遊戯王GX 僕の相棒は盗賊王:re   作:たら子

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一週間で投稿するとか言っておきながら遅れて申し訳ありませんでした。


炎の傭兵 表

『行くのか?』

 

少年の頭に声が響く。

 

 『うん。妹との約束だからね」

 

 息を吸い、目を閉じる。

少年は意を決したように会場へと歩を進めた。

 

 

 ◇◆◇◆

 

『分かっているな?』

 

 指令用のイヤホンから流れ出る音声に南米の血を引いているであろう浅黒い肌をした少年、オースチン・オブライエンは黙ってうなずいた。幼いころから傭兵として訓練してきた肉体は、未成熟な年齢に似合わず引き締まっており、その瞳は与えられた任務を絶対に遂行するという鉄の意志が宿っている。

 イヤホンの奥の人物は、姿は見えずともオブライエンのそんな空気が伝わったのか、満足げなため息を漏らした。

 

『それでは万事指令通りに』

 

 少年は愛用の銃器の形を模した決闘盤を分解し、組み立て、整備し、また組み立てる。流れるように淀みなく、恒例のルーティーンをこなした少年は軽く息を整えると、会場へと歩を進めた。

 

 

 ◇◆◇◆

 

『みなさーん、大変長らくお待たせいたしました!ただいまより準決勝第二試合を開催いたします』

「オオオーーーーー!!!」

 

 会場から割れんばかりの歓声が湧く。本日一番の盛り上がりにメリッサも思わず笑顔になる。この試合も第一試合の時のように殺伐とした重い空気になるかと不安だったが、妹である叶の冷たい雰囲気よりも兄のどこか間の抜けた雰囲気は野次りやすいのだろう。まあ何にせよ、この試合を盛り上がらせるのがMCとしての自分の役割である、とメリッサは心の中でそう思った。

 

『続きましては対戦者の紹介です。まずは一人目。一回戦ではそのクールな戦略と炎のような熱い戦術で対戦者を圧倒!今回も魅せてくれるのか?オースチン・オブライエン!!!』

「がんばれよー!」

「また楽しませてくれー!」

 

 観客の歓声の中、オブライエンが進み出る。しかし彼の顔には、15歳特有の緊張や、笑顔を見せるといった表情はない。ただ冷静に、冷血に、冷徹に。任務を遂行するという鉄の意志が現れていた。

 

『それではもう一人の対戦者の登場です。一回戦をその悪魔のような頭脳で対戦者をジャッジキルに陥れた魔少年今回はどのような戦略を見せてくれるのか!?高槻麟!!!』

「ひっこめーーー!!!」

「負けちまえーー!!!」

 

 オブライエンとは対照的な野次の中、一人の少年が進み出る。一回戦で見せていたようなどこかおびえたような表情はなく、その瞳には、覚悟を決めたような色をにじませていた。

 

「それでは、決闘開始いいいいいいい!!!」

「「決闘!!」」

 

 ランプが点灯したのは、オブライエン。

 

「俺の先攻」

 

 手札を見る。その何気ない動作の中で、彼の脳内では、先ほど受けた奇妙な任務内容が思い出されていた。

 

 

 ―-十数分前

 

『高槻麟の力を最大限に引き出せ』

 オブライエンの心に疑問が浮かぶ。元々オブライエンが依頼されたのはカーニバルでの優勝。そのために依頼を受諾した数か月前からわざわざ日本の学校に転校し、対戦者の情報を入手して今日という日に備えてきた。その依頼を受けたとき、オブライエンは内心気分が高揚したことを覚えている。童実野町デュエルカーニバルは世界にも中継されるほどの大会だ。一決闘者としてその優勝の名誉を得られることは、最高の喜びであった。それが本番その日に変更されたのだ。オブライエンの胸に、暗い感情がにじんだ。もちろん表情には出さなかったが。

 

『私の指示があるまで勝利してはならん。分かったな?』

「…イエッサー」

――現在

 

