目が覚めたら雪山でした。いや、正確に言えばどうやら雪が積もるくらい高い山の上。
……え? いや、なぁにこれぇ。え? バリアン世界でもなければアストラル世界でもないし……え?
困惑して声もでない。状況についていけていない少年。
『ふん、まさか混沌によって別次元へと飛ばされるとはな…』
そんな彼の頭の中に響き渡る声。否、彼の側に寄り添うようにして立つ黒い影。
「どういうことだよドントラル」
『その呼び名は止めろ。…貴様が九十九遊馬たちと共にアストラルを助けるために旅立ったのは覚えているな?』
「当たり前だろ。小鳥ちゃんがついに家の弟を射止めた瞬間なんだし、忘れるわけがない」
アニメ本編見てたときも最終回は印象深かったしな。ホープ軍団とか。
『アストラル世界とバリアン世界、この二つの世界が混じり合うことで生まれたのがあの混沌だ。そこまでは良いか?』
「ああ。それに関してはお前が話してくれたしな」
『ならばよい。さて、貴様も知っての通り、バリアン、アストラルどちらの世界も強力な力を持っていたのは知っているだろう?』
勿論だ。ランクアップとランクダウン。相反する二つの性質を持つ二つの世界は、人間の世界――つまり、自分達が生きる世界から逸脱した世界なのだ。アップダウンの差があるとはいえ、中身はどちらも進化と言う膨大なエネルギーをもった世界。
故に、相反する属性の二つが混じり合おうとすると属性反発作用によって世界が壊れてしまう。しかし、これを我が自慢の弟、九十九遊馬とその仲間たちが頑張ってくれたお陰で融合が果たされた。
これによって生まれたのが、未知の存在、混沌領域。
『そうだ。そして、膨大な力同士がぶつかり合うその空間、何処に異界に続く歪みができていてもおかしくはあるまい?』
「…なるほどな。つまり、あの混沌領域は二つの世界が入り交じった状態のため世界が安定していないってことか」
『ふん、貴様にしては良くわかったものだ』
つまり、突入の際に次元の狭間に吸い込まれた俺はそのまま異次元へと飛ばされたと言うことなのだろう。
と、そこで彼は気がついた。自分の服装がこんな雪山のなかでは非常識にもほどがあるコート一枚の軽装でありながら、全く寒くないことに。寒さだけではない。普通、こんな軽装でこんな高度の山に登っていれば最悪死ぬことすらありうるというのに、自分の身体はどこまでも正常だった。
『何だ、気付いていなかったのか。貴様がやったのだぞ?』
「は?」
彼は言う。いかなバリアンであっても生きるのは難しい。だが、己の半身たる貴様は己の周囲の環境を書き換えることによってこの環境を生き抜くことができているのだ。
「書き換え? …まっさかぁ」
『……貴様、何度も言うが貴様は我の半身なのだぞ? それくらい出来て当然であろう』
「……マジか」
何にしてもこんな雪山のど真ん中に居ても仕方がないだろう。彼はまずは下山しようと考えて雪をしっかりと踏み締めた――と、快晴の空の元雪山を登る人影を確認。
遥か下ではあるが確かにこちらに向かってきているその人物を見て、彼はその人に話を聞くために歩き出すのであった。
※※※※※※※※
彼の印象を語るのであれば、不思議な人物――だろうか。
雪の山に居るというのに、防寒具と言えば不思議な形状のコートのみを着た赤髪の少年。ナッシュと言う名前らしく、失った自分の記憶を探すために各地を旅していたのだが、なぜかこんな場所に居たらしい。これだけ聞けば非常に胡散臭いのだが、彼の持つ雰囲気は決して嘘をついているようには思えなかった。それに、
「と、隣の家に塀ができたよ、ヘイヘーイ!!」
とか何とか言ってこちらを笑わせようとする彼の姿は悪い人には思えない。何かと独り言が多いのも特徴だが、それもまた変わった個性という奴なのだろう。笑顔を忘れない素敵な人だ。
そんな彼と出会って数時間――自分は、この世の物とは思えないような地獄を奔っていた。
「先輩ッ! こっちです!!」
