グロいの注意。
バタン!
「提督ー!那珂ちゃんなんかひどい扱いされてるー!」
那珂ちゃんが執務室にやって来た。
「こら!ノックくらいしなさい!」
叢雲のお怒りももっともである。
で、那珂ちゃんどしたん。
「なんかね、那珂ちゃん何も悪くないのに、那珂ちゃんのファン辞めますっていう人がいっぱいいるんだよー!那珂ちゃん悪いことしてないのにー!」
うーん?
一体何のことだ?
そう思って叢雲にちらりと目で尋ねるが、叢雲も黙って首をフルフルと横に振るだけ。
叢雲も心当たりがないとなると、それっぽいことでも言って、那珂ちゃんには納得してもらうしかないか。
「いいか那珂。人というのはな、有名になればなるだけ、特に理由のないバッシングや、アンチと言われる人達が湧くものだ。
その人がどれだけ清廉潔白であっても、それは変わらない。
それが嫌なら、アイドルになるのは諦めた方が良い。
那珂。アイドルになるのを、お前は諦めるか」
うー、なんて那珂ちゃんは涙目でうなりながら、それでも力強く首を横に振った。
「那珂ちゃんは、逃げたりなんかしないもん!」
「うむ。なら頑張りなさい。
少なくとも俺は、那珂が頑張り続ける限り、ファンとして応援しよう」
「うん、頑張る!じゃあね!」
そう言って那珂ちゃんは、嵐のように去っていった。
「…なんだったのかしら」
「さあな」
しばらくして。
ふいに、ドアをコンコン、と叩く音がする。
はて、誰か来る予定なんかあったかな。天龍たちが遠征から帰ってくるには早いし。
そう思いながらも、入るよう声をかける。
それからドアを開けて執務室に入ってきたのは、二人の重巡であった。
「重巡…古鷹…です」
「加古だ」
ふむ。二人とも改二の姿ではなく、普通の状態である。
加古は古鷹を庇うようにして立っている。
そして、古鷹は、加古の後ろにやや隠れるように立ち、こちらをハイライトの消えた瞳で見ていた。
これは…。
「…この鎮守府の生き残り。その五人のうちの二人…、で、合っているか?」
加古が無愛想に答える。
「ああ」
「ちょっと貴女達、その態度はどうなの」
「叢雲、構わん」
叢雲がこちらを睨み付けてくるが、努めて無視する。
正直注意してくれるのはありがたいが、この鎮守府の生き残り組となれば話は別だ。
不知火もそうだったが、生き残り組はそれはもう凄惨なかつてを過ごしてきている。
まさに、俺達とはものの見え方が違うのだろう。
そんなの相手に注意したところで意味など無いし、古鷹はともかく加古はわざと失礼な態度を取っているように見える。
それと、古鷹の左目。
そこには明るく輝く瞳はなく、痛々しい白の医療用の眼帯がされていた。
失明か、それ以上か。
今はまだ来たばかりであるし、無理に話を聞き出すつもりもない。
俺が目指すのは、全ての艦娘が十全に動ける、まさにホワイトな鎮守府であり、どこに出しても恥ずかしくない住環境である。
なに、前任者は既にいなくなり、時間もまだまだたっぷりある。
まずは、心の傷を治してほしかった。
「では、加古、古鷹。
両名の到着を歓迎する。
敷地内はおそらく大きくは変わっていないと思うが、規則は一新している。
各人、資料に目を通しておけ。資料は…ああ、これだ。
食事の時間には気をつけておくと良い。
また、寮の部屋割りについては隣の叢雲も一任してある。
以前と同じ部屋が嫌ならそう申し出ろ。また、部屋割りに何か希望があれば、最大限配慮する。
…何か質問はあるか」
黙って聞いていた加古が前に出る。
「で、アタシ達が戦場に出るのは、いつなんだ」
「ああ、そうだな。
加古、そして古鷹。
貴様らには、俺が良いというまで戦闘、及び遠征を禁止する」
そう俺が言うと、加古は血相を変えてこちらに詰め寄ろうとして来たが、古鷹が加古の服の袖を掴んで止めていた。
それから加古は最後にこちらを睨み付けると、古鷹と共に執務室から出ていった。
「なによあれ。さすがに失礼すぎでしょ!
あんたも!何で何も言わなかったのよ!嘗められてるわよ?最後に礼もせず出て行ったし!
ねえ、聞いてるの!?」
「聞こえているとも」
さてさて。
しかし、どうしたものか…。
「…あら。加古さん。それに、古鷹さんも」
「…不知火か」
あの後、アタシと古鷹はとりあえず割り当てられた重巡の寮に向かっていた。
その途中、廊下で不知火と出会っていた。
不知火の左頬を見る。
見にくいが、切り傷の跡がうっすらと見え、加古はほっと息を吐いた。
「…無事だったか」
「ええ。そちらこそ、お二人とも息災そうで」
加古は以前、この鎮守府に居た時に、何度か不知火に庇われたことがある。
不知火の左頬に怪我が出来たのはその時で、当時の司令官が、不知火の目が気に入らない、上官にする目ではないと言って、机にあったカッターで頬を切り裂いたためだ。
その時の怪我はひどく、頬から唇まで裂けており、正直今くらいにまで傷跡が目立たなくなるとは思っていなかったため、正直怪我が治った時には安心した。
「…古鷹さんも、お変わりないようで」
そう言う不知火に、かつて共に地獄を見てきた不知火なら信頼できると、加古は小さな声で尋ねた。
「なあ、実際のところどうなんだ。ここの提督は」
「そうですね。少なくとも、不知火は現状に不満は何もありません。
提督はしっかりした人物で、とても満足しています。
…昔と比べれば、ずっと」
不知火は最後、目を伏せながらそう言った。
「…そうか。
だけど、アタシ達はアタシ達の目で判断させてもらう」
「ええ。それがよろしいかと。
私も、不知火の落ち度でお二人が不幸な目にあってほしくなどないですし」
ここで、後ろから、これまで黙っていた古鷹が不知火に尋ねた。
「ねぇ…不知火ちゃん。
いま、しあわせ?」
不知火はアタシの方をチラリと見てから、古鷹の顔をじっと見つめながら、こう言った。
「幸せですよ。
夢なんじゃないかと思うほどに」
不知火は、では、これで。と言って、アタシ達が来た方向に歩いていった。
不知火の話を聞いて、アタシは、それでも、アタシは今度こそ絶対に古鷹を守る。
その決意を新たにして、古鷹の手を引いて、寮へ向かった。
生き残り組の過去話は、くっそ胸くそ注意なんでお気をつけください。
でもこれ書かないと進まないしなぁ…。