Over the lights・Under the moon(なのはと型月クロス・改訂版)   作:くおん(出張版)

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19/巨人。

「あれは――!?」

「ゴーレム」

 

 

 

 19/巨人。

 

 

 

 ゴーレムクリイト――それはミッド式の魔導師ならば初等部で学ぶ程度の初歩の魔法だ。

 勿論、全ての魔法がそうであるように、それが使えるということと、それを使っての戦闘が可能であるということは違う。

「なんという巨大さ」

 ウルスラが、思わず口にしていた。

 ある程度以上の使い手には、ただ巨大なだけのゴーレムを作ろうと思えば三、四十メートルほどのサイズは容易だ。それでも、ほとんどのゴーレム使いが実戦で作成し、操作するのは、せいぜいが二十メートルまでだ。それは単純に「創生できるサイズ」と「動かしきれるサイズ」の差である。まず第一に大きさに比例して魔力が必要になり、さらにそれを操作するためには別に膨大な集中力のリソースを要する。巨躯を術者の思い通りに動かすのには限度があるのだった。

 それは管理世界の戦闘者ならば、誰しもが経験的に知っていることである。

 もしかしたらではあるが、彼女が知る中でも最高の大魔導師である八神はやてならば、あるいは常識外の四十メートルクラスの巨大なゴーレムを創生して操作することすらできたかもしれない。

 

 それは、どう見ても六十メートルほどはあった。

 

 そして、そのサイズで動いている。

 動作は滑らかで、まるで普通の人間のようだ。

「――ウルスラさん?」

 立ち尽くしている彼女に話しかける声があった。

「サツキ……?」

 ――なんでこんなところに。

 そう応える前に、ウルスラはさつきの腕を取り、引っ張っていた。

「ウルスラさん、どうしたんですか!?」

「どうしたもこうしたもありません。早く避難するんです!」

「あ……」

 夕刻の人の流れの中で、彼女らは取り残されていた。常識外のことに驚いていた者は彼女らの他にもいた。当然いた。むしろあのゴーレムを見た者は皆が驚く。そして一瞬呆然もとはそんなにない。危険を感じて逃げていくのが当たり前の反応だ。

 ウルスラは管理局の人間として、一個の戦闘者として状況を分析するためにゴーレムを観察していたのであったが、さつきの場合は違う。

(うーん……やっぱり今頃の時間帯は、どうしても反応が鈍くなるなあ……)

 それでも、真昼よりはマシではあるが。

 さつきは目の前で自分の腕を握るウルスラを見る。

 凛の話では、管理局でも屈指の実力を持った騎士だという。

 そして自分の背後、数百メートル向こうで中央通りを歩く巨人へと眼をやった。

(そんな人でも、あんな巨人には手をだしかねるのかな? いや、そうじゃない。この人は、私を巻き込まないようにしているんだ)

 黄昏時の吸血鬼は、勘が鋭くなる。

 ――と、彼女は思っている。

 それは経験則でしかなく、特に再現性もない。だから彼女の友人であるところのシオンは「非論理的です」といってはいるが、それでも一定の信頼をよせてくれてはいる。「もしかしたら昼と夜と境目の時間帯には、さつきの脳にありえない負荷をかけるのかしもれません。そもそもからして、死徒でありながらも脳があるというのが普通ではないわけで、サンプルは少ないので確定できませんが、それで通常ありえない超感覚が生じて――」とかなんとか推論を言ってもくれてはいる。さつきには半分も理解できなかったが。

 そんな彼女の感覚が言うのだ。

 この腕を掴んでいるこの人は、アレに脅威を感じていない。

(むしろ……いい獲物を見つけた、みたいな感じ)

 こんな人だったろうか、と思う。

 違和感を感じてしまったのは、昨晩の数瞬の戦いの感覚が彼女の中に残っているからかもしれない。

(今朝と、雰囲気が違う)

 何があったのだろうか。

 十時間かそこらで。

(こう……王気が充溢しているっていうか……)

「サツキ」

 駆け足を止め、ウルスラは彼女を見た。

「は、――い」

「ここまで離れたら、ひとまずは安心でしょう」

「うん」 

 ゴーレムの巨体はもう視界にはない。ただ、その歩く足音、悲鳴、壊れる道路と街路樹などの音は聞こえる。

「あとは、一人で逃げなさい」

「え」

 ウルスラさんは、――と問おうとして、それは意味がない問いかけだとすぐに思い至る。

 彼女は管理局員で、そして今は、すぐにでもその権能を振るわんと昂ぶっている戦闘者だ。

 一般人を戦闘に巻き込まない距離にまで避難させることを優先させたが、今から何をするかなどは聞くまでもないことだった。

 それでも。

「勝てるんですか?」

 と聞いてしまった。

 ウルスラは一瞬、虚を衝かれたような顔をしたが。

 やがて。

 微笑む。

「大丈夫です」

 安心させようとしている、とさつきは思った。

 そしてそれ以上に、この人には自信があるのだとも。

「巨人殺しは我が祖たる【剣王】も成し得たことです。神話に聞こえた彼の武勇――現世において再現する機会がこようとは、まったくもって私は幸運だ」

「……………………」

 さつきは言葉をだすことができなかった。

 ウルスラが言っていることは冗談めかしているが、半ば以上は本気であるということが解ったからだ。

「それに、例え一夜限りの契りといえど、あれほどに愛し合った貴女を護り、精強な我が剛勇を示せるというのは――まさに騎士の誉れ。古えの騎士物語のように、今宵は閨にて睦言に我が勇壮たる剣舞のほどを語ってみせましょう」

