美人局。つつもたせ、と読む。容姿が優れた女が純粋な男心を弄び、金を貪るある種の詐欺。八幡の父はそれを経験し、息子に教え込んでいた。八幡も金銭的なトラブルにはならなかったが、幾度もピュアな心に傷を負い、女は信用してはならないと思うようになる。決して優しくされても勘違いしないようにと心がけ、ラノベのようなハーレムが降りかかってもチームワーク抜群の美人局と真っ先に疑うだろう。
「なにが起こった?」
目覚まし時計がなる前に息苦しさを覚え、寝ぼけた頭で体を起こすとリアス・グレモリーが寝ていた。何故か、裸で。頭が真っ白になり目の前の事実だけに意識がいき、顔が熱くなるのを感じると、速やかに音を立てずに部屋を出て、一言呟いたのだ。
「おはよう、八幡」
姫島朱乃は八幡のYシャツを無断で借り、にこやかに挨拶を送る。バストを強調し、下にはなにも履いてないように見えるが、八幡にとってはどうでもいい。美人局代表と冗談半分で認識している彼女を見て瞬時に顔の熱が冷めていく。どころか血の気が引いていた。
山ほどの質問をかつての相棒にぶつける直前で、無駄な質問を省くために、昨日の出来事を振り返る。
両親が揃っている時間にインターフォンが鳴る。母に出るように言われ渋々玄関を開くと笑顔のオカルト研究部部長がこんばんはと挨拶する。他の人間であれば、喜ばしい瞬間なのかもしれない。が、八幡は全身に冷や汗を流し、どうすべきかと頭を回転させた。嫌な予感しかせず、両親にも知られたくはない。帰らせようにも言葉には気をつけなくてはならない。そんな思考も虚しく、父親が居間からやってきてしまい、リアスを視界に入れてしまった。
そこからの流れは早かった。リアスは家に上げられ、両親は彼女に興味津々で質問攻めをしていた。生まれはどこだなの、彼女かだの。あらかじめ想定していたのか、スラスラと答えていく。八割九割が嘘だったので、女はいかに嘘が上手いかを認識した。本当のことをいったのは、所属の部活に八幡の彼女どないことという無難なモノ。あとは日本人ではないことくらい。
八幡はなるようにしかならないと諦め半分で頬杖をついていた。この家では八幡に発言はあまりない。
質問の嵐が過ぎ去ると、待っていたかのように口を開くリアス。悪寒が背筋を撫で、彼女を注視する。
「実は下宿先にいられなくなってしまい、泊まる宛もなく後輩の八幡くんに来てしまいました」
うちじゃなくてもいいだろ、と多くの観点からの思いを心中でぶつけまくる。
「………。……は?」
数秒して、リアスがなにを言ったのか理解し、更なる疑問が生まれる。
両親の記憶には悪魔や八幡の神器などといった次元を超えた話はない。それは八幡の神器によって記憶が書き変えられたからだ。身内故に辻褄を合わせるのに苦労はしたが、出来てしまえば近所の根回しはさほど苦労はしなかった。
それだけにリアスの行動は八幡にとって不利益しか及ばさない。苦労して戻った場所に厄介ごとを持ち出されたら洒落にならない。下手なことを言わず、両親に愛想良く、演技がかかった涙を見せ、口を動かすリアスを見つめ頭を回転させる。そもそも、彼女のそばに事情を理解している朱乃がいる。知らないとは思えないし、こんな回りくどい真似はしないだろう。
少なくとも八幡が神器を両親に隠しているというのは把握しているようで、話を聞き流していた八幡は両親が快諾したことに驚きを隠せないでいた。そういえばとパンパンの封筒を母に渡していたのを見た気がする。父親は父親で美人局であれば美人局で息子のいい経験になると心中で教育熱心にぼやく。
いきなり泊まることになったリアスは八幡のベットに座っている。
「どういうことですか?」
椅子に座り、寝間着に着替えているリアスに問いかけている。
「誘惑?」
美人が可愛らしく小首をかしげる姿は一般の男子が見れば、勘違いするなりするであろう。百戦錬磨のボッチは頬こそ染め目線を逸らせど、勘違いはしない、幼き頃より騙され、朱乃にからかわれ続けた心を打ち砕くには足らない。
「そ、そういうのいいんで」
「はぁ、信用ないわね。半分本気なんだけど」
「残り半分は悪戯ですか?」
「違うわよ。あなたを守るためよ”呪いの占い師”さん」
「ベビーシッターを頼んだ覚えはありませんよ」
