轟音を奏でつつ悪魔の爆撃機B-52が飛翔する。冬将軍はとうに去り、小麦畑が風にたなびく。まだまだ育成途中の青々しい畑を眺めつつ、自動車は滑走路の端を走ってゆく。飛行場と畑の間にあるのは整備が行き届かず穴だらけのフェンスのみ。警備の要員もだらりと小銃をぶら下げているだけ、随分ボケっとした警備だ。
まあ警備責任者には後で注意しておくとして、『彼』はそんな様子を愛おしそうに眺める。ここ以上の田舎を探すのも中々難しいだろうが、別に東京のように発展している必要はないのだ。満州国が『彼』の故郷であることに変わりはないのだから。
『彼』がそんな様子で自動車を乗り回していると、とりあえず建てただけの管制塔――――しかしこの管制塔、かれこれ20年は使われ続けている――――から『彼』の部下が飛び出してきた。慌てて車を止める。どうしたのかと問えば、黙って差し出されるメモ。全てカタカナである。今時モールスなんて時代遅れと思うなかれ、この通信はもう使われていないはずの旧関東軍の電信線を使っており、盗聴される可能性は極めて低い。どんな時代も、頼るべきは過去の遺物である。
――――ケツコウハシチガツツイタチナリ
決行ハ7月1日ナリ。そう素早く頭の中で解釈した『彼』は表情をほんの僅かに曇らせる。
遅い。
とはいえ、こればっかりは相手先の事情も鑑みなければならない。こちらは利用する側だ。決行してくれるだけでも儲けものというものである。そう結論づけた『彼』はメモ用紙を破り捨てる。風に攫われてふわりと飛び立つ破片たち。どこまでも飛んでゆく。
『彼』の胸にぶら下げられた数多くの勲章が揺れた。
「・・・よって伊予灘での迎撃は難しいと言わざるを得ません。豊後水道で封鎖できないでしょうか」
「・・・佐田岬半島の防衛に全力を注ぐことが可能なら、実現できるかと」
会議は見事に小袋小路にはまり込んでしまった。敵対的危険生物を外洋で撃破することは不可能という結論に至った自衛海軍は瀬戸内海に戦力を結集し、来るべき反攻作戦――――まだ反抗についてはノープランなのだが――――に備え、戦力を温存することを決定していた。
すると問題になるのが防衛線をどこに定めるか、ということである。海を守るのに防衛『線』を引くとは中々滑稽な話であったが、内湾防衛となるとどこかに防衛線を策定し、そこに機雷をばら撒いてしまうのが適当な策だ。古典的な上に時間稼ぎ以上の役目を果たしてくれない機雷ではあるが、時間稼ぎは十八番だろう。
瀬戸内海に通じる水路は全部で三つ。紀伊水道、豊後水道、そして下関の関門海峡。紀伊水道を抜けられれば人口密集地である大阪に隣接する大阪湾への侵入を許すこととなるため自動的に淡路島を中継点とした防衛線が定められることとなった。また、関門海峡に関しては九州へ物資を輸送する非常に重要な拠点であるため、絶対に死守しなければならない。
そうして会議はまるで確認するだけのように順調に進んでいたのだが、豊後水道における防衛線の策定で各局の意見は大きくずれた。
早い話、『どこまで放棄しても問題ないか』という議論になったのである。
一つ目の案は豊後水道を放棄し、屋代島-中島ラインを死守する案。これは陸軍第二軍の提案であり、九州と四国の間に大きめのスペースを設け、敵対的危険生物の攻勢を受け流す余裕を生み出そうというもの。四国や九州に押し寄せる敵対的危険生物の数が陸軍の対処能力を超えた時、一時的に伊予灘(地図で言うなら本州と四国と九州の丁度真ん中)までそれらを誘導。本州に待機している砲兵部隊によって殲滅を図る。とされているのだが、そもそもどうやって伊予灘まで敵対的危険生物を誘導するのかが不明であるし、伊予灘でなく周防灘(本州と九州の間)に敵対的危険生物が流れ込んでしまった場合、関門海峡が危険にさらされてしまう事など、解決しなければならない問題が多い。
