薄命なる少年職人の道   作:シュヤリ

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第十一話〜賑やかなやつ〜

 先に動いたのはソロだ。腰に装備した黒い筒を右手に取り、両刃の刀身を出現させて剣とする。剣を横に構えブラートに向かって尋常ではない速度で接近し、すれ違い様に剣を振るう。

 

「へえ、中々速えじゃないか。だがアカメよりは遅えよ!」

 

 ソロの振るった剣の刃はブラートの鎧に当たる事は無かった。ブラートの手には大きな真紅の刃の槍が握られていてそれによってソロの剣戟は防がれていた。

 ブラートは駆け抜けて隙が出来たソロに槍を振り下ろす。ソロは振り向き剣の刃に手を当て両手で受け止めるが、体勢が不安定である事に加えて単純な力の差で押し負けてしまい片膝をつく。

 

「なんだぁ、大口叩いた割にこの程度かっ!」

 

 明らかに手を抜いた様子のブラート、それでもソロに架かる圧力は危険種が獲物を圧し潰すが如くである。

 

「副武装ノインテーター、それに手を抜かれててこの力……元々のアンタの力も凄いんだろうけど、インクルシオ……やっぱり強いや」

 

「ほう、手加減した事に気が付いたか。それでもその鎧をヘコませてやるくらいには力を込めたんだがな。でもどうすんだ、このままじゃお前の負けだぜ?」

 

「……忘れないでよ、インクルシオに特別な力があるように僕のキメラティロードにも力があるんだ!」

 

 息を大きく吸ったソロが気合いを入れる声を出すとキメラティロードの背の翼から炎が吹き出し、鎧を伝って腕に纏われる。

 

「っ……押す力が強くなりやがった⁉︎」

 

 徐々にソロの力は増し、やがて折らされた片膝を真っ直ぐ伸ばし対等の姿勢まで盛り返す。そしてついに力でノインテーターを弾く事に成功する。

 ブラートもこの変化に鎧の中で僅かな焦燥感が生まれたが、彼も幾多の戦場を潜り抜けた猛者である。感情を押さえ込み、ノインテーターをソロの足元を狙って薙ぐ。それに対してソロは旋回しながら跳び、距離を詰めてブラートの首元を狙った回転を利用した踵での蹴りを放つ。

 

「やるな……でも俺には効かん!」

 

 ブラートは右腕で蹴りを受け止めるが、威力を殺し切る事が出来ずに地面を擦らせた足跡が残る。だが鍛え抜かれた体幹によって姿勢が崩れる事は無く、ノインテーターを手放してソロの足首を掴み、地面に叩きつける。

 衝撃でソロの呼吸は一瞬止まる、しかし追撃を受けないように身体を捻らせてブラートの手から逃れて後退し距離を取る。

 

「はぁっ……はぁっ……こっちも、全く効いてないな」

 

「ふっ、本当にその減らず口を閉ざすのは手がかかるみたいだな……俺の槍を押し返した力と蹴りの重さ、お前の鎧も能力の向上か」

 

「さてどうかなっ‼︎」

 

 息の整ったソロは拳をブラートに向けると手首の辺りから光弾が五つ発射される。それは難なく躱されるが、予定通りである。光弾と共に接近したソロは両手に持った剣を振りかぶったその時、腕に纏われた炎が激しく燃え上がると刀身に伝播した。

 

「ソイツはなんだかヤバそうだっ‼︎」

 

 大きくブラートが後退すると同時にソロの剣は振り下ろされる。

 ブラートの居た地面には大きな亀裂が生まれていた。

 

「なんて剣圧だ……地面を割っちまったよ……しかも固い地面をなんの抵抗も無く……隙があれば俺もやってやるつもりだったけど隙なんて……」

 

 2人の戦いを見ていたタツミは感嘆の言葉を漏らした。口では隙は無いと言いつつも、それでも警戒は怠らずにソロの動きを観察している。

 

「まだまだ行くぞっ!」

 

 続けてソロは接近し剣を振り上げ、振り下ろし、横からの振り抜きを何度も繰り返すがブラートはどれも後退して躱し、風を切る音と足音だけが辺りに響く。

 ブラートが再び大きく後退したところでソロは剣を脇に構えて腰を落とす。そして剣に纏われた炎が激しく燃え上がると同時に剣を振り抜く。

 すると剣の軌道をなぞるような半月形の炎の斬撃が発生し、ブラートへと飛来した。

 

