LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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希望のギルド

 

 

 

 

 

 

ニルヴァーナの封印が解かれた事により、天を支えているかのように黒い光の柱が立ち上っているワース樹海。

 

その黒い光に向かってたった一人で樹海を走り抜けている女性……エルザ。

 

 

「(ジェラールが生きて……)」

 

 

彼女はウェンディに解毒してもらってすぐに目を覚まし、ナツとティアナが口にしたジェラールの名前を聞いて、誰にも何も言わずに飛び出したのだ。

 

 

「(どうやって……いや…なぜこんな所に……)」

 

 

かつての友であり…仲間であり…そして怨敵であるジェラールが生きていると聞いた時から、彼女は複雑な表情をしていた。

 

 

 

「(私は……どんな顔をすればいいのか……)」

 

 

 

そんな事を考えながら、エルザはジェラールが居るであろう黒い光に向かって走って行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十四話

『希望のギルド』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと!!? ニルヴァーナとは人々の性格を変える魔法だというのか!?」

 

 

「その通りデスネ」

 

 

ニルヴァーナの影響により、悪から善の心へと入れ替わったホットアイにニルヴァーナの事を聞いて驚愕するジュラ。

 

 

「そしてその最初の段階…あの黒い光は、善と悪の狭間にいる者を強制的に変えてしまうのデス」

 

 

「すると主はあの時、善と悪の狭間にいたと?」

 

 

「お金を稼ぐ為とはいえ…ちょっぴりいけない事してる気持ちありましたデス」

 

 

「ずいぶん調子よくも聞こえるが」

 

 

「弟の為です。全ては弟を探す為にお金欲しかったです」

 

 

ホットアイのそんな言葉を聞き、ジュラは優しい表情を浮かべる。

 

 

「あなたを見てると、昔を思い出しマスネ」

 

 

「まさか……ワシが主の弟殿に似てるとでも?」

 

 

「昔…弟と食べたじゃがいもにそっくりデス」

 

 

「野菜!!?」

 

 

ホットアイの予想の斜め上を行く回答に、ジュラは思わずツッコミを入れる。

 

 

「さあ…愛の為にブレインたちを止めるのデス!」

 

 

「ウ……ウム」

 

 

少々釈然としない気持ちになりながらも、ジュラはホットアイと共にニルヴァーナへと向かって行った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃…エンジェルから逃げて来たウェンディたち、化猫の宿(ケット・シェルター)のメンバーは、高い丘の上に身を隠していた。

 

 

「私……来なきゃよかったかな……」

 

 

「まーたそういう事言うの? ウェンディは」

 

 

「だってぇ」

 

 

「あまり考えない方がいいよ。ニルヴァーナの影響を受けちゃうからね」

 

 

膝を抱えながら呟くようにネガティブ発言をするウェンディを、シャルルとエリオが戒める。

 

 

「私…ルーシィさんたち置いて逃げてきちゃったんでしょ?」

 

 

「ウェンディちゃんは気を失ってたから仕方ないよ」

 

 

「僕とキャロも、ルーシィさんたちを置いて逃げてきたのには変わりないし」

 

 

「どーせ3人とも、あの場にいても役に立てなかったからね」

 

 

「「「あう…」」」

 

 

シャルルの容赦ない一言に項垂れる3人。

 

 

「やっぱり私……」

 

 

「でも、ウェンディちゃんがいなかったらエルザさんは助からなかったんだよ」

 

 

「でも、ニルヴァーナも見つかんなかったよ」

 

 

「それはどうかしらね。アンタだって、ジェラールって人に会えて嬉しかったんでしょ? ウェンディだけじゃなくて、エリオとキャロも」

 

 

「それは…」

 

 

「そうなんだけど……」

 

 

「状況が状況だったからね」

 

 

シャルルの問い掛けに困ったように答える3人。

 

 

「ねえ? 何なのあのジェラールって。恩人とか言ってたけど、私……その話聞いた事ないわよ」

 

 

「そうだね…話してなかったね。あれは7年前…天竜グランディーネが姿を消して、私は一人……路頭に迷ってたの」

 

 

そう言うと、ウェンディは当時の事を思い出しながら話し始める。

 

 

「その時、助けてくれたのがジェラール。てゆーか、彼も道に迷ってたんだって。そして私たちは、一月くらい一緒にあてのない旅をしてたの。その旅の途中で、エリオ君とキャロちゃんに出会ったの」

 

 

