遊戯王GX 僕の相棒は盗賊王:re   作:たら子

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お待たせしました。受験が終了したので、投稿を再開させて頂きます。


狂戦士の魂

 「「決闘‼︎」」

 

 YU☆KA  LP4000 手札5枚

               VS

 叶  LP4000  手札5枚

 

 2人の少女が決闘盤を展開する。先行を取ったのは、YU☆KAだ。

 

 『私のターン♪私は速攻魔法、竜呼相打つを発動。デッキから『竜剣士』Pモンスターと『竜魔王』Pモンスター一体ずつを選び、相手はその中からランダムに1枚選びます」

 

 YU☆KAの目の前に2枚のカードが映し出される。右よ、と叶が指差した。そのカードは…

 

 『選ばれた竜剣士ラスターPを特殊召喚。選ばれなかった竜魔王ベクターPはエクストラデッキに表側表示で加えます』

 

 半竜の剣士が光と共に現れる。掲げた剣と盾が、太陽の光を反射した。

 

 【竜剣士ラスターP】

ペンデュラム・チューナー・効果モンスター

星4/光属性/ドラゴン族/攻1850/守 0

【Pスケール:青5/赤5】

(1):1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンにカードが存在する場合に発動できる。

そのカードを破壊し、そのカードの同名カード1枚をデッキから手札に加える。

【モンスター効果】

このカードを素材として、「竜剣士」モンスター以外の

融合・S・Xモンスターを特殊召喚する事はできない。

 

 YU☆KAは一瞬目を閉じ、息を整えて観客へ弾けるような笑顔を向ける。それは、イタズラを仕掛けた子供のような笑顔だった。

 

「Ladies and gentlemen!!これより皆様に進化した新たな決闘をお見せいたします。私はイグナイト・マスケット、ドラグノフをPゾーンにセッティング♪」

 

 YU☆KAの背後に光の二柱が出現し、その間を光の振り子が揺れ動く。その幻想的な美しさに、観客だけでなく、実況のメリッサさえ息を呑んだ。

 

「効果により2枚を破壊しデッキからイグナイト・デリンジャーを手札に加える。準備は整いました♪私はイグナイト・ライオット、デリンジャーをPスケールにセッティング♪ペンデュラム召喚♪さあみんな、舞台に上がって。竜魔王ベクターP、イグナイト・マスケット、ドラグノフ」

 

 竜魔王ベクターP ☆4

 

 イグナイト・マスケット ☆4

 

 イグナイト・ドラグノフ ☆4

 

 光の振り子から、3つの光と共にモンスターが降り注ぐ。これでモンスターの合計は4体。通常召喚を行っていないにも関わらずこの展開スピード。確かに既存の決闘と一線を画すものだった。

 

 「まだ私のターンは終わりません♪私はイグナイト・マスケットに、竜剣士ラスターPをチューニング♪シンクロ召喚♪爆炎纏て現れよ♪爆竜剣士イグニスターP‼︎」

 

 【爆竜剣士イグニスターP】

シンクロ・効果モンスター

星8/炎属性/ドラゴン族/攻2850/守 0

チューナー+チューナー以外のPモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、フィールドのPモンスター1体

またはPゾーンのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊し、フィールドのカード1枚を選んで持ち主のデッキに戻す。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

デッキから「竜剣士」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはS召喚の素材にできない。

 

 「さらにイグニスターPの効果発動♪デッキから竜剣士マスターPを守備表示で特殊召喚。そしてマスターPとイグナイト・ドラグノフ2体でオーバーレイ♪エクシーズ召喚、ランク4♪竜巻纏て現れよ♪昇竜剣士マジェスターP」

 

 【竜剣士マジェスターP】

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/風属性/ドラゴン族/攻1850/守2000

レベル4のPモンスター×2

(1):このカードがX召喚に成功した時に発動できる。

このターンのエンドフェイズに、デッキからPモンスター1体を手札に加える。

(2):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

自分のエクストラデッキから表側表示の「竜剣士」Pモンスター1体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはX召喚の素材にできない。

