悪魔の占い師(更新凍結)   作:ベリアル

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天命の札

 

「ちょっといいかな」

 

声の主は昨晩、八幡に刃を向けた木場祐斗。放課後、クラスの女子がやたら騒がしい原因は眉目秀麗である彼が原因。

 

「リアス・グレモリー先輩から呼び出しでね。付き合ってくれるかい」

 

「あー……悪いな、今日は用事があるんだ」

 

即座に厄介ごとであると察した八幡はよく耳にする有効な断り方をした。しかし、木場は八幡の言葉を予想していたように続けた。

 

「姫島先輩からの伝言があるんだ。来なかったら家に押し掛けるって」

 

 

 

 

「あなたは何者?」

 

カーテンが閉じられた薄暗い一室で兵藤一誠を除く、グレモリーの悪魔が集っている。ソファーに座らせられ、対面しているのは真紅の髪をしたリアス・グレモリー。

 

旧校舎の一室に連れてこられるなり、八幡への第一声がこれである。

 

「何者と言われましてもね。神器を持った人間じゃ駄目ですかね」

 

「朱乃からは古い知り合いって聞いたけど、信用出来るかどうか。素手で祐斗とやり合うなんて」

 

どうやら姫島は彼が″呪いの占い師″であることは伝えてはいない。ありがたいが、当の本人は笑顔で楽しんでいる。

 

「昨日のは偶然居合わせただけですよ。兵藤を助けたんです、少なくとも敵ではありません」

 

「今は、そうかもしれない。私達を利用する可能性もある」

 

「グレモリー先輩は俺を利用する価値がある。まるでそう言いたいみたいですね」

 

双方の沈黙。1分に満たない舌戦。相手の発言の裏を読む。互いに触れられたくない部分があるからこそ、行われるのだ。彼女も八幡に神器はなんなのか問いただす馬鹿な真似はしない。

 

八幡が″呪いの占い師″であると知っている姫島は心を震わせていた。数年前のように背中を合わせて戦う姿、イタズラに引っかかる姿、女子から受けた言葉にうちひしがれる姿、それが好きで好きでたまらないのだ。

 

なればこそ、是が非でも同じ眷属に引き入れ、また共に戦いたいと願うのだ。

 

この日はピリついた空気を残して帰宅する八幡。

 

「朱乃。彼は一体何者なの?」

 

「私の古い知り合い。そう言ったでしょう」

 

愉快そうに笑う眷属でありながら友人の朱乃が何かを隠しているのは、この部屋にいる全員が気付いている。本人も隠す気はないらしい。疑うわけではないが、やはり気になってしまう。特にやりあった木場は神妙な顔付きになっていた。無闇に人を殺しはしないが、自分のテリトリー。暴力で脅してもよかった。だが、タイミングが悪い。今は堕天使に集中したいし、木場と素手で戦った人間。なにかしらのカラクリはあるのだろう。それでも、無傷では済まないと判断して帰させた。

 

帰り道、何故か兵頭に捕まった八幡は公園のベンチで肩を並べていた。

 

 

八幡side

 

「アーシアを助けたいんだ」

 

なんでそれを俺に言うの?

 

「部長達の力は借りられない。俺達は悪魔で、アーシアが神に仕える人間だからって。頼む!俺に力を貸してくれないか!?」

 

濁りない双眼が俺を捉える。

 

誰かを助けたいがために命を懸けるのか。それが実力と見合わずとも。

 

「断るに決まってんだろ」

 

「………頼む!やばくなったら逃げてくれていい!」

 

地べたに頭をこすりつける兵藤の必死さは伝わる。だが、比企谷八幡である俺はそんな他人の為に頑張れるような人間ではない。勝手に俺が強いなんて決めつけるな。

 

身勝手な期待を押しつけるな。

 

「女なんて信じない方がいいぞ。お前が想ってるよりも残酷で嘘吐きだ」

 

幾度となく経験して得られた教訓。騙されに騙されぬいた、欺かれ笑いの対象となった俺は百戦錬磨の強者(つわもの)。故に女は信じるだけ損をする。

 

「もう騙されてんだよ!」

 

頭を下げたまま声を荒げる。

 

「告白されてすっげえ嬉しくて舞い上がったよ! 夢なら覚めないでくれって夜も眠れなかった! 俺は……、変態だよ……。おっぱいが好きで女子からの冷たい視線受けても平気だよ。 でも、あの子は、レイナーレはそういう目で見れなかったんだ」