フェニックスの勝負により冥界中に知れ渡り、注目が集まってしまった”呪いの占い師”。それは”呪いの占い師”に恨みを抱く悪魔にも顔が知れ渡ってしまったのだ。よって護衛か監視をつけなくてはならない。
そこまでは覚えているし、1人でベットに潜ったことも覚えている。ところが、リアスをベットにいれた記憶も、朱乃を上げた覚えもない。
「帰ってください」
「あいさつが先ではなくて?」
「家に上げた覚えがないもんでね」
「お義父様がいれてくれたの。お二人ともお仕事に行っていないわよ」
記憶はなくとも彼女を家にいれたいとも思わない。過去、家にいれたことがり、昨夜のように母からの質問を受けた朱乃は誤解を招くような回答をして散々な目にあっている。誤解は解けたものの、以来あまり両親に会わせたくはないのだった。
土曜日の朝、着替えた朱乃は朝食の準備をして3人分の焼き魚やら味噌汁をテーブルに並べていた。私服に着替えたリアスも朝食のテーブルに座り、いただきますをして朝ご飯を食べる。この時点で専業主夫としての仕事が奪われていることに気付いた彼はやられたと思い、朱乃を睨むが彼女はなにがなんだかわからない。
会話は特に交わされなく、余計な発言で朱乃にからかわれるのは面倒だと判断し、朝のことは言及することはない。
「八幡、今日暇よね」
「ええ、特に予定はありませんわ」
「ちょっと姫島先輩?俺に聞かれたんですよ?」
「今日は一誠の家に行くわ。食べ終わったら準備して」
「兵藤の家に?」
「作戦会議よ」
「で、こっちが小学生のときのイッセーなのよー」
「あらあら、全裸で海に」
「ちょっと朱乃さん!って、母さんも見せんなよ!」
兵頭の部屋で会議なんてものは行われない。ただ部員が集い、兵頭一誠のアルバム鑑賞になっていた。場所はこの人数では流石に狭いが、気にする者はいない。八幡も八幡で交友関係のなさから、そわそわして悪い気はしないでいた。もっとも会話はしないで、アルバムを適当にとって視線を落としているが。
写真を見る限りでは今も昔もさほど変化は見られない。結局のところ人間は変わらない。悪魔にはなっても中身は大して変わらないし、周りの評価や環境が変わっただけで自分が変わった気になる人間は多々いるだろう。留学して日本に戻ってくるなり、「日本は遅れんてんなぁ」という大学生がいい例だ。はたしてそれで活躍できた人間はどの程度の割合なのだろう、統計を取ってもらいたいものだ、と心の中で長くぼやく。
「これは聖剣だよ」
兵頭と木場がじゃれ合ってると思ったら、トーンの低い声に八幡は反応する。
聖剣といっても一言で言ってしまえば多くの種類が存在する。過去”呪いの占い師”として強敵とも呼べる聖剣使いを打倒し、聖剣そのものを消滅させた。同時に聖剣の恐ろしさを直に味わっていた。その経験から学んだことは聖剣には関わらないといういかにも彼らしい消極的な判断であった。
聖剣と聞いた彼はこれでもかと顔を引きつらせ、聞かなかったことにした。
球技大会と言えば、やる気のない生徒にとって卓球はNO.1の人気を誇ると言っても過言ではない。駒王学園ではクラス対抗だけにとどまらず、部活対抗までやるから八幡にとってはたまったものではない。クラスでは野球、部活ではドッチボール。やる気は毛頭ないが、リアスの異様なやる気からして手を抜けば目をつけかねられない。それとは対象的に木場は心ここにあらずといった様子で上の空。
「気になりますか?」
「部長がイラついてるんでとばっちりがこなきゃいいなぐらいには」
木場を見ている八幡に歩みよるのは朱乃。
八幡の言う通り木場にリアスは苛立ちを募らせている。
「聖剣計画、ご存じ?」
問いかけには首を振るだけ。
「簡単に言えば聖剣エクスカリバーを扱える人間を育てる計画なんです。多くの子供たちが選出され、彼もその内の一人。ですが、結局彼を含め適応者は現れずじまい。結果、彼だけが生き残ってしまう事態になったのです」
「………」
非常に大雑把な説明でも八幡は理解した。彼自身も似た境遇をしているからだ。彼の”天命の札”も本来の所有者は妹の比企谷小町なのだから。木場の境遇には驚きはしなくとも、親近感は少なからずは湧き上がる。だからどうこう、するわけでもない。
「復讐か……」
「ええ。リアスも気づているでしょう」
「厄介なことにならなきゃいいですけどね」