「僕はウェンディと同じで、ボルテウスがいなくなって途方に暮れてた時に、ジェラールさんと出会って……」

 

 

「私はアルザス地方からこっちの大陸に渡ってすぐ風邪を引いて倒れちゃって……偶然通りかかったジェラールさんが看病してくれたの」

 

 

「それから2人も加わって、一緒に旅してたんだけど……ある日急に変なことを言い出して」

 

 

「うん……確か『アニマ』って言ってた」

 

 

「アニマ!?」

 

 

ウェンディとエリオの言った『アニマ』という言葉に聞き覚えがあるのか、僅かに目を見開くシャルル。

 

 

「うん…私たちにもよくわからなんだけど……ついてくると危険だからって、近くのギルドに私たちを預けてくれたの」

 

 

「それが今のギルド……化猫の宿(ケット・シェルター)だよ」

 

 

「で……ジェラールはどうなったの?」

 

 

「わからない……ジェラールさんとはそれっきり……」

 

 

シャルルの質問に、キャロが首を横に振りながら答える。

 

 

「その後…噂でね、ジェラールにそっくりの評議員の話や、最近はとても悪い事をしたって話も聞いた」

 

 

「もちろん、私たちはあのジェラールさんが悪い事したなんて話はとても信じられなかった」

 

 

「うん……僕たちの知ってるジェラールさんは、本当に優しかったから」

 

 

ウェンディ、エリオ、キャロの3人は…恩人であるジェラールの事を懐かしそうに語る。

 

 

 

「ジェラール……私たちの事、覚えてないのかなぁ?」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃…エルザは樹海の奥地にある、ニルヴァーナの封印場所へと足を踏み入れていた。

 

 

封印が解かれた影響か、向かい風が酷く、それによって舞い上がる砂埃を両腕で防ぎながらも歩みを進める。

 

 

そしてエルザがふと顔を上げると……

 

 

 

そこには彼女の因縁の相手……ジェラールが立っていた。

 

 

 

「………ジェラール」

 

 

「エルザ…」

 

 

呆然としながらも互いの名を呼ぶエルザとジェラール。

 

そしてその様子を、コブラが物陰から窺っていた。

 

 

「(エルザ!!? 復活したのか!? くそ!!! このオレが接近に気づかねえとは……ニルヴァーナの本体が起動するまでは、ジェラールはやらせんぞ)」

 

 

物陰から様子を窺いながらエルザを睨みつけるコブラ。

 

 

「お……お前……どうして…ここに…」

 

 

「わからない」

 

 

エルザの問い掛けにそう即答するジェラール。そんな彼に、エルザは複雑そうな表情を浮かべる。

 

 

「エルザ…エル…ザ……その言葉しか、覚えていないんだ」

 

 

「え?」

 

 

「!?」

 

 

ジェラールのその言葉に、エルザだけでなく、物陰に隠れているコブラも驚愕する。

 

 

「教えてくれないか? オレは誰なんだ? 君はオレを知っているのか?」

 

 

苦しげに頭を抱えながらそう問い掛けるジェラール。

 

 

 

「エルザとは誰なんだ? 何も思い出せないんだ」

 

 

 

何も思い出せない……ジェラールの口から出てきたその言葉に、エルザは涙を浮かべた。

 

 

「(コイツ…記憶がねえのか!!?)」

 

 

その言葉を聞いて、コブラはジェラールが記憶喪失だと悟る。

 

 

「ジェラール…」

 

 

「く……来るな!!!」

 

 

つかつかと歩み寄ってくるエルザに、ジェラールは怯えるように彼女に魔法を放つ。

 

しかし、魔法を喰らったエルザは額から血を流しながらもしっかりと立っていた。

 

 

「く……来る…な…」

 

 

「ならばお前が来い。私がエルザだ。ここまで来い」

 

 

凛とした姿でしっかりと立ちながらそう言い放つエルザ。

 

 

「お前の名はジェラール。私のかつての仲間だ。だが乱心したお前は死者を冒涜し、仲間をキズつけ、評議院さえも破壊し……シモンを殺した」

 

 

淡々とした口調でエルザは目の前のジェラールに、彼自身の事を語る。

 

 

「それを忘れたというつもりなら、心に剣を立てて刻み込んでやる!!!! ここに来い!!!! 私の前に来いっ!!!!!」

 

 

そんなエルザの叫びを聞いて、ジェラールは小刻みに体を震わせる。

 

 

「オレが…仲間を…そんな……」

 

 

