それは、まるで廃墟だった。天井が朽ちて半分ほどなくなっている
「叢雲。本当にここは鎮守府か?」
前を歩く駆逐艦にたずねる。叢雲はこちらを一瞥し、わずかに頷いた。
「間違いないわ。本日一二○○(ヒトフタマルマル)付けであなたはここ、第二三鎮守府に着任よ。」
そんな馬鹿な、と思う。あれだけ海軍がサポートするだとか、環境は悪いことにはならないという話だったのだ。話が違う。
「とりあえず、執務室に行きましょう。いろいろ言いたいことはあるでしょうけど、後にしなさい。」
そういう彼女の表情は、わずかに苛立ちをにじませていた。苛立っているのはこっちだ。そう言いたいが、彼女の瞳にほんのすこしだけ後ろめたさが見て取れた。そう思った瞬間にはもう、突き放すような表情に戻っていたが。まずは話を聞いてみなければ。そう思いながら彼女の後を歩く。
建物の内部も見た目相応にボロボロで、進めば進むほどにその酷さを思い知る。
「さて、何から話したものかしら。」
執務室の無事だったソファで対面に座り、叢雲は困ったように言った。窓のガラスが割れて、一部飛び散っている。後で片付けないとな・・・。
叢雲はそう言うが、俺としては聞きたいことしかない。この惨状はいったいどういうことなのか・・・。
「ここは俺が今日から着任する鎮守府で、お前は秘書艦の叢雲。そして今後活動するための資材は定期便で送られてきて、食堂には後ほど人員が配備される手筈になっている。・・・・ここまでは相違ないか?」
「ええ。付け加えるなら、今は私以外に艦娘がいないけれど、私以外に艦娘が増えれば秘書艦は交代できるわね。食堂には今日の一六○○(ヒトロクマルマル)から間宮さんが来てくれる予定よ。」
「ふむ、了解した。それでは聞かせてもらおうか。この鎮守府で何があった?」
そう、それがわからない。なにかしらの襲撃があったであろうことは想像に難くないが、荒れ果てたまま新人を着任させるとはどういうことだ?
叢雲はため息をひとつ吐くと、話始めた。
「六ヶ月ほど前の話よ。この鎮守府は深海凄艦から侵攻を受けたわ。ここの司令官は当然応戦した。ここの艦娘たちの錬度はそれなりに高く、他の鎮守府にもそこそこ知られていた。だというのに、大本営に緊急入電が来たのは一ヶ月前。大本営は緊急事態として対応、すぐに戦力を編成してここへ向かわせたわ。」
「・・・それで?」
「詳しいことは知らないけど、そのときにここで戦った一人が言っていたわ。
”地獄だった”、と。
その後、深海凄艦は殲滅、掃討された。生き残ったのはわずかに五名、今は大本営預かりになっているけれど、退院したらここの鎮守府に全員
鎮守府の状態に関しては、ここの設備はまだ生きているらしいから、今後改築していけばいいわ。かかった費用は大本営の支払いでかまわないそうよ。」
「今後の増改築に関してはいいとして、だ。その生き残った艦娘たちを、俺が運用しろっていうのか?」
「ええ、とりあえず今の私たちに足りないのは戦力。いなくて困ることはあっても、いても困ることは無いんじゃないかしら?」
「話を聞くかぎり、その司令官は有能だったんだろう?ならば、俺のような素人のところよりも他に行くだろう。艦娘の錬度が高いなら他の鎮守府でも引く手あまただろうし、そうでなくともわざわざ初心者提督のもとに来たがるとは思えん。・・・それともまさか、その艦娘たちに何か問題でもあるのか?」
「・・・悲しいことに、それで正解よ。とは言ってもその子たちが悪いわけじゃないんだけど」
「どういうことだ」
「これは部外秘なんだけど、」
彼女はそこで言葉を区切り、こちらの目を見て言った。
「・・・元の司令官は、平気で艦娘たちを見殺しにしたクズだったということよ。」