もう一つの案は豊後水道を封鎖する案。これは海軍呉鎮守府の提案である。豊後水道全体に機雷原を設置。最終ラインに定めた佐田岬半島-佐賀関半島を守るというものである。この案ならば最終ラインは佐田岬半島-佐賀関半島、地図を見てもらえれば分かると思うが四国のでっぱりと九州を結ぶ線になり、伊予灘・周防灘への侵入も許さないという姿勢になる。瀬戸内海を封鎖せよ、を額面通りに受け取るならばこのラインで守るのが妥当だろう。
しかし、ひとつだけ欠点がある。
四国から飛び出たでっぱり――――佐田岬半島の防衛である。
会議机の向こう側に座った一人の陸軍尉官が申しなさげに口を開いた。机を挟んで反対側に布陣する海軍将校たちに見せるように手元の地図を掲げる。
「・・・一旦整理しましょう。仮に
「だから第二軍には佐田岬半島の防衛をお願いしたい。と申し上げているのです」
一人の海軍将校が分からんのか、と言いたげな口調で言い放つ。文字の上では温厚な言葉遣いであるが、相手を気遣うならもう少し柔らかい調子で発音できないだろうか。あくまでゲスト参加である飯田は悟られぬようため息をついた。
別の陸軍将校が言い放つ。階級は大佐、この場で最上位だ。
「まだ彼の話は終わっていない。最後まで聞いてやってくれ」
全くもって非の打ち所のない指摘。ここで無駄に加熱しても何も始まらない。
「・・・失礼した」
海軍将校が謝り、陸軍大佐この場にいる全員を見回した。それから開かれる口、人の話に途中で口を挟んだ海軍将校を嗜めるだけに留めておけば良いものを。
「焦る気持ちは分かる、いつ九州四国が沖縄やジャワ島のように奴らに侵されるか分かったものではないからな・・・だが、そんな時こそ組織を超えて協力しなければならない、違うかな?」
彼の演説にこの場の海軍代表である海軍中佐が応じる。
「おっしゃる通りです。瀬戸内海防衛は国民のために我々が為さねばならない事の一つ。互いの考えをよく剃り合わせて、最も適当な方策を打ち出しましょう」
もちろん両者が互いに主導権を奪い合おうとしている時点で協調も何もないのだが、彼らの発言を額面通りに受け取れば正しい発想ではあった。この国はまさに危機に瀕している。いつ敵対的危険生物が上陸してくるかも知れず――――飯田は予想日を把握しているが、この場にいる彼らには知らされていない――――使える機材も人員も限られている。陸海軍の協力なくして瀬戸内海封鎖などという大胆な計画は成功しない。
「うーん、それにしたって平行線ですねぇ・・・」
呉鎮守府備え付けの自動販売機から購入したコーヒーのプルタブを開ける小河原。隣で座って資料を読んでいる飯田。見ての通り会議は小休憩となっている。
「鎮守府の目前まで敵を誘い込むという戦術を採りたくない海軍、佐田岬半島という撤退不可能な檻の中で部下たちを戦わせたくない陸軍。これだけならどう考えても陸軍の主張が正しいのだが・・・伊予灘や周防灘に誘い込めば必ず撃滅できるワケではないからな・・・陸軍の主張を支持するわけにもいかない」
内湾深くまで敵を誘い込むということは、内湾に発達している市街地が戦火に晒さることを想定しなければならないということ。沿岸を無防備にすれば市民に不安が広がり、治安の悪化にも繋がりかねないのだ。ならば宣伝上だけでも防衛線を設定すればいいじゃないかと言いたいところだが、どこかの国家要塞ではないのだ。防衛線が存在しないことはすぐバレるだろうし、敵は情報も気にせず突っ込んでくる連中だ。役に立たない嘘はつけない。
「ただ、陸軍大増員により増えた人員を伊予灘・周防灘の沿岸防衛に回すことはできる。その旨は対策室として提出した防衛案に記載されているし、陸軍の主張の根拠はそこだ」
