LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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2話目です。


ウルの涙

 

 

 

 

 

 

激しい死闘の末……ついに無限の欲望(アンリミテッドデザイア)滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)…冬季のインヴェルノを撃破したエリオ。

 

インヴェルノが意識を失った事を確認したエリオは、そのままフラフラとした足取りで木陰に避難させていたリニスへと歩み寄る。

 

 

「勝ったよ……リニス」

 

 

「お疲れ様です、エリオ」

 

 

そう言ってリニスは勝利したエリオを称えるように優しく微笑む。

 

 

「体の方は大丈夫ですか?」

 

 

「うん、さっき落雷を食べた時に大体回復したよ。だからこのままナツさんやみんなと合流したいんだけど、どこに行けばいいのか……」

 

 

「その事なんですが……ここに来る途中で私たちのキャンプがありました。全員負傷していましたが無事です。おそらく今頃ナツさんたちもそのキャンプに合流しているでしょう」

 

 

「僕たちのキャンプか……」

 

 

「それともう1つ。実はこの島の東の岸に、敵の船を発見したのです」

 

 

「敵の船を?」

 

 

「はい。どうしますか? キャンプでみなさんと合流するか……それとも……」

 

 

「……決まってるじゃないか。」

 

 

リニスのその問い掛けに対し、エリオは小さく笑みを浮かべながらハッキリと答えた。

 

 

「行こう、奴等の船へ」

 

 

「……そういうと思いましたよ」

 

 

「たぶんナツさんたちも、キャンプでみんなの無事を確認したらすぐに船に向かうハズさ」

 

 

「そこで合流して、全員の力でハデスを倒す……ですね」

 

 

「そういう事。案内して、リニス」

 

 

「はい!」

 

 

そう言うとエリオは、リニスの案内のもと悪魔の心臓(グリモアハート)の船へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第158話

『ウルの(ティア)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……奪われた魔力を回復したグレイは、七眷属の長であるウルティアと対面していた。

 

 

「魔力は元通りになったみたいね」

 

 

そう言うと、ウルティアは気を失っているゼレフの体を背負う。

 

 

「ウルの…意思……」

 

 

「信じるかどうかはアナタの自由よ。私はゼレフを連れてこの島を出る。あなたはハデスを倒すの。ウルの魔法、絶対氷結(アイスドシェル)ならハデスを倒せるわ」

 

 

絶対氷結(アイスドシェル)……それは術者の肉体を氷に変えて、対象者と共に永久に封じ込める魔法であり…かつてグレイの師匠でありウルティアの母であるウルが厄災の悪魔・デリオラを封じる為に使用した魔法である。

 

 

「お願い、ウルと私の想いを叶えられるのはあなたしかいないの」

 

 

ウルティアの懇願するような言葉に……グレイはしばらくの沈黙のあと口を開いた。

 

 

「わかったよ」

 

 

「グレイ…!」

 

 

「オレがハデスを倒す」

 

 

絶対氷結(アイスドシェル)は術者の命を…」

 

 

「わかってるよ。そんな事ァ百も承知で言ってんだ」

 

 

「……ありがとう」

 

 

「よせよ。これはお前の為でも、ウルの為でもねえ。ギルドの為だ」

 

 

そんな会話のあと……ウルティアはゼレフを担いでその場を去ったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ど…どうなってんだこりゃあ……」

 

 

「あ……」

 

 

「ヒドイ……」

 

 

「みんなぁ……」

 

 

予想外のトラブルがあったが、何とかキャンプへと辿り着いたナツたちは、目の前の惨状をみて言葉を失っていた。

 

彼らの目の前にはミラジェーンやガジル…エルフマンやエバーグリーン…さらにはヴォルケンリッターの面々までキズつき、意識を失っている光景が広がっているのだから無理もない。

 

 

「ガジルやミラさん…ヴォルケンリッターまで……」

 

 

「私…すぐに治癒魔法で…!!」

 

 

「ありがたいけどこの人数よ、無理しないで」

 

 

「それにアンタ、今日は魔法使いっぱなしよ。少し休まないと」

 

 

「そうだよ。ウェンディちゃんまで倒れちゃったら元も子もないよ」

 