 

ベンチに座っている俺からでも地面が湿っているのが見える。声が震えていた。

 

「絶対幸せにするって誓ったんだ! 死んでって言われて、腹に穴空けられて、堕天使って知って、笑っていたんだ。 死ぬことよりもショックだったんだ………!」

 

でも、続ける兵藤。

 

「アーシアは違う。悪魔の俺を体張って助けようとしてくれたんだ! アーシアは純粋で騙されていたんだ! 助けたいんだよ!我が儘でもなんでもいい! アーシアを助けたい、それだけなんだよ!」

 

「……………………」

 

黙れた直後でも信じる。 イカロスのような蛮勇と知っても動きだそうとする。 頼る相手が俺と分かっていても…………。

 

「お前の都合なんて知るかよ。俺にデメリットしかねえだろ」

 

そう言って公園から去っていく。

 

後ろからはただ一言。

 

「畜生………!」

 

ただ嘆く声だけが俺の中で響く。

 

 

 

 

第三者side

 

 

駒王学園の女子生徒が2人、深い森の中に立っていた。存在感のある真紅と夜に溶け込みそうな漆黒の髪をした2人は、黒い羽根を広げる男女と対峙していた。

 

「うふふふ」

 

「機嫌いいわね、朱乃」

 

「ええ、嬉しくなっちゃって」

 

堕天使3人からそれぞれ攻撃が飛来する。それをあっさりと結界で防御し、雑談をする余裕をみせていた。

 

「あの比企谷八幡って子?神器くらい教えなさいよ」

 

「お教え出来ませんわ。彼怒っちゃうかも。………教えなくてもすぐに分かりますわよ、部長」

 

「…………?」

 

姫島朱乃は視線を堕天使が住まう教会へ向く。彼女は予感と期待をしていた。後輩の兵藤を助けにいった先に彼がいた時点で確信した。

 

(ひねくれているくせに、優しいのよね。本人が聞いていたら、斜め下の回答をするでしょうけど)

 

必ず″呪いの占い師″やってくると。

 

そして、その予想は的中する。

 

 

 

教会の入り口を塔城小猫の小さな体で蹴り開くと、兵藤と木場は後に続く。

 

教会内の唯一の光源は窓から差し込む月の光だけ。並べられた多くの長椅子。原型を保っていない石像。中央の最奥には砕けた十字と燭台。だだっ広い空間に響く3人分の足音を止めたのは、1人の拍手。

 

「やぁやぁやぁ。再会だねぇ感動的ですねぇ」

 

「フリード!」

 

陽気なようで狂気を抱くエクソシスト、フリードが現れた。

 

「俺としては二度会う悪魔なんていないと思ってたんですよ。ほら俺、めちゃくちゃ強いんで。一度会ったら即これよ、でしたからねぇ」

 

ジェスチャーで首を切る真似をするフリード、そのまま、腰に装着していた銃に、柄のない剣を握る。柄からは光が宿り剣の形を成す。

 

「俺に恥じかかせたテメエ等クソ悪魔のクズどもがよぉ」

 

「アーシアはどこだ!」

 

「あー、悪魔に魅入られたクソシスターならこの祭壇から通じてる地下の祭儀場におりますですぅ。ま、行けたらですけどね」

 

『能書きの多い野郎だ』

 

フリードの前方、兵藤達の後方にはジーパンにフードで顔を隠した男が立っていた。暗さもあってフードの中が4人からは伺えない。声は変成器を使われているようで、知り合いかも不明だ。双方、敵ではないかと警戒し出す。

 

「だーれですかぁ?」

 

『聞いたら何になんだよ。悪魔もまともに狩れないエクソシストが』

 

「あ?急に来てなんだてめぇは殺されてえのか!?」

 

『行けよ、グレモリーの眷属。こいつは俺が相手しといてやる』

 

「………!」

 

「行かせるわけねえだろ!ここでミンチにしてやんだからよぉ…………っとぉ!不意打ちですか!」

 

『お喋りだな。コミュ力には困らねえだろ、羨ましいもんだ』

 

フードの男が右足で上段の蹴り上げを繰り出すも、銃を持つ左手で防がれる。

 

『行け、言いたいことあるんだろうが来てやった意味なくなるだろ』

 

「………ありがとう!」

 

祭壇を蹴り飛ばした塔城は地下へと続く道を開く。塔城と木場は疑惑を抱えつつも、兵藤に続いていった。

 

