LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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後編で一気に話のまとめに入ったらどえらい長くなりました。約2万字です。

今回ではやての話は完結です。かなり駆け足気味ですが、どうかご容赦ください。

あと前編を少しだけ改変しました。そちらもご確認ください。


あと現在、番外編で執筆中の『鳳凰の巫女』に登場する敵キャラを募集しています。詳しい内容は活動報告にて、ご確認ください。


次回からいよいよ冥府の門編へと入ります!!


感想お待ちしております!!!


八神はやて 後編

 

 

 

 

ギルダーツと釣りに出かけたはやてが釣り上げた、謎の銀髪少女……リインフォース。

 

 

そのリインフォースが持っていた魔導書…〝夜天の書〟に触れた瞬間、突然その本から3人の少女と1人の少年の4人が現れ、リインフォースと共にはやてに忠誠を誓うように跪いていた。

 

 

「夜天の書の起動、確認しました」

 

 

「我等は夜天の主に仕え、主を護る守護騎士にございます」

 

 

「夜天の主の元に集いし雲……」

 

 

「ヴォルケンリッター──何なりと命令を」

 

 

少年と少女の4人が口々にそう告げると、彼らを代表してリインフォースがはやてに対して頭を垂れながら口を開く。

 

 

「驚かせてしまい申し訳ありません。しかし〝夜天の書〟に選ばれた今、あなたには大魔導士にもなりえる力が与えられるでしょう」

 

 

「なぁなぁ」

 

 

「そして彼ら4人の守護騎士と、夜天の書の管理者となる私自身も、我らが主となるあなたと共に歩み、生涯あなたをお守りする事をここに誓いま──」

 

 

「なぁーってば」

 

 

「──うるさいぞヴィータ!! 今我らが主となるこの方に大事な話をしているんだぞ!!!」

 

 

はやてに対して口上を口にしていたリインフォースにヴィータと呼ばれる紅色の髪を二又の三つ編みにした少女が声をかけ、最初は無視していたがさすがに我慢が出来ずにリインフォースは怒鳴る。しかしヴィータはそんな事意にも介さず、はやてを指差しながら口を開く。

 

 

「そいつ……気絶してんじゃね?」

 

 

「「「「……は?」」」」

 

 

そんなヴィータの指摘に、リインフォースだけでなく他の3人も間の抜けたような声を上げる。

 

 

「きゅう……」

 

 

そして全員顔を上げてはやての方を見てみると、ヴィータの言う通り、はやては目を回して気絶していた。おそらく立て続けに起こった不測の事態に頭がついていけなくなってしまったのだろう。

 

 

「ど…どうする?」

 

 

「どうするって言われても……どうしようシグナム?」

 

 

「わ、私に振るな! こういう時こそ治癒魔導士であるシャマルの出番だろう」

 

 

「そんな事言われても、シャマルはまだ治癒魔導士として見習いだもん。それにたぶんこの子、気を失ってるだけだと思うし」

 

 

「なら、この方の目が覚めるまで待つのが得策だな」

 

 

「んじゃ、ザフィーラの言う通り待つか」

 

 

リインフォースとヴィータ、そしてピンク色の長い髪をした少女『シグナム』と金髪の少女『シャマル』、そして白い髪に犬の耳と尻尾を生やした少年『ザフィーラ』の5人が話し合った結果、彼らは気を失ってしまったはやての目覚めを待つ事にしたのであった。

 

 

するとその時……

 

 

 

「どうしたはやて!!? 何があった!!?」

 

 

 

血相を変えて慌てた様子のギルダーツが、荒々しく部屋に入って来た。

 

 

「……んん?」

 

 

「「「!!?」」」

 

 

リインフォースたち5人を見て訝しげな表情を浮かべるギルダーツと、突然現れた彼に驚愕するリインフォースたち。するとそんなギルダーツに対して、警戒心を露にしたシグナムが腰に携えた剣の柄を握りながら問い掛ける。

 

 

「何者だ貴様は!!?」

 

 

「いやそれはオレのセリフなんだが……」

 

 

「見るからに怪しいオッサンだな」

 

 

「もしや夜天の書を狙う輩か?」

 

 

「あり得るわね、過去に何度か夜天の書の力を狙って奪おうとした人がいたらしいし」

 

 

「夜天の書?」

 

 

疑問符を浮かべるギルダーツだが、シグナムに続いてヴィータやシャマルやザフィーラまでギルダーツを警戒しながら話が進んで行き、いつでも戦える構えをとる。

 

 

「なるほど、そういう事か。だが相手が悪かったな。私たちヴォルケンリッターは主を守る為に、生まれた時から戦う訓練を積んできたのだ。そこらの賊程度になど負けはせん!!!」

 

 

「いやちょっと待てってオイ。まずは話をだな……」

 

 

「問答無用!!! 行くぞお前たち!!!」

 

 

「「「オォッ!!!」」」

 

 

「ま、待てシグナム!! その人はおそらく主の……!!」

 

 

「オオオォォォオ!!!!」

 

 

ギルダーツの言葉も聞かず、さらにはリインフォースの制止の声も虚しく……シグナムを筆頭にしたヴォルケンリッターの4人が一斉にギルダーツへと襲い掛かった。

 

 

そしてそんな4人に対して、ギルダーツは小さく嘆息する。

 

 

 

「やれやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第229話

『八神はやて 後編』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーるほどなぁ、こいつがあの伝説の夜天の書って魔導書か」

 

 

「は…はい」

 

 

夜天の書を片手に持ちながらそう尋ねるギルダーツに、リインフォースが床に正座しながら引きつった表情でそう頷く。そしてそんな彼女が横目で見る先には、先ほどギルダーツに襲い掛かったシグナムたち4人が、脳天にたんこぶを生やしながら床に沈んでいる光景があった。

 

 

「んで、お前らはこの夜天の書を守る一族で、主になったはやてを守ろうとしたって訳か」

 

 

「そう言う事です」

 

 

「いやー悪ィな、はやての部屋から妙な魔力を感じて、急いで駆け付けたらいきなり襲い掛かってくるもんだからついな」

 

 

「いえ、私たちの方こそ、主のご友人であるあなたを勝手に敵と勘違いしてしまい、申し訳ありません。ほら、お前たちも謝れ」

 

 

「「「す…すみませんでした」」」

 

 

