ようやく5話投稿です。
誤字・脱字報告は喜んで修正いたしますのでお願いします。
「本当に申し訳ありませんでした!」
僕の目の前で女の子が謝っていた。
「助けて頂くだけなく、あまつさえ介抱してくださった命の恩人に私はなんという仕打ちをしてしまったのでしょう!本当に申し訳ありません!」
「だっ、大丈夫だからっ!うん。痛くない!」
しゅんとしてしまっている女の子にこれ以上悲しい顔をさせまいと無理矢理笑う。
痛くない。その言葉だけは言わせてほしい。男の見栄としてなんとしても。
頬に盛大に紅葉の手形ができているが気にしてはいけない。
「でも、頬がそんなに赤く腫れてしまって……」
「気にしない気にしない!それで、君はどうしてここに?」
「それは……」
女の子の悲しい顔をこれ以上見たくないと思い、話を変えようとするも女の子の顔に影が差した。
どうやら人に言いたくないようなことだったらしい。
「あっ、話したくないなら話さなくて大丈夫。ええと、そういえば君に聞きたいことがあったんだ」
「はい、なんでしょうか?」
「ここって、何処?」
「ここはタマムシシティの近くにある森ですわ」
「タマムシシティ?」
聞いたこともない町の名前に頭を傾げた。今まで旅をしてきた地方でそんな名前の町はなかった、はず。もし、行ったことはあるけれど、その時には
「はい、カントーで一番大きいデパートや綺麗な噴水の広場があります。カントー地方の中でも大きな町ですわ。皆さんには虹色に輝く夢の町とも言われておりますね」
「虹色に輝く夢の町……」
「あなたはもしかしてタマムシシティは初めてですの?」
「うん、初めてきたから森で迷っちゃって。でも迷ったおかげで君を助けられてよかったよ」
「本当にありがとうございます。それに比べ、危ないところを助けて頂いた命の恩人に私はなんという仕打ちをっ――」
「待った待ったっ!」
女の子がまた謝りはじめたので急いでそれを止める。
罪もない女の子に謝らせるのは気持ちのいいものではない。
「もう大丈夫だから。ね?」
「――っ、わかりました。ではせめてタマムシシティを案内させて頂けないでしょうか?恩を少しも返せないままというのは嫌なのです」
「なら、お願いしようかな。何も知らないで来ちゃったから、案内してくれるなら是非お願いします」
「ありがとうございます。では参りましょう!」
まるで花が咲いたような笑顔とは目の前の女の子の笑顔のことをいうのだろう。
笑った女の子は言葉ではとても表せるとは思えないほど、見ているこちらも笑顔にするほどに素敵なものだった。
「奥様、こちらM。エリカお嬢様は同じ年頃の男の子と共にタマムシシティへ移動を開始しました」
『あの子が時々タマムシの森へ行っていることは知っていましたが、まさか同じ年頃の男の子と会っているなんて。エリカにようやく意中の殿方が現れたということなのでしょうか』
マシロと女の子が去った森にできた天然の広場。
広場を囲う木々の中から1人の女の子が現れた。
女の子はトランシーバーのようなものを取り出すと今まで自らが見たことを報告する。
「そうとは限らないように思えますが。ですがエリカお嬢様のあれほどの笑顔は久しぶりでございます。それに男の方に膝枕をしてもらっていたエリカお嬢様は幸せそうでございました」
『最近のエリカは笑うことが少なくなっていましたからね。常に気を張らずともよい、と伝えてはいるのですがどうしても気負ってしまっていましたから。私たちに意中の殿方がいるということを伝えないまま秘密の逢瀬を重ねるだけに留めているのは今、忙しい私たちにこれ以上心配をかけたくないというあの子の配慮からでしょう。あの子は自分のことを後回しにして周りを気遣ってしまうことが多々ありましたからね。今だけは全てを忘れて一人の女の子として過ごしてほしいものです』
「エリカお嬢様も私たちの期待に応えようと最近はバトルのお時間を増やしておりましたから、お気持ちを察するにはあまりあります。エリカお嬢様の跡をつけてしまうという非礼を働いてしまった手前、このM。今日はエリカお嬢様の逢瀬の一時が良いものになるよう助力する所存です」
女の子は目尻をハンカチで拭うと奥様と呼ぶ人物にそう誓いを立てた。
