今回はナナカマド博士の振り返りの回です。
間違いがあれば指摘お願い致します。
「1年ぶりだな……」
ドアの取っ手に手をかける。
1年ぶりに見るタマムシ大学の研究室のドアを、懐かしく思いながら空ける。
私は帰ってきたと、周りに知らせたかったのだろうか。
ドアを開けた音は、今までよりも少し大きかった。
「ナナカマド先輩っ!」
反射的に見た研究員の中で、私の見知った顔ぶれが並ぶことに嬉しさを感じる。
その中で私のことを先輩と呼んでくるのは1人しかいない。
「ああ、今戻ったよ。オーキド君」
「フィールドワーク御疲れ様です!ナナカマド先輩!」
自分の席に移動しつつ、オーキド君から自分がいない間の1年で何が変わったのか報告を聞く。
「ふむ。では私と同じくフィールドワークに行った研究員がたくさんいるのか……」
「はい。先輩がフィールドワークに行かれる許可を取ったことで、自分も……と」
「……皆我慢していたところはあったが、半分以上とはな」
そうなのだ。
私がフィールドワークの許可を大学に申請し、それが通ったのが1年前。
それから私はすぐさま出発したのだが、それを見た研究員が我先にと許可を取り始めたらしいのである。
それも私の所属する研究員の半分以上が。
流石に大学としてもそれは困る、と半分ほどは許可が下りなかったようだがそれでも多くの人が外に出ていた。
彼は小さい頃に世界を巡っていたことがあるらしく私が戻るまでは、と残っていてくれたらしい。
なんて律儀な、とも思ったが彼が残っていてくれたことを嬉しく思う自分がいた。
「それにしても先輩」
「なにかね?」
「何か嬉しいことでもあったんですか?」
「む?」
「だって、さっきからずっと笑っていますよ?」
自分の席に荷物を置き、座ろうとしたところで私は固まった。
「笑っている?……私が?」
「はい……」
オーキド君に確認しながらも嬉しいこと、と考えて脳裏に浮かぶのはあの少年の笑顔であった。
私が一度も見たこともないポケモンと仲良く冒険していた少年。
「ああ、確かにあったよ」
「どんなことだったんですか?」
先程までの不安そうな顔が一転、好奇心に溢れる顔に変わったオーキド君がいた。
自分の椅子に座り、あの少年は今はどうしているのだろうと思いながら窓の外を見る。
隣の席に座ったオーキド君も釣られて窓の外を見た。
「ふむ。どこから話をしようか。私が旅先で出会った少年の話だ」
「少年?」
「ああ、私が出会った、私が今まで見たこともないポケモンと冒険をしている少年だ」
それから私はオーキド君にあの少年の話をしていた。
「ジョウト地方のウバメの森で私はキャンプの準備をしていたんだがね」
「はい」
「川の向こうにポケモンがいたんだよ」
「はい」
「そのポケモンはスケッチにないポケモンだったから、私はそのポケモンのスケッチを取ろうとしたんだ」
「はい」
「そこで私は試作品のモンスターボールを川に落としてしまったんだ」
「はい、は……はい!?」
それまで相槌を打っていたオーキド君の顔がさっ、と青くなる。
予想通りの反応だとそれを横目に見つつ、私は話を続けた。
「川に落ちて流されてしまったモンスターボールを私は当然、急いで追いかけたのだよ」
「ちゃんと拾えました!?あれすっごく高いんですよ!?」
「まぁまぁ落ち着きなさい」
モンスターボールはポケモンの捕獲を目的に作られたボールである。
今、広く使われているぼんぐりボールよりも耐久性、利便性に優れたボール。
量産化されれば、ぼんぐりボールよりも安価に使えるだろうと期待されているボールであった。
そして、私たち研究員の為に、タマムシ大学が製造元のシルフ・カンパニーから試作品を譲り受けたのだ。
聞いていた通り、ぼんぐりボールよりもモンスターボールは便利であった。
使用テストも兼ねて、と言う事もあり、かなりの数が送られていたそれを我先にと私たちは使い始めた。
そこまでは良かった、良かったのだが。
かなりの数と言えど研究で使うとなればあっと言う間である。
1ヶ月もしないうちに消えたそれをなんとかもう一度、譲ってくれないかとシルフ・カンパニーに聞くと無償で譲ることは難しいらしく、次は購入して欲しいと来た。
それなりに自由に、研究に使えるお金があった私たちは、購入という事でいくらなのかといざ値段を見てみれば、それはとても高かったのである。
量産化されれば安いモンスターボールであるが、それは量産化されてからの話。
試作段階で材質も、構造も少しずつ変わるそれを一度に、大量に作るのはお金のかかる事だったのである。
それでも個人で買う研究者はいるし、配られた時点でそれほど使っていない研究者は大切に使うようになった。
私は後者で、使う機会がそれ程なかったおかげで今は数個、余っている状況である。
目の前で青い顔のまま、此方を見ているオーキド君はあっと言う間に使ってしまったのだが。
おろおろしている彼を手で制しつつ話を続けた。
「その流されたモンスターボールを運良く拾ってくれた少年がいたのだよ」
