薄命なる少年職人の道   作:シュヤリ

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新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


第十話〜帰る〜

 

 激情を流し尽くして落ち着いたソロはナジェンダの勧誘を断った。理由は三年以内に革命が成る保証などどこにも無く、今まで永遠の叡智を使って作ってきた兵器を革命軍に受け渡して、もし革命軍に裏切り物がいてそれを奪われた際に自らが大臣を殺す事が困難になるからだ。

 それに対してナジェンダは。

 

「もし、寿命が尽きるまでに革命が成功しなそうなら好きに行動しろ、私はそれを咎めない。

あくまでお前はナイトレイドに入れるつもりだ。革命軍の組織だが、お前の生い立ちと秘密は上には黙秘しておく。

ただソロ、あまり革命軍をナメるな、お前の作る兵器があれば確立は上がるだろうが、無くても策は幾重にも練られているんだ勝算ならある」

 

 ナジェンダはソロの顔を手で押さえて額と視線を合わせて言い放った。これはかつてソロが幼き頃に聞き分けがない時にヒジリが言い聞かせる手法だった。

 しかしソロも年頃の少年であり相手は美形の女性、ナジェンダであるためみるみるうちに顔が赤くなる。

 

「でっでもボス、ソロに人を殺させるんですか。私を襲った盗賊を倒した時だってソロはあいつらを殺しませんでしたよ?」

 

 サヨの言葉に反応したソロはナジェンダの手を払いのけて離れると顔を何回も横に振った。

 

「人なら殺した事があるよ。始めては宮殿での戦闘でブドーの部下、その後も僕の見てる所で酷い事をして、話し合いで解決できない奴らを何人かね」

 

 口調こそ変わらないが雰囲気は重く語ったのはサヨの知っているソロでは無いようにすら思えた。

 

「危険が伴う任務をこなしてもらう事になるが、サヨとお前の話を聞いた限りだと腕も立つのだろう?

それに先ほども言ったがお前はどこか危うい感じがするんだ。お前の事を知った私の精神衛生上の為もある。ナイトレイドに来てくれないか?」

 

 ナジェンダの二度目の勧誘の後、この部屋で何度目かの沈黙が訪れた。

 少しの間、ソロは考えて口を開いた。

 

「……アジトに鍛治ができるような場所はあるの。無ければ作ってもいい?」

 

「来て……くれるのか?」

 

「うん、その代わりナジェ姉自分の言った事を忘れないでよ。僕が死ぬ前に革命がダメだと思ったら、僕は抜けるからね。

少し待ってて、出発の準備と母さんに挨拶してくるから」

 

 そう言い残すとソロは外に出て行ってしまった。

 

「ボス、もしかしてソロの話を聞いてからコレが狙いだったんですか?

てっきりソロには平穏に生きて欲しいって言うと思いましたけど」

 

「私は別にソロに会えるだけで良かったよ。ただ、あいつの話を聞いてなんだかほっとけなくなってな。無謀に命を散らせるくらいなら、私の目の届く所に居た方が良いと判断した。

まあ、ウチは人材不足だから嬉しい誤算ではあるがな」

 

 サヨとナジェンダは暫し談笑していると、ソロは家の中に戻って来て今度は自室へと入って行った。その際にもうすぐ出発出来ると言っていたのでサヨは台所でコップを洗い、ナジェンダは外へ煙草を吸いに出かける。

 そして十分程経過し、三人が再びリビングに集まった

 

「よし、それじゃあ行こっか!」

 

 と、ソロは拳を挙げて宣言するが、準備をすると言っていたのに手ぶらだったのでナジェンダとサヨは怪訝な表情をする。

 

「あの、ソロ。荷物はどうしたの?」

 

 ソロは思い出した様に手のひらに拳を当てて、棚の上にあった水晶を手に取った。

 

「これで人の反応を感知する事が出来るんだ、アジトに持って行けば役に立つと思う。

サヨ、荷物どうしたって言ったね。見てて」

 

 ソロはそう言って胸に手を当てて目を瞑ると水晶は光の粒子になり、腰に着けていた皮の袋に吸い込まれる。

 

「それも永遠の叡智とやらで作られた道具なのか?」

 

「そうだよ、大きさは限られて帝具みたいな特別な力のある物は無理だけど大概のものなら幾らでもこの袋にしまえるんだ!」

 

