悪魔の占い師(更新凍結)   作:ベリアル

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一週間以内に次話投稿は奇跡


占い師の恋人

光沢のある赤い鎧、体の部位ごとに嵌められた宝玉。

 

「10秒……ふ、ふははははは!たった10秒でケリをつけるだと!?」

 

「そう言ってんだよ!」

 

一直線に背中に備えられたブースターが噴出。一気にコカビエルへと距離を詰めるものの、コカビエルは余裕で見切っている。赤い拳を避ける。

 

「トロいトロい!」

 

「油断はよくないといっただろ!」

 

即座に連携を図るゼノヴィアは背後から聖剣の双剣で連撃を繰り出す。

 

「余裕っていうんだよこれは!」

 

後ろ蹴りで腹を蹴り飛ばすことにより、地面を転がる。彼女を体全体で受け止め、転がる勢いを止める八幡。彼女の身を案じての行動と言われれば、認めるだろう。戦力の駒として使うからだ。

 

「す、すまない」

 

「いや、いい。それより聞け」

 

コカビエルには聞こえぬよう耳打ちする。念のため、読唇術を警戒して口元を手で返す。その所為か、声による空気が彼女の耳に直接触れ、くすぐったそうに声を漏らしていた。可能な限り、気にしないように話を続けた八幡の耳は赤くなっている。

 

八幡はコカビエルに一つの嘘を吐いていた。その時は役に立つかどうか分からなかった。結果的には少しは役に立つだろう。

 

八幡がゼノヴィアに耳打ちしている間、ラッシュをコカビエルにぶつける。速度と威力は次第に速くなっていくことに気付いた。それでも、余裕を崩さない。赤龍帝の力は強くても一誠自身の技術、格闘技が素人そのもの。速いだけなら、どうということはない。駄目押しに、一誠自身ついていけていない。

 

「あと7秒だ。確かに素晴らしい神器だが、俺に追いつくにはまだまだだな。1秒ごとに倍に増しても、根本的にお前が弱いのでは話にならんな」

 

「うるせえ!」

 

「残り8秒」

 

馬鹿にしているのか、攻撃を一切しない。時間切れになったら、無力であることを味わせて殺すつもりでいた。

 

「ワールド・オブ・ソード」

 

横から飛来する白銀の剣。それを体を逸らすだけで回避する。勢いがないせいで、校庭に突き刺さるだけで終わった。

 

「効力が切れたのは嘘か。ふん、今のお前はゴミ同様。……お前もな」

 

上からの斬撃を光の剣で防御。少し浮いていた状態から足が地面に着く。絶好のチャンス。

 

「らぁあああ!」

 

「無駄だぁ!」

 

9秒経過した腰の入った一撃は重たい。光の剣の前には無駄であった。時間切れを起こした一誠の姿は生身を表し、悔しそうに、疲弊しきった顔が地面に触れた。

 

「それが”世界(ワールド)”の正体か」

 

一誠に目もくれないで、八幡の足元にある巨大なスプリングを見た。

 

コカビエルの考察が正解に導かれる。

 

「物質変換と形状変化といったところか」

 

”世界(ワールド)”はあらゆる物質を別の物質に変えることが可能。その際、質量に見合っていれば、形状も変化可能。

 

スプリング。剣。クッション。鎖。全て校庭の砂から生み出した物体。ただし、生き物と液体は不可能。生き物は植物も含まれ、水や植物は作り出すことはできない。

 

「大当たり」

 

瞬間、ゼノヴィアは一誠を抱えた。その場から離れていき、異変が起きた。

 

ノヴィアつい先程、地面に刺さった剣から校庭に白銀が広がっていく。

 

「ワールド・オブ・ツリー」

 

「ぐぉお!」

 

白銀に変わった校庭から葉のない白銀の枯れ木が飛び出ると、コカビエルに襲い掛かる。枝分かれした白銀は範囲が広い。精々かすり傷程度のモノ、決定打にはならない。これで仕留めようなどとは微塵もかんがえていないのだから。

 

”世界(ワールド)”は基本、自分の手でしか発動はできない。剣を介して、”世界(ワールド)”の効果を発揮したのは八幡自身の技能である

 

「避雷針代わりだ」

 

なんとか逃げ切ったと思ったのも束の間、上空からの雷が降り注ぐ。コカビエルから離れた方向ではある。ツリーの傍にいれば、巻き添えをくらうだろう。

 

「力を見誤ったな」

 

冷静な表情に変わったコカビエルは巨大な光の槍をツリーに届く前に、雷をぶつけかき消した。雷は飛散し、朱乃は目を見開く。

 

コカビエルの言葉はどちらの意味なのか、コカビエルにしか分からない。自分の力が強いのか、朱乃が弱いのか。あるいは両方か。

 

