模倣の決号作戦(改稿前)   作:帝都造営

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勝利への旅路①   ★地図付き★

インド洋周辺概要図

 

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SEATO軍による敵対的危険生物対処行動概略

 

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 六月ももう終わろうという時期だが、赤道にほど近く熱帯雨林気候にあたるこの街にあっては四季の変化を感じさせるものはない。というか四季が存在しない。

 ・・・気候というなら今の時期は丁度モンスーンの季節だったりするのだが、まあそんな細かいことを動物達が気にするわけがなく、今日も空を我が物顔で飛ぶ飛翔体が一つ。

 

 それは特有の鳴き声を上げながら、ビル街を抜け、人の頭を通り越し、澄んだ海の上を低空飛行、それから、海の上に突き出た巨大な鋼鉄の塊に羽を休めるため着地した。

 

 ここらの海岸線はどこまでもなだらかに続く、よって羽を休めるのに丁度いい場所がない――――一昔前なら街が格好の休み場所だったのだが・・・最近の害獣対策やらなんやらで街はもう彼らにとっての安息の地ではない――――彼らにとってそこは好都合な場所だった。錆び付いてもその鋼鉄は彼らの体重をやすやすと支えてくれるし、安全対策の関係からここを訪れる観光客はいない。餌は得られないが、彼らの休息を邪魔する者はいない。

 

 

 ・・・そこを止まり木としか認識しない鳥たちは知る由もないだろう。この鋼鉄がかつて海を駆け、祖国を守らんと奮戦したことを。そして、ここで力尽きたことも。

 

 

 

 英国印度――――欧州赤化に伴い逃げてきた英国の拠り所――――はセイロン島、コロンボ沿岸。

 

 

 そこが金剛型戦艦三番艦『榛名』、その終焉の地であり、今なおその亡骸がそびえ立つ地である。

 

 

 

 

 

 

 

 

【模倣の決号作戦番外編】

 

――――勝利への旅路――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「クアラルンプール防衛隊奮戦す・・・和訳するならこんな感じかねぇ・・・」

 

 誰に向けてでもなくそう呟くのは夏服である第二種軍装を着こなした一人の尉官。共有スペースには数種類の新聞が置かれており、一部だけ取り寄せているらしい日本の大手新聞社以外の新聞は全て英語で書かれている。

 

 彼がふと新聞の外へ視線を飛ばすと、受付に座っている日系人がこちらを伺って・・・目が合うと同時に逸らされてしまった。どうやら、自分が意味もなく呟いたのが気になったらしい。気にしてもしょうがないので、再び新聞へと注意を向ける。新聞紙上では活字の英語が踊り、SEATO軍の奮戦を伝えている、戦闘が開始されて一週間。未だにマレーシア連邦首都の防衛は成功しているとのことだ。勝ってはいないが負けているわけではない。ならば新聞は自軍が優勢のように報じるだろう。

 

 ・・・実際の戦局、いや戦場はどうなっているのだろうか。

 

 彼はその脳裏にマレー半島を往く敵対的危険生物、そしてそれを迎え撃たんと展開するマレーシア・タイ・英国連合軍を思い浮かべる。『ジャワ島の悲劇』以来、主としてインドネシア領を食い荒らしてきた敵対的危険生物であったが、実はここ数週は大した侵攻を許していなかった。実際、初期の侵攻ペースを維持されていたら・・・既にバンコクも陥落していることだろう。

 

 

 SEATO軍の連携に、敵対的危険生物は怖気づいている。

 

 

 ・・・そう宣伝できればいいのだが、結局、最近の侵攻速度鈍化は俗に言う「アウトブレイク」――――敵対的危険生物がパナマ及びマダガスカルに侵攻し、その勢力範囲を飛び石的とはいえ一気に拡大した一件――――への準備だったという説がにわかに浮上している、実際それは正しく、一週間、いや二日と待たずにその認識は世界中に広まるだろう。新聞も、クアラルンプールでの奮戦を伝える一面を捲れば、次には「アウトブレイク」関連の分析記事が載っかっていた。

 

 そうして彼はパラパラとその新聞に目を通すと、次の新聞に手をかけず声を出す。今度は独り言じゃない。

 

