの手によって積んできているからだ。

時には荒れ狂う猛獣の渦中に放り込まれーーー

時には抜き身の刀で白刃取りを成功させろと言いーーー

時には弾丸が飛び交うマフィアの抗争に参加させられーーー

……良く生きてるな、俺。辛い日々のことを思い返し内心そう思うリヒト。

 

「はぁ……分かったよ。さっさと終わらせる」

 

「な、お前正気か!?」

 

「正気だよ。お生憎様、師匠といる時点でこれが日常だからな。あれぐらいなら軽いもんだ」

 

「それでも、危ないもんは危ないだろ!」

 

「何だ? 心配してくれんのか?」

 

「な、誰がお前の心配なんか!」

 

「なら、お前は黙って守られてれば良いんだよ。お姫様」

 

「分かったよ……死んだら私がブッ殺してやるからな!」

 

いや、死んだらもう殺せないから。

 

「で、師匠。武器は?」

 

「そら」

 

「っと」

 

投げ渡されたのは銃とナイフ二本。

銃はコルト・ディテクティブスペシャル。

銃自体が小さく携帯するのに便利。多少威力に欠けて物足りないがその分反動が少なくすぐ次の行動に移れるのが美点だ。

ナイフは特に変わったものということはなく普通に市場で手に入れることの出来る少し頑丈なナイフだ。

この装備だけで三人を制圧することが果たして出来るのだろうか?

答えはーーーYes、可能だ。

ナイフをパーカーの左右のポケットに入れ、銃を片手に歩き出す。

 

「さて、とっとと終わらせよう」

 

 

 

 

 

 

自分の息子を送り出し、息子の成長を確認しようと温かな目でリヒトの背中を見つめるユーベル。

そこへソネットが声を掛けた。

 

「リヒトくんは大丈夫なの?」

 

「愚問だな。誰が育ててきたと思っている」

 

「それもそうだな。けれど、子供に行かせるのは些か許容出来ないな?」

 

「まあ、それはそうだが……彼奴が自分で望んだ(・・・・・・・・・)道なんだ(・・・)。私達が口出ししても彼奴は揺るがないさ」

 

「はぁ、全く。後でちゃんと話してもらうからね?」

 

「ああ」

 

「な、なあ……」

 

「ん?」

 

さっきまでリヒトと口喧嘩していたクリスが心配そうな顔で見ていた。

 

「彼奴は、本当に大丈夫なのか?」

 

クリスの問いに微笑むとポンっと頭に手を乗せ、言う。

 

「大丈夫さ。何せ彼奴を鍛えてきたのは私だからな。心配なのも分かるがリヒトは死なないさ」

 

そう、リヒトは私の息子なんだから。と、クリスに囁いた。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

「ここは我々が占拠した! 貴様らは大人しく我々に従え! そうすれば命だけは助けてやる!」

 

定番な脅し文句を叫ぶ兵士。

ま、確かに手は出さないだろうよ。物資が手に入ったらどうなるか分からんけど。

とっとと終わらせて何か美味いもの食べさせてもらおう、そう思い足早に近付いていく。

20mぐらいまで来ると兵士の一人がリヒトの存在に気付いた。

 

「おい! そこのガキ、大人しく椅子に座ってな。それとも死にたいのか?」

 

見せつけるように銃をチラつかせる。

普通ならここで大人しく椅子に座り、ガタガタ震えているところなんだろうが生憎カタギじゃないんで。

兵士の警告を無視し、ズカズカと歩く。

 

「おい、言うことが聞けないのか!」

 

「あんた、(それ)を人に向けるってことは殺す覚悟も殺される覚悟もあるってことだよな?」

 

「何を言ってーーー」

 

ダァンッと空気の乾いた音が響き、店の中が騒がしくなる。

リヒトが瞬時に撃鉄を下げ、撃ったのだ。

兵士は何が起こったのか分からないといった表情をしている。

そして、自分の左肩の風当たりが良くなったような感覚がし、見てみると風穴が空いていた。

自分が撃たれたことに気付き、遅れて激痛が走って絶叫を上げながらその場に崩れ落ちる。

 

「ガァアアアアア!?」

 

兵士は困惑する。

自分が撃たれたことにも驚いたが何の躊躇いもなく引き金を引いた目の前の少年に動揺を隠せずにいた。

まだ十歳にも満たない少年が自分を撃った。しかも、ワザと肩を狙って。

目の前の少年は明らかに自分を殺そうとしたのが手に取るように分かる。ふと、少年が先ほど口にした言葉が頭を過ぎった。

 

『あんた、(それ)を人に向けるってことは殺す覚悟も殺される覚悟もあるってことだよな?』

 

ゾクリ、と体の芯が冷え、震える。

一体この少年は何者なんだ?