これには予想外だったのか、素早く新たなカードを引く。

 

「いい加減、お前の顔も見飽きたぞ!」

 

「……させない」

 

小柄な体で立ちふさがる小猫。短い脚で蹴りを繰り出すも、禁手化した一誠には遠く及ばない。小猫に乗じて、他の剣士2人も連携を謀る。リアスと朱乃はいつでも攻撃できるよう距離をとって隙を伺う。下手に攻撃すれば、見方を巻き込みかねないからだ。

 

一誠はアーシアの横で戦闘を見届けていた。禁手化の反動だろう、もう動けない。リタイアだ。

 

「えぇ……」

 

引いたカードを見て嫌そうな顔をする。そのカードは”天命の札”でも特殊な1枚で、所有者に力を与えるカードではない。所有者と条件を満たした相手のみ発揮する能力が宿っている。現状この場で満たしているのはただ一人のみ。

 

八幡の顔をみて輝かしい顔でかつての相棒が詰め寄る。カードの裏しか見えなかったが、八幡の様子でなんのカードが把握した。八幡にとってある意味一番厄介で、姫島朱乃からすれば一番好きなカードであった。八幡心の情がどうであれ、そのカードの強力さは他の神器にも見られない能力が宿っている。

 

「あらあら、なんのカードなのか気になってしまいました」

 

「兵藤、本気出せ」

 

「だしつくした後なんですけど!?」

 

「ほらほら早くピンチですわピンチ」

 

状況は極めて危険である。八幡も理解している。可能ならば使いたくなかった。かつての相棒がいやに調子に乗るからだ。

 

「……”恋人(ラヴァーズ)”。パートナー・朱乃」

 

しぼりだした声に反応して朱乃は、恍惚そうに頬に手を添える。

 

「パートナー。うふふ、いい響きですわ」

 

”恋人(ラヴァーズ)”のカードを朱乃の胸元に当てる。カードは朱乃の中に吸い込まれていく。

 

直後、天から紫の雷が轟音を鳴らして朱乃に落ちる。天災をなんでもないように受けるどころか取り込み、全身に帯びていく。瞳がアメジストのように美しい輝きを灯す。

 

その様子に2人の剣士と格闘家の少女、堕天使のコカビエルも戦いの手を止め、朱乃に注視する。先ほどまでと違う威圧感、余裕が溢れていた。

 

占い師と巫女、ただ一緒に戦っていたから相棒と呼んでいたわけではない。ただ、連携を重ねていたから信頼があるわけではない。

 

”呪いの占い師”の”恋人(ラヴァーズ)”としての、真の実力。

 

「手加減できそうにありませんわね」

 

「その余裕どこから生まれてくるのか、知りたいもんだな。バラキエルの娘。占い師となにをやっていたのか知らんが、格上の俺には勝てねえ」

 

「……三人とも下がりなさい。巻き込んでしまいますわ」

 

父の話を持ち出され、勘に触れたのか声の温度が降下した。察した3人は下がり、戦いの結末を見届ける。

 

「……つまらん冗談だな。この俺を一人で相手取る気か?」

 

「冗談?さっきまでの私だと思わない方がよくてよ」

 

朱乃の纏う紫電が激しさを増す。紫電を人差し指と中指に収束していく。手首だけで指先が弧を描くと、流星さながらの稲妻がコカビエルに飛来。咄嗟に光の剣で防御に回るが、光の剣は砕け散り紫電は軌道がブレることなく、コカビエルに直撃した。

 

電撃で硬直したコカビエルの刹那の隙が生まれる。

 

瞬時に詰め寄る瞳に紫の輝きを灯した朱乃の姿に、八幡以外の全員が驚愕する。彼女は中距離から雷撃を放つのが本来の戦闘スタイル。接近戦は専門外。しかし、リアスの知る限りあれほどの速度で移動する親友は知らない。

 

朱乃の右手には、火花を散らす紫電。硬直していたコカビエルは身動きが出来ない。ただ、黙って攻撃されるのを見守ることしかできない。白目になっていた目を見開き、濃い紫の瞳を睨む。

 

コカビエルの顔面に紫電の掌底を叩き込む朱乃。凄まじい電撃がコカビエルに走り、一瞬だけ2人の周囲は昼間のように照らされる。地面を転がるコカビエルは怒りで満ち溢れている。左頬は電熱で火傷を負い、肉が焼ける匂いが漂う。服や翼はもちろん、顔にも土が付着して、とても堕天使の幹部とは思えない。

 

「忘れられがちですが、女王は魔力だけでなく、パワーもスピードも高いんですよ。まあ、おかげで初めて”恋人(ラヴァーズ)”と女王の力を存分に発揮しましたけど」

 

