LYRICAL TAIL   作:ZEROⅡ

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思いのほか早く仕上がりました。


感想お待ちしております。


優しい言葉

 

 

 

 

 

 

ついにそれぞれの塔に配置された9つの結界の魔水晶(ラクリマ)が破壊され、敵の本拠地であるヴィネアの塔が解放された。

 

 

「塔の結界が解除された…」

 

 

「エリオ君たちがやったんですね!!」

 

 

結界が解除された塔を見てそう呟くリインフォースと、感嘆の声を上げるウェンディ。

 

 

「これで姉ちゃんを助けに行ける!!! 待ってろよ姉ちゃーーん!!!!」

 

 

すると、エルフマンがそう叫びながらヴィネアの塔に突入していった。

 

 

「お、おい待てエルフマン!!!」

 

 

すぐさまザフィーラが静止の声をかけるが、現在エルフマンには姉であるミラジェーンを助ける事しか頭に無い為、その声が届く事はなかった。

 

 

「……仕方ない、我らも塔の中に──っ!!?」

 

 

そう言いかけたザフィーラの目の前に、いくつもの魔法陣が出現する。そしてその魔法陣からは、再び大量のガジェットが出現した。

 

 

「またガジェットだと!!?」

 

 

「私たちを塔の中に入れぬつもりか……」

 

 

「一体どれだけの数がいるって言うの?」

 

 

ギルドメンバーたちが戦っているガジェットもまだ残っているというのに、またもや出現したガジェットの群生を前にザフィーラとリインフォース、そしてシャマルは少々ウンザリしたような声を上げる。

 

すると……

 

 

「かぁーーーー!!!!」

 

 

自身の魔法…巨人(ジャイアント)で巨大化したマカロフが、その巨大な平手でガジェットの群生を文字通り叩き潰した。

 

 

「ザフィーラ、リインフォース、この場の指揮はお前たちに任せる。スカリエッティとはギルドマスター同士、ワシが決着を付けてくる」

 

 

「……わかりました」

 

 

「お気をつけて」

 

 

ザフィーラとリインフォースの了承を得ると、マカロフは巨人化を解除し、そのまま堂々とした足取りで塔の中へと消えていった。

 

 

「ザフィーラ!! リインフォース!!!」

 

 

「どうした、ウォーレン?」

 

 

すると、念話(テレパシー)の魔法を得意とする魔導士、ウォーレンが慌てた様子で2人に駆け寄ってきた。

 

 

「今、塔の中に突入した奴等と、救援に向かった奴等全員との連絡が取れた」

 

 

「!!」

 

 

「それで、皆の状況は!!?」

 

 

「ナツとハッピー、それからティアナとシグナムとヴィータは、敵の本拠地に突入するらしい。はやてとシャッハは一度、こっちに合流するそうだ」

 

 

「そうか」

 

 

「エリオ君やスバルさんたちは大丈夫なんですか!!?」

 

 

「エリオとスバルはさっきも言った通り深手を負ってるが、命に別状はない。救援に向かったカナとマックスが塔の外に連れ出してくれてる、安心してくれ」

 

 

ウォーレンのその言葉に、ウェンディはホッと息を吐く。

 

 

「エルザちゃんやフェイトちゃんの方はどうなってるの?」

 

 

「……救援に向かった雷神衆からの報告によると、フェイトは傷を負ってはいるがそこまで酷くはないから問題はないらしいが……エルザの方は全身にかなり酷い深手を負って意識がない状態らしい」

 

 

「そんな……!!!」

 

 

「あのエルザが!!?」

 

 

その報告を聞いたジュビアとアギトは驚愕の余り絶句する。

 

 

「私たちがもうひと頑張りしないといけないわね、ウェンディちゃん」

 

 

「はい、シャマル先生!!」

 

 

治療系魔法が使えるシャマルとウェンディはこれから来るであろう傷ついた仲間を癒す為に意気込みを見せる。

 

 

「……あら?」

 

 

すると、突然ジュビアがキョロキョロと周囲を見回しながらそんな声を上げる。

 

 

「あら? あらら!!?」

 

 

「何だよジュビア? 急に変な声上げて、どうしたんだよ?」

 

 