「気にすんな! がはははっ」

 

 

謝罪するリインフォースたちを、ギルダーツは特に気にした様子もなく、豪快に笑って許す。

 

 

すると……

 

 

「ん…ううん……」

 

 

「おっ、どうやらお目覚めのようだぜ」

 

 

「ん……ギルダーツ?」

 

 

意識を取り戻したはやては、寝ぼけ眼で自分の顔を覗き込んでいるギルダーツを見つめる。

 

 

「ようはやて、おはよーさん。つってもまだ夜中だけどな」

 

 

「あれ? 何で私眠って……あっ、せや!! 大変なんやギルダーツ!!! 森で釣った女の子の本が光って、そこから急に人が現れて……!!!」

 

 

意識がハッキリと覚醒したはやてはすぐさま上半身を起こしてギルダーツに自身の身に起こった事を話そうとするはやて。

 

 

しかしそんなはやての視界に飛び込んできたのは……床に正座をしているリインフォースと、頭からたんこぶを生やして床にぐったりと倒れているシグナムたち4人の姿であった。

 

 

「えぇー……何やこの状況……?」

 

 

それを見たはやては先ほどまでの興奮があっという間に冷め、今の状況にただただ困惑するしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数十分間……はやてはリインフォースから夜天の書の事やシグナムたち守護騎士たちの事を説明された。

 

 

「なるほどなぁ、この夜天の書に選ばれた私は夜天の魔導士として、君らの主になるっちゅう事やな」

 

 

「そういう事です」

 

 

「って、急に言われてもなぁ……理解はできでも納得はできひん」

 

 

「ですよね……」

 

 

「「「…………」」」

 

 

はやてのその言葉に、表情が暗くなる5人。

 

 

「けど、1つわかった事がある」

 

 

「「「?」」」

 

 

「夜天の主として、管理者や守護騎士みんなの衣食住をきっちり面倒見なアカンいうことや」

 

 

夜天の書を両手に持ちながら、はやては5人にそう宣言した。

 

 

「つまり私たちは今日から〝家族〟……っちゅう事やろ?」

 

 

「「「…………!!!」」」

 

 

リインフォースやシグナムたちははやてが言い放ったその言葉に、ポカンとした表情で固まっていた。

 

 

「がははははっ!!! そりゃあいい!!!」

 

 

するとそんな沈黙を破ったのは、ギルダーツの豪快な笑い声であった。

 

 

「確かに主従や守護騎士なんて関係より、そっちの方がよっぽどしっくりくるな」

 

 

「せやろ~?」

 

 

「(だが…ついさっき会ったばっかりの奴らをすんなり家族として受け入れるとはな。小せェくせして、懐がデケェ奴だ)」

 

 

はやてのリインフォースたちをあっさり受け入れる懐の大きさに、ギルダーツは感心していた。

 

 

「でも問題は、グレアムおじさんに許可をもらえるかどうかやな。急に見ず知らずの人を村に住まわせるなんて言うたら怒られてまうし……」

 

 

「安心しろ、そん時ァオレも一緒に村長を説得してやるよ」

 

 

「ホンマに!? ありがとうギルダーツ!!」

 

 

村長であるグレアムを説得するめどが立ったはやては一安心する。

 

 

「という訳で、みんなこれから家族としてよろしくしてな♪」

 

 

「は…はぁ……」

 

 

「「「……………」」」

 

 

満面の笑顔でそう言うはやての言葉に、リインフォースや守護騎士たちはただただ困惑するしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数週間後……結論から言えばリインフォースやシグナムたち守護騎士たちは、あっという間にナニワ村での生活に馴染んでいた。

 

 

最初こそ家族として接するはやてに戸惑いながらも、はやてとの主従関係を保とうとしていた。しかしはやてと日々接しているうちに、彼女の持つ懐の大きさや温かさに触れて段々と惹かれていき、今ではすっかり心を開き、家族としてはやてを慕っていた。

 

 

村長であるグレアムを筆頭にしたナニワ村の人々も、特に難色を示す事無く、彼女たちが村に住む事を受け入れた。むしろ、はやてに新しい家族が出来た事を喜んでもいた。

 

 

そしてギルダーツ。強さにはそれなりに自信があった守護騎士たちを簡単にあしらった彼の底知れない強さに、守護騎士たちはかなりの警戒心を抱いていた。しかし能天気ながらもその気さくな性格のギルダーツと過ごしていくうちに警戒心は薄れて打ち解けて行き、特にヴィータなどは彼を「オヤジ」と呼ぶほど懐いていったのだった。

 

 

「はぁ~~…ええ天気やわぁ」

 

 

「キレイな湖ね~♪」

 

 

「ああ、気持ちのいいものだな」

 

 

「リインフォース、また落ちて主はやてに釣り上げられるなよ」

 

 

「失礼だぞシグナム、もうあんなドジは踏まん」

 

 

「はやてのギガうま弁当もあるし、最高だよなー」

 

 

「おいおいヴィータ、1人で全部食うなよ」

 

 

そんなこんなで現在……はやてたちは森の奥地で見つけた、大きくてキレイな湖へとへピクニックにやって来ていた。地面にシートを引き、湖や森の景色を眺めながらほのぼのするはやてやギルダーツ、そしてリインフォースと守護騎士たち。

 

 

「主はやて、本当によろしいのですか?」

 

 

「ん? 何がや?」

 

 

すると、思い出したようにそう問い掛けてくるシグナムに対して、はやては首を傾げる。

 

 

「夜天の書の事です。あなたには魔法の才能がある。夜天の書の力を自在に操る事ができれば、大魔導士となる事も夢ではありません」

 

 

「うーん、そう言われてもなぁ……魔導士の世界には興味あるけど、魔導士になりたいかって言われたらそうでもあらへんねや」

 

 

シグナムの言葉に対し、困ったように苦笑を浮かべながらそう答えるはやて。

 

 

「私は今の生活で十分幸せやし、それに何より今はみんながおるからな」

 

 

笑顔でそう言いながら、ゴロンっと地面の上に敷いたシートの上に寝転がって、晴れ渡る青空を見上げるはやて。

 

 

「私はこれからも生まれ育った村で、お父さんとお母さんが遺してくれた家を守っていきたい。あの家はお父さんとお母さんと過ごした思い出が詰まった家で……みんなの帰るべき場所で……何より私にとって大切な宝物やからな♪」

