遊戯王GX 僕の相棒は盗賊王:re 作:たら子
少年がいた。顔は良くも悪くもないいたって平均的といったところだろうか。
その少年は、公園で1人スコップを使い砂場でトンネルを作っていた。俯き、黙々とトンネルを掘り進める少年の姿は寂しげで、到底楽しそうには思えなかった。
場面が変わる。
テーブルの上で子供たちがカードゲームを楽しんでいる。先ほどの少年も対戦していたようだが負けたらしい。楽しげに遊んでいる子供たちを羨ましそうに眺めていた。いや、正確には少年によく似た顔立ちの少女と、その少女を褒める両親を。
場面が変わる
家で1人誕生日ケーキのロウソクを灯す。少年の両親は、妹の大会への付き添いということで、遠くの都市に行っていた。このケーキも、少ない小遣いをはたいて買ったものだった。少年の暗い瞳が、家に飾られている1枚のカードへと向かう。紅い瞳が、少年の瞳を紅く照らした。
場面が変わる。
サイレンの音が聞こえる。警察に伴われて少年が帰宅する。少年の目の前にはテーブルに突っ伏した両親。妹は塾に行っており、まだ帰ってきてはいない。父親が何事か少年にまくし立て、母親は泣きじゃくっている。少年の手には、漆黒の竜が握られていた。
『っ……⁉︎』
何だ今の光景は…?
まるで夢のように、しかし夢にしてはあまりに鮮明に浮かび上がった光景。アレは自分のものではない。ならば、あの光景はコイツの…
考えをまとめようとしたバクラの目に、モニターの時刻が映しだされる。
『ヤベッ…おいテメエ何気ィ失ってやがる⁉︎さっさと起きろ!試合まで時間がねぇ』
『え…バクラ君?何、時間?』
バクラの声に、気を失っていた麟が目を覚ます。やがてモニターの時刻に気づいた麟も大慌てで部屋を出る。
試合開始まで、後1分を切っていた。
◇◆◇◆
童実野町デュエルカーニバルは、第1試合の波乱により多少の遅延はあったものの概ね予定通り第4試合を迎えようとしていた。
『はーい皆さん、童実野町デュエルカーニバル1回戦もいよいよ大詰め!その対戦者の発表です!』
観客から歓声があがる。第1試合の衝撃的な結末で一時は大会の続行すら危ぶまれた。それをここまで持ち直したのは他ならぬメリッサ・クルーレの実力だった。
人気アイドルYU☆KAの敗退によるショックと、非道な決闘をした高槻叶への義憤により、観客は荒れに荒れた。舞台から退場させられた叶への罵倒と、決闘に怯えた子供たちの泣き声が最高潮に達したタイミングでメリッサはマイクに向かって大声で叫んだのだ。お静かに、と。そして皆さん、と観客たちが見つめる中メリッサは語りだした。
『確かに今回の決闘は、正直観ていてあまり気持ちの良いものではありませんでした』
観客たちは、普段のヘラヘラした態度のメリッサの真剣な表情に呑まれ、誰も声を発しない。
『ですが、それと次の決闘とは話が別です。出場する子供たちは、皆それぞれの思いを胸に今大会に臨んでいます。どうか皆さんも、それを踏まえた上で、常識ある行動をお願いします。ご静聴ありがとうございました』
その言葉に、異議を唱える者はいなかった。その後は、第2、第3試合の内容が良かったこともあり大会は順調に進行していき、冒頭に戻るのであった。
『まずは1人目、葛城想人選手!』
白煙が吹き出し、1人の少年が姿を現す。所謂イケメンというやつで、客席から黄色い声援があがった。
『想人ーー‼︎』
それに紛れて一際大きい声援が鳴り響く。そこには、少年の家族と、クラスメートと思わしき者たちが手製の旗を振り顔を真っ赤にして声を張り上げていた。
葛城想人はそれを見つけると嬉しそうに手を振る。その姿を、他の観客たちは生暖かい目で見守っていた。
