今回戦闘はなしです。
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「紅茶ですわ、呪いの占い師さん……ぷふっ!」
授業は終わり、生徒たちは教室に残って雑談するなり、部活で青春の汗を流すなり、職員室に呼ばれるなり、至って平和な日常を送っていた。
旧校舎のオカルト研究部の部室では、グレモリーの眷属に主のリアス・グレモリーが集結していた。そこに込み上げる笑いを漏らす姫島朱乃の湯気が立つ紅茶を一口、味わう八幡。
入室してから声を出したのは、姫島の一言だけ。
兵藤は悪魔になってから日が浅いので″呪いの占い師″の名は知らない。反対に木場と塔城は″呪いの占い師″の逸話を聞いていた。
魔王と同等の実力者。法を犯した上級悪魔と眷属を打ち倒す。尾ひれはついても、事実となる元はある。
この場において八幡を除けば、一番動揺しているのはリアス・グレモリーなのかもしれない。過去、窮地に立たされた彼女を救ったのは、″呪いの占い師″。それからは″呪いの占い師″のファンで切り抜きを取っている。その存在がソファーで座っているのだ、落ち着きを見せるので精一杯。それどころか、昨日は一睡も出来ず、授業も上の空。
そもそも呪いの占い師である比企谷八幡がここにいる理由は昨晩の出来事が起因する。
教会で堕天使側の人間と勘違いされ、木場に襲われた時にバレてしまった八幡は、観念して降参する。
そこでリアス・グレモリーは目を細め、問いかける。
「あなたは敵?」
「いいえ。グレモリーを敵に回したくありません。今回はエクソシストの相手をしたんでそちらの3人が証明してくれます」
3人を見やると首を縦に振る。彼女の警戒は緩まず、塔城小猫と木場祐斗も何時でも対処出来るようにしていた。
「そのはぐれエクソシストはどこに?」
「逃げられました」
追う気がなかったとはいえ、嘘は吐いていない。八幡もいつ敵と認識されかねないか焦っている。1人だけ楽しんでいる者もいるが、視界に入れない努力もしていた。
「残念ね。いえ、都合がいいと言うべきなのかしら」
「ここで信頼を得て、あなたを背中から刺すと思ってんですか?」
「十分考えられるでしょ。他に違うと証明できるものはないの?なければ、敵と認識させてもらうわ」
嘘か真かさだかではない。が、左手に攻撃の意志を表す魔力が宿る。
「そんな……部長!ヒキタニは俺達を助けてくれたんですよ!?」
「お黙りなさい!神器を持った人間なんてそういるもんじゃないの。それをひた隠しするなんて怪しすぎる」
「……木場も!小猫ちゃんもなんとか言えよ!ヒキタニがいなかったら……!」
ヒキタニじゃねえよ。そう内心呟きながら、八幡は一歩歩み寄り、タロットカード″天命の札″を取り出す。
「………え…?」
見覚えのあるタロットカードに目眩を起こし、記憶の狭間で助けられた時に眼に映されたタロットカードと一致。
宙に並ぶタロットカードは回転し始め、八幡の手に一枚。
「″星(スター)″」
粉状の金色の輝きが八幡に綿毛さながら舞う。足は地面から離れ、悪魔や堕天使とは違い、翼もなく宙に浮く。
「………うそ……」
リアス・グレモリーは口を手で塞ぎ、足をふらつかせる。
「世間じゃ呪いの占い師なんて呼ばれてますけどね。自分で名乗ったわけじゃありませんからね、一応」
「私が証人です。これの目を見て信じられないかもしれませんが、間違いありませんわ、部長」
(どうもこれです。目は関係ないだろ。確かに目で呪われそうだってネタにされたけど。女ってどうして呪いとか好きなんだろうな)
ふと忌まわしい過去を振り返って陰鬱な気分に陥っていると、木場が剣を振りかぶっている。
右足を柄の先端にぶつけ静止。そこから低空飛行で木場の足下をすり抜け、背中を蹴りつけた。体勢を崩した木場をフォローするように跳び蹴りをする塔城。
″星(スター)″の特性を活かして飛び上がる。そこへ地上から伸びた電撃。出どころはリアス・グレモリーの傍にいた姫島朱乃。それをも旋回して回避する。