 

 

「主はやて……」

 

 

「せやから私は魔導士として生きていく気はあらへん。ゴメンなぁ、君らの主がこんな人間で」

 

 

「いいえ、主のお考えに感服いたしました。あなたがたとえどのような道を歩もうとも、我らはずっと共に在りますよ……主はやて」

 

 

「うん、ありがとうシグナム」

 

 

たとえ魔導士にならなくとも、生涯はやてについて行くと決めたシグナム。そんなシグナムの言葉に、はやては嬉しそうに笑顔を浮かべたのだった。

 

 

「あ…そうや、魔導士といえば……ギルダーツ!!」

 

 

「ん? どうした?」

 

 

すると、はやては何か思い出したように起き上ると、少し離れた所でヴィータとキャッチボールをしているギルダーツに声をかけた。

 

 

「最近お仕事の方はどうなん?」

 

 

ヒュッ…パシッ

 

 

「あー…正直、難航中だな」

 

 

ヒュッ…ズドンッ!

 

 

「そういえば、ギルダーツは魔導士ギルドの仕事で、主の家に滞在しているんでしたね」

 

 

ヒュッ…パシッ

 

 

「確か、この辺りの村や街で多発している子供の誘拐事件の解決だったな」

 

 

ヒュッ…ズドンッ!

 

 

「怖いわよね~、私たちも気をつけなくちゃ」

 

 

ヒュッ…パシッ

 

 

「それで、誘拐犯の尻尾は掴めたのか?」

 

 

ヒュッ…ズドンッ!

 

 

「いいや。どうやら(やっこ)さん、相当に隠れるのが上手いみたいでな。だがまぁ、何とかなんだろ」

 

 

キャッチボールをしながらいつのもの調子でそう答えるギルダーツ。すると……

 

 

「あーもー!!! さっきから痛ェんだよオヤジ!!! ボールの威力おかし過ぎんだろ!!!!」

 

 

ギルダーツとのキャッチボールの相手をしていたヴィータが吠える。その表情は怒ってはいるが、目尻には若干涙が浮かんでいた。

 

 

それもそのハズ……先ほどからヴィータの投げるボールは軽々と片手で受け止められ、逆にギルダーツの投げる剛速球(本人は軽く投げてるつもり)をヴィータは必死に受け止めているのだから。

 

 

「いやー悪ィ悪ィ、一応手加減はしてるんだけどな」

 

 

「ったく……」

 

 

軽い調子で謝るギルダーツに対してヴィータは毒づきながら、何かを企むような表情を浮かべてボールを握る。

 

 

「つーかさ、そのギルドでの仕事ってのが終わったら、オヤジはそれからどーすんだ──よっ!!!!」

 

 

するとヴィータはボールを投げるのではなく、自身の武器であるグラーフアイゼンをまるでバットのように使って、先ほどの仕返しといわんばりの剛速球をギルダーツ目掛けて放った。

 

 

しかしギルダーツはそんなヴィータの渾身の剛速球ですら片手で受け止めると、同時にギルダーツの魔法が発動して、ボールが粉々に砕けてしまったのであった。

 

 

「えぇー……」

 

 

「うおっ!? やっちまった!! すまねぇヴィータ!!」

 

 

どうやら無意識だったらしく、ギルダーツはヴィータにボールを粉々にしてしまった事に謝罪すると、先ほどの彼女の質問に答える。

 

 

「どうするも何も、仕事が終わったら村に滞在する理由もなくなる。ギルドに帰って、また次の仕事を受けるだけだ」

 

 

「ええーっ! ずっとこの村にいればいいじゃねーか!!」

 

 

「無茶言うな、そういう訳にはいかねぇよ。オレはギルドの一員である事に誇りを持っているしな」

 

 

「でも…!!」

 

 

「ヴィータ、ワガママ言うたらアカンで」

 

 

「はやて……」

 

 

「私も出来る事ならギルダーツに残って欲しい……せやけどギルダーツにはギルダーツの家族がいるんやから、私らのワガママでそれを邪魔したらアカン」

 

 

「……………」

 

 

はやての説得に、ヴィータは納得できないながらも渋々といった様子で引き下がった。するとそんなヴィータの頭の上に、ギルダーツがポンっと手を置いた。

 

 

「そんな顔すんな。別に今すぐいなくなる訳でも、二度と会えなくなる訳じゃねーんだ。仕事が片付くまではここにいてやるし、帰った後も近くに来る事があったらまた会いに行ってやるからよ」

 

 

「………絶対だぞ」

 

 

「がははっ! おう、約束だ」

 

 

そっぽを向きながらそう呟いたヴィータの言葉に、ギルダーツは笑いながら彼女の頭を乱暴に撫でる。

 

 

「しかしまぁ、代わりと言っちゃあ何だが……はやてにコレをやるよ」

 

 

「?」

 

 

そう言ってギルダーツが懐から取り出してはやてに差し出したのは、1枚のカードであった。

 

 

「何やコレ? カード?」

 

 

「これは……魔法の札(マジックカード)か」

 

 

受け取ったカードを眺めるはやての横からリインフォースがカードを覗き込んでそう口にする。

 

 

「そいつは特注品のカードで、お守りみてーなモンだ。もしはやてが危険に陥って、オレに助けを求めれば、カードを通してオレに伝わるようになっている」

 

 

「へぇ~」

 

 

ギルダーツの説明を聞きながら、はやては興味深そうにカードを空にかざしたり裏返したりして眺めている。

 

 

「もしお前らが自分たちではどうにもできない危機に直面したら、遠慮なくオレを頼れ。たとえ世界中のどこにいようと、すぐに駆けつけてやる」

 

 

二カッと屈託のない笑顔を浮かべながらそう言い放つギルダーツの言葉に、はやてやリインフォースたちも釣られて笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそんな彼らの様子を……森の中から邪悪な眼差しが見つめていた。

 

 

「ククク……いいモンみっけ♪」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その夜……リインフォースと守護騎士の4人は、2階の一室に集まって談笑していた。因みにはやては1階のキッチンで料理中である。

 

 

「それにしても、我々は良い主に巡り合えたものだな」

 

 

「不思議な人よね、はやてちゃんは」

 

 

そう呟いたシグナムとシャマルの言葉に、リインフォースやヴィータたちも同意するように頷く。

 

