薄命なる少年職人の道   作:シュヤリ

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第十三話〜帝具〜

 ソロが暗殺者として人を殺してから2週間程が経過した。その間にタツミは帝都警備隊の隊長オーガを、サヨもビッグネームでは無いものの標的を仕留めて殺し屋としての一歩を踏み出していた。

 そんなある日、ソロは壁に母の形見でもある帝具の盾が飾られた自室に篭り、新たな道具の作製をしていた。作品に被せていた布が光を放って消滅した事から今しがた完成した事が伺える。

 

「お疲れ様、はいこれどうぞ。

何を作っていたの?」

 

 部屋の扉が開かれてサヨとアカメが入って来る。その手にはトレイがあり、お茶と食べかけのケーキが乗っていた。

 

「ありがと……ってなんで食べかけなの?」

 

「すまない……我慢できなかった」

 

 ソロの問いにアカメが答えて頭を下げる。苦笑を浮かべるも別にいいとソロは言って作っていた紐を通された勾玉の首飾りを身につける。

 

「今日作ってたのは……アナザートーンとでも名付けようかな。コレを使うと」

 

 ソロが首飾りに触れる。見た目は何も変化は無い、しかし口を開くとハッキリとその効果は現れていた。

 

『ハッハッハ、いやー今日もいい日だなっ!そうは思わないかアカメ、サヨ!』

 

 声質が変化し、喋っているのはソロだったが声はブラートという奇妙な現象が起きる。それに対してアカメは表情は変わらないものの、おー。と感嘆の声を漏らし、サヨは対照的に若干引いていた。

 

『いやー初めて会った時に、サヨが声を聞いて、年齢が近いと思ったって言ったから、声を変えられる道具を作ろうと思ってね』

 

 タツミ、ラバック、マイン、シェーレの順番に声を変えて悪戯な笑みを浮かべたソロは再度首飾りに触って効果を解除する。

 

「暗殺者になったからには正体を悟られない事も大事でしょ。僕はただでさえ帝具の使用前後の姿が違うからそれを活かしてスパイとかも出来ると思ってね」

 

「それは良い心がけだし助かる、私のように帝国に顔が割れているメンバーも少なくない。ところでソロ、頼んでいた村雨手入れなんだがどうだ?」

 

「もちろん終わってるよ、そっちの机に置いてある。

今まで良く手入れされていたってのが良くわかった。最後のチェックだけは欠かさないでね、アカメの命を預ける物なんだからさ」

 

 ソロの指差した机には村雨とエクスタス、そしてサヨの弓が置いてあった。

 この2週間で新入り3人は上手くナイトレイドに馴染んでソロはアカメやシェーレの帝具の手入れを頼まれる様になった。マインは全て任せる事はしないが、

悪態をつきながらも細かいやり方を聞くようにはなっている。

 

「あれシェレ姉が居ないけど、取りに来ないのかな?」

 

 ソロは椅子に座って二人が持ってきた紅茶を頂いた。

 シェレ姉と言う呼び方はそれだけ組織に馴染んだ証拠である。

 ソロの中では相手が二十歳を超える程自身と年齢が離れていれば名前に姉(姐)や兄と付けるらしい。

 

「うーん、朝には声を掛けたんだけど……忘れちゃったのかもしれないわね」

 

「シェーレは忘れっぽいからな。

……良い仕事だな。私の手入れよりも良くそして手に馴染むように仕上がっている。かすり傷でも付いたら死んでしまうのに悪かった」

 

 アカメは手にした村雨を鞘から抜いて刀身を眺めてソロへの称賛と謝罪を述べた。

 

「気にしないでよアカメ、僕がやりたいって言ったんだからさ。幸い僕は村雨に嫌われてなかったみたいだし、それにほら!」

 

 ソロが念じると右手首から上だけキメラティロードの鎧が纏われる。そして指を二本立てて二人に向けると机の上に置いてあるサヨの弓を手にする。

 一見どこも変わっていないように見えた鉄弓だが、握りの部分に白い宝玉が埋め込まれていた。

 

「僕のキメラティロードはブラ兄のインクルシオと違って部分的に召喚ができるんだ。全部召喚した時よりは劣るけど手なら力が、足なら素早さが上がるし、生身の手と同じくらい精密な動きも可能なんだ。

サヨの弓の改良も終わってるよ!効果を二つ付けたんだ。放った矢が何かに当たると爆発と矢の貫通力の向上さ、宝玉に触れて念じて矢を射ると出来るはずだよ」

 

 鉄弓をサヨに渡すとソロは右手の鎧を解除する。サヨは受け取った弓を手にして弦を引いて構えて感触を確かめる。

 

「うん、使いやすいわ!

