薄命なる少年職人の道   作:シュヤリ

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第二話~僕は職人~

「一人の女の子相手に男が複数人で襲い掛かるとは何事か!」

 

 バルを蹴り飛ばしたのは空から現れた真紅の鎧だった。

 

「なっなんだてめえは⁉どこから現れやがった⁉」

 

「見てわからない?空からさ、そして君らに語る名前はない通りすがりの職人だ!」

 

 突如現れ真紅の鎧の男に狼狽える頭領格の男とその一味。悪漢達に襲われていた少女も予想外の来訪者に驚きを隠せず力無く地面にへたり込んでしまった。

 それを見た鎧の男は少女に近寄り、頭に手を乗せて口を開いた。

 

「詳細は知らないけど、多勢に無勢故手を出させてもらったよ。多分服装からしてマツラ村あたりからの旅人で帝都への道中に奴らと遭遇、襲われたってことだと思うんだけど君の名前は?」

 

 さらに自分の境遇まで言い当てられた少女は驚愕したが、不思議とこの男に不快や不信といった感情は抱かなかった。

 

「私は……サヨ。状況はあなたの言った通りであっています」

 

 ちょっと怖いくらいだけどと付け足すとサヨは頭に乗せられた手を払いのける。すると男は払いのけられた手を差し伸べたのでそれを握り立ち上がった。

 

「そうか、だが安心して欲しい僕は敵じゃあない。そしてこの状況はすぐに打破できる」

 

 鎧の男は頭領格の男がいる反対側の5人程しかいない手薄な部分に向って拳を向けると鎧の手首部分から小さな光弾が射出され、さらに五つに別れ五人の手下に被弾すると地に伏した。

 それを目にして頭領格の男が動く。

 

 

「わけのわからん格好で急に現れてよくも大事な部下をやってくれたな……野郎共かかれ!」

 

 頭領格の男が命令すると部下の男達は扇状に広がる陣形で鎧の男に襲いかかる。鎧の男は腰に装着した黒い棒を手に持ち、底の突起部を押すと棒の両端が伸び全長一m程の棍になった。

 

「さっき作ったばかりのこいつの出来を試させてもらうよ。君は下がってて!」

 

 鎧の男は軍団に駆け出し、瞬時に距離を詰めると棍を振るう。それに当たった男達は一人、また一人と一撃で気絶し崩れ落ちる。中にはサーベルで受け止めた者もいたがサーベルの刃を砕かれそのまま棍をくらい倒される。十人ほど倒したところで賊は怯むが鎧の男は手を緩めずに攻勢をかけ瞬く間に敵は頭領格の男一人となった。

 

「すごい……っ⁉」

 

 サヨが感嘆の声を漏らすと鎧の男が最初に蹴り飛ばしたバルが気を取り戻し起き上がるのを見た。切られてしまった弓を拾い上げて脳天に叩きつけた。バルが気絶するのと同時に弓のヒビは全体に渡り砕け散ってしまった。

 

「中々良い腕をしている……さて、残るはお前一人だな?」

 

「まっ待て待て、取り引きといこうぜ兄弟!その女はお前にくれてやる。そんでアジトの宝もいくつかお前やろう。だから俺たちのなかーー」

 

 全てを言わせる前に鎧の男は腹部に棍を打ち込み気絶させると、棍を元の黒い円柱の棒に戻し、腰に装着してサヨの方を向き直る。

 

「僕はソロ、この近くで職人をしてる。さっきはありがとう。サヨ、怪我はない?」

 

「お礼を言うのは私の方です。ありがとうございました。おかげさまで私は無傷だったんですが武器が……」

 

 サヨは頭を下げてお礼を言うと、割れてしまった弓の破片に目をやる。

 

「ふーむ、武器は弓か……僕が何とかしよう。

日もくれそうだし、家が近いから良かったら泊まるといいよ。

さっき賊に襲われたばっかりで男の僕が提案するのもなんだけどさ」

 

「本当ですか!でも……何から何までお世話になると言うのも」

 

「気にしない気にしない。困った時はお互い様だよ、荷物は身につけている物以外は特に無いみたいだねだね。それじゃあしっかり捕まってて」

 