「……………………ッッ」

 さつきは言葉をだすことができなかった。

 ウルスラが言っていることは冗談めかしているが、半ば以上は本気であるということが解ったからだ。

 というか、むちゃくちゃ本気だ。

 潤んだ眼差しに、上気してほのかに朱に染まった笑顔。

 黄昏時の吸血鬼とかそういうのは全然関係なく、誰だって解る。

 これは――欲情している。

(遠坂さん……一体、どういう夢を見せたんですか……!?)

 ひっくとさつきは顔を引きつらせ、のけぞった。

 妖精の如き美貌は、色欲に身を滾らせてもなお美しかった。   

 しかし、正直引いた。

 ウルスラとさつきが昨晩にそういうことをしていたという事実はない。正しくは、現実にそういうことをしていたという訳ではない。凛が泊り込んで暗示を改めてかけるついでに、三人で……なんというか、とにかく処女のさつきには説明し難い色々とエロいことをしたという夢を見せたということ――らしかった。

 具体的な内容は聞いてない。

 教えたがってた風な顔をしていた凛であったが、あれは彼女をイジりたいだけだろう。

 しかし今となっては、やはり聞いておけば……と思ってから、やはり違うと首を振った。

(聞いたら、どんな顔をして顔を合わせたらいいのかわかんなくなるよお)

 もっとも、昨日のことをいえば、彼女自身からして凛をホテルの浴場で押し倒してしまっている訳だが。

 その時は、幸いにも未遂ですんだが。

 ……騎士と死徒の二人が向かい合ったのは、ほんの十数秒であった。 

 先に眼を逸らしたのは――

 先にその少年の姿に気づいたのは、さつきの方だった。

 

「あの子は――」

「? どうしました――」

 

 さつきにつられ、ウルスラもビルの隙間から這い出るように姿を現したその少年を見て。

 どうしてか、眉根を寄せた。

 

 

「死徒」

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

 彼が『それ』に遭遇したのは、ストライクアーツのトレーニングの帰り道の路地裏でのことだった。

 

 

 ストライクアーツというのは、この管理世界で最も人気がある競技である。

 競技とはいっても、はやい話が魔法による戦いで、その内容はレギュレーションを守っていればどんな魔法を使っても問題はないというのだから、ほとんど実戦と変わりがない。新暦での非殺傷設定やら威力調整やらの機能が発達した、その成果といえるかもしれない。実戦と異なるのは環境となるステージが一定のもので、戦う相手が決まっているという点だけである。それだけというべきか、それが実戦でもっとも重要な要素であると考えるべきか、そのあたりはまたそれぞれ考え方があるだろう。

 地球での格闘競技はだいたいルールに応じて技術体系が発達し、それなりのバリエーションはあってもある程度の範囲の中に収束してしまうものであるが、ストライクアーツはそうではない。先述の通りにどんな魔法を使ってもいいとなると、それこそ色々なタイプの戦闘魔法が使用されることとなる。勿論、戦闘スタイルにも流行や人気のあるなしはあるのだが、各流派独自のものがそのままの風格を保って使用されることが多い。個人個人のスタイルはそれこそ千差万別のものとなる。

 彼が使うゴーレムクリエイトは、そんなストライクアーツでも少数派のスタイルではある。

 理由は明確だ。

 ゴーレムの動きは、総じて人間よりも遅い。

 当然、それらは術者のレベルに応じたものであるのだが、速く動くゴーレムを構築するくらいならば、自分の機動力を挙げてしまうのが大方の人間にとっては安上がりだ。

 実戦においてもゴーレム使いというのはそれほどいないが、理由は似たようなものだ。

 そのような不利な条件でなおゴーレムを使用するというのは、何かの拘りがあるのか、あるいはゴーレム以上の得手がないのかのどちらかだ。

 彼の場合は後者であった。

 ――とはいえ。

 そのスタイルしか選べないということは、逆に言えばそのスタイルこそが適合しているともいえる。

 それを彼のストライクアーツの試合成績は示しているといえよう。

 都市戦では最初に出場してから四年連続で上位十番の中に入り続け――、

 公式戦、草試合問わず、全ての試合での勝率は七割を超える。

 管理世界全体を見渡しても、彼以上のゴーレム使いはなかなかいないだろう。

 その日の彼も、試合場での草試合で三戦して、全勝だった。

 いつもならば五戦ほどして帰るのだが、最近この街で起きている行方不明者続出の事件もあって、トレーニングにきている選手も少なめだった。出歩くのを控えている者もいるだろうが、中にはその行方不明者になってしまった者も何人かいるらしかった。