「なあ、君、昨日の新聞はまだ残っているかい?」

 

「あ、はい、残ってます」

 

 向こうはまた独り言だと勘違いしたのだろうか、一瞬遅れて反応する。

 

「それは良かった、これと同じ新聞の昨日のやつを持ってきてくれ」

 

「分かりました」

 

 それだけ言って受付のその奥に相手は姿を消す。それを見送った彼はもう一度新聞へと目を通すが、彼がさがす記事はやはり見当たらない。

 

「こちらになります。どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 直ぐに戻ってきた受付から新聞を受け取り、そちらの一面を眺める。それから呆れた、というか見放すように笑う。

 

「やっぱり載ってるわな・・・なんせ、俺はこのためにやってきたのだから」

 

 

 そこにはどアップで写されたソビエトの星を飾った爆撃機、そして『Atomic attack to Deeper!!』の大見出し。敵対的危険生物に対して初めて実施された、ソビエトによる核攻撃を伝えるものだ。しかし写真がでかいだけで、記事の内容は薄っぺらい。どうして今日の新聞にこれ関連の記事が載っていないのかと新聞社に問合わせたい気分だが、記事を書く素材もなければどうしようもないだろう。

 

「詳細は調査中・・・ね、まあそれも当然だ」

 

 なんせ自分がその調査員なのだから、などとは口に出さず、日本国自衛海軍中尉小河原(おがわら)淳(あつし)は新聞を受付に返した。二面より先には目を通していないが、恐らくパナマに上陸してきた敵対的危険生物との戦局報道が中心に違いなかったからだ。

 

「ありがとさん、助かったよ」

 

 砕けた口調に戸惑いつつも頷く受付。それには構わず、小河原は外へ出た。頬に当たる潮風・・・海の匂いだ。しかし近いうちに、風に乗って放射能はここまで飛んでくる。日本という極東の島国で起きた原発事故、放射能の飛散情報は国内よりも国外で人気があったそうだが・・・原発の比でない放射能を浴びるであろうSEATO諸国の国民は何を思うのだろうか。

 

「ま、三十年後の放射能汚染より、眼の前のDeeperってところかね・・・」

 

 小河原の発言を聞き取る者はいない、彼は気にする様子もなく、目的地へと足を速める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調査団というのは、普通専門家などを大勢連れて行うべきものだろう。しかし今回西側諸国に許されたのは各国士官一名ずつの派遣。もちろんこんなのでは調査もクソもないのだが・・・向こう側の突きつけてきた条件なのだから飲むしかないだろう・・・東西の微妙な力関係は、こういうところにも現れるのだ。

 

 まあそんな愚痴は言っても仕方ない。今回ばかりはデータ云々の話ではないし――――西側最大の核兵器は精々50メガトンだというのに、今から100メガトン超の核兵器を作れと? 無理な話だ――――なにより重要なのは東側の作戦に西側が調査団を派遣した・・・すなわち、「東西が軍事的に協力している」という事実が重要なのだ。

 

 

 風になびく英国印度国旗、その没落したユニオンジャックが刻まれた国旗を小河原は眺めつつ、ゲートの歩哨に身分証明書を見せる。第二次世界大戦の前半にはこの海軍基地へ日本海軍が攻め入ったこともあったそうだが・・・今では赤軍インド侵攻時の反抗の拠点であり、日英の強い――――もしくは強くせざるを得なかった――――絆を示す基地である。

 

 その証拠に、今でもこの基地には補給のために日本海軍の艦が来航し、小河原が待つ艦もまたここへとやってくる手筈になっている。

 なっているはずなのだが。

 

「遅れ・・・?」

 

「ええ、本当なら昨日には入港しているはずなのですが・・・」

 

 日本より派遣された同胞がそう言う、日本海軍に割り振られた事務所の中。小河原はそれだけ聞くと壁に貼り付けられた世界地図――――というか、インド・オセアニアの拡大図――――を見遣った。頭の中で敵対的危険生物の侵攻状況を地図へと重ねる。

 

 

「まさか、途中で撃沈されたなんてないよな?」

 

「瑞鶴ですよ、あの艦(ふね)に限ってまさか」

 