「邪魔してくれたじゃねえの」

 

『その割にはだんまりだったじゃねえか』

 

「ったりめえだ!標的はテメェに変更だかんな!」

 

歪んだ笑みで右手に持つ光の剣でフードの男を斬りはらう。フードの男は上半身を退け反らせ躱し、続く銃弾はアクロバティックに後方へ回転しながら椅子の陰へと隠れる。フードの男こと比企谷八幡は浅く息を吐く。銃声が止むと、足音が一つだけ。それに気づいた八幡は真上で剣を振り上げたフリードを見上げる。

 

「み~つけたっ!」

 

『チッ』

 

タロットカードを宙で並べると回転を始め、フリードはすぐに八幡の正体を見抜く。

 

「ほうほうほう!まぁさか”呪いの占い師”さんでありますかぁ。堕天使、はぐれ悪魔を狩る賞金稼ぎっつう金の亡者!天使って噂も聞きましたが悪魔ですたぁねぇ」

 

『悪魔じゃねぇよ。人間だ』

 

「どちらにせよ、悪魔の味方したんだ、粛清対象ですよ」

 

『出来るんならな。”女帝(エンペランス)”』

 

「んだぁ!」

 

様々な彩り溢れる宝石が輝きを放って八幡を中心に出現。宝石は月の光が反射されているのではなく、蛍のよう一つ一つが内から煌めいていた。

 

問答無用で引き金を引くフリード。しかし、宝石の衛星は銃弾から八幡を守り、輝きを増していく。

 

『三流じゃ話にならねえ。見逃してやるから出直せ』

 

八幡の″天命の札″はタロットカードを元にして作れた神器。

 

22枚で構成されたカードにはそれぞれ能力が宿っており、引いたカードの能力を使用出来る神器。これだけ聞けば、状況に応じた対応が可能な最強の神器。

 

しかし、″天命の札″の最大のリスクは自分でカードを選べない点である。引くカードは毎回ランダム。しかも、制限時間付きで多少の誤差がある。いいカードを引いても制限時間が訪れ、また引いたら最悪なカードというケースもある。引いたカードはキャンセル不可。

 

故に酷く使い勝手の悪い神器。

 

八幡は全てのカードを使いこなしているが、得意不得意のカードもある。中には引いてはならない最悪のカードも存在する。今回引いた″女帝(エンペランス)″は可もなく不可もない防御よりなカード。制限時間も比較的長い方だ。宝石を自在に操って戦うことが可能。更に八幡は″天命の札″のリスクを上手く隠している。これだけでそれなりのアドバンテージが取れる。相手からすれば脅威であろう。

 

「舐めてくれるじゃねえですか」

 

正面から止まない銃撃は宝石により防がれる。それを意に返さなくことなく宝石の衛星を光の剣で弾いて、八幡へと突き進んでいく。

 

「神器だよりの人間。悪魔ならいざしらず、ただの人間が俺に敵うかよぉ!」

 

『馬鹿か、お前』

 

安い挑発に乗ったフリードが突き進むのは女帝の結界の内側。一つの野球ボール程の宝石が急速に回転する。それに気づかないフリードが横を通った瞬間、わき腹に宝石がめり込む。

 

「………ぉ…!」

 

咄嗟に進行方向へ転がって結界の内から出る。笑いながらも顔を歪ませ涎を垂らしてあばら骨の辺りを抑えている。

 

『神器はお前の足りない脳みそじゃ理解できるもんじゃねえ』

 

そこへ次々と色彩溢れる宝石群がフリードへと飛来。ダメージを負いながらも、宝石を回避。壁に激突し破壊しても、堕天使が使っているだけの廃墟。遠慮などない。フリードの反撃と言えば銃撃だが、八幡にとって恐怖の対象ではない。とうとう追い詰められたフリードに笑みが宿った。

 

「こりゃ………分がわりぃや」

 

武器をしまうと懐から取り出した煙幕で視界が遮られる。煙が晴れるとフリードはいなくなっていたが、特に追う気のない八幡は大小がばらつく宝石の衛星を漂わせて、逃げたであろう窓を見つめていた。それもすぐのことで、数ある長椅子の一つに腰を落ち着かせる。変成器とフードも外して素顔を露わにした。

 

「ふぃー。神器なしにしちゃあ強かったな。………ん?」

 

地下から人の気配を感じ、体勢を低くして隠れる。”女帝(エンペランス)”の制限時間が訪れ、宝石は消え去る。八幡がここに来た理由は兵藤一誠による成果である。場所を伝えたのは別の人物。現状と彼の人間を考慮すれば一人しかいない。しかも、場所だけでなく他の注文も加えていた。

 

(注文の多い料理店かよ)

 

地下から出てきたのは、シスター、アーシア・アルジェントを抱えた兵藤。アルジェントの様子を見てすぐに分かった。

 

(神器が、抜かれたのか…………?)