見かねたアギトがそう問いかけると、ジュビアは声を張り上げて叫んだ。

 

 

 

「グレイ様がいない!!!!」

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

「「何っ!?」」

 

 

ジュビアのその叫びに全員が先ほどまでグレイが眠っていた場所に目を向けると、確かにそこにグレイの姿がなかった。

 

 

「本当です!! グレイさんがいません!!! さっきまでそこに寝かせてたのに……!!!」

 

 

「まさか……あの塔の中へ!!?」

 

 

「そんな……治療したとはいえ、まだ動き回れる体じゃないのに……!!!」

 

 

ウェンディがそう叫び、リインフォースはグレイがヴィネアの塔に突入したのではないかと推測する。そしてグレイの傷の酷さを知っているシャマルは愕然としながら声を上げる。

 

 

「……ってオイ!! よく見りゃガジルの奴もいねーんだけど!!!?」

 

 

アギトの言う通り、いつの間にかガジルの姿が消えている事に気がつく。

 

 

「ルールー!!! ガジルはどこ行った!!?」

 

 

「塔の中」

 

 

「だと思ったよチキショー!!!」

 

 

予想通りのルーテシアの返答に、アギトは半ばヤケクソ気味に叫ぶ。

 

 

「……まったく、どいつもこいつも……」

 

 

頭を抱えながら口にしたザフィーラのそんな呟きは……周囲の戦闘音と喧騒の中に虚しく消えていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十五話

『優しい言葉』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……ヴィネアの塔内部にある牢獄。

 

 

「………………!!」

 

 

無限の欲望(アンリミテッドデザイア)のチーム・ナンバーズの1人……NO.10のディエチは迷っていた。

 

彼女の目の前に居るのは、現在この塔を攻めてきている妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士……ミラジェーンが投獄されている牢屋がある。

 

本来なら彼女を見張るのがディエチの役目なのであるが、先ほどチームメイトであるクアットロからミラジェーンを始末するように指示が出された。しかし従来、闇ギルドの一員とは思えないほど優しい性格をしている彼女は、その指示に戸惑っていた。

 

彼女を殺すか…殺さないか…その2つの選択肢にディエチは激しく葛藤していた。

 

 

「ディエチちゃん」

 

 

「!!」

 

 

すると、牢屋の中にいるミラジェーンに声を掛けられ、ディエチは反射的に顔を上げる。

 

 

「さっきからずいぶん浮かない顔をしてるけど、どうかしたの?」

 

 

「……別に」

 

 

貴女を殺すか否かで迷っている……などと言えるハズもなく、ミラジェーンの問いに対して素っ気無くそう答えるディエチ。

 

 

「……私を殺すように指示でもされた?」

 

 

「!!?」

 

 

「やっぱりね」

 

 

しかし、そんなディエチの心境を見透かしたような問い掛けに、ディエチは表情を強張らせる。そしてそんなディエチを見たミラジェーンは納得したように呟く。

 

 

「こんな状況だもの、大体の察しはつくわ」

 

 

「…………」

 

 

ディエチは答えず、ただ俯く。

 

 

「それで……貴女は何を迷っているの?」

 

 

「え?」

 

 

「私は貴女達にとって敵ギルドの一員であり捕虜……始末するように頼まれたのなら、普通は迷わず実行するハズよ。でも貴女はそうせずに、迷っている。それはどうして?」

 

 

「………………」

 

 

優しく問い掛けるミラジェーンに対して、顔を俯かせたまま無言を貫いていたディエチだが、やがてゆっくりと口を開く。

 

 

「わ…私は──」

 

 

そして何か言葉を口にしようとしたその時……

 

 

『もしもしディエチちゃ~ん?』

 

 

「!!」

 

 

部屋に備え付けてあった通信用魔水晶(ラクリマ)からクアットロの声が聞こえ、ディエチは慌てた様子でその通信に応じる。当然ミラジェーンに聞き取られないように注意を払いながら。

 

 

「ど、どうしたのクアットロ?」

 

 

『それがねぇ、その塔に張ってあった結界が破られちゃったみたいなのよ~』

 

 

「えっ……結界が破られたって……まさか!?」

 

 

