LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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2話目です。


この道を進む為に

 

 

 

 

 

 

ついに始まったS級魔導士昇格試験。

 

その一次試験は10のルートを10組がそれぞれ選び、その通路の先によって勝つか負けるか…戦うか戦わないか…武力と運が問われる試験となっていた。

 

だがその通路の先には、4人の現役S級魔導士も配置されているのであった。

 

 

―Dルート―

 

 

「強い…!!! こんなに強かった……の?」

 

 

「それはまぁ…ギルド最強の女候補ってはやてちゃんたちとは並び称されてるけど、実際は彼女の方が1つ頭抜き出てるもの」

 

 

「海王の鎧。完全にジュビアの水を防ぐ気だ」

 

 

「どうしたジュビア、そんな事ではS級魔導士にはなれんぞ」

 

 

その通路ではジュビア、リサーナ、シャマルのチームがエルザと対峙し、劣勢を強いられていた。

 

 

 

―Jルート―

 

 

「ハァ…ハァ……ついてないね」

 

 

「ああ……まさかコイツと戦うハメになるなんてな」

 

 

「強すぎますよ……」

 

 

このルートを選択したなのは、ヴィータ、スバルのチームは全員膝をつきながら顔をしかめる。そんな彼女たちの視線の先には……

 

 

「安心しろ、これでも一応手加減はしてる。さぁなのは、ここを通りたかったら僕を倒して行け」

 

 

と…杖を構えたクロノが余裕を持った態度で佇んでいた。

 

 

 

―Aルート―

 

 

「よりによって…」

 

 

「こいつと当たるなんて」

 

 

「……運がないとはこの事か……」

 

 

そう言って戦慄の表情を浮かべるエルフマン、エバーグリーン、ザフィーラのチーム。その通路で待ち受けていたのは……

 

 

「弟でも手加減しないわよ、エルフマン」

 

 

サタンソウルで悪魔のような姿で佇むエルフマンの姉……ミラジェーンであった。

 

 

わかっていた事だが……S級魔導士が立ちはだかるルートは、どれも激戦区であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第139話

『この道を進む為に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方Eルートでは、ナツチームはギルド最強の男…ギルダーツと対峙していた。

 

 

「まさかギルダーツに当たるなんて、本当についてなかったわね。っていうかハッピー、アンタ何してんのよ?」

 

 

「帰り支度です」

 

 

「諦め早すぎるわよ」

 

 

ティアナがそう問い掛けると、ハッピーはいそいそと帰る支度をしながらそう答えた。

 

 

「必要ねえよ。相手がギルダーツだろうと何だろうと、ぶん殴って一言痛てえって言わせてやる!!!」

 

 

「痛てえ」

 

 

「早えよ!!! てかまだなんもしてねーー!!!」

 

 

そんな漫才のようなやり取りのあと、ナツは両手に炎を灯して構える。

 

 

「行くぞギルダーツ!! この3年でオレがどんだけ強くなったか見せてやんぞ!!!」

 

 

「ちょっとナツ、一応これチーム戦よ。1人で戦う気?」

 

 

「なんだよ、ティアもやんのか?」

 

 

「当たり前でしょ。アンタのパートナーになった以上、私はナツをS級にする義務があるの。それに個人的にも、今の私の実力がギルダーツにどれだけ通用するか確かめてみたいしね」

 

 

「……しゃあねえなぁ。そん代わりオレが先に行くぞ」

 

 

「どうぞお好きに」

 

 

そう言って、ナツとティアナは並び立ってギルダーツと対峙する。

 

 

「いくぞギルダーツ!!!!」

 

 

まずはナツが真っ先に飛び出す。

 

 

「ちょっと待てって」

 

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

 

「落ち着けよナツ。まだ心の準備がだな……オイ……」

 

 

そう言ってナツに静止の言葉をかけるギルダーツだが、ナツは聞く耳持たずにギルダーツに殴り掛かる。

 

 

「バカ!!! うかつに飛び込んじゃダメよ!!! ギルダーツの魔法を忘れたの!!?」

 

 

ドゴォッ!!!!

 

 

ティアナの忠告も虚しく、ナツの拳は爆炎と共にギルダーツに叩き込まれた。

 

 

しかしギルダーツはその拳を片手で軽々と受け止めていた。そして……

 

 

ドッ!!!!