 もちろん小河原も同意見だ、翔鶴型原子力潜水艦型の二番艦『瑞鶴』、先代『瑞鶴』と同じように、もしくは先代に引かれるように、彼女もまた、幸運の潜水艦の異名を持つ。名前から生まれたオカルトか、はたまた本当に幸運の女神でもついているのか、それは分からないが・・・まあ、上層部(うえ)から見れば現場の言葉遊びに見えることだろう。

 

 そんな幸運の潜水艦様だ、まだ敵対的危険生物による潜水艦撃沈報告もないのに、彼女が犠牲となることはない。はずだ。

 

「まあ、数日中には必ず来るでしょう・・・補給作業を考えると、早くとも出航は明日ですかね」

 

 こりゃどうやら待機が必要そうだ。目の前の彼も命令系統が異なるので口には出さないが、待機になりそうだと目でこちらに伝えている。

 

「なるほど、では動きがあったら宿舎の方に伝えてくれ、本国にはこちらから問い合わせる」

 

「了解です」

 

 彼との事務的会話はこれで終わりだ。後は東京の室長に問い合わせて・・・恐らく帰ってくるのは待機命令だろうが・・・。

 そんな事を思いながら背を向け、出口へと向かう小河原、ところが突然、振り返った。

 

「そうだ君――――いい紅茶を売っている店を知らないか?」

 

「?」

 

 あまりに唐突で場違いな質問に、相手は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて・・・せっかくの待機命令・・・コロンボ観光もせずに無駄にはできないですなぁ・・・」

 

 などと自分に語りかけ、コロンボの市街へと向かう小河原。本国からの回答は予想通りの待機命令。下手に解釈するなら臨時の時間休だ。呼び出しがあるまでその場にいなくてはいけないけど、その場にいるなら何をしていてもいい――――なんて解釈をすると小牧先輩(たいい)が小言を言ってきそうだが――――まあコロンボ市街ぐらいなら許してくれるだろう。

 

 という訳でまずやって来たのは土産物屋、セイロン島といえばセイロンティー・・・ホントにその解釈でいいのか、というかどれがセイロンティーなのかもよく分からないが、一缶を飯田室長向けに買うことにする。多分喜んでくれるだろう。

 他にも室員や、お袋への土産も買っておく。軍属でない友人たちには、渡した時に「軍人が何やってんだ」と思われるのが癪なので買ってやらない。

 

 

 

「最近はめっきりお客さんも減っちゃったから、助かるよ、お兄さん」

 

 

 土産屋の店員・・・もうヨボヨボのお婆ちゃんが英語でそう告げる。小河原も英語で返答を返す。困ったような笑みがそこにあった。

 

「いえ、自分もこのお店が空いていて助かりました。他の店は皆々閉まっていまして」

 

「こんな状況さね、仕方ないことだよ」

 

 やや遠くを見るようにつぶやく相手に、小河原は返す言葉もない。実際それが現状。セイロンですら、もしくはインド亜大陸にほど近いセイロン島だからこそ物流は滞り、市民生活にも大きな影響を及ぼしつつある。

 その実情は街を少し歩いただけで感じられ、その悪化のしようは祖国よりも酷い。治安の悪化とまでは行っていないのが幸いだが・・・戦場から遠く離れているはずのセイロン島でこれである。

 

 輸送船の不足、護衛艦の不足、人材の不足。資源の不足がもたらした資源輸出国の政情悪化・・・理由を挙げればキリはないが、共通点は敵対的危険生物だ。

 

「心苦しいばかりです」

 

 日本語ではそう言いたいのだが、英語だからどうしても陳腐になってしまう表現。それでも小河原の気持ちは通じたのか、相手は席から立ち上がった。

 

「ねぇ、軍人さん・・・少し、頬を触らせてもらってもいいかしら?」

 

「? ・・・構いませんが」

 

 ゆっくりと差し出された両手。あまりにも唐突なお願いだが、別に触れられたからかぶれる訳でもなし、人見知りなわけでもない。小河原は了承の意を示し、輪郭をなぞるように触れる老婆を見つめていた。彼女は話し続けながら言う。

 

「息子もね・・・海軍やっているんですよ、ほら、なんちゃら級の十二番艦」

 

