Over the lights・Under the moon(なのはと型月クロス・改訂版)   作:くおん(出張版)

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1/来訪。

 1/来訪。

 

 

 

 ティアナ・ランスターが八神はやての家を訪れたのは、マリアージュ事件の後処理も済んだ年末だった。

 アポイントメントもとらずに訪れたかつての部下を、はやては快く受け入れた。

「まあ、ちらかっとるけど寛ぐとええよ」

「お邪魔します」

 案内されたのはリビングだった。

 壁際に大画面のモニターを設置して、その向かい側にテーブルとコの字にソファーが置かれている。ここでみんなが座って、みんなでモニターを見ているのだろうということは容易に窺い知れた。

 その「みんな」というのははやての部下であり、それ以上に家族であるヴォルケンリッターたちであるということもティアナは知っていた。

 そのはやての騎士たちの中で、はやてと一緒に休暇を取れているのもヴィータだけであるということも、である。

「おう、久しぶりだな」

 ソファーに座って膝の上で本を広げていたヴィータが、顔を上げてティアナを迎えた。

「お久しぶりですヴィータさん――ザフィーラさんも」

「うむ」

 ザフィーラも顔をあげて、軽く頷く。

 ヴィータの足元、テーブルの下に半ば身体を置いて寝そべっている守護獣のザフィーラは、管理局に所属している訳ではないので休暇などには関係ない。機動六課の時代はほとんど人間形態をしてなかったこともあって、ペット感覚でザフィーラと呼びすてたりしていたが、今はとても無理だ。後でヴィータやシグナムと同格の存在であると知ったが、その時はかなり冷や汗をかいたものである。

「ティアナは久しぶりですー」

「あ、リイン曹長も」

 台所から飛んできた小人は、はやてのデバイスであるリインフォースⅡである。一応は管理局で階級を持っているのだが、デバイスなので休暇は申請しなくともはやてと同じになる。

 彼女はぷくっと小さな頬を膨らませ。

「もう部下じゃないんですよ」

「あ、はい。リイン……ちゃん?」

「はい、よくできました♪」

 ティアナは褒められて顔を真っ赤にしてしまった。

 ヴィータはその様子を何処かまぶしそうに眺めていた。 

「活躍は聞いているぜ。いろいろと大変だったみたいだけどよ」

「恐れ入ります」

 ティアナは頭を下げてヴィータの真正面の席に座る。モニターから見て左翼と右翼にあたる位置関係だ。

「まあまあ、積もる話もあるやろうけど、とりあえずコーヒーでも。――ティアナはミルクいらんかったよね?」

「あ、はい」

「あー、はやてー」

「わかっとるよ。ヴィータのは最初からコーヒー牛乳にしてあるから」

「ありがとう♪」

 はやてが作るとなんでもギガうまだからなーとヴィータは外見相応に喜色を浮かべた。

「ザフィーラの分もあるよ。席につき」

「恐れ入ります、主」

 声の位置が高くなっているのに気づいてティアナがそちらを向くと、いつの間にか人間の形態になっていたザフィーラが立っていた。

 本当に久しぶりにザフィーラの人間形態を見たティアナは、ぎょっとしてのけぞる。

 ヴィータが悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 どうやらさっきの表情の動きを見られたらしい。

 それでもからかうでもなく、ヴィータはトレイに上に載せられたお茶請けに手を伸ばす。皿の上に盛られたのは手作りと思しきクッキーだ。

 そういえば八神部隊長……じゃなくて、はやてさんが作る料理はなんでも旨いのだと今ではない何時に聞いたことがあったのを思い出す。誰から聞いたのか、思い出せないけれど、多分ヴィータさんなんだろうなと思った。なるほど、確かに焼き色も食欲をそそる、美味しそうなクッキーだ。

(遠慮しない方が礼儀よね)