 

 

ナツの拳を受け止めたその手から魔力の波動が放出され、ナツを飲み込んだ。

 

 

粉砕(クラッシュ)!!!!」

 

 

その魔法こそ、ギルダーツが操る超上級破壊魔法〝クラッシュ〟である。

 

そして波動が収まると、そこにナツの姿は無かった。

 

 

「言っただろーが。手を抜くのは苦手なんだよ」

 

 

「ナツが、粉々になっちゃった」

 

 

「なってねーよ!!」

 

 

その瞬間天井から響いてくるナツの声。どうやらギルダーツの魔法が当たる直前に上へと飛び上がっていたらしい。

 

 

ゴッ!!!

 

 

そしてそのままナツは全身に炎を纏った状態でギルダーツに蹴りを叩き込む。

 

しかしその瞬間、ギルダーツの足元が陥没し、ナツの攻撃の威力が半減した。

 

 

「地面を砕いてクッションにしたのね……」

 

 

それを見て冷静に分析するティアナ。

 

 

「つあーーーーっ!!!!」

 

 

だがナツも負けじとギルダーツに炎を纏った打撃を連続で叩き込む。しかしギルダーツはそんなナツの猛攻を軽々と受け止め、かわし、さらには逆にナツに打撃を叩き込んで地面に叩き伏せる。

 

 

「私も忘れるんじゃないわよ!!! ギルダーツ!!!!」

 

 

そう言っていつの間にかギルダーツの背後に回っていたティアナは、クロスミラージュの引き金を引いて2発の魔法弾を放つ。しかし……

 

 

パシッ パシッ

 

 

ギルダーツはその魔法弾を、まるでボールを掴むように素手で受け止めた。しかも2発とも片手で。

 

 

「ウソ!?」

 

 

「フン!」

 

 

さらにギルダーツはその受け止めた魔法弾を、ティアナへと投げ返した。

 

 

「くっ……ハァァアアア!!!」

 

 

それを回避したティアナは、今度はダガーモードとなったクロスミラージュを構えてギルダーツへと切り掛かる。

 

 

しかし先ほどのナツと同じように、ティアナの振るった刃は簡単に回避されてしまう。

 

 

「だらぁ!!!」

 

 

そこへ復活したナツも加わり、ナツとティアナは2人でギルダーツに猛攻を仕掛ける。

 

ナツは得意の炎の打撃を休み無くギルダーツへと叩き込み……ティアナはそんなナツの動きに合わせて銃撃と斬撃の両方を臨機応変に使い分けて攻撃を仕掛ける。だがそれでも2人は簡単にあしらわれ、ギルダーツに一撃を入れる事すらできていない。

 

すると、そんな2人の戦いを見ていたハッピーがある事に気がついた。

 

 

「(ナツとティアナの顔、あんなに真剣なのに……笑ってるみたいだ)」

 

 

本人たちにそんな余裕も自覚も無いだろう。しかしハッピーの目には、そう映って見えていたのであった。

 

 

「火竜の…」

 

 

「ファントム…」

 

 

するとナツは口の中に魔力を…ティアナはクロスミラージュの銃口に魔力を集束する。そして……

 

 

「咆哮!!!!」

 

 

「ブレイザー!!!!」

 

 

2人同時に灼熱のブレスと強力な砲撃をギルダーツ目掛けて放った。

 

 

「(強くなったじゃねえか…ナツ…ティアナ……竜の子とランスターの少女よ)」

 

 

だがギルダーツはそれに対して微笑を浮かべながら片手を前にして構える。その瞬間2人のブレスと砲撃は、ギルダーツの魔法によりまるで四角いキューブのようにバラバラに粉砕された。

 

 

「っ…離れろティア!!!」

 

 

「きゃっ!!」

 

 

するとナツは何か嫌な予感を感じ取り、隣りにいたティアナを突き飛ばす。

 

 

「がっ」

 

 

次の瞬間……ナツの体に細かい網目模様の線が刻まれる。

 

 

「ナツ!!!」

 

 

「ナツーーー!!!」

 

 

「やべ!!」

 

 

それを見たティアナとハッピーが叫び、ギルダーツが焦ったように慌てて手を引くが……

 

 

パァァン!