陸軍大増員、失業者対策として効果を発することも期待されて行われた政策である。これまであった年齢や身体能力などの制限を大幅に緩和、さらには兵士の基本給もアップさせることで多くの志願兵を呼び込んだ。給料を無条件に上げてしまったあたりが『バラ撒き政策』などと批判を受けているようだが、根本的な経済構造が問題でない限りバラ撒き政策は有効である・・・もちろん、ばら撒いたお金を国民が使ってくれなければ意味がないのだが。
ちなみにバラ撒き政策といえば、同様のことは四国九州、そして東海関東でも着々と進む防御陣地建設の巨額な費用にも同じことが言える。国家事業は金がよく回るのだ。
「まあ、新兵ばかりの増員部隊じゃ100m先の目標に弾が当たるかも怪しいですし、当面の瀬戸内海沿岸防衛を任せるなら妥当かもしれませんが・・・」
「予備兵力が足りなくなる恐れがあるからな・・・『九州遊撃戦』が始まる頃には伊予灘も周防灘も敵の手に落ち、せっかくの戦力が釘付けにされる可能性もある」
「素直に佐田岬半島-佐賀関半島ラインを支持できればいいのですがね」
「・・・アレの維持は難しすぎる。機雷原を敷設するにしたって水深も深いし、陸軍の言うとおり佐田岬半島を守れるかも怪しい」
少なくとも敵の数、敵対的危険生物の個体数を把握、大まかな数を予測できればいいのだが、そんなことは不可能。となれば計画は必然的に被害の多さ、すなわち戦線を維持する兵士の数を維持できるかにかかってくる。一度突破されれば相当数の部隊が孤立するであろう佐田岬半島防衛を陸軍が避けたい気持ちもわかる。
「佐田岬半島を地雷原にする案でなんとか通すしかなさそうだな」
「結局、それが妥当案ですか・・・」
ちょっと納得いかない様子の小河原。機雷と地雷だけで50km以上の防衛線を守れるのかどうか。怪しい話だ。航空機や砲兵の支援を受けられればまだ希望はあるものの、恐らく九州・四国で戦闘している最中に機雷・地雷を補充し続けられるとは思えない。地雷や機雷は敵が来れば必ず減ってゆく罠。となればいつかは品切れを起こす。そして空いた僅かな切れ目から万の敵が流れ込むのだろう。
「なに、満州の地雷を回せば数自体は揃うさ。道がなければ最善策でゴリ押しだ、できる限り兵士は集中運用したいし」
山陰・北陸を守る予定の第三軍に歩兵戦力を回していないのはその為だしな。と付け加えるように呟く飯田。山陰・北陸には原子力発電所が異常なほど集中しており、これを守らなければ新兵器である電磁投射砲の運用は叶わない。なにげに重要な第三軍の担当地域だが、満州から引き抜いた精鋭戦車師団や航空機を中心とした部隊での防衛が想定されていた。ところで電磁投射砲の生産計画はやや遅れ気味である、なんとか
そこまで考えたところで、唐突に飯田たちがいる部屋の扉が開けられた。
「飯田少佐殿、統合幕僚本部より、電話がかかってきております」
「なんだと・・・分かった、すぐ行く」
電話? いったい誰が・・・疑問を頭の片隅に追いやり、ともかく飯田は小河原に会議再開までに戻れなかったらさっき言った通り話を進めるよう命じ、通信室に向かった。
通信室とは言ったものの、別になんということはない。ポスター一つない部屋に置かれた机とその上の市販されているような電話機。見張りの尉官がいる他はなんの代わりもない部屋だ。これが外部の回線とは繋がっていない軍秘匿回線である。こんなものでいいのかと何とも言えない気分となるが、ともかく受話器を取り、保留状態を解除した。聞き覚えのある声。対策室の小牧、飯田の部下だ。
「急にどうした。お前なら携帯の方にかけても良かっただろうに」
『いえそれが・・・まだ報道規制がかかっている情報なので・・・』
確かに飯田の携帯が特定され、何らかの組織に盗聴されている危険性はゼロではない。いくつかの中継基地を経由して伝えられる携帯での通話を盗聴するのは難しいだろうが、不可能ではないからだ。