 一体、何が起きているのだろうか――ということを考えなくもなかったが、彼はそのことについてあまり深く考えなかった。自分の考えるべきことではないと思っていた。事件に素人が関わって解決するというのはフィクションの世界の話だ。かの有名な管理局の若手最強の魔導師は、子どもの頃に偶然にロストロギア争奪事件で活躍し、大きく貢献したというが、そういうのは極々稀れな例外というべきであり、そもそもからして十歳にもならない歳でAAAランクという破格な才能の持ち主だからこそできたことであったに違いない。

 とにかくそんなこともあって、彼はまだ日が暮れない内に帰宅の途についた。

 行方不明者が夜間に出歩いていたということは、聞いていたのである。

 やや急ぎ足に、黄昏色の街を歩いていたのだが。

 そんな彼が、ふと裏路地を通ろうと思ったのは、なんとなくここを通ればショートカットができる――ということを思い出したからであって、何か深い理由があったわけではない。

 距離にしてたった二百メートルほどの行程。

 全力で走って三十秒とかからない程度の道。

 

 

 その半ばほどのところに、その女はいた。

 

 

 最初、彼はその時、夢を見ているのかと疑った。

 金糸の如き髪、白磁器を想わせる肌、均整のとれた――否、完全なるバランスで構築された肢体のライン。そのどれもが人の領域を超えたものであり、それらの組み合わせで作り出されたその容貌は、美しいというよりも神々しいというべきものであった。ただ一つ、双眸に輝く朱色のみが、あまりにも毒々しく――

(この人は、)

 危険だ、と感じたのは、理性の領域にあるものではなかった。

 洞察力だとかそんなものでは決してない。

 もっと根元的な――

 魂に近いところから、あるいは魂そのものが叫ぶのだ。

「ゴーレム――」

 クリエイト、と術式の構成にかかる時間は一秒とない。

 その一秒未満の時間にさえも備えていた。

 得意ではないが、格闘戦もできる。

 試合ではゴーレム構築前に勝敗を決しようとするのは常道であった。

 だから、戦闘が始まった段階で彼には隙はない。

 術式展開の寸前に構え、備え、相手がどのように動こうとも対応できるようにしていた。

 この時も、

 

 

 気づいた時には、体が動かなくなっていた。

 

 

 術式展開も、両腕をあげたのも、すべての手順は脳内でのみのことだった。

 いつも通りの行程を、現実を認識するのを拒否していた脳が反芻していただけにすぎない。

 そう。

 

 目があった瞬間に、すべて終わっていたのだ。

 

 磨きぬかれた魔導も、鍛え抜かれた戦技も、積み重ねられた戦闘経験も。

 その女の前には、何もかもが無力で無駄で無意味だった。

 ただの一瞥で、彼の魂までもが呪縛されたかのようだ。

 ゆうるりと歩み足取りは踊るよう。

 間近にまでやってきた時にも、その女に対して彼は何もできなかった。

 それどころか、首に回された手に、胴に回された腕に、触れられたということに歓喜し、勃起した。

 美しい顔が自分のそれに寄せられ、あと少しで唇同士が合わされるという距離になった時には恍惚とした。

 思考といえるものはすでになく。

 白いセーターごしに胸が押し付けられ、戦慄いた。

 首筋に牙を突き立てられた瞬間、彼は射精していた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「死徒」

 

 さつきは呟き、駆け出した。

 黄昏時とか、そんなことは今はどうでもよかった。

 いたのだ。

 死徒がいたのだ。

 管理世界に。

 この街に。

 自分以外の死徒が!

 それが意味することはただ一つだ。

 距離は二百メートル。

 百メートルスプリンターならば十メートルを一秒で走ることができる。二百メートルならば魔法なしでも二十秒前後で生身の人間には可能だ。魔法があるのならば、さらにその半分に時間を圧縮することもできるだろう。閃光の異名を持つ魔導師ならば、一秒とかけまい。

 死徒ならば?