 

すぐに彼らの治癒を試みようとするウェンディだが、リサーナとシャルルとキャロの3人に言い止められる。

 

 

「さらにマスターとカナも負傷か」

 

 

「なのはやジュビア…グレイやエリオは行方不明……」

 

 

「どうなってんだ一体」

 

 

「グリモアの戦艦が東の沖にある。ここは守備を考えてチームを2つに分けてみたらどうだろう」

 

 

「『攻め』のチームと『守り』のチームって訳だな」

 

 

そんなリリーとアギトの言葉を聞き……ナツは1人考え込むような表情をしていたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「メルディ」

 

 

「! ウル……ウルティア……」

 

 

その頃……ジュビアとの戦いのあと岩陰で雨宿りをしていたメルディのもとに、ウルティアが合流する。するとメルディは、彼女が担いでいる男に目を引かれる。

 

 

「もしかしてそいつ……」

 

 

「そうよ…ゼレフ」

 

 

その男が探し求めていたゼレフだと聞き、表情を明るくするメルディ。

 

 

「予定変更よ。このまま島を出るわ」

 

 

「でも私……まだグレイを見つけてない」

 

 

「彼の事はもう忘れなさい」

 

 

「え?」

 

 

「彼は敵じゃない」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

時は少々遡り……天狼樹が倒された直後の事……

 

 

『聞いてグレイ。私の父はハデスに殺されたの』

 

 

『!!?』

 

 

『母は仇を討つ為、水面下で悪魔の心臓(グリモアハート)を追っていたわ。ウルの死後、日記を見つけ真実を知った私は、復讐の為悪魔の心臓(グリモアハート)に潜入した。しかしハデスの魔力は想像以上だった。ウルもそれを知っていたから、絶対氷結(アイスドシェル)を習得したのよ』

 

 

絶対氷結(アイスドシェル)!?』

 

 

『私には習得できなかった。ウルの血が流れてるというのにね。私の知る限り今現在、ハデスを倒せる魔法は絶対氷結(アイスドシェル)しかないわ』

 

 

『ゼレフの事は心配しないで。島の外で封印する。二度と誰も見つけられないように。ハデスになど渡したりしない』

 

 

 

 

 

『お願い、ウルと私の想いを叶えられるのはあなたしかいない』

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「彼は敵じゃない───()よ」

 

 

そう言うとウルティアは、口角を吊り上げて不気味に笑う。

 

 

「あんな適当な作り話なんかで騙されるぅ? くぷ…あはははははは!! うまくいけばハデスのグレイも両方消えるわ!!!! こんなに素晴らしい事はない!!!!」

 

 

「マスターハデスも? 何で?」

 

 

「ゼレフは私たちだけのものって事よ」

 

 

「マスターハデスを騙すの?」

 

 

「グレイもハデスも、みんな私の手のひらの上で踊るがいいわ。ゼレフは誰にも渡さない!!!! 私だけのもの!!!!」

 

 

不気味に顔を歪め、狂気すら感じさせる目付きでそう言い放つウルティアを見て…わずかに戸惑うメルディ。

 

 

「いけない! 私ったら、グレイにそこまで期待するのは都合がよすぎね。だけどハデスの〝眼〟をそらすくらいの役には立つかもね。〝眼〟に見つかる前に島を出ましょ」

 

 

「うん」

 

 

そう言うとウルティアはゼレフをメルディに担がせてその場から去ろうとする。するとそんな彼女の目に…気を失って倒れているジュビアが留まる。

 

 

「なに、この女」

 

 

「ジュビア。グレイと仲良し」

 

 

「ふぅん」

 

 

メルディの簡単な説明を聞いたウルティアは、手に魔法剣を出現させて、その切っ先をジュビアへと向ける。

 

 

「何を!!?」

 

 

「殺すに決まってんじゃない」

 

 

「で…でも……そいつはもう戦意がなくて……」

 

 

「黙って」

 

 

メルディが止めようとそう言うが、ウルティアは聞く耳を持たない。

 

 

「グレイには一分の未来も与えない。ハデスに敗れるか、絶対氷結(アイスドシェル)で死ぬか。たとえ生き延びたところで、お前は仲間を失っているのよ!!!!」

 

