「昨日は凄かったね」
「は?」
「そうだぜ、比企谷!銃バンバン撃って!かっこよかったぜ!」
翌日の部室。部活メイト2人に絡まれ、昨日の話で盛り上がる。既に全員揃っている。
昨日はギリアムを倒した後、結界は消え解散となった。皆八幡の腕を目の当たりにしてそれぞれ思うことがあったようだ。
「銃の腕もそうですけど、朱乃先輩とコンビ組んでいたの本当だったんですね。阿吽の呼吸でした」
「あらあら疑っていましたの、小猫ちゃん」
「そういうわけではないんですが………」
イメージ出来ない。彼女の気持ちは他の部員も同様で、昨日の戦いを見るまで半信半疑であった。学園屈指の美女に片や友人0のボッチ。無理もなかった。
「本当に仲良かったんだな、比企谷」
「別に仲がいいわけじゃねえ。組んでた方が色々と効率が良かっただけだ。仲間意識なんてねえよ」
「………………」
姫島の表情が暗くなるのを見た兵藤は声を荒げる。
「比企谷!なんだよ、その言い方は!一緒に戦った仲なんだろ!?」
「場合によっちゃ1人で戦う。それにコンビは解散した。欠片でも仲間の認識があったら高校に入るまで会わないなんてことはないだろ」
「………そ、それは」
「いいんです、兵藤くん。今はこうしていられますから」
姫島は首を横に振る。兵藤は納得していない様子で渋々下がる。皆、解散した理由は聞く気にはなれなかった。
気まずい空気が蔓延し出す中、部室に銀髪のメイドが入ってきた。
「グレイフィア様………」
木場が呟き、部長のリアス・グレモリーは顔をしかめる。
八幡は彼女の顔に見覚えがあった。リアス・グレモリーの兄であるサーゼクス・ルシファーの妻にして女王。世間では”最強の女王”と謳われている。
裏手配書ではトップレベルの額とされている。昨日のリアスを狙ったギリアムも裏手配書で儲かろうとした輩だろう八幡は推測していた。
「眷属が3人増えたようですね、リアス様。初めまして、グレイフィアと申します」
「兵士の兵藤一誠に僧侶のアーシア・アルジェントよ。彼は眷属ではないの」
「眷属でもない方が何故ここに?」
「成り行きよ。それよりなにしに来たのかしら?」
彼女は気遣いなのか八幡の正体をはぐらかして、話を進める。グレイフィアも察してはいるも、重要な話があって訪れたようだ。
「はい。フェニックス家の件で」
言いかけて彼女の背後に魔法陣が出現し、炎と共に現れる赤いスーツの金髪の男が魔法陣から出てくる。
「人間界に来るのは久しぶりだな。会いたかったぞ、愛しのリアス」
(フェニックス家三男のライザー?………ああ、そういうことか)
なんとなくではあるが察した八幡は窓の前まで移動する。
「婚約者!?結婚!?」
「政略がつくけどね。フェニックス家とグレモリー家、純血を絶やさないために親兄弟がそうしたんだ」
「部長の意志はどうなんだよ……?」
「政略結婚に意志もクソもあるか」
「ふざけんな!」
八幡の落ち着いた様子に憤慨する兵藤。いや、それも含めての話だ。
「落ち着いてイッセー。まだ確定したわけじゃない。前にも言ったけど、結婚はしない」
「いーや確定だよ。君のお家事情がそうさせるかな?」
「家を潰させる気はない。婿養子だって私で決める」
「君の眷属も言っていただろう?先の戦争で純血悪魔の激減。多くのお家も消えていく。加えて”呪いの占い師”とやらがあの冥界で最も広い領土を持った”ゲアプ”を断絶させた。ま、噂だがね。とにかく、悪魔全体の問題さ」
”ゲアプ”の名を知るオカルト研究部員達は目だけ八幡に送るが、噂だろ噂、と小声であしらう。真偽は定かではないし、そういう状況ではないので問い詰めるような真似はしない。
「これが最後。ライザー、あなたとは結婚しない」
「俺もフェニックス家の看板背負ってるんだ。名前を汚せないんだよ」
同時に2人の眼光が輝き、戦闘が始まるかと思いきや、制止したのはグレイフィア。
「私は我が主の命でここに居ります故、それ以上やるというのであれば容赦しません」
両者の殺意は収まり、ライザーはお道化てみせる。