 弓塚さつきには、二秒。

 たったの五歩で、死徒と思しき少年との距離を無とした。

 振り上げた腕は右。

 伸ばされた爪は一フィート。

 そこから打ち下ろすのに躊躇いは欠片とてなく、油断など一つまみとありはしない。

 死徒と思しき少年は、

 

「―――――――ッ」

 

 呼んだ。

 来た。

 さつきはふりおろしかけた瞬間にはそれに気づいた。

 気づいて、とっさに頭上へと落ちてくるそれに対して身を捻り、迎撃しようとする。

 失策だった。

 視界いっぱいに広がる大質量――跳躍してきたゴーレムの全身だ。

 おおよそ60メートルはおろうかという巨躯を構築しているのはコンクリート。単純に考えて、その重量は数百トンを下るまい。

 そのような大質量の降下を、いかに死徒二十七祖の十位に位置する大吸血鬼といえども片手で支えられるはずもなく。

 

「サツキ」

 

 黒い風が彼女の身体を浚ったのは、そこからさらに刹那の間もおかなかった。

 武装形態をとったウルスラが、さつきの胴に腕を回して確保したのである。

 落下するゴーレムが道路に巨大な穴を穿ったのは、その直後であった。

 三百メートルの距離を作ったウルスラが着地したのは、その二秒後だ。

「あなたも無茶をする――」

 言いかけて、ウルスラの表情が固まった。

 さつきはその様子に尋常ならざるものを感じたが、自分の身体にまわされた腕とウルスラの衣装に気づき、事態を把握する。

(あ、まずい)

 とっさに腕を伸ばし、ウルスラの手の中から逃れようとして。

 右腕を捕まれた。

「……待ちなさい」

「あの、今はやっぱり民間人はいない方がいいかなーって……」

「そうです。そうでした――いや、そうですが、そうではなく、て――」

 何かはっきりとしない頭をどうにかしようと左右に振り、それでもさつきの手を握る右手に力を籠める。

「あたたた……」

「サツキ――そう、サツキ、ユミヅカサツキ……リン――トオサカリン――貴女は、貴女たちは何者だ?」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「フェイトさん」

 とティアナに呼ばれ、対面の席に座っていたフェイトは書類に集中していた顔を上げた。

「何?」

「さっきの話ですけど」

「ああ……」

 フェイトは苦笑する。

「ごめんね。ちょっと、どうしてか気になってね」

「え? いや、それは」

「もう随分とご無沙汰だったから」

「――その話じゃないです」

 またおかしな方向に話がもっていかれうな気配を察し、ティアナはぴしゃりと遮った。

「ごめん」 

「……何か、まあなんていうか……そういう話は、オフの時にでもまたお酒でも飲みながらするとして」

 本気でしゅんとしているフェイトを見ていると、あまり強くでられない。

 とりあえずフォローをいれてから、「さっきの話ですけど」と改めて言った。

「死徒、といわれる吸血鬼の件です」

「ああ、そっちね」

「ええ、そっちです」

 ティアナは念を押すように言う。

「ウルスラさん――ドラッケンリッター執務補佐官一人に一任するというのは、どうなんでしょう?」

「どう――というと、ティアナは、彼女の実力について疑問があるの?」

 きょとんとした顔で聞き返され、ティアナは「うーん」と首をかしげる。

「ベルカ古流クイーンブレイドの継承者にして、管理局[陸戦限定]Sランク。戦闘能力だけでいえば単体では十指に入るでしょう」

「加え得るに、かつては執務官としての活躍もしたことがあり、経験も豊富。対魔力なんてレアスキルもちでもあるしね。彼女を圧倒できる魔導師も騎士も、なかなかいないよ。少なくとも私にはあまり自信はない。彼女に効かせるためには、まず対魔力を超える圧縮した魔力か実体の伴った打撃をぶつけなければならないし、その下にある騎士甲冑がまた硬いんだ……シグナムやなのはでも、かなり難しいね。直接打撃メインのスバルの方がまだ相性はいいと思う。――とにかく、そうそう遅れをとるような人ではないよ。彼女に任せるのが、今とりえる選択肢としては最良だと思う」

「そうは、あるんですけど……」

 何か、言いたいことがあるらしい。

 フェイトも「ふーん」と唸っていたが、やがて作りかけてた始末書に眼を落とした。

「確かに、たった一人に全部任せるというのはあまりいいことではないけどね。こういうのは最低限、ツーマンセル以上が基本だからね」

「――はい」

「だけど、私たちがこの体たらくだからね……」

「……はい」

 待機任務を無視しての独断専行、あるいは管理外世界での未許可の全力戦闘――いずれ執務官として褒められた行為ではない。

 今日一日の謹慎で済んだのは、寛容にもほどがあるというべきだろう。

 ティアナはそれでも。

「ですが」

 と言った。

「さっきの話だと、私たちが復帰しても彼女一人に任せることになっているみたいですが」

「人材の余裕がないのも、確かなんだ」

「―――――――」

「本来、この手の任務に直接関係者が巻き込まれているような可能性が高い場合、そういう人間に担当させるというのは内務規定ではできるだけ避けるようにされている」

「―――しかし、」

「ウルスラは、その原理原則を守るのならば明らかに現場に行かせるわけにはいかない。感情的になって判断を誤るかもしれないし。だけど現実問題として、今のこの街で、三百人以上の人間が行方不明になっているという状況で、まったくなんの関係もない局員を探せというのも無理があるんだよ」