 

「ああ。突然現れた我らをあっさりと受け入れるどころか〝家族〟として迎え入れるなど、歴代の夜天の主の中でも初めてのケースだろうな」

 

 

「そうね。中には先代の守護騎士の事を、奴隷や道具のように扱うような主もいたって聞いてたから、はやてちゃんの言葉にはビックリしちゃった」

 

 

「ゆえにオレたちの家系は〝呪われた一族〟と呼ばれ、周囲の人々から迫害されていたしな」

 

 

「正直アタシはそんな家が嫌いだったな。どこの誰ともわからねえ奴に仕えて、そいつ次第でアタシの人生が決まるなんて冗談じゃねえ」

 

 

ヴィータは暗く、少々怒りを滲ませながらそう言うと、すぐさま笑顔になって言葉を続けた。

 

 

「けどはやては違う……はやては優しいし、一緒にいて楽しいし、料理も美味い……主云々関係なしに、守りたいって思った」

 

 

「あぁ…あのような人徳を持った主はそうはいない」

 

 

「あの方が主ならば、オレたちも誇りを持って戦える」

 

 

「はやてちゃんの笑顔を守ってあげたいって思える」

 

 

「もはや家柄や使命など関係ない……〝本当の家族〟として、あの方を生涯守り続けよう」

 

 

最後にリインフォースが言い放ったその言葉に反論する者などいるハズもなく、彼女たちは新たな決意を胸に強く頷いたのであった。

 

 

「そういやさ、オヤジはどこ行ったんだ?」

 

 

「ギルダーツならば村長の家へ行ったぞ。村長と少し話したい事があるそうだ」

 

 

「不思議と言えば、ギルダーツも結構不思議な人よね。一緒にいると安心感があるというか……」

 

 

「それに加えてあの並々ならぬ強さと魔力……実力の底が知れん」

 

 

「確かここから西へ行った先にある魔導士ギルドに属してると言っていたな。あの男が誇りに思うほどのギルド……少し興味があるな」

 

 

話はギルダーツの話題へと移り、その後も何気ない談笑を繰り広げる5人。

 

 

だがその時……

 

 

 

「きゃあああああああっ!!!!」

 

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

突然部屋の外から、はやての悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「今のは…!!」

 

 

「はやての声だ!!!」

 

 

それを聞いたヴィータがまずいの一番に部屋を飛び出し、それに続いてリインフォースたちも部屋を飛び出して、はやてのいる1階へと向かう。

 

 

「はやて!!!」

 

 

そして駆け付けた先のキッチンで彼女たちが目にしたものは……

 

 

「クククク……」

 

 

荒らされた部屋……壊された家具の数々……そしてその部屋に土足で踏み入っている黒ずくめの服を着た十数人の男たち。

 

 

その中心にはリーダーらしき男が、気絶したはやてを抱えながら不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

「何者だ貴様!!!」

 

 

シグナムが激昂しながらそう問い掛けると、男は笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

「オレたちは闇ギルド〝暗黒の雲(ダーククラウド)〟……君たちは無駄な抵抗はせず、大人しくオレたちについて来てもらおうか」

 

 

「なんだと!?」

 

 

「もちろん断ってくれてもいいよ。この娘がどうなってもいいなら……ね?」

 

 

「ぐっ……」

 

 

「テメェ……!!」

 

 

そう言って男が取り出したのは鋭利なナイフ……それをはやての首筋に当てた光景を見た瞬間、シグナムたちは憎々し気に男を睨みながらも、その場で両手を上げて抵抗する意思がない事を証明する。

 

 

「そうだ、それでいい」

 

 

そんな彼女たちの姿を、男は下卑た笑いを浮かべながら見ていたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

時は少々遡り……ナニワ村長であるグレアムの家。

 

 

そこではギルダーツとグレアムの2人が、お互いに酒を煽りながら神妙な面持ちで会話をしていた。

 

 

「どうですか、最近のはやての様子は?」

 

 

「アンタも見てただろ。楽しそうだよ……特にあいつらが来てからはな」

 

 

2人が話しているのは主にはやての事。実はギルダーツははやての家で居候を始めてから、度々こうやってグレアムに彼女の近況を報告しているのだ。

 

 

「そうですね……初めて彼女たちを見た時は何事かと思いましたが、彼女たちが来てからはやては毎日が楽しそうだ。あの子の両親が亡くなる前以来ですよ、はやてのあんな楽しそうな笑顔を見たのは」

 

 

「家族を失った悲しみは、同じ家族でしか癒せない……あいつは両親を失って何でもないように振る舞っていたが、その実……心の底では〝家族〟を求めていた。シグナムやリインフォースたちという新しい家族と巡り合って、ようやくあいつも前に進めたって所か」

 

 

「フフ……」

 

 

「? 何がおかしいんだよ?」

 

 

「おそらくですが、はやての新しい家族という枠組みにはあなたも入っていますよ、ギルダーツさん」

 

 

「オレが?」

 

 

「ええ。あなたがこの村に来て間もない頃、はやては言っていました。『ギルダーツはまるでお父さん』みたいな人だと」

 

 

「オレが父親……ねえ」

 

 

グレアムからそんな話を聞かされたギルダーツは、小さく笑みを浮かべながらも、どこか遠くを見るような顔つきで静かに語り始めた。

 

 

「まぁ確かに……オレに娘がいれば、はやてと同じ年頃だったかもな」

 

 

「? ギルダーツさんはご結婚を……?」

 

 

「まぁな。だが嫁さんは、仕事ばかりのオレに愛想を尽かしてずいぶん前に出て行っちまった。そんで……逝っちまった事を数年前に風の便りで聞いた」

 

 

「……すみません、失礼な事を……」

 

 

「気にすんな。聞いての通り、オレは家族を大切に出来なかった……だからこそ、今の家族(ギルド)を大切にしたい……残念ながらオレは、あいつの家族にはなれねえよ」

 

 

「そうですか……それは残念です」

 

 

そう言って再びお互いに酒を飲み交わすギルダーツとグレアム。すると……

 

 

「大変だァーー!!!」

 

 

「「!!」」

 

 

そんなひと時をぶち壊すように、1人の村人が慌てたように家へ駆けこんで来た。

 

 

「どうした? こんな時間に」

 

 

「た…大変なんだよ村長!!! はやてちゃんの…はやてちゃんの家が……!!!」

 