『そう、結界の魔水晶(ラクリマ)の警護に当たっていたデーモンの四天王……それに番犬ちゃんにノーヴェちゃん、ウェンディちゃん、セインちゃん、チンクちゃんも奴等にやられちゃったのよ』

 

 

「そんな……ノーヴェにチンク姉まで……!!!」

 

 

ノーヴェやチンクたちの実力を知っているディエチは彼女たちがやられたと聞いて信じられないと言いたげな表情をする。

 

 

『それに加えて、すでにその塔は妖精の尻尾(フェアリーテイル)によって包囲されてるわ。一応入り口前にガジェットの増援を送っておいたけど、それも時間稼ぎにしかならないわよねぇ。と言うワケでディエチちゃん、その女の始末は後回しにして、任務変更よ』

 

 

そう言うとクアットロは、ディエチに新たな任務を与える。

 

 

『その塔にいる侵入者を、1人残らず排除してちょうだい。もちろん、排除の意味は……わかってるわよね?』

 

 

「……うん」

 

 

クアットロの言葉には、遠回しに侵入者を殺せという意味が含まれていた。それを察したディエチは、俯きながら頷く。そしてそれを見たクアットロは、魔水晶(ラクリマ)越しに意地の悪い笑みを浮かべると……

 

 

『そうそう、もしその任務が上手くいったら……チンクちゃんたちの失態もチャラにしてあげるわね』

 

 

と…言い放った。

 

 

「えっ……?」

 

 

ディエチは一瞬、クアットロの言っている事の意味がわからず、首を傾げる。

 

 

『だから、ディエチちゃんの任務が上手くいったら、チンクちゃんやノーヴェちゃんたちに対するお咎めはなし。無罪放免にしてあげるって言ってるの』

 

 

「ほ…本当?」

 

 

『うん♪ でもその代わり──もし失敗したら、貴女を含めた全員……どうなるかわかっているわよね?』

 

 

「!!!」

 

 

甘い声から一転…クアットロが低い声でそう言い放つと、ディエチは自身の体をブルッと震わせた。

 

 

『いいこと? 私たちナンバーズはドクターからの任務を忠実に遂行してこそ存在価値があるのよ。任務を失敗するようなナンバーズに価値はない……この事をしっかりと頭に刻んで任務に当たりなさい』

 

 

「う…ん……」

 

 

クアットロの無情な言葉に対し、ただ力無く頷く事しかできないディエチ。

 

 

『それじゃ、お願いね~♪』

 

 

その言葉を最後にクアットロからの通信が切れた。

 

 

「…………っ!!!」

 

 

そして葛藤するように顔を俯かせていたディエチは、やがて決心したように顔を上げると、牢屋のミラジェーンへと視線を向ける。その目はまるで、機械のように冷たかった。

 

 

「ディエチ…ちゃん?」

 

 

先ほどとはまったく違うディエチの冷たい視線に、ミラジェーンは戸惑いを隠せない。

 

 

「……お前の始末は後回しになった。これより私は、新たな任務に移る」

 

 

そう言ってディエチは茶色のローブを身に纏うと、部屋の片隅に置いてあった布に包まれた大筒のようなモノを肩に担ぐ。

 

 

 

 

 

「この塔の侵入者を1人残らず──消す」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「おーいヴィヴィオー!!! ミラー!!! どこだー!!!」

 

 

「この塔…さっきの塔以上に入り組んでるし広いから、探すのは一苦労だね」

 

 

その頃……ヴィネアの塔内への侵入に成功したナツとハッピーは捕まっている2人を探して塔内を駆け巡っていた。しかし、先ほどまで居た塔よりも高大なヴィネアの塔で2人を探すのは至難であった。

 

 

「うおらぁ!!!」

 

 

ナツは手近な壁を炎を纏った蹴りで破壊して部屋に突入し、その部屋の中を見回し、誰もいない事を確認すると……

 

 

「次ぃっ!!」

 

 

すぐそこに扉があるのにも関わらず、その隣の部屋の壁も破壊し、これを何度も繰り返していた。

 

 

「相変わらず扉とかガン無視だなぁ」

 

 

それを見ながら呆れたような口調でそう言うハッピー。すると……

 