この少年は何を見てきた?

この少年は人を殺したことがあるのか?

疑問は尽きない。けれど、兵士は分かる。分かってしまう。

この少年には勝てない、とーーー

 

「貴様何をしている!?」

 

「殺せ!」

 

「や、やめろお前ら!」

 

仲間を撃たれたことに激昂した二人がリヒトへと銃を構える。

それに気付き、止めようとしたがもう遅かった。

 

ダァン! ダァン!

 

空気の乾いた音が今度は二回、響き渡った。

すると二人が持つ銃が暴発し、吹き飛ばされる。

リヒトが放った弾丸は寸分違わず銃口へと入り、発射を控えていた弾丸へと当たり暴発を引き起こした。

それを合図にリヒトは駆け出す。

相手の銃は壊した。まだ一つ残っているが肩の痛みで反動に耐えられまいと踏んで後回し。

銃を腰に挿し、ナイフに持ち替え、逆手に持つ。

暴発させたとはいえ重傷という訳ではない。

動きが鈍っているうちに片付ける。

まず最初に肩を撃ち抜いた兵士に接近し、手刀を首元に落とし意識を刈り取った。動揺と痛みの所為か案外呆気なく気絶してくれた。

吹っ飛んだ二人に狙いを変えると既に起き上がってリヒトを殺さんと走っていた。リヒトも負けじと走り出す。

一人が先攻し、ファイティングポーズを取っている。

ボクシングーーー近接戦闘型か。

真正面から受けて立てば今の地力では兵士の方に軍配が上がる。

けれどそれは真正面から受けた(・・・・・・・・)場合だ(・・・)

だから、リヒトは拳が届く一歩手前で止まり、横に体をズラした。

リヒトの顔面に叩きつける予定だった拳は空を切り、勢い余って前傾の姿勢になる。

それを利用し、軽く足払いを掛け、倒す。

そして先ほど同様、手刀で意識を刈り取る。

残り一人ーーー

 

「降参するなら今のうちだけど?」

 

「黙れ! 世間知らずの青いガキが!」

 

「……ブッ飛ばす」

 

胸からバタフライナイフを取り出し、リヒトへと振り下ろす。

二本のナイフをクロスしそれを受け止め、跳ね返した。

体が蹌踉めくがすぐに体勢を立て直し、攻撃する隙を与えようとしてくれない。

さっきの二人に比べてかなりの手練れだ。

まあ、ボクサー被れはちゃんと相手した訳じゃないけど。

思考に集中し過ぎた所為で動きが一瞬遅れて前髪が数本切られてパラパラと落ちていく。

危なかった、そう思うよりも早く後ろの方にいる師匠から目の前の兵士に向かって殺気が溢れ出た。

 

「ヒッ!」

 

未だ嘗て経験したことのない殺気に当てられ、体がすくみ上がっていた。

分かる、分かるよその気持ち。あれは反則だよな。

とまあ、この隙を使い、兵士の両腿にナイフを突き刺した。

切っ先が肉を簡単に穿ちながらズブリと沈む。

刺傷から血が滲み出しているが黒い服の所為か見え辛い。

刺さったナイフを抜き取ろうと力を込めるが筋肉が膠着して抜けない。

兵士は痛みに顔を歪ませているが悲鳴を堪えながらもリヒトの脳天へとナイフを振り下ろす。

自分の身を犠牲に敵を屠る。この行動は称賛に値する。

けれど、死ぬ訳にはいかないんだな、これが。

振り下ろされたナイフが迫ってくるが、両腕をクロスしそこで手首を止める。ナイフはリヒトの数cm先で止まった。

弾き返して、右手を引き絞る。弾丸(こぶし)が兵士の鳩尾を撃ち抜く。

その際、左手で刺さっていたナイフを掴み取り、勢いで抜く。

左腿から鮮血が噴き出した。

引き抜かれたナイフの痛みと鈍器で叩かれたような衝撃が突き抜け、ゴフッ! と胃の内容物を吐き出し崩れ落ちる。

 

「まあ、こんなもんか」

 

三人を片付け、安堵するのも束の間ーーー

 