『続いて対戦者の発表です!高槻麟選手、入場お願いします…って〝高槻〟⁉︎』
〝高槻〟という名前に観客がどよめく中、先ほどとは反対側の入り口から煙が吹き上がる。
『え……⁉︎』
そこから現れるものは誰もいなかった。
◇◆◇◆
高槻麟は走っていた。走る、走る。もう試合開始まで1分とない。廊下を曲がり、階段を昇る。後少しだ。けど、本当にいいのだろうか。アレは、あの光景は…
『高槻選手!遅れて登場とは憎い演出です』
麟の意識は、やけに溌剌とした女性の声によって一気に現実へと引き戻された。どうやらいつのまにか舞台へ到着していたらしい。審判に促され、舞台へ上がる。大勢の観客に観られているという事実に、目がチカチカしてしまいそうだった。
『それでは無事選手が揃ったという訳で恒例の選手インタビューに移りたいと思います。両選手、この大会に出場した理由を教えて下さい』
審判からマイクが手渡される。だが、先ほどまで気絶していた麟にとって、インタビューなど正に寝耳に水である。どう答えればいいか分からずにキョロキョロしていると、先に対戦者である葛城想人がマイクをとった。
『僕がこの大会に出場した理由は、アカデミアへの特待生枠を勝ち取って、家族に楽をさせる為です。だから、絶対に負けません!』
その宣言に、客席の女性陣はもちろん、美少年ということで偏見の目で見ていた男性陣も対戦者に声援を送る。その声援は、1回戦のYU☆KAに勝るとも劣らぬものだった。
「いいぞ孝行息子!」
「想人君、頑張ってー!」
うんうん、と実況のメリッサも満足気に頷いている。面白くなってきたわー、と顔に書いてあるのがありありと伝わってきた。彼女も実況として、こういう盛り上がりは嬉しい限りのようだ。
『では高槻選手、お願いします』
メリッサの声で観客の視線とテレビ中継のカメラが麟へと向けられる。この盛り上がった雰囲気の中で、麟がどう答えるのか。会場に居る者全てが麟の答えに期待していた。
『えっ、えっと…特に…あ、ありません』
会場の雰囲気が、一瞬にして白けた。麟もそれを感じたのか、申し訳なさそうに縮こまっている。
『そ、そんなことないでしょ?恥ずかしがらなくてもいいんですから、ここは1発デカイこと言って盛り上げて下さいよ』
盛り下がった雰囲気を払拭すべく、メリッサが質問を続ける。
『すっ、すいません』
メリッサの助け船にも関わらず帰ってきたのは歯切れの悪い返答。だがこのまま終わってしまっては、プロとして名折れである。
『えーでは高槻選手は、あの高槻叶選手と苗字が同じですが、どういったご関係で?』
『え…一応双子の妹ですけど』
彼にとっては、何でもない質問だった。しかしー
「ふざけんなーー!」
「てめぇの妹のせいでYU☆KAちゃんは…!責任取りやがれ‼︎」
「頑張ってー!想人君ーー!」
『想・人!想・人!』
突如として麟に向けられる罵詈雑言の嵐と、湧き上がる『想人コール』。試合中気を失っていた麟にとっては知る由もないことだが、今や会場中が麟にとって敵地とかしていた。メリッサもここまでの反応は予想外だったのか珍しく狼狽えている。が、まいっかとばかりに笑みを浮かべる。少年にとっては気の毒ではあるものの、彼女にとってこれほどの盛り上がりを見逃す手はないのだ。
「決闘開始いいぃ‼︎」
審判が観客の声を振り切るように開始の宣言をする。
「「決闘‼︎」」
◇◆◇◆
「次は卑狐さんの決闘者ですか」
眼鏡をかけた男が1人の女性へと目を向ける。その女性もまた眼鏡を掛けてはいたが、男のような地味な黒縁ではなく、自らの財力を表すような、もっと率直に言うなら下品なまでに細かい宝石を散りばめた金縁の眼鏡を掛けている。顔はブクブクと膨れ上がり、まるでガマガエルのようである。
