悪魔の占い師(更新凍結)   作:ベリアル

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花嫁争奪戦

 

広い西洋風の結婚式会場。教会で行われるように十字架はない。場にいるのは人間でなく、悪魔のみが揃っていた。そこにはリアスの下僕も正装で揃っており、明るい表情の者は1人もいない。一誠はうつむき、普段からは想像出来ない浮かない顔をしていた。唯一、和服の朱乃は八幡と連絡が取れないことに疑問を持つも、親友の望まぬ結婚で頭が働かない。

 

ご息女であるレイヴェル・フェニックスは自慢話を繰り広げている。

 

規定時間が回ったのか、炎とともにライザーが登場する。

 

「冥界に名だたる貴族の皆さま。御参集くださり、フェニックス家を代表して御礼申し上げます。本日、皆様においで願ったのはこの私、、ライザー・フェニックスと名門グレモリー家次期当主リアス・グレモリーの婚約という歴史的な瞬間を共有していただきたく願ったからであります。それでは、紹介します、リアス・グレモリー!」

 

紅い魔法陣で現れた花嫁衣裳に身を包んだリアス。

 

『その結婚待った』

 

崩れた両開きの扉から現れたのは身の丈ほどの白銀の十字架の手にするボロ布のローブを着た少年。声は変成器が使われているようで、地声は判断つかない。しかし、リアスの下僕など一部の悪魔はその姿に驚愕していた。正体を知らない人間は困惑するばかり。眼鏡をかけた貧乳及び、和服美人という例外は口角を上げていた。

 

「比企むぐぅ・・!」

 

一誠の口を塞ぐのは朱乃。正体を口に出そうと止めたのは朱乃なりの配慮。でなければ、正体を隠したりしないだろう。多くの視線が集まる中で、2人分のむず痒い視線に耐え花嫁と新郎へと前進していく。

 

「何者だ、貴様!」

 

『好きに捉えて構わねえ。花嫁攫いに来ただけだ』

 

「ほざけ!」

 

ライザーが手を払うと、眷属である美女美少女が一斉に飛びかかる。

 

『”正義(ジャスティス)”』

 

白い閃光が会場全体を照らす。次の瞬間、光は十字架に収束されていく。滑らかな表面の十字架は交差する部分を中心にまばゆい光が輝く。真っ先に突き出すライザー眷属の拳に十字架の横先端を斧のように扱いぶつけ、同時に十字架の神々しい光が渦巻く。

 

仮面をしたルークの駒を授かる、イザベラと呼ばれる彼女に興味は引かれない。彼女続いて追撃を仕掛ける美女集団にも視線を送ることもない。

 

『遊んでやる義理はねえ』

 

解き放たれる無数の白い光線はライザーの眷属のみを狙う。主に四肢や武器に当たり、命を奪う様子は見られなかった。女王やライザーの妹以外は戦意を喪失して攻撃を受けた地点から一歩も動けないでいた。女王も一足遅く魔法を発動させた瞬間、”爆弾女王”と呼ばれる彼女の眼前に光の十字架が紋章となって浮かび上がる。

 

女王から放たれた爆発に呑み込まれた八幡は左手を突き出し、透き通るベールのような白い光を球体に変化させ防いでいた。

 

『爆竹程度じゃ話にならねえよ』

 

それを合図に十字架の紋章が閃光さながらの輝きを放ち、白い爆発と黒い煙に呑み込まれた女王は吹き飛ばされ、石畳の床を滑る。意識はなく、仰向けに脱力する。同時に煌めく銀の十字架はカードへと戻り、八幡の手に移る。

 

リアス等が敗北した相手に1分もかからずに蹴散らした。

 

「呪いの占い師……!」

 

「ゲアプを滅ぼしたと言われる!?」

 

「何故ここに………」

 

”呪いの占い師”であることに気付いた悪魔たちからどよめきが生まれる。それらの一切を通り過ぎていき、花嫁達の前に立つ。

 

『どうも、呪いの占い師です』

 

「あなた……どうしてここに……」

 

『事情が事情といいますか。まぁ、三男坊とは結婚させないんで』

 

「ふざけるなよ占い師風情がぁ!焼き尽くしてくれるわ!」

 

ライザーの左腕が燃え上がり、八幡を焼き尽くそうと額に青筋を立てている。一方で八幡は動じることなく冷めた目で棒立ちしていた。

 