 

「「!!?」」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

それから、村人の報告を聞いて大急ぎではやての家へとやって来たギルダーツとグレアムは、今目の前で起こっている出来事に……大きく目を見開いた。

 

 

何故なら……はやての家が猛々しく燃える炎に包まれており、彼女の家を燃やし尽くそうとしていたのだから。

 

 

「急げーー!!!」

「早く火を消せーー!!!」

「バケツと水の魔水晶(ラクリマ)をありったけ持ってくるんだ!!!!」

「火の手が森に進む前に!!!」

 

 

その周囲では多くの村人たちが必死に消火作業を行っているが、彼らの心配は他の所にある。

 

 

「お前たち!! はやては…はやてたちはどうした!!?」

 

 

「そ…それが……」

 

 

グレアムはすぐさま消火活動をしている村人の1人を呼び止め、はやての安否について問い掛けるが、村人から帰って来たのは驚愕の事実だった。

 

 

「妙な黒い服を来た集団に、はやてちゃんやリインフォースちゃんたちが連れ去られるのを見たって奴が……」

 

 

「なっ!!?」

 

 

「!!?」

 

 

その言葉にグレアムだけでなく、その隣で聞いていたギルダーツも目を見開く。

 

 

「それからすぐにはやてちゃんの家が燃え始めたから、たぶんそいつらが火を着けた犯人だと……」

 

 

そこから先の村人の言葉を2人は憶えていない……何故ならグレアムは茫然自失といった様子で、膝から地面に崩れ落ち……

 

 

 

 

 

そしてギルダーツは──見る者全てを恐怖させる程の、怒りの表情を浮かべていたのだから。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ん…ううん……あれ? 私……!!!」

 

 

ゆっくりと目を覚ましたはやての視界にまず飛び込んで来たのは……見覚えのない薄暗くて広い部屋、自分の体と両手両足に巻き付いて動きを封じている鉄の鎖、そして自分と同じように拘束されているリインフォースや守護騎士の4人であった。

 

 

「リインフォース!! シグナム!! ヴィータ!! シャマル!! ザフィーラ!!」

 

 

「申し訳ありません……我が主……!!!」

 

 

「不甲斐ない我らをお許しください……!!!」

 

 

そう言って悔しそうに歯を食いしばりながら、謝罪の言葉を口にするリインフォースとシグナム。ヴィータとシャマルとザフィーラも、同様の表情を浮かべて顔を俯かせていた。

 

 

「何の話や…? それにここは一体……?」

 

 

「お目覚めかね?」

 

 

「!!」

 

 

そう言ってはやてたちの目の前に現れたのは、彼女たちを連れ去った集団のリーダーらしき男であった。そんな相手と対面したはやては、警戒心をむき出しにしながら男に問い掛ける。

 

 

「誰や…アンタ……?」

 

 

「オレは闇ギルド〝暗黒の雲(ダーククラウド)〟のギアムという者だ」

 

 

「闇ギルド……?」

 

 

「ああ、闇ギルドとは評議院から認定されていない、もしくは権利を剥奪されたギルドの事だ。オレたちのギルドは暗殺依頼に手を出し、マスターが逮捕されてしまったから、今では実質オレがこのギルドを仕切っている」

 

 

などと聞いてもいない事までペラペラと話し始めた男…ギアムに対して嫌悪感を露にしながら、はやては再び問い掛ける。

 

 

「目的はなんや? 何で私らにこんな事を……」

 

 

「目的? それは君の持つ〝夜天の書〟だよ」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

そう言ってギアムが手にしている夜天の書を見た瞬間、はやてだけでなくリインフォースたちも目を見開く。

 

 

「いやいやラッキーだったよ、我々が起こした誘拐騒ぎが落ち着くまで身を潜めるつもりだったのだが、まさか伝説と呼ばれる魔導書に巡り合えるとは」

 

 

「誘拐騒ぎ……まさかアンタら、この辺りで起こった子供の誘拐事件の犯人やったんか!!?」

 

 

「おや? 知っていたのか。その通りさ」

 

 

まさかギルダーツが探していた誘拐犯が目の前にいるという事実に、はやては驚愕する。

 

 

「だがもうその必要はなくなった。この夜天の書があれば、オレは大いなる力を手に入れる事ができる」

 

 

「……生憎だが、その夜天の書は魔導書自身が主と認めた者にしか使えない。つまり夜天の書を扱えるのはただ1人、主はやてだけだ」

 

 

そう言って小さく笑みを浮かべながらギアムに対してそう言い放つリインフォース。

 

 

「知っているさ、そんな事」

 

 

「!?」

 

 

しかしあっさりとギアムにそう言い返され、リインフォースは逆に驚愕する。

 

 

「要はこの夜天の書をオレではなく、はやてちゃんに使ってもらえばいいんだろ?」

 

 

「何言うてんねや……私は魔法なんて使えへんし、使えたとしてアンタみたいな悪人の為になんか絶対使わへん!!!」

 

 

ギアムに対してそう強く拒絶の言葉を言い放つはやて。しかしギアムは口元に下卑た笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

「無駄さ、君の意志は関係ない」

 

 

「がっ…!!!」

 

 

「主!!!」

 

 

「主はやて!!!」

 

 

「はやてちゃん!!!」

 

 

「貴様!! 我が主に何を!!?」

 

 

「はやてを放しやがれっ!!!」

 

 

突然ギアムははやての服の胸倉を掴んでゆっくりと持ち上げる。それを見たリインフォースやヴィータたちが騒ぎ立てるが、ギアムはどこ吹く風といった様子で笑う。

 

 

「オレの魔法は他者の脳を支配して操る〝洗脳魔法〟……この魔法でお前は、オレの意のままに動く人形と化す」

 

 

「!!?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、はやては苦痛に顔を歪めながらも目を見開く。

 

 

「子供を誘拐していたのもそれが理由さ。良くも悪くも純粋な子供は、オレの洗脳で容易く操れる……労せずして、ギルドの為に働く死をも恐れない兵隊の完成するんだ」

 

 

「アンタ……ホンマに最ッ低やな……!!!」

 

 

ギアムの目的を聞いたはやては、最大限に嫌悪感をむき出しにしながらギアムを睨み付ける。だが当然、ギアムがそれに怯む事はない。

 

 