「旦那さま方もこうなることを予想されていました。よって、決裂した場合の最終手段を仰せつかっております。お嬢様がそれほどまでにご意志を貫き通したいというのであれば、ライザー様とのレーティングゲームで決着をと」
(チェスをモデルにした下僕を戦わせるっていうあれか。悪魔の駒はそのためにあるとか。あ、でも年齢的に部長は無理だろ。それに……)
呑気に脳内で単語の意味を整理する。
「俺は何度もゲームを経験してるし、勝ち星も多い。君は経験どころか資格すらないんだぜ。リアスゥ、念の為確認するが、君の下僕はこの面子で全てなのか?」
「だとしたらどうなの?」
それを聞いたライザーは笑い声を上げ、指を鳴らすとライザーが現れた時同様、炎と共に顔立ちの整った美女美少女が出現。
「こちらは15名。つまり駒がフルに揃っている」
その集団を羨ましがるように喚く兵藤。
「数ばかり揃えて何になるの?量より質。こちらは7人で勝負よ」
(7人で15人に戦う気かよ、倍以上だろ。赤龍帝の力は凄いんだろうけど、まだ未熟。部長、姫島先輩、木場、アルジェント、兵藤、塔城。経験不足が2人。俺も詳しいわけじゃないからなんとも言えないけどな。あの、ところで7人って?)
「楽しみにしてるよ、リアス」
そういって去っていくライザー一派。
しばしの静寂。グレイフィアも簡単な事項を伝えて、扉から出ていった。
「巻き込んじゃってごめんなさい、八幡」
「いやほんとですね」
「……なんで俺も……?」
レーティングゲームまで10日間の猶予が与えられた。その間、某週刊誌の三大テーマよろしく修行期間に突入。本来は無関係の立場にある彼までも木刀を握って、木場と組んで研鑽するはめになっている。
「一誠くんの修行にだけ付き合ってられないからね。こうして、同じ条件で戦うのは久しぶりなんだ。うちには剣を使う悪魔がいないから。今日はとことんやらせてもらうよ」
首を狙う突きは身体全体を回転して回避するのと同時に、回転した勢いで木場の肩に木刀を振り下ろす。すんでのところで躱されてしまう。
「おっと、危なかったな」
「余裕そうな奴にいわれても」
「いやいや僕は悪魔で身体能力上がってるんだよ。君も十分すごいでしょ。ところで、”呪いの占い師”は、今まで剣士とやりあったことはあるのかい?同じ剣士として知りたいなぁ」
なにげない会話をしている2人は木刀での激しい攻防が増していく。
「………さあな。だが、俺の友達の友達の話なんだが」
彼に友人はいない。
「そいつは、ある悪魔の領土で派手に戦っていたんだ。ある時、悪魔の下僕が現れたんだ。そいつを殺すために。その剣士は今まであった中でも上位に食い込むほどの実力者でな。相対したそいつもやばいと思ったらしいんだが、逃げ切れる状況じゃなかった。下僕の男は身の丈を超える平べったい鋭角の大剣を背中から抜いた。なんと驚くことにそれは神器でな。人間から取ったもんだってすぐに分かった」
「それで?続きは?」
木場はすっかり八幡の話に聞き入っている。激しい運動の中でも気にすることはない。人と接する機会がなくても語り上手なのだろうか、木場の目は輝いてる。
「また今度な」
「え?」
2人の攻撃がぶつかった瞬間、離しに集中していた所為か、懐に忍び込んだ八幡を一瞬見失う。当の八幡は木刀の柄を軽く木場の腹にぶつける。次いで、足を引っ掛け転ばせた。
「ひきょ……!」
卑怯。口に出しかけたが負け犬の遠吠えだと考えたのか歯を食いしばる。ましてや、話をするように言いだしたのは他ならぬ自分。
「油断しましたね、祐斗先輩」
静観していた塔城。
「返す言葉もないな。これで1勝1敗」
「次は私です」
「休ませてくれよ。長い期間運動してないんだ。急激な運動は体に悪いって知らないの?」
「初耳です」
「嘘よくない」
小柄な体から繰り出される打撃。小柄を補うほどの素早さとキレ。八幡も見切って、スレスレで回避。
素手で彼女に勝てる術は八幡にはない。身体能力に差がありすぎるからだ。関節技、投げ技もある。しかし、彼女も簡単にはかからない。