「なんだろう……これに驚かなくなった辺り私も慣れてきたのかな……」

 

 そして一同が玄関から外に出ようとした所で最後にドアを出ようしたナジェンダはソロを引き止め、玄関に飾ってある紫色の盾を指差した。

 

「ソロ、この盾はヒジリさんがいつも持っていた物だと思ったが、持って行かなくて良いのか?」

 

「できれば持って行きたいけど僕じゃあ運べないんだ、ナジェ姉持ち上げて見てよ?」

 

 なんだこれくらいと呟いたナジェンダは持ち上げようと義手で盾の端を掴むが、ピクリとも動かなかった。軽く持ち上げるつもりだった腕に力を込め遂には左腕も使いなんとかそれを持ち上げるが、とても持ち運べる様子では無かった。

 

「なんだこの重さの盾は。ヒジリさんはこんな物を軽く扱っていたというのか⁉︎」

 

 そのまま元の位置に戻し、怒号と驚愕が入り混じった言葉をナジェンダは吐き出した。

 

「ははは、実はこの盾も帝具なんだよ。

盾の帝具、不砕変勢(ふさいへんぜい)オールシールド。この帝具は少し変わってて適正がある人が少ない上に、過去に帝具を使用した人は使えなくなるんだけどその代わり拒絶反応で死ぬ事な無いんだ」

 

「なるほどな、以前パンプキンを使っていた私には持ち上げるのがやっとでそれが拒絶反応という事か……私に実演させる意味はあったのか?」

 

 ソロは悪戯の成功した子どものような笑顔を向けるとナジェンダは僅かな憤りを覚えてソロの頭を義手で軽く殴ろうとするが、ソロはそれをかわして咳払いをする。

 

「ってわけで、オールシールドを持っていける人はほとんどいないし、僕が留守にしている時に誰かがここに迷い込んでもこの家の警備は万全だから持って行かなくても大丈夫なんだ。

……それに、この帝具に適合する人が現れたとしても僕が認めた人に使って貰いたい」

 

 ナジェンダはそうか、とだけ言って部屋を出る事を皆に促す。ソロはそれに従い外に出ようとした。

 何かを考えていたわけではない。外にいたサヨはただ吸い寄せられるように玄関を潜り盾へと近付いた。

 

「……サヨ?」

 

 ソロの制止する声も聞かず、ナジェンダに肩を掴まれてもそれをそっと払いのけるとサヨは盾へと手を伸ばし、それを掴んだ。

 そしてナジェンダが渾身の力で持ち上げた帝具の盾を軽々と、まるで重さを感じないかのように持ち上げた。

 

「……私……なんで……?」

 

「お前……まさか適正があったのか?」

 

 サヨとナジェンダは今日で何度目かもわからない驚愕の表情を浮かべ、ソロは何やら複雑な表情を浮かべる。

 

「サヨ……初めてこの帝具を見たときになんて思ったの?

本当の率直に思った事を聞かせて欲しい」

 

 困難して得体の知れない恐怖感に近い物に襲われているサヨの肩にそっとソロは手を置いて諭すように問いかけた。

 

「えっ……その……なんだか優しい感じがするって思ったけど……さっきはなんか自分が自分じゃないして……この盾を持ってかなきゃいけないって思って……」

 

「落ち着けサヨ、帝具には相性があると言ったな。その相性というのは第一印象でほぼ分かる。そう思ったお前と相性が良くて適正もあったんだろう。

ソロこんなにも早く適正者が現れたが、どうする?」

 

「……とりあえず運んでもらえるなら持って行こう。サヨ、大丈夫?」

 

 サヨは未だ心ここにあらずと言った様子だが、コクリと頷いたため、ナジェンダが外へと連れ出した。ソロも続いて出ようとしたところで不意に振り向いて家の中を見回した。

 脳裏に思い出される愛しい母との記憶。

 

(母さん……僕行ってきます。僕の信じた行動が人のためになるような事をしてくるよ。もしその行動が間違っていたら、そっちに行ったときに叱ってね)

 

 少年は数秒だけ浸り、心の中で母との約束を再度結んで外へと出た。そして腰の袋から空を飛ぶ布を取り出して広げ、宙に浮かせる。

 

