鎧の魔導士
第六話
『鎧の魔導士』
「うーん……」
前の仕事から数日、ルーシィは依頼板の前で悩んでいた。
「魔法の腕輪探しに…呪われた杖の魔法解除、占星術で恋占い希望!? 火山の悪魔退治!?」
「なに一人でブツブツ言ってるのよ?」
「あ、ティアナ」
それらの依頼を見ているルーシィの後ろからティアナが話しかけた。
「気に入った仕事あったら私に言ってね。今はマスターいないから」
「あれ? 本当だ」
「あぁ…そう言えば定例会があるんでしたっけ?」
「定例会?」
ティアナが言った聞きなれない単語にルーシィは首を傾げる。
「定例会って言うのは、地方ギルドマスターたちが集って定期報告をする会のこと。評議会とは違うんだけど…うーん…何て説明したらいいんだろう?」
「リーダス、
「ウィ」
ティアナが説明の仕方に悩んでいると、ミラが近くに居た大柄な男…リーダスから一本のペンを借り、空中に文字と図式を書き始める。そして一通り書き終えると、ルーシィに説明する。
「魔法界で一番偉いのは政府との繋がりもある評議員の10人。魔法界におけるすべての秩序を守るために存在するの。犯罪を犯した魔導士をこの機関で裁くこともできるのよ。その下にいるのがギルドマスター。評議会での決定事項などを通達したり、各地方ギルド同士の意思伝達を円滑にしたり、私たちをまとめたり。まあ、大変な仕事よねぇ」
ミラの説明を聞いたルーシィは感嘆の声を上げる。
「知らなかったなぁ…ギルド同士の繋がりがあったなんて」
「ギルド同士の連携は大切なのよ。これをおそまつにしてると…ね」
「黒い奴らが来るぞォォォ」
「ひいいいっ!!!」
ミラが言いかけたところで、ナツがルーシィの後ろで声色を変えて囁き、ルーシィは大声を上げて驚く。
「やめなさいバカナツ!!」
「うごっ」
そんなナツにティアナの拳骨が落ちる。
「でも黒い奴らは本当にいるのよ。連盟に属さないギルドを闇ギルドって呼んでるの」
「アイツら法律無視だからおっかねーんだ」
「あい」
「じゃあいつかアンタにもスカウト来そうね」
「……否定できないわね」
ルーシィの言葉にティアナが苦笑いしながら同意する。
「つーか早く仕事選べよ」
「前はオイラたち勝手に決めちゃったからね。今度はルーシィの番」
「あれ? アンタ達ってチーム組んでたんだっけ?」
「そんなのもう解消よ、解消!」
「なんで?」
「あい」
ルーシィの言葉にナツとハッピーは不思議そうに首を傾げる。
「だいたい金髪の女だったら誰でもよかったんでしょ!?」
「何言ってんだ…その通りだ」
「ホラーーー!!!」
「でもルーシィを選んだんだ。いい奴だから」
ニカッと笑いながらそう言うナツにルーシィは何も言えなくなる。すると……
ゲシッ
突然ティアナがナツの足のスネを蹴った。
「痛ってぇぇえ!!! 何すんだティアナ!!!?」
「……ふんっ」
ナツはスネを押さえて文句を言うが、ティアナはプイッとそっぽを向くだけだった。すると、今までの会話を近くで聞いていたグレイとロキが話しかけてきた。
「なーに、無理にチームなんか決めるこたァねぇ。聞いたぜ、大活躍だってな。きっと嫌ってほど誘いがくる」
「ルーシィ、僕と愛のチームを結成しないかい? 今夜二人で」
「イヤ…」
ロキの誘いを即座に断るルーシィ。
「傭兵ギルド、南の狼の二人とゴリラみてーな女やっつけたんだろ? すげーや実際」
「そ…それ全部ナツ」
「テメェかこのヤロォ!!!」
「文句あっか! おぉ!!?」
ルーシィの一言で睨みあうナツとグレイ。
「グレイさん…服」
「ああああっ!! また忘れたぁっ!!」
ティアナの一言で自分が服を着ていないことに気付くグレイ。
「うぜぇ」
「今うぜぇつったか!!? クソ炎!!」
「超うぜぇよ変態野郎!!!」
そう言って今度は殴り合いの喧嘩を始める二人。その間に、ロキがルーシィを口説いていた。
「君って本当にきれいだよね。サングラスを通してもその美しさだ…肉眼で見たらきっと眼が潰れちゃうな……ははっ」
「潰せば」
口説いてくるロキに冷たくそう言い放つルーシィ。すると、そんなロキの目にルーシィの腰に提げられていた鍵が映る。その瞬間、ロキはルーシィと距離を取る。
「うおおっ!! き…君、星霊魔導士!?」
「?」
「な、なんたる運命のいたずらだ…!」
先ほどまでとは明らかに様子が違うロキにルーシィは首を傾げる。
「ごめん! 僕たち、ここまでにしよう!!!」
「何か始まってたのかしら……」
ロキは慌てて出口に向かって駆け出して行き、ルーシィは一人ぼやいた。
「何あれぇ」
「ロキは星霊魔導士が苦手なの」
「はぁ?」
「大方、女の子絡みで何かあったんでしょ。あの女たらし……ってあれ?戻って来た」
ティアナがロキに向かってキツイ言葉を吐くと、同時にロキが慌てて戻って来た。そしてそのまま喧嘩しているナツとグレイに向かって叫ぶ。