「ついに来たわー!想人ちゃーん、こっち向いてー!そんな冴えない子やっつけちゃうザマス!」
ガマガエルのような女性、卑狐スミレは周囲のことなど気にせず少女のように甲高い声援を送る。少女のような甲高い声と年齢のギャップで大変気持ちの悪い絵面となっている。
「対戦者は…高槻麟、ですか。あの士道和哉を倒した決闘者と聞いて期待していたのですが、期待外れですかな?」
スクリーン上では麟が会場中の自分への批判と、『想人コール』に体をビクつかせている。とてもまともな決闘をできるようには思えない。
「いやいや、確かに頼りない様子ですけどあのYU☆KAを破った高槻叶の兄なのでしょう?ならば面白い決闘になるかもしれません」
もう1人の男がニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべる。その口調から、本気で言っていないのは明らかだった。
「どちらにせよ、我々の代理同士の決闘ではないのだ。これではいささか盛り上がりに欠けるというものです」
場に弛緩した空気が流れる。そして、それを打ち破ったのは、またもこの男だった。
「ならば、私が盛り上げるとしよう」
その言葉に部屋にいる者全員がビクリと顔を震わせる。スクリーン上の想人へ声援に夢中だった卑狐でさえ、声援を止め声の主である傷の男を見つめている。
「私は先ほど青沼氏と賭けを行いました。それをまた行うということだけですよ」
手を組み頭を乗せながら提案する傷の男。対する卑狐は男に対する警戒を隠そうともしない。
「で、でも貴方。青沼さんとの勝負で1000億を得ていますわよね…?それでは勝負になりませんわ。ワタクシ、危ない橋を渡ってその様になるのはゴメンザマス」
卑狐は、敗北のショックと脂汗でヘアスタイルを崩している青沼へと視線を向ける。時間が経ち、幾らか冷静さを取り戻したのか視線を向けられた青沼は不敵な笑みを浮かべた。
「ククク…私も舐められたものだ。私が望むのは魂がヒリつくような勝負のみ。己の保身が約束された勝負などナンセンス」
「な、何が言いたいの⁉︎」
卑狐が怯えたように叫ぶ。その声が部屋中を木霊するが、誰一人として気にするものはいない。
「私が賭けるものは私が保有する海馬コーポレーションの株全てに、先ほど青沼氏から勝ち取った1000億。そして、近い将来我々が手にする利権の私の取り分全てです」
部屋の空気が変わる。だが、唯一卑狐の表情は変わらない、どころか先ほどに比べより一層警戒心を露わにしている。彼女もこの地位にまで登り詰めた女傑。利益よりも、リスクを警戒するのは当然のことであった。
「それで、ワタクシの賭けるものは何ザマスか?」
「別に大したことは望みません。賭け金は青沼氏同様、1000億で結構」
ダン、と衝撃音が鳴り響く。卑狐が我慢できないとばかりに机に拳を振り下ろしたのだ。
「巫山戯ているザマスか!そんな条件、こちらに有利すぎるザマス」
憤りの声をあげる卑狐に対し、傷の男はクック、と笑う。
「どうやら、貴方はまだ私という人間を理解していないようだ。私はね、ただ愉しみたいんですよ。人生は短い。そして一度しかない。ならば、愉しまなければ損ではないですか。お互いの命を切り売りする勝負。私はそこに、生きているという実感を得ることができる。損得など、それを彩るスパイスでしかない」
ククク、と愉しそうに笑う男に対し、卑狐は冷静に損得計算を始めていた。1000億のリスクは確かに高い。負ければそこにいる青沼のようにタダではすまないだろう。しかし、それを補って余りある程の収入だ。仮に負けたとしても、今後の収入を上手く使えば、まだ持ち直すこともできる。ならば、これは…
