遊戯王GX 僕の相棒は盗賊王:re 作:たら子
カーニバル開幕
"海馬ランド"
それは海馬コーポレーションが誇る大人気アミューズメントパークであり、海馬兄弟が幼き頃より夢見、そして数々の試練を乗り越えた先に掴んだ夢の園。今や世界中で開園され、世界中の子供達に愛されている遊園地。童実野町に設立された海馬ランドのデュエルスタジアムこそが、今回の【童実野町デュエルカーニバル】の舞台である。
スタジアムの観客席は当然のように満員で、大人から子供までが笑顔で談笑しながら、開催の時を今か今かと待ち望んでいる。ちらほらと報道関係者と思われる者たちがカメラを構えており、美人キャスターがカメラの前で中継している。時折大人たちが売り子のお姉さんたちに鼻の下を伸ばしているのはご愛嬌だ。
「おい、アレ何だ?」
会場にいた誰かが叫ぶ。釣られて、他の観客たちも上を見る。
「キャアアアァァァ‼」
そして今度は女性のものとみられる悲鳴が会場に響き渡った。
「青、青眼の白竜⁉」
上空に現れたのは、青く美しい瞳。獲物を引きちぎるための荒々しい牙。肉体を護り、処女雪を思わせる純白の白鱗。見るもの全てを魅了し、畏怖させる竜の王者。デュエルモンスターズを嗜む者ならば、一度は焦がれ、夢見る存在。決闘王の永遠のライバルにして伝説の一角、海馬瀬人の守護竜、青眼の白竜。それがスタジアム目掛けて突っ込んでくる。ある者は地面に伏し、ある者は家族を守ろうと覆い被さる。
『ワハハハハ‼諸君、心配することはない』
青眼の白竜…を模したブルーアイズジェットはスタジアムに激突することなく、ジェット機とは思えない機動性で翼から逆噴射し減速すると、90度ターンをして急停止する。観客が唖然として見守る中、ジェット機から男が降り立つ。銀白のコートが、太陽の光を反射した。
『待たせたな諸君。無駄な挨拶など要らん。ただいまより、童実野町デュエルカーニバルを開催する』
観客を置き去りに堂々と強引ぐマイウェイを貫く海馬瀬人の開会式に一面は度肝を抜かれ、次いでその派手というだけでは言い表せない演出に、会場から爆発したような歓声が沸く。
『じゃあこれから兄様に代わって俺が大会のルールを説明するぜ』
瀬人に次いでブルーアイズジェットから現れたもう一人の少年、海馬モクバがマイクを取る。数年の時を経て、背丈こそ低いものの、海馬モクバには、海馬コーポレーション副社長としての貫禄が備わっていた。
『大会のルールはいたってシンプルだぜ。運営である海馬コーポレーションが沢山の応募者から選出した八人の決闘者がトーナメントを行い、勝った奴は負けた奴からアンティルールとしてカードを一枚を得ることができる。そして、最後に勝ち残った奴が優勝。栄えある初代デュエルカーニバルのチャンピオンとなり、孤島に設立されたデュエルアカデミアへの入学権を獲得するぜ』
『諸君らがこれから見届けるのは、若き決闘者たちの熱き闘いのロード。存分に滾り、血潮を昂らせるが良い。ワハハハハ‼』
海馬の演説に観客たちが触発され、待ちきれないと言わんばかりの拍手がステージへと降り注ぐ。こうして童実野町デュエルカーニバルの開会式は終了した。
◇◆◇◆
「大成功だったね、兄様」
「ふぅん、当然だ」
開会式を終え、海馬兄弟はスタジアムが一望できる最上階のテラスへと移動していた。決闘を見るにはここが一番見通しも良く、何より絶景だ。
「それにしても〝奴〟は現れるでしょうか?」
「分からん。が、そうでなくては困る。河豚田、奴らの様子はどうだ?」
「ハッ。皆様は既にお部屋で待機なさっています」
「ふぅん鼠どもめ。せいぜい最後の娯楽を楽しむがいい。おい磯野。そろそろ第1試合の時間だ。準備しろ」
「かしこまりました」
この場にいるのは海馬コーポレーション社長、副社長である瀬人とモクバ。そして両者に厚い忠誠心を抱く磯野と河豚田のみ。信用に一点でも曇りある者は立ち入ることさえ叶わない天上の砦で、この4人だけの作戦が、密かに進行していた。この作戦の成否には、文字通り海馬コーポレーションの未来がかかっているのだから…
◇◆◇◆
海馬たち四人が作戦を確認している同時刻。スタジアムの地下室には5人の男たちが集まっていた。薄暗い室内に漂う煙草と葉巻の匂い、それに時折混じる芳醇なワインの香り。音楽もなく、余計な雑音の届かない密室。しかし目を凝らせば調度品の1つ1つが最高級の物であり、彼らの口を潤わせるワインもまた幻と言われる名品の数々であることが分かるだろう。部屋を照らす明かりは五人の座る円卓の中央に設置されたスクリーンの仄暗い残光のみ。一見何の娯楽もなさそうな密室。しかしそれこそが彼らがこれから行う勝負へのスパイスとなっていた。
「ふふふ。遂にこの時がやって参りましたな」