「この時代に報道規制か、ツイッターもフェイスブックもある時代に」
『それが、報道規制をかけているのは米国なんです』
米国が報道規制? それだけでもことの異常性が浮きだってくる。もちろん隠しおおすための報道規制ではなく情報と同時に政府見解を流し、国民を落ち着かせるための時間稼ぎだろう・・・つまり情報だけでは国民が大混乱に陥るようなことに違いない。
「・・・そうか、遂に米国領土侵攻か」
『そんなヤワな話じゃありません』
その次の言葉に飯田は危うく受話器を取り落としそうになる。
『パナマ陥落です』
パナマ運河は全長約80km、最小幅91m、最大幅200m、深さは一番浅い場所で12.5m。南北アメリカ大陸を繋ぐパナマ地峡を突っ切るもので、ここを通ればマゼラン海峡やドレーク海峡を回り込まずにアメリカ大陸東海岸と西海岸を海運で行き来できる。昔、合衆国海軍の艦船が全て運河を通行可能だったこと、パナマ運河を通過することを想定して設計された貨物船のサイズが「パナマックス」と呼ばれるあたり、アメリカとって非常に重要な経済・軍事の要衝である。
「そうか・・・パナマが」
そう漏らした言葉を聞いた後ろの尉官が動揺する気配がする、どうせ遅くとも明日には報道される事実だ。気にするような事じゃない。
『現在、米・パナマ軍が戦闘に入っているという情報もありますが・・・』
「小牧、パナマは『陥落』でいいんだな?『破壊された』ではなく」
『被害状況に関しては何とも・・・ともかく一旦東京に戻ってきてください。他にもいくつかの場所がほぼ同時に攻撃を受けているんです』
ここで素早く伝えようとしないあたり、パナマよりかは戦略価値が低いのだろう――――というか、パナマほど戦略価値の高い場所もなかなかないか――――とすると真珠湾などは無事ということになる。米領で最初に犯されるのは北マリアナかハワイと勝手に予想していただけあって、少々虚を突かれた気分だった。もちろん事実が全てなので、虚を突かれたなんてどうでもいいことだが。
「・・・いや、東京での処理はお前に一任する。どのみち新大陸での話だ」
『分かりました。では自分が対処します』
「ああ、頼んだぞ」
それを最後に小牧の声は聞こえなくなる。普通の電話ならそこで終わりだろうが、一応秘匿回線、交換手の交信内容を確認する声が聞こえる。事務的な声が消え、受話器は完全に沈黙した。
飯田は机に備え付けられた椅子を引き出し、座った。少し状況を整理したい気分だったが、整理する情報が存在しない。まあ結論から言えば、敵の侵略が第二フェーズに移ったというだけのことだ。パナマを取られれば合衆国海軍分断どころの騒ぎでは済まない。西海岸と東海岸の経済が遮断され――――陸上輸送網もあるにはあるが、海上輸送の比ではない――――北アメリカ経済は『一時的な』混乱が起きるだろう。しかし合衆国の利点はその国土が大陸であることにある。結局必要なものは全て自前で手に入れられるのだ。海運はなければ不便だが、最悪なんとかなる。国民が飢え死にしなければいいのだし、あの大陸には石油もある。
だが、問題は米大陸に存在しない。パナマの陥落は太平洋が敵対的危険生物のプールとなってしまったことを意味する。そして敵対的危険生物がいよいよ大西洋の海も侵し始めるということだ。恐らく今回の一件でアメリカは完全にアジアから手を引く。SEATOは本来の意味での東南アジア条約機構になってしまうだろう。
まあ、今更の話か。飯田はそう言い聞かせて椅子から立ち上がった。初めから悪条件で作戦を立案させられているんだし、あまりに遠い同盟国が役に立たないことは前大戦でも証明されているではないか。
ともかく、自分のすべきことをする。今は瀬戸内海封鎖計画をまとめること。それが終わったら・・・四国九州の防衛施設建設状況の視察は後回しにして一旦帝都へ帰ろう。