「ナツ! グレイ! マズイぞっ!!!」
「「あ?」」
「エルザが帰ってきた!!!!」
「あ"!!!?」
その言葉を聞いた瞬間、ナツとグレイは身体から尋常じゃない汗が吹き出す。
その時……
ズシィィン…
ギルドの外からそんな地響きが聞こえてきた。
段々と近くなる地響きながら、固唾を呑んでいるギルドメンバーたち。
そして…巨大な角を担いだ鎧を纏った緋色の髪の女性『エルザ・スカーレット』が現れた。
「今戻った。マスターはおられるか?」
担いでいた角をその場において尋ねるエルザ。
「おかえり。マスターは定例会よ」
「そうか……」
「え…エルザさん…そ、そのバカでかいの何ですかい?」
「ん? これか?討伐した魔物の角に地元の者が飾りを施してくれてな……綺麗だったので、ここへの土産にしようと思ってな……迷惑か?」
「い、いえ滅相もない!!」
エルザの問いに慌てたように答える。
「それよりお前たち。また問題ばかり起こしているようだな。マスターが許しても、私は許さんぞ」
そう言ってメンバーを睨むエルザ。
「な…なにこの人…」
「エルザ!! とっても強いんだ」
「
ルーシィの質問にハッピーとティアナが答える。
「カナ…なんという格好で飲んでいる」
「う…」
「ビジター、踊りなら外でやれ。ワカバ、吸殻が落ちているぞ。ナブ…相変わらずリクエストボードの前をウロウロしているのか? 仕事をしろ」
メンバーに一通りダメだしをした後、エルザは溜め息をつく。
「まったく……世話がやけるな。今日のところは何も言わずにおいてやろう。ところで、ナツとグレイ…それとスバルとティアナはいるか?」
「あ、はい!」
エルザに呼ばれたティアナは返事をする。そして同じく呼ばれたナツとグレイは……
「や、やぁエルザ…オ、オレたち今日も仲よし…よく…や…やってるぜぃ」
「あい」
「ナツがハッピーみたいになった!!!!」
先ほどとは打って変わって肩を組みながら仲の良さをアピールしていた。
「そうか…親友なら時には喧嘩もするだろう……しかし私はそうやって仲良くしているところを見るのが好きだぞ」
「あ…いや、いつも言ってっけど…親友ってわけじゃ……」
「あい」
「こんなナツ見たことないわっ!!!」
普段見ないナツの姿にルーシィは愕然とする。
「ところでティアナ、スバルの姿が見えないが……」
「あーその……実はスバル……今日は病欠で…」
「なんだと!?」
「えぇっ!!?」
あの元気の塊であるスバルが病欠と聞いて、エルザだけではなく、ルーシィも驚愕の声を上げた。ナツとグレイとハッピーも驚いた表情をしている。
「どうしたんだ!? 仕事で何かあったのか!!?」
スバルに何が起きたのかをティアナに問い詰めるエルザ。すると、ティアナは言い難そうに、ゆっくりと口を開いた。
「その……食べすぎでお腹を壊してしまって……」
『…………………』
ギルド全体の時が止まった。
「さて、実は三人に頼みたいことがある」
『(流したっ!!?)』
全員の心がシンクロした瞬間だった。しかしエルザは構わず話を続ける。
「仕事先で少々やっかいな話を耳にしてしまった。本来ならマスターの判断をあおぐトコなんだが、早期解決がのぞましいと私は判断した。三人の力を貸してほしい、ついてきてくれるな」
「え!?」
「うそっ…!?」
「はい!?」
エルザの思いがけない言葉にギルドはざわつく。
「出発は明日だ。準備をしておけ」
「あ…いや…ちょっ…」
「行くなんて言ったかよ!!!」
「それと……」
ナツとグレイの言い分を無視して、エルザはさらに続ける。
「ここへ来る途中で会った『なのは』にも協力を頼んでおいた」
「!! なのはさんに!!?」
それを聞いたティアナは驚愕する。
「明日、マグノリアの駅で落ち合う予定だ。詳しくは移動中に話す」
そう言い残して、エルザは帰って行った。
「なのはさんまで引っ張り出すなんて……一体何事なの?」
一人ブツブツと呟くティアナにルーシィが問い掛ける。
「ねえティアナ。さっき言ってた『なのはさん』って誰なの?」
「そっか、ルーシィは会ったこと無かったわね。エルザさんと同じ
「そ、それって……エルザさん並みに怖い人ってこと?」
「そんなことないわよ。とっても優しい人よ」
「あ、そうなんだぁ……」
ルーシィはホッとしたように息を吐く。
「あ…でも一部からは『魔王』って呼ばれてるわね」
「やっぱり怖いんじゃないのーーー!!?」
ティアナの最後の言葉にルーシィは絶叫する。
「エルザと…ナツと…グレイ…そしてティアナとなのは…今まで想像したこともなかったけど……」
「?」
すると…ミラが小さく呟き、それに首を傾げるルーシィ。
「これって、
「!!!!」
その言葉に驚きのあまり、ルーシィは口を大きく開けたのだった。
つづく