 

三白眼を見開き、小さく舌打ちをする。フラッシュバックする呼び起こしたくない過去。彼の”天命の札”は本来彼のものではなく、本当の持ち主がいた。その過去は昔コンビを組んでいた姫島でさえも、ほんの一部しか知らない。

 

兵頭は涙を流してアルジェントになにか訴えかけているようだが、アルジェントは涙を流す兵藤に言葉を残して目を閉じた。ここで八幡は姫島から送られてきたメールの一文を思い出す。兵藤一誠が戦う時は手を出すな、そのようなことが載せられていた。

 

(あの女狐のことだ、なにかしら意図があんだろ)

 

現状を見守ることにした八幡は息を殺して時間の経過を待つ。地下から3人目が堕天使レイナーレが顔を出す。アルジェントの神器を奪ったレイナーレとの口論の応酬が始まる中で、兵藤の左手に神器が装着される。肉弾戦でしか戦えない兵藤の拳はレイナーレに当たることはない。翼のあるレイナーレは空を飛んで、左右の太ももに悪魔にとって毒である光の槍を命中させ、機動力を奪った。

 

しかし、異変が起きた。少年が二度目の涙を流すと神器の形状が変化する。見た目だけではない。徐々に兵藤一誠の力が増していく。それにはレイナーレも動揺を隠せない。攻撃を試みるが、赤い籠手に弾かれ即座に去ろうと翼を広げたレイナーレの足首を掴んだ兵藤は彼女を殴り飛ばした。

 

(あの神器………赤龍帝の籠手?なんにせよ、厄介なことになりそうだ)

 

惰性を信念に去ろうとするも、リアス・グレモリーの眷属が続々と現れ始める。完全に教会から出るタイミングを失っていた。姫島の策だと悟った八幡は頭の中が一瞬だけ真っ白になる。冷静さはすぐに取り戻し、どうやってこの場から去ろうか思索する。

 

①下手に強行突破でさろうとしても、余計に怪しまれるだけ。最後の手段。

②去るまでじっと待つ。姫島朱乃が忘れていなければ。

③”天命の札”で隠者を引き当てて去る。確率低し。

 

選択肢を考えながら変成器とフードを装着。しようとした。

 

後方から殺気が飛んでくる。飛びのくと、剣を振り下ろしていた木場の姿がそこにある。

 

「君は………!」

 

レイナーレはリアス・グレモリーの手によって滅され、アーシア・アルジェントは転生によって復活を遂げる。そんな出来事は八幡にとっては些細な問題。何故なら、グレモリー一派の視線が彼一人に向けられたからだ。現在は素顔を晒している。無論、偶然を装うのは不可能だ。服装も1年生1人と2年生2人に会った時と同じ格好をしているからである。

 

「………どうも」

 

観念したのか、両手を上げる。降参の意思表示する。

 

「全部話すんで勘弁してもらえません?」

 

「うふふふ」

 

その一言で笑い声が上がる。見事彼女の術中にはまった八幡は怒る気力もない。もはややれることは我が身が無事であるように祈ることだけだった。

 

 





やー、大分ぐだぐだになっちゃいましたね。原作に合わせようとしたらとんでもないことに。

さて、今回八幡のタロットカード。出たものを簡単に説明します。


【女帝(エンプレス)】
宝石を自由自在に操れる。
防御よりのカードで攻撃も可能。
操れる範囲は半径20m以内。


【隠者(ハーミット)】
五感でこの状態を探すのは困難。発動している間はなにに触れても指紋も匂いも残ることはない。
隠密に有用。戦闘では使い道はあまりない。しかも、使える機会はそうそうない。


【力(ストレングス)】
身体能力が向上する。決定打やトリッキーな戦法は行えない代わりに、22枚の中で最もバランスがいいカード。


【星(スター)】
飛行可能になる。戦闘向けではないが、速さもそこそこで逃げにも使え、軽めの戦闘ならいける。


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