 

そしてそんなウルティアの剣が、まっすぐにジュビアへと振り下ろされる。

 

 

だがその時……どこからともなく出現した氷が、その剣を止めた。

 

 

「!!?」

 

 

その光景にウルティアが驚愕している間に、1人の人物がすぐさまジュビアを抱えてウルティアから距離を取ったのだった。その人物とは……

 

 

「グレイ!!!!」

 

 

そう……マスターハデスのもとへ向かったハズのグレイであった。

 

 

「こんな事だろうと思ったぜ」

 

 

「あら……意外ね。いつ気づかれたのかしら」

 

 

「お前の言葉なんかハナッから信じてねーよ」

 

 

「なるほど……信じたフリして私の真意を探ろうとしたのね。悪いコ」

 

 

予想外のグレイの登場にも特に動揺した様子も見せず、そう言って薄く笑うウルティア。

 

 

「オレはあの魔法を二度と使わねえって決めてんだ」

 

 

そんなグレイの脳裏には……かつて絶対氷結(アイスドシェル)を使用しようとした際に言われた……ナツとスバルの言葉が浮かんでいた。

 

 

 

『死んでほしくないから…あの時止めたのに……』

 

 

『オレ達の声は届かなかったのか』

 

 

 

「たとえウルの意思が何だとしても、オレにはオレの意思があるんだ」

 

 

あの時から……グレイは二度と絶対氷結(アイスドシェル)を使用しないと心に決めていたのだ。

 

 

「仲間と〝生きる〟道の上を歩いてんだ!!!!」

 

 

「(生きる…)」

 

 

グレイが言い放ったその言葉を聞き、メルディは僅かに胸が高鳴ったのを感じた。

 

 

「やれやれ、ただのお人好しじゃなかったのね。あわよくばハデスを消せると思ったのに……」

 

 

そう言ってゆっくりとグレイに向かって歩き出すウルティア。

 

 

「私ね……本当にアナタとは戦いたくなったのよ。だって、あの女が愛した弟子でしょ? くくく…一番残酷な殺し方を選んでしまいそうで」

 

 

「来いよ不良娘。母親に代わって説教してやらァ」

 

 

邪悪な笑みを浮かべるウルティアに対してそう言いながら、上着を脱ぎ捨てて上半身裸になるグレイ。

 

 

「それとね……あなたは1つ大きな誤解をしている。私は煉獄の七眷属が長。あなたごときが抗える……相手じゃ……」

 

 

そう言い掛けたウルティアを……グレイは氷を纏った拳で殴り飛ばしたのだった。

 

 

「ウルティア!!!」

 

 

「私の事はいい!! 早くゼレフを連れて〝脱出地点〟へ!」

 

 

「う…うん」

 

 

ウルティアの指示にメルディは戸惑いながらも、ゼレフを担いで急いでその場を走り去っていく。

 

 

「ジュビア!!! 目を覚ませ!!!!」

 

 

「グレイ様の声♡」

 

 

グレイに呼びかけに、気絶していたハズのジュビアがすぐさま目を覚ました。

 

 

「ジュビア……グレイ様の声で目が覚めるなんて……ここ…どこの朝焼けのシーツの中?」

 

 

「いいからあいつを追え!! ゼレフを渡すな!!」

 

 

「はい♡」

 

 

妙な妄想のあと、グレイの指示を聞いたジュビアはすぐにメルディを追おうと1歩を踏み出すが、その瞬間踏み出した足に激痛が走り、膝をついてしまう。

 

 

「(足が…)」

 

 

その原因は、メルディとの戦いの中で自分で足を思いっきり殴りつけた際のキズであった。

 

 

「ジュビア!!」

 

 

「ええ!! わかってます!! グレイ様の命令とあらば、痛みなんてどこの空~♡」

 

 

「ひいいいいいいい!!!」

 

 

そう言ってカサカサカサと地面を這いながら追いかけてくるジュビアに、別の意味で恐怖を感じたメルディは大急ぎで逃げて行ったのだった。

 

 

「頼んだぞジュビア」

 

 

そしてグレイがそんなジュビアを見送っていると……

 

 