「その勝負受けるザマス。それと、その前に確認ザマス」
「ほお、何ですか…?」
男の顔に好奇の色が浮かぶ。
「仮にあの少年…あー、高槻麟が勝ち抜いた場合。高槻麟を貴方の第2の代理扱いにするつもりザマスか?」
「なんだ、そんなことですか。ご心配なく。高槻麟を私の代理扱いにするつもりはありませんよ」
白けたのか、ソファへと体を沈める男に、ニンマリと言質を取ったとばかりに笑みを向ける卑狐。
大人たちの醜い争いは続く。
◇◆◇◆
葛城想人 LP4000
VS
高槻麟 LP4000
会場の喧騒の中、2人の決闘が始まる。
「君に、一つ聞いておきたいことがあります」
想人が静かに告げる。決して大きいわけではないのに、その言葉ははっきりと麟に届いた。
「君は、君には…背負うべきものはありますか?」
「……」
「どうやら本当にないようだ。僕にはあります。父と母と、そして妹。背負うべきものを持たない君には絶対に負けない!決してね」
その言葉が客席まで届いたのか、一層『想人コール』が大きくなる。
決闘盤が点灯したのは、麟だ。
『…ッチ、優等生面しやがって!宿主様よぉ、さっさと終わらせるぞ。先ずはそのカードを』
バクラの声が頭に響く。
「僕は…クリバンデットを召喚」
『グリグリ〜』
黒い毛玉に、盗賊を思わせるバンダナと眼帯をつけたモンスターが現れる。そしてその小さな手足をばたつかせた。
その凶悪そうな見た目と、可愛い動きのギャップに、一部の女性客からうっとりしたような声があがる。
瞬間、視界が暗転した。
◇◆◇◆
『テメエ…どういうつもりだ?』
目を開けると、そこに広がるのは闇。その空間に、白髪の青年が立っている。
「どうって…?」
ワザと惚けてみせる。意味のない時間稼ぎだ。
『ふざけんじゃねぇ!俺の指示と全然違ぇじゃねえか』
バクラの言う通りだ。僕は、彼の指示に従わなかった。けど、
「先に裏切ったのはどっちだよ!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。見るとバクラも僕の言葉の真意を察したのか、表情を歪めた。
「テメエ…まさか、オレ様の記憶を…」
彼の言葉に頷いて見せる。そう、僕は見た。あいつ、叶の姿を見て気絶した直後、僕の意識に映像が流れた。それは、一人の少年の物語。
少年は見渡す限りの砂漠に囲まれた、小さな村で育った。貧しいながらも満ち足りた生活だった。しかし、ある日謎の一団が村を襲う。何とか逃げた少年が目にしたのは殺され、ドロドロに溶かされた村の人々だった。家族、そして村人を殺した王家に復讐するため、彼は盗賊となった。
やがて十数年の時が経ち、少年は青年へと成長する。そして宿命の王子、後に名も無きファラオと呼ばれる青年との闘い。大邪神ゾークが封印され、消滅しかけた青年は、願う。世界に復讐したい、と。
そして三千年後の現世に再び蘇った青年は、再び大邪神ゾークを復活させる。しかし、名も無きファラオとその仲間たちに敗れ、今度こそ完全に消滅した。しかし、青年は最後の切り札を隠していた。彼の所持する千年リングには、持ち主の魂の一部を物体に憑依させる力を持っていた。その力で彼は一枚のカードに分身を憑依させ、そのカードを街に流した。が、本体の消滅に伴い分身も復活するまで数年の時を要した。そして、元の力を取り戻すために選んだ宿主が、
『そう、テメエだ』
バクラの声が胸に冷たく響く。それは自分の推測に、間違いではないという証だから。
「君が前に話してくれた目的っていうのは、世界を滅ぼすこと?」
『そうだ』
隠すことなく告白するバクラ。普通の人が同じことを言ってもここまでの説得力はない。それを可能にするのは盗賊王としての為せるわざか。