「おいおいなんでも有りかよ!」

 

 ノインテーターでそれを受け止めるが斬撃は消えること無く威力も衰えず、ブラートも力負けする形で後方に押しやられ大岩に激突し砂塵が巻き上がる。

 剣と腕に纏われた炎が消失するとソロは疲労からか剣を杖の様に地面に突き刺して片膝をつく。

 

「あっ……⁉︎」

 

 人類の生み出した鎧と呼ばれる防具、長い人の歴史の中で間違いなく上位に入る道具、体の全面固い金属に覆われていて一見完全無欠の代物である。

 それでも弱点はある。例えば金属の塊故に雷雨に曝されると落雷の可能性が高い、他にも深い川や海に落とされたらその重さ故に上がって来れない。これらはあくまで人的ではない弱点、もちろん人的な弱点も存在する。

 

「……ふっ!」

 

 全体を覆う鎧と言えども中に入る人間は動かなければいけないため関節の部分だけはどうしても隙間が生まれてしまう。そして今タツミはソロの背後に位置しているため絶好の機会だった。かつて屋敷でソロと対峙した時に普通の攻撃では文字通り刃が立たなかったため、タツミにはこれしかない。

 タツミは助走をつけると高く跳びソロに近づき、その勢いと落下の力と自身の体重、考えられる全てを利用し剣をソロのついた片膝の裏の関節を狙い突き立てると、甲高い金属音が辺りに響いた。

 

「隙間が無いだと……しかもこれでもビクともしないなんて……」

 

 タツミの渾身の攻撃でも鎧には傷一つ付かない。ソロはその姿勢のまま拳をタツミに向けると手首に光が収束される。

 

「引っかかったね、僕が君の事を無視してるだけだと思った?

狙いは悪くなかったけどこの鎧だって帝具なんだ、普通の鎧と違って関節にも死角は無いよ!」

 

 収束された光は手のひらサイズの光弾となってタツミに放たれ腹部に直撃した。無防備な状態で被弾したタツミの体は宙を舞うが、落下の最中突如現れたブラートによって抱えられて大事には至らない。

 

「ゲホっ……クソっ……俺は何も出来ないのかよっ……!」

 

 タツミの胸中で先日友を救えなかった事と今の現状での力の無さが合わさり激昂する。それを察知したのかブラートは子供をあやすようにタツミの頭を乱暴に撫で回す。

 

「そんな事ねぇよ、アイツが言ったみたいに狙いは悪くねぇ。普通の鎧相手なら善手だったろうよ、ただアイツの鎧も俺と同じ帝具だ普通じゃない。

アイツはワザとあの体勢をとってお前を誘い込んだんだ、ガキだけど戦い慣れしたした奴だぜ。尤も、お前が成長して力が強くなれば結果は違ったろうけどな!」

 

 ブラートのその言葉を聞いたタツミの表情は晴れこそしないが少しだけ棘が取れる。そしてもっと強く、と呟き気を失ってしまった。

 

「インクルシオの人にはやっぱり全部お見通しか、それに僕の攻撃も防がれて無傷か……ちょっとショックだねっと⁉︎」

 

 ソロは剣を引き抜くと同時に咄嗟に後方へと跳ぶ。その刹那で座り込んでいた場所には一つの弾痕ができる。

 

「そんなガキ相手にいつまでやってんのよブラート!」

 

 離れた木の上から狙撃を行ったピンク色の髪と服装の少女、マインは飛び降りて服についた葉っぱを払い落とす。

 

「おおマインかコイツなかなか面白いヤツでな、ついつい遊んじまった。だがタツミがやられた……これからキツイお灸を据えてやるところだよ」

 

「ああ、ソイツ負けたのね。ほんっとうに不合格!

まあいいわ、ちゃっちゃと終わらせるわよ。ボスの命令よ、ソイツを連れ戻せってさ」

 

 自身の帝具である巨大な銃、浪漫放題パンプキンの先端を交換したマインはそれをソロへと向けた。ブラートはタツミを木の根元に座らせると再びノインテーターを手にしてソロと対峙する。

 

「やれるものならやってみなよピンク色!」

 

 ソロはマインに向かって悪態を吐くと剣を逆手に持ち帰ると刀身を消した。そして再び鎧の背から炎が噴き出される。しかし今度はそれが腕ではなく脚に纏われた。

 マインは発砲する。高速で迫る弾はソロを撃ち抜いたかのように思われたが、弾丸が通過した場所にソロは居ない。

 