5人の中の1人が椅子に深く沈み込む。
「そうザマスね」
1人がワインで唇を湿らせる。
「いや〜儂はこの日を今か今かと待っておりましたぞ」
1人が葉巻を燻らせる。
「まあ、全てが終わった時に笑っているのはたった1人ですがね」
1人が眼鏡に手を掛ける。
「………」
最後の1人は一言も発することなく、新しい煙草にライターで火を灯した。
「さてさて…最初は誰と誰かな?」
「もうじきこちらに対戦表が送られてくるはずです」
その声に応えるように中央のスクリーンに対戦表が映される。その対戦表に、1人は瞼を上げ、1人は面白げに、2人が顔を顰め、そして1人はだまって煙草を蒸した。
「おお!…最初は私と貴方でしたか」
宝石のついた指輪をジャラジャラと鳴らし、たっぷりと顔に髭を蓄えた、どこか狸を思わせる老人が、この中で一番若いであろう、長髪に右目を裂くような真一文字の縦の傷が刻まれた男に語り掛ける。対して男はそれに応えることなく煙草を片手に持ち、ゆっくりと煙を吐き出す。老人はそれに対して怒ることなく葉巻を咥えながらニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。
「緊張してらっしゃるようですな…無理もない。まあ私の決闘者と当たったくじ運の無さを恨むんですな」
「ククク…」
突然、今まで一言も発することのなかった男が口を手で押さえて笑う。それに男を除いた4人が一瞬びくりと体を揺らす。
「いや失礼。あまりに見当違いの推測だったものでつい…」
馬鹿にしたような物言いに、今度こそ顔を真っ赤にする老人。それに気づいてか男はやっと笑うのをやめる。
「私はただ、あなた方のやり取りがあまりに退屈で滑稽だったので、口を開く必要性を感じられなかっただけですよ」
謝罪するかと思えば老人だけでなく、周りの者全てを敵に回すような発言に、2人のやり取りをニヤニヤと眺めているだけだった3人も男を睨みつける。対して男は目を閉じ、新しい煙草を口に咥える。
「ふふふ。安い挑発は身を滅ぼすだけですぞ」
が、一番侮辱を受けたであろう老人は好々爺のようにニコニコと笑うだけだ。その笑いは大木のような風格を感じさせた。
「賭けをしませんか?」
「賭け?」
「そうです。我々の闘いをより面白くさせるために、ね」
「いいでしょう。では儂は5億としておきましょうかな?」
5億。一般家庭においてはまず目にすることのないであろう金額があっさりと提示される。彼らにとってはこの程度の額などはした金に過ぎないのだ。
「レイズ。50億」
いきなりの10倍アップ。しかし老人はまだまだ余裕の表情だ。
「ほほ、飛ばしますなぁ。余程自分の決闘者に自信をお持ちのようだ。ならばレイズで100億」
その金額の大きさに男と老人以外の3人も眉をあげる。彼らにとっても少なくない金額に、もうこれ以上上げられることはないだろうとどこか弛緩した空気が流れた。
しかし…
「1000億」
男の提示した金額に老人の余裕の表情が今度こそ崩れた。同時に額から汗が吹き上がる。
「1、1000億⁉馬鹿な!それは遊びで済む額ではないんだぞ!」
「クククククク」
上擦った声をあげる老人に、男はそれまでの挑発じみたものではなく、本当に楽しそうに、ワラウ。
「分からないな…それが良いんじゃないですか。互いの破滅を賭けてこそのギャンブル。それに今日の賭けは遊びじゃない。今後の我々の地位を決める大博打の筈でしょう。この程度の金額で音を上げるようでは、貴方の器も底が知れると言うものですな青沼さん」
再びの挑発にプライドを傷つけられた老人、青沼は怒りを血管に浮かび上がらせ、言い放つ。
「……良いじゃろう。その勝負、この青沼権蔵が受けよう。格の違いを見せてやる」
「フフフ。楽しみにしています」
心底楽しそうに煙草を蒸す男を青沼は怒りの底に嘲りを含んだ瞳で見つめた。
(…クククククク。馬鹿め!騙されおった騙されおった。ククク!演技力演技力。儂、役者になれるんじゃね?こーーんなボロい勝負で1000億儲けたわ。
青沼権蔵。一見すると感じの良い、老紳士に見えるこの老人の本質は、狸と言ってもいいまでの腹黒さと演技力であった。)
(馬鹿め。貴様の決闘者がどれほどの者かは知らんがそんなことは関係ない。あの娘には"あのカード"がある。負ける訳がないわ。ああ、早くあのスカした顔が絶望に歪む様子を見たいものだのう。)
少年少女の夢を賭けた闘いの裏で、大人たちの醜い闘いが始まる。
ーー決闘開始まで、後僅か。
◇◆◇◆
大会参加者は決闘開始まで用意された個室で待機する。その中の1人、高槻麟は部屋付きのベッドに腰掛け、テレビモニターを確認していた。