しかしその震えは恐怖によるものではなく、自身の事を聞いたショックからであった。

 

 

「オレは……なんという事を……オレは…オレはどうしたら……」

 

 

片手で顔を抑え、涙を流し、自己嫌悪するかのように言葉を漏らすジェラール。

 

ジェラールのその姿を見て、エルザ自身も、体を小刻みに震わせていた。

 

 

「(これが……あのジェラール? まるで……)」

 

 

 

──昔のジェラールに戻ったようだ……

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

一方…川の急流に流されて滝壺へと転落してしまったナツ、ティアナ、ルーシィの3人は……

 

 

「ん? 痛たた……」

 

 

どこか樹海の奥地…そこで目覚めたルーシィは、腕のキズを抑えながら起き上がる。

 

 

「あれ? 治療……てか何!? この服!」

 

 

よく見ると、腕のキズには治療が施されて包帯が巻かれており、服装も先ほどまでとは違う綺麗なものへと変わっていた。

 

 

「星霊界の御召し物でございます。ボロボロでございましたので」

 

 

「バルゴ!!?」

 

 

ルーシィの疑問に答えたのは、ルーシィの星霊であるバルゴであった。

 

どうやら彼女が滝壺へと落ちたルーシィたちの救出、および治療と着替えを行なったようだ。

 

 

「う…んん……」

 

 

「ここ……どこだ!?」

 

 

すると、先ほどまで気を失っていたナツとティアナが目を覚ます。

 

そんな2人の服装も、ルーシィと同じものに変わっていた。

 

 

「3人で、お揃いとなっております」

 

 

「いらんお世話!!!」

 

 

バルゴの余計な気遣いにツッコミをいれるルーシィ。

 

 

「ジェラール!!! あの光はどこだ!!?」

 

 

「あそこよ!!」

 

 

ティアナが指差す方向には、目的地である光の柱が見えていた。しかし、黒かったハズの光は白い光へと変わっていた。

 

 

「近いわ。てか…色が変わってない?」

 

 

「ええ……3人が気絶していらした間に、黒から白へと」

 

 

ルーシィの問いに淡々と答えるバルゴ。

 

 

「むぐぐぐぐ……」

 

 

そして立ち上る白い光を恨めしそうに唸りながら睨むナツ。

 

 

「ぐぐぐ……はぁ」

 

 

しかし、すぐに落ち着いたように息を吐く。

 

 

「落ち着いた?」

 

 

「ああ」

 

 

そう言うティアナの言葉に頷きながら答えると、2人はすぐさまルーシィに視線を移した。

 

 

「危なかった。ありがとな」

 

 

「ルーシィのお陰で命拾いしたわ。ありがとう」

 

 

そして、優しい笑顔を浮かべながらルーシィにお礼を言ったのであった。

 

 

「な…なによいきなり」

 

 

そんな2人にお礼を言われ、ルーシィは照れ臭そうに頬を染める。

 

 

「でぇきてぇる」

 

 

「どこでハッピーのマネなんか覚えたの? てか使いどころ合ってないし」

 

 

そう言って呆れながらバルゴにツッコミを入れるルーシィ。

 

 

「そういや、ハッピーは?」

 

 

「ウェンディやヴァイスさんたちもいないし……エルザさんとも一緒じゃないの?」

 

 

「みんなはぐれちゃった」

 

 

「仕方ねえ、オレたちだけであの光に行くか」

 

 

「そうね、あの光の出所にニルヴァーナがあるとわかってるハズだから、みんな自然とあそこに集まるハズよ」

 

 

ナツの言葉に同意するようにティアナが頷きながらそう言葉を口にする。

 

 

「姫…私はこれで失礼します」

 

 

「あ!! バルゴ……

 

(今…自分(バルゴ)自身の魔力で(ゲート)をくぐって来てた……もしかしてあたし…今魔力0!!?)」

 

 

星霊界へと帰っていくバルゴを見て、ルーシィは今の自分の状態を確認する。

 

 

ガサッ

 

 

「ひっ!」

 

 

「誰!?」

 

 

突然背後の茂みが揺れ、小さく悲鳴を上げるルーシィと警戒心を露にするティアナ。そして茂みから出てきたのは……

 

 

「シェリー!!!」

 

 

どこか虚ろな目をしたシェリーであった。

 

 

「よかった!! 無事だったんだね」

 

 

「お前、確かガルナ島の…」

 

 

「どこまで遡ってんのよバカナツ」

 

 