 

 「マジェスターPの効果発動♪ORUを1つ取り除き、エクストラデッキから竜剣士ラスターPを特殊召喚。最後に竜魔王ベクターPと竜剣士ラスターPをリリースして融合召喚♪濁流纏て現れよ♪剛竜剣士ダイナスターP」

 

 【剛竜剣士ダイナスターP】

融合・効果モンスター

星8/水属性/ドラゴン族/攻2000/守2950

「竜剣士」Pモンスター+Pモンスター

自分フィールドの上記カードをリリースした場合のみ、

エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

自分のモンスターゾーン・PゾーンのPモンスターカードは戦闘及び相手の効果では破壊されない。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

自分の手札・墓地から「竜剣士」Pモンスター1体を選んで特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは融合素材にできない。

 

 火、風、水。3つの属性を持つ竜剣士が姫を守護する騎士のように並び立つ。攻撃力もさることながら、ソリッドビジョンによる巨体は、ただそこに居るだけで見る者全てに威圧感を与えていた。

 

 「ダイナスターPがモンスターゾーンに存在する限り、相手は戦闘、カード効果で場、PゾーンのPモンスターカードを破壊できない。そしてダイナスターPのもう1つの効果で墓地のラスターPを特殊召喚。1枚カードを伏せてターンエンド。エンドフェイズ時にマジェスターPの効果でデッキから2枚目のラスターPを手札に加えます」

 

 怒涛のようなYU☆KAのターンが終了する。融合、シンクロ、エクシーズ。3つの召喚方を自在に操る華麗なプレイング。だが何よりも『ペンデュラム』という新しいカードシステムに観客たちは魅了されていたのだ。

 

 『何よ、これ。ペンデュラムなんて聞いてないんですけど…⁉︎』

 

 観客より早く立ち直ったのは偶然か、はたまた実況としてのプロ意識からか。どちらにせよメリッサの意外と野太い地声に観客たちも覚醒していく。そして、メリッサの疑問に答えるように舞台の巨大スクリーンに紅い服を着た、銀髪の男の姿が映し出された。

 

 『その疑問にはMeがお答えシマース』

 

 日本語と英語の混じった、ハイテンションかつ独特の口調。にも関わらず妙に聞き入ってしまうようなカリスマ性。デュエルモンスターズの産みの親にしてI2社会長、ペガサス・J・クロフォードは優雅に足を組み直すと、まるで娘を慈しむような眼差しをYU☆KAへと向けた。

 

 『ハァイYU☆KAガール。まずはペンデュラムカードのお披露目、ありがとうございマース!Excellent なプレイングでした。さて、ペンデュラムカードとは我が社が開発した新システムで〜す。ペンデュラムカードにはそれぞれ【スケール】と呼ばれる数字が表記されており、ペンデュラムゾーンと呼ばれるカードゾーンにセッティングすることで、そのスケールの間のレベルのモンスターを手札、エクストラデッキから可能な限り特殊召喚できるのデース。そして、最大の特長はペンデュラムモンスターは破壊されても墓地へは行かずエクストラデッキに置かれるのデース』

 『えっと、つまりペンデュラムモンスターはペンデュラムカードが存在する限り何度でも復活するってことですか?』

 

 メリッサの指摘に、ペガサスは一瞬眉を上げると人差し指と親指を上げ嬉しそうな顔をした。

 

 『Yes,that's right ! niceな指摘デース。頭の回転の速い実況さんで助かりました』

 

 デュエルモンスターズの産みの親に賞賛され、思わず赤面するメリッサ。彼女も形は違えどデュエルモンスターズに関わるものとしてその賞賛は素直に嬉しいのだろう。

 

 『それではYU☆KAガール。引き続き、Excellentな決闘を期待していますよ』

 