 

「ナツー!! ハッピー!!」

 

 

「ん? おお、ティア!!!」

 

 

「ティアナだー!!!」

 

 

そこへティアナが駆け寄ってきて、2人と合流した。

 

 

「こっち方面が騒がしかったから来てみれば、やっぱりナツだったのね。どうせまた扉を無視して壁を壊しまくってたんでしょ?」

 

 

「あい。さすがティアナ、正解なのです」

 

 

ティアナの言葉にハッピーがそう答えると、ティアナは「ハァ…」と呆れたように溜息をついた。

 

 

「とりあえず2人とも、ヴィヴィオとミラさんを探すのは後回しよ」

 

 

「何でだよ!!?」

 

 

「忘れたのバカナツ。今回の戦いにはタイムリミットがあるのよ」

 

 

「確か、転送魔法の力を持った魔水晶(ラクリマ)だよね?」

 

 

「そうよ。その魔水晶(ラクリマ)が起動するまでの2時間がタイムリミット……残り時間はもう30分を切ってるわ」

 

 

「んじゃあ、その魔水晶(ラクリマ)をぶっ壊せばいいんだな?」

 

 

「そうよ。それさえ壊せばもう時間を気にせずに2人の捜索に専念できるわ」

 

 

ティアナがそこまで説明すると、ナツは意気揚々と炎の拳を自身の手のひらにぶつける。

 

 

「おしっ!! そうと決まったらさっそくその魔水晶(ラクリマ)を探すぞ」

 

 

「あいさー!!」

 

 

「ええっ!!」

 

 

そう言うとナツ、ティアナ、ハッピーの3人は探す対象を転送の魔水晶《ラクリマ》へと切り替え、塔内の捜索を開始したのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「うおぉぉおお!!! 姉ちゃーーん!!! どこだぁーーー!!!!」

 

 

一方…同じくヴィネアの塔内に侵入したエルフマンも、捕まっている2人(主にミラジェーン)を探して塔内を駆け巡っている。

 

そして……そんなエルフマンを遠くの物陰から視線を送っている影が1つ。

 

 

「侵入者を発見。排除する」

 

 

そう言うとエルフマンを見据えている影……ディエチは担いでいた大筒の布を解くと、巨大な砲身が露になった。そしてディエチはそのまま、その巨大な砲身を構える。

 

 

「IS発動…へヴィバレル」

 

 

エルフマンに狙いを定めながらディエチが呟くと、自身の武器……イノーメスカノンの砲身の先に橙色の巨大な魔法弾が集束される。

 

 

「っ……!!」

 

 

そして一瞬だけ……ディエチは顔をしかめると……

 

 

「……発射!」

 

 

その言葉と同時に、ディエチが構えたイノーメスカノンから凄まじい砲撃が放たれ、それは真っ直ぐにエルフマンへと向かった。

 

 

「んなっ!!?」

 

 

砲撃音に気づいたエルフマンが音のした方へと視線を向けると、強大な砲撃が自分に向かってきている事に驚愕する。そして……

 

 

 

ドゴォォォォォォオン!!!!

 

 

 

無情にも、放たれた砲撃が轟音と共に爆発した。

 

 

「命中確認……まずは1人」

 

 

砲撃の命中を確認したディエチは一息つくようにそう呟く。しかし……

 

 

「あっぶねぇ……」

 

 

「!!?」

 

 

爆煙の中から声が聞こえ、その方角へと視線を向けるディエチ。

 

 

「ビーストアーム〝鉄牛〟」

 

 

そこには、両腕を機械の様な魔物の腕へと接収(テイクオーバー)し、その腕をクロスさせてガード体制を取っているエルフマンの姿があった。

 

さすがにあの砲撃を両腕だけでは防ぎきれなかったのか、服などに多少ダメージがいっているが、エルフマン本人は気にした様子もなかった。

 

 

「そこに隠れてんのは……誰じゃい!!!」

 

 

そう言うとエルフマンは砲撃が飛んできた物陰へと向かって駆け出す。

 

 

「ビーストアーム〝黒牛〟!!!」

 

 

「!!」

 

 

そして今度は、腕を黒く太い魔物の腕へと接収(テイクオーバー)し、物陰に隠れているディエチに向かって強烈な拳を放った。

 

 

ドガァァァァアン!!!