現れたシェリーの無事に喜ぶルーシィと、ナツの発言に呆れながらツッコミをいれるティアナ。

 

 

「見つけた。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士」

 

 

「? 何?」

 

 

しかし、シェリーはナツたちを見ると、ゆっくりと口角を吊り上げた。

 

 

「くくく」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

そして不気味に笑いながら周囲の木を操り、ナツたちを攻撃しようとするシェリー。すると……

 

 

「ストーーーーップ!!!!」

 

 

「バカヤロウがーーーっ!!!!」

 

 

「がふあ!」

 

 

シェリーの背後からグレイとスバルが現れ、2人がかりでシェリーを押さえ込んだ。

 

 

「グレイ!!!」

 

 

「スバル!!!」

 

 

「ティア!! みんな!!!」

 

 

「無事かお前ら!!」

 

 

「放せ!!! くそっ!!! まだ生きていたのか!!!! リオン様とギンガの仇っ!!!!」

 

 

グレイとスバルに押さえ込まれ、叫びながらジタバタと暴れるシェリー。

 

 

「こいつ…あの光の後、急におかしくなりやがってよォ」

 

 

「お前もさっきまでおかしかったじぇねーか!」

 

 

「何言ってるのナツ? 私はグレイさんとずっと一緒にいたけど、ナツとは一度も会ってないよ」

 

 

「ナツ…あれはニセモノよ」

 

 

「やっぱり……どうりでおかしいと思ったわ」

 

 

妖精メンバーがそんな会話をしている間にも、シェリーは暴れ続ける。

 

 

「許さない!!! リオン様とギンガの仇!!!!」

 

 

「誰と誰の仇だって?」

 

 

「!」

 

 

後ろから聞こえてきた声に、一斉に振り返る一同。

 

 

「オレたちを勝手に殺すんじゃない」

 

 

「心配をかけたわね、シェリー」

 

 

そこには……ボロボロの姿だが、間違いなく生きているリオンとギンガの2人が立っていた。

 

 

「リオン様…ギンガ……」

 

 

そんな2人を信じられないものを見るような目で見つめるシェリー。

 

 

「しぶてぇんだコイツは」

 

 

「ギン姉もすっごく頑丈だしね!」

 

 

「貴様等ほどじゃない」

 

 

「そうね、頑丈さで言われたら妖精の尻尾(フェアリーテイル)には敵わないわ」

 

 

「何だとォ!!?」

 

 

「噛み付くような事じゃないでしょ」

 

 

ナツたちと元気な様子で会話するリオンとギンガを見て、シェリーはポロポロと涙を流し……

 

 

「よかっ……た……」

 

 

安心したようにそう呟き、その場で意識を失ったのであった。

 

その瞬間……シェリーの体から白い光のようなモノが飛び出してくる。

 

 

「何だ!!?」

 

 

「やっぱり何かに取り付かれて…」

 

 

「これが…ニルヴァーナ」

 

 

空中で霧散していく白い光を見て、ルーシィは小さくそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

場所は戻り……ニルヴァーナの封印場所。

 

 

「テメェの記憶がねえのはよくわかった。どうりで心の声が聴こえねえわけだ」

 

 

「!!」

 

 

六魔将軍(オラシオンセイス)!!?」

 

 

物陰から出てきたコブラに驚愕するエルザとジェラール。

 

 

「どうやってここまで来た? で……なぜニルヴァーナの封印を解いた?」

 

 

相棒の毒蛇…キュベリオスが睨みを利かせながらコブラがそう問い掛けると、ジェラールは一瞬だけ苦しげな表情を見せた後、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「眠っている時に誰かの声が聞こえた、『ニルヴァーナを手に入れる』……と。かすかにその魔法と隠し場所は覚えていた。これは危険な魔法だ、誰の手にも渡してはいけない。

 

だから完全に破壊するために封印を解いた」

 

 

「な……!!!!」

 

 

「ニルヴァーナを破壊する…だと?」

 

 

ジェラールのその言葉にコブラは驚愕し、エルザは意外そうな表情で呟く。

 

 

「〝自律崩壊魔法陣〟をすでに組み込んだ。ニルヴァーナはまもなく、自ら消滅するだろう」

 

 

そう言うと同時に、出現しつつあるニルヴァーナに、まるでヒビ割れていくような魔法陣が出現する。

 

 

「テメェ!!!! 何て事を!!!! くそぉーーーっ!!!!」

 

 

それを見たコブラは憤慨しながら魔法陣を解除しようとニルヴァーナへと駆け寄る。

 

