第三十六話
『楽園の塔』
「ショウ……」
「久しぶりだね、姉さん」
エルザの事を姉さんと呼ぶ謎の青年…ショウ。
「え? え?」
「姉さん?」
イマイチ状況を把握出来ずに困惑するルーシィとフェイト。
「無事…だったのか?」
「無事?」
「あ……いや……」
ショウという青年と会話をする度に身体が震えるエルザ。
一方…グレイの方も謎の巨漢の男と対峙していた。
「エルザはどこだ?」
「ア?」
「どこだ?」
「誰なんだテメェ……」
巨漢の男にそう問い掛けるグレイ。すると、彼等の間に身体を水にしたジュビアが割り込み、グレイを守るように立つ。
「グレイ様には指一本触れさせない。ジュビアが相手します」
「ジュビア」
「エルザさんの下へ…危険が迫っています」
エルザの下へ行くようにグレイに促すジュビア。すると、突然巨漢の男が自分の頭に指を翳す。
「ん? もう見つかっただと?ほう……そうか。じゃ…片付けていいんだな? 了解」
巨漢の男が一人ブツブツとそう呟くと、突如として周りが暗闇に包まれる。そして、周りが一切見えないほどの真っ暗な空間となった。
「え!?」
「な……なんだコレは!!?」
「闇の系譜の魔法…闇刹那」
ゴッ!! ガッ!!
「ぐはっ!」
「きゃあ!」
鈍い音と共に、二人の悲鳴が暗闇に響き渡った。
そして、ナツ達の方も……
「が…
四角い男に拳銃を口の中に突っ込まれ、さらには辺り一面が真っ暗になったことに戸惑うナツ。
「くっ!? 何なのこの暗闇!!?」
「ナツー!! どこー!!」
「
声はすれども姿は見えず……暗闇の中でナツの姿を探すティアナとハッピー。すると……
「グッナイ…ボーイ」
ダンッ!!
「「ナツーーー!!!」」
銃声が響き渡り、ティアナとハッピーの叫びが暗闇に木霊する。
「お譲ちゃんも眠りな」
バフ!
「なっ……!!」
その瞬間、突如後ろから撃たれるティアナ。
「安心しな。ボーイとは違ってお譲ちゃんには、睡眠弾だゼ」
「しまっ…た……!!」
そしてそのまま倒れこみ、ティアナは意識を手放したのであった。
場所は戻り…エルザ達も突然の暗闇に戸惑っていた。
「な…なにコレ!? 暗っ!!」
「これは一体……!!?」
「何が起きた!!?」
戸惑いながら暗闇の中を見渡す三人。すると、ボンヤリと暗闇が薄くなり始めた。
「光が戻って来た」
しばらくすると、暗闇は完全に消えた。そしてエルザはすぐさまショウの居た場所に視線を向けるが、そこにショウの姿はなかった。
「ショウ!?」
「こっちだよ、姉さん」
声がした方に視線を向けると、ショウが立っており、彼の足元には数枚のカードが散らばっていた。
「ええ!!?」
「か…カードの中に人が!!?」
そのカードをよく見てみると、先ほどまでカジノにいた客や従業員たちが描かれ、閉じ込められていた。
「不思議? オレも魔法を使えるようになったんだよ」
「魔法!? お前、一体……」
「ククク……」
エルザの問いには答えず、不気味な笑みを浮かべるショウ。すると……
「みゃあ」
シュルル!