 そう言い残し、デュエルモンスターズの産みの親、ペガサス・J・クロフォードは画面と共にその姿を消した。

 

◇◆◇◆

 

 「青沼さん!あんたって人は!」

 

 薄暗い部屋に怒声が響き渡る。声こそ1人とはいえ青沼と傷の男以外の3人は同じ思いであった。勝つためとはいえ、まさかあのペガサスに取り入り、新システムのカードを手に入れるとは。

 

 「いくら何でもやり過ぎザマす。卑怯ザマすよ!」

 

 化粧の濃い、中年のメガネをかけた女性がヒステリックに叫ぶ。しかし、当の青沼はどこ吹く風。先程の震えていた様子など微塵も感じさせない落ち着きを取り戻していた。

 

 「ハハハッ、子飼いの決闘者にカードを用意するのも我々スポンサーの役目じゃよ。それに卑怯といいますがなぁ、儂だけに言えることですかな?」

 

 ジロリ、と睨んだ青沼の視線に部屋の何人かが視線を逸らした。そのまま青沼の視線が傷の男へと向かう。

 

 「どうだ若造。所詮貴様と儂では資金力も、持っているコネも比べ物にならんのだよ。どうした?震えて声も出んのか」

 「……」

 

 

 もはや感じの良い老紳士の顔をかなぐり捨てて本性を露わにした青沼に、傷の男は何も言わず、ただ黙って中央のスクリーンを見つめていた。

 

 ◇◆◇◆

 

 ペガサス・J・クロフォードは中継のカメラマンたちを退出させると、手元の小型テレビで決闘の中継を視聴していた。会場はまだペンデュラムカードというサプライズに興奮状態のようで、YU☆KAのターン終了から進んではいないようだ。目を閉じ、腕を組んで椅子に沈み込む。

 

 「YU☆KAガール…」

 

  ーー10年前

 

 ペガサスはその日、ペガサスミニオンというペガサス自身が引き取り育てている子供たちへクリスマスプレゼントを届けていた。

 

 「ハァイみんな元気にしていましたかー?今日は皆さんに素敵なプレゼントを持って来ました」

 

 言い終わるやいなや、続々とペガサスへと群がっていく子供たち。ペガサスは嫌がる素振りも見せず、むしろ嬉しそうに白い布袋に入れたプレゼントを配っていく。彼自身が着ている赤い服と相まって本当のサンタクロースのようであった。

 

ペガサスが彼女を見つけたのは、子供たちにプレゼントを与えている最中のことだった。

 

 「ん?月行ボーイ。彼女は?」

 

 ペガサスはミニオンのリーダー的存在である月行に尋ねた。彼は一瞬親代わりでもあるペガサスに声をかけられたことに笑顔を見せたが、直ぐに真面目な顔を作ると持ち前の記憶力で必要な情報を語り始める。

 

 「彼女の名前は深草遊華。年齢は五歳ほどで、つい先日施設の前で行き倒れているところを保護されてきました。両親はアメリカンドリームを夢見て渡米して来たようですが失敗し、失踪。英語は問題ないようですが保護されてからも周りと打ち解けようとはせず、いつも1人でいます…とまあ僕が知っているのは以上です」

 

 ペガサスの短い質問から、彼が知りたい情報を漏らさず全て伝える月行。伝えられる彼女の情報に一瞬眉を潜めたペガサスは月行に礼を言うと足早に彼女の元へと歩み寄った。

 

 「こんばんは遊華ガール。プレゼントはいらないのですか?」 

 

 人形を相手に会話していた遊華は、明らかに外国人と思わしきの男に日本語で語りかけられたことに驚いたように人形を落としてしまう。体をわなわなと震わせ、大きく見開いた目に涙を浮かべた彼女にペガサスは優しく語りかける。

 

 「oh…怖がらないでくだサーイ。Meはただyouとお話がしたいだけなのデース」

 「おは、なし…?」

 「yes!なぜお友達と遊ばないのですか?」

 