「ぐおっ!」

 

 

そのスキをついたウルティアが、グレイに蹴りを叩き込む。

 

 

「がっ!」

 

 

さらに追い討ちをかけるように放たれた水晶がグレイに直撃するが、グレイはすぐに体制を立て直していつもの造形の構えを取る。

 

 

「アイスメイク…槍騎兵(ランス)!!!!」

 

 

そして造り出した無数の氷の槍をウルティアへと目掛けて放つが……

 

 

「その氷の〝時〟を未来へ……蒸発」

 

 

ウルティアの魔法により、氷の槍は全て蒸発し、霧散してしまった。

 

 

大槌兵(ハンマー)!!!!」

 

 

その光景に呆気に取られたグレイだが、すぐに気を取り直しウルティアの頭上に巨大な氷のハンマーを造り出して落とそうとするが……

 

 

「未来へ」

 

 

先ほどと同じように蒸発して消えてしまう。

 

 

「……!!! 氷の魔法が効かねえ…のか?」

 

 

「当たり前でしょ? 時のアークは……造形魔導士を、母を殺す為に修得した魔法ですもの」

 

 

「ウルを…殺すだと!!?」

 

 

その時グレイは……修行時代に彼女の母であるウルが、小さな女の子の服を握り締めて1人で泣いている光景を偶然見かけてしまった事を思い出していた。

 

それを思い出したグレイは、ウルティアの言葉に怒りを露にしていた。

 

 

「!!!」

 

 

だがその瞬間…グレイの周囲を無数の水晶が取り囲んでいた。

 

 

「ずっと憎んできたの」

 

 

「チッ」

 

 

「無駄」

 

 

「!!!」

 

 

グレイはすぐさま自身の周囲に氷の防壁を張るが、それもウルティアの時のアークで消されてしまう。

 

 

「フラッシュフォワード!!!!」

 

 

「ぐあぁぁああああ!!!!」

 

 

無数の水晶による一斉攻撃を受けながらも、グレイはすぐさま立ち上がってウルティアに向かって氷を放つ。

 

 

「ウルは…お前を想っていた!!」

 

 

「だから?」

 

 

それでもやはり、ウルティアの時のアークの前に消滅してしまう。そしてグレイは今度は拳を握り締め、ウルティアに殴り掛かる。

 

 

「悲しいんだよ、もう伝えられない事が」

 

 

そう言って悲しむような表情を浮かべながらウルティアに拳を放つグレイだが、それは難なくかわされ、さらにその腕を絡め取られる。

 

 

「ぐあっ!!」

 

 

そしてそのまま投げ飛ばされ、岩壁に強く叩きつけられてしまう。

 

 

「く……」

 

 

「氷が塞がれたら肉弾戦?」

 

 

「氷で倒してやるよ。ウルの魔法でお前を倒す」

 

 

「私の魔法〝時のアーク〟は物質の時間を操れる。氷は未来へ行けば蒸発、過去に行けば水となる」

 

 

「オレはウルの造形魔法を信じる」

 

 

「氷では私に勝てない。造形魔法なんて何の役にも立ちはしない!!」

 

 

するとグレイはゆっくりと起き上がり、その手に氷で造り出した刃を纏う。そして……

 

 

「がっ!!」

 

 

「え?」

 

 

なんと、その氷の刃で自身のわき腹を深く切り裂いたのであった。当然そのキズからは血が溢れ出し、それを見たウルティアも目を丸くする。

 

だがグレイはそんなキズの事など気にせず……ゆっくりと口を開く。

 

 

―お前の……―

 

 

「お前の……」

 

 

―闇は……―

 

 

「闇は……」

 

 

―私が……―

 

 

「オレが……」

 

 

「―封じよう―」

 

 

かつてウルから言われた言葉を復唱する様にそう呟きながら……グレイは両手に纏う赤く染まった氷の刃でウルティアに切りかかる。

 

 

「氷など効かないわよ!!」

 

 

それに対しウルティアは再びグレイの氷を未来へと飛ばし蒸発させようとするが……グレイの赤く染まった氷の刃は、蒸発する事なくウルティアを切り裂いた。

 

 