「ぐほぉ……!」
故に腹を抑えて倒れているのも無理はない。
「神器使ってもいいんだよ。というか、使ってよ」
木場は剣を創造。
「今は使いたくないんだけどな」
八幡は”天命の札”の中でも、引いてはならないカードを脳裏に浮かべながら立ち上がる。2人は八幡の言葉に疑問を浮かべる。
(ま、引いても気をつけりゃいいか)
渋々タロットカードを袖から落とす。
「”力(ストレングス)”」
「いいね。それとやりたかったんだ」
木場は笑みを浮かべ、太陽に反射する剣を握り締め、一分の隙も与えない。塔城も”力(ストレングス)”とやりたかったのか、不満げ表情を浮かべていた。
「リベンジマッチといこうか」
”力(ストレングス)”は22枚の中で一番バランスのいいカード。八幡の好みではない。木場と初めて会った時のカードで、木場の闘志を燃えあがらせた。
「お手柔らかに」
「遠慮しないでよ。結構、本気で行くからさ」
「正当防衛だからな……」
首へ一直線に描かれる軌道。木場から視線を外さず、拳で剣の腹をぶつけ首から大きく外れた頭の上にある。
反撃を打とうと入る直前で、右手に新たな剣が握られている。揺らめく火に覆われる剣で、胸を狙う刺突。
「斬撃が無理なら、熱で対抗か。 だんだん分かってきたぞ、お前の神器」
「前に説明した通りだよ。それ以上でもそれ以外でもない」
「細かく言うなら、剣の耐久力、切れ味、身体能力が上がるわけでもない。言っちまえば魔法を剣に通してやってるんだ」
「別に隠してるわけでもないよ。それがなんだって言うんだい?」
肘打ちと刺突がぶつかり合った衝撃が塔城のところまで、風となって吹き荒む。剣はヒビを生やしていき、粉々になる。微かな動揺の中で反対の手で持った火の剣を薙ぐ。
「ただの剣は怖くないって話だ」
「言ってくれるね。でも、僕の剣は無限大だ。それにこれはどうかな?」
地面から伸びる無数の刃。形に統一性は見られず、舌打ちをして後ろに下がるが、既に木場が待ちかまえていた。
「カードは同じでも以前の殺気が感じられない。怖くないのはこっちの台詞だよ」
火の剣は八幡の攻撃速度と同じ速さで狙ってくる。塔城から見ても、火の剣は八幡を苦戦させているようだった。
「っと、時間切れだ」
高く跳躍し、近くの木に着地。”力(ストレングス)”の効果が切れたのだろう。すっかりやる気を失った彼は欠伸をかいていた。
「決着はまだ着いていない。降りて続けるんだ。早く新しいカードを引くんだ」
「馬鹿言うな。一枚だけでも戦ってやったんだ。これ以上、俺の神器を見せてやる義理はねえよ」
「銃があるだろう。それでもいいから」
「お前はバトルマニアなの?持ってきてねえよ。弾勿体ないし。何時か敵になるかもしれないの忘れんなよ」
「敵、になるんですか」
台詞の一部を抜き取って返すのは、下から見上げる塔城。
「さあな。そっち次第だろ。”ゲアプ”の時みたいになったら厄介だしな」
「やっぱり”ゲアプ”を断絶させたのは君じゃないか」
「言葉の綾だ。証拠もない」
「そちらは終わりましたわね。八幡、あなたも一誠くんとアーシアちゃんと魔法の特訓をしますわよ」
やってきたのは姫島朱乃。八幡はあからさまに嫌そうな顔をする。
「いや魔法の特訓する必要ないんで。苦手なの知ってますよね?」
「諦めたらそこで試合終了と、故人はおっしゃっておられました」
「とっくに試合終了してるんでいいです」
八幡と姫島はお互いに魔法と銃の扱いが上手くいかず、役割分担としていた。もし、姫島に射撃の腕があれば八幡なしでも十分戦えていた。八幡も魔法が使えれば、銃の必要性はなかった。
「部長の指示でもあるので」
「……わかりました」
木から降りて先を歩く姫島の後に続く。
「ふふふ。手取り足取り教えてあげるわ」
(帰りてえ)
切実に帰宅の二文字で脳内を埋め尽くす。
「”魔術師(マジシャン)”で魔法使えます。神器使えない場合は銃あるんで必要性感じられないんですが」