『分かったか?オレ様はあまり表に出れねえ。だから、意識を表に出さずお前の傍らで指示を出す』
「分かったよ。バクラ君」
バクラは宿主である少年を見ていた。少年、高槻麟にこの前に見せた怯えはない。しかしあの怯えの原因が分からない以上、またいつ再発するか分からない。取り憑いているとはいえ、千年アイテムを失い、力の大部分を失ったバクラはあまり長時間意識を乗っ取ることができない。もし再発し、最悪気絶でもされればバクラにはなす術もない。
『そろそろか…』
どうやら第一試合が漸く始まるらしい。磯野が舞台に立ち、マイクを取る。そして決闘者二人が舞台に上がった。大会の参加者は学生であるため、彼らの生活を守るためにその素性は直前まで伏せられている。その決闘者を見るためにモニターに近づくと、そこにいたのは二人の少女。その内の一人に、バクラは既視感を覚えた。
『おい!どうした⁉』
バクラがその少女を観察しようとすると、宿主である麟の体が震え、額に脂汗が浮かぶ。血の気が失せ、肌は蝋人形のようになっており、今にも気を失いそうだ。慌てて宿主に呼び掛けるがまるで反応しない。強制的に変わろうにも肉体の主導権は麟にある。どうすることも出来ずに、バクラは宿主である麟と共にゆっくりと気を失った。
◇◆◇◆
ーー数分前
『さあーいよいよこの時がやって参りました!童実野町デュエルカーニバル第1試合。実況は私メリッサ・クルーレがお送りします』
金髪金眼。黄色の短パン、白のインナーに赤いベスト、頭に同じく赤いテンガロンハットとまるでカウボーイのような外国人女性メリッサが溌剌とした口調で客席へとアナウンスする。
『気になる第1試合、その対戦者の発表です。対戦者は…ってえ⁉︎』
メリッサが言い淀む。入場口から白煙が巻き起こり、その中からピンクの髪をサイドアップにし、露出度の高い白シャツに黄色のティアードスカートを履いた可愛いらしい少女が現れる。
「みんなー♪こんにちはー‼YU☆KAでーす」
客席から、どよめきがわき起こる。
『何とこの童実野町デュエルカーニバルに、あの決闘アイドルで有名なYU☆KAこと、深草遊華ちゃんが出場するようです。YU☆KAちゃん、会場のみんなに何か言っておきたいことってある?』
「この日のために、スペシャルサプライズを用意しています♪楽しみにしていて下さいね♪」
彼女がウィンクすると客席から、主に成人男性たちが熱烈な声援がわき起こる。完全にアウェイだわこりゃ、とメリッサは内心対戦者に同情した。
『さあ、お次は対戦者の紹介です。高槻叶選手どうぞ』
YU☆KAとは反対の入場口から、白煙と共に対戦者が現れる。
「え…⁉」
その言葉が誰の口から漏れたものかは分からない。白煙の中から現れたのは、黒く、濡れたように艶のある髪を後ろで括り、中々に整った顔立ちをした少女。黒いTシャツに同じく黒のフレアスカート、それと対比をするように女子には珍しい純白のネクタイをしており、無表情さと相まってどこか人形のようにも思えた。予想外の美貌に、賑わっていた客席が一瞬静まり、次いでより大きな歓声が飛んでくる。こりゃ面白くなってきたわ、とメリッサもノリノリで質問を開始する。
『叶選手!今日の決闘に関してみんなに言っておきたいことある?』
「別に」
しかし帰ってきた答えは、答えとは言えないほとんど拒絶に近い返答。一瞬メリッサの顔が固まるも、再度質問を投げ掛ける。
『えっと、ここまでで何か感想は?』
「別に」
『す、好きな食べ物とかは』
「別に」
『き、緊張してるのかな?」
「別に」
このクソガキ、と笑顔が崩れかけるもプロの意地で何とか堪えるメリッサ。その笑顔を見て子供たちの何人かが母親に泣きつくもメリッサは気付かない。
『そっ、それでは両者この決闘での意気込みをどうぞ』
「ルールを守って、自分だけでなく相手はもちろんお客さん全員を笑顔にできる楽しい決闘にしたいと思っています♪」
スタジアムを埋め尽くすような”YU☆KAコール,,が一層大きくなる。先ほどの叶の返答から会場は正義vs悪という分かりやすい決闘の様相を醸し出していた。
『叶選手はどうかな?』
そう聞いてメリッサはあれ、と思った。一瞬叶が人形のような表情を深くしたかと思うと、次の瞬間には先ほどまでの無表情が嘘のように花が咲いたような笑顔を見せたからだ。
「私も、YU☆KAさんが言う”楽しい決闘,,をしたいと思います♪」
その答えに、いいぞー!という声が次々と沸き上がる。男って結局顔なのねーと、メリッサが男性について幻滅している間に両者が舞台の両端へと移動する。審判である磯野が手を挙げた。
「叶さん、楽しい決闘にしましょうね♪」
「ええ、”楽しい決闘,,にしましょう」
ーー決闘、開始‼︎
次回から決闘が始まります。
*狸→ド○えもん→青い→青沼