 すると遊華は落とした人形を弄りながらポツリと、殆ど呟くように口を開いた。

 

 「人形は、裏切らないから」

 

 僅か五歳の少女とは思えない言葉だった。

 

 「パパとママみたいに、喧嘩したり、しないから。居なくなったり、しないから。パパと、ママみたいに」

 

 ボロボロと、涙を流しながら続く遊華の言葉をペガサスは抱きしめることで塞ぐ。

 

 「Sorry遊華ガール。辛いことを思い出させてしまいましたね。そんな遊華ガールにとっておきのプレゼントがありマース」

 

 もうすっかり萎んでしまった布袋の底を攫い、掌サイズのプレゼント箱を取り出す。開けてみてくだ〜さい、と遊華へ手渡す。

 

 「これ…カード?」

 「yes! デュエルモンスターズという、とてもfantastic なカードゲームデース。どうです、とてもcuteなモンスターたちでしょう?」

 

 物珍しげにカードを見つめる遊華にペガサスが丁寧にルールを教えていった。

 

 ーー数日後

 

 「私はモリンフェンで岩石の巨人に攻撃!」

 

 そこには薄暗い部屋の片隅にうずくまる遊華の姿はなく、同じミニオンの子供たちと楽しく遊ぶ、遊華の姿があった。

 

 「ハァイ遊華ガール!デュエルモンスターズは楽しいですか?」

 「はい!〝みんな〟私の友達になってくれました!」

 

 花が咲くような笑顔を見せる遊華。その笑顔は5歳児特有の無垢なものだった。その笑顔に微笑みかけたペガサスは、ふと遊華の視線の先のモノが目に映り、笑みが凍った。そこにいたのは、遊華のモンスターであるモリンフェンだった。

 

 昆虫のような羽に魚類のような顔をした生物が、幼女の周りを舞っているという軽くホラーな光景に凍りつくペガサスを他所に、遊華はモリンフェンへ笑顔を向ける。

 

 「遊華ガール…youはまさか、精霊が…」

 

〝 精霊〟。それはごく稀に目撃情報が寄せられる異界の生物。見ることのできる者は殆どおらず、その存在は眉唾とされている。実際、ペガサスが集めたミニオンの中でも見ることのできる者はいなかった。デュエルモンスターズの生みの親であるペガサスでさえ、ソレらを見ることができるのは右目に宿る千年眼の恩恵である。

 

 「ーーさん!ペガサスさん!」

 

  突然の大声に意識を浮上させたペガサスの目の前には可愛らしく頬を膨らませた遊華が上目遣いにこちらを睨んでいる。

 

 「S,Sorry遊華ガール。それで何ですか?」

 「ペガサスさん。私、アイドルになります!」

 「…What's ?」

 「だーかーら、アイドルになって、世界中で有名になって、デュエルモンスターズをもっと広めて、世界中のみんなに笑顔になってもらうの。1人でも、私みたいな子供が救われるように。それと、成長した私をパパとママが見つけてくれるように」

 

 遊華はそう言うと、口を大きく開けて笑った。それから遊華は、まさに血反吐を吐くように努力した。決闘だけでなく、歌や踊りを猛レッスンし、化粧など、自身を美しく魅せる努力を怠らなかった。結果、日本の大手芸能事務所に合格し、決闘の腕前こそ月行に及ばないものの、それに次ぐ腕前となり、決闘アイドルYU☆KAとして夢を叶える目前まで迫っている。

 

 

 回想の海に浸っていたペガサスは、モニターから流れる観客の声に目を開いた。どうやら勝負が佳境に入ったようだ。愛娘の試合を見届けようとしたペガサスはしかし、

 

 「やめて下さい!NOーーーー‼︎」

 

 部屋中に、悲鳴が撒き散らされた。

 

 