ファンタジー小説に出てくるスケルトンと言えばいいのか、剣、槍、弓、小刀、途方もない種類の武器で武装した動く骸骨。腕や頭、あらゆる場所が壊れた亡者が四方八方から迫る。炎によって照らされる骸骨たち。彼らの身体は炎によって照らされ、まるで全身が血に濡れているかのように赤くてらついていた。否、血に濡れているのだ。
そんな骸骨たちの海を、巨大な十字架の付いた巨大な盾を使って時に薙ぎ、時に押し倒して切り開く少女。
名前をマシュ・キリエライト。初めて会ったときは眼鏡に学生服のような姿であったが、今は身体にぴったりと張り付くようなラバースーツのような鎧を纏った、サーヴァントと呼ばれる使い魔と融合した人間。…マシュって着やせするタイプだったらしく、身体のラインを強調する鎧姿ではその綺麗な形も大きさも丸わかりである。
必死に走って数分後。とりあえず骸骨たちの姿が見られない廃屋に入った自分たちは、一度休息をとることにした。
「先輩、大丈夫ですか?」
マシュが心配そうに顔を覗き込んでくる。
正直、大丈夫なはずが無い。自分は元々魔術回路と呼ばれる魔力を運用するための神経のようなモノがあるだけの一般人でしかない。そんな自分が、一般枠として呼びだされたというだけでも凄まじいことであるというのに、それに加えて、突然の管制室の爆発事故、マシュとの契約。サーヴァントとマスターによる戦争、聖杯戦争。突然放り出された昔の日本という国の冬木という都市。人の営みは感じられず、化け物のうろつく足音と炎によって辺りが焼ける音のみが響き渡る、恐ろしい空間。
だが、不安なのはきっとマシュだって同じだ。彼女も戦うことは怖いと言っていた。だが、サーヴァントとしてあなたを守る、と。ここで恨み節を言うのは簡単だ。だが、それで本当に良いのか?
だから自分は彼女の頭に手を置いて、微笑む。上手く笑顔が作れているだろうか? いや、きっと疲労とかで凄い表情になっているに違いない。重い頬を無理矢理引き上げているせいで、表情筋が引きつっているのが分かる。しかし、マシュはそんな不格好な自分を見ても、嗤わなかった。
「そうですか。…もしかしたら向こうと通信する手段もあるかもしれません。頑張りましょう!」
この盾で護りますから! ふんすっ、と盾を片手に胸元でグッと拳を握るマシュ。
自然と笑みがこぼれる。ありがとう、マシュ。彼女の言う通り、まだ希望はある。自分のために頑張ってくれる彼女のためにも頑張ろう――と、そこまで考えたところでふと自分は思いだした。人類を助ける、凄いな! 頑張れよ! そう言って笑う赤髪の少年。
「マシュ!! 彼は、ナッシュは居なかった!?」
「ちょっ、先輩!? 落ち着いてください!」
思わず掴みかかるようにして彼女に迫る。だが、彼女の言葉でふ、と冷静になる。そうだ。ここで焦って大声を出すのは拙い。いつ骸骨たちが襲ってくるとも知れないのだ。ごめん、と頭を下げると、いえいえと両手を振って許してくれるマシュ。
「でも、すみません。ナッシュさんがどこに居るのかは不明です。恐らく、私たちに巻き込まれてこの冬木に来ているとは思うのですが…」
言葉を濁す彼女。そこから先は自分でも分かる。
サーヴァントである彼女でなければ対処できないような怪物たちが居るこんな場所で、彼のような自分と同い年か、それよりも少し下くらいの年齢の少年が生きていけるはずが無いのだ。
嗚呼、何ということだ。一瞬目の前が真っ暗になる。
半日も関わってはいないが、それでも彼は自分にとってとても励みになる存在だった。人理継続保証期間カルデア。そんな誰も行ったことがないような、地の果てのような見知らぬ土地に一人放り込まれたのだ。それがどれほど心細かったか。数合わせでしかないと言われ、周りと明らかに違うことを自覚し、それでも尚ここで人のために、誰かを助けることが出来ると信じることしか出来ない、だが同時にシミュレーションによってサーヴァントの戦闘と言うものを初めて体感して、とても恐ろしくて、もう帰りたいと心が折れそうになった。