「時が……動かせない!!? あぅ!! がはっ!!」

 

 

ウルティアが驚愕している間にも…グレイは二撃三撃とウルティアを氷の刃で切り付ける。

 

 

「どうなってるの!!?」

 

 

「確か、生きているものは時を動かせねえハズ!!!」

 

 

「(赤い氷!!? まさか…!!! 自分の血を凍らせて……!!!!)」

 

 

そう……グレイは自身の血液を氷に染み込ませる事で、その氷を生きている自分の体の一部としたのである。

 

 

 

「氷刃・七連舞!!!!!」

 

 

 

そしてグレイの七連続もの氷の斬撃が……ウルティアを切り裂き、地面に叩きつけたのであった。

 

 

「(肉を切らせて骨を断つ……なんて執念……だけど……だけど私は……!!!)」

 

 

しかしウルティアは地面に倒れる前に踏み止まり、しっかりと立ち上がる。そして……

 

 

「(負けられない!!!! 大魔法世界に行くまでは!!!!)」

 

 

「!!! その構え……」

 

 

手のひらに拳を添えるというウルティアの見覚えのある構えを見て、驚愕するグレイ。

 

 

「アイスメイク…薔薇の王冠(ローゼンクローネ)!!!!!」

 

 

「うあぁぁああああああああ!!!!」

 

 

そしてなんとウルティアは……氷の造形魔法で巨大な薔薇と茨を造り出し、グレイを攻撃したのであった。それを受けたグレイは吹き飛ばされ、地面へと倒れてしまった。

 

 

「ハァー…ハァー…ハァー……」

 

 

「もう…一度、見れるとは思ってなかった……ウルの魔法を……」

 

 

息を切らすウルティアに対し、グレイが起き上がりながらそう言うと、ウルティアはギリッと歯を食いしばりながら憎々しげにグレイを睨みつける。

 

 

「そりゃそうだよな、同じ血が流れてんだもんな」

 

 

「黙れェ!!!!」

 

 

「うあっ!!」

 

 

激昂したウルティアは再び氷の造形魔法で攻撃し、グレイを空中へと吹き飛ばす。

 

 

「この……!!!」

 

 

しかしグレイはその氷を足場にし、そのまま足場を蹴ってウルティアへと飛び掛った。

 

 

「何!?」

 

 

そしてグレイは攻撃するのではなく、ウルティアの体に飛びついて、そのまま2人は地面を転がった。

 

 

「何でこんな事になっちまったんだよ!!! お前は!!!!」

 

 

「うるさい!!! お前になどわかるものかーーーーっ!!!!」

 

 

そういい合いながら2人はゴロゴロと坂を転がっていき、そのまま先にあった崖から飛び出して海へと転落していったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

私は……母に捨てられた。

 

 

そして…私が送られたのは魔法開発局。

 

 

幼い頃から魔力増幅の実験台にされ、身も心もボロボロになっていた。

 

 

ある日、私は魔法開発局を抜け出し、母の下へと走った。

 

 

だけどそこで私が見たものは……

 

 

 

―幸せそうな母の顔―

 

 

 

私を捨てて別の子供と暮らす母の……幸せそうな顔。

 

 

―ユルセナイ―

 

 

私は実験台に戻る事にした。魔力を手に入れ、母に復讐する為に。

 

 

やがて私はゼレフの存在と、それを追う闇ギルドの存在を知る。

 

 

『ゼレフが再び蘇る時、大魔法世界が完成する』

 

 

『大魔法世界?』

 

 

『そこでは全ての魔法が自由になり、失われた幸せを取り戻せる魔法もある』

 

 

『失われた幸せを取り戻す魔法』

 

 

『時のアーク。この世界において時のアークは完全とは言えない。失われた魔法(ロスト・マジック)として古に忘れ去られた魔法。しかし大魔法世界において〝時のアーク〟は完全となり、主を時の旅人へと変えるだろう』

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

海の中へと落ちたグレイとウルティアは、海中でも戦闘を続ける。

 

 

「(私は……全てをやり直す為、呪われた人生を幸せな人生に変える為に……大魔法世界を完成させる!!!!)」

 

 

「!!」

 

 