「それでも、死んでいるというのがはっきりしている人は少数です」

「そうだね」

 フェイトはそのあたりはあっさりと認め。

「とはいっても、それで根本の人材不足がどうにかなるわけではないから」

「………せめて、あと一人くらいカバーにつけられたらって思うんですけどね」

 ティアナは脳裏に昨日の彼女の姿を思い出していた。

 目の前で愛剣を模されたモノを爆破され、呆然としている姿を。執務官になる前にも、なった後にも、あんな姿をしている人を何度もみた。大切なものを失った時、ひとはみんなああなっていたものだった。

 すぐに立ち直っていたかのようにも見えたが――

(本当は、平気なはずはない)

 元の夫を失ったばかりであり、かつての愛剣を爆破されるという悪夢を見せられ、その後で彼女は結界破りのために今の剣をも使い潰してしまったのだ。平気でいられるはずがない。品のかけたようなことを言っているのだって、きっとああいうことを言ってなければ心が持たないからだろうとティアナには思えた。口調が乱暴な者ほど繊細だなんてことは、ままあることだった。

 そんな彼女に、人手が足りないからと重要で危険な任務をやらせるというのは、ティアナにはどうにも許し難いことのように思えたのだ。

 フェイトはそんなティアナの様子を観ていたが。

 

 

「ティアナは、ウルスラの本気を知らないものね」

   

 

 ぽつり、とこぼれ落ちすように言った。

「本気――?」

「そう。本気。クイーンズブレイドの継承者であるウルスラ・ドラッケンリッターの本当の本気の力」

 それは、どういう意味か。

 先日にティアナが見たウルスラの力は圧倒的なものだった。

 フェイトのフォトンランサーの掃射を浴びて平然とし、得体のしれない剣群の投擲を一閃で弾き飛ばし――

 あれほどの攻撃能力、特殊技能、ティアナとて今まで多くの魔導師や騎士を観てきたが、おおよそ類のないものだった。六課の隊長たちにも比肩する怪物、というのがティアナのウルスラに対する評価だ。それでいてなお、心が傷ついてる様子をも見ている。

 それなのに。

「本当の本気の、ウルスラの力はあんな程度じゃないんだよ」

 フェイトの言葉は衝撃的だった。

「それはどういうことです?」

 まさか、あの時のエミヤという男相手の闘いは本気ではなかったということなのだろうか。

「本気だったと思う。いや、彼女の発揮できる、あの時の限度での本気だったというべきかな」

「それは……デバイスのせいですか?」

 フェイトは頷く。

「【剣王】家に代々伝えられてきたというデバイス、カリバーン……一族の特殊な魔力に合わせて調整されたそれは、現代ではとうてい再現不可能と言われてた――古代ベルカの魔法文明の生み出した最高傑作の一つといっても過言ではないね」

 それを、ウルスラは失ってしまったのだという。

「私は、一度だけ、彼女が模擬戦をしていたのをみたことがある」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……問いただしたいことはいくらでもあるが」

 ウルスラは改めてビルの上に着地してからさつきをおろし、手を離す。

「今は、あのゴーレムの方の始末が先だ」

「は、はあ……」

 さつきはようやく自分の腕が解放され、捕まれたところをさすりながらそう生返事する。

「あなたは、あの若者のことをシトと呼びましたね?」

「ええ」

 反射的に答えてから内心でしまったと思ったが、どうせこの世界で死徒のことを知っている人間のことなど自分ら以外ではほとんどいないということに思い至り、さてどう誤魔化そうかと思考をシフトさせ――

「あれが、話に聞いた吸血鬼か」

 ウルスラの言葉に、驚く。

「知っているんですか!?」

「……ふむ」

 ウルスラはゴーレムとさつきを見回してから、「なるほど」と呟いた。

「とりあえず、死徒の弱点を知りたい。あなたが知っていれば、ですが」

「あ、それは知っていますけど」

「ほう」

「あ、じゃなくて、その、えーと……」

 さつきは混乱してしまった。

 この世界では自分たち以外で死徒のことを知っている人間はいない。というのが大前提だった。もしも知っているとしたらそれは敵対する「彼女」かその関係者たちであると限っているものと考えていた。それがたった今崩れてしまったのだ。

 さつきは頭が悪いわけではない。ないのだが、基本的に彼女のメンタリティは一般人とさほど変わらない。少なくとも表面上は。恐るべき強敵を何度となく撃破したが戦闘は今だって好きではないし、凄まじい死地を幾度となく踏み越えてはいても未だ慣れない。予定外のことが起きたのならば混乱して当然だった。