室内で挙手して意見を述べるが、姫島は聞き流して兵藤とアルジェントに魔力の説明をする。
「さっ、早速やってみましょう。体に流れる魔力の波動を感じ取るのです」
「こ、こうか?」
兵藤は独特なポーズで力んでいるようだ。
「…………」
八幡は手の平を上にして、意識を集中させるが成果は見られない。
「できましたぁ!」
「「はッ!?」」
「あらあら。アーシアちゃんには才能があるようですね」
八幡と兵藤はアルジェントの手の上にある魔力を視認。姫島も感心している様子。その後、水の入ったペットボトルを破裂させ固めた。
「アーシアちゃんはこれを。一誠くんと八幡は引き続き練習を」
「「はい……」」
八幡も才能というモノを目の当たりにショックを受けたのか、つい従ってしまった。1ヶ月かけても基礎が出来なかった、かつての相棒の姿に叱られた子犬を連想させ、心の中で鼻歌を歌っていた。
「コツは頭に浮かんだことを具現化するのが大事なんです」
(マイホーム)
気だるげにそれらしいポーズだけを取っていると、雷が飛んでくる。咄嗟に回避し、飛んできた方向を確認すれば駒王学園の体操服を着た姫島が笑顔で立っていた。
「ま・さ・か。形だけで取り繕うなんてしてませんわよね」
「ひゃだなぁ。そ、そんなわけないじゃですかぁ……」
額の冷や汗を拭うことすら忘れ、引きつった口で笑顔を返す。声は裏返るが、今更気にはしない。
「イッセー。今日一日修行してみてどうだったかしら?」
晩ご飯時、何故か食材が偏っておりジャガイモがメインになっていた。八幡は端に座り、黙々と食べていると、リアスが口を開く。
「俺が一番弱かったです」
「それは確実ね。でも、アーシアの回復。あなたの神器だって勿論貴重な戦力よ。相手もそれを理解している。最低でも逃げるだけの力をつけてほしいの」
「了解ッス」
「はい」
それぞれが返事をした後、兵藤はアルジェントを戦いに巻き込んだことに罪悪感と責任を感じているようだ。
「八幡はあとで話があるから。その前にお風呂に入りましょうか」
「おふろーッ!」
発狂する盛った猿を女性陣が冗談を言い合い、塔城が終わらせた。
男女分かれて、だだっ広い風呂に男3人が浸かり、兵藤は壁の奥を見ようと必死になっている。
「そういえばさ、比企谷くん。朱乃さんとどうやって知り合ったの?」
「は?」
「二人って接点なさそうじゃないか。どうやって会ってどうやって別れたのかなって。朱乃さん、気に入ってるみたいだし」
「気に入ってる?」
「きみをね」
余程嫌なのだろう不機嫌そうな顔を木場に向ける。
「冗談だろ?」
「君が関わるようになってからイキイキしてるよ」
「気のせいだ」
「なんかあったの?」
「イタズラ好きで傍迷惑なだけだ」
「朱乃さんそんなことするんだ」
「するんだろ、あの女は」
「君にだけでしょ。少なくとも僕はされなかった」
「面がいいからじゃねえのか」
「それほどでも」
「………」
会話が面倒臭くなったのか、先に風呂から出て行く。
「話ってなんですか?」
風呂上がりの夜風は心地よく、別荘の屋根に紅い髪をなびかせるリアスは満月を眺めている。
「来たるレーティングゲームまで時間はない。相手はフェニックス家。勝てる見込みは少ないわ」
「でしょうね。フェニックス家は再生なつう能力持ってますし」
あっさりと肯定。手には常温のMAXコーヒーが握られ、風呂上がりの喉を潤す。
「そう。……八幡、あなたの力が必要なの」
「駒がどうのこうの言ってたじゃないですか」
「”悪魔(デビル)”。22枚の1枚にあるわよね」
一つのキーワードで全てを察した八幡。
「知ってたんですか………」
”天命の札”最弱のカード”悪魔(デビル)”。引いてもなんの恩恵も得られない、制限時間も最長で次のカードを引くまでが長い最悪のカード。まさに悪魔のようなカード。ところが、このカードには秘密が隠されており、姫島でさえも知らないが、ソーナ・シトリーとリアス・グレモリーは知っている。だからこそ、生徒会に引き入れようとしたのだ。だからこそ、カードの秘密は言わなかったのだ。