「消えたっ!?」

 

 予想外の事にマインはインクルシオの奥の手である透明化を想像するが、すぐに否定の声が上がった。

 

「いやっ違う!」

 

「消えてなんかないよ」

 

 凄まじい速度で弾を躱し、ブラートへと接近したソロは腹部へと蹴りを放つ。だがブラートは軽くノインテーターで受け止めてダメージは入らない。

 

「なるほどな、その炎が腕に点けばパワーが、足に点けばスピードが上がる仕組みか……面白いがそれじゃあまた俺に力負けするぜっ!」

 

 ブラートは直様ノインテーターをソロへと振り下ろすが、またもソロには当たらず地面に突き刺さる。ソロのスピードはブラートの高速の槍捌きにも対応できる程のものだった。

 槍を躱したソロは手にしている柄に新たな形を形成させてブラートの懐に飛び込むとそれを振り上げる。柄の先から垂直に現れた鋼鉄の棍、トンファーは見事に顔面を捉えるとさすがのブラートも体勢が揺らぐ。好機といわんばかりにソロはそのまま足を払って漸くブラートの体は地に着いた。

 

「次は君の番だ!」

 

 ソロはマインに向かって走る。

 無論、マインもただ近づかせる事はしない。先ほど換装したパンプキンのパーツは連射用、数多の弾をソロへと向かって撃ち続ける。だが高速で蛇行しながら接近するソロに雨のような弾丸は擦りすらしない。

 そしてソロは後ろに回り込み蹴りを放つが、マインは振り向き様にパンプキンでガードする。しかしマインの力では完全に勢いを殺せず地を擦りながら後方へと後退る。

 ソロは敢えて距離を詰めての攻撃はせず、空いている手をマインに向けていつでも光弾を発射出来る体勢をとる。

 

「なるほど帝具と射撃の腕だけじゃ無いみたいだね。しっかりと反応されているとは思わなかったよ」

 

「ふんっ……当たり前よ。私を誰だと思ってんのよ!

それよりもアンタなんで追撃しなかったのよ。普通ならチャンスだったと思うけど?」

 

「後ろに飛ばされながらもしっかりと銃口をコッチに向けていた。そこに突っ込む程僕もバカじゃないよ。まあ……もう終わりの時間だね」

 

 ソロは腕を下げるとトンファーを元の柄だけの形態に戻して腰に取り付けると両手を上に挙げた。

 

「どういうつもりだ、まだまだお前もやれるだろうよ。まさか2対1だと不利だから嫌だって言うつもりか?」

 

 体を起こしてノインテーターの石づきを地面に突き刺してソロの方を見やる。

 

「2対1?冗談は止めてよ。増援はパンプキンの彼女だけじゃない。他の人達も来てるんでしょ?

少なくともクローステールの彼は居る筈だよね。僕の目には罠が張ってあるのが見える。もしそれで足を取られてエクスタスのお姉さんにチョンパされたら洒落にならないよ。やりようが無い訳じゃないけど、今はその時じゃない。僕の負け……参りました」

 

 キメラティロードを解除したソロはその場に正座で座り込んで降参の合図をする。するとどこからか手を一度叩き乾いた音が辺りに響く。

 

「そこまで分かっているなら十分戦力にはなるな。ラバック、罠を解除してくれ」

 

「はい、ナジェンダさん!」

 

 アジトの入り口にナジェンダとラバック、その後ろに他のメンバーも勢ぞろいして立っていた。ラバックはグローブのリールを回して帝具の糸を回収し、ナジェンダはソロに歩み寄った。

 

「実は元々ソロが自分を値踏みさせる為にお前達と戦う様に一芝居打たせて貰った。どうだ、素顔を晒して実力を見せたコイツの加入をまだ認めないか?」

 

 ナジェンダは説明を終えるとソロの頭にそっと手を置いて対峙していた2人に問う。アジトの入り口には他のメンバーも勢ぞろいしていて皆ソロの加入に納得した顔をしていた。

 

「フッ、一杯食わされたって訳か。俺は認めるぜ!