「グラフトン・・・ですか?」

 

 12番鑑なんていうくらい数があるなら駆逐艦かフリゲート艦だろう、そう目星をつけてとりあえずフリゲート艦の名前を挙げてみる。合っていたのかどうかは知らないが、少なくとも彼女の顔は明るくなった。

 

「そうですそうです、グラフトンです・・・息子は昨日も帰ってきてね、その船に乗るんだぞと自慢するんですよ・・・」

 

 私は海軍なんて反対なんですけどね、そう言いつつもどこか自慢げな様子の老婆・・・彼女の話はまるで息子が今この街に帰ってきているかのようだ。

 

 ちなみに、グラフトンを名乗る船、小河原の記憶が正しければ6月のスマトラ島撤退作戦で戦没している。

 

 小河原がどうしていいのやら、といった表情を浮かべた丁度その時。奥から人影が出てきた。

 

「おいお前、あんまりお客さんにちょっかい出すんじゃないよ!」

 

 その強めに放たれた言葉。それに老婆は小河原から手を離し、言い返す。

 

「なんだいアンタ、別に相手には許可もらってるんだし、いいじゃないかい」

 

 どうやら奥から出てきたのはご主人のようで、反発する老婆に彼は呆れた様子でそうかいと返す。それから小河原に言った。

 

「頭がイカレちまってるんでさぁ・・・ご迷惑かけてすみません」

 

「いえ、気にしてませんから」

 

 ところが小河原の声を聞いた途端、ご主人も表情を変える。

 

「・・・そのイントネーション、この国の人間じゃねえな・・・よく見ると制服も微妙に違うし、日本海軍か」

 

「はい」

 

 小河原は即答――――ここで嘘を言う阿呆はいない――――。そしてそれを聞いた主人はあからさまに顔をしかめる。

 

「とっとと失せてくれ、女房を気遣ってくれるのは英国軍人だけでいいや」

 

 ・・・ああ、そういうことね。すぐに彼の言わんとすることを察した小河原。彼の見立て通りなら、主人の態度の急変にも納得だ。

 

「失礼します」

 

 それならこれ以上とどまる理由はない。買い物も済んでいたことだし、小河原は店をさっさと出た。

 

 

 

 店を出ると、入った時と変わらず通りには車一台もいない。処理しきれていないゴミでもあるのか、どこかから腐臭がする。土産屋の看板は、固定具が片方取れたらしく宙ぶらりんになっている。直す人も、それを指摘する人もいない。

 

 

 

 この国(英国印度)は傾いている。対して祖国(にほん)はそれほどでもない――――もちろん日本だって傾きつつある国の一つだ。しかしインドネシアやパナマように、国の主要部を侵されているわけでもなく、英国印度のように目に見えるレベルまで生活が悪化している訳ではない。

 

 そして、格差があろうとなかろうと、隣の芝は青く見えるものだ。日本という国は国で沖縄という被占領地を抱え、いつ南九州に上陸されるか分かったものではないのだが・・・まあ、傍から見ればよくもまあ日本だけのうのうと、そんな感想を東南アジア条約機構(SEATO)諸国は思ったりしていたりするのだろう。

 

 

 自分の身が一番なのは皆同じことだ。

 

 だから、同盟は亀裂を生み、国民は自分たちで集まって他国の人間と差別化するのだろう。

 

 

「・・・やれやれだ」

 

 

 土産を買った後はコロンボ沿岸に眠る戦艦『榛名』でも見に行こうかと思っていた小河原だったが、どうにも主人の視線が彼にその気を失わせたようだ。彼はそのまま宿舎へと足を向ける。戻れば暇を潰す娯楽はあるだろうし、日本人もいることだろう。

 

 宿舎への道すがら、小河原はある写真を思い出した。それは小河原が店を去ろうとした時に見えたもので、壁に掛けられた写真だった。そこにはさっきの老婆と、さっきのご主人・・・そして英国海軍の士官服に身を包んだ彼らの息子であろう男・・・皆楽しげに笑顔を浮かべており、背後の海はとても眩しい。写真縁は珊瑚で装飾されていた。

 

 どうしてだが、その写真が脳裏から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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