「よし、これで買い物終わったな。それじゃあ飲みに行くかー!」
夕方の帝都の人の居ない路地裏で大量の荷物を光の粒子にしてソロの腰の袋にしまっている最中、突如レオーネが口にした。
「そんなお金がどこに……タツミから騙し取ったお金も使い切ったらしいじゃないですか。そもそも買い出しは仕事の内で遊びに来てる訳じゃないでしょ?」
呆れて溜息を吐いたソロが言った。
今朝ボスであるナジェンダの辞令でタツミはアカメの下で、サヨはブラートの下で、そしてソロはレオーネの下に付いて仕事をする事になった。尤もソロは楽ができるとレオーネ直々の使命であった。
「あぁ固い事言うなよ、今からそんな細かい事事気にしてたら将来ハゲるぞー?」
「不吉な事言わない!
……それに髪の毛の事気にし始めるずっと前に僕は死んでるよ」
ソロはポツリと呟いた。するとその様子に影を感じたレオーネはしゃがんでソロの後頭部に手を回し、自身の豊満な胸に抱き寄せた。
「ちょ、ちょっとレオーネさん!」
「よしよし、お前こそつれねー事言うなよ。あと三年しか生きられない事は聞いた……だったら、だからこそ今を楽しく生きようじゃねーか!」
赤面して顔を見上げるソロに対してレオーネは明るく微笑みかけて頭を撫でる。ソロは胸の感触とその笑顔に心を奪われて顔を緩ませてレオーネを突き放して頷いた。
「おねーさんのおかげでちょっとは元気でたか?
そんじゃあ飲みに行くぞ、なぁに金ならあるさ」
そういうとレオーネは掌に乗せた皮の袋を弾ませる。それはソロにとっては見覚えのある袋だった。
普段帝都に来る時のソロの荷物は少ない。嵩張る物や手に余る物は全て腰の袋に入れてしまうからだ。あとはポケットに入れている財布として使っている皮の袋くらいしか持っていない。
ソロは恐る恐るポケットの中に手を入れて確認するとそれは本来の持ち主から離れた所にあった。
「あーっそれ僕のお金!返してよ!」
「はっはっはー甘いなソロ。そんなんじゃすぐに色仕掛けにあって死んじゃうぞー」
ほらほら、と言いながらレオーネは頭上にソロの財布を掲げる。ソロは必死に飛んで取り返そうとするも身長差という超えられない壁に阻まれる。
全財産が入っている訳じゃないが、決して少なくない金額であり、それを無駄に使われる事はソロとしても非常に心外である。
「うぐぐ、返せよー!」
「そーかそーか届かないかー、それなら届く所まで下げてやるよー!」
そう言うとレオーネは胸の間にソロの財布を押し込んだ。ソロは一瞬だけ止まると何をするでもなくレオーネを睨みつける。手出しが出来ない事を分かってたレオーネは勝ち誇った顔でソロを見下ろす。
そんな中とある来訪者が訪れた。
「あれー?おーい」
大通りの方から自分を呼ぶ声が聞こえてソロはそちらに視線を向けた。そこには先日会った時とは違い、眼鏡を外し髪を整えて顔には化粧をし、胸元の空いたドレスを身に纏ったラキが手を振っていた。
「「あっラキ(さん)……はあっ⁉︎」」
レオーネとソロの声が重なり二人は素っ頓狂な声を上げた。
「まさかレオーネさんとラキさんが知り合いだったなんて……」
ソロはこめかみに指を当てて呟いた。ラキの家に招かれた二人はテーブルに着いていた。
「そりゃこっちの台詞だって。暗殺の依頼と裏取りも私の仕事だからな、それで情報を流してくれるのがラキなんだ」
「まー私はなんとなくソロがナイトレイド入るとは思ってたけどねー」
化粧を落として眼鏡を掛け、シワの目立つ部屋着に着替えたラキは紅茶を二人の前に置く。服装と化粧だけの要素でその姿の変貌は同一人物には思えない程だった。
「なんで?っていうかこの間帝都の近況聞いた時にナイトレイドの事もっと詳しく教えてくれても良かったんじゃない?」
「あのねーソロ、私は情報屋だよー。いくら友人にでもクライアントの個人情報は口が裂けても言う訳ないじゃーん。
根拠は私が斡旋に近い事はしてあげたからだよー。ソロもナイトレイドも最終目的は同じでしょー?