ありがとねソロ今の私じゃ力不足だから助かるわ、忙しいところにごめんね」

 

「仲間のためなんだからどうってこと無いよ。それに手に馴染むのは当たり前だよ、サヨの事だけを考えて作ったんだから、自然とサヨに合った物が出来上がる。

頼まれた事はその人の事を一番に考えて作業する、僕の職人としての信念だよ」

 

 少し恥ずかしそうに頬を指で掻いてソロは言い、その様子を見てサヨとアカメは微笑みを浮かべた。

 

「レオーネから聞いたが悪徳職人の暗殺を行った時に激昂したと聞いていたが納得できた」

 

「……まだあの家に住む前の旅をしていた頃にさ、母さんの知り合いがいるジョヨウの村に少し滞在してね、母さんの知り合いは先生をしていて僕も学校に通わせて貰ってその時に言われたんだ」

 

 ソロは首飾りに触れて自身の声色を変えコホンと咳払いを一つして再び口を開いた。

 

『君は手先がとても器用で物を作るのが好きなんですね。君の取れる未来の選択肢は数多く存在しますが、もし職人の道を選んだとしたら依頼人の事を考えてその人の為に最高の物を作る職人になってくれると私は嬉しいです……ってね』

 

 少しだけ低めの温和な男性の声で話した後に再び首飾りを触って道具の能力を解除する。

 

「ふーん優しい感じの人そうね……その人は今も教師をしているの?」

 

 サヨの問いに対してソロは首を横に振り少し悲しそうな表情を見せた。

 

「母さんが死んじゃってから一度会いに行ったんだけど、今は帝国に仕えてるらしいよ。なんでも先生が留守の時に事故で生徒のみんなが死んじゃったらしくてそのショックで先生を辞めちゃったんだって……案外、僕は関わった人を殺すか不幸にする死神なのかもしれないね」

 

 影を落とした少年は不敵に笑う。本人にしてみればいつも通りの軽口に過ぎなかったのだが、サヨにしてみればそうは思えないように見えた。

 するとアカメはソロに近づい手刀を頭に入れた。ソロは驚き言葉を出そうとするが、その前にアカメの口が早く開いた。

 

「お前が死神だと?

くだらない冗談は言うな。だとしたらなぜお前の母親を謀殺した大臣は生きている?民を苦しめる金持ちや悪徳高官が生きている?

死神だと言うのならそういう奴等に関わってさっさと殺せ、できないのならそんな冗談を言うんじゃない。

極限状態に陥った時に冷静な判断が出来なくてお前が死ぬぞ」

 

 アカメの言い分はもっともだと思うソロは、ゴメン。と一言言って頭を下げる。その様を見たアカメは静かに口元を緩めると、説教代と言わんばかりにソロがまだ手を付けて居なかったケーキを食べた。

 その様子を見たサヨもいつしか口元が緩み、その後遅れてやって来たシェーレも交えて4人で暫く談笑が続けられた。

 余談になるが、会話の終了となるナジェンダの集合命令を告げに来たラバックはこの光景を見て悔しがり、腹いせに何度も壁を殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな集まったな。今回の標的は帝都で噂の連続通り魔だ。深夜無差別に現れ首を切り取っていく、もう何十人被害に遭ったかわからん」

 

 玉座を思わせるボスの席に座ったナジェンダは自身を囲むように立つメンバーに仕事の内容を告げる。

 

「通り魔……それって首切りザンクって奴の事?」

 

「だろうな、三割は警備隊員が殺られてる。帝具持ちのアイツの可能性が高いだろうな」

 

 ソロの質問にラバックが答えるがその中で3人それが誰だかわからない者がいた。その内の1人であるタツミが続けて疑問を口にする。

 