 ウルスラはそれを察したものか、ゴーレムの足下でふらついいる少年へと目をやった。

「念の為に言っておきますが」

「はい?」

「今の私には、精神系のスキルも通じませんよ」

「はい……」

 ウルスラの対魔力スキルは甲冑を装着した時にのみ発動する。故に、彼女に普段は魔法は通じるのだ。凛の暗示も効く。ただし、騎士甲冑を展開した途端にそれらの魔法や暗示の効果は無効化されてしまう。今の状況がまさにそうだった。

 先日にギルに言われた黒髪の新しい恋人のことが思い出せなかったのは、そのせいである。

 しかしさつきを目の前にしながらも武装して暗示が解けると、記憶の整合性がとれなくなった。いくらなんでも、つい数秒前まで話していた人間のことを忘れるということはそうそうない。記憶と行為の矛盾を脳が認識した時、植え付けられてた記憶を一気に思い出し、そしてそれが現実ではないということをも認知してしまったのである。

 彼女は自分が何をされたのかということははっきりとは解らなかったが、とりあえず精神系の未知のスキルだという風に判断した。

 それが通じない、と今言ったのは、「偽情報などで誤魔化そうとしないように」と釘を差したまでのことであるが。

「弱点っていっても、太陽に弱いとか流れ水を渡れないとか……」

 目の前で、ゴーレムが暴れだしている。

 少年の苦しみに呼応するかのように、ふらふらと動き、手足を振り回し、建物を壊していく。

 さつきは目を凝らす。

「……今のあの人、苦しんでいるんだと思う」

「ふん?」

「多分、全身が痛くて辛くて、だけどそれが太陽のせいなんだってのがまだ解らないんだ」

 死者などの経過がなく死徒になったためか、太陽に対する忌避感というか警戒感が薄い。本能的に怖くは感じてはいても、おそらく成り立てたばかりの混乱している頭ではそれがはっきりと認知できていない。そして今の時刻――黄昏という頃合いは、夜のモノである死徒の感覚を酔わせる。

「あと少しして、日が完全におちて夜になったら、もう少し落ち着く――と思う」

「……完全な日没まで、あと半時間か」

 ウルスラは目の前にウインドを表示して、眉をひそめた。

「あと半時間もあれば、あのゴーレムがどれだけの破壊をもたらせるか――いや、そもそも、あと半時間も保つのか?」

 あれだけの巨体を維持する魔力となると、相当のものだ。

「解りません。だけど」

「だけど?」

「だけど……私の勘だと、あと一時間くらいなら動かし続けると思います」

「勘、ですか」

 どう判断すべきか、とウルスラは呟いたが、彼女自身の直感も同様の判断を下していた。具体的に一時間だとかは解らないが、日没がすぎてもアレは動き続けるだろうと思えた。

(いずれにせよ、日没まで放置しておくわけにもいかない)

 ウルスラの目の前でウインド表示が複数現れる。さつきはびくんと震えたが、唐突なそれに驚いたためだろう。ウルスラはそちらを一瞥したが、それだけであとは応対する。どれもが管理局からの問い合わせであり、複数の部署からのものだった。その内の武装隊とクラウディアからのものだけを残し、ウルスラは一通りの報告だけをすませる。

 そして。

『結界封鎖だけでいいんだな』

 クラウディアからのクロノの問いに。

「はい。執務官たちの応援は不要です。むしろ、私一人の方がやりやすい」

『君がそういうのなら』

 納得したらしい。

『二百秒後に、上空から結界素子を展開して空間を封鎖する』 

『武装隊からの援護は?』

 こちらは支局の武装隊からであるが。

「結界魔導師の派遣ができるのならば、バックアップに。私の新デバイスからの斬撃魔法は、結界破壊効果が付与されている可能性が高いので」

『了解』

 二つのウインドが消えると、「さて」と改めてさつきをみる。

「ああは答えたものの、正直な話、まったく未知の相手です。できるならば経験者のアドバイスなどがあるとうれしいものですが」

「えー」

 さつきは思わずそんな声を上げてしまうのであるが、それでもゴーレムへと顔を向けてから。

「ないです。あんなおっきなの相手に戦ったことないですから」

 ヘルメスはもうちょっと小さかったと思う。

「ゴーレムは私がなんとか。肝心なのは、あの吸血鬼にされた少年のことです」

「あー……それなら」

 どうにかなるかも、と肯定するさつきであるが、続いてのウルスラの言葉にまたもや声をあげる。

「ただし、生きたままに」

 それがどれほどに難しいことか――

「無理……ではないけど、難しいですよ」

「無理でないのならば、やる価値はあるでしょう」

「そうかもしれないですけど……」

 だけど、できるのかなあと呟く。呻くようだった。

 彼女とてこの世界にきて、何人もの死者を屠ったし、死徒と化した者も滅ぼした。それらも好んでした訳ではない。死徒であるのならばまだ意志の疎通ができる可能性だってある。そう思ったりもしていた。だが、先日に彼女たちが二人がかりで倒した騎士などもそうなのだが、どうにもここで出会った死徒は違う。まだあの少年で二人目なのだが、彼女にはそう思えてならなかった。