(いかん。今は任務を遂行することだけを考えなければ)

 

 幸いにして、彼のデッキはあらゆる状況に対応できるよう構築されている。デッキ交換が不可能な今大会において彼ほど多彩な戦術が取れる決闘者はいない。

 

(プランCだな)

 

「俺はカードを4枚伏せてターンエンド」

 

異様。モンスターの召還はなし。ただ伏せカードがあるのみ。にもかかわらず、その伏せカードからは不気味な気配を漂わせている。さながら戦場に仕掛けられた地雷のよう。一歩でも踏ぬけば、即死。

 

「僕のターン、ドロー」

 

 高槻麟がカードを引く。遠目にも高槻麟の表情は暗い。初手から4枚伏せという事態に、今彼の眼には手札のあらゆる手段が悪手に見えることだろう。

 

「僕は、クリバンデットを召喚」

 

 バンダナに眼帯をつけた毛玉のようなモンスターが現れる。盗賊のようなモンスターだが、その凶悪な効果は、対葛城戦でチェック済みだ。ここからだな、とオブライエンは思った。

 

(初手にクリバンデットを召喚したことから考えて、今奴の手札にはハーピィの羽根箒は存在しない。となると奴はクリバンデットの効果を使おうとするはず。しかし攻撃し、ミラーフォースのような罠カードに当たれば不発に終わってしまう。目先のダメージを与えるために危険に走るか、最終的な勝利を考え、自分の心を自制できるか)

 

「僕はクリバンデットで直接攻撃!」

「甘い!バトルフェイズに入る前に永続罠、ブレイズキャノン・マガジンを発動。ヴォルカニック・バックショットを墓地に送り、カードを1枚ドロー。さらに墓地に送られたバックショットの効果発動。相手に500ポイントのダメージを与え、デッキから同名カードを2枚墓地に送ることで相手モンスターをすべて破壊する。ファイヤ!!

「うわああああ!!!」

 

 

 高槻麟 LP4000→2500

 

白色の砲身を三つ連結させた砲台が現れる。炎に包まれた三つ首のサソリがセットされ、それを弾丸としてクリバンデットを焼き尽くす。叫び声を上げる暇もないまま、クリバンデットは消し炭と化した。

 

『すさまじい砲撃!!標的が動きを見せれば即座に狩る。まさに。これは麟選手にとって大きな痛手となるでしょう…けどこれってなんかもったいなくない?』

 

メリッサの疑問に観客たちが同意するようにざわざわと声が湧く。だが、これは決してプレイングミスなどではない。問題は何体倒したか、ではなく倒した敵の質とタイミングだ。

クリバンデットは攻撃力1000と数あるモンスターカードの中でも最弱レベルである。しかし、その低い攻撃力の代わりに、自身をリリースすることで墓地肥やしと魔法・罠カードをサーチする凶悪な効果を秘めている。もしオブライエンが数にこだわり、発動を見送っていれば、高槻麟は強力なアドバンテージを有していただろう。

 

(ここまでは概ね計画通り。あとはターゲットの出方次第だが…)

 

「…メインフェイズ2。僕はカードを2枚伏せてターンエンド」

「……俺のターン、ドロー」

 

(このままでは高槻麟の実力を引き出すことも出来ないか。......ならば)

 

 「俺はブレイズキャノン・マガジンの効果で手札のヴォルカニック・バレットを墓地に送りカードを1枚ドロー。さらに今送ったバレットの効果発動。500ポイントライフを払うことで同名カードを手札に加える」

 

 オブライエンLP4000→3500

       手札2→3

 

(これで手札は3枚。さらなる追撃も可能だが、奴の伏せカード…)

 

 高槻麟は先の対戦においてミスを犯した。それはデッキ情報を公開し続けたことである。『情報を制した者が世界を制す』という言葉があるように、情報はこの世の中で最も重要なものであるといっても過言ではない。大会規定によりデッキ交換が行えない本大会において、それはより顕著である。