「えっ……キャッ⁉」

 

 ソロはサヨを抱え上げると背中の羽を広げ飛翔する。そして矢のようなスピードでこの場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし着いたよ。空の旅はどうだった?」

 

「少しビックリしたけど最高だったわ!空も飛べるなんて貴方なんでも有りなんですね」

 

 自宅の前に着くとソロはサヨを地面に下ろす。すると宙に霧散するように煙と共に鎧が解除されて中にはから小柄な少年が現れる。

 

「えっ、あの……助けてくれた赤い鎧着てたのって君?」

 

「そうだよ……言いたい事は分かるよ、あんなゴツイ鎧から出てきたのがこんなチビな男だなんておかしいよね……これでも10代半ばなのに……」

 

 ソロは力無く乾いた笑いを浮かべるとサヨはクスりと笑い、俯くソロの頭に手をおいて撫で始める。先ほどの立場と逆だと思いサヨはもう一度笑ってしまった。

 

「正直言うとね、話し方であんまり歳上じゃない事は分かってた。ソロの身長が思いの外小さいのもビックリしたけど……私を助けてくれたのは本当でしょ?

ありがとうございました」

 

「撫でながら言われてもなぁ……」

 

 ポツリと愚痴を漏らすソロではあったが、サヨの行為は不快に思わず満更でもなく笑みをこぼした。

 

「立ち話もなんだし家に入りなよ。

そういえば何でサヨは一人で旅してんの?さっきは適当に言った事が合ってたみたいだけど」

 

 

 ソロはサヨの手を払いのけて家に入るように促すと疑問に思っていた事を口にした。

 

「お邪魔します。

私の生まれた村……貴方は知ってるみたいだけどマツラ村がね、重税で苦しいんだ。それで帝都で兵士になって出世しめ村を助けようって村を出たんだ。これでも腕に自信はあるの。

あと二人仲間が居たんだけど道中でさっきの奴らとは別の夜盗に襲われて散り散りになっちゃったんだ。それで一人で帝都目指してたんだけど、さっきの奴等に絡まれてたってわけ……っていいわ私がやる!」

 

 サヨはお茶を入れようとしていたソロと代わり、ソロを椅子に座らせた。

 

「そっか……その二人もどうなったか心配だね」

 

「ああ、別に賊に襲われたくらいじゃ大丈夫なくらい強いからその辺は心配してないんだけど……仲間のイエヤスってやつは方向音痴と寝坊の常習犯で、もう一人のタツミってやつは調子に乗りやすいからちょっとね……どうぞ」

 

 サヨは手際よくお茶を用意して容器をソロの前のテーブルに置き、自分も椅子に座った。

 

「頂くよ。

ふーん……帝都で名を上げるか。あんまりオススメはできないかな、兵士になるにしてもまずは当然一兵卒からのスタートだし、その一兵卒になるにも抽選をくぐり抜け無ければいけない。

腕を活かした仕事が他に無いわけじゃないけどそれなりにリスクを背負わなくちゃいけない。

それに……いや、目的のある人のやる気を削ぐわけにもいかないか、それでも行く?」

 

「もちろんよ、私達がやらなければ村が飢え死んでしまうわ。一兵卒からでも抽選でも、何がなんでもやらなきゃいけないの」

 

 サヨの真っ直ぐ前を見据えた目にソロは何も言えなくなり、軽く溜息を吐くとお茶を一気に飲み干し立ち上がった。

 

「君の覚悟は分かった。だけどその目的を成すにも先ずば武器が必要だね。軽い鉄弓で良ければ明日の朝までには完成させてあげるよ、部屋はそこでトイレはそこでお風呂はそっちだから好きに使って。何か用事があったら隣の洞窟の中にいるから声かけて」

 

「えっちょっと、挨拶したいんだけどソロの家族の人は留守なの?」

 

「両親も死んじゃったし兄弟もいないから気にしないで。そうだ、料理できたらご飯作ってもらえると嬉しいかな」

 

 ソロは好印象な笑顔を崩さずに言ってのけると、外へと出て行ってしまった。


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