千年の歴史を誇る帝国。その都市、帝都は人々が溢れ賑わい、中ほどまで行くと堅固で壮大な城壁が見える。それに囲まれ中心に位置するこの世で最も壮麗な宮殿がある。
しかしこの宮殿、二年程前に一度だけ一部が大きく破損した事があった。帝国の大将軍ブドーと三人の配下、そして一人の侵入者の引き起こした戦いによって。
民衆には火事が発生したと事実を隠蔽された大事件が確かにあったのだ。
帝都から少し北東に外れた岩山の洞窟で金属の接触に寄って発生する甲高い音が鳴り響く。一人の少年が一心不乱に槌を振るい、真紅に熱された金属の塊が伸ばされ、角度をつけられ、曲げられ、何遍も繰り返されてやがて一つの形を成した。
出来あがった形は長さ30㎝程の黒く細い底に突起物があるだけの円柱の棒だった。少年はそれに黒い布を被せくぐもった声で何かをを唱える。すると布に黄色の文字が浮かび、銀、赤、緑、紫と次々に変わる。
そして、文字は強い光を放って布は消滅した。布があった場所には先ほどの黒い棒はなにも変わらずそこにあった。少年はそれを拾いあげて呼吸を漏らした。
「ふぅ……完成したか!」
少年は黒い円柱を突起の部分が下になる様に持ち、それを押す。
それは一瞬だった。
先ほどまでなにも無かった円柱に柄と60㎝程の刃が形成された。
「試運転も成功か。我ながら良い出来だ!」
少年は洞窟から出て円柱から手を離すと刃は消失し地面に落ちる、それを作製するために着用していた汗が皮製の外蓑とバンダナを脱ぎ捨てて大きく伸びをした。そして洞窟の入口真横の木造の家の中に入り、玄関に飾ってある中心に六芒星が描かれた盾の横を通り浴室で黒ずんだ体を洗い流した。
全身真っ黒だった体はキレイになり、短い金髪の整った顔立ちの少年は浴室から出て体を拭き服を着ると台の上に置いてあった水晶が発光していた事に気づく。覗いて見ると一つの緑の光の点を30程の赤い光の点が囲い追うように移動していた。
「この辺で人が襲われるなんて珍しい。旅人が帝都に行く途中に運悪く移動中の賊に見つかったか……行くか!」
少年は外に出て先ほど作った黒い棒を拾いあげると胸に手を当てて目を閉じる。
「……来い、キメラティロード」
言葉を発した瞬間、少年の体には真紅鎧によって全身が覆われ、体に体して鎧が大きいため体格が格段に良くなる。兜の顔の部分には鳥を思わせる意匠が施されており、全身の鎧は全体的に尖っていて攻撃的にも思われる。
すると鎧の背から翼が広がり、射られた矢のようなスピードで空を飛び、南西の方角へと向かった。
「あぁ!全くしつこいなぁ!」
頭の右側に花の髪飾りを着けた額の真ん中で分けられ前髪が胸の辺りまで伸び、長い背中まで届く長い黒髪の少女は弓を片手に平原を盗賊から逃げていた。矢筒は空で打ち尽くしてしまったと思われる。少女の顔と東洋に伝わる和服を模した上下で一つの白い装束は所々汚れが目立ち、下の短めのスカートの部分は幾つか切れ目を入れられていた。
「野郎ども、久々の上玉だぁ!気合いを入れろぉ!」
盗賊の頭領格であろう金の胸当てを着けた男の鼓舞に部下達は歓声で応える。その声に少女は萎縮してしまい、僅かにだが足が遅れてしまった。
「へっへっへっ!捕まえペグっ⁉」
「女だからって舐めないで。私は帝都で名を上げる女よ!あんた達なんかに負けたりしないわ」
盗賊の一人が拘束するために飛び付いたところを少女は咄嗟に持っていた弓を振るい、顔面に当てて一撃で無力化させたが、その隙に周りを円形に囲まれてしまった。
この少女の戦闘力は大したものでこの数の盗賊なら矢が無くても物ともせずに倒せる。弓だけでも敵を倒す術を心得ているからだ。しかし装備の木製の弓では耐久性に欠き先の一撃でヒビが入ってしまった。
「強がりはその辺にしとけよ。その弓のヒビがもう限界だって教えてくれたぜぇ!バルよぉやっちまえ!」
おうと呼応する声が聞こえると胸に銀の胸当てを着けた頭領格そっくりの男が姿を見せた。
「下っぱ共に任せてもいいが、お前は矢が無くとも戦えるようだな。部下に任せてもいいが、何人かは犠牲になっちまうだろうな……だから俺様が相手をしてやる。安心しな殺しはしねえよっ!」
バルと呼ばれた男はユラユラと揺れる動きをしながら近づくと、瞬時に加速しサーベルを振り下ろす。少女は予想以上の速さのそれにもギリギリだが反応し、半身になって躱した。
「くっ……速いっ!」
「ホラホラまだ終わらないぜぇ躱してみろぉ!」
決定打となる武器が無い少女の圧倒的不利な中、上下左右様々な方向から繰り出される攻撃を少女は必死に躱し、隙を観て素手での反撃をするが効果なし。攻撃を避ける度に男女の体力の差で時間をかけるほど窮地に立たされる。
数十にも及ぶサーベルの攻撃の中、少女は斜めに振り下ろされた一太刀を見切って躱し、バルの懐に飛び込み肘による打撃を腹部に食らわせるとバルの動きが止まり大きな隙が出来た。
「はぁっ!」
少女は少し後方に下がり、自分が有利な距離を確保して弓を力の限り振り降ろす。しかしその時苦しんでいたように見えたバルの口角が釣り上がり、サーベルを振り上げ弓に振り抜く。すると少女は弓を真っ二つに切られ、落ちた片方を音を立てて踏み潰されてしまった。
「へっへっへ……勝負あったな。さーてお楽しみの時間と参ろうか」
ゆっくりと近づくバルに対して少女はまだ諦めてはいなかった。震える手で拳を握り構える。
玉砕覚悟であと一歩近づいたら思い切り腹部を突いてやろうと思ったその時。視界の端に現れた赤いなにかがバルを蹴り飛ばした。