「ふぅ……良かったですね」
「ああ、あの少年があの場に居なければ貴重なモンスターボールがまた減っていたところだったな」
「残り少ないんですから大事にしてくださいね!」
「わかったわかった。そして、あの少年はな。私が見たこともないポケモンを連れていたのだよ」
「先輩が見たこともないポケモン!?」
驚きのあまりオーキド君が身を乗り出すと同時に、研究室にいる皆からの視線が強くなった気がした。
もちろんそれは気のせいではなく、此方の方を注意深く見つめる視線が増えたのは事実である。
研究者と言う仕事柄、未発見と言う言葉に強く反応してしまうのは致し方ないことだろう。
「少年は妖精さん、ビィと呼んでいたがね。あれは私が今までで見たことも、聞いたこともないポケモンだったよ」
「見た目とか、ポケモンのタイプとかはわかりますか?」
「スケッチならある。後で見せるが……他の誰にも見せてはダメだ」
「何故です?」
オーキド君に、周りに聞かれないように小さな声で話すと疑問が返ってくる。
「あのポケモンは、私たち研究者の間で言う伝説のポケモン、なのかもしれん」
「伝説?」
「ああ、遠い昔に出会った幻のポケモンの話を、当時から今まで言い伝えてきたと言うのは君も聞いた事があるだろう?」
「前に話した私が旅先で出会った森の守り神、のことですか?」
「ああ、もし伝説のポケモンでなかったとしても、あれはそう簡単には出会えない、そういうポケモンだった」
「でもなんで見せてはいけないんです?」
「あの少年はまだ幼い。もし、伝説のポケモンであったとしたら、そうでなくてもそう簡単に出会えないポケモンだとしたら狙われてしまう」
「っ……まさか?」
「君も狙われたことがあるのだろう?ポケモンハンターに」
「はい……」
ポケモンハンター。
それはレアなポケモンを非合法に捕獲し、金持ちに売り渡し儲ける者達のことである。
お金になるならば野生のポケモンのみならず、人の持つポケモンまで強引に奪うこともある。
捕獲の際、ポケモンを過剰に痛めつけることが殆どで、助けても野生に帰れるポケモンは少なく、保護が必要であることが多いのだ。
オーキド君も若い頃、冒険中にとある森を立ち寄った際、森の守り神に出会ったそうなのだがそこでポケモンハンターに襲われてしまったらしい。
途中で知り合った少年たちと手を組み、なんとかポケモンハンターを撃退することができたと聞いたときは感心したものである。
「嫌なことを思い出させてすまない。しかし、あの少年には自由な旅をして貰いたいのだ。世界をその身一つで周り、体験して欲しいのだ。それを邪魔をするような真似を私はしたくないのだよ」
「そこまで考えが及ばず……すみません」
危うく自分の嫌な経験を自分が少年にさせてしまうと考えたのだろう。
落ち込むオーキド君を宥めながら、話を続けた。
「いやいや、君は悪くない。研究者であれば知りたい、と思うのは当然だからな」
「でも……」
「気にするな。次に気をつけてくれればそれでいい」
「……はい」
「話の続きに戻るとしよう。あの少年はな。驚くことにポケモンを知らなかったのだよ」
「その妖精のことですか?」
「いや、彼はポケモンのこと自体、知らなかった」
「えっ」
「不思議に思うだろう?子供は親からポケモンを教えて貰う。そうでなくともポケモンの学校もある。少なからずポケモンと言う言葉は知っているはずだろう?」
「ええ」
「ポケモンと関わらずに、ポケモンのことを知らずに暮らすなどほぼ不可能だ。そんな中、あの少年はポケモンと言う言葉すら知らなかった。それでもポケモンと仲良く暮らし、とても強い絆を築いていたのだよ」
「言葉すら知らないのに……ですか?」
「ああ、道端で良く見るポケモンの名前も知らず、タイプもわからずにだ。それでもポケモンと仲良く暮らしていた」
「そんなことが……」
「私たち研究者やトレーナーはポケモンを知って、仲良くなろうとする。しかし、あの少年は仲良くなってから識ったのだろう」
「仲良くなってから……知る?」
「あの少年に仲良くなるポケモンの名前やタイプは関係ないのだよ。仲良くなり、絆を築き、それから識るのだ」
「なるほど」
「私たちの言うポケモントレーナーとは違う、真にポケモンと仲良くなれる者。」
「真にポケモンと仲良くなれる……ですか」
「ポケモントレーナーはポケモンを育て、導くがあの少年はそうではない。互いを助けあい、互いを導く。皆が憧れるポケモンマスターとは、あの少年のような者を言うのだろうな」
「ポケモンマスター……」
「それからな――」
感慨深そうに、話を聞いているオーキド君にあの少年のことを話して聞かせる内に、すっかり窓の外は暗くなっていた。
それでも、少年の話や、オーキド君からの報告や研究成果を、時間を忘れて話し合う私とオーキド君であった。
「彼は今、何処を旅しているんでしょうかね?」
「どうだろうな?今でも風のように、世界を巡っているのだろうな」
感想:若い頃のナナカマド博士とオーキド博士の話合いって描写が難しいですね。