女王は城、騎士、僧侶の駒の特性を全て扱える。朱乃の場合、魔法に突出してしまったためか、接近戦を得手としなかった。”恋人(ラヴァーズ)”では、紫電は扱えるものの、体がついていかず接近には向かなかった。

 

数年ぶりの能力を発揮。女王で得た身体能力が”恋人(ラヴァーズ)”に追いつく。二つの能力が本来の力を完成させた。八幡自身、この結果には驚いていた。

 

「クソが……!」

 

3本指を立て、三角形の紫電をコカビエルに指す。手首を捻りながら、腕を回す。そこから紫電で描かれる紫の円。一回転に終わらことはない。2回、3回と回転させていくと、段々と円が狭まっていくと渦が完成されていた。

 

雷鳴を響かせる紫電の渦。

 

呑みこまれて破壊されるか、避けた先に朱乃がいるかと選択肢が頭に浮かぶ。迷っている間に、一発の弾丸が肩に食い込む。八幡からの攻撃は察していたが、目を向ける余裕はない。この程度の当たっても支障はない、コカビエル。これまで死にかけた経験はある。どうといことはないのだろう。

 

それが勝負を決定づけた決定的なミスであった。

 

選んだのは回避。上空に羽ばたき、追撃を警戒。案の定、帯電した掌底が腹に打ち込まれ、衝撃と電撃が襲い掛かる。意識が遠のきそうな中で、朱乃の腕を両手でがっしり掴む。かつての戦争を経験した堕天使、急激に強くなった朱乃に戸惑うが、彼女よりも強い悪魔と天使はいた。

 

身体が煙をあげる状態で白い歯をみせた。

 

「ナメんな!」

 

「私には相棒がいます」

 

発言の意味がコカビエルには理解できなかった。周囲から見た者達は異変に気付いている。コカビエルの背後から紫電の渦が近づいてきているのだから。

 

「ど、どうなって、やがる! 2発撃ったのか!?いや追尾!?」

 

「あなたは私の相棒を最後の最後で侮った」

 

雷鳴が唸る渦はコカビエルと朱乃を呑みこむ。紫電の影響を受けない朱乃は涼しい顔をして、声も出すがままならないコカビエルを見つめていた。

 

コカビエルは勘違いをしている。紫電の渦は正確には追尾ではなく誘導。強くなった朱乃でもそこまでの技術は持ち合せてはいない。種は八幡がコカビエルの肩に撃ちこんだ弾丸。避雷針の役割を果たす弾丸であった。”恋人(ラヴァーズ)”で強力になった状態でも反映される。

 

占い師と巫女が組んでいた時期、これはお決まりのパターン。格上には特にコカビエルのように受けてしまう敵が多かった。

 

彼のミスはたった一発の攻撃を軽視したこと。

 

「彼が無駄な攻撃をするとでも?」

 

電撃が収まると、コカビエルは頭から地面に落下。頭から爪先まで黒焦げになった堕天使から紫の瞳をそらす堕天使の娘。戦乱を生き抜いただけあって高い生命力を有しているのか、かろうじて息はある。

 

「冥界に名を馳せた”呪いの占い師”が意味のない攻撃をしたとでも?」

 

微かに痙攣するコカビエルに意識はない。彼に巫女の声は届かない。

 

「相棒であった私が弱いとでも?」

 

あれだけ苦戦していたコカビエルを相手に圧倒した相手にいともたやすく勝利した巫女。既に彼を敵として見ていない。

 

「さよなら、我が父の同僚さん。もう二度と会わないでしょう」

 

断言した彼女は背中を堕天使に向けた。もう向かってくることはないと、確信を持って。

 

しばらくして”恋人(ラヴァーズ)”の効果は切れ、胸元からカードがひとりでに八幡の元へ帰る。アメジストカラーの瞳はなくなり、いつも通りの茶色い瞳に戻る。

 

”恋人(ラヴァーズ)”と契約した者は自身の能力を格段に引き上げる。同時に思わぬ方向へ進化もする。姫島朱乃の場合、自身に紫電を纏わせ、接近戦を可能にした。

 

誰でもいいというわけでもなく、特定の条件がいくつかクリアしなくてはならない。でなければ、ただの発動しないカードとなってしまう。

 

「うふふ、”恋人(ラヴァーズ)”を使えばこんなものですわね。あのような連携ができてこそパートナーと呼ぶべきでしょう」

 

「いや、別に……」

 

「ヨブベキデショウ!」

 

「そうですね……」

 

「うふふふふふふ」

 

朱乃以外にも”恋人(ラヴァーズ)”と契約している悪魔がいることを、有頂天の彼女は知る由もない。

 