「そうそう、お前たち守護騎士にもちゃんと働いてもらうぞ。はやてちゃんの命を守りたいならな」

 

 

「くっ……!!」

 

 

「貴様…!!!」

 

 

はやての命を盾にされてしまっては、守護騎士たちに抗う術はなかった。

 

 

「助けは来ないぞ。このアジトは結界魔法で守られている。この場所を特定どころか、視認する事すらできん強力な奴がな」

 

 

どうやらこの1ヶ月以上もギルダーツの探索から逃れていたのは、その結界魔法のおかげのようである。

 

 

「安心しろ、手厚く歓迎してやる。オレは同じギルドの人間……家族を大切にするやつだからなぁ」

 

 

「家族…やと……?」

 

 

ギアムの口から〝家族〟という言葉が使われた瞬間、はやてがピクリと反応する。

 

 

「笑わせんといて……そんなん家族やない」

 

 

「なに?」

 

 

「家族っていうのは、もっと温かいモンや……たとえ血の繋がりがなくても、もっと強いモンで結ばれてる……お互いがお互いを無条件で愛し合う心で結ばれてんのが家族ってモンや……洗脳なんかで人の心を平気で踏みにじるアンタが──家族を語るんやないっ!!!!」

 

 

「っ…!!」

 

 

胸倉を掴まれているのにも関わらず、強い瞳でギアムを睨み付けながらそう言い放つはやてに、ギアムは僅かにだが怯んだ。

 

 

「……どうやら洗脳する前に、少し教育が必要のようだな!!!」

 

 

「きゃあっ!!!」

 

 

「はやて!!」

 

 

「はやてちゃん!!」

 

 

するとそんなはやてに激昂したギアムは、乱暴にはやての体を地面に投げつけた。そしてギアムは口角を吊り上げて不気味な笑みを浮かべると、ゆっくりと語り出した。

 

 

「ああそうだ……そう言えば君は今住んでいる家が宝物らしいね」

 

 

「!!」

 

 

それを聞いたはやては、嫌な予感がして、同時に背筋が冷たくなるのを感じた。

 

 

「これから君たちはこのギルドで一生働いてもらうつもりだったからな、もう必要ないと思ったから……処分しておいてやったよ」

 

 

「────────!!!!」

 

 

処分……その言葉の意味を察したはやては、茫然自失といった表情で顔色を白くさせる。

 

 

「お…前……お前ェェェエエエエ!!!!」

 

 

そしてすぐに怒りを露にしたはやては、ギアムに向かって力の限り吠えるが……

 

 

「うるさいぞ」

 

 

「あぐっ!!」

 

 

バチィィン!!っと頬を叩かれ、無理矢理黙らされる。

 

 

「うっ…ぐ…うぅぅ……!!!」

 

 

そしてはやては、ギアムに対する怒り…家を壊された悔しさ…そして何もできない自分への悲しみ…それらを涙として両目から溢れさせながら、ギアムを睨み付ける。それはリインフォースたちも同様であり、今にも殺しにかかりそうな面持ちでギアムを睨んでいた。

 

 

「泣いても無駄だ!! お前たちはずっとここで、オレの操り人形として生きていく運命なのだからな!!! あはははははははっ!!!!」

 

 

ギアムはそんなはやてたちは嘲笑い、下卑た笑い声を部屋に響かせたのであった。

 

 

だがその時……

 

 

 

 

 

ドゴォォォオオオン!!!

 

 

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 

突然聞こえてきた爆音と共に部屋が…いや、アジト全体が揺れた。

 

 

「なんだ!?」

 

 

ギアムが困惑していると、そこへ1人のギルドメンバーである男が、慌てた様子で部屋に入って来た。

 

 

「た…大変です!! 侵入者です!!!」

 

 

「侵入者だと!!?」

 

 

アジトへと侵入者と聞いて、ギアムは驚愕する。

 

 

「結界はどうした!!?」

 

 

「何故か跡形もなく破壊されて…修復も不可能です!!」

 

 

「なんだと!? その侵入者とは何者だ!!? 何人で来た!!?」

 

 

「そ…それが……──ぎゃああっ!!!」

 

 

男が答えようとしたと同時に、その後ろにあった扉が勢いよく粉々に粉砕され、その衝撃に巻き込まれた男は吹き飛ばされて床に転がる。

 

 

「たった──1人です」

 

 

その報告を最後に、男は気絶した。

 

 

 

 

 

そして粉々に粉砕された扉から入って来たのは──凄まじい怒気を露にしたギルダーツであった。

 

 

 

 

 

「な…なんだお前は……!!? どうやってここに!!? オレの部下たちはどうした!!?」

 

 

「そんなもん、全員とっくにおねんねしてるよ」

 

 

「なっ…オレのギルドの連中を…たった1人で……!!?」

 

 

たった1人にも関わらず、暗黒の雲(ダーククラウド)のメンバーを全員倒したというギルダーツに、ギアムは戦慄する。

 

 

「ここへ来れたのは、はやてに渡しておいたお守りのカードのおかげだ。コイツがはやての居場所を教えてくれたのさ」

 

 

「くっ…だ…だが!! このアジト周辺に張った結界魔法は、視認すらできない代物だ!!! それをどうやって……!!?」

 

 

「ああ、確かに厄介だったぜ。場所がわかってんのに、その場所が見えねえんだからな。だから──この辺の森一帯を結界ごと吹き飛ばした」

 

 

「は……?」

 

 

「少し更地になっちまったが、まあ時間が経てば元に戻るだろ」

 

 

そう言い放つギルダーツの色々とメチャクチャな言葉にギアムは絶句した。

 

 

「ギルダーツ!!!」

 

 

「ギルダーツ……?」

 

 

そんな彼の姿を見た瞬間、安堵からか明るいの声を上げるはやて。そして彼女が口にしたギルダーツという名前に、ギアムはハッとした表情を浮かべてその名を思い出す。

 

 

「ま…まさか貴様……!! 西の最強と謳われる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士──ギルダーツ・クライヴかっ!!!?」

 

 

「よく知ってんじゃねえか……だがそんな事今はどうでもいい」

 

 

そう言ってギルダーツが静かに1歩を踏み出した瞬間……凄まじい衝撃がアジト全体を揺るがした。

 

 

「な…なんだこの魔力は!!?」

 

 