コイツの腕もなかなかだったがこの俺を相手に帝具使った腕試しをする度胸、気に入った!」

 

 ブラートはインクルシオを解除してソロに近づき、よろしくと言って握手をする。ソロは少し照れつつも手に力を入れてそれに応えた。

 

「さて、あとはお前だけだがどうするマイン?」

 

「フン……まあ、新入り2人よりはマシみたいね。アタシ達の足だけは引っ張んないでよ!」

 

 態度は変わらないがマインもソロの加入を認めた。自分の実力を認めさせた事にソロも顔を綻ばせてそのまま頭を下げた。

 

「みなさん……これからよろしくお願いします」

 

 ソロの改まった挨拶にメンバーは頷いたり返事を返したりと様々な反応だった。

 そしてそれが止みかけた時、突然ナジェンダが義手でソロの頭を掴んで自分と同じ目線まで持ち上げる。

 

「あれ……ナジェ姉、ちょっと痛いんだけど⁉︎」

 

「アジトに来るまでの道中で私はお前が自身の値踏みのために腕試しをする事は確かに認めた。だが帝具は使うなと言った筈だがこれはどういう事だソロ?」

 

「えっ……えーっとですね……やっぱり僕の素の力と帝具使った力じゃ全然違うから……どうせなら帝具を使った力を見せようかと思って……」

 

 笑顔で問い詰めるナジェンダに対して背筋が凍ったソロはつい敬語になる。尤も笑っていてもナジェンダが怒っている事は誰もが分かっていた。

 

「帝具戦は命のやり取りになる事はお前も知っている

だろ!手を抜いていたとしてもそれは変わらん!もしもお前が死にブラートが大怪我を負ったとしたらどうする、現にタツミは気絶してるだろ!」

 

 ナジェンダは組織の長としてメンバーの状態には気を配らねばならない。ただでさえ人手不足のナイトレイドでブラートのような強大な戦力や素質のあるタツミを失う訳にはいかない。もちろんソロもその一人に入っている。誰よりも人を心配する心を持っている故に憤り、つい義手に込める力も強くなる。

 

「痛だだだ……ご……ごめんなさいーっ!」

 

「ほう、やっと謝罪の言葉が言えたか。礼儀も含めてこれからお前と話がある」

 

 ナジェンダはソロを持ち上げたままアジトの中へと入って行った。その間、他のメンバーは呆気に取られて固まっていたが、扉が閉まった瞬間ブラートが吹き出し、それにつられてアカメとサヨ以外は笑い出した。

 

「なんだか、賑やかな奴が来たな」

 

 アカメは初めて見たナジェンダの一面を思い出す。そして空を見上げて呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それであいつもナイトレイドに入ったのか」

 

「うん。それよりタツミ、身体は大丈夫?」

 

 既に日が暮れて空には星々が浮かんだ頃、崖にある亡き友の墓の前でタツミとサヨは今日の出来事を話していた。

 

「ああ、痛みも感じないし何ともないぜ!なんでか

分からないけどあの時スゥーっとなんか眠くなる感じがしただけだ」

 

 タツミは自身の胸を拳で叩き何ともない事をアピールするもサヨの表情はあまり晴れてはいなかった。サヨもナジェンダと同じくソロの腕試しの事を知っていたが、まさかタツミが相手をするとは思っていなくてその上タツミが気絶する事態になってしまったからだ。

 サヨはあの後なかなか目を覚まさないタツミを見てイエヤスが死んでしまった時の事を思い出し、自分は一人になってしまうのではないかという不安に駆られもした。

 

「……大丈夫だ、俺は死なない。イエヤスの分まで頑張るって決めたからな!

……心配かけて悪かったな、サヨ」

 

 タツミはサヨの両肩に手を乗せた。その瞬間サヨの中の様々な感情が涙となって溢れ出る。

 

「……タツミを診てくれたレオーネさんが命に別状は無いって言ってくれたけど……全然目を覚まさないから……ソロは私の命の恩人だけど……タツミを殺したって思ったら……もう訳わかんなくて……」

 

「……勝手に殺さないでくれ、悔しいけど手も足も出なかったが何ともなかったんだからそれでいい。それに、あいつがそれをするかどうかはお前の方が知ってるだろ?