 

 

しかしその拳は目的の人物には当たらず、その先にあった壁を砕く結果に終わった。

 

 

「ハズレ」

 

 

「!」

 

 

エルフマンは声が聞こえた方へと視線を向けると、そこにはイノーメスカノンを肩に担いだディエチが立っていた。

 

 

「テメェ……無限の欲望(アンリミテッドデザイア)か」

 

 

「そう。私は無限の欲望(アンリミテッドデザイア)、チーム・ナンバーズの1人……NO.10のディエチ」

 

 

「ならちょうどいい。姉ちゃんの居場所を吐かせてやる」

 

 

ディエチが名乗ると、エルフマンは自身の拳を自身の手のひらにブツけてそう言い放つ。

 

 

「姉ちゃん? ミラジェーン・ストラウスのこと?」

 

 

「そうだっ!!! 姉ちゃんはどこだぁ!!!」

 

 

そう叫びながら、エルフマンは再び黒牛の腕をディエチに向かって振るうが、ディエチはそれを後ろに大きく飛んで回避する。

 

 

「彼女ならこの先の牢獄に閉じ込めてあるよ。それを見張るのも私の任務だったから」

 

 

「なら、そこまで案内してもらおうか」

 

 

「それは無理。私の今の任務は、お前たち侵入者の排除だから。そしてそれが終わったら……次は彼女の番だ」

 

 

「何?」

 

 

「私たちのマスターから聞いてるでしょ? 彼女はもう用済み……だから始末するんだ」

 

 

それを聞いた瞬間……エルフマンからブチリと、何かが切れる音がする。

 

 

「テメェェェエエエエエ!!!!!」

 

 

エルフマンが雄叫びの如き叫びを上げると、エルフマンは獣人のような姿へと姿を変えた。これこそ、エルフマンの全身接収(テイクオーバー)……獣王の魂(ビーストソウル)である。

 

 

「……………」

 

 

すると、エルフマンのその姿を見たディエチはクルリと体を反転させて、そのまま走り出した。

 

 

「逃がすかぁっ!!!」

 

 

そんな彼女を見て逃げたと判断したエルフマンは、その強靭な脚力でディエチの跡を追った。

 

 

「うおおおおおっ!!!」

 

 

そしてすぐに追いついたエルフマンはディエチに向かって拳を振るうが、ディエチは軽いステップでそれを回避すると、再びエルフマンに背を向けたまま走り出す。

 

 

「貴様ぁ!!! 漢なら正々堂々戦わんかぁっ!!!!」

 

 

「私は女」

 

 

エルフマンの発言に軽いツッコミを入れながらも、走り続けるディエチ。

 

 

「ぬぉぉおおおおっ!!!!」

 

 

それでもエルフマンはディエチを追いかけながら両の拳を振り回すが、それがディエチに当たる事はない。

 

 

「(……そろそろか)」

 

 

すると、ディエチは走りながら肩に担いでいたイノーメスカノンにチラリと視線を向ける。

 

 

「どこに逃げようと無駄じゃい!!! オレの獣の脚力からは逃げられん!!!」

 

 

「そう。じゃあ……もう逃げない」

 

 

そう言うとディエチは懐から1つのボールのような球体を取り出すと、それを天上に向かって放り投げる。

 

 

「!?」

 

 

反射的についそれを目で追ってしまったエルフマン。そしてその球体が天上に衝突した瞬間……

 

 

カッッ!!!!

 

 

「ぬうっ!!? 閃光弾か!!?」

 

 

突然周囲が眩い光に包まれ、その眩しさに怯んだエルフマンは両目を閉じてしまう。

 

 

「くっ……!! むっ? 奴はどこに行った!!?」

 

 

光が止むと、そこにディエチの姿はなく、エルフマンは周囲をキョロキョロと見回す。すると……

 

 

「へヴィバレル……チャージ完了」

 

 

「!!?」

 

 

そんな声が背中から聞こえ、エルフマンは視線だけを自身の背後へと向ける。するとそこには、エルフマンとほぼゼロ距離の状態で、イノーメスカノンを構えたディエチの姿があった。

 

 

「イノーメスカノン……ゼロ距離発射!!!」

 

 

そしてそのままディエチは……引き金を引いた。

 

 

ズドォォォオオオオオン!!!!