「さあ2人とも乗って、サヨの怪我治ってないのにナジェ姉無理行って連れて来たんでしょ。帰りくらい楽にしたくない?」

 

「ほう、それが噂の空飛ぶ布か。しかし三人で乗るには面積が少ないんじゃないのか?」

 

 此処に来るまでの道中でナジェンダはサヨから話を聞いていたのか、驚きこそしなかったが興味深くそれを見る。

 

「あれ、なんだサヨ喋っちゃったのか。せっかくナジェ姉を驚かせようと思ったのにさ。2人はそっちに乗ってくれれば良いよ、僕が乗ってなくても操作はできるから。

それに僕は、自分で飛べる。

来い、キメラティロードっ!」

 

 発した言葉に呼応するように発せられる眩い光、ソロの体は輝きに包まれ、姿を表す影は大柄な鎧を形成する。やがて光が収まるとそこには頑強な巨漢の成人男性のような大きさの真紅の鎧が悠然と立っていた。

 

「もうなんだか見慣れたものになったわね」

 

「サヨはこれで3回目……だったっけ?」

 

「これがお前の帝具か、しかしこれがキメラティロード……文献に載っていたが姿形が違うな……?」

 

「細かい話は後にして早く行こうよ。どうせ同じ事をついた先でも話さないといけなさそうだしさ」

 

 ソロに促されて2人は浮遊する布の上に乗って座り込んだ。サヨは前回落とされかけた経験があるからか少し苦い顔をしている反面、ナジェンダは慣れているように顔色一つ変えなかった。

 

「ソロ今回は落とさないでよね!

そういえばこの道具にも名前はあるの?」

 

「任せてよ、この間みたいにふざけたらナジェ姉に凄い怒られそうだし。もちろんあるよ、キントーンって言うんだ!

さぁ、今度こそ本当に出発だよ」

 

 真紅の鎧も宙に浮き、ゆっくりと速度をつけて2人を乗せたキントーンと名の付いていた道具と共にソロの家を背にして空へと飛び立った。木々の生い茂る森を下に見て風と一体になった時ソロが口を開いた。

 

「ナジェ姉、アジトに着いたら試したい事があるんだ」

 

「試したい事だと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 侵入者の始末を終え、ボスであるナジェンダがアジトを出てから数時間が経過した。今はメンバーの各々が自由に過ごしていた。

 マインは自室に篭り愛銃である帝具の手入れ、アカメは調理場で適当な物を摘み食い、ラバックとシェーレは会議室で読書、ブラートは新人のタツミを鍛えると行って修練場に行き、レオーネは面白そうだとそれについて行くといった具合に。

 

「はあっ!」

 

 棍を持っているブラートに向かい、タツミが木剣を低く構えて高速で接近し、その勢いを利用して木剣を振り上げ強烈な一撃を見舞う。しかしブラートは涼しい顔で棍でそれを受け止め、タツミの顔面に膝による蹴りを繰り出す。

 すかさず体を反転させて膝から逃れると同時にそのまま木剣を振り抜くが、渾身の力を込めたそれは剣を握る手をブラートに片手で押さえつけられて阻まれた。そのままブラートは棍を手放し、空いている手で拳を作りタツミの頭を殴り振り抜いた。

 

「いっっーー!」

 

 無防備な脳天に硬い拳をぶつけられたタツミは声も出せずにその場でうずくまる。実はしばらく鍛錬をしていてブラートからの反撃は全て脳天への拳であったため蓄積された事もありダメージは甚大である。

 

「はっはっは、どうしたどうした!せめて俺に一太刀くらい入れてみろ!」

 

「おーい、生きてるかー」

 

 ブラートは会心の当たりに手ごたえを感じたのかご満悦で腕組みをして高らかに笑い、レオーネはタツミに近づいて身体を人差し指で突く。レオーネの指が背中から肩、首へと移り脳天を突いた瞬間タツミは飛び上がりレオーネから反射的に離れた。

 

「触んなよっ!痛いっつってんだろ!」

 

「いやーついつい痛がってる所見ると触ってみたくなるだろー」

 

「ならねぇよ!」

 

 涙目で反論するタツミを面白がってからかうレオーネ、それを見て回復するまで待ってやろうとブラートが木に掛けてあるタオルを取りに行こうとした所で、アカメが三人の方に向かって来る。

 