「待ちたまえ」

 

サーゼクスの参上によって今度は彼に視線が集中する。

 

「かの”呪いの占い師”がこうして我が妹リアスを攫う気概無下にするのもどうかな」

 

「付き合う義理はないかと。それに”呪いの占い師”はゲアプ家を失くした、立派な犯罪者。今ここで殺すべきでは?」

 

不満を口にするライザーは正論を述べる。

 

「ゲアプ家を潰した証拠がない。仮にやったとしてもゲアプ家は多くの罪を巧妙に隠していた。崩壊したことによって気付けたなら彼の功績とも呼べるのではないか」

 

こじつけとも言えるが屁理屈。あながち間違ってもいないので立場上押し黙る新郎。サーゼクスはライザーから大勢集まる悪魔に意見を求める。

 

「皆さん、気になりませんか?名門フェニックス家の三男と”呪いの占い師”のどちらが強いのか。見てみたくありませんか?2人の決闘を。伝説同士の戦いを!」

 

悪魔はざわつき始め、サーゼクスの言葉に同意を求めるような小声が聞こえ始める。ライザーは顔をしかめるが、むしろ”呪いの占い師”を撃退し、自分の力を証明するデモンストレーションになると踏み、笑みを見せた。自分ならば、フェニックスの能力を持つ自分ならば勝てると確信して。

 

そうなれば、決断は早い。

 

「面白そうですね、余興にいいでしょう」

 

「君ならそういってくれると思ったよ。占い師くんもそれでいいね」

 

『もちろん』

 

八幡も負ける自信はない。勝利を確信していた。

 

「待って駄目よ、取り消しなさい!こんなことで出張る必要はない!」

 

『今更遅いでしょ。結婚式会場に殴り込んで、ごめんなさいで済まないじゃないですか。ここで引いたら肉片になっちゃいますって』

 

彼の言う通り後には引けない状態。サーゼクスの画策であるのは言うまでもない。

 

「では、花嫁を賭けた戦いを始めてもらおう。勝者にはリアス・グレモリーを与えよう」

 

魔王の発言によって会場は盛り上がり、八幡とライザーは別の場所に移される。

 

巨大なチェスの駒が壁際にそびえ建つ闘技場に移動した八幡は対戦相手のライザーを見据えていた。

 

「馬鹿な奴だ。せいぜい頑張ってくれよ。すぐに終わってはギャラリーも拍子抜けしてしまう」

 

炎の翼を広げるライザー。まるで我こそフェニックスと言わんばかりに誇示している。八幡は”天命の札”から1枚抜き、黄金の冠をローブの上からかぶるシュールな恰好をしていた。ライザーは顔をしかめているが、本人は至って真面目で、自覚もしている。

 

「始めたまえ」

 

魔王によるゴング。会場にいた全ての悪魔が注目する闘い。

 

不死鳥VS占い師

 

花嫁を巡る戦いが始まる。

 

『”皇帝(エンペラー)”』

 

「ふん、翼を出さないところを見るとやはり人間か。ならば這いつくばっていろぉグフッゥ!」

 

『頭が高い』

 

空高く羽ばたくライザーは八幡を見下すのも束の間。地面へと引き寄せられ翼の制御が効かないのか、地面に叩き付けられうつ伏せになる。落下によるダメージは再生した。しかし、立ち上がろうにも、羽ばたこうにも石畳からは離れられない。

 

「重い……!重力か!」

 

『ご名答』

 

皇帝(エンペラー)は重力を司るカード。不死身のライザーには有効とはいえ、倒すことは叶わない。仕方ないので、腰から拳銃を抜き、試しにあらゆる箇所を続ける。結果、意味はなさず再生されてしまう。むしろ怒りの炎が増幅されていくだけだ。一応、皇帝でも倒せる術はあれど、殺してしまう可能性がある故、使わないで銃弾を撃ち続ける。

 

ダメージは与えられていないが、名門フェニックス家の一人を無力化していることで、悪魔たちから関心の声が上がる。もし仮に、レーティングゲームに出ていれば、このような決闘は行われていなかったと、リアス一派は思っていた。。

 

効力が切れると業火を放出するライザーは土で汚れ、鬼の形相で立ち上がる。業火を躱す八幡は新たなカードを引き当てた。

 

「調子に乗るなよ占い師ぃ!」

 

『お前の敗因は傲慢なところだ。能力に過信しすぎだ』

 