「きゃあ!!?」
「うあっ!?」
突然ルーシィとフェイトの背後からチューブのようなものが伸びてきて、二人の身体に巻きついた。
「ルーシィ!! フェイト!!」
見るとそこには、まるでネコのような少女がテーブルに座っていた。
「みゃあ。元気最強?」
「ミリアーナ!?」
エルザは少女…ミリアーナを見て驚愕する。
「お前も魔法…を?」
「久しぶり~エルちゃん♪」
「何をしている!? ルーシィとフェイトは私の仲間だ!!!」
「みゃあ? 仲間?」
「僕たちだって仲間だったでしょ? 姉さん」
「う…ああ…」
ショウの言葉を聞いて、エルザを震える。そして……
「姉さんがオレたちを裏切るまではね」
「………………!!」
次のショウの言葉で、エルザは震えながら自分の身を抱き締めた。
「そうエルザをいじめてやるな、ショウ。ダンディな男は感情を抑えるもんだぜ。すっかり色っぽくなっちまいやがってヨ」
するとそこへ、先ほどナツたちの前に現れた四角い男が姿を現した。
「そ…その声はウォーリー?」
「気付かねえのも無理はねえ。狂犬ウォーリーと呼ばれてたあの頃に比べて、オレも丸くなったしな」
「お前も…魔法を……」
「驚くことはない」
続けて、グレイとジュビアの前に対峙していた巨漢の男が光と共に姿を現す。
「コツさえ掴めば誰にでも魔法が使える。なあ、エルザ」
「シモン!?」
現れた四人組…ショウ、シモン、ウォーリー、ミリアーナを見て、拘束されているルーシィとフェイトが声を上げる。
「エルザ……こいつら何なの!?」
「姉さんって…一体?」
「本当の弟じゃない。かつての仲間たちだ」
エルザのその言葉に、二人は目を見開く。
「仲間……って、エルザは幼い頃から
「それ…以前ということだ。お前たちが何故ここに……ルーシィとフェイトを解放してくれ」
「あんたを連れ戻しにサ」
「みゃあ」
「帰ろう、姉さん」
「言う事聞いてくれねえとヨォ」
そう言うと、ウォーリーはルーシィとフェイトの二人に銃を向ける。
「くっ……!!」
「ひぃい!!」
「よ…よせ!! 頼む!! やめてくれ!!」
ウォーリーにそう懇願するエルザ。すると、銃を持ったウォーリーの腕が消え、エルザの背後に出現した。そして……
バフ!
「あ……」
そのままエルザは後ろから撃たれてしまった。
「「エルザーーー!!!」」
二人の叫びも虚しく、エルザはそのまま力なく倒れこむ。
「睡眠弾だゼ」
「目標確保。帰還しよう」
「ま…待て!!」
「ちょっと!! エルザをどこに連れて行くのよ!! 返しなさいよ!!!」
拘束されながらもエルザを連れて去ろうとする四人を追おうとするフェイトとルーシィ。
「みゃあ」
そんな二人にミリアーナがピッと指を向けると、二人を縛っているチューブがさらに強まり、締め上げられる。
「ぐ…くうぅぅ!!!」
「ああああっ!!!」
「あと5分くらいで死んじゃうよ~君たちぃ~」
苦しむ二人に、ミリアーナは冷血にそう言った。
「そういやミリアーナ。君にプレゼントだゼ」
ウォーリーがそう言うと、彼の手に眠らされたハッピーが現れる。
「みゃあ!! ネコネコ~! 貰っていいの~!?」
ハッピーを抱き締めながら喜ぶミリアーナ。
「姉さん…帰って来てくれるんだね」
そしてショウは涙を浮かべながら口を開いた。
「〝楽園の塔〟へ。きっとジェラールも喜ぶよ」
それを聞いたエルザは、朦朧とする意識の中で驚愕した。
「(楽園の塔!!? か…完成していたのか!!?)」
それを最後に、エルザは今度こそ、意識を手放したのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うぅう…うぅあう!!」
「くっ…あぁぁ……!!!」
ショウたち四人組が去ったあと、取り残されたルーシィとフェイトは段々と絞まってくるチューブに苦しんでいた。
しばらくバタバタしているうちに、ルーシィのポケットから星霊の鍵が落ちた。
「ひ…開……巨蟹宮…の…扉…!!」
すぐさま鍵を拾ってキャンサーを呼ぼうとするルーシィだが、何も起きない。
「あ…あれ?」
「くっ…無駄だよ…ルーシィ…んっ……このチューブには…魔力を押さえ込む力が……あるみたい……」
「そんな…どう…すれば……?」
フェイトの言葉にルーシィは絶望の表情をする。しかし、そんなルーシィとは対照的に、フェイトは笑みを浮かべている。
「大…丈夫……魔力が押さえ込まれている…なら……それ以上の魔力を…放てば……!!!」
そう言いながらフェイトはゆっくりと目を閉じる。そして一気にカッと目を開くと……
バチィ!!