「ボスが帰って来た、客人もいる。帝具を持って集まってくれだそうだ」

 

「客人?」

 

 ブラートが怪訝な表情でアカメに尋ねる。

 

「ブラートは見てないが、この間の任務の時にいた赤い鎧のヤツだ」

 

「あの時の鎧の人か」

 

 それを告げられた三人、それぞれ思う所があるが会議室へと歩を進めた。

 

 

 

「全員、揃ったな」

 

 椅子に座るナジェンダの隣りに来訪者である真紅の鎧に身を包んだソロが立ち、相対するように扇状にメンバーが広がって立っている。

 

「で、ソイツはなんなのボス!わざわざ帝具まで持ってこさせてどうゆうつもり⁉︎」

 

 マインは相手が組織の長であっても物怖じせずに言い放ち、得体の知れない存在であるソロを指差す。

 ソロは逆に人差し指をマインに向けて鎧の中で口を開く。

 

「浪漫砲台パンプキン」

 

「なっ⁉︎」

 

 自分の帝具の名前を言い当てられてたじろぐマインをよそにソロは続けて次々と指を指して行く。

 

「万物両断エクスタス、一斬必殺村雨、千変万化クローステール、百獣王化ライオネル、あとは現物を見てないけど消去法で残るアンタが悪鬼纏身インクルシオ、で合ってるかな。村雨のアカメとライオネルとそっちの彼はこないだ会ったよね?」

 

「あの時は、サヨを助けてくれてありがとう……それと、すまなかった」

 

「お礼はあの時聞いたからもう良いよ。僕に迷わず切り掛かって来たのもサヨを大切に思っていたからこそだろ?」

 

 ソロはもう気にしていないとタツミに向かって手を振って応えた。

 

「へえ、俺達の帝具を看破するか……だが、それだけじゃあどうにもならないと思うぜ?」

 

 各々が自分の帝具を言い当てられてそれぞれの反応をするが、ブラートに大して気にしている様子は無い。

 

「ただの挨拶だよ、僕の特技の一つさ。帝具を見ただけで名前と能力が分かるんだ、奥の手は無理だけど。

僕の名前はソロ、他にも色々と出来るよ。サヨの矢筒を作ったのも僕だ。

ナジェ姉とは昔からの知り合いでその縁と利害の一致で今日からナイトレイドに参加させてもらいます。よろしくお願いします」

 

「と、言う訳だ。コイツは面白い道具を作れる、頼りになる筈だ」

 

「利害の一致ってヤツを聞いてもいいかい?」

 

「僕の目的は大臣を殺す事だ。キミ達の最終目標も同じだってナジェ姉から聞いてるけど」

 

「ふうん……なるほどねぇ」

 

「どうしたレオーネ、やけに突っかかるじゃないか?」

 

 レオーネは両手を広げてやれやれといった様子でナジェンダに反論する。

 

「ボス、私らは殺し屋だろ。私がこの間タツミとサヨを連れて来たのは殺しの素質があるからと踏んだからだ。ソイツ、色々出来るとしても腕は立つのか?」

 

「アタシはまだ認めてないわよ!」

 

「それについては私が証明する。話したと思うけど私が野盗に追われている時に彼はあっと言う間に撃退してくれた。それに人を殺した経験もあるみたい」

 

 悪態をつき続けるマインを無視してサヨは答える。その時ナジェンダの口角が釣り上がる。

 

「2年前の宮殿の大火事、それはコイツが起こした事件だとしても力不足だと思うか?」

 

「宮殿の……⁉︎」

 

「大火事だと⁉︎」

 

「「宮殿の……大火事?」」

 

 宮殿の守りが難攻不落の鉄壁である事はメンバーの全員が知っていた。声をあげたのは従軍経験があり、その堅牢さを知るラバックとアカメ、そもそも宮殿の大火事を知らないタツミと事件そのものを覚えていないシェーレだった。

 

「気にくわねぇなぁ!」

 

 突如沈黙を保っていたブラートが叫ぶ様に言い、全員がそちらに目を向けた。そして険しい表情のブラートはソロを見据えたまま続ける。

 

「俺はソイツがどんなヤツだろうが、何をしたかは大して気にしねぇ。だがよ、仲間になるって志願して来たヤツが端っから帝具をつけたままで顔も晒さねえ事が気にいらねぇ!」