 いただきます、と手を伸ばしてクッキーを指先でつまむ。遅れて伸びた褐色の腕はザフィーラのものだった。守護獣はコの字のソファーの真ん中に座ったはやての隣の、ティアナとの間の位置に腰を下ろしていた。

 例えかつての仲間だろうと、油断はしない――ということだろうかとティアナは思ったが、それは多分穿ちすぎだろうとも考え直す。

 少し状況が状況なせいか、神経質になっている。

「美味しい?」

 ティアナが口に入れたのを見て、はやてが微笑みながら聞いてくる。

「あ、はい」

 やっぱり誰かのいったとおり、はやてさんが作ると美味しい――と思った瞬間、

「それ、ヴィータとリインが作ったんよ」

「え!? あ、その、あー、はい! 美味しいです」

 そう言ってからテーブルの上を飛んでいるリインと、その向こう側に座るヴィータがニヨニヨしていた。

(あー、なんか調子狂うなあ……)

 なんというか、この人たちには一生頭が上がらないのではないかという気がする。そしてそれは多分、正しい。

 ぽりぽりとクッキーを齧りながら、彼女ははやてたちの言葉を聴いている。

「最近はみんなで料理を覚えてみようといろいろと試している」

「一番上達が激しいのがザフィーラなんやけどなー」

 というような話から……。

「長期休暇とって出身世界にみんなで戻る予定なんだけど、話題についていくためにいろいろとみないといけないから大変」

「最近は向こうとネットが繋がるので、リインは休みの間ずーっとそればかり見てる」

「ネット小説って面白いんですよー。ただで見れますし」

 とか。

 いちいち相槌を打っていたティアナだが、やがて皿のクッキーも半分以下になった時。

「あの」

 と口を挟んだ。

「――うん」

 はやては静かに頷いた。

「そろそろ、本題と行こうか」

「はい」

「ティアナはなんの用事できたんかな」

 仕事がらみのことやろうけど……とはやては呟き、ティーポットから残りをカップに注ぐ。彼女とザフィーラの分は紅茶だった。

「実は……ちょっと現在調査中の事件で、今までに知らない言葉が出てきまして」

 ティアナが言うと、はやて以外の全員が眉をひそめた。

 知らない言葉があった――そして、知ってそうな者のところにくる。

 それは道理だ。

 しかし、ここにくるのは間違っている。

「古代ベルカの関係?」

「かもしれません」

 少なくとも、ミッド式の関係では調べた限りではありませんでしたと彼女はいう。

「それなら――」

 

「概念武装、という言葉なんですけど」

 

 失礼を承知で、言葉を遮る。何を言われるのかは予測がついていたからだ。それについての説明は今すぐには……というかなるべく後に回したい。

 ティアナの気持ちを知ってか知らずしてか、守護騎士の二人はさらに困惑したような顔を見せ、はやても「うーん」と唸ってザフィーラと、それからヴィータとリインの顔を順に目を向ける。

「聞いたことある?」

「ある」

 まさか、ここでそう返るとは、あるいはティアナもはやて自身も思っていなかったのか、そう口にしたヴィータをザフィーラ以外の者は驚いた眼差しで見つめた。

「古い言葉だな。今時は、使わない」

「あたしはきいたことないな。古代ベルカ式の用語はたいがい勉強したつもりやけど」

「ベルカっていうかさ」

 ヴィータは残りのクッキーに手を伸ばす。

「まだ古代ベルカ式が確立する以前の魔法の用語なんだ」

「とても古い時代の言葉です。ヴィータの言うように、ベルカの先人たちがいまだ魔法の深奥を会得していなかった頃から伝わる時代の」

 ザフィーラもいい添え、金属製のスプーンを手に取る。

「――どう説明したらいいものか」

「解りやすくいうとさ、はやて。わたしらの魔法はデバイスを通じて世界に働きかけて通常の物理法則ではありえない現象を起こしているんだ。それはミッド式でも変わりないだろ」