「キャアアアアアアア!」

 

また、悲鳴が聞こえた。

それもお姫様の(・・・・)ーーー

苛立ちを覚えながら振り返ると従業員の服に身を包んだ男がお姫様に銃を突きつけていた。

師匠もそれを見て迂闊に動けないでいる。

人の命を盾にしていることに内心激怒するが平静を装う。

恐らく今倒した三人の仲間。事前に潜入させていたのだろう。

舌打ちしながら師匠に問う。

 

 

「何でお姫様が人質に取られてんだよ?」

 

「え、えっと、息子の成長を目に焼き付けるのに必死でーーー」

 

「この阿呆! 優先順位を間違えてんだろうが!」

 

「ご、ごめんなざい……」

 

あ、ヤバイ。言い過ぎた。

リヒトとソネットによる悪評に加え、リヒトに怒られたというショックがユーベルにトドメを刺してしまった。

目には決壊寸前のダムのように涙を溜めていて、今にも零れ落ちそうだ。

それを見たリヒトは慌てて、ユーベルを慰めようとする。

 

「あ、師匠泣くなよ! 絶対に泣くな! そのまま我慢出来たら何でも一つ言うこと聞くから!」

 

「本当か!」

 

「…………」

 

さっきまで溢れそうだった涙が一瞬で引っ込み、笑顔を浮かべるユーベル。

変わり身が早いな! と思いながら自分が嵌められたことに気付く。

……滅多なこと言うもんじゃないな。

 

「おい! そこを動くなよガキ!」

 

「へ? 何で俺?」

 

「よくも仲間をヤッてくれたな! お前は俺がブッ殺してやる!」

 

仲間の敵討ちですか。それはそれは涙が出るように感動することだ。

映画とかではよくそういうシーンが感動を呼び、涙を流すところだがーーーそれとは違う点が一つある。同時に矛盾に気付いた。

だから、リヒトは吹き出して笑ってしまう。

 

「貴様何がおかしい‼︎」

 

男の怒号にビクッと体を震わせているお姫様。

その顔は青ざめていて体温を感じさせない。

だからなるべく怖い思いを和らげるように微笑んで言った。

 

「すぐに助けてやるからそこで大人しく待ってろよ。お姫様」

 

「ああ……!」

 

お姫様が頷いたのを確認して男へと目を向ける。

見ただけでも分かるほど青筋を立て、怒っているのが分かった。

……怒ってるのはこっちも同じなんだよ。

 

「そこを動くなよ、すぐに笑えなくしてやる」

「ハハハ! あんた本当に笑いのセンスあるよ。今からでも芸人に転職したらどうだ?」

 

「ふざけるな!」

 

「だってさ、あんたは仲間の敵討ちがしたい訳だろ? 映画とかでもよくそんなシーンがあるけどさ、一つ違うことがある。ーーーあんたは自分の力だけで敵討ちをしようとしていない」

 

その言葉に男の動きが止まる。

 

「しかも、矛盾してるときた。あんた自分で気付いてるか? 口では俺のことを殺すとか言ってるけどさーーー何で一人で来ないで人質とか取ってんの?」

 

その言葉に男が拳を握り締める。

 

「当ててやろうか? 怖いからだよ、俺が。一人で立ち向かえばさっきの三人みたいに簡単に倒されてしまうからな。だから、人質を取った。息巻くのは良いけど言ってることとやってるこもが矛盾してるぜ」

 

その言葉に男が撃鉄を下げ、引き金を引き絞る。

撃ち出された弾丸が頬を掠め、血が頬を伝って地面に落ちていく。

リヒトは避けられないーーー否、避けなかった。

尚も男が弾丸を撃ち出すがそれは全てリヒトの体を掠めるだけで当たることはない。

カチッカチッと引き金を引くが飛んでくる弾丸はない。

無闇矢鱈と撃つから弾切れを起こしたのだ。

八つ当たりするかのように銃を地面に叩き落とし、お姫様を前に突き出す。

 

「この女を殺されたくなかったら武器を全部捨てろ!」

 

苦し紛れの脅し。

はぁ、と溜息を吐きながらも大人しくその言葉に従う。

ナイフを地面に投げ捨て、腰に挿した銃を掴む。

お姫様と目を合わせる。

目だけで「俺のこと信じてくれるか?」と、訴える。

すると、お姫様は頷いた。俺のことを信じ、俺に賭けてくれた。

リヒトは落ち着くために深呼吸を一つして銃を宙に放り投げた。

男の視線が放り投げられた銃を追って、上を向いていく。

近くに投げ捨てたナイフを掴み上げ、全力で投擲する。

それは吸い込まれるように男の肩に突き刺さり、拘束する手の力が緩んだ。

 