「勝ってから言え!」

 

『それもそうだな。”女教皇(ハイプリエンス)”』

 

「くたばれえ!」

 

弄ぶことすらしないのか、憤怒の表情を浮かべるライザーはありったけの炎を八幡に直撃させた。”女教皇(ハイプリエンス)”は戦闘向けのカードではなく、相手に対してダメージを与えることはない。

 

『熱いな』

 

「貴様……!」

 

炎からは無傷の八幡が突っ立ってライザーに銃口を向けて銃撃を放つ。ライザー自身に傷は負わなくとも、自分の一撃に平然としてる八幡が許せないのか、血走った眼で歯ぎしりを立てる。八幡は八幡で有効カードが来ないことに焦りが生まれてくる。過去に不死身系を倒した経験もあるが、傾向が違うためカードも違ってきてしまう。例えば、先ほどの”皇帝(エンペラー)”で倒そうと思えば倒せた。ところが、今回は殺しは駄目なので却下した。

 

”女教皇(ハイプリエンス)”。自己回復能力。フェニックス家程ではないにせよ、高い回復能力が秘められている。無論、痛覚は正常なので炎の中から飛び出し、疾走しつつ、無意味と分かっていながらライザーも急所に銃弾を当てる。

 

「下らん!下らん!下らん!その程度か、”呪いの占い師”!冥界に名を轟かせるぐらいだから禁手化(バランス・ブレイク)は出来ると思っていたができないようだな」

 

『使うまでもないだけだ』

 

「減らず口は大したものだな」

 

『お前ほどじゃねえよ』

 

効力は未だ継続。まだかまだかと制限時間が切れるのを待つのみ。それまでは神器でもない銃を撃ち続けるのみ。

 

「貴様、なぜリアスを狙う?」

 

『は?』

 

「姿を消していた貴様がなぜを狙うのか聞いてるのだ。まさか、愛してるなどとは言わんよな」

 

『成り行きだ。話してやる必要はねえが』

 

(断れるわけねえだろ)

 

3日前の出来事を思い出す。

 

(断ったら殺されるだろ……。本当にそうか?)

 

『…………?』

 

無意識に自分に問いかけていた。まるでもう一人の人格がいるかのような感覚に陥る。

 

(いやいや何考えちゃってんの俺は?それ以外になんかあるの?)

 

目の前のことに集中しなければならないのに途切れてしまう。効力が切れるにはまだまだ時間を要する。”天命の札”の短所がモロに出てる瞬間とそれを補うだけの戦闘力があることの証明でもある。

 

「どうした動きが鈍くなったなぁ」

 

不敵な笑みで炎を広げるが、直撃することない。ライザーの言葉は耳に届かず、別のことに意識がいっていた。記憶の糸を辿る八幡。

 

アーシア救出・強化合宿・フェニックス戦。記憶は八幡の意思に反して蘇っていく。

 

(今は関係ないだろ)

 

何故、フェニックス戦を最後まで見届けなかったのか。あの時、少年は笑顔ながらも真剣に強くなることに取り組んでいたオカルト研究部の面々を浮かべていた。見届けたくなかったのだ、敗北するあの瞬間を。彼がここにるのは選択肢がなかったからではない、望んで選択肢を失くしたからだ。

 

(なんでこんもんが思い浮かぶんだよ……!?)

 

苛立ちが募っていき、ライザーの動きから意識が外れる。

 

「くたばれぇ!」

 

業火の球体は足を止めた八幡にぶつかり、小規模の爆発が彼の姿を隠す。ローブの一部は焼き尽くされ、変成器も破損。ライザーが放った瞬間、”女教皇(ハイプリエンス)”の効力が途切れた。

 

「ふははははは!占い師如きが名門フェニックスの前では恐るるに足らんわ!」

 

高笑いを上げるライザー。鑑賞するほとんどの悪魔は決着がついたと確信する。ところが、勝利を確信したばかりのライザーは異変を感じ取った。暗く冷たい深海に引き摺りこまれたような感覚に一瞬意識が遠のく。原因を探れば火柱が立ち上る方向から禍々しい殺意が飛ばされている。

 

直撃したのを視認した張本人に信じられないような感情が生まれる。

 

底知れない恐怖だ。

 

「死に損ないが……!」

 

振り絞った低い声からは恐れが感じ取れる。

 