 時は、数分前に遡る。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 『なななな何と1ターンで融合、シンクロ、エクシーズを華麗に決めたYU☆KA選手。これがペンデュラムカードの力⁉︎魅せてくれます!さあ、叶選手はどう反撃するのか?っていうかできるのこれ?』

 

 場には伏せカードと上級モンスター3体。仮にそれらを潜り抜けたとしてペンデュラムモンスターはペンデュラムスケールが存在する限り何度でも復活する。観客だけでなく、実況すらもYU☆KAの勝利を確信していた。

 

 「私のターン、ドロー」

 

 美しい弧を描き、カードが山札から手札へと加わる。その軌跡は、眼前への恐怖を全く孕んでいなかった。

 

 「E・HEROバブルマンは、自分フィールドに他のカードが存在しない時、特殊召喚できる。さらに私はE・HEROエアーマンを召喚。効果により、エアーマン以外のE・HEROの数だけフィールド上の魔法、罠カードを破壊する。私はその伏せカードを破壊する」

 

  エアーマンの翼のプロペラから、ソニックブームが発生し、伏せカード、聖なるバリアーミラーフォースが破壊される。

 

「さらに魔法カード融合を発動。場のバブルマン、エアーマンを融合、水を纏いし英雄よ、風を纏いし英雄よ、今一つとなりて、絶対零度の英雄を呼び起こせ!融合召喚、現れ出でよ!E・HEROアブソルート・ZERO‼︎」

 

 

 【E・HEROアブソルート・ZERO】

融合・効果モンスター

星8/水属性/戦士族/攻2500/守2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 叶の前に氷柱が出現し、その中から絶対零度の英雄が姿を現わす。その効果により、英雄の攻撃力はこの場で最も高くなっている。

 

 「アブソルート・ZEROで爆竜剣士イグニスターPを攻撃。絶対零度!」

 「ダイナスターPの効果で破壊されない」

 「けど、ダメージは受けてもらう」

 「くっ…!」

 

 YU☆KA LP4000→3850

 

 爆炎の剣士が氷漬けになるも、ダイナスターPの効果で破壊されない。

 

 「速攻魔法発動、融合解除。アブソルート・ZEROをエクストラデッキに戻し、素材モンスターを特殊召喚」

 

 E・HERO エアーマン ATK/1800

 

E・HERO バブルマン ATK/800

 

 「アブソルート・ZEROの効果発動。このカードがフィールドから離れた時、相手フィールドのモンスター全てを破壊する。さらにエアーマンの効果でPゾーンのイグナイト・デリンジャーを破壊」

 「けど、ダイナスターの効果で」

 

 と、YU☆KAの言葉が途中で止まる。観客や実況のメリッサでさえ思わず息を呑んだ。なんと叶は、炎氷風が巻き起こる舞台をまるで散歩するように歩いて来たからだ。叶の眼前には、瀑布の騎士が、仲間と姫を守護するように必死で氷風に耐えていた。その目と鼻の先で停止すると、叶の手にはいつの間にか美しい杯が握られていた。

 

 そっと、まるで誘惑するように杯を傾ける。その杯から、透き通った聖水が顔を覗かせる。

 

 「誇り高き竜の騎士よ。その手にさらなる力を与えましょう」

 

 歌うように奏でられるその言の葉には、15の少女とは思えぬ艶やかさがのっていた。ゴクリと、騎士が喉を鳴らす。

 

 「ダメ!」

 

 一足早くその杯の正体に気付いたYU☆KAが制止の声をあげるがもう遅い。瀑布の騎士が杯を飲み干した。すると、騎士の体を聖なるオーラが包み込んだ。喜びの叫びをあげる瀑布の騎士はしかし、次の瞬間仲間諸共氷漬けとなっていた。

 

 「禁じられた聖杯。相手モンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる代わりに、そのモンスター効果を封じる」

 

 カツカツと氷漬けとなった騎士たちに近づく叶。それは劇の1幕のようで、見守る観客や、実況のメリッサ、対戦者であるYU☆KAでさえ魅せられてしまっている。

 