 

 

「ぐおぁぁああああああああっ!!!!!」

 

 

ディエチの強力な砲撃を、ゼロ距離で喰らってしまったエルフマンは断末魔と共に大きく吹き飛ばされてしまった。

 

 

ドガァァアアン!!!!

 

 

「!!?」

 

 

そして吹き飛ばされたエルフマンは、そのまま激突した壁を突き破り、とある部屋の中で倒れた。

 

 

「エルフマン!!!?」

 

 

何の偶然かその部屋は、ミラジェーンが閉じ込められている牢獄であった。

 

弟であるエルフマンがボロボロの姿で飛び込んできたのを見て、ミラジェーンは鉄格子に掴みかかる。

 

 

「ね…姉ちゃん……?」

 

 

朦朧とする意識の中、エルフマンはミラジェーンの姿を確認すると、安堵の息を吐く。

 

 

「よか…った……無事…だったん…だ」

 

 

「エルフマン!!! しっかりしてエルフマン!!!!」

 

 

涙を浮かべながら鉄格子越しに必死に呼びかけるミラジェーン。

 

 

「だ…大丈夫だよ…姉ちゃん……こんな傷、たいした事ねえ……だから今、助けてやる」

 

 

そう言ってエルフマンはボロボロの体に鞭打ち、ゆっくりと起き上がろうとする。

 

 

「それは無理」

 

 

「ぐあっ!!」

 

 

「エルフマン!!!」

 

 

しかしその行動は、ディエチに体を踏み付けられた事により強制的に止められた。

 

 

「ちょうどいいや、姉弟仲良く消してあげる」

 

 

そう言ってイノーメスカノンを構えるディエチ。

 

 

「ディエチちゃん!!! お願いやめて!!!!」

 

 

「っ……」

 

 

ミラジェーンの涙ながらの言葉に、ディエチは一瞬顔をしかめたが、すぐに何かを振り切るように首を横にブンブンと振る。

 

 

「まずはお前からだ」

 

 

ディエチは砲身を倒れているエルフマンへと突きつけ、エネルギーをチャージする。

 

 

「死ね」

 

 

そしてディエチは両目を閉じ、無情なる言葉を口にしたその時……

 

 

 

「(死……!!?)」

 

 

 

ミラジェーンの脳裏に、とある記憶が蘇る。

 

 

『ミラ…姉……』

 

 

それは……ミラジェーンとエルフマンの妹……リサーナが死ぬ直前の記憶であった。

 

 

「!!?」

 

 

その瞬間、背筋にゾクリと冷たいモノを感じたディエチは、チャージを中止して周囲を見回す。

 

 

「なに…この魔力……!?」

 

 

不気味な魔力を感じたディエチは、すぐにその魔力の発生源へと視線を向けた。

 

 

「ミラジェーン・ストラウス……」

 

 

「ああ…あああ……」

 

 

魔力の発生源であるミラジェーンは顔を俯かせながら、何やら小さな呻き声を上げている。

 

 

ブチッ

 

 

そして彼女の中から何かが切れる音が聞こえたその瞬間……

 

 

 

 

 

「あぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

彼女の体から、凄まじい魔力が放出された。

 

その魔力は地面を砕き…壁を抉り…牢屋の鉄格子さえも粉砕する程の旋風を巻き起こす。

 

そのまま放出された魔力は、ミラジェーンの体を包み込むように纏わり着いて行く。そして魔力の放出が止むと、そこに立っていたのは──

 

 

 

──長い銀髪を逆立たせ、まるで悪魔のような姿へと変貌したミラジェーンであった。

 

 

 

「あっ…あ……!!!」

 

 

変わり果てたミラジェーンの姿に絶句しているディエチ。

 

 

「消す」

 

 

するとミラジェーンは、その悪魔のような手で拳を作り、ディエチへと殴り掛かる。

 

 

「!!!」

 

 

ズドォオオン!!!