だが、そんな不安も彼といると気にならなかった。
我ながらちょろいと思うが、彼の笑顔を見ているだけで何だか何でもできそうな気になってくるのだ。でもそんな彼がもう居ない。それが何と悲しく、辛いことか。
「先輩…」
手を握られて初めて感じる、震え。顔を上げると、そこには不安そうに、だが確かな意志の輝きを宿す不思議な色の瞳。そうだ。ここで腐っているわけにもいかない。それに彼が死んだとは決まったわけではないのだ。希望はある。
「休憩は終わり。さ、いこ! もしかしたらまだ生存者がいるかもしれない」
「はい!」
そうだ。希望はある。
聖晶石――虹色に輝く金平糖のような形をした不思議な石で、これは未来や過去の可能性が魔力として凝固したものらしく一定数集めると、サーヴァントを召喚することができるようになるらしい――を利用し、サーヴァントを呼びだすことに成功した矢先の出来事だった。
「先輩! 急ぎましょう!!」
「ったく、面倒くさいわね…ほら、さっさと行くわよマスター」
聞こえてきた女性の悲鳴、そして続くように響く剣戟の音。
誰かが戦闘をしているらしい。急いでそちらに向かう自分たち。というか二人とも待ってほしい。サーヴァントの脚力には食らいつけても追いつけないよ私は。
ちなみに、聖晶石による召喚によって召喚されたのは、番外クラスと呼ばれる特殊なクラスの存在、ルーラーのジャンヌ・ダルクだ。
だが、このジャンヌ・ダルクという女性、黒い。髪は灰色のようなダークブロンド。瞳もそれと類似した色であり、身体に纏う鎧は黒。手に持つ武器である旗も黒である。
何というか、聖女というには些か黒い。表情もどこか気だるげだし、口調も結構荒い。名前も、ジャンヌ・ダルクオルタらしい。オルタと言うのはどうやらオルタナティブという言葉の略称らしく、意味としては変化したものや二者択一。つまり、本来のジャンヌ・ダルクから変化した存在、善ではなく、悪を主体とした存在と言うのが自分の召喚したジャンヌ・ダルクオルタ――面倒くさい、一々噛みそうだし、黒ジャンヌでいいや、黒ジャンヌで。
更に言うなら、彼女は本来存在しないサーヴァントらしいのだが、なぜか自分の元に召喚されてしまったらしい。実はあんた、マスターって結構心の中真っ黒なんじゃない? とか言われたときはショックで立ち直れなかった。
マシュの、大丈夫です! 人間誰しも黒い部分はあります! という励ましにもならない励ましによって更なるダメージを受けた結果、廃屋の片隅で体育座りして地面にのの字を書いた自分は悪くない。また、この時マシュと一緒に自分を励まそうとしてくれたので、黒ジャンヌは案外悪い人じゃ無いのかもしれない。
「なにじっと見てるのよ」
「え? あ、えーっと、黒ジャンヌって案外良い人なのかなーって」
「はっ!? ばっかじゃないの? 私が良い人? ふざけるのも大概にしなさい。私は今すぐにでもフランス滅ぼしに行きたいのよ!」
「でも、私にしっかり着いて来てくれてるし…走る速度も合わせてくれてるし…」
「それはマスターが消耗しすぎて私の戦闘の邪魔になったら困るからよ。マシュは魔力を必要としていないけど、私は貴女の魔力がないと維持が出来ないのよ? 分かる?」
なるほど、つまり私の身体を気遣っての言葉ということか。
「ち、違うわよ!! なに勘違いしてんの、馬鹿じゃないの!」
「うわっ、酷い」
「先輩もジャンヌさんも喋ってないで!! もうすぐ接敵します!!」
マシュの言葉に慌てて前を向く。そうだ。今はあの悲鳴の主の元に向かうのが先決。
同じように悲鳴に惹かれているらしい骸骨たちをマシュと黒ジャンヌが倒す。そして自分たちの眼に飛び込んできた風景は――
「俺はNo.14強欲のサラメーヤの効果発動! 破壊したモンスター以下の攻撃力を持つモンスター全てを破壊する! 焼き払え、サラメーヤ!!」
二つの頭を持つ、炎で出来た巨大な猟犬。その二つの口から放たれる炎で骸骨たちが丸焼きにされている姿であった。
