模倣の決号作戦(改稿前)   作:帝都造営

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敵対的危険生物対策室長(中編)

 巨大な組織は運営が難しい。当然だ。組織が大きくなればなるほど維持には多くの人員を必要とするが、人間はみんな違う。みんなちがってみんないい、などとはよく言ったものだが・・・。

 

 結局、組織運営に必要なのは、いかにして構成員同士の綿密な意思疎通を可能とするか、である。

 

 

 普通の会社などなら定例会を開くだけでいい。構成員は皆手の届く範囲にいるし、互いの利益が複雑に絡み合うようなことも少ないから当然だ。

 

 しかしその組織の枠を、国家という共同体にまで拡大した時にその話は通用しなくなる。構成員は各種産業の代表から公官庁の官僚、場合によってはよく分からない世襲議員や軍人も絡んでくる。

 

 だったら、どこかで非公式な交流会を設けるしかないだろう。

 

 そのひとつが今この場で開かれている宴会なのであった。飯田グループ傘下の不動産企業が開発した別荘地――――言わば、飯田財閥(グループ)の牙城である――――にて、太陽が人々を熱中症にせんと・・・いや、太陽自身にそういう意思はないか、とにかく熱中症になりそうなぐらいの強さで輝く中、ジョッキに注がれた発泡酒を掲げる人々。ちなみにアルコールには利尿作用があるので熱中症に気をつけなければ大変なことになる。

 もっとも、飲酒はあくまでバーベキューのつまみ(?)だ。太陽の下でいい大人達が楽しいバーベキューに興じている。

 ぱっと見れば、この非常時になにに興じているのだ、と文句の一つも飛んできそうな風景であった。

 

 

「おう孝介、飲んでるかぁ?」

 

 飯田孝介の眼の前に調子の良さそうな男が現れる。陸軍の佐官服にいくつかの勲章。すかさず孝介はその声の主に言葉を返す。

 

「あぁ・・・飯田大佐殿、お久しぶりです」

 

「あはは! 飯田中佐も昇進おめでとう!」

 

 飯田飯田いって訳が分からないだろうが、つまりそういう事だ。飯田家が軍部とある程度の繋がりを保てているのは軍需物資や装備品を供給しているのもそうだが・・・なにより内部に親族がいるから、日本型社会のそういう側面はそう簡単には払拭できない。

 飯田家は多くの軍人を輩出している。孝介もその一人であり、今孝介に話しかけてきている彼もその一人だ。

 

「Oh! ハルヒデ! 元気してマシタカー?」

 

 飯田治秀(はるひで)、日本国自衛陸軍の大佐で、孝介とは従兄弟の関係にある。そんな訳で孝介の伴侶である彼女も治秀の親族だ。彼女は気軽に話しかけ、そして治秀兄も気軽に返す。

 

「おうよ、相変わらずの美人さんだねぇ」

 

「モウ、褒めても何も出まセンヨ?」

 

 笑い合う二人・・・二人共酒でも回ってるのだろうか、随分と仲睦まじそうなことで。

 

 と、こちらに視線をやった彼女と目が合う。途端に彼女は目を細めた。

 

「ンー? Darling、今嫉妬しましタネ?」

 

 しましタヨネ? とニタニタ笑う彼女。治秀兄も楽しげに絡んできた。

 

「なんだぁ孝介、嫉妬かぁ・・・若いねぇコラ」

 

「治秀兄(にい)まで何ってるんですか・・・」

 

「そう照れるなって、別に取って食おうってわけじゃあないんだ」

 

 とって食われちゃあ困る・・・というかこの人ホントに酔ってるな。いつかは飯田家の人間として陸軍の要職へと上り詰めてゆくのであろうこの飯田治秀がこんな調子じゃ情けない・・・とまぁ、こんな風に彼のことを他人事のように案じられるのは孝介が海軍に飛び込んだ故に派閥に囚われず済んだからなのだが。

 

「・・・」

 

 治秀はそんな孝介をどう思ったのか――――もしくは、何も返してくれない孝介に退屈を感じただけなのか――――歪めて下品になった表情を直さずに話を続ける。

 