「首切りザンク、誰だそれ?サヨは知ってるか?」

 

「ううん、聞いた事無いわ」

 

「はぁ?帝都で有名な殺人鬼よ。アンタ達本当にド田舎に住んでたのね」

 

 タツミとサヨの故郷は帝国領でも相当の外れであるため帝都の事情には明るくない。そんな2人を呆れ、嘲笑うようないつもの悪態でマインは答える。そんな中、殺人鬼に存在がわからない最後の1人も口を開いた。

 

「すいません、私も分かりません」

 

「シェーレは忘れてるだけだと思うけど……まあ良いわ、アタシが説明してあげる。

首切りザンク、元は帝国最大の監獄で働いていた首切り役人。でも大臣のせいで処刑する人数が多くて来る日も来る日も命乞いをする人間の首を切り落としてたんだって。切り落とし続けている内にいつしか首を切るのがクセになったそうよ。それで監獄で切るだけじゃ物足りなくなって辻斬りになったらしいわ」

 

「討伐隊が組織された直後に姿を消しちまったんだが……まさか帝都に出てくるとはな」

 

「毎日毎日、無実の可能性の高い人の首を切り続けるか……それはおかしくもなるわね」

 

「っていうか一種のホラーだよね……現実に起こってる事なのがまたこの帝都の恐ろしいところだけどさ」

 

 マインの説明をブラートが補足し、サヨとソロは各々の感想を述べる。

 殺人鬼の事を知った少年タツミはその存在に激しい嫌悪感と憤りを覚え、拳を突き出して激情を吐露する。

 

「そんな危険な奴野放しに出来ないなっ!探し出して倒そうぜ!」

 

「まあ待てタツミ。ザンクは獄長の持っていた帝具を持ち出して辻斬りになったんだ」

 

 ブラートは熱くなっているタツミの頭に手を置いて彼を諌める。そしてそのまま流れる様にタツミの顎を指で挟んで持ち上げた。

 

「二人一組で行動しないとお前危ねえぜ?」

 

 その時タツミの背筋に悪寒が走り、人間という動物の本能が働き身の危険を感じる。直ぐさまブラートから離れて別の話題へと移そうと考えた。

 今まで何度か聞いた事はあったが実体を何も知らない存在の話に。

 

「そっ、それよりもその帝具って一体なんなんだ?

ソロがアジトに来た時、みんなの帝具ってやつを言い当ててたみたいだけど」

 

「こういうのだ」

 

 問に答えるようにアカメは村雨を鞘から引き抜き、その刀身をタツミの眼前に晒す。その行動にタツミは驚くも、いやわからないと返した。

 

「そういえばタツミには帝具の説明をしていなかったな。いい機会だ、これから帝具使いと対峙するんだ、教えておこう」

 

 そこからナジェンダは帝具の生まれた歴史を語る。始皇帝が自らの死後も帝国の栄光が続くようにという考えの基当時の最高の職人と素材を集められて作られた合計48個の兵器の事を帝具と呼ぶ事。そしてそれらは500年程前の大規模な内乱で半数近くか、世界各地へ散らばってしまった事。

 そしてソロとサヨの持てた帝具以外のナイトレイドメンバーが所持する帝具の性能の説明をした。

 

「へぇ、そんな物がこの世には存在するんだなー。でもなんで帝国はその大規模な反乱が起きた時にもっと強力な武器を作らなかったんだろうな、帝具が作られて500年も経ってたら技術も進歩すると思うけどな」

 

「フッ同郷のせいか、サヨも同じ疑問を持ったな。その辺の事情はソロ、説明してやってくれ」

 

 ナジェンダの命令に二つ返事で応え、タツミへの説明をソロは受け継いだ。

 まず技術と素材が失われて帝具並に強力な兵器は製造不可能となった事。タツミと同じ考えを持って600年程前の皇帝が兵器を作らせたが、出来上がった物は性能は高いものの帝具には及ばず、副作用は帝具並かそれより重いものになってしまいその様を皮肉られて臣具と呼ばれた事。そして臣具の存在はあまり知られていないという事を説明したところで、タツミはほうと理解した様子を見せる。

 

