遊戯王GX 僕の相棒は盗賊王:re   作:たら子

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作者の勝手な都合により前作を終了してしまい申し訳ございませんでした。二度とこのようなことがないよう頑張りますのでよろしくお願いします。


闇を継ぐ者

  

 世界には二種類の人間がいる。〝持つ者〟と〝持たない者〟。光と影。光の中に完結する物語があるのなら、この物語は、きっと……

 

 

――キーンコーンカーンコーン

 

 

 どこか間延びした、けれども力強い鐘の音に、教室内から多くの生徒があふれ出す。部活に行く者。掃除をする者。下校する者。まだ教室内でおしゃべりする者。何百人という生徒は、ほぼこの4種類に分類される。だが、何事にも例外が存在するように。この童実野町第二中学校には第五の選択肢を選ぶ者がいた。

 

「ハア、ハア」

 

若干息を切らせつつ裏門へと急ぐ。身長165センチ。この年代にしては小柄な少年だ。黒髪黒目。頭は悪くなさそうだが、かといってよさそうにも見えない。しいてあげるならば少し童顔で、見る者によっては可愛い、という評価を下されるかもしれない。そんなよく言えば普通、悪く言えば平凡な少年は、必死そうな形相で、裏門を目指していた。

 

「あぐっ」

 

 しかし少年は途中で力尽きたように倒れた。否、倒されたのだ。

 〝彼らに〟。

 

「高槻麟。カードを寄越せ」

 

 冷たい声が、少年の鼓膜を震わせる。いつの間にか少年を囲んでいたのは学生服の集団。だがその服装は乱れ、いや乱しているのか。とにかく、百人が見れば九十人が目をそらすであろう者たち(ちなみに残り十人は同類)。その中から明らかに他の者たちとは違う雰囲気を持った少年が現れる。身長は推定175センチ。背丈だけ見れば十分に青年と呼べるその肉体には、無駄な脂肪が全くなく、服装の上からでもわかるほど引き締まっている。端正で野性味あふれる顔立ち。染めたのか、地毛か、茶髪の少し跳ねた髪型がそれをより一層引き立てていた。童実野町第二中学校の決闘番長として恐れられている士道和哉だ。

 

「だから、何度も言ってるでしょ。僕はカードを持ってないんだ」

 

もう何度目になるかわからない答えに、士道の瞳が、威圧するように光る。

 

「嘘をつくな。貴様がカード屋の息子ということは、調べがついている」

「…確かにそうだけど、僕はデュエルモンスターズはやってないんだ。だから、カードは持ってないんだよ。」

「なら、盗んでこい」

「……いやだ」

 

僕の答えに不良たちの輪がジリジリと狭まる。同時に、士道の目に剣呑な光が宿る。

 

「……やれ」

 

不良たちの輪が縮まる。これから起こることを予測して、僕は静かに目を閉じた。

 

 

◇◆◇◆

 

夕陽が沈み、すっかり暗くなった夜道を、一人の少年が歩いている。時折街灯が照らすその体は、外見上はまるで異変がないように見える。しかしその少年の顔は、苦痛と屈辱にハッキリと歪んでいた。

 

「いてて…」

 

歩くたびに痛む身体を引き摺りながら、アパートまで辿り着く。顔が自然と下を向く。そんなことをしていては危ないのだが、それでもこんな惨めな顔を、たとえ赤の他人にも見られたくはなかった。

 

「……ただいま」

 

一人暮らしをしているのだから、当たり前だけどその声に答える人間はいない。いそいそと服を脱ぎ、風呂場へと直行する。鏡に映った身体は、服の上からでは想像できないほど傷だらけだった。出血こそないものの、上半身には痣が浮かび、下半身は蹴られたり、寝技をかけられた時の痛みが鈍く響いている。士道たちは虐めがわからないよう、顔など目立つところは狙わないのだ。まあ、本当に上手い人は痣も残すことないのだが…

 

意味もなくそんなことを考えながら、早速シャワーで汚れを洗い流す。家計が厳しいので、ゆっくり湯船に浸かることもできない。痛む身体で何とかタオルで身体を拭い、ジャージに着替えてベッド…はないので、毛布と僅かな私服を枕代わりに固い床に横たわった。もうすぐ冬が迫るこの季節にそれだけではかなり寒いのだが、贅沢は言っていられない。時折腹の虫が鳴るが、痛みと、家計的な厳しさから、食事をする気にはなれなかった。本来ならもう少し余裕があったのだが、士道たちに絡まれるようになってから、バイトに遅れるようになり、先日とうとうクビになってしまった。今月いっぱいは、このような日々が続くのかと思うと憂鬱になる。

 

「うっ…うう」

 

気付けば、頬を液体が滴っていた。唇に垂れたソレから、塩の味がする。惨めだ、と手を握りしめ、泣き叫ぼうとしたが、空腹で力が入らず、それすらできない。情けなくて余計惨めな気分になり、若干汗の匂いが残る私服に、顔を埋めた。

 

 

 

――ピンポーン

 

 

インターホンの音で目が覚める。いつの間にか寝てしまっていたらしい。やや重い頭で窓の外を見ると、まだ朝にはなっていないようだ。

 

 

――ピンポーン

 

 

再度インターホンの鳴る音がする。このアパートに越してからインターホンが鳴ったことはない。なので、恐る恐るドアの覗き穴から外を伺うと、そこに居たのは宅配業者らしいダンボールを抱えた男だった。

 

「サインか印鑑をお願いします」

 