「茶番は終わりですか、姫島先輩」
「ええ、これで名を語る偽物ではないと証明されましたわ。ねえ、部長?」
「…した………明日、祐斗を向かいに行かせる」
リアス・グレモリーはそれだけを言って去っていく。眷属達もそれに従い、教会に残ったのは八幡だけとなった。
そうして、オカルト研究部の部室に歓迎された八幡。気持ちの整理が落ち着いたのか、リアス・グレモリーは切り出す。
「まずは昨日の件の謝罪と感謝を。無礼な態度でごめんなさい。力を貸してくれてありがとう」
「お気になさらず」
「今回の本題は別にあるの。この際、あなたがどこの派閥につこうが構わない。けど、神器を使いこなす人間を放置するわけにはいかない」
「ようするに?」
「部長の眷属になるというわけですわ」
手に頬を当てて笑みを向ける姫島。
「いいえ、監視させてもらう」
「えぇッ!?」
これには驚いた姫島。彼女はすっかり眷属に出来うると想っていたらしい。
「″呪いの占い師″に必要な駒は恐らく5個以上。足りないわ」
眷属悪魔になるのには、特殊なチェスの駒が必要。兵藤に8個分。姫島、木場、塔城、ここにはいないがもう1人に使用している為に絶対的駒の不足。
「監視とは具体的に?」
そんなうなだれる姫島を無視。集団行動苦手とする八幡は眷属になることを回避できても、油断することなく警戒する。
「そうね。とりあえずオカルト研究部に入ってもらおうかしら。放課後に活動するから来て貰おうかしら」
「放課後とかバイトしてるんで参加できません」
「3日前の面接サボりましたわよね」
「なんで知ってんですか?アケペディアですか、あなたは」
入部と聞いて立ち直った姫島。兵藤とアルジェントもよくわからないといった様子、木場は嬉しそうで、塔城の表情からはなにも読み取れない。
「拒否したらどうなるんですか?」
予想はしていた質問。しかし、答えを用意できたわけではない。他の人間ならともかく、数々の戦場を潜り抜けてきた″呪いの占い師″には生半可な脅しは効かない。が、意外にも片付きそうな気配になった。
「私が彼の家に住み込みで監視するのはどうでしょうか?」
「悪い冗談はやめてくださいよ」
突拍子もない発言をする姫島。苦い表情を浮かべる八幡。ここにいる全員が2人の関係がなんなのか改めて気になる。しかし、談議は中止された。オカルト研究部の両開きの扉がノック、姫島が返事をすると眼鏡をかけた少女を先頭に入室してきた集団。
「失礼します」
「こ、このお方は……!」
兵頭とアルジェントは驚きを、八幡は顔をしかめる。それ以外は驚きも見せない。
駒王学園生徒会長。支取蒼那。その後ろにいるのは、同じく生徒会の面々。
「お揃いでどうしたの?」
「お互い下僕が増えたことだし、改めてあいさつをと」
「下僕って……!じゃあ支取先輩も悪魔!?」
ソーナ・シトリー。 シトリー家の次期頭首。こちらでは支取蒼那と名乗っている。生徒会は彼女の眷属。彼女の家はグレモリーにも勝らずとも劣らない権力がある。
「リアス先輩、僕たちのこと話してなかったんですか?同じ悪魔なのに気づかないこいつもどうよって感じですが」
生徒会長のシトリーが傍にいた男子生徒をいさめ、紹介した。
「匙元士郎。ポーンです」
「ポーンの兵藤一誠。ビショップのアーシア・アルジェントよ」
「へー、お前もポーンか!それも同学年なんて」
嬉しそうな兵藤であるが、匙は嫌味を吐いて駒を4つ消費したことを自慢げに話す。それもすぐのこと、シトリー会長から兵藤が8つ消費したことを知らされる。それからのやり取りで似た雰囲気を持つ兵藤と匙の仲は悪くなるだけであった。
「あ、ところでリアス先輩。そいつは誰なんですか?」
匙はソファーで傍観している八幡を見る。匙の疑問に答えたのはリアス・グレモリーではなく、主であるシトリー生徒会長であった。
「比企谷八幡。冥界では”呪いの占い師”で名が通っているわ。私とリアスを助けてくれた恩人でもあるわ」