「それがどういうことか、分かって言ってるの?」
『テメエこそオレ様の記憶を見たなら、分かってんだろ』
「どうして…⁉︎村の人を皆殺しにされて辛かったのは分かるけど、だからって!」
バクラは僕の言葉に眉を潜めるとフン、と鼻を鳴らした。
『まだ分かってねえようだな。オレ様は別にクル・エルナのことなんぞ知ったことじゃねえ。…もう殆ど覚えちゃいねぇしな。ただ一つ覚えていることは、オレ様が全てを奪われたことだけだ』
バクラは溜め込んだものを吐き出すように、言葉を切る。
『全てを失った後、オレ様はたった一人で生き続けた。オレ様が惨めに生き永らえている間も、オレ様の周りには暖かな光が溢れていた。家族の笑い声で満たされた家、笑顔で遊び回るガキ共、そして、平和を謳歌する王宮のクソ共。ふざけんじゃねえ!なぜ笑える?なぜ平和で居られると思う?全部オレ様たちクル・エルナの犠牲のおかげだろうが⁉︎それを知らずにのうのうと生きるアホ共、知った上で何事も無かったかのように過ごす王族。許せるわけねぇだろ‼︎だからオレ様は全てを奪い返す。たとえ全てを犠牲にしてもな』
その独白は、彼の三千年にも及ぶ復讐の記憶。その一端に過ぎないのだろう。だがそれだけでも、その言葉は僕の胸に深く沈み込んだ。
『まあ、これでテメエとのコンビも終わりだ。後は好きにやりな』
突き放すように告げるバクラ。だんだんとバクラの姿が遠のいていく。
「待っ」
その言葉を言い終えることなく、彼は僕の前から姿を消した。
「ーーん、高槻麟!」
審判の声で僕は意識を取り戻した。
「無意味な遅延行為は反則である。遅延行為を1分以上行えば反則負けとなるので注意するように」
「すっ、すいません」
どうやら目を閉じながら1分近く意識を失っていたらしい。
「僕は魔法カード、悪夢の鉄檻を発動。これで2ターンの間、お互いに攻撃することはできない。カードを1枚伏せてターンエンド。そしてこの瞬間、クリバンデットの効果発動!自身をリリースしてデッキトップから5枚めくる。そしてその中から魔法、罠カード1枚を手札に加える。僕は、闇の誘惑を手札に加える」
【落ちたカード】
聖なるバリアー・ミラーフォース
幻影騎士団シャドーベイル
死者蘇生
影無茶ナイト
…カードの落ちが悪い。やはり、バクラがいなければ僕の実力などこの程度なのか。
『あーっと、麟選手。クリバンデットの効果を使うも運が悪かったようです』
MCの女性もあまりの運の悪さに同情の声をあげた。
「僕のターン、ドローです。高槻麟さん。今から僕が、背負う者の強さを見せてあげます」
そう言うと想人はドローカードをディスクに差し込む。
「僕は魔法カード、強欲で謙虚な壺を発動。デッキトップから3枚めくり、その内の1枚を手札に加える」
強欲と謙虚。矛盾する2つの顔を持つ壺が出現し、想人がその中の3枚を手に取る。
【捲ったカード】
奈落の落とし穴
波紋のバリアーウェーブ・フォース
激流葬
「僕は波紋のバリアーウェーブ・フォースを手札に加えます。そして、妖仙獣鎌壱太刀を召喚」
着物を羽織り、鎌を構えた人型のイタチが風共に現れる。
「更に鎌壱太刀の効果。召喚に成功した時、別の『妖仙獣モンスター』を召喚できる。現れろ、妖仙獣鎌弍太刀、鎌参太刀」
風が風を呼び寄せるように2つの竜巻から、更に2体のイタチが現れる。1体は日本刀を、もう1体は小太刀を構えている。
『想人選手、一気に3体のモンスターを召喚したーー!けど攻撃できないのに何で?』
MCの女性が訝るが、これは…不味い。
「妖仙獣鎌壱太刀の効果。1ターンに1度、別の『妖仙獣モンスター』が存在する場合、相手の表側表示のカードを手札に戻す。悪夢の鉄檻をバウンスする」