 

(現在公開されている奴のデッキ情報から、この状況で恐れる罠カードは存在しない。ならば、さらに追い込む)

 

「俺はヴォルカニック・エッジを召喚」

 

 人間よりも大型の、トカゲを模したモンスターが現れる。その姿はヴォルカニック・バレットを成長させたようであった。

 

「ヴォルカニック・エッジのモンスター効果。このターンの攻撃を放棄する代わりに、相手に500ポイントのダメージを与える。ファイヤ!」

「ぐっ…」

 

高槻麟 LP2500→2000

 

『ええ――――!!何してんの!?攻撃すればいいのに。意味わかんないんですけど』

 

 メリッサが叫ぶが、これもまたプレイングミスではない。オブライエンにとって今回の決闘は任務。あまりに追い込み過ぎては実力を引き出す間もない。さらにオブライエンは傭兵として父による訓練を幼少時より叩き込まれている。傭兵にとって、戦場での罠は一つ一つが命取り。わずかな気のゆるみが即、死へとつながる。そんなオブライエンにとって、たとえ1パーセントでも危険に繋がる行動は出来ないのだ。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

 高槻麟LP2000 手札3枚 場 伏せカード2枚

 

 オブライエンLP3500 手札2枚 場 ヴォルカニック・エッジ 

           ブレイズキャノン・マガジン 伏せカード3枚

 

「僕のターンドロー」

 

(さあ、どう動く。見せて見ろ。お前の力を)

 

「僕は魔法カード、闇の誘惑を発動。カードを2枚ドローして1枚を除外する。除外されたネクロフェイスは、お互いのデッキの上から5枚を除外する」

 

 【除外されたカード】

麟 幻影騎士団ラギッド・グローブ

  死者蘇生

  神の宣告

  冥界の魔王ハ・デス

  魔法再生

 

オブライエン ツイン・ツイスター

       生贄封じの仮面

       デモンズ・チェーン

       バーニングブラッド

       真炎の爆発

 

 除外されたカードを確認するが、現在の状況に差し障るカードは特にはない。逆に麟デッキからは厄介な神の宣告と魔法再生のカードが消える。これでハーピィの羽根箒といったカードを再利用することは出来なくなった。高槻麟のわずかに動揺した様子からみると、やはり痛手だったらしい。オブライエンはほんの少しだけ溜飲が下がったような気がした。

 

「僕は幻影騎士団ラギッドグローブを召喚。そして場に幻影騎士団が存在するので、手札から幻影騎士団サイレントブーツを特殊召喚」

 

 流れ出るように出現する幽鬼の騎士たち。だが、その流れはまだまだ止まらない。

 

「僕は2体のモンスターでオーバーレ」

「させるか!俺は永続罠、虚無空間を発動。これでお互いにモンスターを特殊召喚することはできない」

 

 新たなモンスター創造へと導く銀河を、霧の空間が覆い尽くす。くっ、と麟の顔が苦しそうに歪んだ。後に残された騎士たちの青白い炎が、寂しげに揺らいでいる。

 

「伏せカードオープン、エネミー・コントローラ-。サイレントブーツをリリースして、君のヴォルカニック・エッジを奪う。さらにフィールドからモンスターが墓地に送れたため、虚無空間は破壊される」

「ならば俺はチェーンして永続罠、王宮の宮廷のしきたり。これで虚無空間は破壊されない。そしてブレイズキャノン・マガジンの効果を発動。手札のヴォルカニック・バレットを墓地に送り1枚ドロー」

「バトルだ!僕はヴォルカニック・エッジで直接攻撃」

 

 裏切りのモンスターがオブライエンへと向かう。当のオブライエンはまるで動じていない。

 

「永続罠、グラヴィティ・バインド-超重力の網―を発動。レベル4以上のモンスターは攻撃できない」

「っ、ならラギッド・グローブで」

「それも無駄だ。永続罠、ファイヤー・ウォール。墓地のヴォルカニック・バレットを除外することでその直接攻撃を無効にする」

 