 

 

ナツの体はそのまま……霧散していった。

 

 

「そんな…」

 

 

「つい力が……」

 

 

「ついって…それで済む問題じゃないわよ……ナツが……!!」

 

 

消えてしまったナツを見て、涙を浮かべるティアナとハッピー。

 

 

「いや…たぶん死んじゃいねえ。そういう魔法じゃねえんだ。ホレ」

 

 

「「!」」

 

 

そう言って天井を指差すギルダーツ。それに釣られてティアナとハッピーも天井を見上げる。

 

 

するとそこには…なんと小人のように小さくなり、何十人にも増えたナツが降って来ていた。

 

 

「今のは『分解』しちまう魔法なんだ」

 

 

「ナツがいっぱいだーーっ!!!!」

 

 

ハッピーが驚愕している間にも、小さくなって増えたナツは次々と地面に落ちてくる。

 

 

「しばらくしたら元に戻る。残念だがここまでだな、ナツ。お前は不合格──」

 

 

「「「ちょっと待てやーー!!!!」」」

 

 

ナツに不合格を言い渡そうとしたギルダーツだが、それにストップをかけた声に目を丸くする。何故なら……

 

 

「オレはまだあきらめてねーぞ」

 

「そーだそーだ」

 

「小さくなったからってなめんなよ!!!」

 

「燃えてきたー!」

 

「かーっかっかっか!」

 

「オレはナツだァ!!!」

 

「いや…オレがナツだ」

 

「オレもナツだ!」

 

 

小さくなったナツが1人として諦めておらず、未だにやる気満々だったのだ。

 

 

「怖ーーーっ!!!!」

 

 

ただしその異様な光景に、ハッピーは恐怖していた。因みにそんなナツを見たティアナは……

 

 

「……ちょっと…かわいいわね……」

 

 

と…ハッピーとは対極の感想を呟いていたが、幸いそれが彼女以外の耳に届く事はなかった。

 

 

「ケガの功名とはこの事!!」

 

「オレがこれだけいればギルダーツに勝てる!!」

 

「くくく…ミスったな」

 

「この勝負もらったぞー!!」

 

 

「(こんな状態で向かってきた奴は初めてだ)」

 

 

そう言い放ってくるチビナツたちを見て、ギルダーツは苦笑を浮かべる。

 

 

「「「いくぞギルダーツ!!!!」」」

 

 

そして一斉にギルダーツへと向かって駆け出していくチビナツたち。

 

 

「ナツの大群だー!」

 

 

「やれやれ」

 

 

そんなチビナツたちを見てギルダーツは小さく嘆息すると、身に着けていたマントを大きく翻す。

 

 

ぶふあっ!

 

 

「「「わーー!」」」

 

 

その風圧によって向かってくるチビナツの大群を吹き飛ばす。

 

しばらくはそれでチビナツたちを退けていたギルダーツだが、次第に何人かのチビナツがギルダーツの顔や体に張り付く。

 

 

「お!」

 

 

そしてそのままチビナツたちはギルダーツを叩いたり引っ張ったりし始める。

 

 

「おお!」

 

 

「火竜の咆哮!!!」

 

「火竜の鉄拳!!!」

 

「火竜の鉤爪!!!」

 

「火竜の」「火竜の」

 

 

「うわああああー!」

 

 

1人1人が放つ炎は小さいが、それが大勢でいっぺんに来るため、大きな炎となっていた。

 

 

「一応効いてる……これならっ」

 

 

その様子を見ていたティアナは、ギルダーツに気づかれないようにやるべき行動に移る。

 

 

「うっとうしいー!!」

 

 

そう言って張り付いていたチビナツたちを払い除けるギルダーツ。

 

 

「元に戻りやがれっ!!」

 

 

耐えかねたギルダーツはチビナツたちを1つに結集させ、元のナツの姿へと戻した。しかし……

 

 

「チャンス!!!!」

 

 

「やっとスキを見せたわね!!!!」

 

 

「近っ!」

 

 

元に戻ったナツはギルダーツの眼前にまで迫っており、さらにギルダーツの懐にはいつの間にかティアナが潜り込んでいた。

 

 

「滅竜奥義」

 

 

「星覇光来」

 

 

そして2人はありったけの魔力を両腕とクロスミラージュに集束し……

 

 

 

「紅蓮爆炎刃!!!!!」

 

 

「スターレイヴ・ブレイカー!!!!!」

 

 

 

今放てる最大の攻撃をギルダーツへと放った。

 

 

ドゴォォォォォォオオオオオオン!!!!!