「なんだぁ、それとも怖いか? まぁ俺が本気になりゃお前の嫁さんをn・・・」

「――――治秀お兄様? 其の辺にしておきましょうか?」

 

 とまた横槍が、いやこの場合は救世主か。治秀兄の横にいつの間にか現れた新手の女性。和服はふさわしくないと考えたのか洋服を纏い、そして教科書のような微笑みを浮かべている。

 

「お、おう春菜・・・お前も変わらず可愛いな」

 

 それは孝介の妹、春菜であった。微笑んでいる割に、その眼光は治秀陸軍大佐を一歩後ずらさせる。

 

「ありがとうございます・・・ですが治秀お兄様? この飯田家の気品を貶めるような真似は、この春菜が許しませんよ?」

 

 飯田家の人間は皆獰猛だ・・・ことさら、あの猛将飯田啓介に育てられた春菜は。

 笑顔から滲みでる何か。貼り付けた笑みに隠されたそれ。いくら酔ってるとはいえ、治秀兄も軍人だ。引き際ぐらいは分かってる。

 

「オーケーオーケー・・・ちったあ飲みすぎたかね、小便行ってくるわ」

 

 

 そう言いながら治秀兄は行ってしまった。春菜は孝介の横に立ち、それから小さくため息を吐いた。

 

「・・・お酒さえ入っていなければ、立派な方なのですが」

 

 日本人はむしろ酒に強くない人間の方が多い。治秀兄は・・・酔うと面倒なタイプだ。

 

「お前のその言葉を聞けば、治秀兄も飲酒を辞めるかもな・・・いやないか」

 

 この件に関しては孝介も諦め気味である。改善するといいのだが。

 

「春菜は、啓照(あきのぶ)叔父様が心配です・・・」

 

 飯田啓照、祖父である飯田治孝(はるのり)の次男であり、孝介と春菜にとっての叔父である。階級は退職間際の陸軍中将。千駄ヶ谷陸軍中将と共に彼や啓介少将を慕う陸軍軍人たちのグループ・・・いわゆる飯田派を回していると聞いている。治秀兄はそんな啓照将軍の息子であり、出世街道を走りに走っていると言えるだろう・・・まだまだ将官の座は遠そうだが。

 

「まあ、叔父さんなら上手くやるだろう・・・」

 

 

 そう言って春菜との会話を終わらせる。さて、このまま親族と楽しく会話していても仕方がない。

 

 

 

 本職に戻るとしよう。孝介は思惑渦巻く会場へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【模倣の決号作戦番外編】

 

 ――――敵対的危険生物対策室長――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飯田インダストリーの前身である飯田鉄鋼。これが満州と朝鮮半島北部の大開発によって発展したことは有名である。しかしあまり知られていない話だが、現在の飯田インダストリーが自衛陸軍に一定の影響力を持ち、かつ「飯田派」と呼ばれるような派閥が存在するのは、実はソビエト連邦による世界革命宣言により始まった世界革命戦争のおかげだ。満州での貢献により地盤を築いた飯田家は、そこからズンズンと巨大企業にのし上がっていったのだ。

 

 故に、飯田家は日本国内の産業界よりもむしろ、満州国防軍や満州政府といった大陸系の繋がりが深い。車両部門や艦船部門で八菱なども食い込んでくる日本軍産複合体よりも、兵員輸送の多くを鉄道に頼る満州国防軍の方が飯田インダストリーの効かせられる影響の幅が大きかったし、満州の長大な国境警備を担う要塞砲の類は飯田製造の十八番だ。

 

 故に、孝介の話し相手には満州人も入ってくる。といってもその満州人も入植した同胞なの子孫なので、一見すると日本人と変わらないが。

 

「いや~飯田中佐殿、あなたのおかげで漸く電磁投射砲が実用化されましたな」

 

 敵意がないことを示すだけの笑顔を浮かべながら距離を詰めてくるスーツケース姿。満州国防省に勤めている日系三世である。国防省勤務なのが肝だ。

 

「私の成果ではありません、飯田製造の優秀な技術陣の賜物ですよ」

 

「ですが、あなたが働きかけなければここまでの量産には至らなかったでしょう・・・」

 