 超重力の網と炎の障壁。二つの包囲網が麟のモンスターの攻撃を阻む。この二つを突破しない限り麟に勝機はない。

 

「…メインフェイズ2。ヴォルカニック・エッジの効果発動。相手に500ポイントのダメージを与える。墓地のサイレントブーツを除外して幻影霧剣を手札に。さらに永続魔法エクトプラズマ―を発動。ヴォルカニック・エッジをリリースしてその攻撃力の半分のダメージを与える」

 

 オブライエンLP3500→3000→2100

 

「…俺のターン」

 

 

鍛え抜かれた赤銅色の腕がカードを引き抜く。流れるような動きには、ある感情がにじみ出ていた。

 

(この俺にバーン勝負を挑んでくるだと…ふざけているのか?)

 

 怒りのあまりに空いている右こぶしが細かく震える。常に冷静沈着を心掛けているオブライエンの心に抑えきれない怒りが沸き上がった。

 

(確認した奴のデッキにバーンカードはエクトプラズマ―のみ。付け焼刃の戦術でやられるほど、俺のヴォルカニック・バーンデッキは甘くない)

 

「この瞬間、ファイヤー・ウォールの維持コストにより500ポイントを支払う。俺は墓地のヴォルカニック・バレットの効果を使い、同名カードをデッキから手札に。ブレイズキャノン・マガジンの効果で今手札に加えたバレットを墓地に送り1枚ドロー」

 

 オブライエンLP2100→1600→1100

 

「炎帝近衛兵を召喚。その効果で墓地のヴォルカニック・バレット、ヴォルカニック・バックショットをデッキに加え、シャッフル。デッキから2枚ドローする」

「させない!永続罠、幻影霧剣を発」

「速攻魔法、禁じられた聖衣を発動。600攻撃力を下げて効果の対象にならない」

 

 【炎帝近衛兵】

効果モンスター

星4/炎属性/炎族/攻1700/守1200

このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する炎族モンスター4体を選択して発動する。

選択したモンスターをデッキに戻し、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「そして墓地にあるもう1枚のヴォルカニック・バレットの効果で同名カード手札に」

 

 オブライエンLP1100→600

 

『ああーー、オブライエン選手のライフポイントがセーフティーラインを下回りました。大丈夫なの?まったくう!』

 

(うるさいMCだ)

 

「俺は速攻魔法、非常食を発動。俺の場のブレイズキャノン・マガジンと、宮廷のしきたりを墓地に送り2000ポイントのライフを回復する」

 

 オブライエンLP600→2600

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。同時に、お前の場のエクトプラズマ―の効果で炎帝近衛兵をリリースして貴様に850のダメージを与える」

「ぐっ」

 

 高槻麟LP2000→1150

 

(これで俺の勝利条件はクリアした。奴のデッキにキュアカードは存在しない。後は、依頼者からの連絡が来るまで待機か)

 

 つまらない、とオブライエンは心の中で愚痴った。任務に楽しいもつまらないもない。彼らしくないことだが、それでも彼はそう思わずにはいられなかった。それが15という若すぎる年齢によるものなのか、それとも別の要因か。原因はさておき、加減しているにもかかわらず不抜けた決闘をする麟にオブライエンの心の炎は燻るばかりだ。

 

――ピピッ

 

 唐突に、超小型イヤホンから受信音が鳴った。

 

 『オブライエン。もういい。高槻麟を葬れ』

 

 (イエッサー)

 

「僕のターン!」

 

 高槻麟が、カードを引き抜く。

 

 

 そして傭兵は、静かに任務を実行した。

 

 

 




決闘内容にどうしても時間をとられてしまいます。次回もなるべく早くに投稿する予定です。また読んでいただければ幸いです。それでは、読んでいただき、ありがとうございました。
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