「まあ何事にも例外が存在するわけで、僕は帝具を作る知識は持っているんだ。でもさっきも言った通り素材が無いから帝具みたいに強力な武器は作れないんだけどね」

 

「それでも充分強力な道具は作れていると思うぞ。ダイニングの棚に置いてある侵入者探知の水晶や空を飛べる布、好きなだけ物を詰め込める袋とかな」

 

 幾らか謙遜して言ったソロに対してナジェンダは素直に賞賛の声を上げる。ソロもまんざらでは無いのか照れたようで頭を掻いてごまかす。

 

「さーて、俺たちの帝具を知ったんだ。もう後戻りは出来ないぜ」

 

 ラバックはグローブの指先から一本糸を出して張り、タツミの首筋に当てた。もっとも冗談でやってる事は口調からタツミにも伝わったため慌てる事はなかった。

 

「誰にも言うつもりはねーよ。そもそも俺に言っても良かったのか?」

 

「それだけボスがタツミの事を信用したって事さ。アタシはもっと前からお前の事は信用してるけどなーっ」

 

 そう言うとレオーネはタツミを抱き締めて自慢の胸を顔に押し当てる。いつもの如くタツミはそれを引き剥がそうとするもレオーネの方が腕力が上であった。

 そんな様子を各々が生暖かく見ていた時に難しい顔をしたソロは呟く。

 

「信用ね……それじゃあ僕の帝具についても話しておこうかな」

 

「そういえばお前の帝具についてまだ聞いてなかったな。文献に載っていた物とは名が同じでも形は全くの別物だったんだが……話すという事はお前も私達を信用したと受け取るぞ?」

 

 以前のソロの勧誘の際にナジェンダは同じ疑問を抱いていたのだが結局今日のところまでその答えが返って来る事はなかった。

 

「うん……まあ、話し忘れてただけなんだけどね。

合獣宿身(ごうじゅうしゅくしん)キメラティロード。

元々は腕輪型の帝具だった。能力は装備した人のパワー、スピード、ジャンプ力のどれかの大幅な強化で同時使用は出来なかった」

 

「ああ、確かに文献にはそう載っていたな」

 

 ソロの説明に文献を読んだ事のあるナジェンダとメンバーの数人は頷く。それを見てソロは胸に手を当てて鎧を召喚する。

 

「僕が『永遠の叡智』の継承者になった時にこの鎧の形に作り変えたんだ。能力は……まあ基本的にブラ兄のインクルシオと同じって考えて貰えれば良いかな、副武装も無いし透明化もできないけどね」

 

「なにそれ、じゃあインクルシオの劣化コピーみたいなもんじゃない?」

 

「ちょっとマインちゃん言い方が……まあ正直俺も似たような事思ったけど」

 

 マインの否定的な意見に消極的ではあるがラバックも共感を覚えた。そんな二人に対してソロは指を立てて横に振る。

 

「チッチッチッ、そこは僕も職人だからそれじゃあ済まさないよ。

防御力こそインクルシオには劣らないけどキメラティロードは真っ直ぐだけど空を飛べるんだ。そして翼から出る炎を纏う事でパワーかスピードを上げる事も出来るしもちろん奥の手もあるよ。

それに副武装が無いなら継ぎ足せば良いって思って色々武器が鎧には仕込んである、ブラ兄と闘った時に使った剣と腕から出た光弾がそのうちの一つさ」

 

 自分の帝具の事を得意げに語るソロと強化された帝具の鎧を見て全員感心するが、その中でタツミは身体を震わせる程の興奮を覚えていた。

 

「うおー!やっぱりソロの帝具もカッコイイなっ!なあボス、俺の帝具は無いのか⁉︎」

 

「フフッ残念だが帝具は貴重な物だから全員に支給出来る程の数は無い。縁があればお前も手にする事もあるだろう。

さて、長くなったが今回の仕事の話に戻る。帝具使いを相手にする危険度は十分理解できたはずだ。先ほどブラートが言った様に二人一組で事に当たってもらう」

 

 その後ナジェンダの口から組み合わせと各々が受け持つ区画などの任務に関しての細い情報を告げられた後一度解散となり、夜になるとメンバーは帝都へと出発した。

 


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