ギルダーツから溢れ出すアジトを揺るがすほどの桁違いの魔力…そして射殺すかのような威圧感に、ギアムは愕然としていた。

 

 

「テメェは未来あるガキを己の欲望の為に攫い……私欲の為にはやてとその家族に手を出し……はやての大切な宝物を踏みにじった──相応の報いを受ける覚悟はできてんだろうな?」

 

 

「ヒッ…ヒィ……!!」

 

 

1歩1歩歩きながらそう言葉を紡ぐギルダーツ。そんなギルダーツから放たれる魔力と威圧感の前に、すっかり委縮して情けない悲鳴を上げるギアム。すると……

 

 

「く…来るな!!! こいつがどうなってもいいのか!!?」

 

 

「きゃっ!!」

 

 

最後の手段と言わんばかりに、はやての体を抱えて、彼女の首筋にナイフを突きつけるギアム。

 

 

「我が主!!」

 

 

「はやてちゃん!!!」

 

 

「はやてちゃん!!」

 

 

「貴様!!!」

 

 

「なんと卑劣な……!!!」

 

 

はやてを人質にとったギアムの行動に憤慨するリインフォースたち。そしてギルダーツもそれを見て、歩みを止めた。

 

 

「は…ははっ、それでいい!! そこからオレが逃げるまで1歩も動くなよ!!! もし動いたらコイツを殺して──」

 

 

「やってみろ」

 

 

「──へ?」

 

 

ギルダーツの口から飛び出した予想外の言葉に、素っ頓狂な声を上げるギアム。

 

 

「その代わり覚悟しろよ……もしはやてにキズ1つでもつけたら、そん時はおめぇ──」

 

 

 

 

 

──この世にチリ1つ残らねえと思え。

 

 

 

 

 

「ヒィィィィイイイイイ!!!!」

 

 

ギルダーツから静かに放たれた凄まじい殺気……それに飲み込まれたギアムの脳裏には明確な〝死〟のイメージが浮かび上がり、ギアムは震えながらゆっくりとはやてとナイフを手放したのであった。

 

 

「いい判断だ。その判断に免じて……1発で勘弁してやる」

 

 

そう言って歩みを再開してギアムの前に立ち、強く握った拳を構えるギルダーツ。

 

 

「破邪顕正──」

 

 

そして……

 

 

 

 

 

「一天!!!!!」

 

 

 

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁ………!!!!」

 

 

そのままギアムの顎を打ち抜き……それを喰らったギアムは吹き飛ばされ…アジトの天井を突き破り…空の彼方へと消えていったのであった。

 

 

「ス…スゲェ……!!」

 

 

「たった1人で…ギルドを壊滅させた……」

 

 

「これが、魔導士ギルドに所属する魔導士の力……」

 

 

「西の最強魔導士……」

 

 

「ギルダーツの…本当の力……」

 

 

ギルダーツの本来の力の一端を目の当たりにしたリインフォースたち5人は言葉を失いながらも、どこか尊敬に似た眼差しで彼を見つめる。

 

 

「ギルダーツ……」

 

 

自分の知らないギルダーツの一面を見たはやては、どこか戸惑ったように彼にを声をかけた。

 

 

「よぅはやて……無事だったか?」

 

 

そう言ってはやてに笑いかけるギルダーツの笑顔は、彼女が何度も見てきた優しくて安心感のある笑顔であり……それを見たはやては嬉しそうに頷いたのであった。

 

 

「うん♪」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その後……ナニワ村へと戻って来たはやてたちを待っていたのは──無情な現実であった。

 

 

「家が……」

 

 

ギアムの命によって暗黒の雲(ダーククラウド)によって火が放たれたはやての家。村人たちが必死に消火活動を行ってくれたが……残ったのは黒焦げになって崩れ落ちた残骸だけであった。

 

 

「はやて……」

 

 

「はやてちゃん……」

 

 

「申し訳ありません……我が主……」

 

 

「我々が不甲斐ないばかりに……!!」

 

 

「この無力という罪……いかなる罰も受ける所存です」

 

 

焼け跡を見て呆然と佇むはやてを慰めるように寄り添うヴィータとシャマル……そして自分たちを責めるようにそう言葉を口にするリインフォース、シグナム、ザフィーラの3人。

 

 

しかしはやては……

 

 

「あははははっ!! こらまたえらいハデにやられたモンやなー」

 

 

「「「!!」」」

 

 

突然そう言って笑いだしたはやてに、リインフォースたちは驚愕する。

 

 

「でもしゃーない、形あるもんはいつか壊れるモンや。とりあえずこれからどうしていくか考えへんとなぁ」

 

 

「主……」

 

 

「ん? なんやなんや、リインフォースもみんなも暗い顔して! これから色々忙しくなるんやから、元気出していこっ!! なっ?」

 

 

そう言って元気に笑うはやてだが、リインフォースたちはすぐに感づいていた。はやては無理をして笑っている……自分たちに心配をかけさせない為に、様々な感情を押し殺して笑っているのだと。

 

 

彼女たちは言いたかった……無理をしなくていいと、泣きたければ泣いていいと……しかしどういった風に言えばいいのかわからない。普通に言ってもはやてに誤魔化されてしまうだろう。

 

 

そしてどうやって伝えればいいのかと彼女たちが悩んでいると……

 

 

「はやて」

 

 

「!」

 

 

ギルダーツが静かにはやてに声をかけた。

 

 

「無理すんじゃねえ」

 

 

「な…何を言うとるんやギルダーツ? 私は別に無理なんか──」

 

 

そう言ってはやてが誤魔化そうとした瞬間……ギルダーツはそんな彼女の小さな体を強く抱きしめたのであった。

 

 

「ギ…ギルダーツ……?」

 

 

「はやて……もう我慢なんてしなくていい」

 

 

突然抱き締められて困惑するはやてに、ギルダーツが静かに語り掛ける。

 

 

「お前はずっと我慢してきたんだろう? 両親が死んだ時も、塞ぎ込んだだけでまったく泣かなかったと村長から聞いた。お前はガキのくせに頭がいい奴だ……周りの大人に心配をかけたくなくて…弱い所を見られたくないから…強く明るく振る舞って…泣く事をずっと我慢してきたんだろう。

 

だがな──泣く事は決して悪い事じゃねえ。人は涙を流して初めて、己の弱さと向き合って、前へと進む勇気を得るのさ。

 