 褒めるのは会話の基本だ。それに謙遜気味に応じるのも――――孝介は本当に事実のままを言っただけなのだが、まあ向こうには社交辞令のように映るのだろう――――会話の基本だ。それから目の前の男は続ける。

 

「ところで中佐、現在の対処行動が終わればこの国に配備される電磁投射砲は・・・どうなるのでしょうか」

 

 

 82式電磁投射砲。製作は大口径兵器の製造を手がける飯田製造が担当。複雑な機構のために製造コストも時間も馬鹿にならないほどかかる。しかも砲撃に必要な電力供給、移動などの費用もバカ高い。既に米海軍で採用されている艦載タイプの電磁投射砲とは比べ物にならないコスパの悪さだ。

 

 それでも、これがこれまで夢見られてきた高出力兵器の一つの極地であることは言うまでもない。

 

 

「・・・そうですね、維持費は勿論、景観も損ねる。撤去されるでしょうね」

 

 それを合図にし、向こうは僅かに顔を近づけてくる。

 

「やはりそうなりますか・・・満州国防省としては、ソ連邦との国境を守るために是非とも貴社の技術を導入したいのでありますが・・・」

 

「私を飯田グループの代表のようにいうのは止めてください」

 

 孝介は笑いながら手を振った。

 ・・・まあ話の内容は単純明快。「電磁投射砲の技術欲しい」である。ソ連邦と長大な国境線を抱える満州国防軍にとって一撃で陣地を吹き飛ばせるほどの高出力、そして地平線の遥か彼方から攻撃できるほどの高射程を誇る電磁投射砲は喉から手が出るほど欲しいことだろう。

 

 そして、言うまでもないが最新鋭の装備は最高国家機密だ。ましてや電磁投射砲は次世代兵器と呼ぶにふさわしい代物。まさか一佐官に判断できる問題ではない。

 

「・・・ですがまあ、我が軍としてもそれには乗り気です。電磁投射砲は、英国印度や中華民国も欲しがるでしょうが、可能な限り、そちらへの供給を優先するよう働きかけますよ」

 

 

 ――――しかし、上の方で話が纏まっているのなら、話は別だ。目の前の男は柔らかに笑顔を作る。先ほどとは明らかに異なる笑顔。

 

 

「それは良かった。満州国防軍に最新鋭の装備が配備されれば、同盟のさらなる強化につながる」

 

 

 国同士の交流は難しい。海を隔てた国同士ならなおさらだ。西側(SEATO)諸国は確かに反共の二文字で強く結びついているが、常に他国を出し抜こうとしているのは共同体が出来た頃から変わらない。そして他国に出し抜かれるのを恐れている。外交や軍事に関わる高官が国外に出ればそれを各国は察知するだろうし、疑いもかけられるだろう。

 

 しかし今孝介と談笑する彼は毎年こうして飯田家主催の集まりに顔を出している・・・従って嫌疑をかけられる可能性を極限まで抑えられる。

 

 その為の集まりだ。

 

 

「・・・ちなみに、どのような運用を想定しているので?」

 

 孝介は聞く。モロに軍事機密ばかり出てくる会話だが、二人の表情はたわいもない世間話をしているようにしか見えない。周りももちろん、「そういうこと」にしておいてくれるだろう。

 

「勿論鉄道を用いた移動式砲台としての運用ですよ」

 

「ほお・・・」

 

 昔は列車砲という兵器もあったそうだが、反動の関係で相当運用しづらい代物だったらしい。しかし、それに比べれば電磁投射砲は反動などたいして考慮しなくてもいい。

 列車運用する意義は非常に大きいだろう。

 

「・・・ご安心を、専用砲台車両は飯田インダストリーさんに発注させてもらいますから」

 

「それを聞いて安心しました」

 

 そして、そんな約束をちゃっかり取り交わしてしまう孝介。敵対的危険生物への対処行動が終わったら産廃確定の電磁投射砲の処分先に関する取り決めに方向性が見えたのだ。この程度の利益誘導は許してもらおう。

 

「ささ、一杯どうぞ」

 

 そう言いながら男は近くのテーブルに置かれたカクテルグラスを二つ手にとった。孝介も笑顔でそれを一つ受け取る。

 