竜巻と共に、悪夢の鉄檻が飛ばされる。
『これで高槻選手の場はガラ空きになってしまったーー!大ピーンチ!』
「行け、妖仙獣鎌壱太刀!ダイレクトアタックだ。壱旋風!」
鎌壱太刀の起こした竜巻が迫る。が、
「墓地の幻影騎士団シャドーベイルの効果発動!相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを守備表示で特殊召喚する」
幻影騎士団シャドーベイル ☆4 ATK/DEF 0/300
「構わない。鎌壱太刀でシャドーベイルを、残り2体でダイレクトアタック!」
「ぐあああっ!」
高槻麟 LP4000→700
『ああっ!惜しい…ゴホン、失礼。高槻選手、間一髪守り切りました』
「鎌参太刀の効果発動。『妖仙獣モンスター』が戦闘ダメージを与えた時、『妖仙獣カード』をデッキから手札に加える。僕は、妖仙獣の秘技を手札に加え、カードを2枚伏せてターンエンド」
好機を逃したというのに、想人の目に驚きの色はない。シャドーベイルが墓地に送られていたのに気づいていたのだろう。それにしても1ターン目でLPを五分の一以下にまで削られてしまった。今は守りを固めるしかない。
「僕のターンドロー。僕は、闇の誘惑を発動。2枚ドローして、闇属性カード、ネクロフェイスを除外。ネクロフェイスの効果で互いのデッキトップからカードを5枚除外する」
青白い人形の生首から、ピンクの肉の触手を生やしたモンスターが現れる。そのグロテスクな面相に観客たちから悲鳴が上がった。
…僕のせいじゃないのに。
「僕は、魔界発現世行きバスガイドを召喚。効果で彼岸の悪魔スカラマリオンを特殊召喚」
次元の裂け目からバスが現れる。その中から赤毛の少女と、鉤爪を長く伸ばした悪魔が降車した。恐らくあの伏せカードは、波紋のバリア・ウェーブフォース。 今は攻撃せずに守りを固めるしかない。
「スカラマリオンの特殊召喚時、伏せカードオープン!激流葬。場のモンスターカード全てを破壊する」
「えっ⁉︎」
ウェーブ・フォースじゃ、ない…?
大地を割るような激流がフィールド内を埋め尽くし、バスガイドの少女と悪魔が流され消える。
「カードを2枚伏せ、悪夢の鉄檻を再び発動させてターンエンド。更に墓地に送られたスカラマリオンの効果でクリッターを手札に加える」
「僕のターン、ドロー…残念だけど、このターンで終わりのようだね」
『おおっと、想人選手。まさかの勝利宣言です!』
「僕は、妖仙獣鎌壱太刀を召喚。更に効果発動」
想人の場に、竜巻と共に第一の妖仙獣、鎌壱太刀が見参する。他の兄弟を呼び寄せると共に、場のカード1枚を手札に戻す凶悪なカード。発動するなら、今。
「この瞬間、伏せカードオープン!永続罠幻影霧剣!」
鎌壱太刀の呼び出した竜巻を、さらに周囲から囲うようにして、濃霧が覆う。が、さらにその上を行くように、内部から強風が湧きおこる。
「読んでいたよ。僕はカウンター罠、妖仙獣の秘技を発動!場に妖仙獣が存在する時、相手の魔法、罠、モンスター効果を無効にして破壊する…これで分かっただろう。これが背負う者の強ささ。これ以上、見っともないマネはよしてくれると助かるな」
「……」
「だんまりか。まあいいよ、どの道君はこのターンで終わりだ」
「それは、どうかな」
濃霧を吹き飛ばそうとする風に、天から雷が降りかかる。その衝撃は、場に留まらずに客席までにも波及した。
「何⁉︎」
想人の顔に、初めて驚きの色が浮かぶ。
「妖仙獣の秘技に対して、僕はカウンター罠、神の宣告を発動していた。チェーンの逆順処理で、僕の幻影霧剣の効果は有効」
鎌壱太刀が霧の剣に貫かれ、文字通り霧のように霧散する。想人は苛立たしげに地面を蹴った。
「クッ…」