だから私はあの日、ナイトレイドが仕事をする日に悪趣味富裕層の話をしたんだー」
私も大臣には死んでほしいと思う人間だからと付け足して、ラキは椅子に座り紅茶を飲んだ。底の知れない様な不敵な笑みを浮かべるラキを見てレオーネとソロは食えない人間だ、と同じ事を思った。
「なんだかんだあってラキの予想通りになったって事か。それで、お前達はどうやって知り合ったんだ?」
レオーネはため息混じりに言った後、興味が出たのか二人の出会いを聞いた。ソロはラキの方に視線を向けると頷いたため、話す事にした。
「確か一年前くらい前かな、僕が帝都で買物を済まして帰ろうとしてふと路地を見たらラキさんが倒れてたんだ。倒れてたのは空腹っていう大の大人がなんとも情け無い理由だったわけだけど」
呆れてラキの方を見るが当の本人は暢気な顔で笑っていたため、溜息を一つついてソロは続けた。
「それで介抱って言っていいのかわかんないけど食べ物をあげて話をしてみると、ラキさんが皇拳寺出身でそこの噂のファンだった事、その噂の両親が僕だった事、そしてラキさんが情報屋だって事を話してくれたんだ。そこから今まで交友があって友達として、時には商売人と客として付き合いがあるんだ」
「ボスからお前の事は詳しく聞いたけど、親で繋がるなんて帝国も土地は広いと言っても案外狭いものなんだなー」
レオーネがそう言って紅茶を口に含んだ瞬間、ラキが大きな声を出した。
「あーっ!ゴメンお茶菓子何もないやー……手間になって悪いけど、まだお店開いてると思うからソロ買って来てくれないー?」
「えー……そんなお菓子なんか無くても良いじゃないですか」
「いーやいるね。上司命令だ、言って来い!ついでにツマミも買って来てくれー先に一杯やってるから速くしてくれよなー」
2人のペースにこれ以上逆らうと疲れる事を悟ったソロなブツブツ文句を言いながら紅茶を飲み干して立ち上がる。
「ゴメンねー、この中身使ってなんでもいいからさー」
ラキが差し出した硬貨入りの袋を手に取ったソロは、はいはいと言いながらすっかり日も暮れた外へと出て行った。
ソロの足音が遠くなり、やがて聞こえなくなったのを確認してレオーネは紅茶を飲み干して立ち上がった。
「さーて、それじゃあ私も行くとしますか。ラキ、悪いけどソロの相手をしていてくれ」
「ソロは連れて行かなくていいのー?」
「ああ、まだ見習いだからな。適当に言い訳しといてくれ」
そう言ってレオーネも外へと出て行った。
家に残ったラキは1人、表情を崩さずに紅茶の味を楽しんでいた。
豪邸とまでは言えないが、少なくとも上流階級の人間が住んでいる事が分かる大きな一階建ての家の裏手にレオーネはいた。
家の住人は帝都の家の建築を受け持つある工匠組合の長であるデューク。格安で家を建てる工匠として名は知れている。また依頼人や周囲人間への人当たり、手下の組合員の面倒見もとても良い好々爺としての一面がある。
「その実態は建てた家に細工して手前らだけが入れる秘密の入り口を作り空き巣や人攫いをするクズ集団。
しかも実行は三ヶ月から半年後に行う事を徹底してるから誰にも怪しまれないし、今の帝都なら民は他人を気にする余裕も無いから気づかない。警備隊が来ても懐柔して事実を闇に葬る……か」
レオーネは悪徳工匠の真実を確認するように口にした。尤も裏は取れていてデューク一味は週に一度家で宴を開くという情報も仕入れている。それが今日なのだ。
「お待たせ。あれ、レオーネ姐さん1人じゃん。って事はアイツはお眼鏡に叶わなかったの?」
闇夜にもう一つの影が現れる。リール付きのグローブを着用した手を挙げてラバックがレオーネに合流した。
「ああ、ラバ。ボスは標的も多いから私の判断でソロも殺しに連れて行っていいとか言ってたけど……私にすぐ財布を盗られるようじゃまだまだだな」
レオーネは数時間前の出来事を思い出して苦笑を浮かべると、夜風が特徴的な自分の長い横髪を拐うと自分に気合いを入れる。
「そっか、そんじゃあ俺らだけでやりますか。家の見取りと人数は分かってるよね?」
「当然!標的は15人、他の家とは距離があるし宴がある事は近隣の奴も知ってるから多少の音なら立てても問題無いだろ?」
腰に着けたベルトが光り、燃え盛る炎の形を成してレオーネを包む。すると髪が伸びて全体的に撥ねて鬣を思わせ、さらには頭部には耳が生えて臀部には尾が生え、瞳も危険種特有のそれに近い物に変化する。まさしく獣と呼べる風貌へとレオーネは変化した。
「作戦はレオーネ姐さんが裏口から入って暴れる。俺が他の出入りが出来そうな所に罠を張って逃げた奴を仕留める。人数が多いから大変だけど大丈夫?」
「イケるイケる!その代わり私が全員始末したらラバは報酬ナシだからなー」
「ええっ⁉︎そこは話別でしょ〜っ!