「それでは・・・我らの日満同盟に」

 

「乾杯」

 

 コチンと音を立てて揺れるグラス内の液体。量も少なければさっと飲み干し、フルーツの香りがするそれを飲み込んだ。

 

 それではと会釈して去っていった男。彼にしてみればマークなしで日本国内を動ける数少ないチャンスだ。なるべく多くの関係者と取り決めを交わさねばならないのだろう。

 と後ろから孝介の名を呼ぶ声。

 

「孝介兄(こうすけにい)~」

 

「ん、どうした?」

 

 そう言って振り返れば身軽な、しかし金のかかっていそうな服装を身に纏った女性が一人。彼女は飯田叡子(としこ)。孝介の再従姉妹(はとこ)で、見かけによらず陸軍少尉という階級を持っている。

 

「どうでした? 満州国防省の方」

 

 そして親しげな様子で近寄ってきたが、別に遊びに来たわけではない。

 

「上々・・・と言いたいところだが、配備数も配備場所も言わなかった。まだまだ導入に本腰ではないな」

 

 電磁投射砲は長年研究されてきた。それ故に技術的な難しさは世界のみんなが知っている。

 向こうだって産業廃棄物を掴まされたくはないだろう。慎重になるのも当然だ。

 

「そうですか・・・」

 

「だが、乗り気であることは間違いないな、鉄道を用いるというプランもあるようだし、前向きには違いない・・・」

 

 そう言いながら孝介はそこに置いてある料理を手にとって食べる。

 

「社の方には鉄道送電線でどこまで対応できるかを研究させておいてくれ。飯田に発注することは約束してもらった」

 

 電線を増強するとなれば追加の、途方もない予算がかかることになる。既存の施設で対応できればいいが・・・できなければ、この交渉が無に帰す可能性もある。飯田製造(ウチ)の技術を信じよう。

 

「そこまで話を進めるなんて、さっすがですねぇ~」

 

「はは、省(陸軍省)によろしく」

 

「はいっ!」

 

 そう言いながら去ってゆく彼女。と、途中で孝介の妻に向かって「お姉さま~」突進していってしまった。法的にもお前の姉じゃあないだろうに・・・。

 というか、だ。孝介は自分の妻に視線を向けた。叡子(としこ)と楽しげに会話している彼女。

 ・・・あいつは飯田家内で好かれすぎだ。彼女の持ち前の明るさがそうさせているのだろうが・・・そう言えば、この前春菜の息子である大介に「なんでオバさんは孝介おじさんと結婚したの?」と聞かれたそうだ。私じゃ不釣り合いか・・・ちくしょうめ!

 

 

「よぉ、相変わらずお前の奥さんはモテモテだな」

 

 久々に聴く声だった。

 

「ん? ・・・この野郎生きてたのか!」

 

 そう言いながら振り返ればバシンと叩かれる肩。

 

「勝手に殺すなよ、戦友」

 

 太陽に照らされてさらに白さを増した海軍第二種軍装。相手はいつものように笑っていた。

 

 武川。孝介と同じ国防大学校広島の118期生。

 

「久しぶりだな、どうして去年はこなかった」

 

「艦隊勤務だバカタレ」

 

「そりゃご苦労様だな」

 

 孝介は先程までの業務用の笑顔とは異なる笑みを浮かべる。学生時代の同期は一生の友だ。

 

「まあ、今日の飯田は奥さんレベルでモテているがな? モテ期到来ってやつか?」

 

「大概にしてくれ、誰が野郎なんかと・・・所詮は『室長』の肩書き目当てだよ、全くお笑いだ」

 

 まあ、去年までは海軍での有力者である大迫善光の補佐官を勤めていたのでこれまでの自身にも利用価値はあったのだが・・・流石に国が今一番気にしていること――――敵対的危険生物――――の対策室長となれば注目度も段違いである。

 

「それより俺の話を聞け、ついに俺も出世コースだ」

 

「そうか、俺は今月付で中佐だ」

 

「うぐっ・・・マジかよ」

 

 大げさに胸を刺されたかのようなポーズを取る武川。しかし演技のようですぐに持ち直す。

 