 

「志願っていうか勧誘されたんだけど……言われてみればそうだ。顔も出さないで態度が悪かったよ」

 

 ソロは素直にブラートに向かって頭を下げると真紅の鎧の手先足先から霧散して徐々に解除され、本当の自分の姿である小柄な体格を現した。

 

「職人のソロです、よろしくお願いします」

 

 鎧が完全に解除されたのを確認してソロはナイトレイドのメンバーに向かって頭を下げると、沈黙が会議室内を包んだ。

 

「ぷっ……あはははは!なーにアンタ、自分の身長気にしてその鎧脱がなかったわけ!あはははは!」

 

「おい、やめろって!」

 

 マインの嘲笑をタツミは止めるが、笑い声は伝播しアカメとタツミ以外の全員が笑い始めた。その嘲笑を浴びてもソロは微動だにせず、ひたすら頭を下げ続けていた。

 やがて笑い声が止んでソロは顔を上げると、何も言わずに、真っ直ぐ会議室を出る扉の前に立った。

 

「帰る」

 

 顔を赤くして涙目の少年は足音を鳴らしながら扉を勢い良く開き、外へと出て行った。

 

「言い忘れたが、アイツは歳の割に身長が低いことを気にしているようだ。あまり言ってやるなよ」

 

「いや、ナジェンダさん言うの遅いって!アイツ怒って行っちゃったよ!」

 

「仕方ねえなタツミ、行くぞ!」

 

「おう!」

 

 ブラートは少しバツが悪そうにタツミを連れて会議室を出てソロを追う。追われている張本人はすでに廊下を渡り玄関から外に出ていたところだった。

 

「おい待てよ、確かに笑っちまったのは悪いと思う。ついつられちまってな!悪気は無いんだ!」

 

「……あのピンク色からは悪意しか感じなかったんだけど?」

 

「ああ、アイツは仕方ないんじゃないかな……俺も指差されて笑われた事あるし」

 

 追いつき説得をするブラートに対して毒づくソロ、その毒に身に覚えがあるタツミは今日自分が笑われた事を思い出して乾いた笑いを浮かべる。

 

「男が細かい事を気にすんな。それに、言っちゃ悪いが俺ら(ナイトレイド)のアジトを知っちまったお前を返す訳には行かねえな」

 

「それは困ったな、反乱軍の工房にでも連れて行かれるのかい?

でも僕は誰かの命令で物を作るのは御免だね」

 

 2人の間に殺伐とした空気が流れるのをタツミは肌で感じ取ると同時に自分よりも小さいであろう少年が、暗殺者であるナイトレイドのメンバーと同じ雰囲気を出せる事に固唾を呑み、無意識の内に背に装備した剣の柄に手を掛けいた。

 

「じゃあ、一旦その減らず口を黙らせる必要があるな」

 

 殺気を感じ取ったブラートは膝を曲げて右手を地面に当ててソロに言う。

 

「やってみなよ、僕のお喋りは生まれついての物だから中々止まない。それと、子どもだからって舐めない方が良いよ」

 

 ソロは背を向けたまま胸に手を当ててブラートに返す。

 

「インクルシオォォォ!」

 

 ブラートの叫びと共に背後に背後にコートを羽織った巨大な白銀の鎧が出現する。そして一陣の風が巻き上がり背後にいた鎧がブラートの大きさに縮小され装着された。

 

「キメラティロード!」

 

 ソロも負けじとキメラティロードを召喚し、身に纏い向きなおる。

 悪鬼纏身インクルシオ、高い防御力だけでなく装着した者のあらゆる能力を増幅させる鎧型の帝具。かつてソロは空からこのアジトを覗いた時にブラートの鍛練を見た。生身の状態での凄まじい槍さばきに加えて帝具によるパワーアップ、本人とっては最高の帝具だろうが相対する者には最悪だとソロは推測する。

 

「殺る気かっ!」

 

「君は止めておいた方が良いよ、帝具使い同士の戦いに巻き込まれるって意味分かってる?」

 

 ソロはブラートから目を逸らさず、タツミの方を見向きもしないまま言い放つ。しかしタツミの目は闘争心に燃えて剣を抜いた。

 鎧を装着していて2人は気づかないが、中にいる少年の口角は釣り上がり、不敵な笑みを浮かべていた。


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