だからはやて……お前もそろそろ前へ進んでみようぜ。今は思いっきり泣いて……未来へ進むんだ」

 

 

「っ……!!!」

 

 

ギルダーツの言葉を聞いて、瞳を潤ませるはやて。しかしまだ、涙は流れない。

 

 

「それでもまだ泣くのが怖いってんなら──周りを見てみな」

 

 

「!!!」

 

 

そう言われてはやては自分の周囲を見回す。するとそこには、リインフォース…シグナム…ヴィータ…シャマル…ザフィーラの5人が、いつの間にかはやてを囲むように寄り添っていた。

 

 

「お前はもう1人じゃねえ……お前の涙も…弱さも…悲しみも…全部受けてめくれる〝家族〟がいる。今ならオレも胸を貸してやる。だから──泣いてもいいんだ…はやて」

 

 

「……うっ…ぁぅ……う……うぁぁあああああああああああああああああああああああああああああぁんっ!!!!!!」

 

 

ギルダーツの優しい言葉と、リインフォースたちの家族の優しい温もりに振れたはやては……とうとうギルダーツの胸に顔を押し付けて泣き始めた。

 

 

まるで長年溜めこんでいた悲しみを全て吐き出すかのように……

 

 

「ホンマは…うぐっ……お父さんと…お母さんが…ひく……いなくなって…寂しかった……!!! もっと…2人に…甘え……たかった!!!」

 

 

「よーしよし泣け泣け。思う存分泣いちまえ」

 

 

「お父さんとお母さんが…うぅ……遺してくれた…思い出が……詰まった家も…こんなんなって……!!! みんなが帰る場所が…なくなって……私もう…どうしたら……ええか……うあぁぁぁあああっ!!!!」

 

 

「我が主…」

 

 

「主はやて」

 

 

「はやて……」

 

 

「はやてちゃん……」

 

 

「主……」

 

 

はやての悲痛に満ちたその言葉を聞いて、彼女に寄り添っていたリインフォースたちも悲しげな表情を浮かべて涙を流す。

 

 

「オレの魔法は壊すだけの魔法だ……オレの力じゃ、お前たちの家を元に戻してやる事はできねえ」

 

 

すると……ギルダーツがはやてを抱き締めたまま再び口を開く。

 

 

「だがな……お前たちに新しい居場所を紹介してやる事はできる」

 

 

「「「!!」」」

 

 

その言葉にはやてたち全員が顔を上げて、ギルダーツの顔を見つめる。

 

 

そしてギルダーツは……彼女たちにこう言い放った。

 

 

 

 

 

「お前たちさえよければ…オレと一緒に来い──妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

「本当に行くんだね、はやて」

 

 

「うん、グレアムおじさん。もう決めた事やから」

 

 

「そうか……なら私はもう何も言わない。ギルダーツさん、はやてたちをよろしくお願いします」

 

 

「ああ、わかってるさ」

 

 

時刻は早朝にも関わらず、ナニワ村の門前には大勢の村人たちが押し寄せ、今日この村を離れるはやてたちを見送りに来ていた。

 

 

「寂しくなるなぁ」

「風邪引かないようにね」

「リインフォースちゃんたちも、道中気を付けるんだよ」

 

 

村人の1人1人と別れの挨拶を交わし……改めて自分は村中から愛されていたのだと実感したはやて、みんなに向かって声高々に言い放つ。

 

 

「ほんならみんな──行ってくる!!!!」

 

 

そして……彼女たちは出発した。

 

 

「元気でやるんだよーー!!!」

「はやてちゃんもみんなも、気が向いたらいつでも帰って来ーい!!!」

「リインちゃんもシグナムちゃんも元気でねーー!!!」

「ヴィータもシャマルも体には気を付けろよーー!!!」

「ザフィーラも漢になってこいよーー!!!」

 

 

後ろから聞こえてくる村人たちの声を背にして……はやてたちは歩き出したのであった。

 

 

「本当によかったのか?」

 

 

「えー? 自分から誘っといて今更それ言うー?」

 

 

「いや…けどよぉ」

 

 

「私はもう決めたんや。魔導士になって強くなる……そして今度は守られるんやなくて、私が家族を守れるようになるんや!!」

 

 

「その意気です!! 我が主!!!」

 

 

「我ら守護騎士、主とならどこまでもお供します」

 

 

「アタシも今度こそはやてを守れるくれーに強くなる!!」

 

 

「楽しみねー、妖精の尻尾(フェアリーテイル)♪」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

はやてだけでなく、リインフォースたちも行く気満々であり、今更その意志が曲がる事はないと悟ったギルダーツは呆れたように、だけどどこか嬉しそうに「やれやれ」と呟いた。

 

 

「それにな…ギルダーツ」

 

 

「ん?」

 

 

「私の最終的な目標はな…ギルダーツも守れるくらい強くなる事や!!!」

 

 

「オレを?」

 

 

「そうや♪ ギルダーツが危機に陥ったら、今度は私が助けてあげるわ♪」

 

 

「……ぷっ…がはははっ!! そりゃ面白ェ!! がははははっ!!!」

 

 

「あっ!! 本気にしてへんやろ!!!」

 

 

「んな事ねーよ。楽しみにしてるぜ、はやて」

 

 

「任しとき!!」

 

 

道中でそんな賑やかな会話を繰り広げながらはやてたちは歩き続ける。

 

 

 

 

 

目指すは西にある魔導士ギルド──妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!!!

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

そして現在……ギルドの展望台。

 

 

はやてはそこで1人……月を見上げながら静かに語る。

 

 

「ギルダーツ……私、聖十の魔導士になったよ。これで少しは、あの日立てた目標に近づけたんかなぁ?」

 

 

誰もいない展望台に、はやての言葉だけが響き渡る。

 

 

「私は諦めへんよ……必ずギルダーツを守れるようになって、いつか隣に肩を並べてみせる。私は──もっともっと強くなる!!!!」

 

 

そう言って過去に立てた目標を再確認して、はやては改めて心にそう誓う。

 

 

 

 

 

「見ててや──ギルダーツ」

 

 

 

 

 

そして……今はどこを旅しているのか分からない男に対して、そう言い放った。

 

 

そんな彼女を……夜天の空から差す月の光だけが、優しく包み込んでいたのであった。

 

 

 

 

 

つづく

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