「しかし俺はその上を往くね・・・来週から華の二水戦勤務よ」

 

 しかも艇長勤務だ。ニヤリと擬音語で表さねば伝わらないほどの勝ち誇った顔を浮かべる武川。水雷戦隊というのはミサイル艇により構成される沿岸防衛部隊のことである。かつての艦隊決戦の前哨戦を担うほど

 

「なんだミサイル艇か、びっくりさせるなよ」

 

「お? ミサイル艇魂馬鹿にしてるのか?」

 

「まさか、新水研(新時代水雷戦の研究会)に所属する俺がミサイル艇を軽視する訳ないだろう」

 

 学生時代に戻ったかのような会話。それを交わしながら思った。ミサイル艇は敵対的危険生物の本土侵攻が始まった時に最も先に矢面に立つことになる艦艇だ。

 

「・・・死ぬなよ?」

 

「お、お前が気遣ってくれるとは」

 

 明日はICBMの雨か? そう笑う武川、どうやら槍の雨では足りないらしい。

 

「てめえが心配な訳じゃない・・・お前が死ねば長職を拝命した118期の艦は全て沈むジレクスが生まれちまうからな」

 

「なるほどね、『雷』艦長(松原)と同じ運命を辿るわけにはいかないわけだ」

 

 そして二人で笑い、今は亡き同期を想う。敵対的危険生物による海軍としての初めての犠牲――――村雨型駆逐艦の『雷』。彼はその艦長だった。118期主席でもあった彼が同期の飯田達に与えた影響は少なくない。

 

 

 ふと青空へ思う、彼は見守ってくれているのだろうか。

 

 

 

 

 ――――だが飯田、忘れるな。この話を信じているのは俺じゃない。お前だ。

 

 まるでフラッシュバックかのようにその言葉が脳裏によぎる。

 

 ・・・同じく118期であり、海軍情報局に勤める旧友の言葉が思い出される。『この話』――――敵対的危険生物に襲撃され行方不明となっていた海上保安官が突如生還し、そして「『雷』に助けてもらった」と主張した――――あまりに現実味がない話。『雷』とは何だ? ただの海上保安官の幻想ではないのか? 確たる判断材料がなければ考察に意味はない。

 

 しかし、不幸にも判断材料は与えられた。

 

 与えられてしまった。

 

 ――――『朝潮』だ・・・少なくとも『本人』はそう名乗った。

 

 未帰投の後に除籍された潜水艦『朝潮』。それを名乗る金属の思考体――――信号のやり取りができる点から大迫閣下はそう判断した――――鋼鉄の塊である軍艦が思考回路を持つなどありえるのだろうか。

 

 そして仮にありえるとしても、『朝潮』は金属片の塊・・・なぜ海上保安官は『雷』が「小さい女の子」であったと主張するのだ?

 

 そして、『雷』が沈むかなり前に隔離されて管理下にあった『朝潮』の主張と『雷』からの伝言――――11月の1日という何の変哲もない日に『奴ら』が南九州に上陸するとする予言――――がどうして一致しなければならないのか。

 

 

 敵対的危険生物自体に注意を払わなくてもこの分からないことの多さである。

 

 調べるべきことが多すぎる。

 

 時間が欲しかった、自由に動ける時間が欲しい。

 

 

 

 

「すみません、飯田海軍中佐殿ですね?」

 

「お、飯田にお客さんみたいだな、そんじゃ俺はこれで」

 

 武川はそう言って去ってゆく。声をかけられたら答えるしかない。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 自分の役職は敵対的危険生物対策室長。祖国を一秒でも存続させるための案を立案、各部署との調整を行う地位だ。

 

 今から答える相手も、自身の持つ「対策室長」の肩書き目当てで話しかけてくるのだろう。

 

 とは言え、先程まで思い返していた情報も全て「対策室長」だからこそ手に入れられたようなもの。具体的な対処は自分以外の部署に一人する他ない。

 

 

 

 これではまるで流れる情報に操られているようだ。飯田は聞こえぬよう嘆き、営業用の表情をごく自然に作り出した。

 

 

 

 

 

 

 

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