「そうやな」

 今更言われなくても解ることである。

 魔法学校で習う初歩の初歩だ。

 ティアナもはやても顔わ見合わせて頷き合い、ヴィータか、あるいはザフィーラの次の言葉を待つ。

「しかし、ずっと昔の魔法は違っていました」

 言葉を継いだのはザフィーラだった。

「私たちの魔法は通常ではありえぬ現象を起こす……つまりは世界を構成している理を歪めることによって成立しているものです。しかし、古代ベルカ式が確立する以前の先人の魔導師たちは、世界の理を歪めるのではなく――、世界に隠されていた理を操作することによって、魔法を使っていたのです」

「……? ちょっと意味が解らんな」

「そのままの意味です」

「裏技みたいなもんだよ」

 ヴィータはクッキーを手づかみに五つほど丸ごと口に放り込む。

「世界に仕込んである隠しギミックっていうかさ、ほら、ゲームの裏技に何種類かあるじゃないか、元から開発者が仕込んであったりバグだったりするようなの。世界そのものをひとつのパソコンみたいなもんだと思えば話は早いかな。ベルカ式もミッド式も、外部からアクセスして仕様を変更させてる感じで。そのもっと昔の魔法ってのは、プログラムに元から仕込んであるのを引き出す感じなんだよ」

「あ――なるほど」

 ティアナは何か納得したようだが、はやてはさらに怪訝な顔をした。

「世界の理、なあ……」

「主、今の説明では不服ですか?」

「いや、続けて」

「では、今度は私が――その古い魔法は、仮に古魔法と呼びますが、その中の用語として概念効果というものがありました。概念武装とは、その概念効果の作用した武器のことをさします。世界による修正を受けて、本来以上の効果を持つ武器となったもののことです」

「世界が、修正?」

 一度は納得したはずのティアナが聞き返す。

 ヴィータが頷く。

「修正するんだよ。世界の方が。ただ、世界自体が人間の意志で修正されているというか――観測効果って知ってるか? 量子力学不確定性原理。地球のSFなんかじゃよく出てた」

「観測することで世界に干渉する系の超能力とかか。それこそわたしらの魔法やないん?」

 はやてが口を挟んだ。

 量子レベルでは人間が観測することによって物体に干渉を与える。

 そのことから逆説的に観測することによって世界は変容するという発想がある。よくSFなどに用いられるが、人間の視線や意思では世界を構成する物理現象を左右するほどのエネルギーを用意できない。明らかな矛盾理論なのである。

 その矛盾を解決するのが、魔力であり、魔法プログラムであった。

 魔法というのはリンカーコアに魔力素を取り込み、あらかじめ仕込まれたプログラムに従って世界を変容させるもの――というのが定義なのだ。

 ヴィータは頭をかき。

「ああ、最初からそっちの用語で説明した方が話が早かったかもな。ベルカ式もミッド式も観測効果で一時的に世界を変えることで物理現象ではありえないことを起こしてる。儀式魔法なんかはちょっと違うけど、基本おんなじもんだ。……そうだな。儀式魔法か。古魔法というのは儀式魔法の古い形態と思った方がわかりよいのかな」

 世界のシステムという根源的なところにアクセスして行う――という意味において、儀式魔法は古魔法の生き残りといえた。

「私も最初の説明でそれを思いました」

 ティアナがそういう。

「今は概念武装のことを話そう」

「ああ」

 ザフィーラの言葉をヴィータは肯定する。

「概念武装とは、世界によって修正されて、本来もたないはずの効果を持つ武器、――といいましたが、その世界の修正はその世界の住人の意思の結露なのです。信仰心、思い込み、といってもいいですが」

「例えば、どっかの祠に奉られてる剣があるとして、それは大昔の伝説だと竜を倒した英雄が持っていたということになってて……それが事実かどうかってのはあんま関係ないんだ。みんながそれはそういうもんだ、と思い込んで、長い年月がたっていたら」