次の日、現役信徒2人が部室のソファーに座っていた。八幡は心の中でため息を吐きっぱなしで、若干の鬱になっていた。隣にいる木場は殺気立ち、それを隠す気もない。
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテストタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
紫藤イリナは言った。
最強とも謳われた伝説の聖剣だったが、大昔の戦争で折れてしまい、その破片を教会が回収し、錬金術を用いて7本の聖剣に分けて作り直された。当然ながら一本一本の力は本来の聖剣エクスカリバーには及ばないが、芯となっている破片さえ無事なら剣自体は破壊されても再生できるため、見方によればオリジナルよりも使い勝手はいいだろう。
リアスの説明を受けた兵藤。そこに気遣いなのかゼノヴィアは布に巻かれていたエクスカリバーを晒す。
破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)。続いて紫藤イリナも紐に変えていた擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を刀に変化させた。
「その犯人もわかって、回収に来たのね。それとも私達悪魔が疑われているのかしら?」
「犯人は神の子(グリゴリ)を見張る者だよ。私達の注文は回収するまでの間、戦いに手を出さないで欲しい」
堕天使の組織。そこに奪われたとなれば戦力が減っただけにとどまらず、敵対する組織の戦力が増してしまった。八幡はその部分は他人事だが、部長のリアスは頭に血を上らせる。
「……どういう意味かしら?」
「上は悪魔と堕天使どもと同様に信用していない。聖剣を神側から取り払うことができれば、悪魔も、万々歳だろう? 堕天使どもと同様に利益がある。それゆえ、手を組んでもおかしくない。だから、先に牽制球を放つ。堕天使コカビエルと手を組めば、我々はあなたたちを完全に消滅させる。たとえ、そちらが魔王の妹でもだよ。と、私たちの上司より」
「悪魔と堕天使が組んでるならもっと上手くことをなしてるだろ。少なくともここに来たなんてばれないようにする」
リアスがキレると察した八幡は彼女等の会話に口を挟む。3人はしばらくの沈黙。
「いちおう、この町にコカビエルがエクスカリバーを3本持って潜んでいることをそちらに伝えておかなければ、何か起こったときに、私や教会本部が様々なものに恨まれる。まあ、協力は仰がない。そちらも神側と一時的にでも手を組んだら、三すくみの様子に影響を与えるだろう。特に魔王の妹がいるなら尚更」
嫌な空気が流れる中、去ろうとした直前でアーシアを見て、魔女と呼んだ。そこでエクスカリバーに手をかけたゼノヴィアはアーシアを見据える。室内にいる全員に緊張が走る。
「なんの真似だ?」
「こっちの台詞だろが」
ただの拳銃をゼノヴィアに向ける八幡。
「裏切り者とはいえ元信者。我らの神ならば救いの手を差し伸ばしてくださるはず」
「TPO教わらなかったの?時、場所、場合。全部駄目じゃねえか。お前らのお粗末な教育なんて知ったことじゃねえけどな。あーいや悪かったな。聖剣も聖女も守れない組織に無理言っちまって」
「なんだと……」
この時点で2人の矛先はアーシアから八幡へと完全に移っていた。
「違うのか?信仰とは名ばかりに縋っているだけの連中だろ」
「面白い。私たちの力を見せてやろう」
「八幡!ダメよ!」
「ちょうどいい。僕も相手になろう」
「誰だ、きみは?」
青筋を立てるゼノヴィアの問いかけに木場は不敵に鼻で笑う。
「君たちの先輩さ。失敗作だけどね」
はい、更新遅くなってすいませんでした。しかも、戦闘シーンなしときた。
更新が遅れたのにはレポートやら引っ越しやらでバタバタしていたからです。でも、まだやらなきゃいけないこと盛りだくさん。
今回、戦闘シーンがなかったりしたのは、さらっと更新出来て、作者が死んでないとアピールできるからです。
次回は戦闘シーンだせるように努力はします。
どうでもいいことですが、八幡の心の声が漏れて女の子に聞かれちゃった、なんて展開やった方がいいんですかね?自分は好きじゃないのでやりませんが、絶対。
因みに八幡のカードの能力は全て決まってはいます。