 

「その解除コードはオレしか知らない」

 

 

「ジェラール」

 

 

ジェラールの意外な行動に戸惑うエルザ。

 

 

「なんだよこの高度な魔法陣は……このままじゃニルヴァーナが崩壊する!!!! ジェラール!!!! 解除コードを吐きやがれっ!!!!」

 

 

何とか魔法陣を解除しようとするコブラだが、解除コードがわからず苦戦する。そして、その解除コードを吐かせようとジェラールを問い詰めようとするが……

 

 

「コプッ……」

 

 

ジェラールのその口からは…真っ赤な血反吐が吐き出された。そんなジェラールを見て、目を見開くエルザとコブラ。

 

 

「エルザ…その名前からは優しさを感じる。優しくて、明るくて、暖かさを感じる。きっと君はオレを憎み続ける。それは仕方ない、当然の事だ。しかし憎しみは心の自由を奪い、君自身を蝕む」

 

 

「お……お前……」

 

 

「オレはそこまで行けない……君の前には行け…ない…」

 

 

そこでエルザは…ジェラールの異変に気づいた。

 

 

「ジェラールから解放…され…るんだ。君の憎しみも悲しみ…も……オレが…つれていく」

 

 

「こいつ…自らの体にも、自律崩壊魔法陣を…!!!!」

 

 

そう……ジェラールの体には、ニルヴァーナに浮かび上がっているものと同じ、自律崩壊魔法陣が浮かび上がっていた。

 

 

「君は、自由だ……」

 

 

「ジェラーーーーール!!!!!」

 

 

そう言って倒れるジェラールに、エルザが彼の名を叫びながら駆け寄り、彼の胸倉を掴む。

 

 

「許さんっ!!! このまま死ぬ事は私が許さん!!!! お前には罪がある!!!! 思い出せ!!! 何も知らぬまま楽になれると思うな!!!! それでお前がキズつけた者たちに償えると思うな!!!!

 

生きてあがけっ!!!! ジェラーール!!!!」

 

 

涙を流しながらジェラールに向かって必死にそう叫ぶエルザ。

 

 

「エルザ…なぜ……君が涙を……」

 

 

ジェラールにそう言われ、エルザは初めて自分が涙を流している事に気がつく。

 

 

「やさしいんだな…」

 

 

「ジェラール!!!! しっかりしないかっ!!!!」

 

 

そう言って再び力なく地面に倒れるジェラール。そんな彼に必死に呼びかけるエルザ。

 

すると……

 

 

「これは一体何事か…?」

 

 

突如聞こえてきた新たなる訪問者の声……全員がそちらに視線を向けると、そこにはブレインが立っていた。

 

 

「自律崩壊魔法陣…」

 

 

「ブレイン、ジェラールが組み込みやがった!!! まずいぜ!!! このままじゃせっかくのニルヴァーナが消滅しちまう!!!!」

 

 

コブラの言葉を聞いて、口元にニッと笑みを浮かべるブレイン。

 

 

「案ずるなコブラよ。私がなぜ(ブレイン)というコードネームで呼ばれているか知っておろう? 私はかつて魔法開発局にいた。その間に我が知識をもって造り出した魔法は数百にものぼる。その一つが、自律崩壊魔法陣。私がうぬに教えたのだ、忘れたのか? ジェラール」

 

 

そう言いながらつかつかとニルヴァーナに歩み寄るブレイン。そしてブレインはニルヴァーナの前に立ち……

 

 

「解除コードなど無くとも……魔法陣そのものを無効化できるのだよ、私は…」

 

 

そう言って手を翳すと同時に、ニルヴァーナに浮かんでいた自律崩壊魔法陣が砕けるように消滅した。

 

 

「そんな…」

 

 

「おおっ!!!!」

 

 

ブレインの行動にジェラールは声を震わせ、コブラは歓喜の声を上げた。

 

そしてブレインは、ジェラールの体にも浮かんでいる自律崩壊魔法陣に気がつく。

 

 

「自らの体にも自律崩壊魔法陣だと? 解除コードと共に死ぬ気だったというのか?」

 

 

「エーテルナノの影響で記憶が不安定らしい。どうやら自分が悪党だった事も知らねえみてえだ」

 

 

「なんと…滑稽な…ふはははははっ!!! 哀れだなジェラール!!!! ニルヴァーナは私が頂いたァ!!!!」

 

 

倒れるジェラールを笑い飛ばし、そう言い放つブレイン。

 