「その剣は竜の類に対して本来以上の効果を持つ、ということになります」

「そんなこと、ありえるん?」

 はやてのその言葉は、リインとティアナも含めて三人を代表した質問だろう。

 竜というのは彼女らにしてみたら身近な存在というには憚りがあるが、決して知らないモノではない。怪物の象徴であるとする竜ではなく、力持つ生物としての竜は、かつて六課に所属していた召喚師の少女と共にみなの記憶にある。

 竜を打倒する力を観測効果が持つとして、しかしそれは魔力によって歪められた現象においての話だ。

 皆が「これは竜を倒せる」という思い込みで竜退治のアイテムになるなどということは、どうにも納得できることではない。

 ヴィータは「誤解させるいい方しちまったかな」とぼやく。

「竜は例えっていうか……いや、やっぱり竜の方が解りやすいかな」

「そうだな――竜のような物理現象を超えた存在は、それ自体が魔力によって仮想の本体を維持している魔法の存在なのです。――何処かで聞いた言葉ですが、そのような世界の物理法則に反した生き物は、とある世界では幻想種といわれていました。幻想に対抗するには幻想を、というべきなのでしょうか。そのような存在に対しては、概念武装は効果が高いのです」

「魔道物理学の基礎だろ? 世界の修正力の方が、世界を歪ませる力よりつえーってのは。魔法が基本的に永続しないのはそのせいなんだってさ。その世界の修正力を、さらにその世界のみんなの意思が干渉して左右しているのを概念効果っていうのさ。まあ、あたしらにもそこらよくわかんなにいんだけど」

「私たちも本当に、大昔に聞いただけだけですから。古魔法も、概念武装も、夜天の書ができた頃には使われなくなっている言葉でした」

 効率が悪いから――と二人の騎士の言葉は重なった。

 考えてみたら当たり前である。

 武器に力を付与するのなら、みんなで祈ったり思い込んだりとせずに魔力をつぎ込めばすむだけの話だ。

「それに、細かい理屈は覚えていませんが……概念効果とは理屈の上では幻想の効果は年月を経過するごとに増して行きます。すでに信仰する者がいなくとも。最初に意味づけられた物があって、それから形態を保ったままに年月を経れば概念の重みが増すのです。逆にいえばそれは年月を経過していない概念武装ではたいした効果は得られないということを意味します」

 戦いに使うのならどうしても即時性が求められる。

 自分らの知る限りでは、古代ベルカ式の魔法が確立されて以降、概念武装がそうと意識されて使用された例はない――とザフィーラは言った。

「我らとて本来は知る必要もない知識でしたが」

「……ずーっと昔の主でさ、転生機能を止める方法とか研究していた人がいて」

 ――転生を否定する概念効果があれば、あるいは。

 そんなことを言っていた。

 研究者としては優秀であった。

 人格も、歴代の主の中で言えばまともな方だったと思う。

 いや、もっといえば闇の書の所有者はみんなまともであったとも思う。

 力という魔性に取り付かれてしまっただけで……魔性こそが我らであり、闇の書であるのか。ザフィーラもヴィータもそこに思い至り、同時に瞼を伏せた。過去の主たちを彼らはそれほど嫌いではなかった。好きとか嫌いとかを考えるような思考回路さえも存在していなかったといえばそれまでだが、今から考えてみたなら、自分らが関わらなかったら彼らは力に溺れることもなく、静かに生きていけた者もいたのではあるまいか。もう、確認しようのない過去の話ではあるが。

 二人の説明を聞いていたはやてだが、「んー」と首を捻る。

「まあ、概念武装の理屈と、それは使われなくなった、というのは解った。けど、その古魔法? 世界の理そのものに働きかける魔法。ベルカ式より力が劣るって訳でもなさそうなのに、どうして現在つかわれてないん?」