少なくとも実際に食らった俺が言わせてもらうとあの光の玉はキレイに入ったけど死を感じるような攻撃には思えなかった」

 

 タツミの気遣いに対してサヨは何度も頷き、その涙が止まるまで彼は頭を撫で続けた。タツミは幼い頃に彼女が泣いていた時に同じ事をし、またされた事の記憶が蘇る。尤もそこにいたもう一人の友が今はいない。それを痛感してタツミの涙腺も緩むが、今はサヨの為に涙は流さない。

 やがてサヨが落ち着きを取り戻した頃に、風が落ち葉を踏む来訪者の足音を運んで来た。

 タツミは音のする方を向き目を凝らすと木々の間から闇に紛れた小柄な体躯を見つける。

 

「えっと……お邪魔だったかな……でも、二人に謝りたいんだ。ごめんなさい。タツミ、サヨ」

 

 木の陰から姿を見現し月の光に身を晒したソロは二人に対して頭を下げる。

 

「……友達が亡くなったばっかりのサヨの前でタツミに攻撃なんて絶対にしちゃいけない事だった……ナジェ姉に怒られた後に考えこんでやっと分かった。

謝って許される事じゃないけど……本当にごめんなさい」

 

 タツミにとってはつい先ほど、尊敬する強者であるブラートに対し不遜な態度でいて口数の多かった少年と今目の前にいる萎びた少年が全く別人のような気がしてならなかった。月とスッポン、天と地、泥と花。それ程までに違う印象を持ち、自分で考えながらタツミは思わず苦笑してしまう。

 

「俺は気にしてない。自分の未熟さもよーく分かったしな!

だから気にしてない事に許すも許さないもない。サヨももういいだろ?」

 

「……うん、こんなんじゃ訓練で手合わせも出来ないものね。タツミが良いって言うなら私も気にないわソロ」

 

 振り払うように首を横に振った後、サヨはソロに告げた。

 

「なんだよ急に元気になって」

 

「気持ちの切り替えができなきゃこの稼業は出来ないでしょ?

……なーんて、同じ事をレオーネさんに言われたのよ」

 

 静かに微笑むサヨに、力強く燃える意志をタツミは感じ取る。そして同時に、自分と気持ちは同じだと言う事が改めて分かり嬉しく思えた。

 

「そういう事だ、だからもうお前も気にすんな。まだ俺からは名乗ってなかったよな。タツミだ、新入り同士よろしく」

 

 そう言ってタツミはソロに手を差し出した。目を丸くして二人のやり取りを見ていたソロは微笑を浮かべてその手を握り返した。

 

「ありがとう、二人とも。

……仲直りの印にこれあげるよ。そこに友達が眠っているんでしょ?」

 

 ソロは手を放すと腰の袋の中から一つの物を取り出した。手のひらに光の粒子が集まり、一つの形を成す。

 木の柄の先端に大きな厚い金属の刃。斬る事よりも圧する事を重視した武器、斧がその手に握られていた。

 

「僕の好きな小さい頃に旅をしててとある地方の風習でね、亡くなった戦士のお墓にその人の武器を供えるか墓石の近くに突き刺すんだ。

向こうで身を守れますように、そして見送った人たちが逝ったときに無事に再会できるようにって……こんな供養の方法もあるんだ、気に触ったならすぐにしまうけど」

 

「ありがとうソロ、私もその弔い方気に入ったわ。タツミは?」

 

「……良いと思う。イエヤスとあの世で無事に会えるようにか」

 

 二人は斧を受け取ると、イエヤスの墓石である二つの積み立てられた石の後ろに息を合わせて振り下ろした。

 

「見ててくれよ、必ず村を救ってやるからな。こっちは俺らに任せろ、その代わりそっちはお前に任せる!

……俺たちの場所、そいつで作っておいてくれよ」

 

「イエヤス……私達頑張るからね」

 

 亡き友と約束し、二人の決意はさらに硬くなる。掌を合わせてしばらく黙祷した後、サヨが口を開いた。

 

「でもソロこの供養の方法が好きって言ったのにお母さんのお墓にはなにも無かったわよね?」

 

「え、うん、だって母さん武器は使わないから。どんな人だろうと大きな危険種だろうと素手で倒してたから」

 

 オールシールドは防具だしとソロは付け足した。

 

「おっ……お前の母親何者だよ!それにそういえばなんでイエヤスの武器が斧だって知ってたんだ⁉︎

そもそもお前もどうしてそんなに強いんだ、どんな授業したんだ⁉︎」

 

 思い出したタツミの疑問が荒波の如くソロに押し寄せた。ソロは口角を上げてタツミに返す。

 

「えー、一から説明しないと駄目?えっと、じゃあまずは……」

 

 ソロは饒舌にタツミの質問に答える。その姿は先ほどの萎れた物では無くタツミにとってはどこか不敵な、サヨにとってはいつものソロの姿だった。

 


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