 

 

ディエチは咄嗟に横に飛んで攻撃を回避するが、その後ろにあった壁はミラジェーンの拳によって粉々に砕けてしまった。

 

 

「くっ……!!!」

 

 

それを見たディエチはイノーメスカノンを肩に担ぎ、部屋から出て行こうとするが……

 

 

バサッ

 

 

「なっ!!?」

 

 

ミラジェーンの背中から悪魔の翼が生え、その翼の機動力を使って、一瞬の内にディエチの眼前へと迫る。

 

 

「アァァ!!!」

 

 

「うぐっ!!!」

 

 

そしてそのままミラジェーンが振るった拳はディエチに命中し、殴られたディエチは地面に倒れる。

 

 

「うっ……久しぶりに…見たぜ」

 

 

すると、その光景を見ていたエルフマンが呟くように言葉を紡ぐ。

 

 

「姉ちゃん……魔人ミラジェーンの接収(テイクオーバー)……〝サタンソウル〟」

 

 

そして……サタンソウルとなったミラジェーンは、今度はディエチに強力な蹴りを叩き込む。

 

 

「きゃっ!!!」

 

 

それを喰らったディエチは地面をゴロゴロと転がりながらも立ち上がり、ミラジェーンに背を向けて走り出す。

 

 

「IS発動…ヘヴィバレル。チャージ開始」

 

 

イノーメスカノンにエネルギーをチャージしながらミラジェーンの攻撃を回避し、逃げ続けるディエチ。

 

 

「(正面からやり合っても勝てない……ならさっきみたいに隙を作って、フルパワーの砲撃を叩き込むしかない)」

 

 

そう考えながら、ディエチはミラジェーンの攻撃を回避し続ける。

 

ミラジェーンの攻撃は1撃1撃が速く強力で、ディエチにとっては一瞬も気が抜けない状況であった。そうしてしばらく逃げ続けていると……

 

 

「エネルギーフルチャージ完了」

 

 

とうとうイノーメスカノンにフルエネルギーが充填された。

 

 

「(あとは隙を作るだけ)」

 

 

そしてディエチは、懐から閃光弾を取り出し、天井に向かって投げつけた。

 

それを見たミラジェーンは、先ほどのエルフマンと同じく反射的にその閃光弾を目で追ってしまった。

 

 

カッッ!!!

 

 

「!!?」

 

 

そして閃光弾が炸裂し、その眩しさにミラジェーンは咄嗟に手で顔を覆う。

 

 

「(今だっ!!)」

 

 

その隙を見計らって、ディエチはイノーメスカノンの標準をミラジェーンに合わせる。そして……

 

 

「エネルギーフルパワー……発射ァ!!!!」

 

 

今までよりも強大で…強力な砲撃がミラジェーン目掛けて発射された。

 

 

「!!!」

 

 

閃光が止み、その砲撃に気がつくミラジェーンだが、時既に遅く……

 

 

 

ドガァァアアアアアン!!!!

 

 

 

砲撃が直撃し、大爆発が巻き起こった。

 

 

「ハァ…ハァ……やった」

 

 

それを確認したディエチは、小さく安堵の息を吐いた。

 

すると……

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 

「?」

 

 

突然、爆煙の中から地響きのような音が聞こえてきて、ディエチは咄嗟に音の発生源へと視線を向ける。

 

 

そして爆煙が晴れるとそこには──片手を翳した状態で佇んでいるミラジェーンが存在していた。

 

 

「(う…ウソ……私のフルパワーの砲撃を…片手で……!!?)」

 

 

目の前の信じられない光景に大きく目を見開くディエチ。

 

 

その間に、ミラジェーンの両手のひらに膨大な魔力が集束される。

 

 

そして……

 

 

 

ドッ…ゴォォォォォオオオオオオ!!!!!