高槻麟 LP700→350
「神の宣告の発動コストは、プレイヤーのLPの半分。もうファイヤーボール一発で吹き飛ぶ量だ。なのに、何で足掻く⁉︎君は、別に背負う物があるわけでもないんだろ。邪魔なんだよ、君みたいのはさぁ。僕をはじめ、他の出場者は皆それぞれ闘う理由、背負う物があるんだ。はっきり言って、君のやっていることは他の出場者に失礼なんだよ!」
想人の声に、観客が先ほどまで騒がしかった鎮まりかえる。そして、ある者は立ち上がり、ある者は声を大にして、しだいに同調するように大きな声へとうねりをあげていく。
『か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!』
『か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!』
『か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!』
『み、皆さーん!落ち着いて、落ち着いて下さーーい!』
マイクで拡声されたメリッサの声が響くが、そんなものは焼け石に水である。審判の磯野もあまりに異様な状況に、社長である海馬の指示を待つばかりだ。先ほどまでの声援のように騒がしい訳ではない。ただ、まるで一つの生き物のように纏まった観客たちの声は、静かに、しかし不気味に、たった1人の少年へと向けられた。
◇◆◇◆
何故こんなことをしてるんだろう、と麟は思った。元々自分には想人をはじめとした他の出場者のように負けられない理由などない。ただ単に招待状が送られ、バクラが勝手に申し込みをしたから、仕方なく出場しただけだ。それもバクラと仲違いした今となっては、想人の言う通りただの迷惑でしかない。降参しよう、そう思いデッキに手を置こうとした。
…あれ、何で?
しかし置けない。手は脳の命令を無視するかのように、震えながらデッキと体の中間で停止している。
否、無視しているのではない。脳が、自身が、敗北を拒否しているのだ。どうして、と再度自問すると、脳裏に想人の言葉が蘇った。
『か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!』
『か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!』
『か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!』
観客の声が最高潮に達する。高槻叶への抑えられない怒りを、一度は抑えた反動からか、想人の言葉が引き金となり、最早誰の言葉も届かなかった。
「黙れよ」
不意に口から飛び出した三文字の言葉。小さく、殆ど独り言と変わらないその言葉は、麟自身驚くほど低く、冷たく、そして驚くほど良く通った。観客の声が一瞬にして鎮まりかえる。
ようやくわかった。何故、僕が負けたくなかったのか。
「何か背負うものがないと、闘っちゃいけないの?」
ーー人は誰しも、何かを背負える訳ではない。
「背負えない人間の辛さも知らないクセに、」
ーーそしてそれは、背負わざる者にしか分からない。
「お前に僕の、僕たちの何が分かるっていうんだ‼︎」
ーー想人は言った。背負う者は背負うものがない者には決して負けないと。ならば、
「僕は負けない!必ずお前を倒す!倒してみせる‼︎」
少年の魂の叫びは、
『チッ……』
彼に眠る、盗賊王の胸へと響いた。
バクラとの関係はゆっくり練っていこうと思いますので、もう少しお待ちください。幕間の大人たちの会話の内容は、大会が進む内に明らかになっていく予定です。読んで頂き、ありがとうございました。