決着はついた。

 

皆一息が付いたところで現れる。

 

「お見事」

 

上空からかかる声。全員が上を見上げた殺気には汚れ一つない白い鎧が浮かんでいた。背中には8枚の光の翼で羽ばたく。それはつい先程の一誠の赤龍帝の鎧に酷似していた。

 

「コカビエルをまるで子ども扱い。ここまでやるとは予想外だ」

 

「何者!?」

 

「白龍皇の神器を宿した者さ。初めまして、リアス・グレモリー嬢」

 

「白龍皇……!それって赤龍帝と対をなす存在の!」

 

「そう、神滅具の一つ。コカビエルを捕獲しにきた。アザゼルに言われてね。これじゃあ捕獲じゃなくて回収になるけど。せっかくコカビエルと戦えると思って楽しめると思ったんだが、とっくに倒されてるんじゃ話にならない。代わりに収穫はあったけどな」

 

「待ちなさい。一人で話を進めないで」

 

「生憎こちらはコカビエルの回収を言い渡されただけだ。それよりも俺の宿敵くん」

 

リアスを無視して一人で納得する白い龍の所持者は横に伏せる一誠を一瞥して言った。

 

この場にいる全員が理解していた、こいつはコカビエルよりも遥かに強いと。

 

『久しいの、白いの』

 

『起きていたか、赤いの』

 

一誠の神器から、白い龍の神器からの会話。二天龍の会話は短いながらも、戦争を止めるきっかけになったドラゴン同士の会話に誰も入れない。

 

再会したばかりなのに、あっさりしたものですぐに話は終わる。

 

「強くなれよ、俺と戦う時までな。そして、”呪いの占い師”」

 

「え、俺?」

 

「お前ともいつか戦うことになる。たった今決めた」

 

意味深な台詞を残して、黒焦げのコカビエルを脇に抱え、閃光とともに飛び立つ。

 

静寂が包む。今度こそ終わりを迎えた。

 

「終わったのね……」

 

へたり込むリアス。今日1日でいろいろありすぎた。上にいる立場の彼女は肉体的疲労よりも精神的疲労の方が大きいだろう。

 

主の前に膝をつく騎士がいた。

 

「僕は部長の眷属でありながら、勝手な行動をしてしまいした。命を救っていただいたあなたに恩を返すような仇で返すような真似、お詫びする言葉がみつかりません」

 

「いいのよ、あなたは戻ってきてくれた」

 

「もう二度あなたの意に背きません。あなたから頂いた騎士の駒に賭けて」

 

「……おかえり、裕斗」

 

「ただいま戻りました。我が主」

 

「じゃあ勝手な事した罰ね」

 

「え、あ、あの流れ的にそれはないんじゃないでしょうか」

 

「それはそれ。これはこれ」

 

手に魔力を覆わせたリアスは振りかざした。

 

それを見ていた八幡とゼノヴィア。

 

「悪魔とは皆こんなものなのか?」

 

「さあな、リアル充実している奴もいれば社畜に従事する奴もいる。グレモリーは慈愛に溢れているとか言われてるけどな」

 

「そうか……。お前との連携、悪くはなかった」

 

手にはパンパンに詰まった重たそうな袋。砕かれた聖剣だ。これで教会は大半の聖剣を所持することになった。

 

それだけ言い残して立ち去るゼノヴィア。

 

「……」

 

八幡の脳内には、かつて所属していた組織が浮かぶ。

 

「ったく、終わったもんだろが」

 

一人愚痴る少年はゼノヴィア同様そこから立ち去る。

 

”呪いの占い師”の物語が始まるまであと少し。

 

 





こんなに早く投稿できたのたのは何時振りやら。

では、久しぶりにカードの説明いきます。

紹介が忘れていたカードもあるので、それもやっておきます。


【太陽(サン)】
小型の太陽。
炎を操る技術は本人次第で、歴代の中には全く扱えないままで直接ぶつけることしかできない者もいた。


【世界(ワールド)】
物質変換、形状変化。
石ころを金の延棒に変えることなどができる。使い手の知識次第で戦術の広くも狭くもなる。複雑な形状をした物は時間をかければ作れたりするが、作れなかったりもする。
剣や鎖は比較的簡単。
液体を作ったり、生命を生み出せない。逆もまた然り、液体や生命には効果がない。あくまで物体のみ。


【恋人(ラヴァーズ)】
特定の人物の能力を引き上げる。
どのように進化するかは、神器の所有者もやってみるまでは分からない。
発動している間は、神器所有者は他のカードを使えない。また、誰でも出来るというわけではなく、特定の条件をいくつか達成しなくてはならない。
神器所有者も条件全て把握できるとは限らない。


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