『私からもお願いします。そこで私から一つのお願いです』
「なんでございましょう?」
『今日タマムシにおいて宿泊可能な施設の全てで、エリカと逢瀬を重ねる男の方の宿泊を可能な限り拒否するようにお願いして回ってください。宿泊を拒否する理由については追ってこちらから伝えます、と』
女の子は混乱した。
「はい?えーと?何故です?」
『このまま一時の間だけ逢瀬を重ねる日々を続けさせるのは親として心苦しいものがあります。それにないとは思いますがその男の方がエリカの弱った心を狙う悪い男とも限りません。故に!故にっ!その男の方を見極めるためにも我が屋敷へ招いてしまおうと思うのです。もし悪い輩であった場合は、このカントーで生きていけぬようにしてやるまで……』
今自分は冬の森にいるのではないか、と女の子が錯覚するような冷えた声が森に響いた。
「奥様……怖いです。もし、エリカお嬢様と相思相愛、またはそれに近しいものであった場合はどうされるのです?一番良くない場合はエリカお嬢様の片思いで男の子の方がそれに気づいていない場合ですよ?突然お屋敷へ呼ばれた場合、男の子が怖くなって逃げてしまった際に傷つくのはエリカお嬢様でございます」
『相思相愛、片思いであれば応援しましょう。むしろ親に許可されたと思えば堂々とエリカも男の方に会いに行けるでしょうし。もし……怖くて逃げてしまった場合は……エリカに謝る他ありませんが』
「ですよね。わかりました。ではこの不詳M。エリカお嬢様のために逢瀬の一時を助力させて頂きます!」
『それにしてもMさん』
「なんでございましょう?」
『いつもの通りムツミさんと呼んでは駄目なのですか?Mの理由はムツミからですか?それともミニスカートのM?』
「初めての尾行と言うことで雰囲気を出そうと思ったのですが……」
『確かに雰囲気は大事ね。では今日エリカの逢瀬を応援している間だけはMさんと呼ばせて頂きますね』
「お、お願いします」
「な、なんで今日は泊まれるところが何処もないの?」
「な、何故でしょう?」
タマムシを案内している間にマシロ君とは名前を呼び合うまでに仲良くなった、がその楽しい雰囲気は何処へやら。
マシロ君も私も声が震えていた。
夕暮れ時、マシロ君にタマムシシティを案内した私はそろそろ今日の宿を探そうとしたのだが、ない。
全くと言っていいほどに空いている宿がなかったのだ。
基本的に埋まることは想像できないポケモンセンターのトレーナーズホテルまで。
私の知っている宿泊施設は全滅といった状況であった。
「エリカさん。タマムシって、いつもこんなに人が来るの?」
「人はたくさん来ますが、普段はここまでではありませんわ」
いくらタマムシが活気にあふれる町と言えど流石にトレーナーの宿泊に支障をきたすほどではない。
マシロ君が首を傾げる中、今までの宿の対応が何処か不自然だったのを思い出す。マシロ君が1人で受け付けの人に話しかけたまでは良かった。いつものように手際良く宿泊の手続きをしてくれるのだが私の姿を見ると一転、予約で一杯であることを思い出したようで宿泊がキャンセルされるのだ。私がマシロ君と一緒に入ろうものなら門前払いのような宿もあった。
マシロ君はタマムシに来たことは初めてであったために、こんな日もあるのだろうと特におかしいものではないとは思っているようだが私は違う。
「これほどまでに宿泊施設が埋まっているとなりますと、もしやお母様が?」
「エリカさん、どうかした?」
「いえ、なんでもありませんわ」
つい口に出てしまった言葉をマシロ君に聞かれていなかったことに安堵しながらも、私は頭を悩ませていた。若くから絶大なカリスマを持ち、タマムシジムのジムリーダーを長くに渡って勤め上げた私のお母様の影響力は、ことタマムシにおいては絶対ともいうべき力を持つ。タマムシシティにおいてトレーナー1人の宿泊を全ての宿泊施設に拒否させることなどお母様の影響力を持ってすれば可能なことだろう。今までそんな個人の我がままのようなお願いをしたことなど聞いたことはないが実行に移してしまえばどうなるかは想像するに難くない。
問題は何故、そんなお願いをしたかということだ。