「サラメーヤ!?」
「知ってるの、マシュ!」
犬の名前を聞いて驚くマシュ。どうやらあの、サラメーヤとかいう化け物について何か知っているらしい彼女に問いかける。
「はい。サラメーヤとはインド神話に出てくる四つ目の犬のことで、死神を従えるヤマ神の忠実なる猟犬。現世に居る死ぬべき人間をヤマ神の元へと連れていくという伝説があります」
「へぇ…」
つまり、死神という奴なのだろう。確かに、あの犬から感じる威圧感と、まるで地獄の炎を濃縮したような姿は正しく死神そのもの。
と、そこで気づいた。何故、そんな神話に出てくるような獣がこんな場所にいるのだろうか? あの獣もサーヴァントなのか。
「…違う。アレはサーヴァントじゃないわ」
「え? ならアレは――」
「私たちとは全く違うモノよ、アレは。…どうやら、あの男が召喚したらしいわね」
黒ジャンヌが指さす先に居たのは、オルガマリー所長と、彼女を庇うように立ち、左腕に取り付けられたヘンテコな板を弄っている少年の姿。その姿を見た彼女は、脇目も振らずに飛び出した。
「あ、先輩!?」
「…はぁ」
彼女の行動に驚きを隠せないマシュ。呆れたマスターだわ…。やれやれとため息を吐く黒ジャンヌ。
彼女たちのマスターは、物凄い勢いで少年――九十九遊斗ことナッシュの元へと走ると、その勢いのまま彼に抱き付いた。
「ナッシュ君!!」
「ああ、望さ――ぐほぁ…ガッ!?」
抱き付く、というよりはチャージ、突撃や体当たりと言った分類である。
全力疾走の勢いをそのままに、レスリングのタックルのように彼の腹に向かって抱き付いた。彼の鳩尾を確実に捉えた肩。痛み、そして肺の息が無理矢理吐きだされ、身体が弛緩する。そうなれば彼女の勢いを殺すことなど不可能であり、彼はそのまま後ろの瓦礫に後頭部を強打した。
『ザマァ』
「ど、ドン千てめぇッ……」
「…あれ? ナッシュ君!? ナッシュくん!?」
「こ、こら!! とりあえず落ち着きなさい!! 揺らすんじゃない! 後頭部打ち付けてるんだから下手に揺らしたら悪くなるでしょ!? 一旦離れる!!」
「ナッシュゥゥウウウウウ!!」
折角再会できた少年のピンチに、魂から叫ぶ彼女。
そんなマスターの様子を遠目で見ていたマシュと黒ジャンヌであったが、
「…あれは私が召喚される訳だわ…」
「何も言わないでください。いや、その、本当に…」
黒ジャンヌは垣間見えた業の深さから、マシュは先輩と慕う女性の暴走加減にそっと目を逸らしながら、彼女たちの大騒ぎに誘われてやってくる骸骨たちに、八つ当たりと言わんばかりに旗と盾を叩き付けるのであった。
現在執筆中の作品が中々上手く書けないので、リハビリというか気分転換に書いてみた。何故グラ子に黒ジャンヌを付けたかって?黒ジャンヌが実装される日を夢見てるからだよ。
Fateシリーズはにわか程度の知識。グラも未だオルレアン且つ星4鯖いなくてブーディカ姉さんとマシュ、フレンドのジャンヌで無理やりでも硬くして頑張るという謎パーティー。
早く星4、5鯖が欲しい。てか、ブーディカ姉さんを早く再臨させたい…。
気まぐれに書き始めたモノだから、ネタが湧いて来たり、執筆中の物が行き詰ったりしたら書いていこうかなと思うので、更新は物凄く遅い予定。
とりあえず、この作品の目標は
オルガマリー所長の生存
です。いや、弄る選択肢したときの所長が面白くて。折角なんで生存させようという。
何?後々実装されるストーリーでまた現れるかもしれない?それに、遊戯王とFateのクロスなんて確実に強さ論争とか色々大変なことになるにきまっているだろうだって? …知らん、そんなものは俺の管轄外だ。
ちなみに、主人公の設定ですが
名前:九十九遊斗
種族:バリアン(元人間)
です。九十九遊馬の実兄ですが、彼は遊馬と同じように大昔の戦いで散ったドン千の阪神と言う設定。ゼアル最終回後、ドン千がアストラルポジションとなりつつ、彼は唯一のバリアンとしてよみがえったとかなんとかかんとか。
あと、髪型は蝦蛄