飯田は部屋を開けて外へ出た。
場所は前大戦の日本の同盟国へと移る。雷撃的に第一次世界大戦の雪辱を晴らしたところまでは良かったが、共産主義者との戦いを選んだが故に滅亡を招いた国。ドイツ。現在はソビエト・ヨーロッパ。
かつてここが第三帝国の首都であった面影なんてどこにも残らないベルリンの町並みを眺める男がいる。ソビエト・ヨーロッパ軍将校、アーベル・シュナイダー少佐。念のため言っておくとこの名前は彼の持つ一つの偽名に過ぎない。
しかし『эмиссар(使徒)』関連の案件で日本に飛んだ時はアーベル・シュナイダーと名乗ったので、『эмиссар』関連の案件ではこの名前を使うことにしていた。
ともかく彼は、ベルリンの町並みを眺めていた。目の前にいる人物に目もくれず。
「――――、――――、聞いているのかね、特務士官」
「おっと、失礼しました。故郷の街があまりに美しかったもので」
目の前に座っているのは『いかにも』な体格をした大男、赤軍の制服はやはり大男に似合うデザインなのだと改めて実感させられる。
「・・・まあよい、どうせ私が説明したことは全て紙媒体で貴様に渡してあるからな・・・ところで、今回はなんて呼べばいいんだ?」
「いつも通り『特務士官』で結構ですよ、なんだったらシュナイダーとでも呼んでください」
そう言いながらアーベル・シュナイダーは正面からソビエト・ロシア軍将校を見据えた。中央の人間であるというだけである程度の特権が認められるのだから、労働者の国とは随分いい加減な話である。まあ理想は言っても仕方ないのかもしれないが。
シュナイダーは渡されている紙に少し目を通す。その間、相手はこちらを品定めするかのような目線で見てくるだけ、このままでは話が進まないと感じたシュナイダーは、仕方がないので口を開く。
「で、この情報が私にどう影響すると?」
「結論から言えば、偉大なる指導者様はマダガスカルにAN602を投下しようとお考えだ。委員会の方も乗り気だ。無論、私もな」
「なるほど、素晴らしい」
何が素晴らしいってマダガスカルという位置が素晴らしい。マダガスカル島は栄えある我がソビエト連邦の構成国である南アフリカ人民共和国。これの領土である。ちなみに南アフリカ人民共和国はソビエト・ヨーロッパ以上に格差が広がっていると聞くが・・・。まあ、資源産出国の格差が広がるのは運命だ。今更気にするようなことではない。
話が少しずれてしまったが、ともかくそんな南アフリカ領マダガスカルは攻撃を受けた。
『эмиссар』に。
「ともかく戦術空軍は専用機の準備を進めている。作戦実行は早くても明日。それまでにはマダガスカルからの撤退も概ね完了。準備が整うと同時に投下されるであろう」
AN602、
「そして、貴様はマダガスカルに向かい、その攻撃の成果を確認せよ」
「了解です」
二人は事の重大さを理解しないような様子で話を進めてゆく。もちろん二人共この状況の異常性は把握している。だが、マダガスカルは『эмиссар』に侵された、通常の戦術で南アフリカ軍が対応を行う限り、マダガスカルに人民はもう住めない。どのみち放棄される島。そしてマダガスカル島という位置なら放射能による影響も少ない。そういった点ではむしろマダガスカル侵攻はソ連にとって「待ち望んだ」の出来事であった。上手くいけば世界で初めて『эмиссар』の撃退に成功するという栄誉を勝ち取れる。これ以上のチャンスはない。
「・・・そして同志、重要なのはここからだ」
「・・・」
わざわざ使われたに違いない『同志』という言葉に心底辟易とするシュナイダー。こいつが『同志』と使うときは面倒事が待っている証拠だ。だが顔には出さない。その面倒事は自分が望んで引き受けるものだから。
「貴様はその足で日本へ向かえ」
ベルリンは快晴なり。