(なんだか、自分やシオンの時とは違うんだよね……勿論、私たちの方が珍しいんだってのは解るんだけど)

 上手く言葉にできないもどかしさに、さつきは眉を潜める。

 しかし、時間は有限だった。

 彼女たちの葛藤や事情など考慮はしてくれない。

 

 突然、世界が翳った。

 

「!?――――」

「落ち着いてください。結界です」

 言われて、さつきはウルスラを見て、それからいつの間にか緑がかった、しかし曇天の空へと目をやる。

「これが、結界――ああ、なるほど」

 夜でこそないが、日光が完全に遮断されている。この状態ならば、万全でこそないが真昼間や黄昏時などと違って支障なく死徒としての全力を発揮できるはずだ。

 と、なると――

「あ、あの子も止まっている」

「ゴーレムもです。しかし、」

 全身を襲う倦怠感と痛みからは解放されたはずだ。それはさつきの様子からもわかる。だが、ウルスラは目を細めている。訝しげな眼差しで吸血鬼にされたらしき少年と巨大なゴーレムを見ている。何か胸騒ぎが止まらない。嫌な予感がするのだ。

 距離にして数百メートル離れた少年は顔を抑えていたが。

 やがて。

 

 彼女たちを見た。

 

「―――――ッ」

「―――――ッ」

 二人の背筋に悪寒が走った。

 彼女たちもまた直視したのだ。

 

 鮮血の色に染まった双眸を。

 

 それに宿っていたのは劣情と害意と憎悪を合わせたかのような、原始の破壊衝動にも似た表現し難い感情ともいえない何かだった。おおよそ人がもつものではなく、人に向けるようなものではない。

 人ならぬ怪物が、人ではない――餌を見る目だった。

「まずい」

 抑揚もなく呟いたのはさつきだ。

 彼女は、知っていたのだ。

「サツキ――ッ!」

 ウルスラが叫んだのは、ゴーレムの姿が一瞬にして消えたからであり、その次の刹那にゴーレムがどういう動作をとったのかを悟ったからである。

 

 跳躍していた。

 

 二人がそこから飛び退いたのとほとんど変わらない時間に、またもやゴーレムがそこに落ちた。大質量の落下に、彼女たちがいたビルが崩壊する。

「これほどの距離を跳ぶとは……ッ」

 ウルスラは舞い散る埃から脱出するように駆け上がり、跳び、距離を取ろうとする。

 人間の視覚は上下の動きに対して若干反応が鈍くなるというが、ウルスラのような騎士や魔導師にとっては三次元にて縦横無尽に機動していく相手との戦闘は珍しくない。飛行魔法の普及したこの世界においては当然のことといえた。戦闘時において飛行できないウルスラであってもそれらに対応した訓練は積んでいるし、そのような経験も数多くある。それでもなお、あの巨大なゴーレムが高く高く――それも一流の機動魔導師の如き速度でそれをなし得るというのは認識の埒外だった。

 それゆえに一瞬だが反応が遅れてしまった。

(サツキはどっちに――)

 それでも彼女だけならばどうにでもできたが、さつきを伴っての跳躍は不可能だった。

 やむをえずしての単独での脱出であったが、彼女の直感はさつきが無事であることを確信していた。

 果たして、視界の隅にウルスラを追うように跳ぶ影を見つけた。

「ウルスラさん」

 むこうもこちらを見つけたらしく、安堵の笑顔を浮かべているのが見える。

 ウルスラは、

 

 空中にいるさつきめがけて拳を振るっているゴーレムの姿を見た。

 

「―――――――光牙裂閃!」

 

 全くの溜めもない、抜き打ちの斬撃――光の刃が、巨大な拳を切り裂いた。

 

 

 

 転章

 

 

 

「相変わらず、見事なものやね。ウルスラは」

 ソファーに腰掛け、彼女は呟く。

「はい。主はやて。彼女の手にかかれば、あのようなゴーレムなどさほど問題としないでしょう」

 彼女の傍らに立つ女騎士が、そう答える。

 二人の目の前には空間にモニターが展開されていた。表示されているのはここから十数キロ離れた場所での戦いの様子だ。黒い女騎士とどこから見ても普通の少女が、常識外の巨大な敵を迎撃していた。魔導師や騎士が魔法を操り、戦うことは管理世界ではさほど珍しいことではないが、それであってもこの光景は破格にすぎる。まるで神話の一場面のようだった。

 が。

 突然、そのモニターいっぱいにノイズが走る。

「――結界素子が定着したか」

 彼女は告げて、そしてモニターを消す。

 結界内部の様子を覗きみるのは、SS級の大魔導師である彼女であっても容易なことではない。それが個人のそれであるのならまだしも、戦艦から照射された結界魔法相手では結界素子の構築が定着するまでのわずかな時間しか難しい。無理ではないが、難しいのだ。

