悪魔の占い師(更新凍結)   作:ベリアル

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閑話・過去1

現代の日本ではあまり見られない建物を無常に破壊していく無地の黒衣を纏う少年。

 

八幡、そう八幡だ。身長は今に比べ小さい方だ。

 

地面に伏している死体の背中からは蝙蝠に似た翼を生やし、死体によっては長い耳を持った死体が瓦礫に埋もれていた。少年を除いて、この場には人間はいない。冥界と呼ばれる次元で襲い掛かる悪魔に一切の情けをかけず、命を奪う。ついさっきまでは綺麗だった建築物も姿は消え失せ、死体と並んでいる。

 

冥界最大の領土を持つ”ゲアプ”の一角を壊滅させた八幡。

 

「派手派手しいな」

 

女性は煙草に火をつけて、崩壊寸前の工場の屋根に腰掛けていた。

 

白衣の下にはパンツスーツ。

 

良く見れば、彼女の吸う紙煙草の先端は光っている。火によるものではない、微かな桃色に灯っている。

 

「最初は”月(ムーン)”で次に”隠者(ハーミット)”。”塔(タワー)”が来たのは大分後で大変でしたよ」

 

「なんにせよ陽乃の言う通り、私の加勢は必要だったわけだ」

 

彼女の視線の先には”ゲアプ”の戦車を担っていた男が伏していた。息は既にない。2割は八幡が倒したが、ほとんどは煙草を吸う彼女によるもの。同様に戦車に位置する男も彼女がやったものだ。

 

「俺も先生の神器みたいに汎用性のある能力だったらいいんですけどね。俺の神器、長期戦向いてないですし」

 

先生と呼ばれた女性は紫煙で輪っかを作り、工場から降り立つ。

 

工場内は死体で溢れ、薬品と機械が使い物にならない状態になっていた。素人には分からないような薬品や部品がそこら中に転がっている。

 

「君の神器は確かに使い勝手が悪い。ランダムでなければ、神滅具(ロンギヌス)と呼ばれてもおかしくないほどにな。使用者の腕も悪くない」

 

だが、と続けた先生は笑った。拳を握る。

 

「そっちの方が燃えるじゃないか!強ければ強いほどデメリッドが大きいなんて熱い展開を生んでくれる!」

 

「いや、漫画とかじゃそっちの方が盛り上がりますよ?デメリッドなしで俺TUEEEEEEはつまらないですよ?でも、これ現実世界ですからね。コンテニューは効かないんですけど」

 

「話が分かるじゃないか。俺TUEEEEEEは銅の剣で十分だ」

 

「話が逸れてるんですけど……」

 

「逸れてなどいないさ。リスクのない人生程つまらないものはない。例え本人が望んでいなくともだ」

 

「良くも悪くですか?」

 

「その通りだ。普通いうのは実は非常に難しいのだよ。現状維持に徹しても、なにかをきっかけに出世してしまった。歩道を歩いていたらトラックが突っ込んでくる。山も谷もない人生なんて無理だ」

 

八幡の瞳を捉え、優しい声色で語り掛けた。

 

「だがな、ピンチになったら助けてやるのが私の役目だ」

 

「………」

 

悪魔でも天使でもない、神器を所有した人間。

 

彼女は八幡に神器のいろはを教えた師。いや、神器だけではない。神器を必要としない格闘技など多くのことを八幡に教え込んだ。

 

今までは姫島朱乃というパートナーがいたおかげで、ハズレカードを引いても補ってくれていた。逆にパートナーの能力を強化することもできたが、一人で戦うというのは、八幡の神器では難しい。

 

「どうして”新英雄派”にいるんですか?」

 

”新英雄派”とは”渦の団”の一つの派閥に数えられる精鋭部隊。戦力は3人と少ないが、屈強の実力集団。

 

”渦の団”には”英雄派”と呼ばれる派閥はあるが、”新英雄派”の名目は新たな伝説・逸話を後世に残すこと。彼等の実力は一人一人が72柱の頭領クラスの実力を有している。煙草をふかしている彼女も例に漏れない。

 

「神器が使えるのに使わないのはもったいないからな。社会の役に立てるじゃないか」

 

真偽はともかく、彼女等が滅した工場はドラッグの生産工場。2人は冥界中に公開するのではなく、壊滅を目的としていた。

 

「帰ろう。ゲアプの援軍が来てしまう」

 

「うっす」

 

「陽乃が早く例の”人工神器”を完成させてくれればもっと楽になるのになぁ」

 

占い師と先生はゲアプの支配する一角に爪痕を残した。

 

”呪いの占い師”が”新英雄派”を裏切る前の過去。

 

 

 







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