「”運命の輪(ホイール・オブ・フォーチュン)”が来なきゃヤバかったな」

 

そう言いながら炎の中から出てきたのは、つい先ほどライザーの下僕を蹴散らした白銀の十字架を担ぐ八幡。神々しく神秘的な純白の光が球体となって、八幡を囲む。それにより、燃え盛る炎から身を守る。彼の正体が映し出されながらも、集中力を取り戻した彼は気にする素振りは見せていない。

 

「それが貴様の正体か。なんとも気味の悪い瞳をしている」

 

「ぐちゃぐちゃうるさい奴だな。先に言っておくが………」

 

光を渦巻かせる十字架をライザーに向け、宣言する。

 

「お前を倒すのはこの一枚で最後だ」

 

「なんだと……?」

 

顔をしかめるライザーに気にかけることなく、口を動かす。

 

「これから先、お前は俺に指1本触れることすら叶わない。意外なほどあっさりとお前は負け、部長は俺が貰う。そうなりたくなきゃ、この勝負お前の勝ちだと言って清々しく投了しろ。そうすりゃ汚名は多少抑えられる」

 

「口は達者だな」

 

「占い師の忠告は聞くもんだろ」

 

瞬間、激怒するライザーは全身に炎を纏い驚異の速度で八幡に突撃する。彼自身、その攻撃には自信を持っていたし、”呪いの占い師”が防げるとも避けれるとも思ってはいなかった。事実、火炎に包まれ高速で迫る業火の塊を防げる者はそう多くはないだろう。だからこそ、既に張ってあった白い光の壁に難なく防がれることに目を見開くほかなかったのだ。

 

「所詮は小火だろ」

 

”正義(ジャスティス)”は22枚の中で最も対悪魔に特化したカード。聖なる光を自在に操り、防御にも攻撃にも扱える汎用性の高いカード。

 

これはライザーに限らず、どの悪魔に有効なカードの1枚。駄目押しするなら、”天命の札”の炎を宿す”太陽(サン)”の方が脅威的。

 

左手の人差し指に光を収束させていき、再生能力を持つライザーの右肩を光速で貫く。

 

彼の動体視力では追いつけない一撃を受け、肩に風穴が空いたことを自覚するのは数瞬を要した。

 

「ぐぅおおおお!」

 

再生能力を持つ男の傷は塞がることなく、血があふれ出す。激痛のあまり転げまわるライザーに気品の欠片は失っていた。哀れに思いながら、十字架を振り上げ腹に打ち込む。幾度となく、無表情で十字架を叩き付ける。呼吸ができないのか、声を発さない。顔も腫れ上がり土も付着し、一目では彼がライザーと判別つかない。

 

「悪魔はこういうの苦手なんだよな。特にお前みたいな能力を過信した馬鹿はな。言っただろ?」

 

序盤に言われたことを思い出し、自身の過信を認めざるを得なくなった。

 

「終わりだな」

 

十字架の光を一層輝かせた八幡を見て、ライザーはすがるように手の平を突き出す。

 

「待て!貴様の力は十分わかった!どうだ、金ならやる。なんならこのライザー・フェニックスの右腕にしてやってもいい!72柱の一つのな!」

 

「権力自慢か、哀れな奴だ」

 

「このままでは冥界から指名手配されるのだぞ!?今なら間に合うぞ貴様!」

 

「この勝負は正式な決闘だ。罪は犯していない」

 

「貴様はわかっていない!この結婚は冥界において重要な婚礼だ!純血を守る、悪魔の未来に繋がるんだ!」

 

これ以上の問答は時間の無駄だと判断したのか、無様に腰を抜かして後退る早口で喋る男を無視して十字架を掲げる。聖なる光は徐々に輝きを増していく。目を開くことすら、困難になっていく強烈な光にライザーは本能的に恐怖を感じる。

 

「”ジャスティス・オブ・………」

 

「ひぃ、やめろおおおおおおおお!」

 

「メイデン”」

 

銀の十字架からは純白の棘が無数に貫く。ライザーの真下にある石畳を。それでもライザーの戦意を喪失させるには十分なものであった。息を荒げ、目の焦点が合っていない。

 

「当てねえよ。死なれたら本当に指名手配されかねないからな」

 

占い師と不死鳥の勝敗は決した。それは誰が見ても、言い訳のしようもなかった、

 

勝負は終わっても使用時間が残っている、十字架は消えない。足元は音を立てて崩れ去る。下には豪邸と庭が広がる、幸い、カードが良かったのか聖なる光を応用すれば着地に問題はない。

 

(雑過ぎない?)