「それは、手間がかかるからです」

 ごく簡単に、ザフィーラは言った。

「隠しモードだろうと世界の法則に沿った力だから、結構凄いことができるらしいんだけどさ。世界に設置された魔法システムにアクセスするのは面倒なんたよ。聞いた話しだと、そういう古魔法はなんていうか、お手軽に勉強して身につくものでもないんだってさ。なんかややっこしい手続きがいるんだって。あとなんか、使用者が増えるのはよくないって。システムに介入する人間が多すぎると、処理が重くなって威力がその分おちるんだってさ。よくわかんないけど、元主はそんなこと言ってたな。だから古魔法は使用者を限定するように隠して伝承されてきたって。まさしくオカルトだな。あれは〝隠されたもの〟ってのが語源だから」

「その手間を考えても、魔法プログラムを介して世界を変容させた場合と違い、古魔法で起こりえる現象はそれこそ御伽噺の魔法のようなものだとも聞き及びます。現状の儀式魔法として残っているものの多くは、規模はともあれ現象としては通常の物理法則を大幅には逸脱しませんが、古魔法ではそれこそあり得ぬ現象を可能にすると」

「例えば?」

「詳細はわかりかねます――ですが、因果律をも覆すことができたとも」

 原因があり、結果が生じる。

 それは物理というまでもなく常識の範囲である。

 だが、古魔法は世界そのものに働きかけることによって、それを覆すことが可能だったというのだ。

「それはまた……凄いな」

「ですがヴィータの言うとおり、使用はかなり限定されていました」

「……ふーん?」

 何かひっかかるな、という顔をしたはやてであるが、それ以上は何も言わなかった。

 ティアナが自分でも質問をしようとしたが、「わかりました!」とリインが叫ぶ。

「つまりミッド式とベルカ式がゼロの使○魔でいう系統魔法で、古魔法が先住魔法なんですね!」

 なんなんですかそれは、と突っ込みたいティアナであるが、「あー、なるほど」とはやてが力強く頷いているのを見て、なんか力が萎えた。

「そうするとわかりやすいなあ。リインはほんまにかしこいなあ」

「えっへん」

 胸に抱いて可愛がりするはやて。

 ヴィータはため息を吐き、ザフィーラは苦笑を浮かべた。

「……えーと、系統魔法とか先住魔法とかよくわかんない言葉なんですが……」

「地球の漫画にでてくる魔法だよ。確か。そういう設定の」

「漫画ではなくてライトノベルだ。ヴィータ」

「どっちでもかわんねーよ。……ああ、はやてとリインは今それにハマってんだよ」

 そう説明されて、ティアナは「なるほど」と相槌だけを打った。納得したとかはそんなことは全然なかったが、もうなんかつっこむ気力がわいてこなかったのだ。

 そして改めてはやてを見ると、リインに頬ずりしていた。

(機動六課の時代もフレンドリーな人ではあったけど、休暇中のプライベートだとさらになんというか、全然管理局員らしからぬ風な。馬鹿親というか親ばかというか……)

「○ロ魔のネット小説も結構おススメですよ」

 聞かれてもいないのに、リインは言う。

「特におススメは『夜○の使い魔』と『三○』やねー」

 はやてもそれに乗って、なんだかよくわかんないタイトルを口にする。

「聞いてねーよ……」

「面白いんよ。ほんまに。それでどんな話かというと……うん――まあ、もしも鏡みたいな召喚ゲートがいきなり目の前に現れたとしても、迂闊にてーつっこんだらあかへんよって話なんやけどな」