さて、じゃあ俺が入った五分後に中で暴れてよ。先に行くわ」
そう言い残してラバックは塀を飛び越えて進入する。同時にレオーネは懐中時計を取り出して秒針の行方を目で追う。一周、二周、三周、四周、五周。時間の経過を確認したレオーネはラバック同様塀を飛び越えて裏口へと立つ。そして音を立てずに中へと入り灯りのついた賑やかな声の上がる方へと歩を進める。
しかしその最中、帝具で強化されたレオーネの耳に背後で足音が聞こえたためすぐ様背後に向き直る。
「だっ、誰ーー」
偶々用を足しにでも出ていた男がレオーネを発見し、声を発するも全てを言い終える前に彼女の手によって首をへし折られて絶命した。
「まず1人……でも感づかれたか?」
喧騒が止んだことでレオーネは音を気にせず走り出す。そして標的が揃っている筈の襖を蹴破ると中には唖然とした顔で杯やツマミの料理を手にした男達だった。そして全員標的であることをレオーネは瞬時に理解した。
その中の1人が笑い声を上げると周りに伝播して他の男共も笑いだす。
「何か音がしたかと思えばなんだ、誰かこの女を買ったのか?」
最初に笑った男は立ち上がり、馴れ馴れしくレオーネの肩に手を回し、その豊満な胸へと手を伸ばす。
「お前達は買ったんだよ。死神の怒りをなぁっ!」
男の手が胸に触れるより先にレオーネの拳が男の腹部に入ると同時に、そこには空洞が出来上がる。悲鳴にならない声を上げ、寧ろ何が起きたのかさえ分からないと言った表情の男の腕を掴み、そのまま同じような表情の男共の方へと投げ込む。
「うっ、うわあぁぁ!なんなんだぁ!」
「にっ、逃げろぉ!」
ようやく何が起こったのか理解した男共は立ち上がりそれぞれ蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。
当然レオーネはそれを黙って見逃す事はなく、1人、また1人と笑みを浮かべて殺して行く。
「ちっ、仕掛けがしてあったか」
丁度半数は殺害したであろう所でレオーネは呟く。視界の中で壁や床が反転して男達が消えるのが見えていた。先ほどとうって変わって退屈な、そして怪訝な表情に変わると、外から断末魔が聞こえて来てラバックが仕事をした事が分かった。
しばらく待つとラバックも屋敷の中に入って来た。
「ラバ、アンタ何人殺った?」
「俺は7人だけど、まだどこかに隠れてる可能性が?