 

瞬時に光を展開。オーロラのような布がが足裏に敷かれ、衝撃を吸収して地面に着地。ライザーの方は妹が連れ出していた。そこには八幡を呼び出した張本人が立っていた。

 

「中々じゃあないか」

 

「随分上から目線ですね」

 

「本気だしてなかったからね」

 

「禁手化のこと言ってんなら誤解がありますよ。フェニックスには”正義(ジャスティス)”。他には”月(ムーン)”と”審判(ジャッジメント)”くらいしか倒せなかったんですよ」

 

「それは興味深い。是非、聞きたいな」

 

「手の内晒すわけないでしょ」

 

「それもそうだね。なんにせよ、これでご破談になったわけだ、感謝するよ。これで君とのお喋りも終わりだ」

 

ようやく複数の気配が近づいてるのに気づいた八幡はリアスを戦闘にオカルト研究部の面子が近づいてるのが見えた。

 

「八幡!」

 

移動してきたまま抱き付いてきた割には衝撃は強くなく、肌色のクッションが彼の顔に襲い掛かる。戦闘中でも動揺しなかった彼が慌てふてめいている。

 

「あああのぶひょう!?」

 

「ありがとう」

 

しかし、震える声が彼の頭を冷やした。

 

「あなたには大事な場面で何度も助けられた……、命も、未来も」

 

双眸から涙が零れている、

 

「………俺が動くのは自分の為です。助けられたっていうなら勘違いです」

 

「あなたが何と言おうと、あなたがいなければ私はこの世にいない。望まぬ結婚をしていた。幸せになれないって確信してる」

 

「………」

 

リアスを押しのけ大股で一歩離れる。

 

「本当によかったんですか。三男坊はボンボンですし」

 

「今更なにを……」

 

呆れる木場はやれやれと首を振る。

 

「やってから後悔するタイプなんだよ」

 

文句あるかと、堂々と言い放つ八幡。

 

会場に残った悪魔たちは今の戦いで婚約など頭から抜けている。主に”呪いの占い師”で大盛り上がりであった。その中には記者やフリーライターまで居合わせていた。

 

一夜の激闘は冥界全体に広まる。

 

 

 

「呪いの占い師花嫁強奪……?」

 

冥界で発行されている新聞の一面には素顔を晒す八幡が映っていた。昨晩のことが細やかに記事され、放課後の部室で震える手で新聞をテーブルに置く。記事にされるまではいい。これまでで何度も経験があるからだ。問題は写真の部分である。

 

素顔。今まで隠し続けていた顔が綺麗な画質で冥界中に広がっている。

 

「あらあら、綺麗に映っていますわね。でも、目はどうにもなりませんのね」

 

「余計なお世話なんすけど」

 

もう一部買ってあるのか、他の面々も冥界の新聞に集まっている。

 

「凄いことになってるね」

 

「………人ごとかよ」

 

「十字架が懐かしいです」

 

「比企谷って無茶苦茶つええんだな」

 

「当然ですわ」

 

「なんで朱乃先輩が偉そうなんですか?」

 

木場、アーシア、一誠、朱乃、小猫と各々会話を繰り広げる。

 

「八幡、今日の夜空いてるわよね」

 

「いえ、今日はちょっと用があるんで忙しいですね」

 

「そう、空いてるのね。丁度よかった」

 

「いや、今忙しいって言いましたよね?」

 

八幡の言葉を無視して鼻歌を奏でるリアス。反対に思案顔の朱乃。

 

その晩、比企谷家で一人の少女が住まうことになった。

 

 






後半ぐだっちゃいました。何はともあれ、年内には投稿出来たのでよしとします。

本当はライザーを倒すのは別のカードだったんですけど、流れで”正義(ジャスティス)”になっちゃいました。

作者のどうでもいいあとがきはこれで終わりにして、カードの説明を。


【正義(ジャスティス)】
聖なる力を宿した十字架。汎用性は非常に高く、悪魔に有効なカード。ライザー戦で見せた能力はほんの一部。

【女教皇(ハイプリエンス)】
発動している間、常に回復している状態。痛覚は正常なので、治ってもダメージ相応の痛みはある。激痛でショック死も考えられるため、危機感は忘れない。





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