ドアを開けると、男が無愛想に告げる。その言い方に若干ムッとするも、言われるがままにサインを済ませる。男はダンボールを手渡し、こちらに一礼して退散した。

改めてダンボールを確認する。差出人欄を見てみるが、まるで見覚えのない人物だった。一瞬、間違いかと思ったが、送り先の住所はここだったし、何より受け取り人欄が、高槻麟となっている。さすがにこの名前の人がそうそういるとは思えないので、この家に送られてきたものであることは間違いないだろう。と、なると気になるのは中身だ。誰が送ってきたかわからない怪しい荷物だが、現状では何でも大歓迎だった。食品なら良し。そうでなくともお金に換えられるものなら何でも良い。

 

自分の思考の情けなさに我ながら溜息が出るが現実にそうなのだ。背に腹は代えられない。

 

『ベリ、ベリベリベリ』

 

少しワクワクしながら、ガムテープを剥がしていく。遠い昔に、クリスマスプレゼントの包み紙を剥がした時のようだ。そして、テープを剥がし、中身を見る。

 

――中身は、デュエルモンスターズのカードだった。

 

しかも今時のものではなく、バトルシティ時代全盛のカード。おまけにボロボロ。これでは、売ることさえできないだろう。

急速に気分が落ち込んでいくのを感じた。突然の贈り物に期待していた分落差も激しかったのだろう。おまけにデュエルモンスターズというのが、心の底に押し込めていたトラウマを刺激した。

 

せめて何かないか、とダンボールの底をかき回す。しかし出てくるカードは、現在の環境では使えないようなカードや、既に禁止カードとなり、本当に使えなくなったカードばかりだった。

 

「ん?」

 

すると、一枚のカードが目にとまった。

 

【ダークネクロフィア】

効果モンスター

星8/闇属性/悪魔族/攻2200/守2800

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地に存在する悪魔族モンスター3体を

ゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。

このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた

ターンのエンドフェイズ時、このカードを装備カード扱いとして

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する。

この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、

装備モンスターのコントロールを得る。

 

バトルシティの本戦第一試合で、〝決闘王〟武藤遊戯と闘った獏良了のエースモンスター。もう第一線で使うことはできないだろうが、それでもそれなりに有名なカードだ。少しはお金になるかもしれない。ホッとすると同時に強烈な眠気が襲ってくる。そのまま僕は眠りについた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

『チュンチュン』

 

 

まだ肌寒い朝に、スズメの囀る音が響き渡る。こんなに朝早く登校するのは、やはり士道たちに捕まらないためだった。この時間はまだ寒いし眠いが、それでも殴られるよりはましだ。いっそのこと、新聞配達のアルバイトでもしてみようか。そんなことを考えながら前を走る。

 

「よお」

 

いきなり、後ろから声をかけられた。

 

「高槻麟。ちゃんとカードは用意してきたか?」

 

そこに居たのは、士道和哉とその取り巻きたち。意地の悪そうな顔を向けている。

 

「なっなんで!?」

「知れたこと。貴様のような弱い者の考えなどお見通しだ」

 

士道は、そう言うとデュエルディスクを構えた。

 

「まどろっこしい話し合いに意味はない。決闘者なら、決闘で決着をつけるのみ。俺が勝ったら、貴様はつべこべ言わずにレアカードを寄越せ」

「ちょっ、ちょっと待って。僕は決闘者じゃない。デッキも、デュエルディスクもないんだ」

「ならば、黙ってレアカードを寄越せ」

「そんな」

「黙れ……所詮この世は弱肉強食。死人に口無し。敗者の意見になど誰も耳を貸さん。まして、戦場に剣すら持ってこない者など尚更な」

 

(なんだよ、そんな論理。滅茶苦茶だ。この街が戦場だなんて、何時の話だよ。)

 

心の中で愚痴る。しかし、現実は誰も僕の味方をしてはくれない。ジリジリと、包囲網が狭まっていく。

 

どうする?

どうする?

 

必死に思考を巡らせるも、良い案が浮かばない。祈るように目を瞑った。

 

( 誰か、助けて)

 

『上着の胸ポケットを探してみな』

 

不意に、若い男の声が聞こえた。

思わず周りを見渡す。士道たちは僕の行動に一瞬眉を顰めたが、構わず近づいてくる。

慌てて胸ポケットを探ると、何か固い物が手に当たった。それは、まるで見覚えのないデッキだった。

 

「貴様…デッキを持っていたのか。おい、誰かディスクを貸してやれ」

 

その言葉に、取り巻きの一人がディスクを放り投げる。それを受け取り、手渡されたディスクを嵌めて、デッキをセット。 LP4000の文字が浮かび、ソリッドビジョンシステムが起動する。取り巻きがリングを描くように取り囲む。士道と僕が、古代の決闘のように一歩前へと踏み出す。場を、独特の空気が支配していく。

 

「一つ、良いかな」

「何だ?」

「これは、アンティデュエル。なのに君が負けた場合の賭け金が提示されていない」

「何が言いたい?」

「別に…ただ、負ける気は無いってことだよ」

 

僕の挑発に士道は初めて顔に笑みを浮かべた。それはまるで獲物を見つけた猛獣のようで。

 

「どうやら、俺は貴様を少々舐めていたようだ。よかろう。貴様を決闘者と認め、貴様が勝ったら、願いを一つ聞いてやる」

「「決闘(デュエル)‼」」

 

 そして、決闘は始まった。

 




麟君の三人称は難しかったので、一人称に変更しました。
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