 

 

その瞬間洞窟を揺るがすほどの爆音と衝撃が響き渡る。

 

 

しかし爆煙が晴れると、そこには防御に使ったマントがボロボロになっただけで、ギルダーツ本人はほぼ無傷で立っていた。

 

 

「ウソだ!!! 今のは2人の全力だった!! まったく効いてないのか!!?」

 

 

「いいや、よく見ろハッピー!!!! あのギルダーツを最初の位置から動かした!! がはははは!!! これは大いなる一歩だぁ!!!」

 

 

そう言ってギルダーツの足元を指差すナツ。そこには確かに、2人の攻撃によって後ろに押された跡が残っている。

 

それを聞いてハッピーは、確かにギルダーツは戦いが始まってから一歩も動いていない事に気がつく。

 

 

「つまり逆に言えば、一歩も動かないで私とナツをボコボコにしてたのよ」

 

 

「くくく…お、うおお」

 

 

するとナツは得意げに笑ったあと、フラフラと足元をふらつかせる。

 

 

「しかももうフラフラだーー!」

 

 

「どこが…」

 

 

「どこって…ええ!!?」

 

 

「強がりもそこまでいくと感心するわ」

 

 

呆れながらそう言うティアナも、体力が厳しいのか、顔色に難色を浮かべていた。

 

 

「たいしたモンだナツ、ティアナ。お前たちの力はよくわかった。本来なら試験管として、ここで合格にしてやってもいいんだがな」

 

 

「ふざけんな!!! お前を倒さなきゃS級魔導士になる意味がねーんだよ!!!!」

 

 

「……と言うと思ったぜ」

 

 

予想通りのナツの返答に、嘆息しながら目を伏せるギルダーツ。

 

 

 

その瞬間……彼を纏う空気が変わった。

 

 

 

「だからオレはお前に、手を抜いたりはしねえ」

 

 

 

「「(ゾワッ)」」

 

 

鋭い目付きでそう言い放つギルダーツを見て、背筋を凍らせるナツとティアナ。

 

 

「魔の道を歩き、その頂にたどり着く為に、お前には足りないものがある。それを知れ」

 

 

そう言って全身から強大な魔力を放出するギルダーツ。その魔力は洞窟を…いや、島全体を揺るがすほどであった。

 

 

「ティアナ…こっからはナツの試験だ。お前は下がれ」

 

 

「は……はい……!!」

 

 

ギルダーツにそう言われ、ティアナは体を恐怖で震わせながら、気圧されるように一歩一歩後ろに後退していく。

 

 

「うお…お……おお……」

 

 

魔力だけではない……ギルダーツから発せられる圧倒的な迫力と絶大なる威圧感が、ナツの全身を怯ませる。

 

 

「うああああああああ!」

 

 

それでもナツは震える体を動かし、恐れない勇気を持って拳を握り締め、ギルダーツへと駆け出していく。

 

 

しかしギルダーツと目が合った瞬間……駆け出していた足は止まり、拳を作っていた手の力が緩み、顔は段々と恐怖に支配されていく。

 

 

そしてしばらく数秒ほど硬直し……ナツはガクリと膝をついた。

 

 

「ま……参りました……」

 

 

掻き消えそうなほど小さく、震える声でそう告げるナツ。

 

 

「ナツ」

 

 

「ナツ…」

 

 

そんなナツを見て、ギルダーツはゆっくりと口角を吊り上げ……

 

 

 

「見事」

 

 

 

と…言い放った。同時に放っていた魔力と威圧感を消し、続けざまに口を開いた。

 

 

「勇気を持って立ち向かう事をオレは咎めたりしない。しかし抜いた剣を鞘に納める勇気を持つ者は、殊の外少ない。

 

恐怖は〝悪〟では無い。それは、己の弱さを知るという事だ。

 

弱さを知れば、人は強くも優しくもなれる。S級になるには必要な事だ。

 

お前はそれを知った。合格だ」

 

 

そして……ナツに一次試験合格を言い渡した。

 

 

「だ…だけど……」

 

 

「行けよ。試験管が合格だって言ってんだ。だが…試験はここで終わりじゃねーぞ。マスターの事だ、この先もっと厳しい試験が待ってる」

 

 

ギルダーツはそう言うが、ナツは俯かせた顔を上げない。

 

 

「自身を持て。お前ならやれる」

 

 

それでもナツは……顔を上げない。

 

 

「ここからは試験管じゃなく、友人としての言葉だ。強大な魔力がそいつの全てじゃねえ。

 

だが、勝ちたいという気持ちはオレにもわかる。歳もキャリアも関係ねえ。

 

オレも同じだからさ、お前には負けたくねえ。

 

またいつでも勝負してやる。

 

S級になって来い!!! ナツ」

 

 

そんなギルダーツの言葉を最後まで聞いても、ナツは顔を上げなかった。

 

 

だが俯かせたその両目からは……大粒の涙が溢れ出していたのであった。

 

 

 

 

 

つづく

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