 なんなんだそれは、と重ねてティアナは思った。

 ヴィータは深いため息を再び吐き。

「心配しなくても、そんな迂闊なことをするような間抜け、そうそういる訳ないよ」

 と言った。

「ヴィータ!」

「え?……って、どうしてはやてが俯いてるんだよ? それでリインもなんで顔を逸らす!?」

 ザフィーラに叱責されるように名前を呼ばれたヴィータは、自分の主と妹分の雰囲気が変わっているのに気づき、狼狽した。

「ヴィータは……しばらく、シャマルの作ったご飯やね」

「えー!?」

「です」

「ちょっと! 一体いつなんの地雷踏んじゃったんだよぉ!?」

(全然収拾がつかない……)

 ティアナは額を押さえたが、その間にも守護騎士と主とデバイスとの間には深くて広い溝が刻まれつつ、なにやら訳のわからない言葉が飛び交っていた。正直、そこらのことは理解するつもりがなかったので聞き流していたのだが、ふとはやては口調を改めて。

「しかし、あの世界の魔法は系統魔法は個人の精神力が源だから、世界そのものを動かす先住魔法には分が悪いって――設定、やったな……古魔法とベルカ式との力関係はそんな大差はないみたいやけど。要は凄いことが出来たとしても、実用性で劣ったということなんやな」

 廃れるには廃れるなりの理由はあるんやねーとか一人で納得しているはやて。

 ティアナも「そうですね」と同意してから残りのクッキーに手を伸ばす。

「――それで」

 声が、さらに変わった。

 さっきまであった暖かみとか、そんなものが全て抜けきったようだった。

 手を伸ばした姿勢のままでティアナが固まった。

 はやてが自分に対して言ったのだとわかっていたからだ。

「なんで、うちに来るんかな、ティアナ・ランスター執務官は」

 ヴィータの目がティアナを見ていた。

 ザフィーラはいつの間にか狼の姿になって床に伏せ、ティアナを見上げていた。

 リインはヴィータの頭の上に身体を寝そべらせて、ティアナを見つめていた。

「なんで、といわれましても」

「解らんことがあるのなら、まず無限書庫にいくんが筋やね。管理局員なら当たり前にそうするよ。勿論、あそこは年中無休で忙しいから、事件に関係しないような些細なことで問い合わせたりしてたら司書長に怒られてしまうやろうな。やけど――」

「…………」

「仮にも執務官で、機動六課出身のティアナの依頼とあれば、優先して資料を探してくれる。これは間違いないね。司書長はセクト主義とは無縁やけど、六課は別。元の責任者のあたしがいうのもアレやけど、六課は司書長とも関わりが浅からぬところやった。司書長は、ユーノくんならば、なのはちゃんの愛弟子であるティアナのための労は惜しまないはずや」

「――それ、は」

「言っとくけど、調べた限りでは解らなかったって言ってたけど、無限書庫に概念武装の資料がなかったとか、そんなのはあり得ないんだぜ。常識で考えて、あそこになかったらもう次元世界のどこにもないんだ。だいたい、あるんだよ。古代ベルカの時代には一般的ではないけど、それでも研究者は知っていた言葉なんだ。あそこなら、あるさ。あたしらにそれを教えてくれた元主の著書も、あそこにはあったくらいだしな」

「……………」

「察するに、司書長には知られたくない調べものであったということであろうが――」

「なんでです?」

「――――――――」

 現存八神家の総戦力による問い詰めの一気がけであった。

 さすがは家族、息が合っている。

 ティアナはなんとなくそんな場違いなことを思った。実際は念話で打ち合わせていたのだろうけど。

(結局、全部話さないといけないことになるか――)

 最初に覚悟はしていたことではあった。

 覚悟はしていたはずのことであった。

 それでもなるべくは触れたくないことであり、もしかして……と希望を持っていたのも確かだった。

 座り直し、両拳を膝の上に置く。

「ここからは、本当に他言無用にお願いしたいんですが――」

「解った」

「ああ」

「承知」

「了解ですー」

 全員の返答があったのを確認すると、ティアナは語りだした。

 それはマリアージュ事件が終わってから二ヶ月ほどたった頃の話であった。

 

 

 つづく。

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