クローステールの罠は張ったままだから逃げられる事は無いと思うけどさ」
「私も7人、そんでこの部屋にはデュークは居なかった。私らを察知して隠れたのかもな」
2人は頭の中で家の見取り図を頭の中で広げ、先に考えがまとまり声を出したのはラバックだった。
「一つだけある地下の広い部屋か!」
「あー、先に言われた!多分そこだろうな」
意見の合致した2人は階段を降りて仮説を立てた場所へと向かう。その間もラバックの帝具に反応は無かったため確信へと近づいた2人を待っていたのは大きな鋼鉄の壁だった。
「オイオイ……こんなの予定に無いぜ」
「退いてなラバっ!」
数歩後退したレオーネは助走を付けた蹴りを壁に入れると地下室に轟音が響き渡り、ラバックはその音に耳を押さえて顔を顰める。
レオーネの蹴りが命中した部分を中心に大きなクレーターが出来るが、破るには至っていなかった。
「相変わらず凄えなレオーネ姐さん、もう一回もやれば壊せそうだね」
ラバックの言葉に対してレオーネの顔は曇り、足を揺らして首を捻る。
「いや……蹴った感覚がなんか妙なんだ。確かに硬いんだけど抵抗が無かったっていうかさ」
それでももう一回やってみると再び退がったその時、壁は甲高い妙な音を立てて元の形に戻ってしまう。それと同時に家の外では笛の音のような音が響き渡っているのが地下室に居る二人の耳にも入る。
「マズイな、何かしらの仕掛けが作動しちまったか!
近くに警備隊の奴らが居ないなら人がくるまで五分ってところか」
状況を整理して周囲の人が騒ぎを嗅ぎつけてくるまでの時間を頭の中でラバックは導き出すが、その顔には焦りがあった。
「そんなにいらねぇよ、その前に私がブチ破る!」
レオーネは舌打ちをして扉に駆け出そうとするがその時、一つの影が二人の上を通り前に躍り出る。クローステールの反応も無い中で突然の来訪者に二人は身構えるが、その影の持ち主は二人も知る者だった。
「僕に任せて!」
突如現れた帝具を纏ったソロは剣に炎を纏わせて壁へと突き刺す。すると壁の中から水が蒸発するような音が発せられ煙が上がる。
「お前……一体どこから、糸に反応なんて無かったぞ⁉︎」
「僕の目にはクローステールが見えてるって昨日言ったでしょ。だから避けながら堂々と玄関から入って来たんだ」
ソロは剣を握る手に力を込めて円を描く様に壁に切り込みを入れていく。
「おいソロ、この気持ち悪い壁どうなってるか分かるのか?」
「うん、液状危険種の粘膜を集めて特殊な方法で固めると衝撃を和らげる物体になるんだ。鉄板の間にそれを敷き詰めたのが恐らくこの壁さ。そしてその物体は打撃とかの衝撃には強いけど……熱には非常に弱い!」
一閃、ソロが剣を振り抜くと丸く切られた鉄板が床に落ち向こう側を見る事が出来た。壁自体は厚い物では無く、間にあった物体は跡形も無く蒸発して、煙を巻き上げる。
驚きを隠せないレオーネとラバックを他所にソロは空けた穴から奥へと入り、少し経つと標的であるデュークの首根っこを掴んで戻って来た。
「それで、この人が標的でいいの?
ここの一味がした事は知ってるけど、僕は標的の顔までは知らないからね」
先ほどまでの明るい様子では無く、冷たく刺す様な声でソロは二人に問う。
「やっ止めろ、ワシを下ろせっ!
鎧のお前、この壁の仕掛けを看破したなら分かるだろう。いかにこの技術が難儀な事か、いかにワシが優れた職人であるかが!
ワシを殺せばその技術を扱える者が一人居なくなりやがて絶えてしまうのだぞ!だから止めんか!」
ソロを振り払おうとデュークは大きな体躯を振るうもビクともしない。それどころか自分勝手な主張を振りまいたのが逆鱗に触れたのかソロの手の力は強くなる。
「ああ、ソイツが最後の標的で合ってるよ。もう時間が無いぞ」
レオーネの言葉にソロは頷き、デュークを床に投げると持っている剣の先を向ける。
「やっ……止めろぉ!ワシは優秀な職人なんだぞぉ!」
死への恐怖に体を震わせるその様には工匠組合長としての威厳は無かった。
そしてソロは見苦しい初老の悪人に剣を突き刺した。
「あんたが……あんた達が職人を語るなっ!」
上手く急所を突けたのか、デュークは掠れたうめき声だけをあげてその場に倒れ、ソロは剣を振るいに付着した血を落とした。
「……これでお前も修羅の道に入ったな。後戻り出来ないぜ?」
「……修羅の道?