 「聖杯に堕落した裏切りの騎士よ、目障りだ。失せろ!」

 

 パチンと指を鳴らす叶。氷像たちはガラス細工のように砕け散った。

 

 「エアーマン、バブルマンで直接攻撃」

 「きゃあああ」

 

  YU☆KA LP 3850 →1250

 

 「けど、私のライフはまだー」

 「何勘違いしてるの?」

 

 必死に耐えるYU☆KAに冷徹に告げる叶。

 

 「まだ、私のターンは終了していない。速攻魔法、狂戦士の魂!」

 

 

 【狂戦士の魂】

速攻魔法

自分のバトルフェイズ時に自分フィールド上に存在する

このターン直接攻撃を行った攻撃力1500以下のモンスター1体を選択し、

手札を全て捨てて発動する。

自分のデッキからカードを1枚ドローして、

お互いに確認しモンスターカードだった場合、

そのカードを墓地へ送り相手ライフに選択したモンスターの攻撃力分のダメージを与える。

モンスター以外のカードをドローするまでこの効果を繰り返す。

 

 

 『「なっ!」』

 

 メリッサとYU☆KAが声をあげる。

 

 「私の手札は0。よって捨てるカードはない。1枚目、モンスターカード、E・HERO ブレイズマン」

 「きゃあああ」

 

 YU☆KA LP1250→450

 

 「2枚目、モンスターカード、E・HERO フォレストマン」

 「きゃあああああああ!」

 

 YU☆KA LP ー350

 

 YU☆KAのライフが尽きる。これで決闘は高槻叶の勝ちだ。磯野が手を挙げ、メリッサがマイクを持つ。

 

 「勝者、高槻かな「3枚目、モンスターカード!」」

 

 水の英雄が、その拳をYU☆KAへと振り下ろした。

 

 『え、ちょっ「4枚目、モンスターカード!」』

 

 今度はボディブローでYU☆KAの体がくの字に折れ曲がった。

 

 「叶選手、勝負はついた。もうやめ「5枚目、モンスターカード!」」

 

 審判である磯野の制止の声にも耳を貸さずドローする叶。観客は何が起きているのか理解できないのか呆然としている。

 

 「ククククク…あーーーーはっはっは!まだよ!まだ終わらない、終わらせない。〝タノシイ〟決闘にするんでしょ?私はまだ満足していない。私が満足するまで、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっーーと踊り続けてもらうんだから‼︎ほら、アイドルなんでしょ?もっと踊ってよ!相方の私はまだ満足してない。踊りましょ、死のダンスを!踊れないなら、私がリードしてあげる。あんよは上手、クヒヒヒヒヒフヒャーハッハッはっはっは‼︎」

 

 主の狂笑と共になおも追撃するバブルマン。しかしYU☆KAもその攻撃から身を守ろうと顔面をガードする。しかし、

 

 「無駄ァ!」

 

 中距離から一足でダッキングしたバブルマンのリバーブローが突き刺さる。苦痛に顔を歪めたYU☆KAのガードが下がり、その隙をアッパーカットでカチあげる。そして八の字を描くようにバブルマンが高速で頭をふる。

 

 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

 無限の回転に乗り両サイドからのフックのラッシュがYU☆KAの顔面に突き刺さっていく。いかにソリッドビジョンとはいえ、あまりにショッキングな絵面である。観客から悲鳴が沸き起こり、子供たちは余りの恐怖に泣きだしている。

 

 「ちゅ、中止だ!早くとりおさえろ!」

 

 磯野の怒号で警備員が一斉に叶を取り押さえた。

 

 「はなせ!私はまだ満足してない、はなせーー‼︎」

 

 スタジアムに、叶の絶叫が響き渡った。

 

◇◆◇◆

 

 「ばっ、馬鹿な。儂の、儂の決闘者が負けるなんてありえん!貴様、イカサマしおったな!そうに違いない!そうに違いないんじゃー!」

 