そんな想いと共に放ったウルティアの氷は、海中の中でグレイの氷と激しくぶつかり合う。すると……

 

 

《助けてください》

 

 

「!?」

 

 

そんなウルティアの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

「(何!? 今の声……)」

 

 

その声の出所に気を取られているスキに、グレイの蹴りがウルティアの頭部に命中する。

 

 

《助けてください!!! お願いします!!!》

 

 

「(また!!!)」

 

 

攻撃を仕掛けてくるグレイを迎え撃ちながら、ウルティアは聞こえてくるその声に耳を傾ける。

 

 

《この子、生まれながらに魔力が高すぎるんです!!!!》

 

 

すると今度は声だけでなく、ウルが熱で苦しむ幼い自分を抱えている映像がウルティアの脳裏に浮かび上がる。

 

 

《小さな体を魔力が圧迫して、熱が収まらないんです》

 

 

《そういう事例でしたら、専門の施設がありますぞ》

 

 

「(これは!!? 母の記憶!!? なぜそんなものが!!?)」

 

 

疑問符を浮かべるウルティアの中で思い浮かびあがったのは……ガルナ島でデリオラを封じていた(ウル)が溶け……その溶けた(ウル)が海へと流れていった光景。

 

 

「(海……ここは母の中……!!?)」

 

 

困惑するウルティアの脳裏に、また新たな記憶の映像が映し出される。

 

 

《死んだ!? 死んだってどういう事!?》

 

 

《遺体は見ない方がよい》

 

 

《そんな…娘を返して!!!! ウルティアを返して!!!!》

 

 

「(ワタシノキオクト、チガウ…)」

 

 

娘の死を聞かされ泣き崩れるウルの姿……その映像を見たウルティアは自身の記憶と(ウル)の記憶の違いに困惑し、呆然とする。

 

するとその時……両手に魔力を集中させているグレイの姿に気がつく。

 

 

「(アイスメイク……戦神槍(グングニル)!!!!)」

 

 

「がふ…ぁぁああああああああああ!!!!!」

 

 

グレイが造り出した巨大な氷の槍がウルティアの体を取り込み……そのまま海面へと昇っていく。

 

 

そしてウルティアは……槍で貫かれるような形で海上に打ち上げられたのであった。

 

 

その状態でウルティアが呆然としていると、海面に浮かび上がってきたグレイが彼女に向かって口を開いた。

 

 

「ウルから一度だけ、アンタの話を聞いた事があった」

 

 

そしてグレイの口から、その当時のウルの言葉が語られた。

 

 

 

 

 

『あのコが生まれた時……私は自分の心に差し込む光を感じたの。そしてあのコの希望に満ちた未来を夢見た。とても幸せだったわ。小さな体から発する、未来への無限の可能性。

 

 

〝生〟なる力。私は溢れる涙が止まらなかった……

 

 

あの子は私の命の証……(ウル)(ティア)

 

 

 

 

 

「(私は……大魔法世界に行って……母を憎む前の自分になりたかった)」

 

 

その言葉を聞いた瞬間……ウルティアの体を貫いていた氷の槍が音を立てて崩れ落ち始めた。

 

 

「(もう一度お母さんに会いたかっただけなのよ……)」

 

 

そしてウルティアは涙を流しながら……戦意を喪失し、海の中へと落ちて行ったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その後……グレイはウルティアを海から引き上げて岩場にもたれ掛からせたあと、脱いでいた上着を自身の腰に巻きつける。

 

 

「私の戦いは終わった」

 

 

「オレの戦いはまだ終わってねえ」

 

 

「あなたじゃハデスには勝てない」

 

 

「だろうな」

 

 

グレイのその言葉に反応し、彼の顔を見上げるウルティア。

 

 

 

「1人じゃ無理だ」

 

 

 

そう言い残して……グレイはその場から歩き去っていった。

 

 

 

 

 

煉獄の七眷属に副指令…ナンバーズにシーズン……敵の主戦力だった部隊は全て全滅した。

 

 

残るは悪魔の心臓(グリモアハート)のギルドマスター……ハデスのみ。

 

 

今ここに……天狼島での最後の戦いが始まろうとしていたのだった。

 

 

 

 

 

つづく

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