 

「させるかァ!!!!」

 

 

そしてそれを阻止しようと剣を構えて駆け出すエルザだが……

 

 

「目覚めよ!! ニルヴァーナ!!!」

 

 

「!!!」

 

 

ブレインの声に呼応するかのように光が増し、地面が盛り上がる。

 

 

「ぐぁっ」

 

 

「エルザ!!!!」

 

 

そして盛り上がった地面から光が溢れ出し、エルザは空中に投げ出される。

 

 

「姿を現せェ!!!!」

 

 

「おおおおっ!!!! 聴こえるぞっ!!!! オレたちの未来が!!!! 光の崩れる音がァ!!!!」

 

 

ブレインとコブラがそう言うと同時に、地面から更に光が溢れ出す。

 

 

「ジェラール!!!」

 

 

「エルザ!!!」

 

 

その光の中で、エルザとジェラールは互いに手を伸ばして掴もうとする。

 

 

 

その瞬間……今までで一番巨大な光の柱が立ち上り、その光景を樹海にいる全員が目撃した。

 

 

 

そして光が出現すると同時に、樹海の地面から何本もの岩でできた触手が出現する。

 

 

「何だーーーーっ!!?」

 

 

「これは…触手!!?」

 

 

「そこら中の地面から……」

 

 

「ていうか、ここにいたら危ないよ!!!」

 

 

「ひえーーっ!」

 

 

触手が出現するたびに振ってくる岩から身を守るナツたち。

 

 

 

そして次の瞬間には……8本もの触手のような足を持った巨大都市……ニルヴァーナの本体が出現した。

 

 

 

「ついに…ついに手に入れたぞォ!!!! 光を崩す最終兵器、超反転魔法ニルヴァーナ!!!! 正規ギルド最大の武器である結束や信頼は、今……この時をもって無力となる!!!!」

 

 

ニルヴァーナの頂点から高らかに響いてくるブレインの叫び。

 

 

「く…うう……」

 

 

そしてそのニルヴァーナの側面には、エルザがジェラールの手を掴み、もう片方の手で足場を掴んでいる宙吊り状態となっていた。

 

 

「エルザ…」

 

 

「自分の体にかけた自律崩壊魔法陣を解け。お前には生きる義務がある。たとえ醜くても…弱くても…必死に生き抜いて見せろ……」

 

 

そう言って自分の体とジェラールを足場に引っ張り上げるエルザ。

 

 

「オレは…ニルヴァーナを止められなかった。もう……終わりなんだ……」

 

 

「何が終わるものか……見てみろ」

 

 

諦めの言葉を口にするジェラール対し、そう言い放つエルザ。そしてそんな彼女の視線の先には……

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

ニルヴァーナの足の一本にしがみ付き、本体に向かって駆け上がっているナツ、ティアナ、ルーシィ、グレイ、スバルの姿があった。

 

 

「これをつたって本体に殴り込みだー!」

 

 

「てか、お前ら3人何でペアルック?」

 

 

「ホントだっ!!! 3人だけズルイ!!!」

 

 

「知らないわよ!!!」

 

 

「そんな事言ってる場合じゃないでしょバカスバル!!!」

 

 

そんな会話をしながら足をつたい、ニルヴァーナへと駆け上がっていくナツたち。

 

 

「行け……妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

「あなたたちなら……きっと止められる」

 

 

そんなナツたちを、リオンとギンガが信頼の言葉を口にしながら見送る。

 

 

そして…ニルヴァーナに向かっているのはナツたちだけではない。

 

 

「シャルル!! エリオ君!! キャロちゃん!! 私たちもあそこに行こう!!!」

 

 

「わかってる!!!」

 

 

「うん!!! お願いフリード!!!」

 

 

「グオォォォオオオ!!!」

 

 

シャルルに抱えられたウェンディと、フリードに跨ったエリオとキャロも空からニルヴァーナに向かい……

 

 

「つかまってくださいデス!!!」

 

 

「ウム!!!」

 

 

ジュラとホットアイは、ナツたちと同じくニルヴァーナの足の一本にしがみついて登って行った。

 

 

ニルヴァーナが目覚めたにも関わらず、誰一人として諦めていない光景に、ジェラールは言葉を失う。

 

 

「私たちは決して諦めない。希望は常に繋がっている。生きて、この先の未来を確かめろ、ジェラール」

 

 

そんなエルザの言葉は……ジェラールの耳にしっかりと響いていった。

 

 

 

 

 

つづく

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