俺がこの鎮守府に着任して三日が経った。書類仕事は日に日に増えているが、それは艦隊が大きくなってきているということでもある。そう考えれば嬉しいのだが、だんだん面倒にしかならないだろうなと思う。
結局初日はこの鎮守府の運営記録の確認と書類の整理、そしてドS叢雲先生の動作・姿勢のレッスンで終わってしまったため、二日目に一日かけて鎮守府の散策をした。幸い資材庫の破損は軽微だったので、少し補強すれば問題なさそうだ。艦娘たちの寮や入渠ドックは奥の方にあったため目立った被害はなく、余裕ができたら外装の塗り直しをすることに決めた。
内部は多少荒れていたので、箒と雑巾で掃除をした。普通こういうのは人を雇うのではないかと聞いたところ、
「別に、雇う予算がもらえるくらいの鎮守府になればいいんじゃない?」
とのありがたい言葉をもらった。こんちくしょう。その言い方が上から目線でいらっとしたので、残りの雑巾がけは手伝わないことでささやかな報復とした。涙目でちらちらこっちを見ても無駄だ。手伝ってやらん。
すこしスッキリした。
寮内の掃除はあらかた終わったので、まだ少し拗ねている叢雲をつれて工廠へ向かった。
天井に穴の開いた工廠ではかわいらしい妖精さんたちに話を聞いた。どうやら使う資材の量を決めて建造のお願いをすれば、資材の量である程度方向性が決まるらしい。とはいっても妖精というのはみんなきまぐれなので、狙いどおりのものにならなくても怒らないでほしい、とのこと。
ちなみにここの妖精さんたちに前任の司令官のことを聞いてみたが、まったく知らないらしい。なんでも妖精というのは艦娘といっしょに存在するものらしく、艤装や装備、艦娘がないところには存在しないのだとか。つまり、一時鎮守府に誰もいなくなったときには妖精さんも全員いなくなり、今は叢雲がいるから工廠にも妖精さんが存在しているということだ。
妖精・・・。摩訶不思議ないきもの(?)である。
「おい提督、艦隊帰投したぜ。」
その声で意識が現実に引き戻される。
「ああ、天龍か。おかえり。報告たのむ」
「おう!戦果は上々、鎮守府近海はあらかた掃討したぜ。といっても、雑魚ばっかりでたいしたことなかったけどな。」
「被害状況は?」
「俺と如月が小破、他はかすり傷程度だ。これくらいならまだまだ戦えるぜ!」
「そうか、ごくろうだった。かすり傷程度でも損傷は損傷だ。今響がドックの準備をしているから、傷ついたものから入渠し、休むように。ダメージがとれたものから休憩だ。」
「おい、まだ俺は戦えるぜ?これくらい、どうってこたあねえ!」
「天龍」
納得していない彼女を宥めながら説得する。龍田は遠征に行って、帰ってくるまでまだしばらくかかる。
フフ怖さんはめんどくさいことがわかった。
「いいか天龍、うちの鎮守府はまだ活動をはじめたばかりだ。つまり君たちは貴重な戦力であり、俺にとって守るべき部下なんだよ。そんな君たちの消耗を気にするのは、司令官として当然だ。
それに、俺はこの鎮守府を傷ついたままでも出撃させる鎮守府にするつもりは毛頭ない。文句があり、意見があるなら論理立てて話せ。その傷を癒したあとでな。それからなら話を聞こう」
「俺は!」
コンコン。
「司令官。ドックの準備が終わったよ。これでいつでも使用できる。・・・取り込み中だったかい?」
響ちゃんキタ!いつ見ても可愛いなあ。
思わず頬が緩んでしまう(意識の中では)が、実際に我が鉄面皮がそのように感情表現されることなどないらしい。
「いや、いいタイミングだ。さて、天龍。わかったな」
「・・・ッチ。あとで絶対話きいてもらうからな。絶対だぞ!」
そう言って天龍は出て行った。後で龍田に教えておくか・・・。
「これで今日の出撃予定はすべて終了だね。消費した資材と各海域の情報を書類にまとめておくよ。」
「ああ、頼む。・・・しかし、あれはどうにかならんかな。」
「彼女のことかい?」
「そうだ。やれ『俺を戦線から外すな』だの『俺はまだ戦える』だの。そうじゃないんだけどなあ・・・。」
「彼女もいろいろあった艦だからね。しかたないさ。でも、頭ではきっと理解していると思う。きっと、感情が抑えられないだけなんじゃないかな。」
「そう思うか?」
「きっとね。」
なんにせよ、俺がやることは変わらない。書類を片付け、予定を組み、彼女たちが全力を出せる環境をできるかぎり整える。最悪の事態を想定して動く。それだけだ。
「だといいがな。」
さあ、明日も頑張ろう。
響かわいいよ響