一瞬だけ彼女の身体に電気が走り、次の瞬間にはチューブが焼き切られていた。
「ね?」
「はは…さすが……んあっ!!」
拘束から抜け出したフェイトに感心している間に、ルーシィのチューブがさらに絞まる。
「待ってて!!」
それを見たフェイトはすぐさま黒い斧のような
「ふぅ…ありがとうフェイト。助かったわ」
「どういたしまして。それより、みんなを探そう!」
「うん!!」
拘束から解放された二人は他のメンバーを探すためにその場から駆け出した。
「ナツー!! グレーイ!!」
「ティアナー!!」
声を張り上げながら賢明に三人を探すフェイトとルーシィ。そんな二人の目に飛び込んできたのは……
「っ……グレ…イ?」
「そんな……!」
鉄棒で胸を突き刺され、壁に寄りかかるようにして倒れているグレイの姿であった。
「グレイ!!? しっかりして!! グレイ!!!」
「どうしようフェイト、グレイの身体が冷たい!!」
身体が冷たい……それが指し示す意味はただ一つ。それを理解した二人は顔に絶望の色を浮かべる。すると……
パキパキ…
「「え?」」
突然グレイの身体に亀裂が入り、そして…
パキィン!
粉々に砕け散ってしまった。
「きゃああああっ!!!」
「こ…これは……氷!!?」
よく見ると、砕けたそれは氷であった。
「安心してください」
すると、近くの床から水が溢れだし、そこからジュビアが姿を現す。
「あ…あんたは!!?」
かつての敵…ジュビアを見て、ルーシィは驚く。
「グレイ様はジュビアの中にいました」
「ぷはー! ゲホゲホ!!」
ジュビアがそう言うと同時に、彼女の中からグレイが姿を現した。
「な…中……あは…あはは……」
「ま…まぁ、無事でよかったよ」
ジュビアの荒業に、ルーシィとフェイトは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「突然の暗闇だったからな。身代わり造って、様子を見ようと思ったんだが」
「敵にバレないように、ジュビアが
「余計な事しやがって! 逃がしちまったじゃねーか」
「ガーン!」
グレイの辛辣な言葉にショックを受けるジュビア。
「それより、ナツとティアナ…それにエルザは?」
「二人はわかんない……」
「エルザは……」
グレイの問い掛けに言いにくそうに言葉を詰まらせる二人。すると……
ドゴォォォォン!!!!
「「「「!!!」」」」
突然近くの瓦礫が炎と共に吹き飛ぶ。そして……
「痛えーーーーっ!!!」
「ナツ!!!」
そこからナツが飛び出してきた。
「普通口の中に鉛玉なんかぶち込むかヨ!!? ア!? 痛えだろ!! ヘタすりゃ大ケガだぞ!!!」
「うぅっ…普通の人間なら、完全にアウトよバカナツ……」
同時に、瓦礫の中からティアナが這い出てきた。そんなティアナにフェイトが駆け寄る。
「ティアナ!! 無事だったんだね!!」
「えぇ……睡眠弾を喰らったので、ちょっと頭がクラクラしますけど……」
頭を押さえながらそう訴えるティアナ。
「あんの四角野郎ォォ…逃がすかコラァアアーーー!!!!」
怒り心頭のナツはそう叫びながら出口へと走っていく。
「追うぞ!!!」
「追うって言っても、どこにいるのか」
「あいつの鼻の良さは獣以上なんだよ!」
「ティアナ、走れる?」
「はい、なんとか!」
そしてグレイたちもナツのあとを追いかけて行ったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方その頃、楽園の塔の一室では…玉座に座り、フードを被った青年と地面に届くほどの長髪をした男性、そして薄紫色の短髪をした長身の女性が向き合っていた。
「ジェラール様、エルザの捕獲に成功したとの知らせが。こちらに向かってるようです」
長髪の男の報告に、フードの青年は静かに口角を吊り上げる。そんな青年を見て、長身の女性が口を開く。
「しかしジェラールよ、なぜ今になってあの女を連れ戻す? 貴様ほどの魔力の持ち主なら、簡単に始末できたはずだ」
「ふふ…ははは……それじゃあダメだ」
女性の問いに、青年…ジェラールは小さく笑いながら答える。
「この世界は面白くない」
「はぁ…?」
「……………」
ジェラールの言葉に長髪の男は首を傾げ、女性は何も言わずに押し黙った。
「しかし〝楽園の塔〟が完成した今、これ以上生かしておくとめんどうな事になりかねん。時は来たのだ」
そこまで言うと、ジェラールは一呼吸置いて、再び口を開く。
「オレの
そう言って、ジェラールは不気味に口角を吊り上げたのであった。
つづく