「伏せてろ!」

 

頭を押さえ、その場にしゃがみ込んだお姫様。

走って銃まで追いつき、キャッチして男に向けると痛みに耐えながら男もリヒトへと銃口を向けていた。

同時に引き金を引き、弾丸を発射する。

男は正面に、リヒトは少し角度をつけて。

弾丸と弾丸同士が空中でぶつかり合う。普通ならそこで終わり。

角度をつけて撃った弾丸が正面から撃たれた弾丸の側面とぶつかり合い、真っ直ぐに修正され男の銃を弾き飛ばした。

 

「ぐあぁ!?」

 

弾かれた衝撃で腕が痺れ、そのまま後ろに倒れ込む。

ちょうど師匠が男の近くにいたため、笑顔で男にトドメを刺していたのは見なかったことにしよう。

今度こそ安堵の溜息を吐いて、お姫様のところへ歩いていくとまだ目を硬く瞑り、頭を押さえしゃがみ込んでいた。

ポンッと頭に手を置くと一瞬体をビクつくせるがリヒトだと分かると少し、本当に少しだけ顔を綻ばせた気がした。

 

「ケガないか? お姫様」

 

「お陰様でな」

 

「ほら、師匠達の所に行こうぜ」

 

「あ、その、腰が抜けて立てねぇ……」

 

「ほらよ」

 

手を差し出すとその手を取るか取らないか迷うが結局その手を取ったので立たせてやる。

 

「しっかし、良くあんなことするよなお前」

 

「まぁ、そこら辺は師匠に鍛えられているしな」

 

「全く、こんな無茶する奴の親の顔が見てみたいね」

 

あ、ユーベル(あいつ)が親か、とクリスが聞くがリヒトの耳には届いていなかった。

俯きいていたので覗くとリヒトは暗い顔をしていた。

何故だ? と、不思議に思っているとリヒトの口が動いた。

 

「そうだな…………本当に、見てみたいよ」

 

「えっ」

 

どういう意味だよ、と聞こうとするがリヒトはクリスの手を引き、足早に歩き出す。

それはまるで聞かれることを拒んでいるようだった。

 

 

 

□■□

 

 

その場を警察に任せ、五人は予め予約しておいたホテルへと足を運んでいた。

五人は一つのテーブルで料理を囲んでいた。

中でもリヒトが一番料理をガッついていた。

 

「ははは、余程お腹が空いていたんだね」

 

「それにしても、あ、もう無くなってしまったわね」

 

「ごちそうさまでした!」

 

「リヒトさすがに食べ過ぎたぞ」

 

「だって、まともな料理なんて一ヶ月ぶりなんだもん」

 

「へぇ……後でジックリ私とお話しましょうか? ユーベル」

 

「……そう、ですね」

 

ハハハ、と乾いた笑みを零すユーベルの目は死んだ魚のようだ。

リヒトはそんなやり取りを見て笑顔を浮かべるが、クリスだけはチラチラとリヒトを見て何処か浮かない顔をしている。

それに気付いたユーベルはリヒトに言う。

 

「リヒト、お前は先に風呂でも入ってろ」

 

「え、何でだよ」

 

「ここの露天風呂からは綺麗な星空が拝めるらしいぞ?」

 

「お先に失礼します!」

一目散に駆け出して行ったリヒトの背中が見えなくなると、ユーベルは真剣な顔をして向き直る。

 

「それじゃあ、リヒトについて話をしようか。クリスが気になってさっきからソワソワしてるようだからな」

 

「ば、別に私はそんなんじゃ! ……けど、何で彼奴が親って聞いたら暗い顔をしたのか、気になってたり気にしてなかったり……」

 

「ふふ、素直じゃないな。それじゃあ、話そうか。あれは三年前のことだったーーー」

 

ユーベルの口から三年前の出来事ーーーリヒトと初めて会った時のことが語られる。

クリスは気になっていた。

どうしてあんな悲しそうな顔をしているのかと。

だから、ユーベルの話に耳を傾けた。

 

月読リヒトという人間を知るためにーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい! 終わりましたね。
果たしてリヒトの過去とは?
クリスは何を思うのか?
それではまた次回お会いしましょう!
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