八幡にとっては不利益しかもたらさない。あくまで八幡にとっては。多くの人間はそのカードこそが最強だとも言うだろう。レーティングゲームで大きな武器になり、レーティングゲーム全体のバランスを揺るがしかねない。
【悪魔(デビル)】
お互い了承の上ならば、眷属になれる。この際、駒は必要ないものとする。
もう少し細かい制約はあるが、1人分得するわけだ。数多の敵を葬った百戦錬磨の”呪いの占い師”を。
八幡は過去一度として使用したことがない。
「ファンだから、調べたの。”呪いの占い師”に助けられたときから。あの時は、ありがとう。それとギリアムの時も庇ってくれてありがとう」
「へー、知りませんでした」
白々しい。彼が素直に感謝の言葉を受け取らないのは親友から聞いていた。
「やっと言えた……」
それでも言えたことが嬉しかったのだろう。
長い年月溜め込んだ、たった一言を。
「話を戻しましょう。で、俺に使えっていうんですか?」
「じゃなきゃ言わないわよ」
「……代わりになにを?何も準備してないなんてことはありませんよね」
「なんでも一ついうこと聞いて上げると言ったら?」
「…………」
(なんでも?え、なんでもというのはいわゆるなんでも?いやいや、冷静になれ)
色欲に溺れそうになりながらも思考を巡らせる。
「例えば、グレモリーの次期当主の椅子でも?」
「それがお望みであれば」
ぶれない瞳からは、一点の濁りはない。後のことは後で考える。そう言わんばかりに切羽詰まっているようだ。
「……………お断りします。約束を守る保証がない」
「信用されてないのね」
「する要素がないので。特訓には付き合ってもいいですが、レーティングゲームに参加するのはごめんですよ」
はっきりと自分の意志を告げられたリアスは少し考え込んで、八幡を見据える。
「ふぅ、わかったわ。ここからは個人的な質問になるんだけどいいかしら?」
「はぁ、答えられる範囲なら」
「どうして姿を隠してるの?」
「人から受ける視線が嫌なんですよ。かといって活動しなきゃ金が手に入らないんで。いつの間にか”呪いの占い師”とか言われてましたけど」
どうせ後から聞かれそうな質問を先読みして、聞かれた以上のことを話す。
「お金に困ってたの?」
「じゃなきゃ、バイオレンスな日常に首突っ込んだりしません。親もいないし。今でこそ貯えてありますけど、昔は苦労してたんですよ」
「朱乃と一緒に?」
「姫島先輩は関係ないでしょ」
「不躾だったわ。でも、なんで朱乃と離れたの?」
親友には聞きづらい質問を八幡に投げかける。
「すれ違い、じゃないっすかね?」
八幡は息苦しかった。胸が苦しく、気分が重い。胸の中に黒い靄がじわじわと八幡を浸食している。不安が支配していく。
過去への恐怖と悲しみ、怒り。
『じゃあな、朱乃』
思い出したくない過去を、最近は鮮明に思い出すようになり、狂いそうな不安が彼を駆り立てる。
本来、八幡が持つべきではなかった”天命の札”がこのような現状を、戦いに身を投じた過去を作り上げた。
それでもなんとか平静を保ち、なんでもないように振る舞う。
長らく一人でいすぎた所為なのだろう。彼が求めていた何かがあるような気がしてならない。だからこそ、逃げずにここに立っているのかもしれない。それでも、その思考から目を逸らし、リアスに背を向けて別荘の中へ戻っていく。
交わるハズのない相反する何かが八幡の中で渦巻いている。
「おやすみなさい、部長」
彼の姿は、出会って日の浅いリアスから見ても、いや、彼女だからこそ分かったのかもしれない。
頼りになりそうな背中は、何故か、かすれて今にも崩れそうなほどボロボロに映っていた。
「……………ぇ」
背中から伝わる温もり。
長らく触れていない他人の体温。
「大丈夫よ。一緒に、戦ってあげるから」
HAHAHAHAHA!レーティングゲームに参加させるわっかんねえや!
今回、登場した悪魔(デビル)は今後物語に影響を生みますのが、覚えてなくても大丈夫です。