トレーナー個人を宿泊禁止にする意味がわからないのだ。宿泊禁止にするということはタマムシシティから出て行けと暗に言っているようなもの。だがそんなことをするのならばトレーナー自身の行動を待つよりも自警団でも動かして強制的に追い出した方が早いだろう。しかも今までの宿泊施設のマシロ君の宿泊拒否の流れを見るに、宿泊を拒否する条件は私と一緒にいるトレーナー。そんな曖昧で誰か特定すらできていない条件で宿泊拒否させるのは流石に難しい。もし、私とマシロ君が別れた後マシロ君が宿泊施設を探した場合はどうするのだろうか。疑問は多い。
「っくしゅん。寒いね、エリカさんは大丈夫?」
「大丈夫ですわ。この着物は少し厚手なので温かいのです」
疑問は多いが、そんなことを考える時間は必要ないのだろう。
目の前でくしゃみをしたマシロ君を見てしまった以上、選択肢は1つしか残っていなかった。
このままマシロ君を野宿させるわけにはいかないし、何より今は秋が近い。
ましてや命を助けて頂いた恩人が外で寒い思いをしている中、自分だけが家の中で暖を取るということは考えられなかった。
『はい、ムツミでございます。何かご用でしょうか?』
「……ムツミさんですか?エリカです。突然で申し訳ないですが今日、1人を泊めることは可能でしょうか?」
携帯を取り出すと使用人であるムツミさんへと電話をかける。
『お客様でございますか?可能でございますが、エリカ様のご友人でございましょうか?であればそれ相応のおもてなしをさせて頂かないと』
「私の友人ですが豪勢なものは必要ありません。宿がないということで泊めて差し上げたいのです」
『わかりました』
人ひとり泊めることは難しくないが万が一と言うこともある。
無事マシロ君を泊める場所を確保できたことに胸を撫で下ろすとタマムシの街並みを眺めていたマシロ君に声をかけた。
「マシロ君。泊まれる場所がありましたよ」
「本当!エリカさんありがとうっ!これで寒い思いをしないで済むよ!」
「ビィィイイ!」
マシロ君が喜びのあまり私の手を掴み振るのと同時に手に柔らかい感触がした。
見えないポケモンの声が響く。
「ふふふ、妖精さんもどう致しまして」
私が妖精さんと呼ぶポケモンは普段は目に見えない。
私があの時、あの広場で見た妖精を思わせるポケモンはマシロ君のポケモンであった。
人前に出るのが恥ずかしいらしく、マシロ君の肩に止まっているが嬉しいことがあると声は聞こえるし、こうして触れてくれるのだ。
「では、参りましょうか」
「うん」
「ビィィィィ!」
夕焼けに照らされた地面に2人と1匹の影が映った。
「さて、単刀直入にお聞きしましょう。あなたはエリカにどんな目的で近づいたのです?」
「……」
「ああ、エリカが泊めると約束した以上、どんな答えであろうと今すぐ追い出したりはしませんよ。それは約束致しましょう」
エリカに連れられ。
まさかエリカの住む屋敷に泊まることになるなど微塵も想像していなかったマシロは。
エリカの母と名乗る人物と。
個人面談をしていた。
「あれ?もしかして、私はとんでもないことをしてしまったのではないでしょうか?」
「今更気付かれたのですか、エリカお嬢様。いくら御自身のことをタマムシのエリカお嬢様ではなくただ1人の女の子として見てくれる殿方に出会えたからと言えど。浮かれ過ぎていきなり御実家に招待し、あまつさえ泊めるのは……早まり過ぎではないでしょうか」
「わ、私はなんとはしたないことを……。ですが恩人であるあの方を外に寝かせるなど考えられません」
「その点に関しては私も同じ気持ちでございます。エリカお嬢様の恩人を外で寝かせるのはあってはならぬことでしょう」
「で、ですよね?」
「私としてはエリカお嬢様がただ一人の女子として殿方と接されていたのは大変嬉しいものでした。お母様も喜んでおられましたよ」
「っ!?さてはムツミさん?今日1日中、私たちの跡をっ!?」
「ふふふ」
「答えなさいっ!!!」
一方、その頃エリカは。
自分が行ったことの重大さと。
マシロとの1日を見られたことの恥ずかしさで。
ミニスカートのムツミこと、Mと追いかけっこをしていた。
エリカさんは可愛い。
そして、ビィさんの出番が。