「まあ、シグナムのいうとおりやね。あんだけの巨人はなかなか使えるもんやないけど、ウルスラならばどうにでもできるやろうね」

「なんのイレギュラーも起きなければ、ですが」

「そうやね」

 わずかに思案するように瞼を閉じた彼女であったが、やがて開き、部屋の中央へと目をやった。

 そこにいたのは彼女の騎士の一人である湖の騎士と――

 

 両手を上げた状態で空間に拘束されている女性がいた。

 

 黒いスーツにスカート、そして赤いコート。

 そして、黒く長い髪を背中に流した――

 閉ざされた瞼の下にある瞳はいかなる色であるのか。

「シャマル」

 と彼女は呼んだ。

「そちらの調子はどない?」

「あまり、芳しくはないみたいね」

 空間に拘束している女性を前にして、シャマルと呼ばれた女騎士は眉を潜める。

「自白剤を合法のものだけで七種類投与しているけど」

「七種類!?」

 ただでさえ、自白剤の使用には賛否が別れるところだというのに、それを七種類、しかもこの一日だけで投与するというのは、どれほど少量だろうとやっていいはずのことではない。

 彼女が叫んでしまったのも無理からぬことである。

 シャマルは、静かに首を振った。

「それが、片っ端から無効化されていってるみたいなの」

「対薬物のプロテクトがされている――?」

「というより、害のある異物が体内に侵入したりすると、それをこの子の手の、この変な印がどうにかしちゃうみたい」

 三人の視線が一点に集中された。

 拘束された腕の片方が輝いている。

「ざっと解析した感じだと、これ、魔導書の一種ね」

「魔導書――つまり、これはリンカーコアに蓄えられた情報を外部化したものということか」

 もう一人の女騎士がそう推論を口にすると、「ええ」と緑の女騎士は頷いた。

「術式を一時的に紋章化して体に固着させるというのはままあることだけど、この子の場合、固着というレベルじゃないわね、文字通りその身に刻んでいると言っていいくらい。魔導を入れ墨にしている、といったほうがイメージに近いかしら」

「……どんな魔法が刻み込まれているか、解析できへんの?」

 彼女の言葉に、今度はシャマルは首を左右に振った。

「フォーマットが完全に異なる上に、圧縮されてなおかつ人体に刻み込まれているから……摘出、蒐集してしまえば夜天の書の魔法の一部としてはやてちゃんの『蒐集行使』で使えるはず――だけど」

「だけど?」

「リンカーコアならともかくとして、こんな状態でのそれを蒐集なんてしたケースはないから。理論上は可能ではあっても、何が起きるのかちょっと予測がつかないし、あまりお奨めできないわね。あとリンカーコアと違って、これは多分、摘出してしまったらそれっきり。改めて移植しないと、この子の手から消えてなくなってしまうわ」

「なるほど……」

 この女性の使う魔法には興味はあるが、そのために奪ってしまうというのは気が引ける。

 

 彼女らが未知の魔法を使うこの女性を捕らえたのは、ほんの数時間ほど前である。

 

「しかし、薬が効かないっていうのは予想外やね」

 相手の手の内が解らないからといって、隠してある札をわざわざ出させるような悠長な真似はやっていられない。だから彼女はさっさと打ち倒してしまった。まったく未知の魔法の使い手ではあるが、彼女とその騎士たちにしてみればさほどに面倒がある相手でもなかった。数多くの世界で戦った騎士たちには未知の魔法などというものに遭遇することはさほどに珍しいことではない。

 制圧にかかった十三分という時間は、むしろ捕獲対象であるこの女性がどれだけ優秀であったかを示しているといえよう。

「情報を引き出すだけならば、拷問という手段もありますが?」

 傍らの女騎士に言われ、彼女は苦笑する。

「拷問は施術する人間の主観と嗜好に左右されて情報の精度が落ちる。それに、万が一管理局にバレた場合は面倒なことになる――シグナムがそこら心得ていないはずもないか」

「……差し出がましいことを申しました」

「ええよ。まあ他にとれる手となると、あとは精神干渉系スキルしかない、か」

 二人の騎士がその言葉に顔を曇らせたのはどういうことか。

 彼女は立ち上がり、上着を脱ぎ捨てて目を閉じた。

 瞬くうちに全身が輝き、一糸纏わぬ姿となる。

「リインのサポートは」

「いらんよ。あの子に、こんな汚れ仕事をまださせるわけにはいかんやろ?」

「しかし、」

 騎士たちの言葉にそれっきり耳を貸さず、彼女は囚えてる女性の元に歩み寄り、その胸の中央に手を当て――

 そのまま突き進む。

 

 十秒を経ずして、彼女の姿が消えた。

 

「主……」

「はやてちゃん……」

 二人の騎士の目の前で、女の拘束が解ける。

 そして、目を開いた。

 

 

 

 

 つづく。

 

 

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