 

 

 

ミラジェーンの放った魔力はとてつもない大爆発を起こし、それを喰らったディエチの悲鳴を掻き消すほどの大爆発が鳴り響いた。

 

 

「うぐっ…!!」

 

 

その攻撃によりボロボロになったディエチは地面に倒れる。そしてそんな彼女の目の前には、1人の悪魔がいた。

 

 

「ひいっ」

 

 

怯えた悲鳴を上げ、尻餅をついた状態で後ずさるディエチ。しかしそんな彼女にも、ミラジェーンは容赦なく殴り掛かる。

 

 

「(こ…これが……彼女の本当の姿…彼女の真の力!!! 殺られるっ!!!!)」

 

 

これから来るであろう痛みに、ディエチが覚悟したその時──

 

 

──ピタッ

 

 

ミラジェーンの拳は……ディエチの眼前で止まった。

 

 

「え?」

 

 

突然の出来事にディエチが戸惑っていると、ミラジェーンは魔法を解除し、いつもの彼女の姿へと戻った。

 

 

「ど…どうして……?」

 

 

「ディエチちゃん……あなた本当は……こんな事したくないんでしょ?」

 

 

「!!?」

 

 

ミラジェーンの言葉に、大きく目を見開くディエチ。

 

 

「な…何を言って……」

 

 

「私には分かるの。あなたはとっても優しい子だって」

 

 

そう言いながらミラジェーンは、優しい表情を浮かべながら言葉を続ける。

 

 

「私を始末しろって命令された時も、あなたはずっと迷っていた……本当は誰も殺したくない…誰も傷つけたくないから、あんなに迷っていたんでしょ?」

 

 

「……………」

 

 

「それだけじゃない……エルフマンや私に攻撃しようとした時、あなたは必ず目を瞑ってた。まるで私たちが傷つく姿を見たくないかのように……」

 

 

「……………!!!」

 

 

ミラジェーンの言葉に対し、ディエチは何も答えず、何かを堪えるように表情を強張らせている。すると、ミラジェーンはディエチの上体を起こし、彼女の手を優しく握り、言葉を続けた。

 

 

「そんなあなたが自分の心を殺してまで戦う理由……それはあなたに、守りたいものがあるからでしょ。自分の手を汚してまでも守りたい……大切なものが」

 

 

「!!!」

 

 

その瞬間……ディエチの両目から大粒の涙が溢れ出す。

 

 

「うっ…ぐっ……ひくっ……こんな事…本当はしたくない……したくないよぉ……!!!」

 

 

両目から溢れ出る涙を拭いながら、涙声でそう言うディエチ。

 

 

「でもやらなくちゃ…ぐすっ……私がやらないと…妹たちが…チンク姉が……みんなが処分されちゃう……!!! 私が…うぐっ……私が頑張らないと……!!!」

 

 

「ディエチちゃん……!!!」

 

 

泣きじゃくるディエチの体を、ミラジェーンは優しく抱き締める。

 

 

「あなたの姉妹を思うその気持ち……私にはよく分かるわ。私にもね、弟の他にもう1人……妹がいたの」

 

 

「……妹が…いた?」

 

 

「うん…その子はあなたと同じで、とっても優しい子だった。でも、一緒に行った仕事先でちょっとした事故があってそのまま……私は妹を守る事ができなかった……」

 

 

辛そうな表情で、自身の過去を語るミラジェーン。

 

 

「でもディエチちゃん、あなたはまだ間に合うわ」

 

 

「え……?」

 

 

「私に…あなたの姉妹を守る手伝いをさせて……妖精の尻尾(フェアリーテイル)で、あなたたち姉妹を保護できるようにマスターに頼んでみるわ」

 

 

「!!」

 

 

ミラジェーンの提案に、驚いた表情を浮かべるディエチ。

 

 

「だからあなたはもう……1人で苦しまないでいいのよ……ディエチちゃん」

 

 

「……うっ…うぅぅ……!!!」

 

 

ミラジェーンが優しい笑顔で言い放ったその言葉に、ディエチは再び両目一杯に涙を溜め……

 

 

「うあぁぁあああああああああっ!!!!」

 

 

ミラジェーンの胸に自身の顔を押し付け、大粒の涙を流した。そしてミラジェーンもそんな彼女を優しく抱きとめたのであった。

 

 

そんな2人の様子を、復活したエルフマンは……

 

 

 

「やっぱ……姉ちゃんには敵わねえな」

 

 

 

と……どこか誇らしげに呟きながら眺めていたのであった。

 

 

 

 

 

つづく




BOF編で出来なかったミラジェーン復活フラグの回収。
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