「あなた、正体知ってたの?」
2人の恩人であるというのは姫島以外は初耳であったため二つの眷属から視線が集中する。この学園で八幡の正体を知っているのは2人だけであったのが、一気に急増。ここでシトリーに抱えていた疑問を投げかけたのは、一度手合わせをした木場。
「”呪いの占い師”は魔王と同等の実力という噂を聞きましたが、本当なんでしょうか?」
八幡と戦った彼は今日まで疑問にしていた、その回答が聞ける。これには皆、胸を高鳴らせている。
「さあ、どうかしら?あなたも知っているでしょうけど、彼の神器は強いカードもあれば弱いカードもあるから。実力なんて曖昧なの。でも、神器がなくても対策はとっていたわね。神器なしで手合わせして互角だったわ」
「ソ―ナ。あなた、彼と手合わせしてたって……」
「成り行きですよ。どうも、お久しぶりです」
リアス・グレモリーの話を遮り、シトリーの前まで歩く。夕闇に溶けこみそうな瞳に生徒会面々は警戒する。それが誤解を招くことを分かっていたソーナは右手を上げて制す。
「背は伸びても目だけは変わりないわね」
「アイデンティティなもんで。覚えやすいでしょ、社会は俺みたいに個性あふれるオリジナリティな人間を求めてるでしょ」
「そうね。その成果のおかげでうっかり110番しそうになってしまったわ」
「人を犯罪者呼ばわりしないで下さいよ」
「あら、違ったかしら。指名手配されてそうな目つきだったから。矯正をお勧めするわ」
「そこまでよ」
八幡とシトリーの会話を遮るリアス・グレモリー。雑談が長引きそうなので間に入る。その判断は正しく、このまま進んでいれば昔話に突入していただろう。
「ソーナ。本題はなにかしら?」
「失礼。彼を引き抜きに来たの」
腕を組んだ状態で人差し指を向けた先は比企谷八幡。
「横から人の物を盗ろうなんてどういう了見かしら?」
「盗ろうだなんて馬鹿な真似しないわ。そもそも、彼はあなたのものではない。部員でもなければ、眷属でもないでしょ」
「私の使い魔ですわ」
「姫島先輩少し黙って下さい。支取先輩、グレモリー先輩。俺は悪魔やら天使やらとはもう関わりたくないんですよ。昨日のは運です偶々です」
「神器持ちの人間を見す見す逃すと?」
リアス・グレモリーが目を細めて笑う。過去のことも昨晩の件もそうだが、いつか必要な駒になると確信しているからだ。
「勘弁してくださいよ。悪魔だの天使だの、そんな世界から抜けたいんですよ」
2人の頭領は笑う。
「私につけば悪いようにはしないわ」
「悪いけど、私には夢があるの。わがままに付き合ってもらうわよ、占い師さん」
美女2人に迫られるのは悪い気はしないだろうが、八幡にその心配はない。ましてや、笑みこそ見せていても、双方からの有無を言わせない圧迫感。ジレンマに陥り、姫島に救出の視線を送るが、親指を立ててウィンクするだけであった。
「そそうでひゅね。今すぐってわけにもいきませんので、じぃ時間ください」
目を合わせたら終わる。声を震わせ、勇気を振り絞って出した言葉に納得な様子をみせていた。
「それもそうね。今すぐ決めろっていうのは無理な話よね」
「私としたことが。で、何時までに決めるの?5分10分?」
短い。普通であれば1日、長くて3日だろう。ところが、八幡の思考をある程度読めるシトリーは、みんなが忘れるであろう適当な日にちを決めてフェードアウトすると踏んでいた。実際、それは当たっているようで、目を泳がせている八幡は声も出ない。
「ええええええっとですね」
ここまで来てようやくどちらに着くかの思考をフル回転する。メリットとデメリットを軸に、そこから両方の家柄立場、冥界のことはある程度の知識がある。
持てる知識
捻じ曲がった価値観
濁ったたレンズを通した世界
自分を知る女2人
過去の因縁
全てを天秤に架け、結論にたどり着く。
「オカルト研究部!オカルト研究部にします!」
動揺で必死になって発した裏返る声。
次回は戦闘シーン書きたいなとか夢を見ています。