そんなものにはとっくに浸かってるよ、母さんの仇を取るって決めた時からね。
時間が無いんでしょ、早くここを出よう。外に出たら僕に捕まってね飛んで逃げるから」
ラバックの言葉を涼しく返したソロは外に出る事を提案した。
家の扉を空けた3人の耳には塀の外から声が聞こえた。恐らく帝都警備隊の物であろう。直ぐ様ソロは二人を抱えて空を飛び、屋敷を後にした。別段騒がれた様子も無かったため気付かれずに上手く逃げられたのだろう。
屋敷から離れた場所で安全を確認すると、ラバックは隠しアジトの手入れが有ると別れた。帝都の夜道をレオーネと鎧を解除したソロが歩く。月に照らされる身長差のある二人、大きい方のレオーネが口を開く。
「なあソロ、お前どうして私が今晩仕事があるって分かったんだ?」
「ラキさんの家に行った時、目に入る棚にお酒の瓶があったのにレオーネさん飲もうとしなかったから。タツミから聞いた話だとレオーネさんなら勝手にでも飲むと思ってね、直ぐ前に飲みに行くかーなんて行ってたしさ、それでお菓子買ってきてラキさんに聞いたんだよ。ああそれと、ラキさんにはアジトに帰るって話つけてあるからね」
「ラキ……あいつクライアントの情報は言わないなんて言っておいてソロに言いやがったな」
レオーネは頭を押さえて呟くが、ソロはそれに対して首を横に振る。
「ううん、レオーネさんの事は聞いてない。僕はラキさんから今夜殺るのにうってつけの悪人達の情報を買っただけ。数件あって片っ端から見て行ってクローステールの罠が見えたから辿り着けたってわけさ」
「ふぅん……まあ、タツミとサヨよりは使える事は分かった。ソロ手ぇ出しな」
レオーネの言うとうりに手を差し出すと、ソロの手のひらに5枚の銀貨が置かれる。
「今回のお前の仕事料だ、受け取り拒否は許されないぞ」
「いいの、僕今回ほとんど何もしてないよ?」
「お前がいたから最後の標的を殺れたんだ、十分貰う資格はある」
ソロは頷いて手を握り、腰の袋にしまおうとしたところでレオーネが続けた。
「今回の依頼人なんだが……アイツらに食い物にされた被害者だ。本人は仕事の帰りで難を逃れたけど嫁さんが連れ去られるのを見ちまったらしい。家の中には何も残ってなかったそうだ。それから不眠不休で、飯もロクに食わず短期間で金を用意して私の所へ依頼に来たらしい。裏を取り次第仕事をするって言って私が行こうとしたらその男は血を吐いて倒れた。過労みたいだな。
いいか、これは恨みと命が篭ったそういう金なんだ。受け取ったからには必ずやり遂げないといけない、それだけは覚えておくんだぞ」
レオーネは立ち止まり、ソロの頭に手を置いて搔きまわした。ソロは気にする様子も無く、もう一度手の銀貨を見て袋にしまった。
「分かったよ……ありがと、レオ姐」
「おっ、どうした呼びかた急に変えて?」
「いちいちさん付けはちょっと面倒だと思ってさ、それとさん付けするほどの敬意持てないし」
笑いながら言うソロの頭をレオーネは掴むとそのまま思い切り首を回し始める。
「な〜ん〜だ〜と〜生意気なクソガキがっ!
まったく……まあ、どんな敬意でも貰った金は金だ、今度こそ飲みに行くぞー!礼儀を教えるためにおねーさんにお酌させてやるからな!」
「えっ、ちょっとレオ姐、そんなお金無いでしょ……まさか?」
頭を回されてフラフラのソロだが、ある事を思い出して顔が一気に青ざめる。
「フフフッ授業料だ!さぁ行くぞー!」
レオーネの手には昼間にソロから奪った財布の袋が握られていた。そして空いている腕を首に回して体に密着させてソロを持ち上げて歩き出す。
「ちょっとレオ姐!僕ラキさんから情報買ってお金あんまり無いんだって!お金返してよ!あと体も離せーっ!」
月夜に照らされた二つの影が動き、ソロの悲痛な叫びが響き渡った。