 地下室に、青沼の叫び声がもがいている。支離滅裂とした論調に取り合う者は誰もおらず、それどころか髪を乱し、脂汗を流しているこの哀れで醜い老人を肴に誰もが美味そうにワインを嗜んでいた。

 

 「それにしても貴方、あんな狂った決闘者をどこで見つけてきたのですか?」

 

 傷の男は答えない。質問した男も、傷の男の性格を理解しているのか無視されたことに怒りもしなかった。

 

 「大負けですな青沼さん。これで貴方の将来の地位は決まったようなもの。あとは大人しくしておくんですな」

 

 その言葉が止めとなり、青沼の体が椅子から崩れ落ちる。こうして、大人たちの醜い権力闘争の1幕は終了した。

 

◇◆◇◆

 

 「ーーか⁉︎おい、大丈夫か⁉︎」

 

 誰かの、声が聞こえる。

 

 「マ、ネージャー?」

 

 私の言葉にマネージャーが安堵したような笑みを浮かべた。

 

 「ここは…?」

 「選手の控え室だ。よかった。目が覚めて本当によかった」

 

 マネージャーが泣き始める。そっか…私、負けたんだ。起き上がろうとしたら、体のあちこちから激痛がした。

 

 「無理するな。もうすぐ車が来るから病院で診てもらおう。まったく、ソリッドビジョンで稀に衝撃を受けたような錯覚を起こすと聞いたことはあるが、こんなことがありうるのか…?」

 

 それからも取り止めのない会話を続けようとするマネージャー。ああ、そっか。

 

 「大丈夫ですよマネージャー。私、凹んだりしませんから」

 

 マネージャーがハッとした顔になる。夢は遠のいてしまった。アカデミアに入ってプロになれれば、もっと活躍の場が広がると思ったが、どうやら甘かったらしい。『世界初のペンデュラム召喚を導入した決闘』を失敗させてしまった責任は重い。ペンデュラム召喚の実装も見直されされるかもしれない。今回支援してくれたペガサスの顔に泥を塗ってしまった。所属事務所にも迷惑がかかってしまうだろう。けど…

 

 「私はこんなところで挫けるわけにはいかないんです。だから、これからもよろしくお願いします」

 

 私は、立ち止まるわけにはいかない。両親を見つけ、私と同じ境遇の子供たちを笑顔にするためにも、前を向き続ける。ふと視線を落とすと決闘盤とデッキが置かれていた。対戦者の名前は…確か高槻叶と言っていたか。彼女のモンスターからは、とても強い力と、憎悪、暗い過去を感じた。あの時のことを思いだそうとして、デッキに触れる。

 

 「っ……⁉︎」

 

 バサリと、デッキが床に散らばった。マネージャーが驚いたようにこちらを見る。どうしたんだろ?

 

 その視線の先には、ガクガクと震える私の腕があった。いや、腕だけではない。歯茎が音を立て、脚が震え、やがて全身が痙攣しだした。姿勢を維持できず床に転がる。

 

 どうして?私の目の前には散らばったカードたちがあった。その1枚1枚から、精霊たちが私を心配そうに見つめてきた。いつものように手を伸ばそうとして、

 

 「ヒィッ⁉︎」

 

 口から勝手に声が溢れる。そして脳裏には先ほどの決闘と、彼女の操るバブルマンの姿がよぎった。

 

 「イヤアアァァァァァァ‼︎」

 

 深草遊華は、赤ん坊のように泣きだした。その泣き声は赤子の泣き声より酷く、マネージャーや泣き声を聞いて駆けつけた事務所関係者が取り押さえるまで続いた。

 

 後日、深草遊華ことYU☆KAの無期限活動停止が発表された。

 

 童実野町デュエルカーニバル、第1試合終了。

 




今回色々はっちゃけた気がしますが、後悔はしていません。
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